説明

中空糸膜型熱交換器

【課題】本発明によって、冷媒が熱交換器から漏れることなく、小型、軽量な中空糸膜型熱交換器を提供することができる。
【解決手段】親水性基を有するポリマーを構成成分として含み、透水性が15mL/hr/mmHg/m以下の中空糸膜が内蔵されていることを特徴とする中空糸膜型熱交換器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜型熱交換器に関するものであり、自動車のエンジンの冷却装置用途や、パソコン、液晶プロジェクターなどの冷却装置用途として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、熱を一方の物質から他方の物質へ伝える機器の総称であり、近年において益々の軽量化、小型化が求められている。
【0003】
従来、管内部に冷媒を流して、冷媒の熱を管内から外部へ放出する熱交換器では、熱伝導率に優れた金属を管状に形成し、その管を蛇行させることや、或いは並列に複数並べ、冷媒をその内部で循環させるものが一般的である。さらには、金属管の外側に水を吹き付けて、水の蒸発潜熱を利用した冷却方法が開示されている(特許文献1)。なお、このような金属チューブを利用した熱交換器では、その放熱特性を向上するため、該金属チューブの放熱面積を大きくする目的で、フィン等を一体に形成することが行われている。しかし、このような金属製のものは、押し出し成型や溶接が必要であり、小型化には不向きである。
【0004】
そこで、金属チューブを微細な樹脂製のチューブにする試みがなされている(特許文献2)。しかしながら、冷媒にオイルなどを用いた場合、樹脂製のチューブでは、オイルが樹脂を浸透し、チューブの外に滲みだしてくることがあった。
【0005】
また、疎水性微多孔質中空糸膜を用いて、中空糸膜内部に水を通すことで、蒸発潜熱を利用する方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、このような疎水性の中空糸膜は、エアロックが発生しやすく、効率的に蒸発潜熱を利用できない。また、オイル系の冷媒を用いた場合には、上述のとおり、オイルが浸透し、中空糸膜の外に漏れることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53−13245号公報
【特許文献2】特開2006−132819号公報
【特許文献3】特開平4−278183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、小型化、軽量化が可能な樹脂製の中空糸膜型熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討を進めた結果、下記の(1)〜(7)の構成によって達成される。
(1)親水性基を有するポリマーを構成成分として含み、透水性が15mL/hr/mmHg/m以下の中空糸膜が内蔵されていることを特徴とする中空糸膜型熱交換器。
(2)前記親水性基を有するポリマーが、水溶性ポリマーである(1)に記載の中空糸膜型熱交換器。
(3)前記中空糸膜の内表面に親水性ポリマーが存在し、その量が10wt%以上である(1)または(2)に記載の中空糸膜型熱交換器。
(4)前記中空糸膜が疎水性ポリマーを構成成分として含む(1)〜(3)のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。
(5)前記中空糸膜の透水性が0.1mL/hr/mmHg/m以上である(1)〜(4)のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。
(6)前記水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコールおよびこれらの誘導体である(2)〜(5)のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。
(7)前記中空糸膜が、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ沸化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミドのいずれかを含んでいる(1)〜(6)のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、熱交換器の小型、軽量化が可能である。さらに、オイル系の冷媒を使用にした場合は、オイルが中空糸膜の外部に漏れ出さず、水系の冷媒を使用した場合は、蒸発潜熱を効率的に利用した冷却が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】オイル漏れ確認試験に関する説明図
【図2】熱交換試験に関する説明図
【図3】中空糸膜の内表面近傍の電子顕微鏡観察像
【発明を実施するための形態】
【0011】
中空糸膜型熱交換器では、冷媒が中空糸膜内空部を流れており、冷媒にシリコンオイルなどを用いる場合は、中空糸膜の外部に漏れないことが重要である。
【0012】
しかしながら、冷媒にシリコンオイルなどを用いると、使用条件によっては、オイルが膜を浸透し、中空糸膜内空部から外部へ漏れだすことがある。例えば、中空糸膜の素材が疎水性ポリマーであれば、シリコンオイルなどの疎水性液体は、溶解・拡散現象によって、中空糸膜外部への漏出が起こるものと考えられる。
【0013】
本発明者らは、親水性基を有するポリマーを構成成分として含む中空糸膜を使用することで、冷媒が中空糸外部に漏れないことを見出した。これは、親水性基がシリコンオイルなどのオイル系冷媒の溶解・拡散を抑制しているものと考えられる。親水性基を有するポリマーは、膜内表面、膜厚部分、膜外表面のいずれに存在しても良い。ただし、冷媒は中空糸内空部を流れるので、親水性基は内表面に存在していることが好ましい。
【0014】
なお、中空糸膜に親水性ポリマーが含まれていても、多孔質構造であった場合に、その孔径が大きいと、当然のことながら、冷媒は漏れだしてしまう。孔径と中空糸膜の透水性は、ある程度相関し、本発明においては、中空糸膜の透水性が15mL/hr/mmHg/m以下であることが必要であり、さらには10mL/hr/mmHg/m以下であることが好ましいことを見出した。
【0015】
親水性基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボキシレート基、チオール基、スルホネート基、サルフェート基、ホスフェート基、ヒドロキシポリエチレンオキシ官能基、ピロリドン基などが挙げられる。
【0016】
中空糸膜への親水性基の導入としては、親水性基を有さないポリマーで中空糸膜成型後、プラズマ処理、放射線グラフト化、化学修飾などの処理によって達成することができる。また、中空糸膜の製膜原液に親水性基を有するポリマー(親水性ポリマー)を添加することで、中空糸膜に親水性ポリマーを残存させることも可能である。親水性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量が3000以上、好ましくは1万以上が中空糸膜に残存しやすい。
【0017】
親水性ポリマーとはポリマー主鎖もしくは側鎖に親水性の官能基を含む高分子のことを指す。親水性の官能基とは、極性の高いまたは電荷を有する官能基であり、水酸基、ピロリドン基、アミノ基、カルボキシル基などであり、親水性ポリマーとしては具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカプロラクタムなどが挙げられる。さらに、これらと他のモノマーとの共重合体や、グラフト重合体などが挙げられる。例えば、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合ポリマーなども好適に用いられる。
【0018】
中でも、取り扱い性などの観点から、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレートが好適に用いられる。親水性ポリマーの分子量としては、表面を効果的に覆うために、重量平均分子量が3000以上、好ましくは1万以上である。
【0019】
中空糸膜内表面の親水性ポリマー量は、前述した理由から10wt%以上、さらには20wt%以上であることが好ましい。また多すぎた場合には、親水性ポリマーが溶出してくることがあるために、中空糸膜内表面の親水性ポリマー量は、60wt%以下、さらには50wt%以下が好ましい。なお、表面の親水性ポリマー量は、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定することができる。
【0020】
また、親水性ポリマーの中でも特に親水性の度合いが高い場合に、水に可溶となり、水溶性ポリマーと呼ばれる。本発明においては、25℃の水に対する溶解度が1重量%以上のものを水溶性ポリマーと呼ぶ。水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体や、ビニルピロリドンとスチレンの共重合体などが挙げられる。水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコールなどが好適に用いられる。
【0021】
水溶性ポリマーは、本発明において、好適に用いられる。しかしながら、水溶性ポリマーは、中空糸膜に成型が困難である。そのために、ある程度の機械的強度、耐熱性を有する疎水性ポリマーとブレンドすることが好ましい。
【0022】
疎水性ポリマーとはポリマー主鎖もしくは側鎖に親水性の官能基を含まない高分子であり、水へ溶解しないポリマーのことを指す。疎水性ポリマーとしては、ポリスルホン系ポリマー、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ沸化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミドなどが挙げられる。また、これらの共重合体でも良い。疎水性ポリマーとしては、ポリスルホン系ポリマーが好適に用いられる。
【0023】
ポリスルホン系ポリマーは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基を持つもので、例えば、次式(1)および/または(2)の化学式で示されるポリスルホンが好適に使用される。式中のnは、50〜80が好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
ポリスルホンの具体例としては、ユーデル(登録商標)ポリスルホンP−1700、P−3500(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)、ウルトラソン(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(登録商標)(住友化学)、レーデル(登録商標)A(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)、ウルトラソン(登録商標)E(BASF社製)等のポリスルホンが挙げられる。また、本発明で用いられるポリスルホンは上記式(1)および/または(2)で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していても良い。他の共重合モノマーは10重量%以下であることが好ましい。
【0026】
また、中空糸膜が多孔質構造であれば、冷媒が水系のときに、蒸発潜熱を利用することができる。多孔質構造の細孔径が小さいと、水が膜を透過できないので、蒸発潜熱は利用できない。また、上述したように、細孔径が大きいと、水滴として膜の外側に漏れだす。したがって、ある程度の細孔径であれば、水分子が親水性基を伝って、中空糸膜内部から外部へ水が浸透し蒸発する。蒸発潜熱により効率的に中空糸膜内部の水が冷却されるので好ましいといえる。
【0027】
さらに、中空糸膜が多孔質構造であっても、細孔径がある程度以下の大きさであれば、オイル系の溶媒でも中空糸膜の外側に漏れ出すことなく用いることができる。多孔質にすることと、オイル系冷媒の浸透抑制は、一見、矛盾しているように見える。しかしながら、多孔質体の表面に親水性基が存在するために、膜厚部分も親水性となり、オイル系冷媒の膜への浸透抑制が達成されているものと考えられる。
【0028】
以上のことから、中空糸膜の透水性は0.01mL/hr/mmHg/m以上、さらには0.1mL/hr/mmHg/m以上あることが好ましく、上述のとおり、15mL/hr/mmHg/m以下であることが必要であり、さらには10mL/hr/mmHg/m以下であることが好ましい。
【0029】
多孔質体の表面に親水性基があれば、水系冷媒を用いた場合、上述したように水分子が中空糸膜内部から外部へ移動しやすいことから、蒸発潜熱を利用した効率的な冷却が可能である。さらに、オイル系冷媒であれば、膜厚部分が親水性になることで、中空糸膜外部へのオイルの浸透を、より強く抑制することが可能となる。多孔質構造の表面に親水性基があるかどうかは、分析電子顕微鏡や、官能基と結合する染料で染色した後、電子顕微鏡観察することで確認できる。例えば、親水性ポリマーであるポリビニルピロリドンはRuOで染色できるので、中空糸膜断面試料をRuO染色後、透過型電子顕微鏡(TEM)観察すればよい。
【0030】
中空糸膜の作成方法としては、溶液紡糸や溶融紡糸などが挙げられる。
【0031】
例えば、溶液紡糸で、多孔質中空糸膜を作成する方法としては、以下のような方法が挙げられる。ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1〜1:5が好ましく、5:1〜1:1がより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた製膜原液(濃度は、10〜50重量%が好ましく、15〜40重量%がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に注入液を流し、乾式部を走行させた後、凝固浴へ導く。
【0032】
この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給をすることで、外表面近傍での相中空糸挙動を速め、多孔質膜の細孔径を拡大するが、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、細孔径が小さくなる。細孔径をコントロールする一例である。相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、80重量%以下、70重量%以下が好ましく、さらに60重量%以下の水溶液が好適に用いられる。
【0033】
このようにして得られた中空糸膜は、多孔質構造を有している。さらに、このような多孔質構造は、ポリスルホンとポリビニルピロリドンが相分離し、ポリビニルピロリドンが脱離して細孔となることで形成される。そのため、残存したポリビニルピロリドンは、多孔質体の表面を覆う形になる。
【0034】
なお、製膜後に中空糸膜を乾燥収縮させることで、細孔を小さくすることができる。細孔径をコントロールする一例である。乾燥条件としては、乾燥前の中空糸膜の細孔径にも依存するが、温度は50℃以上、好ましくは60℃以上、湿度は40RH%以下、好ましくは30RH%以下である。乾燥前の中空糸膜の透水性は1000mL/hr/mmHg/m以下、さらには800mL/hr/mmHg/m以下が好ましい。
【0035】
また、架橋性のモノマーもしくはポリマーを中空糸膜の膜厚部分に浸漬させた後、それらのモノマーもしくはポリマーと膜を架橋反応させることで、細孔径を狭小化させることも好ましい方法である。
【0036】
内表面のポリビニルピロリドン量を多くするには、原液中のポリビニルピロリドン量を増やすことや、原液中のポリビニルピロリドンを高分子量タイプのものを用いることが挙げられる。重量平均分子量が5万以上のものが良い。また、注入液にポリビニルピロリドンを添加しても良い。
【0037】
内表面のポリビニルピロリドン量の測定は、XPS(X線光電子分光法)によって求めることができる。測定角としては90°で測った値を用いる。また、測定個所は3箇所の平均値を用いる。ポリビニルピロリドン由来の窒素量と、ポルスルホン由来の硫黄量の比から、ポリビニルピロリドン量を求めることができる。
【0038】
また、親水性ポリマーが高エネルギーによる架橋型のポリマーである場合、高エネルギー処理をすることは、架橋により、構造が固定化するので好ましい。ポリマー分子は運動ここで言うところの高エネルギーとは、加熱や放射線照射、例えばα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などを指す。照射線量としては5kGy以上、好ましくは15kGy以上が、架橋が起きるために好適である。一方で、照射線量が高すぎると分解反応が優勢になるので、100kGy以下、好ましくは50kGy以下である。
【0039】
なお、中空糸膜をモジュール化する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0040】
なお、中空糸膜の膜厚としては、薄すぎると耐久性などに問題が生じ、厚すぎると熱交換効率の低下に繋がる。従って5〜500μm、好ましくは10〜100μm、さらには20〜50μmが好ましい。
また、熱交換の効率の観点から、内径は1mm以下、好ましくは800μm以下、さらには500μm以下が好ましい。また、内径が小さすぎると紡糸性が悪くなることや、冷媒を流した際の圧力損失が大きくなることから、50μm以上、好ましくは100μm以上、さらには150μm以上が好ましい。
【0041】
筒状ケース内に挿入される中空糸膜の充填率は高すぎると、空気が流れにくくなるために熱交換効率が低下する。また、逆に充填率が低すぎると、冷媒の流量が少なくなるために熱交換効率が低下する。したがって、充填率は50%以下、好ましくは40%以下、さらには30%以下が好適であり、10%以上、さらには15%以上が好適である。ここで、充填率とは下記式で表される。
【0042】
【数1】

【0043】
また、中空糸膜開口部のケース断面積に比して、ケースの縦の長さ(中空糸長手方向)が長すぎると、熱交換効率が低下することから、ケースの縦の長さは、中空糸膜開口部のケース断面積の2.5倍以下、さらには2倍以下が好ましい。
【0044】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下実施例と比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定さ測定方法
(1)透水性試験
プラスチック管に中空糸膜を通して両端を接着剤で固定した有効長10cmのプラスチック管モジュールを作製(以下、ミニモジュール)し、中空糸膜の内側に水圧1.3×10Paをかけ、外側に流出してくる単位時間あたりの濾過量を測定した。透水性能は下記の式で算出した。
【0046】
透水性能(mL/hr/mmHg/m)=Q/(T×P×A)
ここで、Qは濾過量(mL)、Tは処理時間(hr)、Pは圧力(mmHg)、Aは中空糸膜の内表面積(m)を意味する。
【0047】
(2)表面親水性ポリマー量の測定
表面の親水性高分子量は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定した。測定装置としてESCALAB220iXLを用い、サンプルを装置にセットして、X線の入射角に対する検出器の角度は90度にて測定を行った。中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。
【0048】
親水性高分子がポリビニルピロリドン、基材がユーデル(登録商標)P−3500の場合には、ESCAの測定により得られた、C1s、N1s、S2pスペクトルの面積強度より、装置付属の相対感度係数を用いて窒素の表面量(a)と硫黄の表面量(b)を求め、下式より表面ポリビニルピロリドン量を算出した。
【0049】
表面ポリビニルピロリドン量(wt%)=a×100/(a×111+b×442)
(4)透過型電子顕微鏡観察
中空糸膜を四酸化ルテニウム(RuO)で2時間染色を行った後、エポキシ樹脂で包埋した。ミクロトームにて中空糸長手方向に対して垂直方向に中空糸長手方向の厚みが70nmとなるように輪切りにスライスした。このサンプルについて、内表面側および外表面側を、透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)を用いて、加速電圧100kVで観察を行った。観察倍率は1万倍で行った。
【0050】
(5)オイル漏れ確認試験
中空糸膜を10本束にして、有効長10cmのミニモジュールを作成し、図1のように、中空糸膜内部をシリコンオイル(KF−96,信越化学工業社製)2mL/minで通液させると同時に、中空糸膜の外側について0.03MPaで、圧空を流した。中空糸膜からのオイル漏れの有無を目視で10分間観察した。
【0051】
(6)熱交換試験
内寸で縦(中空糸長手方向)12cm、横6.4cm、奥行き1.2cm、空気を供するために直径5cmの孔が空いたケースに中空糸膜を適当な本数配置し、両端面をポッティングし固定化した(図2)。
【0052】
中空糸内部に冷媒として約50℃に加温したシリコンオイルまたは水を100ml/minの流量で流した。この時、中空糸膜モジュールに冷媒が入る直前と、中空糸膜モジュールから流れ出た直後の冷媒の温度(流路内部温度)を、熱伝対を用いて直接測定した。
【0053】
一方、中空糸膜モジュールの外部には25℃の圧空を出口側で1.5m/secの流速になるようにクロスフローで流した。また、下記式により単位時間当たりの交換熱量を求めた。
【0054】
Q=(T−T)×F×D×Hc
Q:交換熱量(W)
:中空糸膜入口の冷媒温度(K)
:中空糸膜出口の冷媒温度(K)
F:冷媒の流量(mL/sec)
D:冷媒の比重(g/mL)
Hc:冷媒の比熱(J/g/K)
(実施例1)
ポリスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ社製 Udel−P3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(インターナショナルスペシャルプロダクツ社;以下ISP社と略す)K30 3重量部、ポリビニルピロリドン(ISP社K90)6重量部をジメチルアセトアミド72重量部、水1重量部を加熱溶解し、製膜原液とした。
【0055】
この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド63重量部、水37重量部からなる溶液を吐出させ、中空糸膜を形成させた後、温度30℃、露点28℃の、350mmのドライゾーン雰囲気を経て、ジメチルアセトアミド20重量%、水80重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させ、水洗工程を得て中空糸膜を巻き取り束とした。
【0056】
該中空糸膜を70℃で乾熱乾燥(湿度10RH%以下)24時間乾燥収縮させた。中空糸膜の内径は200μm、膜厚40μmであった。該中空糸膜について、透水性を測定したところ2mL/hr/mmHg/mであった。内表面ポリビニルピロリドン量を測定したところ、33wt%であった。TEM観察を図3に示したように、ポルスルホンの周りに濃く染色されたポリビニルピロリドン層が認められた。また、オイル漏れ確認試験を実施したところ、オイルの漏れは確認されなかった。
【0057】
中空糸膜4000本をケースに内蔵させ、冷媒にシリコンオイル(KF−96,信越化学工業社製,比重0.95g/mL、比熱1.63J/g/K)を用いて熱交換試験を行った。その結果、入口温度は46℃で、出口温度は29℃、単位時間当たりの熱交換容量は91Wであった。一方で、冷媒に水(超純水,比重1g/mL、比熱4.18J/g/K)を用いて熱交換試験を行った。その結果、入口温度は52℃で、出口温度は32℃、単位時間当たりの熱交換容量は142Wであった。なお、水滴が膜から漏出してくることはなかった。
【0058】
(実施例2)
ポリエーテルスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)19重量部、ポリビニルピロリドン(ISP社製)K90 3重量部、ジメチルアセトアミド74重量部、水4重量部を加熱溶解し、製膜原液とした。
【0059】
この製膜原液を環状スリット部の外径0.3mm、内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金の外側の管より吐出した。注入液としてN,N’−ジメチルアセトアミド51重量部および水49重量部からなる溶液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は、乾式長350mm、温度29℃、相対湿度95%RHのドライゾーン雰囲気を通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、60〜75℃で90秒の水洗工程、130℃(乾熱、湿度10RH%以下)で2分の乾燥工程を通過させ、160℃のクリンプ工程を経て得られた中空糸膜を巻き取り束とした。中空糸膜の内径は200μm、膜厚は35μmであった。該中空糸膜について、透水性を測定したところ10mL/hr/mmHg/mであった。内表面ポリビニルピロリドン量を測定したところ、23wt%であった。
【0060】
中空糸膜4000本をケースに内蔵させ、冷媒にシリコンオイル(KF−96,信越化学工業社製,比重0.95g/mL、比熱1.63J/g/K)を用いて熱交換試験を行った。その結果、入口温度は44℃で、出口温度は26℃、単位時間当たりの熱交換容量は119Wであった。一方で、冷媒に水(超純水,比重1g/mL、比熱4.18J/g/K)を用いて熱交換試験を行った。その結果、入口温度は45℃で、出口温度は21℃、単位時間当たりの熱交換容量は198Wであった。なお、水滴が膜から漏出してくることはなかった。
【0061】
(実施例3)
ポリスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ社製 Udel−P3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(ISP社)K30 6重量部、ポリビニルピロリドン(ISP社)K90 3重量部をジメチルアセトアミド72重量部、水1重量部を加熱溶解し、製膜原液とした。
【0062】
ジメチルアセトアミド50重量部、水50重量部の溶液にビニルピロリドン/酢酸ビニル(6/4)共重合体(BASF社製、“コリドンVA64“)10重量部を溶解させて注入液とした。
【0063】
製膜原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、環状スリット部の外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から注入液を吐出させ、中空糸膜を形成させた後、温度30℃、露点28℃の、350mmのドライゾーン雰囲気を経て、ジメチルアセトアミド10重量%、水80重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させ、60〜75℃で90秒の水洗工程を得て中空糸膜を巻き取り束とした。
【0064】
該中空糸膜を50℃で乾熱乾燥(湿度10RH%以下)24時間乾燥収縮させた。中空糸膜の内径は210μm、膜厚40μmであった。該中空糸膜について、透水性を測定したところ1mL/hr/mmHg/mであった。内表面のビニルピロリドン量を測定したところ、30wt%であった。また、オイル漏れ確認試験を実施したところ、オイルの漏れは確認されなかった。
【0065】
中空糸膜3500本をケースに内蔵させ、冷媒にシリコンオイル(KF−96,信越化学工業社製,比重0.95g/mL、比熱1.63J/g/K)を用いて熱交換試験を行った。その結果、入口温度は46℃で、出口温度は41℃、単位時間当たりの熱交換容量は27Wであった。一方で、冷媒に水(超純水,比重1g/mL、比熱4.18J/g/K)を用いて熱交換試験を行った。その結果、入口温度は43℃で、出口温度は38℃、単位時間当たりの熱交換容量は41Wであった。なお、水滴が膜から漏出してくることはなかった。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様に中空糸膜を紡糸した後、40℃で24時間乾燥させた。該中空糸膜について、透水性を測定したところ、17mL/hr/mmHg/mであった。オイル漏れ確認試験を実施したところ、圧空を流してから1分以内に中空糸膜からオイルミストが出てくることが確認された。このため、熱交換試験は実施できなかった。
【0067】
(比較例2)
溶融紡糸にて内径300μmのポリプロピレンの中空糸膜を作成した。該中空糸膜は多孔質構造を有していなかった。透水性を測定したところ、0mL/hr/mmHg/mであった。オイル漏れ確認試験を実施したところ、圧空を流してから1分以内に中空糸膜からオイルミストが出てくることが確認された。このため、熱交換試験は実施できなかった。
【0068】
(比較例3)
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)18重量部、ジメチルアセトアミド82重量部を加熱溶解し、製膜原液とした。
【0069】
この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド55部、水45部からなる溶液を吐出させ、中空糸膜を形成させた後、温度30℃、露点28℃の、350mmのドライゾーン雰囲気を経て、ジメチルアセトアミド20重量%、水80重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させ、水洗工程を得て中空糸膜を巻き取り束とした。
【0070】
該中空糸膜を70℃で乾熱乾燥(湿度10RH%以下)24時間乾燥収縮させた。中空糸膜の内径は200μm、膜厚40μmであった。該中空糸膜について、透水性を測定したところ1mL/hr/mmHg/mであった。オイル漏れ確認試験を実施したところ、圧空を流してから1分以内に中空糸膜からオイルミストが出てくることが確認された。このため、熱交換試験は実施できなかった
【符号の説明】
【0071】
1 中空糸膜
2 圧空
3 シリコンオイル
4 冷媒
5 空気を供するためのケース開口部
6 空隙部分
7 ポリスルホン部分
8 ポリビニルピロリドン部分
9 中空糸膜の内表面側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基を有するポリマーを構成成分として含み、透水性が15mL/hr/mmHg/m以下の中空糸膜が内蔵されていることを特徴とする中空糸膜型熱交換器。
【請求項2】
前記親水性基を有するポリマーが、水溶性ポリマーである請求項1に記載の中空糸膜型熱交換器。
【請求項3】
前記中空糸膜の内表面に親水性ポリマーが存在し、その量が10wt%以上である請求項1または2に記載の中空糸膜型熱交換器。
【請求項4】
前記中空糸膜が疎水性ポリマーを構成成分として含む請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。
【請求項5】
前記中空糸膜の透水性が0.1mL/hr/mmHg/m以上である請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。
【請求項6】
前記水溶性ポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコールおよびこれらの誘導体である請求項2〜5のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。
【請求項7】
前記中空糸膜が、ポリスルホン系ポリマー、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ沸化ビニリデン、ポリエステル、ポリアミドのいずれかを含んでいる請求項1〜6のいずれかに記載の中空糸膜型熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−223576(P2010−223576A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39755(P2010−39755)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】