説明

中空糸膜型医療用具のリークテスト方法

【課題】リークテストの実施後、中空糸膜及び中空糸膜周辺に残存する液体を乾燥除去する必要がなく、エネルギーや時間のロスが無く、上記乾燥除去に基づく性能変化のない中空糸膜型医療用具のリークテスト方法を提供する。
【解決手段】選択透過性を有する中空糸膜3を具備する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法であって、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコール類とを含むコート溶液を前記中空糸膜3にコートする工程と、前記中空糸膜3の気体の透過性を測定するリークテスト工程と、前記中空糸膜3に放射線を照射する照射滅菌工程とを有する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜型医療用具のリークテスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中空糸膜技術の医学への応用が進歩しており、慢性腎不全患者の血液透析療法に用いられる人工腎臓、患者の血漿を廃棄して新鮮凍結血漿やアルブミン溶液と置換する血漿交換療法に用いられる血漿分離器、患者の血漿中の高分子量物質を除去する二重濾過血漿交換療法に用いられる血漿分画器等において、中空糸膜型医療用具が多用されている。
【0003】
中空糸膜型医療用具には、容器に液体が充填され、中空糸膜が液体で完全に満たされた状態の製品(以下、ウェット製品ということがある)と、容器に液体は満たされず、ドライ(中空糸膜が殆ど液体を含まない)状態、又はセミドライ(中空糸膜が液体で湿潤されているが、飽和抱液率以上は抱液していない)状態の製品(以下、「ドライ製品」ということがある)とがある。
特に、ドライ製品は、寒冷地でも運搬中、保管中に凍結しにくく、製品自体が軽い等の利点を有している。
【0004】
中空糸膜型医療用具は、中空糸膜にピンホールがあると、中空糸膜で阻止したい物質が濾液側に漏れ出てしまうため、中空糸膜型医療用具を組立てる過程で、中空糸膜のリークテストを行う必要がある。
中空糸膜の気体の透過性が低い場合には、中空糸膜の一方の面に気体の圧力をかけ、気体が中空糸膜の他方の側に抜けていく速度により、中空糸膜のピンホールを判別できるが、近年の透水性能の高い中空糸膜を使った中空糸膜型医療用具の場合は、中空糸膜の気体透過性が非常に高いため、上記方法では、ピンホールの有無を判別できない。
【0005】
このため、透水性能が高く、気体透過性の高い中空糸膜のリークテストを行うために、中空糸膜を一旦液体で濡らし、ピンホールがなければ気体が殆ど透過しない状態にした上で、上記のリークテストを行う方法(例えば、特許文献1参照。)、または中空糸膜を完全に液体中に浸けた状態で、中空糸膜の中空部を気体で加圧し、中空糸膜から気泡が出るか出ないかでピンホールの有無を検出する方法(例えば、特許文献2参照。)が従来行われている。
【0006】
その他のリークテストとしては、着色性粒子を含有するガスを中空糸膜の内側に加圧導入して、着色粒子の漏れを検出する中空糸膜モジュールのリーク検査方法(例えば、特許文献3参照。)もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−238096号公報
【特許文献2】特開2003−190747号公報
【特許文献3】特開2009−183822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、中空糸膜型医療用具がドライ製品の場合、特許文献1、2に記載されている方法のように中空糸膜を液体で濡らす方法を適用すると、リークテストを実施した後、中空糸膜及び中空糸膜周辺に残っている液体を乾燥除去する必要があるため、熱エネルギーと時間を要するという大きな欠点を有している。
また、中空糸膜を一度濡らして乾燥するという工程、特に熱風乾燥を行うような工程を採用する場合は、中空糸膜の細孔の形態が変化し、平均孔径、孔径分布が変わり、透水性能、分画性能等を変化させるおそれがあるという問題もある。
また、特許文献3に記載されている方法によると、着色性粒子が中空糸膜モジュール内に残存してしまうため、医療用具には採用できないという問題もある。
【0009】
そこで本発明においては、前記ドライ製品としての中空糸膜型医療用具の問題点に鑑み、リークテストを実施した後、中空糸膜及び中空糸膜周辺に残っている液体を乾燥する必要がなく、エネルギーや時間のロスが無く、かかる乾燥処理に起因する性能変化が生じない中空糸膜型医療用具のリークテスト方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、選択透過性を有する中空糸膜に、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコール類とを含む溶液をコートし、気体の透過性を測定するリークテストを行い、その上で照射滅菌することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法を得るに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0011】
〔1〕
選択透過性を有する中空糸膜を具備する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法であって、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコール類とを含むコート溶液を、前記中空糸膜にコートする工程と、
前記中空糸膜の気体の透過性を測定するリークテスト工程と、
前記中空糸膜に放射線を照射する照射滅菌工程と、
を有する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0012】
〔2〕
前記多価アルコール類がグリセリンである前記〔1〕に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0013】
〔3〕
前記コート溶液中の前記多価アルコール類の濃度が40〜75質量%である前記〔1〕又は〔2〕に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0014】
〔4〕
前記放射線架橋性親水性高分子がポリビニルピロリドンである前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0015】
〔5〕
前記コート溶液中の前記放射線架橋性親水性高分子の濃度が0.01質量%以上1.0質量%未満である前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0016】
〔6〕
前記照射滅菌は、電子線を照射することにより行う前記〔1〕乃至〔5〕のいずれか一項に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0017】
〔7〕
前記照射滅菌工程においては、前記中空糸膜型医療用具を酸素吸収剤と共に、酸素不透過性滅菌袋で包装し、放射線を照射する前記〔1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0018】
〔8〕
前記中空糸膜が、疎水性高分子と親水性高分子とを含有している前記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【0019】
〔9〕
前記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一に記載のリークテスト方法によりリークテストされた中空糸膜型医療用具。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、中空糸膜及び中空糸膜周辺に残存する液体の乾燥処理を行う必要が無く、エネルギーや時間のロスが無く、上記乾燥処理に起因する性能変化の無い、中空糸膜型医療用具のリークテスト方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の中空糸膜型医療用具の一例の部分断面概略模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、図を参照して説明する。
本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0023】
〔中空糸膜型医療用具のリークテスト方法〕
本実施形態の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法は、選択透過性を有する中空糸膜を具備する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法であり、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコール類とを含むコート溶液を、前記中空糸膜にコートする工程と、前記中空糸膜の気体の透過性を測定するリークテスト工程と、前記中空糸膜に放射線を照射する照射滅菌工程とを有する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法である。
【0024】
図1に、本実施形態のリークテスト方法の対象となる中空糸膜型医療用具の部分断面概略模式図を示す。
なお、図1中に示す一点鎖線の右側部分においては、中空糸膜型医療用具の概略断面図を示し、一点鎖線の左側部分においては、中空糸膜型医療用具の概略側面図を示す。
中空糸膜型医療用具1は、筒状容器9の長手方向に沿って中空糸膜3の束が装填されており、中空糸膜3の内側と外側とを隔絶するように、中空糸膜3の束の両端部が、樹脂8により包埋され、筒状容器9の両端部に固定されている。
中空糸膜3の内側が開口された樹脂8の端面には、流体出入口となるノズル4、5をもつヘッダー2、2’が設けられている。
筒状容器9の側面には、少なくとも一つの、流体出入口となるポート6、7が設けられている。
中空糸膜3の内側とヘッダー内表面との間にできた第一の空間10と、中空糸膜3の外側と筒状容器内表面との間にできた第二の空間11を備えている。
【0025】
本実施形態のリークテスト方法の対象となる中空糸膜型医療用具としては、例えば、血液透析器、血液透析濾過器、血液濾過器、持続血液透析濾過器、持続血液濾過器、血漿分離器、血漿成分分画器、血漿成分吸着器、ウイルス除去器、血液濃縮器、血漿濃縮器、腹水濾過器、腹水濃縮器等が挙げられ、中空糸膜の持つ、濾過特性を利用した医療用具であれば対象となる。
【0026】
本実施形態のリークテスト方法の対象となる中空糸膜型医療用具を構成する選択透過性の中空糸膜としては、中空糸膜型医療用具が血液透析器、血液透析濾過器、血液濾過器、持続血液透析濾過器、持続血液濾過器、血液濃縮器、血漿濃縮器、腹水濃縮器等である場合には、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、エチレンビニルアルコール系、ポリメチルメタクリレート系、ポリスルホン系等の親水性、あるいは親水化した高分子よりなる透析膜が適用でき、中空糸膜型医療用具が、血漿分離器、血漿成分分離器、血漿成分吸着器、ウイルス除去器、腹水濾過器等である場合には、ポリエチレン系、エチレンビニルアルコール系、セルロールアセテート系、セルロース系、ポリスルホン系等の親水性、あるいは親水化した高分子よりなる血漿分離膜、血漿分画膜、ウイルス除去膜等が適用できる。
【0027】
本実施形態のリークテスト方法の対象となる中空糸膜型医療用具は、ドライタイプ及びセミドライタイプのいずれも含まれる。
これらは、筒状容器に液体は満たされず、ドライ状態又はセミドライ状態であるものを言うが、中空糸膜が、保持しきれないほどの溶液に浸っていない状態、即ち溶液の殆どが中空糸膜に保持されている状態であるものを言う。
【0028】
(K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコール類とを含むコート溶液を、前記中空糸膜にコートする工程)
<コート溶液>
コート溶液は、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコール類とを含んでいるものとする。
前記多価アルコール類とは、分子の中に複数のヒドロキシル基を有するアルコールのことを言う。例えば、グリセリン、エチレングリコール、グルシトール等が挙げられる。
多価アルコール類は、中空糸膜に浸み込むことができる程度の、比較的低分子量で、コート溶液である溶液、例えば水溶液に適度な粘度を与えられるものが好ましい。
多価アルコールが中空糸膜の膜壁に浸み込むことにより、中空糸膜における気体の透過性を大幅に低下させることができるので、中空糸膜がリークテストに好ましい状態になる。
多価アルコールの中でもグリセリン、エチレングリコールが好ましく、特にグリセリンが好ましい。
【0029】
中空糸膜型医療用具は、0℃以下の低温環境で保管される場合もあるため、このような低温条件下でもコート溶液が凍結しないものであることが好ましい。
コート溶液は、一部が選択透過性の中空糸膜に浸み込んで存在することとなる。例えば多価アルコールとしてのグリセリンを40〜75%含有する水溶液を用いることにより、低温条件下での凍結を防ぐことができる。
【0030】
前記K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子とは、水に可溶な親水性高分子であり、放射線の照射により架橋することにより水に対して不溶化する高分子であり、かつK値が25以上100未満であるものをいう。
なお、K値とは、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式に適用して計算される。
K=(1.5 logηrel −1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel +(c+1.5clogηrel21/2/(0.15c+0.003c2
ηrel: ポリビニルピロリドン水溶液の水に対する相対粘度
c : ポリビニルピロリドン水溶液中のポリビニルピロリドン濃度(%)
【0031】
例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレングリコール等の高分子が挙げられる。
特に、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールが、安全であり、中空糸膜へのコーティングを均一に行うことができる粘度を保つ観点から好ましく、ポリビニルピロリドンがより好ましい。
コート溶液のK値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子の濃度は、0.01質量%以上1.0質量%未満であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%未満であることがより好ましい。0.01%未満になると、後述するリークテストの結果を安定化し、再現性の良い結果を得ることが難しくなるので好ましくなく、1.0質量%以上になると、コート溶液の粘度が高くなりすぎて、中空糸膜へのコーティングが不均一になるので好ましくない。
コート溶液に含有されている放射線架橋性親水性高分子は、上述したようにK値が25以上100未満である。K値が大きい方がリークテストの結果を安定化し、再現性の良い結果を得易く、また架橋により水に不溶化し易いので好ましい。またK値が100より大きくなるとと水に溶かすのに時間を要し、溶液粘度が上がる傾向があり、取り扱いにくいので好ましくない。またK値が25未満になると、リークテストの結果の安定化、再現性が悪くなる傾向にあり、十分に架橋、不溶化しないので好ましくない。K値は30以上90未満が特に推奨できる。
【0032】
コート溶液は、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子を、多価アルコールと共に、水、有機溶媒等に溶解した溶液であるが、中空糸膜型医療用具の実使用前の洗浄を考慮すると水溶液であることが好ましい。
【0033】
<コート溶液を中空糸膜にコートする工程>
[中空糸膜]
中空糸膜は、機能として選択透過性を発揮するものであるが、その一部に選択透過性を発揮する「緻密層」を具備している構成であってもよい。
前記「選択透過性」とは、処理液中に含まれる高分子物質は透過させず、水や小分子物質のみ透過させる機能を言う。例えば、人工透析においては、体外へ排出したい水分は濾過するが、体に必要なアルブミンなどのタンパク質は濾過させない機能を言う。
また、緻密層の構造としては、例えば、中空糸膜の内表面近傍に存在し、外表面側よりも網目構造が密である構造が挙げられる。
中空糸膜あるいは前記緻密層は、疎水性高分子と親水性高分子とを構成成分として含んでいることが好ましい。
疎水性高分子とは、水に不溶な高分子物質であり、殆どのエンジニアリングプラスチックを使用できるが、例えば、ポリスルホン系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリフェニルエーテル系等の高分子が挙げられる。
特に、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンが好ましく、ポリスルホンがより好ましい。
親水性高分子とは、水に可溶な高分子物質であり、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレングリコール等の高分子が挙げられる。
特に、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールが好ましく、ポリビニルピロリドンがより好ましい。
【0034】
中空糸膜は、例えば、上記疎水性高分子に親水性高分子、必要に応じて添加剤を加えて、溶媒で溶解した紡糸原液を環状スリット口金から吐出し、同時に注入孔から内液を注入しながら、乾式部分を経た後凝固浴へ導く、という乾湿式法にて製膜できる。
【0035】
[コート方法]
上述したK値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコールとを含むコート溶液を、中空糸膜あるいは中空糸膜を構成する緻密層部分にコートする方法としては、コート溶液を、中空糸膜の内側(中空部)に通液する方法が採用できる。この方法により、中空糸膜の少なくとも内表面に、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコールとを含むコート溶液が接触する。余剰な溶液は気体等でフラッシュ(吹き飛ばし)したり、遠心力をかけて脱液したりする等の方法により除去できる。
【0036】
上述したように多価アルコールを含むコート溶液を、前記中空糸膜に含浸させることにより、中空糸膜の気体透過性を大幅に低下させることができるので、中空糸膜がリークテストに好ましい状態になるが、更に中空糸膜の気体透過性を下げ、リークテストの結果を安定化させるためには、中空糸膜の膜壁に入り込みにくい、25以上100未満のK値を持った放射線架橋性親水性高分子を中空糸膜にコートすることが必要である。これにより、後述するリークテストの結果が安定し、再現性の良い結果が得られる。
K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子を用いることにより、このような効果が得られる理由は、中空糸膜の緻密層部分の孔径斑、厚み斑などを、放射線架橋性親水性高分子がマスクするためであると考えられる。
【0037】
(気体の透過性を測定するリークテスト工程)
上述したように、中空糸膜、あるいは中空糸膜を構成する緻密層にコート溶液をコートした後、リークテストを行う。
リークテストとは、中空糸膜のピンホールの有無の検査を言う。
例えば、中空糸膜に気体の圧力を加えて、中空糸膜を透過する気体の速度を計測し、ピンホールの有無を判定する方法が挙げられる。
具体的な方法としては、中空糸膜の内部に、一定の空気圧をかけてから加圧を止めて配管、すなわち中空糸膜に気体の圧力を加える際、気体を中空糸膜内に導くための配管を閉じ、その後の中空糸膜の内部の圧力降下を測定する方法が一般的である。
【0038】
(照射滅菌工程)
上述のようにしてリークテストを行った後、中空糸膜を照射滅菌する。これにより、K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子は容易に架橋され、水に不溶になる。この結果、親水性高分子が血液などの体液に溶出することが防止される。
コート溶液中の多価アルコールは、中空糸膜型医療用具の使用前の洗浄により除去できるため、体液に溶出してくることを防止できる。
【0039】
照射滅菌とは、電子線、γ線等の放射線を照射することにより被照射物を滅菌することをいう。
特に、エネルギーが高く、短時間で滅菌が終了する電子線滅菌が特に好ましい。
滅菌するための照射線量は、10〜50kGyが好ましく、20〜35kGyがより好ましい。
【0040】
γ線を照射して滅菌する場合には、中空糸膜型医療用具を、酸素不透過性滅菌袋に、酸素吸収剤とともに包装し、被滅菌物の滅菌雰囲気の酸素を吸収してから滅菌することが、高分子鎖の切断を防ぎ、溶出物を低減させる上で好ましい。
電子線を照射して滅菌する場合には、被滅菌物の滅菌雰囲気は大気下でよいが、酸素を吸収してから滅菌する方が、溶出物を低減させる上でさらに好ましい。
酸素吸収剤は、脱酸素機能を有するものであれば限定されない。例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、没食子酸、ロンガリット、アスコルビン酸及び/又はその塩、ソルボース、グルコース、リグニン、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、第一鉄塩、鉄粉等の金属粉等を酸素吸収主剤とする脱酸素剤が挙げられる。
また、金属紛主剤の脱酸素剤には、酸化触媒として、必要に応じ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化ニッケル、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄等の金属ハロゲン化合物等の1種または2種以上を加えてもよい。
また、脱臭、消臭剤、その他の機能性フィラーを加えることも何ら制限を受けない。
さらに、脱酸素剤の形状は特に限定されず、例えば、粉状、粒状、塊状、シート状等のいずれでもよく、各種の酸素吸収剤組成物を熱可塑性樹脂に分散させたシート状又はフィルム状脱酸素剤であってもよい。
【0041】
上記酸素不透過性滅菌袋とは、微生物の透過を阻止するとともに、酸素の透過も実質的に阻止する滅菌袋である。
市販の滅菌袋用フィルムを用いることができ、放射線滅菌用のラミネートフィルムを使うことができる。
酸素の透過も実質的に阻止するとは、23℃/50%RHにおける酸素透過度が20cc/m2・day・atm以下であることが好ましく、より好ましくは、2.5cc/m2・day・atm以下であり、さらに好ましくは、1cc/m2・day・atm以下である。
酸素不透過性滅菌袋の材料については、保存上及びコスト的に有利な袋が好ましく、例えば、ポリ塩化ビニリデン製フィルムや、ポリビニルアルコール製フィルム、二軸延伸ポリビニルアルコール製フィルム、ポリ塩化ビニリデンコート二軸延伸ポリビニルアルコール製フィルム、ポリエステル/アルミニウム/ポリエチレンのラミネートシート、アルミ箔など容易に密封できる性質のものが好ましい。
これらの中でも、ポリエステル/アルミニウム/ポリエチレンのラミネートシート、すなわち外層がポリエステル、中間層がアルミニウム箔またはアルミニウム蒸着、内層がポリエチレンのラミネートシートがより好ましい。
【0042】
〔中空糸膜型医療用具〕
本実施形態のリークテスト方法を実施したことにより、例えば図1に示すような構成、すなわち所定の筒状容器の長手方向に沿って中空糸膜の束が装填されており、中空糸膜の内側と外側とを隔絶するように、中空糸膜の束の両端部が、樹脂により包埋され、筒状容器の両端部に固定されており、樹脂の端面には、流体出入口となるノズルをもつヘッダーが設けられており、筒状容器の側面には、少なくとも一つの流体出入口となるポートが設けられている中空糸膜型医療用具であって、従来において行われてきたリークテストで適用されてきた乾燥処理に起因する性能変化の懸念のない、医療分野において優れた選択透過性を発揮する中空糸膜型医療用具が得られる。
【実施例】
【0043】
以下、具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
先ず、実施例に用いた各種測定方法について説明する。
【0044】
〔気体の透過性を測定するリークテスト方法〕
コスモリーク試験機(COSMO AIR LEAK TESTER LS-1842 株式会社コスモ計器製)を用い、中空糸膜の内側に250kPaの圧力をかけ、2.5秒経過後に配管を閉じ、その後の3.5秒間の中空糸膜の内側の圧力変動(降下)を測定した。測定環境温度は25℃とした。
圧力降下が580Pa未満であれば、中空糸膜にはピンホールが無い、580Pa以上ならピンホール有りとする判断基準を用いた。
この判断基準は、下記実施例・比較例に用いた中空糸膜について、血液中のヘモグロビンが漏れるか、漏れないかを確認しながら求めた実験値である。
【0045】
〔ポリビニルピロリドン(PVP)溶出量の評価方法〕
中空糸膜型医療用具の中空糸膜の内側に、注射用蒸留水500mLを流速100mL/minで流し、その後、出口側を閉塞させ、同流速で注射用蒸留水500mLを中空糸膜の外表面側に限外ろ過させて洗浄し、その後、モジュール(中空糸膜型医療用具)内の注射用蒸留水を圧気で排出した。
次に、70℃に加温した注射用蒸留水300mLを、中空糸膜の内側に流速200mL/minで1Hr循環し、循環後、モジュール内の注射用蒸留水を全て回収し、これを抽出液とした。
液体クロマトグラフィー(RID−6A 島津製)、カラム(GF−710HQ Shodex製)にて抽出液のPVP濃度を求め、モジュールあたりのPVP溶出量に換算した。
PVPの溶出量は、5mg/モジュール以下であれば安全であると判断した。
【0046】
〔実施例1〕
ポリスルホン(ソルベイ・アドバンスド・ポリマーズ社製、P−1700)17質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製、K−85)4質量部、ジメチルアセトアミド(以下、DMAC)79質量部からなる均一な紡糸原液を作製した。
中空内液にはDMACの42%水溶液を用い、前記紡糸原液とともに、紡糸口金から吐出させた。
その際、乾燥後の膜厚を35μm、内径を185μmに合わせるように、紡糸原液及び中空内液の吐出量を調整した。
吐出した紡糸原液を50cm下方に設けた水よりなる60℃の凝固浴に浸漬し、30m/分の速度で凝固工程、水洗工程を通過させた後に乾燥機に導入し、160℃で乾燥後、クリンプを付与したポリスルホン系中空糸膜を巻き取った。
次に、巻き取った10000本の中空糸膜からなる束を、中空糸膜の有効膜面積が1.5m2となるように設計したプラスチック製筒状容器に装填し、その両端部をウレタン樹脂で接着固定し、両端面を切断して中空糸膜の開口端を形成した。
前記開口端から、コート溶液として、63w/w%のグリセリン(和光純薬工業(株)製 特級)水溶液に対し、0.1w/w%のポリビニルピロリドン(BASF社製、K−85)を溶解した溶液60mLを、5mm/sの速度で中空糸膜内に注入し、0.3MPaのエアーで10秒間フラッシュさせた後、両端部にヘッダーキャップを取り付けた。
これを50本用意し、上述したモジュール(中空糸膜型医療用具)の気体の透過性を測定するリークテスト方法にて3.5秒間の圧力変動を求めた。
その後、血液流出入側ノズルに栓を施し、電子線を30kGy照射して、有効膜面積1.5m2の中空糸膜型医療用具を得た。
測定結果は、圧力低下が456±9(標準偏差)Paであり、ピンホールありと判断された中空糸膜型医療用具はなかった。
電子線照射後の中空糸膜型医療用具につき、前記PVP溶出量の評価方法に従ってPVPの溶出量を測定したところ、PVP溶出量は、0.85mgであり、実用上十分に少ないことが分かった。
【0047】
〔実施例2〕
コート溶液として、63%のグリセリン(和光純薬工業(株)製 特級)水溶液に対し0.1w/w%のポリビニルピロリドン(和光純薬工業(株)製 K−30)を溶解した溶液を用いた。
その他の条件は、実施例1と同様にして中空糸膜型医療用具を作製した。
これを50本用意し、上述したリークテスト方法にて、3.5秒間の圧力変動を求めた。
測定結果は、圧力低下が462±10(標準偏差)Paであり、ピンホールありと判断された中空糸膜型医療用具はなかった。
電子線照射後の中空糸膜型医療用具につき、前記PVP溶出量の評価方法に従ってPVPの溶出量を測定した。PVP溶出量は、0.96mgであり、実用上十分に少ないことが分かった。
【0048】
〔実施例3〕
コート溶液として、63%のグリセリン(和光純薬工業(株)製 特級)水溶液に対し0.1w/w%のポリビニルピロリドン(和光純薬工業(株)製 K−90(K値100に相当する))を溶解した溶液を用いた。
その他の条件は、実施例1と同様にして中空糸膜型医療用具を作製した。
これを50本用意し、上述したリークテスト方法にて、3.5秒間の圧力変動を求めた。
測定結果は、圧力低下が459±10(標準偏差)Paであり、ピンホールありと判断された中空糸膜型医療用具はなかった。
電子線照射後の中空糸膜型医療用具につき、前記PVP溶出量の評価方法に従ってPVPの溶出量を測定した。PVP溶出量は0.91mgであり、実用上十分に少ないことが分かった。
【0049】
〔比較例1〕
コート溶液として、63%のグリセリン(和光純薬工業(株)製 特級)水溶液に対し0.1w/w%のポリビニルピロリドン(和光純薬工業(株)製 K−15(K値19に相当する))を溶解した溶液を用いた。
その他の条件は、実施例1と同様にして中空糸膜型医療用具を作製した。
これを50本用意し、上述したリークテスト方法にて、3.5秒間の圧力変動を求めた。
測定結果は、圧力低下が475±12(標準偏差)Paであり、ピンホールありと判断された中空糸膜型医療用具はなかったが、上記実施例1〜3に比べて圧力変動の値及び標準偏差の値がやや大きく、信頼性に劣っていることが分かった。
電子線照射後の中空糸膜型医療用具につき、前記PVP溶出量の評価方法に従ってPVPの溶出量を測定した。PVP溶出量は、1.50mgであり、上記実施例1〜3よりも多かった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法は、血液透析器、血液透析濾過器、血液濾過器、持続血液透析濾過器、持続血液濾過器、血液濃縮器、血漿濃縮器、腹水濃縮器、血漿分離器、血漿成分分離器、血漿成分吸着器、ウイルス除去器、腹水濾過器等の中空糸膜型医療用具の製造技術として、産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0051】
1 中空糸膜型医療用具
2、2’ ヘッダー
3 中空糸膜
4、5 ノズル
6、7 ポート
8 樹脂
9 筒状容器
10 第一の空間
11 第二の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択透過性を有する中空糸膜を具備する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法であって、
K値が25以上100未満の放射線架橋性親水性高分子と多価アルコール類とを含むコート溶液を、前記中空糸膜にコートする工程と、
前記中空糸膜の気体の透過性を測定するリークテスト工程と、
前記中空糸膜に放射線を照射する照射滅菌工程と、
を有する中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項2】
前記多価アルコール類がグリセリンである請求項1に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項3】
前記コート溶液中の前記多価アルコール類の濃度が40〜75質量%である請求項1又は2に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項4】
前記放射線架橋性親水性高分子がポリビニルピロリドンである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項5】
前記コート溶液中の前記放射線架橋性親水性高分子の濃度が0.01質量%以上1.0質量%未満である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項6】
前記照射滅菌は、電子線を照射することにより行う請求項1乃至5のいずれか一項に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項7】
前記照射滅菌工程においては、
前記中空糸膜型医療用具を酸素吸収剤と共に、酸素不透過性滅菌袋で包装し、放射線を照射する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項8】
前記中空糸膜が、
疎水性高分子と親水性高分子とを含有している請求項1乃至7のいずれか一項に記載の中空糸膜型医療用具のリークテスト方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のリークテスト方法によりリークテストされた中空糸膜型医療用具。

【図1】
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【公開番号】特開2011−193985(P2011−193985A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62902(P2010−62902)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】