説明

中空糸膜モジュールの製造方法

【課題】第1の課題は、中空糸膜を内蔵する中空糸膜モジュールの製造において、ポッティング材が注入ノズル内で詰まることを減少させることである。第2の課題は、遠心ポッティング時に高遠心力を付与することで生じる中空糸膜の糸折れ、糸乱れを低減して中空糸膜損傷を防止することにある。第3の課題は、中空糸膜束の充填率が高いモジュールの生産においても、ポッティング材が十分に膜間等に浸透し、かつ注入、遠心に時間を要することのない、効率的な中空糸膜モジュールの製造方法及びかかる方法によって生産された中空糸膜モジュールを提供することにある。
【解決手段】長さ200mm以上350mm以下のケースに乾燥した中空糸膜を挿入して、混合粘度が1000mPa・s以下でかつゲル化時間が7分未満であるポッティング材を使用して遠心ポッティング法により中空糸膜端部を固定する中空糸膜モジュールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工透析、血液濾過に必要な血液処理器、浄水器等に用いられる中空糸膜モジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、液体中の物質の濾過、透析等の処理を行う上で、単位容積当たりの有効膜面積が大きくスペース効率に優れ、これまで精密濾過、限外濾過等の水処理関係、窒素、酸素、水素等のガス分離関係、薬品関係、バイオ関係等多くの分野で使用されており、とりわけ血液透析、血液濾過等の血液処理器として好適に利用されている。
【0003】
中空糸膜モジュールの製造においては、筒状ケース内に中空糸膜束を挿入し、両端にキャップを取り付け、筒状ケースを、その長手方向の中央を通り、その長手方向に直交する回転軸を中心として遠心回転させつつ、筒状ケースの両端部付近からポッティング材を注入し、遠心力によって両端部に移動させ、固化することで中空糸膜束を固定する(遠心ポッティング法)。かかる遠心ポッティング法において、従来のポッティング材では、ケースの長さが200mmのものに対して、遠心回転数を1000rpm以上として遠心させることを必要としていた(特許文献1)。なお、ここで言うポッティング材とは、主剤及び硬化剤(もしくはこれらに相当する成分)を含むものであり、ポリウレタン接着剤等の硬化性樹脂を含むものを意味する。ポリウレタン接着剤は、イソシアネート基を有する化合物の含まれる主剤とポリオールの含まれる硬化剤とを所定の割合で混合することにより、硬化するものである。
【0004】
ポッティング材を注入する方法はいくつか知られているが、その内の一つが、筒状ケースの両端部付近の側方にある、透析液等の処理液体の導入・排出に用いられるノズル(注入口)を介して注入する方法である。この方法は、チューブ等であらためてポッティング材の注入経路を作製する必要がないため、一般的に行われている。従来、この遠心ポッティングの方法としては、(1)筒状ケースの注入口にポッティング材注入ノズルを挿入して、液状のポッティング材を筒状ケース内に注入しつつ、ケースに遠心力を付与し「ポッティング材が硬化した後に」ノズルを取り外す方法及び(2)筒状ケースに遠心力を付与しつつノズルよりポッティング材を注入して「ポッティング材が硬化しない間に」ノズルを外し、しかる後遠心力を付与し、ポッティング材を移動、硬化させる方法のいずれかがとられている。しかしながら、かかる従来の方法の第1の問題点として、前者(1)の方法では、ノズル内外壁に硬化したポッティング材が付着するため、交換のための多数の注入ノズルを必要とし、さらにノズル内で硬化したポッティング材がノズル詰まりを生じることがあり、連続化が不可能となる問題がある。また、後者(2)の方法は、ノズルが少なくてすみ、連続化が可能であるが、ノズルを出し入れする際に注入口の内外壁にポッティング材が付着し、そのまま硬化して筒状ケースや注入口を汚染するという問題がある。このため、アダプターを介して、ポッティング材を注入するという方法が開示されている(特許文献1)が、アダプターを挿入する工程が新たに必要であり、またアダプター自体のコストが問題となっている。
【0005】
また、従来の遠心ポッティング方法の第2の問題点として、遠心回転数が高いため、高遠心力による負荷により中空糸膜に大きい外力が負荷され、糸折れ等の損傷が生じやすく、その結果、使用時に血液等の被処理液側から透析液等の処理液側に液漏れ(リーク)が存在する不良品が生じる問題点があった。また、遠心力が高すぎるとポッティング材に接触している中空糸膜束に過剰な遠心力が負荷され、中空糸膜が乱れやすくなり、中空糸膜損傷が生じやすい。特に乾燥状態の中空糸膜は軽いため、ポッティング時の遠心力が大きくなると糸乱れを起こしやすいという問題点があった。
【0006】
さらに、第3の問題点として、従来のポッティング材について、ひとつは主剤と硬化剤との混合粘度(以下、単に混合粘度という)が高いため(混合粘度1000mPa・sを超えるもの)、遠心力が低くなるとポッティング材が中空糸膜と中空糸膜の間、及び中空糸膜とケースの間を気密にシールしにくく、いわゆるポッティング材の不浸透が生じやすい(特許文献2)点がある。さらに、注入速度を遅くしないと、注入されたポッティング材の液面が処理液体用ノズル(注入口)付近まで及ぶため、注入時間を長くする必要があり、効率的でなかった(特許文献1)。特に、モジュールをコンパクトにするため、中空糸膜束の充填率が60%を超えるような場合には、混合粘度の高いポッティング材では、内部まで浸透しないという問題がある。加えて、従来のポッティング材は硬化速度が遅いため(ゲル化時間:9分以上)、遠心ポッティングにおいて10分以上の遠心を必要とし、効率的でなかった(特許文献3)。
【特許文献1】特開昭60−90008号公報
【特許文献2】特開2004―223423号公報
【特許文献3】特開2004―263108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の課題は、中空糸膜を内蔵する中空糸膜モジュールの製造において、上記(1)の遠心ポッティング法を用いた場合であっても、ポッティング材が注入ノズル内で詰まることを減少させることである。
【0008】
また、本発明の第2の課題は、遠心ポッティング時に高遠心力を付与することで生じる中空糸膜の糸折れ、糸乱れを低減して中空糸膜損傷を防止することにある。
【0009】
さらに、本発明の第3の課題は、中空糸膜束の充填率が高いモジュールの生産においても、ポッティング材が十分に膜間等に浸透し、かつ注入、遠心に時間を要することのない、効率的な中空糸膜モジュールの製造方法及びかかる方法によって生産された中空糸膜モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.混合粘度が1000mPa・s以下でかつゲル化時間が7分未満であるポッティング材により内蔵される中空糸膜両端部が固定されたことを特徴とする中空糸膜モジュール。
2.内部に液体が充填されていないことを特徴とする前記1に記載の中空糸膜モジュール。
3.中空糸膜の素材がポリスルホン及びポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする前記1または2に記載の中空糸膜モジュール。
4.中空糸膜中のポリビニルピロリドンの含有量が1.5重量%以上6重量%以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
5.中空糸膜の充填率が60%以上70%以下であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
6.該ポッティング材の素材がポリウレタン接着剤を含むことを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
7.長さ200mm以上350mm以下のケースに乾燥した中空糸膜を挿入して、混合粘度が1000mPa・s以下でかつゲル化時間が7分未満であるポッティング材を使用して遠心ポッティング法により中空糸膜端部を固定することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
8.該遠心ポッティング法において、遠心回転数が400rpm以上1000rpm未満でかつ遠心時間が7分以上10分未満であることを特徴とする前記7に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
9.該ポッティング材注入容器からケースへの注入速度が4.0g/sec以上10.0g/sec以下であることを特徴とする前記7または8に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
10.該遠心回転中の雰囲気温度が40℃以上であることを特徴とする前記7〜9のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
11.該ポッティング材注入容器を再使用することを特徴とする前記7〜10のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
12.中空糸膜の素材がポリスルホン及びポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする前記7〜11のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
13.該ポッティング材の素材がポリウレタン接着剤を含むことを特徴とする前記7〜12のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、乾燥した中空糸膜に対し、低粘度かつ速硬化性のポッティング材を用いて遠心ポッティング法を用いることにより、下記顕著な効果を得ることが可能となる。
【0012】
すなわち、第1の効果として、上記(2)の方法を用いることなく、上記(1)の遠心ポッティング法を用いた場合であっても、ノズル詰まりが生じにくくなり、連続化が可能となる。従来、多数の注入ノズルを必要とするところに問題があったが、ノズルを備えたポッティング材注入容器を繰り返し使用することが可能となるため、かかる問題も解決できる。
【0013】
また、第2の効果として、遠心ポッティング時に高遠心力を付与することで生じる中空糸膜の糸折れ、糸乱れを低減させることで中空糸膜の損傷が防止できるため、モジュール使用時の液漏れ(リーク)等の問題を未然に防止することが可能である。
【0014】
さらに、第3の効果として、従来の遠心ポッティング法では長い注入時間、遠心時間が必要であり、効率的ではなかったが、本発明における低粘度かつ速硬化性のポッティング材を用いる方法により、注入時間及び遠心時間を短縮できるため、効率的な生産が可能となる。また、低粘度ポッティング材はポッティング時に発泡しやすいという問題点があったが、乾燥した中空糸膜に対して用いることで、かかる問題も解決可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0016】
本発明における中空糸膜モジュールには、中空糸膜が内蔵されたモジュールの内部に液体が充填された、いわゆるウェットタイプと、内部に液体が充填されていない、いわゆるドライタイプもしくはセミドライタイプ(モイストタイプ)と呼ばれるものがある。後者は、すなわち、プラスチック等のケースと中空糸膜との間隙部及び中空糸膜内部に液体で満たされていない部分が有る中空糸膜モジュールである。
【0017】
本発明に係る中空糸膜モジュールの製造においては、ポッティング材により膜両端部を固定する際、乾燥した中空糸膜を用いる。特に、上記した内部に液体が充填されていないモイストタイプの中空糸膜モジュールを製造する際は、この様にポッティング時に中空糸膜が乾燥されていると、後の洗浄工程を省略化でき、好ましい。
【0018】
中空糸膜の製造においては、グリセリン等の孔径保持のための保湿剤等を含ませた状態、すなわち液体により湿潤させた状態で遠心ポッティングに供することが通常である。しかしながら、かかる状態で低粘度のポッティング材を用いると、ポッティング材の発泡や白濁が生じやすい。発泡した場合は、中空糸膜がつぶれるという問題が生じ、白濁した場合は、ポッティング層からポッティング材成分が溶出しやすくなり、事実上使用が不可能であった。ところが、本発明において、あらかじめ所定の孔径となるよう製造条件を調節した上で乾燥した中空糸膜を用いて低粘度ポッティング材を適用したところ、かかる問題が生じることなく、良好にポッティング可能であることが判明した。ここで、所定の孔径となるような製造条件の調節とは、例えば、後述するポリビニルピロリドン等の親水性高分子の製膜原液中における配合量を適宜調整すること等によって可能となる。従って、本発明に係る製造方法においては、中空糸膜の水分が管理されて、乾燥された状態となっていることが好ましく、ここで、乾燥した中空糸膜とは水分率1重量%未満の中空糸膜のことをいう。ここでいう水分率とは、中空糸膜を110℃で8時間以上乾燥させて(絶乾)、乾燥後の中空糸膜の重量から水分量を求め、以下の式から水分率を求めるものである。
【0019】
水分率=(中空糸膜の水分量/絶乾前の中空糸膜の重量)×100 [%]
なお、中空糸膜を乾燥させた状態で遠心ポッティングさせる方法は、その後の洗浄工程が省略化されるため、上記ドライタイプもしくはセミドライタイプの中空糸膜モジュールの製法に適した方法である。また、乾燥させた状態の中空糸膜は、熱をかけることよりクリンプと呼ばれる波形の形状を付与することもできるという利点がある。
【0020】
本発明に用いるポッティング材は低粘度かつ速硬化性のポッティング材であり、日本ポリウレタン社製、三洋化成社製の製品等が用いられる。混合粘度は、1000mPa・s以下のものが用いられ、好適には800mPa・s以下のものが用いられる。ここでいう混合粘度とは主剤及び硬化剤(もしくはこれらに相当する成分)とを25℃において混合を終了してから1分後の粘度をいう。混合粘度が1000mPa・sを超える場合、第1に注入ノズル等においてポッティング材が詰まる問題があり、第2に遠心ポッティング法において高遠心力を要するため、中空糸膜が損傷する問題があり、また第3にポッティング材が中空糸膜間を気密にシールし難いという問題点がある。一方で、粘度が低すぎると、中空糸膜の孔からポッティング材が浸透してしまい、中空部分が埋まり、不通糸となる場合があるため、混合粘度は10mPa・s以上であることが望ましい。ただし、低粘度のため、主剤と硬化剤を混合する際に、泡がかみ込みやすいため、主剤及び硬化剤を真空脱泡してから混合することが望ましい。脱泡せずに混合すると、かみこむ泡が多くなり、硬化した際に、微小気泡が残存することがあり、外観上好ましくない。また、ポッティング材を25℃において混合を終了してからからその粘度が50000mPa・sに達するまでの時間(ゲル化時間)が7分未満のものが用いられ、好適には6分以内のものが用いられる。すなわち、ゲル化時間が速いため、硬化するまでの時間も速く、通常は1時間で硬化を終了することができ、生産を効率的にできる。なお、粘度の測定は、例えば、雰囲気温度、主剤及び硬化剤の温度を全て25℃とし、所定量を計量後、600rpmの回転速度で回転する攪拌機で1分間攪拌混合した後、BL型粘度計等を使用することによって可能である。
【0021】
図1は中空糸膜モジュールの一例を示す概略縦断面図である。
【0022】
図1において、1は筒状ケースであり、該筒状ケース1の内部には端部がポッティング材により封止された中空糸膜束2が挿入されており、中空糸膜束2の両端部において筒状ケース1の内壁に前記中空糸膜束2を固定している隔壁3(ポッティング材の層)を有している。さらに、筒状ケース1の両端部に被処理液体(血液等)が導入・排出されるヘッダー4が取り付けられている。また筒状ケースの両端付近側方に処理液体の導入・排出に用いられるノズル5が配されている。ポッティングの際は、図1に示すように1本づつのモジュールについて実施してもよいが、複数本のモジュールを一度にポッティングすれば効率的に生産することができる。なお、筒状ケース及びヘッダーの材質としては、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどが好ましい。また、中空糸膜の材質としては、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、セルロース、セルローストリアセテートなどが好ましい。ただし、例えばポリスルホンのような疎水性高分子のみで透析等に用いる中空糸膜を作った場合、孔径のコントロールが難しいだけでなく、疎水性のために血小板などの血液成分が付着することがあり、血液適合性がよくない。従って、親水性高分子をともに用いることで、上記問題の解決が可能である。具体的には、予め親水性高分子を造孔剤として製膜原液中に混入し、脱離させてポアを形成後、残った親水性成分で同時にポリマー表面を親水化するなどして、これを中空糸膜として用いることができる。
【0023】
かかる親水性高分子としては、例えばポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが用いられ、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。工業的にも比較的入手しやすく、臨床実績があり、血液適合性が高い点からポリビニルピロリドンが好ましい。
【0024】
さらに、この様な中空糸膜に含まれるポリビニルピロリドンの含有量については、1.5重量%以上6重量%以下であることが好ましい。6重量%を超えるとポリビニルピロリドンが架橋した状態であっても溶出する可能性がある。また、1.5重量%を下回ると中空糸膜の血液適合性が低下することがある。この含有量は元素分析などの公知の方法により確認することができる。
【0025】
また、中空糸膜のモジュール内における充填率については、以下の式で求められる。
充填率(%)= A/B×100
A:ケース本体の一横断面における中空糸膜の横断面積(中空部分を含む)の総和
B:ケース本体の横断面積
充填率が高いほど、同一性能を発揮するためのモジュールをスリム化・コンパクト化可能であり、取り扱い性が向上するメリットがあるが、高すぎると、中空糸膜束をケース内に挿入する工程でトラブルが生じることがある。従って、充填率は60%以上70%以下であることが望ましい。
【0026】
また、中空糸膜の構造については、断面の孔の分布が均一な対称膜と中空糸膜内側に緻密層を有する非対称膜があるが、低粘度のポッティング材を用いるため、より孔径の小さい緻密層を有する非対称膜で使用されることが望ましい。対称膜の場合には、低粘度ポッティング材が内部まで浸透してしまい、内径部分を塞いで不通糸となることがある。
【0027】
図2は本発明におけるポッティング材注入容器の使用形態の一例である。図1に示した中空糸膜モジュールの製造時において、モジュールケースを遠心回転させながらポッティング材を注入する際に、先ず筒状ケース両端部に注型キャップ6を取り付け、ポッティング材注入容器7、注入ノズル8を処理液体用ノズル5に挿入する。主剤及び硬化剤を攪拌機によって混合したポッティング材は、モジュール及びポッティング材注入容器7を図2に示す破線を軸として遠心回転させながら、注入ノズル8よりモジュールに注入される。なお、本発明で言うポッティング材とは、ポリウレタン接着剤、エポキシ系接着剤等の硬化性樹脂を意味する。特にポリウレタン接着剤が好ましい。
【0028】
図3において、筒状ケース1内に注入されたポッティング材は、モジュールケースの回転による遠心力によって筒状ケースの端部方向に移動する。本発明においては、混合粘度が1000mPa・s以下のポッティング材を用いることにより、遠心回転数を1000rpm未満とすることが可能である。血液透析器の場合には200mm〜350mmの長さのケースが用いられるところ、かかる長さのケースを用いて1000rpm以上の高回転数で回転させると中空糸膜が折れたり、糸束が乱れたりして、リークにつながることがある。一方で、かかる遠心回転数の下限としては400rpm以上が好ましい。これより低回転数では、遠心力が弱く、注入されたポッティング材が重力によって液だれしてしまい、うまく端部に偏らないことがある。上記範囲の遠心回転数で遠心回転させると、流路9を流れるポッティング材は、低粘度であるため、迅速に流れ込み、筒状ケースの端部にてポッティングされる。遠心回転数のより好ましい範囲は、500rpm以上、800rpm以下である。ここでいう遠心時間について、遠心を開始した後、遠心させながらポッティング材を注入し、注入が終了した時間をスタート時間とし、ポッティング後、ブレーキにより遠心回転数を下げ、遠心回転数がゼロになった時間を終了時間とする。遠心時間については7分未満であるとポッティング材が完全に硬化しないので、液だれが生じる可能性がある。また10分以上では十分硬化はしているが、生産上効率的でないため好ましくない。その際、ポッティング材の注入ノズルからの注入速度が速くなり過ぎると、滞留が起こって、筒状ケースの処理液体用ノズル内部に浸透し、ノズル内壁が汚染される可能性がある。この観点から注入速度は10.0g/sec以下が好ましい。一方、注入速度が4.0g/secを下回る注入速度では、生産効率が悪くなり、好ましくない。注入速度のより好ましい範囲は、6.0g/sec以上、8.0g/sec以下である。
【0029】
また、遠心回転によるポッティング時の雰囲気温度については40℃以上であることが好ましい。40℃未満の場合には、注型キャップの接触しているポッティング材の面10に加温不良が原因と考えられるくぼみが見られることがある。
【0030】
ポッティング材注入ノズルと筒状ケースの処理液体用ノズル(注入口)との嵌合は密とすることが望まれる。密でなく、隙間があるとポッティング材注入容器が浮き上がって筒状ケースの処理液体用ノズル内部が汚染されたり、隙間からポッティング材が染み上がってきて筒状ケースの処理液体用ノズル内部が汚染されることがある。
【0031】
本発明に使用するポッティング材注入ノズルを備えたポッティング材注入容器は直接筒状ケースの注入口に挿入して、挿入したまま遠心ポッティング法によりポッティング材が注入される。ポッティング材注入容器は所定時間遠心された後、取り外され、再度使用される。
【0032】
ポッティング材注入容器を繰り返し使用する場合は、ノズルの外側に付着したポッティング材の小片を取り除いてから使用する必要がある。そのまま使用すると、挿入時に筒状ケースの処理液体用ノズルの内部が汚染される可能性がある。注入ノズルに付着したポッティング材の除去は人手により容易に可能であり、また、機械的な手段による除去も可能である。ポッティング材の除去はノズル外側だけでよく、内側については、繰り返し使用してもノズル詰まりもないため、除去する必要はない。
【0033】
また、製造工程において、ポッティングされたモジュール内の中空糸膜がリークを起こすか否かを判定するリークテストをする際は、中空糸膜が乾燥した状態では困難であるため、水等の液体で中空糸膜を濡らした状態で行う。また、放射線滅菌により中空糸膜中に含まれているポリビニルピロリドンが架橋され、溶出を防ぐことができるが、放射線照射時は、中空糸膜が水に濡れた状態でかつ窒素のような不活性ガスを封入した状態で行うことが好ましい。特に、酸素の存在下ではポリビニルピロリドンが架橋されないことがあるため、酸素濃度を2%以下とすることが望ましい。
【0034】
本発明の中空糸膜モジュールの製造方法は、人工透析、血液濾過に必要な血液処理器、浄水器等に用いられる中空糸膜モジュールの製造に好適に用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
粘度の測定
粘度の測定は、雰囲気温度、主剤及び硬化剤の温度を全て25℃とし、所定の容器により所定量を計量して、600rpmの回転速度で回転する攪拌機で攪拌して均一になった時点から1分間攪拌混合させた後、BL型粘度計のNo.4ローターを使用して粘度を測定した。ローター回転数は10000mPa・sまでは60rpm、それ以降は12rpmで測定を行った。
ポリビニルピロリドン含有量の測定
中空糸膜中のポリビニルピロリドン量は、元素分析により求めた。すなわち、乾燥した中空糸膜0.2〜0.5mgを横型反応炉(800〜950℃)で気化・酸化させ、生成した一酸化窒素を化学発光法で測定した(装置は三菱化学製TN−10を使用)。定量は予め、含窒素ポリマーの標準物で作成した検量線により計算した。
実施例1〜7、比較例1〜3
ポリスルホン(テイジンアモコ社製”ユーデル”P−3500)16重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)4重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K90)2重量部をジメチルアセトアミド77重量部、水1重量部に加え、90℃で14時間加熱溶解した。この製膜原液を外側の内径0.3mm、内側の内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金から芯液としてジメチルアセトアミド64重量部、水36重量部からなる溶液を吐出させ、乾式長350mmの空間を通過させた後、ジメチルアセトアミド20重量%、水80重量%からなる溶液を充填した凝固浴、水を充填した水洗浴、90℃の温水浴、乾燥処理装置を順に通過させた。次いで、クリンパロールを用いて振幅が2.3mm、波長が32mmとなるように中空糸膜にクリンプと呼ばれる一定周期の波形形状を付与した。なお、中空糸膜中に含まれるポリビニルピロリドンの含有量は2.1重量%であった。
【0036】
次に端部の封止された上記のポリスルホン及びポリビニルピロリドンからなる乾燥状態の中空糸膜(外径280μm、膜厚40μm、非対称膜)を9500本束ね、表1に示す長さのポリプロピレン製の筒状ケースに挿入し(充填率63%)、両端に成型用の注型キャップを取り付けた。ポッティング材注入容器7はポリプロピレン製とし、ポッティング材注入容器の注入ノズル8を処理液体(透析液)用ノズル5に挿入し、表1に示す回転数にてポッティング材注入容器の取り付けられたケースを回転させつつ、主剤及び硬化剤をそれぞれ真空脱泡した、表1に示す混合粘度及びゲル化時間のポッティング材を構成する主剤及び硬化剤(ポリウレタン接着剤、日本ポリウレタン社製)を混合ミキサーを用いて混合し、表1に示す注入速度、遠心回転数、雰囲気温度下でそれぞれ注入、遠心を行った。なお、遠心時間はミキサーによる注入終了時点から、遠心回転数がゼロになるまでとした。遠心回転を止め、ポッティング材注入容器を取り外した後、中空糸膜束が筒状ケースに接着・固定されたモジュールを各実施例、比較例あたり6本作製し、不良の有無の評価を行った。実験の条件及び結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例8
実施例3で遠心ポッティングを実施した後、ポッティング材注入容器のノズル外壁に付着していたポッティング材を除去した後、再度、実施例3と同じ条件で遠心ポッティングを行い、中空糸膜モジュール6本を作製した。ポッティング材注入容器のノズルの詰まりはなく、再度遠心ポッティングに使用することが可能であった。続いて、同条件で繰り返し15回の遠心ポッティングを行ったが、ノズルの詰まりはなく、遠心ポッティング法に使用することが可能であった。なお、注入ノズル内径は6.2mmであった。
比較例4
グリセリン含有液で乾燥防止され、端部の封止されたポリスルホン及びポリビニルピロリドンからなる中空糸膜(外径280μm、膜厚40μm、非対称膜)を9500本束ね、表1に示す長さのポリプロピレン製の筒状ケースに挿入(充填率55%)し、両端に成型用の注型キャップを取り付けた。ポッティング材注入容器7はポリプロピレン製とし、ポッティング材注入容器の注入ノズル8を処理液体(透析液)用ノズル5に挿入し、表1に示す回転数にてポッティング材注入容器の取り付けられたケースを回転させつつ、表1に示す混合粘度及びゲル化時間のポッティング材(ポリウレタン接着剤、日本ポリウレタン社製)を混合ミキサーを用いて表1に示す注入速度、遠心回転数、雰囲気温度下でそれぞれ注入、遠心を行った。遠心回転を止め、ポッティング材注入容器を取り外した後、中空糸膜束が筒状ケースに接着・固定されたモジュールを各実施例、比較例あたり6本作製し、不良の有無の評価を行った。結果を表1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の1つの実施形態に係る中空糸膜モジュールの概略縦断面図を示すものである。
【図2】図1に示した中空糸膜モジュールにおいて、ポッティング材の注入状態を表した概略縦断面図である。
【図3】図2と同じく、中空糸膜モジュールにおいて、ポッティング材の注入状態を表した拡大概略断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1:筒状ケース
2:中空糸膜束
3:隔壁
4:液体が導入、排出されるヘッダー
5:処理液体の導入、排出に用いられるノズル
6:注型キャップ
7:ポッティング材注入容器
8:注入ノズル
9:ポッティング材流路
10:注型キャップの接触しているポッティング材の面
11:ポッティング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合粘度が1000mPa・s以下でかつゲル化時間が7分未満であるポッティング材により内蔵される中空糸膜両端部が固定されたことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
内部に液体が充填されていないことを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
中空糸膜の素材がポリスルホン及びポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
中空糸膜中のポリビニルピロリドンの含有量が1.5重量%以上6重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
中空糸膜の充填率が60%以上70%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
該ポッティング材の素材がポリウレタン接着剤を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
長さ200mm以上350mm以下のケースに乾燥した中空糸膜を挿入して、混合粘度が1000mPa・s以下でかつゲル化時間が7分未満であるポッティング材を使用して遠心ポッティング法により中空糸膜端部を固定することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
該遠心ポッティング法において、遠心回転数が400rpm以上1000rpm未満でかつ遠心時間が7分以上10分未満であることを特徴とする請求項7に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項9】
該ポッティング材注入容器からケースへの注入速度が4.0g/sec以上10.0g/sec以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項10】
該遠心回転中の雰囲気温度が40℃以上であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項11】
該ポッティング材注入容器を再使用することを特徴とする請求項7〜10のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項12】
中空糸膜の素材がポリスルホン及びポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする請求項7〜11のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項13】
該ポッティング材の素材がポリウレタン接着剤を含むことを特徴とする請求項7〜12のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−200573(P2008−200573A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37500(P2007−37500)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】