説明

丸編生地とインナー製品及び丸編生地の編成方法、並びに丸編ガーメント機

【課題】薄地でリバーシブル機能を持つインナー製品用の丸編生地を、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機によの成型編できるようにする。
【解決手段】ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機による成型編で、身頃や袖等の身編部1と、裾口、袖口等の口編部2とを有する丸編生地Aを、抜き糸用コース3を介して連続状に編成する際、口編部2を、消極送りで給糸して上下シリンダーの両頭針によるダブル編のリブ編組織で編成し、これに連続して、身編部1を、積極送りで給糸して下側シリンダーの針によるシングル編のベア天竺編組織で一体に編成する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種下着類、特には婦人用肌着等のインナー製品に好適に使用される丸編生地と、この丸編生地よりなるインナー製品、及びこの丸編生地の編成方法、並びに丸編ガーメント機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、婦人用肌着等の各種のインナー製品、例えば袖付きシャツやキャミソール等の上物及び五分スパッツその他の各種のインナー製品に使用される丸編生地は、筒胴型ボディサイズの丸編機にピース編方式を組込み、製品の身頃や袖等の身編部と、裾口や袖口等の口編部とを同一の編機上で自動的に組織を変更して一体に編成するとともに、製品毎に抜き糸用コースを入れて、編成後に、抜き糸により各製品に分離する方式の、いわゆる成型丸編機(丸編ガーメント機)を使用して編成することが多い(特許文献1)。
【0003】
この成型インナー製品用の丸編生地を、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機で成型編をするとき、身頃や袖等の身編部をシングル編の組織にすると、この身編部の編組織と、リブ編等のダブル編の組織よりなる裾口や袖口等の口編部の編組織とでは、糸の編み込み長に大きな差異が発生することになる。そのため、編成上の糸の給糸法としては、必然的に消極送りによる給糸法を採らざるを得ないことになる。
【0004】
さらに言えば、前記裾口や袖口等の口編部の編組織においても、審美性のある縁に見せるために、例えばリブ編組織と袋編組織等の糸の編み込み長さの異なる2種の編組織で構成されることが多く、それゆえ口編部の編成においては消極送りの給糸法を採用する必要があり、身編部の編成でも前記口編部の編成と同様に消極送りの給糸法を採用せざるを得ないものとされていた。
【0005】
従って、身編部の生地規格は、消極送りによる給糸法でも品質面で問題が生じない範囲の生地の選択を強いられているのが実情であり、多くは特許文献1にも記載されているように両頭針によるダブル編の組織である。例えば、表裏に異なる機能を持つリバーシブルな丸編生地を編成する場合には、ダブル編による組織を採用するしかなく、その結果、厚地にならざるを得ないものであった。
【0006】
ところで、近年の市場の嗜好、特に婦人用のおしゃれインナー等の婦人用下着、一般肌着等の成型インナー製品の消費者の嗜好は、着太りのしない薄地化に移行しつつあって、特に、婦人用のインナー製品においては、シングル編による薄手の編生地が要求されることが多くなっている。しかも、このインナー製品用の丸編生地は、その用途によっても異なるが、経緯に適度の締め付け感を与えるストレッチ機能のほかに、表裏の機能を使い分けできるリバーシブル機能を併有することも要求され、さらに、この生地が成型編(ガーメント編)によるものであることも求められている。
【0007】
従来の薄地のインナー製品は、丸編(流し編)、経編のカットソー、又は丸編の筒胴型の縫製品、又はそれに類する成型編機で編成したものが多く、裾口や袖口等の口編部については、異なる機能を持つ材料を縫合したり、折り返しを取って構成するのが一般的であり、そのため、インナー製品の口編ラインが外衣を通して現れる等、外観上の影響が大きく、この影響を解消することが求められている。
【特許文献1】特開2002−30549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなしたものであり、特にダブルシリンダー型の丸編ガーメント機による成型編により、市場や消費者の嗜好に応じた薄地のインナー製品用の丸編生地、さらにはリバーシブル機能を持つ丸編生地及び該生地を使用したインナー製品を提供するものであり、また、このような丸編生地を前記丸編ガーメント機による成型編することを可能にするための編成方法、並びにその編成のための丸編ガーメント機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機により成型編される丸編生地であって、上記の課題を解決するために、身頃や袖等の身編部がシングル編による組織で、裾口、袖口、肩口及び足口等の口編部がダブル編による組織で一体に編成されてなることを特徴とする。これにより、成型編によるものでありながら、適度にストレッチ機能を保有して、しかも薄地化の要求にも応える丸編生地となる。
【0010】
特には、前記身編部が、実質的に非伸縮性の繊維よりなる表糸及び裏糸と、弾性糸よりなる中糸との3種類の糸によりリバーシブルな3層構造をなすようにベア天竺編組織で編成され、また前記口編部が、前記3種類の糸を基本にして、弾性を有するカバードヤーンを加えた4種類の糸によりリブ編組織で編成されてなるものが好ましい。これにより、身編部が薄手の生地でありながら、表糸と裏糸の材質の差異により、リバーシブル機能を持つ丸編生地となり、しかも前記裾口や袖口等の口編部において、良好な伸縮機能を保有するとともに、編生地の安定性も高められる。
【0011】
したがって、前記の丸編生地よりなるインナー製品は、市場や消費者の嗜好に合った製品になる。
【0012】
また、本発明は、前記の丸編生地の編成方法として、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機による成型編で、身頃や袖等の身編部と、裾口、袖口、肩口及び足口等の口編部とを有する丸編生地を、抜き糸用コースを介して連続状に編成する際、前記口編部を、上下シリンダーの両頭針によるダブル編の組織で編成し、これに連続して前記身編部を、下側シリンダーの針によるシングル編の組織で一体に編成することを特徴とする。これにより、前記の薄地化の要求に応える丸編生地を編成できる。
【0013】
好ましくは、前記身編部の編成コースは、編機に設定された各給糸口において、実質的に非伸縮性の繊維よりなる表糸及び裏糸と、弾性糸よりなる中糸との3種類の糸を、積極送りでかつ一定の位置を保つようにして編針部分に給糸してリバーシブルな3層構造をなすようにベア天竺編組織で編成し、また前記口編部の編成コースは、編機に設定された給糸口のうち、奇数番目と偶数番目の一方の給糸口では前記身編部の3種類の糸に弾性を有するカバードヤーンを加えた4種類の糸を、他の給糸口では前記3種類の糸を、それぞれ消極送りで給糸してリブ編組織で編成する。
【0014】
これにより、ストレッチ機能を持ちながら構造的に安定したプレーティング性のよい身編部を編成でき、しかも表裏で機能を異にするリバーシブルな丸編生地を編成できる。また、該口編部の組織を基本的にリブ編組織にして、端縁部の数コースのみに袋編組織を採用する場合等のように、糸の編み込み長を異にする2種の組織で編成する場合も、消極送りの給糸法のために問題なく編成できる。
【0015】
さらに、本発明は、上記の丸編生地の編成に使用する丸編ガーメント機、特に、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機として、編機に設定された各給糸口への各糸の給送途中に、それぞれ各糸を巻回させて送りを制御するための送り用プーリーを含む糸送り装置を備えてなり、この糸送り装置には、前記プーリーに巻回されて送られる糸の押さえテープが該プーリー外周に対しその幅方向の一部を除いて対接するように設けられるとともに、前記プーリー外周に巻回される糸を前記押さえテープ部分と押さえテープ以外の部分とに選択的に導く導糸穴付きのフリッパーが設けられ、該フリッパーがこれに連結された進退駆動手段により変位動作させられることにより、前記糸が前記押さえテープ部分を通過する積極送りと、前記糸が前記押さえテープ以外の部分を通過する消極送りとを選択できるように構成されてなることを特徴とする。
【0016】
この丸編ガーメント機によれば、前記口編部を編成する際は、前記各糸送り装置のフリッパーの導糸穴に通された各糸を、前記送り用プーリー外周の前記押さえテープ以外の部分を通過させる状態に保持して消極送りにより給糸する。そして、この口編部から前記身編部の編成に移行する組織切替の際に、前記エアシリンダー等の進退駆動手段の作動により、前記フリッパーを変位動作させることにより、該フリッパーの導糸穴に通されている前記各糸を、前記送り用プーリー外周の前記押さえテープ部分を通過させる状態に瞬時に切り替えることができる。これにより、材質の異なる3種類の糸を積極送りで給糸しながらシングル編のベア天竺編組織の身編部を問題なく編成できる。そのため、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機による成型編により、上記したように身編部をシングル編した薄地の丸編生地を問題なく編成できる。
【0017】
また、本発明は、上記の丸編生地の編成に使用する丸編ガーメント機、特に、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機として、編機に設定された各給糸口には、少なくとも三つの糸道を有する糸道構成部材が回動する編針列の外周に近接して配置されてなり、この糸道構成部材の三つの糸道が、該糸道を通過する3種の糸の配列を一定に保った状態で編針に給糸するように設けられてなることを特徴とする。これにより身編部において、3種類の糸によるベア天竺編組織で表裏で機能を異にしたリバーシブルな丸編生地を問題なく編成できる。
【0018】
前記の丸編ガーメント機において、編機に設定された給糸口のうち、奇数番目と偶数番目のいずれか一方の給糸口に配置された糸道構成部材には、前記三つの糸道のほかに、該給糸口で追加される第4の糸を捕捉するためのヤーンキャッチャーが突出し得る第4の糸道兼用の長穴を設けておくことにより、口編部の編成において、リバーシブル機能を保持しながら、1コースおきに、第4の糸として弾性を有するカバードヤーンを編み込むことができる。
【発明の効果】
【0019】
上記したように、本発明によれば、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機による成型編により、市場及び消費者の嗜好や要求に応じた薄地のインナー製品用の丸編生地、さらにはリバーシブル機能を持つ丸編生地、及び該生地を使用した婦人用下着等の成型インナー製品を提供できる。
【0020】
また、本発明の丸編生地の編成方法によれば、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機による成型編において、身編部をシングル編のベア天竺編等の組織、裾口や袖口等の各口編部をダブル編のリブ編等の組織で問題なく一体に編成でき、前記丸編生地を効率良く編成し生産できる。特に、本発明の丸編ガーメント機を用いることにより、口編部は消極送りで、身編部は積極送りで給糸して編成でき、前記丸編生地の編成が問題なく可能になり、さらに、各給糸部において、3種の糸の配列を一定に保った状態で給糸できる糸道構成部材を利用することにより、該3種の糸によるベア天竺編組織で3層構造をなすように編成でき、リバーシブル機能を持つ丸編生地を編成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0022】
図1(a)はダブルシリンダー(上下釜)型の丸編ガーメント機により製品単体としての丸編生地Aを連続して編成した状態の連続状編地の略示平面図であり、同図(b)は前記の編成後、例えば染色等の仕上げ加工後に抜き糸により分離した製品単体の丸編生地Aの略示平面図である。図2はベア天竺編組織の編目一部の略示拡大図である。図3は同上の一つのループの拡大図である。図4はリブ編組織(a)と袋編組織(b)を示す組織図である。
【0023】
本発明の製品単体の丸編生地Aは、抜き糸分離方式の丸編ガーメント機、特にはリンクス・リンクス機とも称する上下二組の針を備えるダブルシリンダー型の丸編ガーメント機により成型編されてなるもので、製品における身頃や袖等の身編部1が、下側のシリンダー(下釜)の針によるシングル編の組織、特には図2に示すベア天竺編組織で、また製品における裾口、袖口、肩口および足口等の口編部2が、上下シリンダー(上下釜)の両頭針によるダブル編の組織、例えば図4(a)のリブ編組織(ゴム編組織)で一体に編成されてなる。通常、前記身編部1と口編部2とからなる製品単体の丸編生地Aは、図1(a)のように、切り離しのための抜き糸用コース3を介して数十枚以上の多数枚(例えば、50〜100枚)が連続して編成され、この連続状のまま染色、洗浄等の仕上げ加工に供された後、前記抜き糸の抜きにより図1(b)の単体の丸編生地Aに分離される。
【0024】
前記丸編生地Aの前記身編部1は、図3のように、実質的に非伸縮性の繊維よりなる表糸Y1及び裏糸Y3と、ストレッチ性を有するベアヤーンすなわちポリウレタン糸等の弾性糸よりなる中糸Y2との3種類の糸により3層構造をなすように前記ベア天竺編組織で編成され、表裏に現れる前記表糸Y1と裏糸Y3との材質の違いにより、リバーシブルの編地としての効果を呈するよう編成される。特に、前記表糸Y1と裏糸Y3とには材質を異にする糸を用いて編成される。また、ポリウレタン糸等の弾性糸を含む2種の糸、例えば前記表糸と弾性糸の2本でベア天竺編組織を編成した場合、生地にねじれが生じるおそれがあるが、前記のように、逆トルクの作用をする裏糸Y3を同時に編み込むことで、生地のねじれを抑制でき、プレーティング性を向上でき、さらに破壊強度も改良できることになる。
【0025】
また、前記口編部2は、前記3種類の糸Y1,Y2,Y3を基本にして、1コースおきに、ポリウレタン弾性糸を芯糸にした細いナイロン糸を一重巻きもしくは二重巻きした弾性を有するカバードヤーン(図示せず)をさらに加えた4種類の糸により例えば前記リブ編組織で編成され、伸縮機能の強化と編地組織の安定が図られる。この口編部2では、分離後の端縁の仕上がりをよくするため、編始め側の数コース、例えば2コースを図4(b)に示す袋編組織で編成した後、同図(a)のダブル編によるリブ編組織で編成するものとする。
【0026】
前記の丸編生地Aの編成方法について、使用する編機(ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機)の一部の改良構成とともに説明する。
【0027】
先ず、使用糸については、前記身編部1の編成に使用する3種類の糸のうち、表糸Y1及び裏糸Y3としては、ポリエステル、ナイロン、レーヨン等の長繊維タイプの糸、あるいはアクリル、ポリエステル、レーヨン、綿、麻、毛等の短繊維タイプの糸、その他の各種の合成繊維糸や天然繊維糸、あるいはこれらの混紡糸の中から、編成対象の製品に応じて多種多様に選択して使用できる。また、糸の太さについても、丸編生地よりなる製品の用途によっても異なるが、長繊維タイプの場合は22〜550dtexの糸、単繊維タイプの場合は綿番手表示で100/1〜10/1の糸、ポリウレタン糸等の弾性糸としては11〜220dtexの糸が用いられ、さらに第4の糸としての前記カバードヤーンとしては55〜550dtexの糸が好ましく用いられる。しかし、製品によっては前記範囲外の糸を使用することもあり得る。
【0028】
その一例を示すと、前記表糸Y1として、モダールマイクロソフト(シキボウ株式会社製)と称する60/1(綿番手)のレーヨンの紡績糸(Z撚)を、また前記裏糸Y3として、33dtexのウーリーナイロン加工糸(Z撚)を、また前記中糸Y2として、22dtexのポリウレタンの弾性糸(いわゆるベアヤーン)を用いる。さらに、口編部2の編成に使用する第4の糸である前記カバードヤーンとして、22dtexのポリウレタン弾性糸を芯糸にして、55dtexのナイロン繊維糸を一重巻きした総繊度77dtexのカバードヤーンを用いる。
【0029】
そして、ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機により本発明の丸編生地Aを編成する場合、通常、裾口や袖口等の口編部2の側から編始めて図1の矢印方向に編成し、この口編部2が編終れば、身頃や袖等の身編部1の編成に移行して編成し、さらに、この身編部1が編終われば、1もしくは数コースの抜き糸用コース3を介して、前記口編部2から身編部1に至る編成を繰り返して、図1(a)のように製品単体としての丸編生地Aを連続状に編成する。
【0030】
具体的には、前記口編部2の編成においては、前記丸編ガーメント機の上下シリンダー(上下釜)の両頭針を用いて、基本的にダブル編による編組織、例えば編み始めから数コース、好ましくは2コースを、図4(b)の袋編組織で編成し、その後は、図4(a)のリブ編組織で編成する。このリブ編組織の糸長は袋編組織の糸長より長く、両組織の糸長には約3倍近い差があるため、給糸法としては必然的に消極送りで給糸する必要がある。すなわち、この口編部2は各糸を消極送りで給糸して編成する。
【0031】
また、この口編部2の編成においては、該編機に備える4口、6口等の偶数口の各給糸口に配置した後述する糸道構成部材により、基本的に、材質を異にする前記表糸Y1、裏糸Y3、及び前記中糸Y2の3種類の糸を所定の配列で給糸するとともに、奇数番目と偶数番目のいずれか一方の給糸口では、前記口編部2の編成の際にのみ、前記3種類の糸のほかに第4の糸である前記カバードヤーンをも給糸するようにして編成し、前記リブ編組織の1コースおきに前記カバードヤーンを編み込むように編成する。
【0032】
こうして所定長(所定コース)の口編部2が編終わると、上下シリンダーを使用するダブル編によるリブ編組織から、下側シリンダーのみを使用するシングル編によるベア天竺編組織の編成に移行して、該身編部1の連続して一体に編成する。
【0033】
特に、この身編部1の編成の際は、編機に備える前記各給糸口から、前記表糸Y1、ベアヤーンの中糸Y2、裏糸Y3の3種類の糸を、後述する糸道構成部材により一定の位置を保つように下側シリンダーの編針部分に給糸して、前記のベア天竺編組織で3層構造をなすように編成する。
【0034】
また、前記表糸Y1、中糸Y2、裏糸Y3の3種類の各糸は、その材質の違いにより編成上のそれぞれのテンションも異なるため、給糸法としては前記各糸を個別に積極送りで給糸することが編成上必要不可欠の条件になる。そのため、この身編部1の編成では例えば後述する糸送り装置を用いて積極送りで給糸して編成する。このように、材質の異なる各糸を積極送りで給糸して編成することにより、3種類の糸Y1、Y2、Y3を前記配列を保持して三層構造をなすように問題なく編成できることになる。
【0035】
そして、前記身編部1が編終わると、抜き糸用コースの編成に移行し、数コースの抜き糸用コースを編成した後、上記と同様の口編部2及び身編部1の編成を順次繰り返し、身編部1と口編部2とを一体に編成した製品になる丸編生地Aを、切り離しのための抜き糸用コース3を介して多数枚連続状に編成する。この連続状編地は、染色、洗浄等の仕上げ加工に供した後、抜き糸により図1(b)の単体の丸編生地Aに分離する。
【0036】
上記の編成において、前記身編部1の編成時には、3種類の糸のテンションの差異のために各糸を積極送りで給糸し、また口編部2では袋編組織とリブ編組織の糸長の差のために各糸を消極送りで給糸するため、前記丸編生地Aの編成に使用する丸編ガーメント機としては、編機に設定された各給糸口への各糸の給送途中に、それぞれ積極送りと消極送りの切り替えが可能な糸送り装置を配設しておく。
【0037】
図5及び図6は積極送りと消極送りの切替を可能にした糸送り装置10の1例を示している。この糸送り装置10は、ローゼンタイプ(AIRO式)の糸送り装置の構成を基本とし、給送される糸Yを巻回して送りを制御するための送り用プーリー11と、該プーリー11の外周に接して該プーリー11に巻回されて送られる糸Yを押さえる押さえテープ12とを有してなる。前記送り用プーリー11は編機の運転に同期して回転するようになっている。
【0038】
特に、前記押さえテープ12は、前記プーリー11の外周における幅方向の一部、例えば略半部を除いて該プーリー11に対して対接するように設けられている。そして、前記プーリー11の外周に巻回される糸Yを、前記押さえテープ12の部分11aと押さえテープ12以外の部分11bとに選択的に導くための導糸穴13付きのフリッパー14が設けられている。このフリッパー14は、前記導糸穴13を有する側とは反対側の端部で前記プーリー11の幅方向(図の場合上下方向)に揺動可能に軸支されるとともに、該フリッパー14にエアシリンダー等の進退駆動手段15の出力軸15aが連結されて、該進退駆動手段15の進退作動によって揺動変位するように設けられており、この揺動変位により、前記導糸穴13に通糸された糸Yを、前記押さえテープ12の部分11aと押さえテープ12以外の部分11bとに選択的に導けるように設けられている。すなわち、前記進退駆動手段15の作動により、前記糸Yが前記押さえテープ12の部分11aを通過する積極送りと、前記糸Yが前記押さえテープ12以外の部分11bを通過する消極送りとを選択できるように構成されている。
【0039】
図中の16は前記フリッパー14の軸支部を示している。前記進退駆動手段15としては、瞬時に動作できるエアシリンダーが好適に用いられるが、これに限らず、他のシリンダー装置、あるいはソレノイド等を利用することもできる。
【0040】
したがって、本発明の丸編生地Aを編成する丸編ガーメント機において、その編成に使用する各糸の給送途中に、それぞれ前記の糸送り装置10を用いることより、前記口編部2の編成及び身編部1の編成に応じて給糸方式を切り替えることができる。
【0041】
例えば、糸長の異なる袋編組織とリブ編組織よりなる前記口編部2を編成する際は、前記各糸送り装置10のフリッパー14の導糸穴13に通糸した各糸Yを、前記送り用プーリー11外周の前記押さえテープ12以外の部分11bを通過させる状態に保持して消極送りにより給糸することができる。そして、この口編部2から前記身編部1の編成に移行する組織切替の際には、前記エアシリンダー等の進退駆動手段15の作動により、前記フリッパー14を揺動変位させることにより、該フリッパー14の導糸穴13に通されている前記各糸Yを、前記送り用プーリー11外周の前記押さえテープ12の部分11aを通過させる状態に瞬時に切り替えることができる。これにより、材質を異にする3種類の糸を使用する身編部1を、各糸を積極送りで給糸しながら、シングル編のベア天竺編組織で問題なく編成できることになる。またこれにより、各糸のテンションを均一化できて、編成中の編目の大きさの均一性、3種類の糸Y1、Y2、Y3の配列の安定性を高めることができる。
【0042】
また、前記身編部1のベア天竺編組織の編成においては、材質を異にする表糸Y1及び裏糸Y3と、弾性糸の中糸Y2との3種類の糸を、一定の位置を保つように下側シリンダーの編針部分に給糸する必要がある。そのため、前記丸編生地Aの編成に使用する丸編ガーメント機としては、各給糸口において回転するシリンダーの編針列に近接して配置される糸道構成部材としては、少なくとも三つの糸道を有し、かつ各糸道を通過する前記3種の糸Y1,Y2,Y3の位置を一定の配列に保持して給糸できるものでなけれならない。
【0043】
そこで、本発明の丸編ガーメント機においては、図7〜図9又は図10に例示する糸道構成部材20又は20aを使用する。
【0044】
図7〜図9に示す糸道構成部材20は次のような構成をなしている。厚板状の本体21の外側面、すなわちシリンダーの編針列Nとの対面側とは反対側の面には、その略中央部からシリンダー回転方向(図中の白抜き矢印方向)の先端にまで延びて該先端に開口する糸道用ガイド溝22が形成されている。このガイド溝22の底部は、該ガイド溝22に導かれる糸を一定の配列状態に保つことができる略V形状をなしている。前記ガイド溝22の前記シリンダー回転方向後方側の端部近傍に、外側面から内側面(編針列との対向側面)に厚み方向(シリンダーの径方向)に貫通する第1の糸道R1が形成されている。また、前記本体21の上下面から前記ガイド溝22の部分に貫通する第2の糸道R2と第3の糸道R3とが、前記シリンダー回転方向及び前記厚み方向に位置をずらされて形成されており、この第2と第3の糸道R2とR3を通過してガイド溝22から編針列Nの部分に出ていく2本の糸を、一定の位置を保つことができるようになっている。すなわち、前記第2の糸道R2は、前記第3の糸道R3より前記シリンダー回転方向にあって、かつ前記ガイド溝22に対して前記第3の糸道R3より深い位置で開口せしめられており、この第2の糸道R2を通過してガイド溝22を通る糸が、前記第3の糸道R3を通過してガイド溝22を通る糸よりも常に内側の位置、つまりガイド溝22のV形の最底位置を通って導糸されるようになっている。これにより、前記第1、第2、第3の各糸道R1,R2,R3を通過して導糸される各糸が、回転するシリンダーの編針列Nに対して、前記第1〜第3の糸道R1、R2、R3の順に並んで給糸されて、該配列状態を保ったまま各編針nに係止されることになる。
【0045】
従って、本発明の丸編生地Aの編成において、例えば上記した糸送り装置により積極送りで給送されてくる3種類の糸のうちの表糸Y1を前記第1の糸道R1に、弾性糸の中糸Y2を前記第2の糸道R2に、また裏糸Y3を前記第3の糸道R3に通して編針部分に給糸することにより、これら各糸Y1,Y2,Y3を一定の配列状態に保って各編針nに係止できることになり、上記したように身編部1の編成においてベア天竺編組織で3層構造をなすように編成できることになる。図中の24は該糸道構成部材20の支持部である。
【0046】
また、本発明の丸編生地Aの前記口編部2の編成においては、前記リブ編組織の1コースおきに、前記3種類の糸Y1,Y2,Y3のほかに第4の糸である前記カバードヤーンを追加して編成する場合があるので、これを可能にするため、編機に設定された給糸口のうち、奇数番目と偶数番目のいずれか一方の一つおきの給糸口には、前記カバードヤーンの給糸が可能な例えば図10に示すような糸道構成部材20aが配置使用される。
【0047】
図10に示す糸道構成部材20aは、厚板状の本体21がシリンダー回転方向(図中の白抜き矢印方向)に長くなってはいるが、該本体21のシリンダー回転方向の先端側部分に、基本的に上記した糸道構成部材20の場合と同様の糸道用ガイド溝22が外側面に形成され、さらに糸道構成部材20の場合と同様の配列で、第1の糸道R1と、第2の糸道R2と、第3の糸道R3とが形成されている。
【0048】
従って、身編部1の編成の際には、3種類の糸のうちの表糸Y1を前記第1の糸道R1に、弾性糸の中糸Y2を前記第2の糸道R2に、また裏糸Y3を前記第3の糸道R3に通して編針部分に給糸することにより、前記したように、各糸Y1,Y2,Y3を一定の配列状態に保って各編針nに導くことができ、ベア天竺編組織で3層構造をなすように編成できる。
【0049】
そして、この糸道構成部材20aには、前記三つの糸道R1、R2、R3のほかに、前記第1の糸道R1と支持部24との間で前記シリンダー回転方向に延びる長穴であって、第4の糸であるカバードヤーンY4を捕捉するためのヤーンキャッチャーが突出し得る第4の糸道兼用の長穴R4が設けられており、前記口編部2の編成の際に、シリンダー内方部に備えるバキューム方式のヤーンキャッチャー(図示せず)が前記長穴R4より突出して、図11のようにパイプ等のヤーンガイド25により該長穴R4に近づけられている前記カバードヤーンY4をキャッチして編針部分に引き込むことにより、該カバードヤーンY4を前記長穴R4を通して給糸できるように設けられている。これにより、一つおきの給糸口において、つまり1コースおきに、前記3種類の糸と共に前記カバードヤーンY4も併せて編み込むことができる。
【0050】
前記カバードヤーンY4を前記長穴R4に臨出させるヤーンガイド25は、図11のように、前記ヤーンキャッチャーによりキャッチする際に、エアシリンダー等のシリンダー装置26により前記長穴R4の部分に接近させるようにして、キャッチし易くするのがよい。また、前記口編部2が編終わって身編部1の編成に移行する際には、図11及び図12のように、前記シリンダー装置26の作動により、前記ヤーンガイド25を瞬時に糸道構成部材20aから離し、該ヤーンガイド25と前記糸道構成部材20aとの間で、エアシリンダー等のシリンダー装置28により作動するカッター等の切断装置27により、前記カバードヤーンY4を切断して切り離せばよい。図の27a,27bは軸支部29を支点に開閉する鋏式の切断刃を示している。このようなカバードヤーンY4の給糸のための、前記ヤーンキャッチャー、ヤーンガイド25、切断装置27等の各作動は、前記のような機械的手段や電気的手段を利用して瞬時に行えるように設定しておく。
【0051】
このように、各給糸口への各糸の給送途中に、消極送りと積極送りの切替が可能な糸送り装置を使用し、さらに各給糸口の上記した糸道構成部材を使用した丸編ガーメント機を使用することにより、シングル編のベア天竺編組織で三層構造をなす身編部1、及びダブル編のリブ編組織と袋編とよりなる口編部2を一体に安定して編成でき、本発明を良好に実施できる。
【0052】
なお、上記の丸編生地Aの編立てにおいて、筒状に編成された丸編生地Aを、巻き取り部で三本の巻き取りローラに通して引っ張りながら筒状のまま扁平にして二重にした状態で巻き取るか、あるいは巻き落としを行うと、丸編生地に生折れ筋が残るおそれがあるので、この生折れ対策として、二本のローラ間にストレート通しにして巻き取るか、巻き落とすのが好ましい。また、2本のローラの一方の生地の耳部に相当する部分に溝を形成して接圧をコントロールするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、丸編ガーメント機により成型編されるインナー製品用の丸編生地、特に婦人用の袖付きシャツやキャミソール等の上物及び五分スパッツその他の婦人用肌着等の各種のインナー製品用の丸編生地の製造に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る丸編生地を連続して編成した状態の連続状編地(a)と、糸抜き後の丸編生地(b)の略示平面図である。
【図2】ベア天竺編組織の編目一部の略示拡大図である。
【図3】本発明の実施例の丸編生地のベア天竺編組織の一つのループの拡大図である。
【図4】リブ編組織(a)と袋編組織(b)を示す組織図である。
【図5】本発明の丸編ガーメント機に使用する糸送り装置の実施例を示す積極送り状態の正面図である。
【図6】同上の糸送り装置の消極送り状態の正面図である。
【図7】本発明の丸編ガーメント機の給糸口に使用する糸道構成部材の1実施例を示す正面図である。
【図8】同上の糸道構成部材の平面図である。
【図9】同上の糸道構成部材の側面図である。
【図10】他の糸道構成部材の実施例を示す正面図である。
【図11】糸道構成部材に対する第4の糸の給糸部分の略示平面図である。
【図12】切断装置の正面図である。
【符号の説明】
【0055】
A…丸編生地、Y1…表糸、Y2…弾性糸よりなる中糸、Y3…裏糸、Y4…弾性を有するカバードヤーン、R1…第1の糸道、R2…第2の糸道、第3…R3、R4…糸道兼用の長穴、N…編針列、n…編針、1…身編部、2…口編部、3…抜き糸用コース、10…糸送り装置、11…送り用プーリー、11a…押さえテープの部分、11b…押さえテープ以外の部分、12…押さえテープ、13… 導糸穴、14…フリッパー、15…進退駆動手段、15a…出力軸、16…軸支部、20…糸道構成部材、20a…糸道構成部材、21…本体、22…糸道用ガイド溝、24…支持部、25…ヤーンガイド、26…シリンダー装置、27…切断装置、27a,27b…切断刃、28…シリンダー装置、29…軸支部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機により成型編されてなる丸編生地であって、身頃や袖等の身編部がシングル編による組織で、裾口、袖口、肩口及び足口等の口編部がダブル編による組織で一体に編成されてなることを特徴とする丸編生地。
【請求項2】
前記身編部が、実質的に非伸縮性の繊維よりなる表糸及び裏糸と、弾性糸よりなる中糸との3種類の糸によりリバーシブルな3層構造をなすようにベア天竺編組織で編成され、また、前記口編部が、前記3種類の糸を基本にして、弾性を有するカバードヤーンを加えた4種類の糸によりリブ編組織で編成されてなる請求項1に記載の丸編生地。
【請求項3】
請求項1または2に記載された丸編生地よりなるインナー製品。
【請求項4】
ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機による成型編で、身頃や袖等の身編部と、裾口、袖口、肩口及び足口等の口編部とを有する丸編生地を、抜き糸用コースを介して連続状に編成する際、前記口編部を上下シリンダーの両頭針によるダブル編の組織で編成し、これに連続して、前記身編部を下側シリンダーの針によるシングル編の組織で一体に編成することを特徴とする丸編生地の編成方法。
【請求項5】
前記身編部の編成コースは、編機に設定された各給糸口において、実質的に非伸縮性の繊維よりなる表糸及び裏糸と、弾性糸よりなる中糸との3種類の糸を、積極送りでかつ一定の位置を保つようにして編針部分に給糸してリバーシブルな3層構造をなすようにベア天竺編組織で編成し、前記口編部の編成コースは、編機に設定された給糸口のうち、奇数番目と偶数番目の一方の給糸口では前記身編部の3種類の糸に弾性を有するカバードヤーンを加えた4種類の糸を、他の給糸口では前記3種類の糸を、それぞれ消極送りで編針部分に給糸してリブ編組織で編成する請求項4に記載の丸編生地の編成方法。
【請求項6】
ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機であって、編機に設定された各給糸口への各糸の給送途中に、それぞれ各糸を巻回させて送りを制御するための送り用プーリーを含む糸送り装置を備えてなり、この糸送り装置には、前記プーリーに巻回されて送られる糸の押さえテープが該プーリー外周に対しその幅方向の一部を除いて対接するように設けられるとともに、前記プーリー外周に巻回される糸を前記押さえテープ部分と押さえテープ以外の部分とに選択的に導く導糸穴付きのフリッパーが設けられており、該フリッパーがこれに連結された進退駆動手段により変位動作させられることにより、前記糸が前記押さえテープ部分を通過する積極送りと、前記糸が前記押さえテープ以外の部分を通過する消極送りとを選択できるように構成されてなることを特徴とする丸編ガーメント機。
【請求項7】
ダブルシリンダー型の丸編ガーメント機において、編機に設定された各給糸口には、少なくとも三つの糸道を有する糸道構成部材が回動する編針列の外周に近接して配置されてなり、この糸道構成部材の前記三つの糸道が、該糸道を通過する3種類の糸の配列を一定に保った状態で編針部分に給糸するように設けられてなることを特徴とする丸編ガーメント機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−307360(P2006−307360A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128391(P2005−128391)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(593030277)株式会社アタゴ (2)
【Fターム(参考)】