説明

中空球状ポリマーの使用方法

【課題】少なくとも1つの架橋ポリマー段および揮発性塩基で膨潤されているコア段を有する耐熱性中空球状ポリマーの、中空球状ポリマーが100℃から350℃の温度にさらされる用途における使用方法が提供される。この方法によって作製される物品も提供される。
【解決手段】(a)中空球状ポリマーの分散物を含む組成物を提供し、中空球状ポリマーは少なくとも1つのコア段および少なくとも1つのシェル段を有し、コア段は揮発性塩基で膨潤されており、並びにコア段およびシェル段の少なくとも1つは架橋されている工程;(b)前記組成物を、コーティング組成物と混合すること;前記組成物を、熱可塑性物質と混合すること;または前記組成物を基体と接触させること、の少なくとも1つを実施する工程;並びに(c)前記組成物を100℃から350℃の温度にさらす工程:を含む耐熱性中空球状ポリマーの使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの架橋ポリマー段および揮発性塩基で膨潤しているコア段を有する耐熱性中空球状ポリマーの、該中空球状ポリマーが100℃から350℃の温度にさらされる用途における使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空隙を有する、すなわち、中空のポリマー粒子は、一般には、コアおよびシェルを有する多段ポリマーを、1つ以上の空隙がその中空ポリマー粒子の内部に形成されるような方法で膨潤させることによって形成される。そのような中空ポリマー粒子を用いて、都合のよい特性、例えば、輝き、白さ、不透明性、および/または低密度を得ることは公知である。多くの場合、中空ポリマー粒子は、そのうちの幾らかは高価であり得る、白色不透明化鉱物顔料(例えば、二酸化チタン)を置換もしくは増量することにより、最終製品のコスト削減のために用いられる。中空ポリマー粒子は、しばしば、塗料、コーティング、インク、日焼け防止剤、製紙、および他の分野の幾つかにおいて用いられる。しかしながら、温度が高すぎると大部分の中空ポリマーは潰れてしまうため、それらの使用は穏やかな温度条件下で製造される材料をに関する用途に限定される傾向にある。このことは、とりわけ、その歪みもしくは空隙の欠如が光を散乱する中空球状ポリマーの能力を損ない、そのため、中空球状ポリマーが、特に不透明性を付与することを妨げる理由から、不都合である。
【0003】
中空ポリマー粒子を用いることで利益を得ることができる、物質の高温処理を含む用途の多くが、例えば、粉末コーティング、プラスチック、金属コーティング、織物コーティング、不織布、および顔料印刷用途において存在する。したがって、高温にさらした後でさえ、不透明性における改善をもたらすことができる中空球状ポリマーに対する必要性が存在する。
米国特許出願公開第2003/0176535号は、キャリア液体および架橋している中空球状ポリマー粒子を含有する耐熱性インクを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0176535号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許出願は、インク以外の材料における、またはインクジェットインク印刷以外の用途における中空微小球状ポリマー粒子の使用を開示しておらず、したがって、それらが、例えば、インクジェット印刷において遭遇する溶媒、剪断条件、および/またはインクジェット印刷において遭遇するものよりも高い温度等にさらされる用途におけるポリマーの使用を開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
出願人は、予期せぬことに、少なくとも1つの架橋ポリマー段および揮発性塩基で膨潤しているコア段ポリマーを有する中空球状ポリマーが、その中空球状ポリマーが高温に処される用途、例えば、粉末コーティング、プラスチック、金属コーティング、織物コーティング、不織布、および顔料印刷において用いられる場合、白さ、輝き、不透明性、または低密度のうちの少なくとも1つを提供するのに有用であることを見いだしている。
【0007】
本発明の第1の態様は、耐熱性中空球状ポリマーの使用方法であって、(a)中空球状ポリマーの分散物を含有する組成物を提供し、該中空球状ポリマーは少なくとも1つのコア段および少なくとも1つのシェル段を有し、該コア段は揮発性塩基で膨潤されており、並びに該コア段および該シェル段の少なくとも1つは架橋している工程;(b)(i)該中空球状ポリマーを含有する該組成物をコーティング組成物と混合すること、(ii)該中空球状ポリマーを含有する該組成物を熱可塑性物質と混合すること、または(iii)該中空球状ポリマーを含有する該組成物を基体と接触させること、の少なくとも1つを実施する工程;並びに(c)該中空球状ポリマーを含有する該組成物を100℃から350℃の温度にさらす工程:を含む方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は本発明の方法によって形成される物品である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
我々は、少なくとも1つの架橋ポリマー段および揮発性塩基で膨潤されているコア段を有する中空球状ポリマーが高温に耐え得ることを見いだした。したがって、それらは明るさ、輝き、または不透明性のうちの少なくとも1つを、それらが塗布または組み込まれている物品に付与することができる。本発明の方法は、そのような中空球状ポリマーの、該中空球状ポリマーが100℃から350℃の温度にさらされる用途における使用に向けられる。
【0010】
この方法の第1工程は、コアが揮発性塩基で膨潤されている中空球状ポリマーの分散物を提供することである。好ましい実施形態において、中空球状ポリマー分散物は、(以下で説明する)「Fメソッド(F Method)」による判定で少なくとも0.05meq/g固体、好ましくは、少なくとも0.1meq/g固体、より好ましくは、0.2meq/g固体を上回るアミン力価を有する。
【0011】
「Fメソッド」は以下の通りである。
Fメソッドは以下の溶媒および試薬を必要とする:テトラヒドロフラン、塩化カリウムの10重量%原料水溶液、0.500±0.003N水酸化カリウム水溶液、0.5N塩酸水溶液、17から18のHLB値を有する非イオン性界面活性剤(用いることができる非イオン性界面活性剤の例には、すべてミシガン州MidlandのDow Chemicalによって製造される、Triton(商標) X−405またはTergitol(商標) NP−40エトキシル化アルキルフェノールもしくはTergitol(商標) 15−S−40 C12−14二級アルコールエトキシレートが含まれる)、乾燥重量基準で4から5meq/gの交換容量を有する、完全にプロトン化された形態の強酸カチオン交換樹脂(用いることができる樹脂の例には、ペンシルバニア州PhiladelphiaのRohm and Haas, Co.によって製造されるAmberlite(商標) IRN−77強酸カチオン交換樹脂もしくはミシガン州MidlandのDow Chemicalによって製造されるDowex(商標) 50WX8強酸カチオン交換樹脂が含まれる)。弱酸性種もしくは弱塩基性種からの妨害がないことを保証するためすべての溶媒および試薬で滴定ブランクを実施するべきである。妨害種、阻害因子もしくは製造副生成物は、乾燥重量基準で1から5meq/gの総交換容量を有する混合床イオン交換樹脂でのイオン交換によってテトラヒドロフランもしくは非イオン性界面活性剤から除去することができ(用いることができる混合床樹脂の例には、ペンシルバニア州PhiladelphiaのRohm and Haas, Co.によって製造されるAmberlite(商標) NB−3A単床樹脂もしくはミシガン州MidlandのDow Chemicalによって製造されるDowex(商標) MB−50混合床樹脂が含まれる)、このイオン交換はブランク滴定が妨害を受けないように実施される。
【0012】
15グラムの中空球分散物を15グラムの脱イオン水で希釈して、10グラムの固体強酸イオン交換樹脂(乾燥重量基準で4から5meq/gの交換容量を有する)を添加し(供給の際、強酸イオン交換樹脂は通常幾分かの水を含む−これらの樹脂を使用前に乾燥させる必要はない)、その混合物を60分間攪拌した後、325メッシュ・ステンレス鋼篩を通して濾過し、イオン交換樹脂を除去する。
【0013】
中空球状ポリマー分散物もしくは強酸イオン交換樹脂で処理した材料の固体塊含有量は以下のように重力測定で判定される。化学天秤で公称重量0.5グラムの試料を正確に秤量して風袋測定されたアルミニウム秤量パンに乗せ、150℃で30分間、強制通気乾燥オーブン内で乾燥させる。
【0014】
meq/g固体でのアミン力価を、以下のように、2回の滴定で判定される総力価における差から判定する。
【0015】
第1滴定は元の中空球状ポリマー分散物(すなわち、強酸イオン交換樹脂で処理されていないもの)の試料で行う。活性成分2グラムに相当する量の非イオン性界面活性剤(17から18のHLB値を有する)を、中空球状ポリマー固体0.6グラムを含有する正確に測定された量の中空球状ポリマー分散物に添加して混合する。この混合物を10%塩化カリウム水溶液5グラムおよびテトラヒドロフラン75グラムで希釈する。混合しながら0.5N塩酸水溶液を滴下によって添加することによりpHを2.5以下に調整する。添加される0.5N水酸化カリウム塩基水溶液の量の関数としてpHを記録することにより滴定曲線を生成する;塩基は滑らかな滴定曲線が生成されるように充分小さな増分で添加されるべきである。塩基の添加は測定されるpHが13.5以上になるまで継続されるべきである。滴定曲線は約pH=5に第1屈曲点を、および約pH=12に最終屈曲点を有する;その上、幾つかの中間屈曲点が存在する場合がある。第1および最終屈曲点を滴定曲線の直接検査により、もしくは滴定曲線の最初の派生物のプロットにおけるピークから、正確に位置づけられるべきである。この第1滴定についてのmeq/g固体での総力価は、第1屈曲点から最終屈曲点に至るまでに必要な塩基のミリ当量を、滴定試料中の中空球状ポリマー固体の実際の重量で割ったものである。
【0016】
第2滴定は上述のように強酸カチオン交換樹脂で処理済みの中空球状ポリマー分散物のサンプルで行う。2グラムの活性成分に相当する量の非イオン性界面活性剤を、0.6グラムの中空球状ポリマー固体を含有する正確に測定された量の処理された中空球状ポリマー分散物に添加して混合する。この混合物を5グラムの10%塩化カリウム水溶液および75グラムのテトラヒドロフランで希釈する。混合しながら0.5N塩酸水溶液を滴下によって添加することによりpHを2.5以下に調整する。添加される0.5N水酸化カリウム水溶液の量の関数としてpHを記録することにより滴定曲線を生成する;塩基は滑らかな滴定曲線が生成されるように充分に小さな増分で添加されるべきである。塩基の添加は測定されるpHが13.5以上になるまで継続されるべきである。滴定曲線は約pH=5に第1屈曲点を、および約pH=12に最終屈曲点を有する;同様に、幾つかの中間屈曲点が存在する場合がある。第1および最終屈曲点を滴定曲線の直接検査により、もしくは滴定曲線の最初の派生物のプロットにおけるピークから、正確に位置づけられるべきである。この第2滴定についてのmeq/g固体での総力価は、第1屈曲点から最終屈曲点に至るまでに必要な塩基のミリ当量を、滴定試料中の中空球状ポリマー固体の実際の重量で割ったものである。
【0017】
アミン力価は、meq/グラム固体で、第1滴定において判定される総力価から第2滴定において判定される総力価を差し引いたものである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、中空球状ポリマーは、シェル段で封入されているコア段を有する多段ポリマーを形成した後、揮発性塩基と接触させることによってその多段ポリマーを膨潤させて中空球状ポリマーを形成することによって作成されている。このタイプの中空球状ポリマーは当該技術分野において公知であり、市販されている。
【0019】
コア段ポリマーは、酸官能性を含むモノエチレン性不飽和モノマーの少なくとも1種類を重合することによって形成されるエマルジョンポリマーである。コア段ポリマーは、好ましくは、酸含有モノマーのエマルジョン単独重合によって、または酸含有モノマーと少なくとも1種類の異なるモノマーとの共重合によって調製される。このコア段ポリマーの作製に有用な、適切な酸官能性を含むモノエチレン性不飽和モノマーには、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルオキシプロピオン酸、(メタ)アクリルオキシプロピオン酸、イタコン酸、アコニチン酸、マレイン酸もしくは無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、モノメチルマレエート、モノメチルフマレート、およびモノメチルイタコネートを含む、少なくとも1つのカルボン酸基を含むモノマーが含まれ;また、末端不飽和酸含有オリゴマー、例えば、米国特許第5,710,227号および第6,046,278号並びにEP 1010706に教示されるもの、並びに、櫛形/グラフト、ブロック、および混合ブロックオリゴマーを含むものの使用も意図される。別の用語、例えば、アクリレート、アクリロニトリル、もしくはアクリルアミドが続く「(メタ)」という用語の使用は、本開示を通して用いられる場合、それぞれ、アクリレート、アクリロニトリル、もしくはアクリルアミド並びにメタクリレート、メタクリロニトリル、およびメタクリルアミドの両者を指す。アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
【0020】
一般には、重量基準で少なくとも約5%、好ましくは少なくとも10%の酸含有モノマーを含むコアコポリマーが本発明の目的上実用的な膨潤性を有する。しかしながら、ある特定のコモノマーの疎水性のため、コポリマーが5重量パーセントを上回る、もしくは下回る、酸含有モノマーを必要とし得る場合が存在する場合がある。上述のように、コア段ポリマーは酸含有モノマーの単独重合によって形成することができる。したがって、本発明は、エマルジョン重合された酸含有モノマーを100%含有するコアを含む。酸含有モノマーの好ましい最大量は全コア段モノマーの約70重量%である。
【0021】
好ましい実施形態においては、酸含有モノマーを1種類以上の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマーと共重合させる。一実施形態においては、コア段ポリマーを、そのコア段ポリマーの重量を基準にして5から100重量%、好ましくは、20重量%から60重量%、より好ましくは、30重量%から50重量%の、酸官能性を含む少なくとも1種類のエチレン性不飽和モノマー、およびそのコア段ポリマーの重量を基準にして0から95重量%の少なくとも1種類の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマーを共重合させることによって形成する。コア段ポリマーの作製に適した非イオン性モノエチレン性不飽和モノマーには、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸の(C−C20)アルキルもしくは(C−C20)アルケニルエステル、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0022】
コア段ポリマーは、任意に、そのコアの総重量を基準にして、20重量%未満、好ましくは、0.1から3重量%の多エチレン性不飽和モノマーを含むことができ、用いられる量は、一般には、用いられるモノエチレン性不飽和酸含有モノマーの量にほぼ正比例する。換言すると、モノエチレン性不飽和酸含有モノマーの相対量が増加する場合、多エチレン性不飽和モノマーのレベルを増加することが許容される。その他の場合としては、コアポリマーは、そのコアポリマーの総重量を基準にして、0.1から60重量%のブタジエンを含むことができる。
【0023】
適切な多エチレン性不飽和モノマーには少なくとも2つの付加重合可能なビニリデン基を含むコモノマーが含まれ、それは2−6のエステル基を含む多水酸基アルコールのアルファ−ベータエチレン性不飽和モノカルボン酸エステルである。そのようなコモノマーには、アルキレングリコールジアクリレートおよびジメタクリレート、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレートおよびトリエチレングリコールジメチルアクリレート;1,3−グリセロールジメタクリレート;1,1,1−トリメチロールプロパンジメタクリレート;1,1,1−トリメチロールエタンジアクリレート;ペンタエリスリトールトリメタクリレート;1,2,6−ヘキサントリアクリレート;ソルビトールペンタメタクリレート;メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、ジビニルベンゼン、ビニルメタクリレート、ビニルクロトネート、ビニルアクリレート、ビニルアセチレン、トリビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、ジビニルアセチレン、ジビニルエタン、ジビニルスルフィド、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン、ジアリルシアンアミド、エチレングリコールジビニルエーテル、ジアリルフタレート、ジビニルジメチルシラン、グリセロールトリビニルエーテル、ジビニルアジペート;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート;ジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレート;グリコールモノジシクロペンテニルエーテルの不飽和エステル;アリル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート等を含む、末端エチレン性不飽和を有するモノ−およびジカルボン酸のアリルエステル等が含まれる。
【0024】
本発明の中空球状ポリマーのシェル段は比較的中程度から高いガラス転移温度(Tg)を有する。好ましくは、最も外側のシェル段ポリマーのTgは、Fox式(T.G. Fox, Bull. Am. Physics Soc, Volume 1, Issue No. 3, page 123 (1956))による計算で、25℃を上回り、より好ましくは50℃を上回り、さらにより好ましくは70℃を上回り、最も好ましくは90℃を上回る。すなわち、モノマーM1およびM2のコポリマーのTgを算出するには、
1/Tg(calc.)=w(M1)/Tg(M1)+w(M2)/Tg(M2)
(式中、
Tg(calc)はコポリマーについて算出されるガラス転移温度であり、
w(M1)はコポリマー中のモノマーM1の重量分率であり、
w(M2)はコポリマー中のモノマーM2の重量分率であり、
Tg(M1)はM1のホモポリマーのガラス転移温度であり、
Tg(M2)はM2のホモポリマーのガラス転移温度であり、
すべての温度は°K表示である。)
【0025】
シェル段ポリマーは、好ましくは0.2ミクロンから2ミクロン、より好ましくは0.3ミクロンから1ミクロン、さらにより好ましくは0.35ミクロンから0.6ミクロンの粒子サイズを有する。
【0026】
シェル段ポリマーは、コア段ポリマーの存在下においてシェル段モノマー系をエマルジョン重合した生成物である。用いられるモノマーおよびそのシェル段ポリマーにおけるそれらの相対割合は、そのシェル段ポリマーが揮発性塩基の浸透を許容するようなものであるべきである。シェル段モノマー系がすべてアクリル系であることが好ましい。しかしながら、特に好ましい実施形態において、シェル段ポリマーは、共重合単位として、ブチルメタクリレート、メチルメタクリレート、および約1から約10重量%のメタクリル酸を含む。
【0027】
本発明の一実施形態において、コア段ポリマーは、共重合単位として、酸官能性を含む少なくとも1種類のエチレン性不飽和モノマーを、そのコア段ポリマーの重量を基準にして5%から100%、およびそのコア段ポリマーの重量を基準にして0重量%から95重量%の少なくとも1種類の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマーを有するコポリマーを含み;並びにシェル段ポリマーは、シェル段ポリマーの総重量を基準にして約90重量%から約99.9重量%の少なくとも1種類の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマーおよびシェル段ポリマーの総重量を基準にして約0.1重量%から約10重量%の酸官能性モノエチレン性不飽和モノマーを重合することによって形成される。この実施形態において、コア段ポリマーの粒子サイズが約130nmから約1.0ミクロンである場合、酸官能性モノエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは、シェル段ポリマーの重合に、シェル段モノマー供給の総重量を基準にして全シェル段モノマー供給の100%にわたって、より好ましくは供給の最初の50%にわたって、さらにより好ましくは供給の最初の25%にわたって、最も好ましくは供給の最初の10%にわたって添加される。コア段ポリマーの粒子サイズが約130nm未満である場合、酸官能性モノエチレン性不飽和モノマーは、好ましくは、シェル段ポリマーの重合に、シェル段モノマー供給の総重量を基準にして、全シェル段モノマー供給の最初の50%にわたって、より好ましくは供給の最初の25%にわたって、最も好ましくは供給の最初の10%にわたって添加される。
【0028】
中空球状ポリマー系は少なくとも1重量%の酸官能性モノマーを含有するシェル段モノマー系を含むことができ、その残部は非イオン性モノエチレン性不飽和コモノマー、例えば、コア段ポリマーについてここで上述されるものであり得る。シェル段ポリマーの調製に用いられるモノマー系における酸官能性モノマーの好ましい量は、溶媒が用いられない場合に5重量%から10重量%であり、溶媒が用いられる場合に約1重量%から2重量%である。その他の場合としては、中空球状ポリマー系は溶媒の存在下における中空球状ポリマーの膨潤を含むことができる。
【0029】
溶媒の使用は揮発性塩基によるシェルの浸透を補助する。溶媒の適切な量は、100重量部の中空球状ポリマーを基準にして、1重量部から100重量部、好ましくは、5重量部から10重量部である。適切な溶媒はシェルを可塑化するあらゆるもの、例えば、ヘキサノール、エタノール、3−ヒドロキシ−2,2,4−トリメチルペンチルイソブチレート、トルエン、溶媒の混合物等である。溶媒は塩基の添加の前、後、もしくはそれと共に添加することができる。特定の場合においては、シェル段モノマー系それ自体がシェル段ポリマーのための溶媒として機能し得る。
【0030】
上述のように、出願人らは、予期せぬことに、少なくとも1つの架橋ポリマー段および揮発性塩基で膨潤されているコア段ポリマーを有する中空球状ポリマーが100℃から350℃の温度に耐え得ることを見いだした。好ましくは、架橋しているポリマー段はシェル段ポリマーである。架橋は、コアおよび/もしくはシェル段ポリマーを形成する重合を行う間、コアおよび/もしくはシェル段ポリマーを形成する重合の後、またはそれらの組み合わせで生じさせることができる。
【0031】
架橋レベルは、中空球状ポリマー中に用いられるモノマーの総モルを基準にして、好ましくは2モル%から70モル%、より好ましくは5モル%から50モル%である。シェル中の架橋は1種類以上の多エチレン性不飽和モノマーの使用から誘導することができる。適切な多エチレン性不飽和モノマーには、コアおよびシェル段ポリマーについてここで上述したものが含まれる。その他の場合としては、シェルの重合後架橋を得るため、シェル段ポリマーの架橋を1種類以上の多官能性モノマーの使用から誘導することもできる。多官能性モノマーは、ビニル共重合が可能な少なくとも1つの官能基および適切な反応性分子との反応が可能な少なくとも1つの官能基を含む。適切な反応性分子には、例えば、アミン、ジアミン、アミノ酸およびアミノアルキルトリアルコキシシランが含まれる;任意選択的に、続いて他の反応性分子、例えば、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)、ジアルデヒド(例えば、グルタルジアルデヒド)、ヒドラジンおよびジヒドラジン(例えば、スクシンジヒドラジン)を添加して重合後架橋ゾル−ゲルを形成する。シェル段ポリマーの重合後架橋に適する官能基および反応性分子は、重合後架橋に適する多官能性モノマーの他に、限定されることなしに、欧州特許出願EP 1092421において説明される。好ましい架橋剤には、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレートおよびアセトアセトキシエチルメタクリレートが含まれる。
【0032】
本発明の範囲内にあるものは、とりわけ、コア段ポリマーを完全に封入するシェル段ポリマー;コア段ポリマーを実質的に、しかしながら不完全に封入するシェル段ポリマー;膨潤して粒子の表面と粒子の内部(すなわち、コアもしくは空隙)とを連通する少なくとも1つの細孔を有する粒子をもたらすポリマー;複数のコアを有するポリマー粒子;コアポリマーが本発明の酸官能性含有コアポリマーの前駆体であり、かつ米国特許第5,041,464号;第5,157,084号;および第5,216,044号の教示によるコアポリマーの加水分解等の手段によって、シェルポリマー形成の前、その間、もしくはその後のいずれであろうと、本発明の酸官能性含有コアポリマーに後に変換され、コアポリマーがその加水分解の間もしくはその後に揮発性塩基と接触させられる多段ポリマーである。
【0033】
コアおよびシェル段ポリマーを含む多段ポリマー粒子は逐次エマルジョン重合法によって調製され、これは、例えば米国特許第4,594,363号に記載されるように、当該技術分野において公知である。「逐次エマルジョン重合」がここで意味するところは、そのポリマーの一段のホモポリマーもしくはコポリマーが、水性媒体中で、エマルジョン重合法により、エマルジョン重合によって予め形成されるポリマー段の分散ポリマー粒子の存在下で、予め形成されたエマルジョンポリマーのサイズが、その予め形成されたエマルジョンポリマーの分散粒子を含有する媒体中に導入される1つ以上の連続モノマー投入物のエマルジョン重合生成物の、あらかじめ形成されたポリマー上の堆積によって増加するように調製されることである。中空球状ポリマーの各段は逐次重合の1つの段階あるいは工程で作製することができ、または複数の工程によって逐次的に作製することができる。
【0034】
逐次エマルジョン重合はシードポリマーの使用を含むことができる。「シード」ポリマーという用語は水性エマルジョンポリマー分散物を示す場合に用いられ、この水性エマルジョンポリマー分散物は最初に形成されたポリマー段を含む分散物であってもよく、または、その逐次重合の最終段階を除いて、その後に続く任意の段階の最後に得られるエマルジョンポリマー分散物であってもよい。したがって、その後のエマルジョン重合の1つ以上の段階によって封入しようとするコア段ポリマーは、それ自体が次の段階のシードポリマーと呼ぶことができる。同様に、シードポリマーは、その上にコア段ポリマーが形成される核の形成に用いることができる。
【0035】
水溶性フリーラジカル開始剤を連続エマルジョン重合において用いることができる。適切な水溶性フリーラジカル開始剤には、過酸化水素;過酸化tert−ブチル;過硫酸アルカリ金属、例えば、過硫酸ナトリウム、カリウムおよびリチウム;過硫酸アンモニウム;並びにそのような開始剤と還元剤との混合物が含まれる。還元剤には:亜硫酸塩、例えば、アルカリ金属メタ重亜硫酸塩、ハイドロスルファイト、および次亜硫酸塩;ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート;並びに還元性糖、例えば、アスコルビン酸およびイソアスコルビン酸が含まれる。開始剤の量は、好ましくは、モノマーの総量を基準にして、0.01重量%から3重量%であり、およびレドックス系において、還元剤の量は、好ましくは、モノマーの総量を基準にして、0.01重量%から3重量%である。開始温度は約10℃から約100℃の範囲であってよい。過硫酸系の場合には、温度は、好ましくは60℃から90℃の範囲である。レドックス系においては、温度は、好ましくは、30℃から70℃の範囲である。開始剤のタイプおよび量は多段重合の様々な段階において同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
1種類以上の非イオン性もしくはアニオン性乳化剤、または界面活性剤を、単独で、または併用して用いることができる。適切な非イオン性乳化剤の例には、tert−オクチルフェノキシエチルポリ(39)−エトキシエタノール、ドデシルオキシポリ(10)エトキシエタノール、ノニルフェノキシエチル−ポリ(40)エトキシエタノール、ポリエチレングリコール2000モノオレエート、エトキシル化ヒマシ油、フッ化アルキルエステルおよびアルコキシレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、スクロースモノココエート、ジ(2−ブチル)フェノキシポリ(20)エトキシエタノール、ヒドロキシエチルセルロースポリブチルアクリレートグラフトコポリマー、ポリ(エチレンオキシド)ポリ(ブチルアクリレート)ブロックコポリマー、プロピレンオキシドおよびエチレンオキシドのブロックコポリマー、エチレンオキシド30モルでエトキシル化されている2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、N−ポリオキシエチレン(20)ラウラミド、N−ラウリル−N−ポリオキシエチレン(3)アミン並びにポリ(10)エチレングリコールドデシルチオエーテルが含まれる。適切なアニオン性乳化剤の例には、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウム、ノニルフェノキシエチルポリ(1)エトキシシエチルスルフェート・アンモニウム塩、スチレンスルホン酸ナトリウム、ドデシルアリルスルホコハク酸ナトリウム、アマニ油脂肪酸、エトキシル化ノニルフェノールのリン酸エステルのナトリウムもしくはアンモニウム塩、オクトキシノール−3−スルホン酸ナトリウム、ナトリウムココイルサルコシネート、1−アルコキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム、アルファ−オレフィン(C14−C16)スルホン酸ナトリウム、ヒドロキシアルカノールの硫酸塩、N−(1,2−ジカルボキシエチル)−N−オクタデシルスルホ−スクシナメート四ナトリウム、N−オクタデシルスルホスクシナメート二ナトリウム、アルキルアミドポリエトキシスルホコハク酸二ナトリウム、スルホコハク酸のエトキシル化ノニルフェノール半エステル二ナトリウムおよびtert−オクチルフェノキシエトキシポリ(39)エトキシシエチルスルフェートのナトリウム塩が含まれる。界面活性剤は、一般には、多段ポリマーの重量を基準にして、0%から3%のレベルで用いられる。界面活性剤は、あらゆるモノマー投入物の添加の前、モノマー投入物の添加中、またはそれらの組み合わせで添加することができる。シェルを形成するためのある特定のモノマー/乳化剤系においては、反応媒体中にガムもしくは凝塊を生成する傾向を、シェルポリマーの総重量を基準にして約0.05重量%から約2.0重量%の乳化剤を添加することにより、予め形成されたコア粒子上に形成されるポリマーの堆積を損なうことなく、減少もしくは防止することができる。
【0037】
低レベルの乳化剤を維持しながらエマルジョン重合を実施することは、重合の様々な段階の間に形成されるミセルの数の制御を補助し、前の工程もしくは段階から生じる既存の分散ポリマー粒子上へのポリマー形成のその後に続く段階の堆積を促進する。一般的な規則として、乳化剤の量は、特定のモノマー系の臨界ミセル濃度に相当する量を下回るように維持されるべきであり、この限度は好ましいもので単モード生成物を生じるが、一部の系においては、難点となり得る、もしくは過剰の数の分散ミセルもしくは粒子を形成することなく、乳化剤の臨界ミセル濃度を幾らか超過させ得ることが見出されている。
【0038】
所定の段階において形成されるポリマーの粘度平均分子量は100,000から数100万分子量の範囲をとり得る。連鎖移動剤が用いられる場合、この分子量は100,000未満であり得る。モノマーの重量を基準にして0.1重量%から20重量%の多エチレン性不飽和モノマーがコアの作製において用いられる場合、この分子量は、架橋が生じるか否かに関わりなく、増加する。多エチレン性不飽和モノマーの使用は、多段ポリマーがコアのための膨潤剤で処理される場合、コアポリマーが溶解する傾向を低下させる。この範囲の下位部分、例えば、500,000から約20,000という小さいサイズまでの分子量を有するコアを生成することが望ましい場合、多エチレン性不飽和モノマーを回避し、代わりに連鎖移動剤、例えば、アルキルメルカプタン、例えば、sec−ブチルメルカプタンを、好ましくは、全モノマーの重量を基準にして、0.05重量%から2重量%もしくはそれを超える量を用いることによって行うことが、多くの場合、最も実用的である。
【0039】
堆積されてシェル段ポリマーを形成するポリマーの量は、一般には、そのシェルポリマーが1つの段階で形成されるか複数の段階で形成されるかにかかわらず、非膨潤状態で、全体のサイズが70nmから4.5ミクロン、好ましくは100nmから3.5ミクロン、より好ましくは200nmから2.0ミクロンの多段ポリマー粒子をもたらすのには十分なものである。最終生成物の乾燥密度を最少化するため、コアを完全に封入するのに必要とされるのに等しい量だけのシェルポリマーを堆積させることが好ましい。
【0040】
コアおよびシェル段ポリマーを含む多段ポリマーは、コアを膨潤させることができる揮発性塩基にそれらの粒子が処された場合に膨潤し、中空球状ポリマーの形成が生じる。好ましくは、結果として生じる中空球状ポリマーは20%から70%、好ましくは、30%から55%の空隙割合を有する。「空隙割合」がここで意味するところは、ポリマー粒子内の空隙の体積を、空隙が生じたポリマー粒子の全体積で割ったものである。コアの膨潤、すなわち、膨張は、シェル内周の細孔へのコア外周の部分的統合並びに/またはシェルおよび粒子全体の部分的拡大もしくは膨張を含み得る。適切な膨潤剤は、多段エマルジョンポリマーの存在下で、シェルに浸透してコアを膨潤させることが可能な揮発性塩基である。「揮発性」がここで意味するところは、周囲温度で、もしくは乾燥によりエマルジョンから蒸発する塩基である。揮発性塩基は、典型的には、pKb<7(25℃の水中にて)を有する。適切な揮発性塩基には、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、アミン等が含まれる。揮発性塩基は大気温度で蒸発しない不揮発性もしくは永久塩基、例えば、金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムとは異なる。溶媒、例えば、エタノール、ヘキサノール、オクタノール、Texanol(商標)溶媒(テネシー州KingportのEastman Chemical Companyが製造)、および米国特許第4,594,363号に記載されるものを添加して揮発性塩基の浸透を補助することができる。
【0041】
本発明の組成物は、(i)コーティング組成物と混合する、(ii)熱可塑性組成物と混合する、(iii)基体と接触させる、またはそれらの組み合わせのいずれかである。その後、中空球状ポリマーを含有する組成物を100℃から350℃、好ましくは120℃から350℃、より好ましくは125℃から350℃の温度にさらす。この暴露が生じる時間は暴露の温度、特には、最終用途に依存する。同様に、暴露温度は暴露時間および最終用途に依存する。
【0042】
100℃から350℃の温度への組成物の暴露は部分的もしくは完全な乾燥を生じ、硬化性組成物が用いられる場合、部分的もしくは完全な乾燥または乾燥および硬化を生じる。暴露の時間および温度は、とりわけ、乾燥の速度、処理もしくは取り扱いの容易さ、およびその組成物が接触している基体の特性発現に影響を及ぼす。乾燥および硬化機能は、所望であれば、2つ以上の異なる工程で達成することができる。例えば、最初に硬化性組成物を、実質的に乾燥させるのに十分ではあるがその組成物を実質的に硬化させることのない温度および時間で加熱した後、2回目に硬化を生じるより高い温度および/またはより長い時間加熱することができる。「B−ステージング(B−staging)」と呼ばれるそのような手順は、その硬化プロセスと同時に特定の形状に形成もしくは成形するか否かに関わらず、後の段階で硬化させることができる材料をもたらすのに用いることができる。
【0043】
本発明の一実施形態においては、中空球状ポリマーを含有する組成物を粉末コーティングにおいて用いる。「粉末コーティング」がここで意味するところは、例えば、静電もしくは圧縮空気法により、粉末材料を基体に塗布した後、その粉末材料の融点まで加熱し、流動させて膜を形成することによって形成されるコーティングである。本発明のこの実施形態においては、中空球状ポリマーを含有する組成物を液体粉末コーティング組成物または乾燥粉末コーティング組成物のいずれかと混合することができる。中空球状ポリマー含有組成物は、例えば噴霧乾燥により、粉末コーティングと混合する前もしくは後に乾燥させることができる。混合物成分のうちの少なくとも1つが液体である場合、その混合物を乾燥させて押し出した後、破砕および/もしくは粉砕して粉末を形成することができる。粉末コーティング組成物と混合した後、中空球状ポリマー含有組成物をここに上述されるように基体と接触させ、100℃から240℃、好ましくは、100℃から180℃、より好ましくは、120℃から180℃の温度で処理する。粉末コーティングが熱硬化粉末コーティングである場合、組成物を処理する温度は、好ましくは、120℃から240℃、好ましくは、160℃から200℃である。粉末コーティングが熱可塑性粉末コーティングである場合、この温度は、好ましくは、100℃から240℃、より好ましくは、100℃から160℃、さらにより好ましくは、120℃から140℃である。粉末コーティングがUV硬化粉末コーティングである場合、この温度は、好ましくは、100℃から200℃、より好ましくは、100℃から150℃である。
【0044】
本発明の別の実施形態においては、中空球状ポリマーを含有する組成物をプラスチックにおいて用いる。中空球状ポリマーを含有する組成物を、例えば噴霧乾燥により、乾燥させた後、乾燥もしくは液体のいずれかの熱可塑性組成物と混合することができる。前者の場合においては、熱可塑性組成物と共にその混合物を押し出し、もしくは射出成形し、熱に処することができる。混合物は押し出しもしくは射出成形の前に乾燥させることができる。「熱可塑性組成物」がここで意味するところは、加熱した場合には柔らかくなり、かつ冷却した場合には硬くなる材料である。適切な熱可塑性組成物には、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等が含まれる。その他の場合としては、中空球状ポリマーを含有する液体組成物を液体もしくは乾燥のいずれかの熱可塑性組成物と混合することができる。いずれの場合においても、混合物を押し出しの前に乾燥させることができ、150℃から250℃、好ましくは、170℃から210℃の温度にさらすことができる。
【0045】
本発明のさらに別の実施形態においては、中空球状ポリマーを含有する組成物を金属コーティング、例えば、コイルコーティング、缶コーティング、自動車コーティング、産業用金属表面処理等において用いる。「コイルコーティング」がここで意味するところは、巻かれていない金属コイル上に形成された後、硬化させたコーティングである。「缶コーティング」がここで意味するところは、金属シートが缶、例えば、食品、飲料、エアロゾル等の収容に用いられる缶に変形される前もしくは後のいずれかに金属に塗布されるコーティングである。中空球状ポリマーを含有する組成物をコイルコーティング組成物と混合し、金属コイルコーティング基体と接触させた後、150℃から350℃の温度にさらす。コイルコーティングに関しては、暴露を行う時間は、一部の環境においてはより長いものであり得るが、典型的には30秒から2分である。暴露中、組成物が塗布される金属は150℃から250℃、好ましくは、160℃から230℃のピーク金属温度に達する。「ピーク金属温度」がここで意味するところは、例えばオーブン内で、高温への暴露によりコートされた金属の表面が到達する最大温度である。缶コーティングに関しては、暴露を行う時間は、一部の環境においてはより長いものであり得るが、典型的には1分から10分である。暴露中、組成物が塗布される金属は150℃から230℃、好ましくは、160℃から200℃のピーク金属温度に達する。産業用金属表面処理および自動車コーティングに関しては、暴露を行う時間は、一部の環境においてはより長いものであり得るが、典型的には5分から20分である。産業用金属表面処理および自動車コーティングのための典型的な暴露温度は120℃から200℃、好ましくは、140℃から180℃である。
【0046】
中空球状ポリマー含有組成物が基体と接触される本発明の実施形態において、接触を行う方法には、例えば、ロールコーティング、カーテンコーティング、および空気もしくは無気噴霧を例えば含むコーティング;サイジング;パッディング;浸潤;ボンディング;ビーター被着;凝集、それらの組み合わせ等が含まれる。したがって、この組成物は基体上もしくはその内部、またはそれらの組み合わせに配置させることができる。
【0047】
以下の例は本発明の特定の態様および特定の実施形態を説明するが、本発明がそれらによって限定されるものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0048】
粉末コーティングに対する中空球状ポリマーの性能
実施例1−3
本発明の架橋中空球状ポリマーが粉末コーティングにおいて典型的な高温硬化条件下で不透明性の改善をもたらすことを示すため、中空球状ポリマーエマルジョンRopaque(商標)AF 1055、不揮発性塩基(hard−base)膨潤中空球状ポリマー(比較例1)、5%ジビニルベンゼン(DVB)を含むRopaque(商標)AF 1055(比較例2)、およびSunspheres(商標)LCG、揮発性塩基膨潤架橋中空球状ポリマー(実施例3)を粉末コーティングVedec(商標)アクリル透明粉末トップコート(Acrylic Clear Powder Topcoat;ペンシルバニア州PhiladelphiaのRohm and Haas Companyが製造)と配合し、黒色フロートガラス上に200μm開口ドローダウンブレードで塗布した。結果として生じるコーティングを空気循環オーブン内で、180℃で10分間硬化させた。結果として生じるコーティングの反射率をByk Gardner反射率計(角度45/0)で測定した。
【0049】
【表1】

【0050】
コイルコーティングに対する中空球状ポリマーの性能
実施例4−7
本発明の中空球状ポリマーがコイルコーティングにおいて、それにより、缶コーティングにおいて高温硬化条件下、造膜助剤の存在下で不透明性が改善されることを示すため、中空球状ポリマーRopaque(商標)AF 1055(比較例5)、5%ジビニルベンゼン(DVB)を含むRopaque(商標)AF 1055(比較例6)、およびSunspheres(商標)LCG(実施例7)を水性アクリルコイルコーティング配合物中に篩掛けして加えた。参照試料(比較例4)は顔料としてのTiOのみを含有していた。このTiOスラリーは、TiOをCowles分散機を用いて高速(1000rpm)で20分間、以下に示される配合物中で分散させることによって作製した。
【0051】
【表2】

【0052】
注:
Orotan(商標)165はペンシルバニア州PhiladelphiaのRohm and Haas Companyによって製造される。
Tegofoamex(商標)K1488はドイツ国EssenのTego Chimieによって製造される。
Ti−Pure(商標)R706はデラウェア州WilmingtonのDuPontによって製造される。
【0053】
これら4種類の組成物を黒色のフロートガラス上に、100μmの開口を有するドローダウンバーを用いて塗布した。試料を空気循環オーブン内で3分間、100から220℃の範囲の温度で乾燥させた。室温まで冷却した後、Byk Gardner反射率計(角度45/0)で反射率を測定することにより膜の不透明性を判定した。結果として生じる不透明性を以下に示す:
【0054】
【表3】

【0055】
注:
Rhoplex(商標)AC 3094、Surfynol(商標) 104E、およびAcrysol(商標)RM 8Wはペンシルバニア州PhiladelphiaのRohm and Haas Companyによって製造される。
Cymel(商標)303はニュージャージー州West PatersonのCytec Industriesによって製造される。
Dowanol(商標)PnBはミシガン州MidlandのDow Chemicalによって製造される。
Arcosolv(商標)DPMはオランダ国RotterdamのLyondellによって製造される。
【0056】
産業用コイルコーティング条件下では、達成されるピーク金属温度が、典型的には、180から220℃の範囲であるように、空気温度はより高いが、オーブン内の滞在時間はより短い。
【0057】
プラスチックに対する中空球状ポリマーの性能
実施例8
架橋揮発性塩基膨潤中空球状ポリマーHSP1およびHSP2の固体粒子を180℃で溶融処理し、様々なポリ塩化ビニル(PVC)配合物にHaake Rheocordボウルで加えた。この中空球状ポリマー含有PVCの1平方インチ−1/8インチ厚プラークを万力ツールを用いて圧縮した。これらの検体の一部を液体窒素の下で冷凍破砕した。破砕表面を走査電子顕微鏡(SEM)によって検査し、溶融処理した中空球状ポリマーの形態を判定した。SEM写真は、HSP1およびHSP2粒子が、試験したPVC配合物のいずれを用いても、Haakeボウル溶融処理実験において潰れないことを示した。SEM写真はPVCマトリックスのバルク中に十分に分散し、潰れず、歪みを生じず、および破損していないHSP1およびHSP2粒子を示した。透明PVC配合物において、HSP1およびHSP2修飾試料は非常に不透明であった。
【0058】
検体の残りはシクロヘキサノンで抽出してPVCを溶解し、溶融処理検体からのHSP1およびHSP2粒子の回収を可能にした。粒子が依然として中空であることを確認するため、それらを液体窒素に入れ、乳鉢および乳棒を用いて粉砕した。粒子の表面をSEMによって検査したところ、粒子が中空のままであることが確認された。この実験の要約を表6に示す。
【0059】
実施例9
架橋揮発性塩基膨潤中空球状ポリマーHSP1、HSP2の固体粒子を2インチ幅−1/16インチ厚の細片に押し出した。これらの検体の幾つかを液体窒素の下で冷凍破砕した。破砕表面をSEMによって検査し、押し出された中空球状ポリマーの形態を判定した。SEM写真は、試験したPVC配合物のいずれを用いても、HSP1およびHSP2が押し出し実験において潰れないことを示した。SEM写真はPCVマトリックスのバルク中に十分に分散し、潰れず、歪みを生じず、および破損していないHSP1およびHSP2粒子を示した。透明PVC配合物において、HSP1およびHSP2修飾試料は非常に不透明であった。
【0060】
検体の残りはシクロヘキサノンで抽出してPVCを溶解し、押し出し検体からのHSP1およびHSP2粒子の回収を可能にした。粒子が依然として中空であることを確認するため、それらを液体窒素に入れ、乳鉢および乳棒を用いて粉砕した。粒子の表面をSEMによって検査したところ、粒子が中空のままであることが確認された。この実験の要約を表6に示す。
【0061】
比較例10
実施例8において説明される溶融処理、冷凍破砕、およびSEM検査を、HSP1およびHPS2の代わりに非架橋揮発性塩基膨潤中空球状ポリマー、Ropaque(商標)HP 1055(ペンシルバニア州PhiladelphiaのRohm and Haas Companyが製造)を用いて反復した。SEM写真は、Ropaque(商標)HP1055中空球状ポリマーが溶融処理中に完全に潰れたことを示し、検体はあまり不透明なものではなかった。この実験の概要を表6に示す。
【0062】
比較例11
実施例9において説明される押し出し法を、中空球状ポリマーを含有しない透明PVC配合物を用いて反復した。押し出されたPVCは、表6に記載されるように、透明のままであった。
【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性中空球状ポリマーの使用方法であって:
(a)中空球状ポリマーの分散物を含有する組成物を提供する工程であって、
該中空球状ポリマーは少なくとも1つのコア段および少なくとも1つのシェル段を有し、
該コア段は揮発性塩基で膨潤されており、並びに
該コア段および該シェル段の少なくとも1つは架橋されている工程;
(b)(i)該中空球状ポリマーを含有する該組成物を、コーティング組成物と混合すること、(ii)該中空球状ポリマーを含有する該組成物を、熱可塑性物質と混合すること、または(iii)該中空球状ポリマーを含有する該組成物を、基体と接触させること、
の少なくとも1つを実施する工程;並びに
(c)該中空球状ポリマーを含有する該組成物を100℃から350℃の温度にさらす工程:
を含む方法。
【請求項2】
該中空球状ポリマーを含有する該組成物を該熱可塑性物質と混合する前に乾燥させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
該分散物を含有する該組成物が、Fメソッドによる判定で、少なくとも0.05meq/g固体のアミン力価を有する請求項1記載の方法。
【請求項4】
該架橋が、該中空球状ポリマー中のモノマーの総モルを基準にして、少なくとも2モルパーセントのレベルである請求項1記載の方法。
【請求項5】
該基体が熱可塑性組成物、粉末コーティング粒子、および金属から成る群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項6】
該コーティング組成物が金属コーティングおよび粉末コーティングから成る群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項7】
i.酸官能性を含む少なくとも1種類のモノエチレン性不飽和モノマーを重合させることによってコア段ポリマーを形成し、
ii.少なくとも1種類のシェル段モノマー系を該コア段ポリマーの存在下でエマルジョン重合することによって、該コア段ポリマーを少なくとも1種類のシェル段ポリマーで封入し、
ここで、該シェル段ポリマーは揮発性塩基の浸透を許容する、
iii.結果として生じる多段ポリマー粒子を揮発性塩基と接触させる:
ことによって中空球状ポリマーが作製され、
(1)該シェル段ポリマーが少なくとも1%の酸官能性モノマーを含むか、または
(2)前記接触が溶媒の存在下で行われるか、のいずれかである、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該コア段ポリマーが、コア段ポリマーの総重量を基準にして約5重量%から約100重量%の、前記酸官能性を含むモノエチレン性不飽和モノマー、およびコア段ポリマーの総重量を基準にして0重量%から約95重量%の少なくとも1種類の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマーを重合させることによって形成され;
該シェル段ポリマーが、シェル段ポリマーの総重量を基準にして約90重量%から約99.9重量%の少なくとも1種類の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマー、およびシェル段ポリマーの総重量を基準にして約0.1重量%から約10重量%の酸官能性モノエチレン性不飽和モノマーを重合させることによって形成され;並びに
該コア段ポリマーの粒子サイズが約130nmから約1.0ミクロンである場合、該酸官能性モノエチレン性不飽和モノマーが、全シェル段モノマー供給の100%にわたって該シェル段ポリマーの重合に添加される;
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該コア段ポリマーが、コア段ポリマーの総重量を基準にして約5重量%から約100重量%の、前記酸官能性を含むモノエチレン性不飽和モノマー、およびコア段ポリマーの総重量を基準にして0重量%から約95重量%の少なくとも1種類の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマーを重合させることによって形成され;
該シェル段ポリマーが、シェル段ポリマーの総重量を基準にして約90重量%から約99.9重量%の少なくとも1種類の非イオン性モノエチレン性不飽和モノマー、およびシェル段ポリマーの総重量を基準にして約0.1重量%から約10重量%の酸官能性モノエチレン性不飽和モノマーを重合させることによって形成され;並びに
該コア段ポリマーの粒子サイズが約130nm未満である場合、該酸官能性モノエチレン性不飽和モノマーが、全シェル段モノマー供給の最初の50%にわたって該シェル段ポリマーの重合に添加される;
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法によって製造される物品であって、プラスチック、金属、および粉末コートされた物品から成る群より選択される物品。

【公開番号】特開2010−242103(P2010−242103A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−172082(P2010−172082)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2006−223147(P2006−223147)の分割
【原出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】