説明

中空成形体の製造方法

【課題】表面層がポリプロピレンからなる中空成形体であって、金型キャビティー意匠が正確に反映され、かつ表面光沢が良好で、優れた外観を有する中空成形体が生産性よく得られる中空成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】成形金型の間に熱可塑性樹脂の溶融パリソンを供給して型締めし、パリソンの内部に加圧流体を吹き込んで金型成形面と密着させ、熱可塑性樹脂を固化させる中空成形体の製造方法において、少なくとも該パリソンの表面層の熱可塑性樹脂としてメルトインデックス(230℃、2.16kgf)が0.5〜20g/分、分子量分布が8未満であり、かつ220℃で3分間融解後10℃/分で130℃に降温してから3分間後の球晶径が40ミクロン以下、該球晶の成長速度が12ミクロン/分以下であるポリプロビレンを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空成形体の製造方法に関する。さらに詳しくは、少なくとも中空成形体
の表面層を特定の物性を有するポリプロピレンで構成することによって、優れた外観を有する中空成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる中空成形体は、軽量で機械的強度にも優れていることから、広汎な産業分野で使用されている。ことにポリプロピレンを成形素材とする中空成形体は、剛性に優れることから各種容器類のほか、バンパーなどの自動車部品や家庭用電気製品、住宅設備などの分野においても幅広く用いられるようになってきている。
【0003】
これら用途分野においては、製品の表面性の良否が商品外観の良否にあたることから、より優れた表面性を有する中空成形体の製造方法の開発が強く要請されている。このような要請に応えるため、例えば、特公平2−40498号公報においては、表面光沢に優れた中空成形体を成形するにあたり、表面に2〜100ミクロンの深さの微細な凹凸を多数形成したパリソンを、鏡面仕上げしてあり、かつ樹脂の結晶化温度以上に加熱してある金型に挟み、吹き込み成形をした後、金型の温度を該結晶化温度以下に冷却する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、この方法では、パリソンの形成に特殊な制御が必要であるほか、大型成形品では成形サイクルが長く、生産性が低いという難点がある。また、特開平4−77231号公報には、成形型の間に結晶性樹脂のパリソンを供給し、型締め後、パリソン内部に圧力流体を注入して成形型面に密着させ、冷却する中空成形法において、成形型の温度を結晶性樹脂の結晶化速度が最大となる温度の近傍から融点までの間に保ち、パリソン内部に冷媒となる流体を注入して、この冷媒を加圧下に循環させる方法が提案されている。
【0005】
このような成形方法を採用すると、成形品表面のダイラインやウエルドラインを減少させることはできるが、金型キャビティー意匠の転写性や表面光沢については満足し得るまでには至っていないという難点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、中空成形体表面に金型キャビティー意匠が正確に反映され、かつ表面光沢も良好であって、優れた外観を有する成形品を製造することのできる中空形体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するため、中空成形法における成形条件とともに、優れた外観の中空成形体に形成し得る中空成形素材として具備すべき物性につき、種々検討を重ねた結果、特定の物性を有するポリプロピレンが中空成形体の表面層の素材として好適であることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
〔1〕成形金型の間に熱可塑性樹脂の溶融パリソンを供給して型締めし、パリソンの内部に加圧流体を吹き込んで金型成形面と密着させ、熱可塑性樹脂を固化させる中空成形体の製造方法において、少なくとも該パリソンの表面層の熱可塑性樹脂として、メルトインデックス(230℃、2.16kgf)が0.5〜20g/10分であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が8未満であるとともに、220℃で3分間融解した後10℃/分の降温速度で130℃にしてから3分後の球晶径が40ミクロン以下で、かつその球晶径の成長速度が12ミクロン/分以下であるポリプロピレンを用いることを特徴とする中空成形体の製造方法。
〔2〕上記〔1〕記載のポリプロピレンが造核剤を10〜3000ppm含有するものである上記〔1〕記載の中空成形体の製造方法。
〔3〕金型成形面と密着させる際の金型成形面の温度を、上記〔1〕記載のポリプロピレンの結晶化温度よりも10℃低い温度と融点との間の温度範囲とする上記〔1〕または〔2〕記載の中空成形体の製造方法。
〔4〕熱可塑性樹脂を固化させる際に、パリソン内部に吹き込む加圧流体として室温以下の温度のものを用い、かつ加圧流体をパリソン内部に流通させて冷却する上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の中空成形体の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における中空成形体の製造方法は、型開きした成形金型の間に熱可塑性樹脂の溶融パリソンを供給して型締めをする工程、該パリソンの内部に加圧流体を吹き込んで金型成形面と密着させる工程、および熱可塑性樹脂を固化させる工程を有し、その成形素材の熱可塑性樹脂として少なくとも該パリソンの表面層に特定の物性を有するポリプロピレンを用いる方法である。
【0010】
ここで、中空成形体の製造に用いる熱可塑性樹脂の溶融パリソンは、その全体が特定の物性を有するポリプロピレンのみから形成されていてもよい。また、このポリブロピレンを表面層とし他の樹脂を内層とする二層構造、あるいはさらに他の樹脂からなる中間層を含む三層構造をなすように構成されたパリソンを用いてもよい。これら二層構造あるいは三層構造のパリソンを用いる場合には、その内層や中間層としては、高密度ポリエチレンや低密度ポリエチレン、ポリアミドなど耐衝撃性に優れた樹脂との組合せが好都合であり、このようなパリソンは、通常の多層中空成形機を用いて成形することができる。
【0011】
本発明方法の第一の工程では、成形素材であるポリプロピレン等を押出成形機により溶融混練して、その先端に設けたダイより、筒状の溶融パリソンとして押出し、この溶融パリソンが、型開きされた一対の中空成形用金型の中央部に垂下した時点で、金型の型締めをして溶融パリソンを挟みつける。そして、第二の工程で、金型で挟まれた溶融パリソンの内部に加圧流体の注入管を差し込み、圧縮空気などの加圧流体を吹き込んで、溶融パリソンを金型内のキャビティー全面に密着するよう膨張させる。
【0012】
ここで、溶融パリソンを金型内のキャビティー全面に密着させる際には、あらかじめ金型成形面の温度を、この金型に接するポリプロピレンの結晶化温度より10℃低い温度と、このポリプロピレンの融点との間の温度範囲に維持しておくと、中空成形体表面に金型キャビティー意匠がより正確に反映される。この金型成形面の温度調節は、一般的な加熱方法を採用することができ、たとえば、熱媒体の循環や電気的な加熱方式により金型内部から加熱してもよいし、外部からの加熱方式であってもよい。
【0013】
さらに、第三の工程では、金型内でキャビティー内面形状が転写された状態にある熱可塑性樹脂を冷却固化して、中空成形体とする。この第三の工程での熱可塑性樹脂の冷却固化は、金型を冷却して行う方法でもよいし、金型内で製品形状が付与されたパリソンの中空部に冷却用の加圧流体を流通させて直接冷却する方法でもよい。冷却用の加圧流体を用いる場合には、室温以下に冷却した加圧流体、好ましくはマイナス20℃以下、より好ましくはマイナス30℃以下に冷却した2〜10Kg/cm2 G程度の圧縮空気を用いるのが好適である。またこの冷却用の加圧流体を流通させる方法としては、パリソン膨張用の加圧流体の注入管を差込む際、同時に加圧流体の排出管を差込んでおき、冷却工程の開始と同時に排出管の元栓を開いて、高温度のポリプロピレンと接触して昇温した加圧流体を排気管より排出できるようにすればよい。さらに、この場合の冷却速度の調節は、排気管の排出口で加圧流体の流通量を調節して、中空部内の圧力を一定に保持しながら冷却する方がよい。
【0014】
さらに、本発明の方法で用いる中空成形用金型は、一般に中空成形に用いられているガス抜き孔を有する金型を使用すればよい。このガス抜き孔は、その孔径が0.2〜0.5mm程度であるが、より外観に優れた成形体を得るためには孔径が100ミクロン以下であり、また孔のビッチが50mm以下となるように加工したものを用いるとよい。また、この金型の表面は、0.5S程度の鏡面仕上げしたものが好適であるが、使用目的に応じてシボ加工、模様加工などを施したものを用いてもよい。
【0015】
つぎに、本発明の方法で用いるポリプロピレンに関しては、特定の物性を有する結晶性ポリプロピレンを使用する。すなわち、この結晶性ポリプロピレンは、メルトインデックス(230℃、2.16kgf)が0.5〜20g/10分であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が8未満であるとともに、220℃で3分間融解した後、10℃/分の降温速度で130℃にしてから3分後の球晶径が40ミクロン以下で、かつその球晶径の成長速度が12ミクロン/分以下の値を有するものである。
【0016】
ここで、前記メルトインデックスの値に関しては、これが0.5g/10分未満であるものを用いると、成形の途上でメルトフラクチャーによる成形体表面の荒れが大きくなり、またこれが20g/10分を超えるものを用いた場合にも表面荒れを招くことから、前記の数値範囲内にあるものを用いる。また分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)に関しては、この値が8を超えるものを用いると、表面光沢の低下を招くほか、成形体表面への写像の鮮明性も低下するため、この値が8以下であるものを用いる。
【0017】
さらに、ポリプロピレンの特定条件下での球晶径とその成長速度に関しては、この球晶径が40ミクロンを超えるものでは、成形体表面への写像の鮮明性が低下し、球晶の成長速度が12ミクロン/分を超えるものを用いた場合にも写像の鮮明性が低下することから、前記の結晶化特性を有するものを用いる。このポリプロピレンの結晶化特性の測定については、ポリプロピレンのペレットをガラス板に挟んでホットプレートにセットし、220℃まで昇温してこの温度で3分間維持して状態調製した後、ホットプレートを偏光顕微鏡にセットして、10℃/分の降温速度で降温させ、130℃に到達した直後から3分間後に観察される結晶の球晶径を目視および写真撮影して計測することができる。また、球晶の成長速度については、上記の降温操作で130℃に到達した後、1分、2分、3分、4分、5分後の球晶径を写真撮影し、経過時間と球晶径との相関式における直線勾配として求めることができる。
【0018】
本発明で用いる前記物性値を有するポリプロピレンは、触媒としてチタンなどの遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物との組合せからなるものを用い、これに電子供与性化合物を加えてプロピレンを重合させることによって得られるものであって、結晶形態がミクロ構造において、球晶径が特定値以下かつ結晶成長速度が特定値以下であるものを選定して使用すればよい。
【0019】
さらに、本発明で用いるポリプロピレンには、造核剤を10〜3000ppm含有するものを用いることができる。ここで用いる造核剤としては、ポリプロピレンの結晶サイズを微細化する作用を奏するものが好適であり、例えば、リン酸2,2−メチレンビス(4,6−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどの有機系リン酸金属塩やアルミニウムヒドロキシ−ジパラターシャリーブチルベンゾエート、ジベンジリデンソルビトール、ジメチルベンジリデンソルビトール、ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。この造核剤の添加量は、10ppm未満ではその添加効果の発現が充分でなく、3000ppmを超えるとブリードアウトするおそれがあるので、10〜3000ppmの範囲内とする。
【0020】
また本発明で用いるポリプロピレンには、造核剤のほか、通常用いられる酸化防止剤や顔料、タルク等の充填剤を配合したものを用いてもよい。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
〔実施例1〕
原料のポリプロピレンとして、メルトインデックス(230℃、2.16kgf)が3.52g/10分であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が6.0であるとともに、偏光顕微鏡下での観察において、220℃で3分間融解したのち10℃/分の降温速度で130℃にした直後から3分間経過後の球晶径が30ミクロンであり、かつ球晶径の成長速度が10ミクロン/分のポリプロピレン〔出光石油化学社製:出光ポリプロ;J400MP〕を用いた。このポリプロピレンの結晶化温度は、114℃であった。
【0022】
このポリプロピレンを中空成形機の押出機に供給して溶融混練した後、樹脂温度220℃、押出速度185g/秒の条件下にパリソンを押出し、金型の成形面の温度が110℃に保持してあるクロムメッキ仕上げ鏡面金型の中央部に垂下した後、金型の型締めをして、パリソンを金型内に取り込んだ。つぎに、金型の下部からパリソン内の中空部に至る圧縮空気注入管を差込んでこの注入管より圧縮空気を室温において吹き込み、パリソンの表面が金型キャビティーの全面に密着するよう、パリソンを膨張させた。圧縮空気としては、7Kg/cm2 Gであるものを用いた。
【0023】
ついで、上記工程で金型キャビティー内面形状が転写され、製品形状が付与された熱軟化状態のポリプロピレンを、金型の冷却によって冷却し固化させた後、金型を開いて中空成形体を取り出した。このようにして得られた中空成形体は、縦320mm、横190m
m、高さ40mmのやや偏平な中空容器であり、その中央部の肉厚が3mmであった。
【0024】
つぎに、この中空容器の胴部より試料を取り出し、成形体の表面光沢および写像の鮮明性について評価した。表面光沢は、JIS K7105に基づいて光沢度(%)を測定した。写像の鮮明性は、23℃において24時間状態調節した後、成形体表面に蛍光灯を写したときの蛍光灯の写像の鮮明性を目視により評価した。これら評価結果を、第1表に示す。
【0025】
〔実施例2〕
成形素材として、実施例1と同一のポリプロピレンに造核剤としてリン酸2,2−メチレンビス(4,6−t−ブチルフェニル)ナトリウムをその濃度が800ppmとなるように配合した組成物を用いた他は、実施例1と同様にして中空成形体を得た。得られた中空成形体についての評価結果を、第1表に示す。
【0026】
〔実施例3〕
原料のポリプロピレンおよびパリソンを膨張させるまでの工程は、実施例1と同様にした。つぎに、製品形状が付与された熱軟化状態のパリソンの冷却固化を冷却媒体で直接冷却した。すなわち、金型の下部からパリソン内の中空部に圧縮空気注入管を差込む際に、同時に圧縮空気排出管を差込み、パリソンの膨張時には同排出管の元栓を閉じておき、パリソンの冷却を開始する直前にこの元栓を開いて冷却媒体が中空部内を流通できる状態にした。ついで、冷却媒体としてマイナス40℃に冷却した3Kg/cm2 Gの圧縮空気を用い、これをパリソン中空部に注入し、該中空部内を流通する間に熱交換されて昇温した圧縮空気が排出管から排出されるようにして、パリソンを直接冷却し、中空成形体を得た。得られた中空成形体についての評価結果を、第1表に示す。
【0027】
〔実施例4〕
成形素材として実施例2と同一のポリプロピレン組成物を用い、かつ中空成形体の製造方法は、実施例3と同様にした。得られた中空成形体についての評価結果を、第1表に示す。
【0028】
〔比較例1〕
原料のポリプロピレンとして、メルトインデックス(230℃、2.16kgf)が0.44g/10分であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が8.4であるとともに、偏光顕微鏡下での観察において、220℃で3分間融解したのち10℃/分の降温速度で130℃にした直後から3分間経過後の球晶径が20ミクロンであり、かつ球晶径の成長速度が8ミクロン/分のポリプロピレンを用いた。
中空成形体の製造方法は、実施例1と同様にした。得られた中空成形体についての評価結果を、第1表に示す。
【0029】
〔比較例2〕
成形素材として、比較例1で用いたものと同一のポリプロピレンに実施例2と同じ造核剤を800ppmの濃度となるように配合した組成物を用いた他は、実施例1と同様にした。得られた中空成形体についての評価結果を、第1表に示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法によれば、中空成形体表面に金型キャビティー意匠が正確に反映され、かつ表面光沢も良好であって、優れた外観を有する中空成形体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型の間に熱可塑性樹脂の溶融パリソンを供給して型締めし、パリソンの内部に加圧流体を吹き込んで金型成形面と密着させ、熱可塑性樹脂を固化させる中空成形体の製造方法において、少なくとも該パリソンの表面層の熱可塑性樹脂として、メルトインデックス(230℃、2.16kgf)が0.5〜20g/10分であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が8未満であるとともに、220℃で3分間融解した後10℃/分の降温速度で130℃にしてから3分後の球晶径が40ミクロン以下で、かつその球晶径の成長速度が12ミクロン/分以下であるポリプロピレンを用いることを特徴とする中空成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のポリプロピレンが造核剤を10〜3000ppm含有するものである請求項1記載の中空成形体の製造方法。
【請求項3】
金型成形面と密着させる際の金型成形面の温度を、請求項1記載のポリプロピレンの結晶化温度よりも10℃低い温度と融点との間の温度範囲とする請求項1または2記載の中空成形体の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂を固化させる際に、パリソン内部に吹き込む加圧流体として室温以下の温度のものを用い、かつ加圧流体をパリソン内部に流通させて冷却する請求項1〜3のいずれかに記載の中空成形体の製造方法。

【公開番号】特開2006−51831(P2006−51831A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316283(P2005−316283)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【分割の表示】特願平9−162328の分割
【原出願日】平成9年6月19日(1997.6.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】