説明

主軸装置

【課題】既存の工作機械に容易に適用することができ、超音波振動を援用して自動的に多種類の加工を良好に行うことができる主軸装置を提供する。
【解決手段】主軸装置は、ハウジング11内に回転自在に支持したスピンドル本体10と、超音波振動子25を組み込んだホーン部21、及びこのホーン部21の周囲に形成した空洞部23を有しており、スピンドル本体10の先端側に設けてスピンドル本体10と共に回転するスピンドル先端部20と、このスピンドル先端部20の先端側に装着し、スピンドル本体10及びスピンドル先端部20と共に回転する工具ホルダー30と、スピンドル本体10の軸芯及びスピンドル先端部20の軸芯に挿入し、工具ホルダー30をクランプ・アンクランプするドローバー40とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の主軸装置を開示している。この主軸装置は、ハウジング内に回転自在に支持したスピンドル本体と、スピンドル本体の先端部に装着し、スピンドル本体と共に回転する工具ホルダーとを備えている。この工具ホルダーは超音波振動子を組み込んでいる。また、この工具ホルダーはスピンドル本体に設けた電力端子に挿入するソケット端子を設けている。超音波振動子は、ソケット端子から電力線を介して給電されることによって、振動することができる。
【0003】
この主軸装置は、工具ホルダーを工具自動交換装置を用いてスピンドル本体に装着することができる。このため、この主軸装置は既存の主軸装置の基本的な構造を変更しないで超音波振動援用加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−208349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の主軸装置は、工具ホルダーに超音波振動子を組み込んでいるため、交換する工具ホルダーの全てに超音波振動子を組み込まなければならない。また、超音波振動子を組み込んでいるため工具ホルダーが大型化・高コスト化してしまう。さらに、工具ホルダーをスピンドル本体の先端部に装着する際、工具ホルダーに設けたソケット端子をスピンドル本体に設けた電力端子に挿入しなければならない。この際、ソケット端子と電力端子との接続が良好に行われないと、超音波振動子への給電が不安定になり、超音波振動子が良好に振動せずに超音波振動援用加工を良好に行えないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、既存の工作機械に容易に適用することができ、超音波振動を援用して自動的に多種類の加工を良好に行うことができる主軸装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主軸装置は、ハウジング内に回転自在に支持したスピンドル本体と、
超音波振動子を組み込んだホーン部、及びこのホーン部の周囲に形成した空洞部を有しており、前記スピンドル本体の先端側に設けて前記スピンドル本体と共に回転するスピンドル先端部と、
このスピンドル先端部の先端側に装着し、前記スピンドル本体及び前記スピンドル先端部と共に回転する工具ホルダーと、
前記スピンドル本体の軸芯及び前記スピンドル先端部の軸芯に挿入し、工具ホルダーをクランプ・アンクランプするドローバーとを備えていることを特徴とする。
【0008】
この主軸装置は、超音波振動子を組み込んだホーン部をスピンドル先端部に有し、スピンドル先端部の先端側に装着した工具ホルダーに超音波振動を伝えることができる。このため、工具ホルダー毎に超音波振動子を組み込む必要がなく、一般的な工具ホルダーを利用して超音波振動援用加工を行うことができる。つまり、工具ホルダーを特別なものにする必要がないため、多くの交換用の工具ホルダーを容易に準備することができる。また、工具ホルダーが大型化しないため、既存の工作機械に容易に適用することができる。特に、極細工具による超音波振動切削・研削加工は、一般的に加工穴数が多いため、頻繁に工具を取り換える必要がある。このため、この主軸装置は、特に工具自動交換装置付き工作機械に適用することによって、微細加工を効率的に行うことができる。
【0009】
また、超音波振動子をホーン部に組み込んでいるため、工具ホルダーを交換する度に超音波振動子への給電経路を接続する必要がない。このため、超音波振動子への給電が安定し、超音波振動子が良好に振動して超音波振動援用加工を良好に行うことができる。さらに、ホーン部の周囲に空洞部が形成されているため、超音波振動子から発生する熱を放熱し易くし、超音波振動子が高温になることによる性能低下を防止することができる。
【0010】
したがって、本発明の主軸装置は、既存の工作機械に容易に適用することができ、超音波振動を援用して自動的に多種類の加工を良好に行うことができる。
【0011】
前記スピンドル先端部は前記空洞部と外部とを連通する連通孔を有し得る。この場合、超音波振動子からの発熱を貫通孔を介して外部に排出することができる。このため、超音波振動子から発生する熱をさらに放熱し易くすることができるため、超音波振動子が高温になることによる性能低下をさらに防止することができる。
【0012】
前記ドローバーは、
前記工具ホルダーを係合する係合部、及びクランプ方向に弾性力を付与する弾性部材を具備し、前記スピンドル先端部から後方に延びた第1バーと、
この第1バーの後端部と隙間を設けて同軸上に配置し、前記弾性部材の弾性力に抗してこの第1バーをアンクランプ方向に押すことができる第2バーとを有し得る。
【0013】
この場合、第2バーに超音波振動子の振動が伝わらない。このため、第2バーを駆動する駆動部に超音波振動子からの振動が伝わらず、駆動部の損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例の主軸装置のクランプ状態を示す要部概略断面図である。
【図2】実施例の主軸装置のアンクランプ状態を示す要部概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の主軸装置を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<実施例>
実施例の主軸装置は、図1に示すように、スピンドル本体10、スピンドル先端部20、工具ホルダー30、及びドローバー40を備えている。スピンドル本体10は、円筒形状に形成され、軸芯を貫通した貫通孔12を有している。このスピンドル本体10は、図示しないエアー軸受を介してハウジング11内に回転自在に支持されている。また、このスピンドル本体10は、図示しない駆動装置に連結されており、駆動装置を駆動することによって回転する。さらに、スピンドル本体10は、後端に配置した図示しない非接触給電装置を有している。非接触給電装置に連結した電力線Cを介して後述する超音波振動子25に給電することができる。
【0017】
スピンドル先端部20は、ホーン部21と、ホーン部21の周囲に空洞部23を形成する外殻部22とを有している。ホーン部21は、円柱形状に形成した後部と、先端方向(図1における下方)に向けて細くなる円錐台形状に形成した前部とから構成され、軸芯を貫通した貫通孔24を有している。
【0018】
ホーン部21は後部の外周部に円環状に形成した超音波振動子25を配置している。超音波振動子25は固定リング26によってホーン部21の後部の外周部に固定されている。ホーン部21は、工具ホルダー30の嵌合部31を嵌合する嵌合穴29を先端部に形成している。嵌合穴29は貫通孔24に連通している。
【0019】
外殻部22は、固定部22A、側壁部22B、及び連結部22Cを有している。固定部22Aは、円盤形状に形成され、中央部を貫通した貫通孔27を有している。固定部22Aは、スピンドル本体10と同心となるようにスピンドル本体10の先端面にボルト固定されている。側壁部22Bは固定部22Aの先端面の外周部から先端方向(図1において下方)に延びた円筒形状に形成されている。側壁部22Bは、固定部22A側の複数個所に空洞部23と外部とを連通する連通孔28を有している。連結部22Cは側壁部22Bとホーン部21の前部の側面とを連結している。この連結部22Cは超音波振動子25によって生じる軸方向の振動の節部に形成されている。このため、連結部22Cを側壁部22Bの先端面にボルトによって良好に固定することができる。外殻部22を構成する固定部22A、側壁部22B、及び連結部22Cは、ホーン部21の周囲に空洞部23を形成している。
【0020】
工具ホルダー30はホーン部21の嵌合穴29に嵌合する略円筒状の嵌合部31を有している。嵌合部31は、内周面に凸状に形成し、後述するコレットの係止部に係合する被係止部を有している。工具ホルダー30は先端部に極細加工用のエンドミル、ドリル、電着といし工具等を焼き嵌めして取り付けている。
【0021】
ドローバー40は第1バー40Aと第2バー40Bとを有している。第1バー40Aは、工具ホルダー30を係合する係合部41と、クランプ方向(図1において上方向)の弾性力を付与する弾性部材であるコイルばね42とを具備している。第1バー40Aは、スピンドル先端部20のホーン部21の軸芯を貫通した貫通孔24及び嵌合穴29と、スピンドル先端部20の外殻部22の固定部22Aの中央部を貫通した貫通孔27とに挿入し、スピンドル先端部20から後方のスピンドル本体10の軸芯を貫通した貫通孔12内に延びている。
【0022】
係合部41は、第1バー40Aの先端に連結したスリーブ43と、スリーブ43の外周側に配置したコレット44とを有している。コレット44は、先端側の外周面に、工具ホルダー30の嵌合部31の内周面に凸状に形成した被係止部に係合する係止部を有している。
【0023】
コイルバネ42は、第1バー40Aを内部に挿通し、ホーン部21の後端面と第1バー40の後部において拡径した拡径部45との間に挟持されている。このため、第1バー40Aは後方(図1において上方)に移動するようにコイルバネ42の弾性力が付与されている。このように、第1バー40Aが後方に移動した状態では、コレット44の係止部と工具ホルダー30の被係止部とが係合し、工具ホルダー30がスピンドル先端部20に対して固定されたクランプ状態になる。つまり、コイルバネ42は第1バー40Aをクランプ方向に移動するように弾性力を付与するものである。
【0024】
第2バー40Bは先端部40Dを第1バー40Aの後端部40Cとの間に隙間を設けて配置されている。また、第2バー40Bは、第1バー40Aと同軸上であって、スピンドル本体10の軸芯を貫通した貫通孔12内に配置されている。第2バー40Bの先端部40Dは円錐形状に凹んで形成されている。一方、第1バー40Aの後端部40Cは円錐形状に突出して形成されている。
【0025】
第2バー40Bは、後端に図示しない駆動部を連結しており、駆動部を駆動することによって、先端方向(図1において下方)に移動することができる。この駆動部を駆動して、第2バー40Bが先端方向に移動すると、図2に示すように、第2バー40Bがコイルバネ42の弾性力に抗して第1バー40Aを先端方向に押すことになる。第1バー40Aが先端方向に移動した状態では、コレット44の係止部と工具ホルダー30の被係止部との係合が解かれ、工具ホルダー30がスピンドル先端部20に対して着脱自在なアンクランプ状態になる。つまり、駆動部を駆動すると、第2バー40Bは第1バー40Aをアンクランプ方向に押すことになる。この際、円錐形状に凹んだ第2バー40Bの先端部40Dと円錐形状に突出した第1バー40Aの後端部40Cとが嵌合するため、第2バー40Bが第1バー40Aをアンクランプ方向に良好に押すことができる。
【0026】
このように構成された主軸装置は、超音波振動子25を組み込んだホーン部21をスピンドル先端部20に有し、スピンドル先端部20の先端側に装着した工具ホルダー30に超音波振動を伝えることができる。このため、工具ホルダー30毎に超音波振動子を組み込む必要がなく、一般的な工具ホルダーを利用して超音波振動援用加工を行うことができる。つまり、工具ホルダー30を特別なものにする必要がないため、多くの交換用の工具ホルダー30を容易に準備することができる。また、工具ホルダー30が大型化しないため、既存の工具自動交換装置付き工作機械に容易に適用することができる。特に、極細工具超音波振動切削・研削加工は、一般的に加工穴数が多いため、頻繁に工具を取り換える必要がある。このため、この主軸装置は、特に工具自動交換装置付き工作機械に適用することによって、微細加工を効率的に行うことができる。
【0027】
また、超音波振動子25をホーン部21に組み込んでいるため、工具ホルダー30を交換する度に超音波振動子への給電経路を接続する必要がない。このため、超音波振動子25への給電が安定し、超音波振動子25が良好に振動して超音波振動援用加工を良好に行うことができる。さらに、ホーン部21の周囲に空洞部23が形成され、かつ空洞部23と外部とを連通する複数個の連通孔28を有しているため、超音波振動子25から発生する熱を放熱し易く、超音波振動子が高温になることによる性能低下を防止することができる。
【0028】
したがって、実施例の主軸装置は、既存の工作機械に容易に適用することができ、超音波振動を援用して自動的に多種類の加工を良好に行うことができる。
【0029】
また、第2バー40Bは、先端部40Dを第1バー40Aの後端部40Cとの間に隙間を設けているため、第2バー40Bを駆動する駆動部に超音波振動子からの振動が伝わらず、駆動部の損傷を防止することができる。
【0030】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例では、スピンドル先端部が空洞部と外部とを連通する連通孔を有していたが、連通孔を有さなくてもよい。
(2)実施例では、ドローバーを第1バーと第2バーとに分割したが、分割しなくてもよい。
(3)実施例では、工具ホルダーにエンドミルを取り付けたが、各種加工工具を取り付けることができる。
(4)実施例では、工具ホルダーに焼き嵌めによって加工工具を取り付けたが、焼き嵌め以外の方法で取り付けてもよい。
(5)実施例では、スピンドル本体はエアー軸受を介してハウジングに支持されたが、ボールベアリング等で構成される各種軸受を利用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は工具自動交換装置付き超音波振動援用加工用工作機械に利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
10…スピンドル本体
11…ハウジング
20…スピンドル先端部
21…ホーン部
23…空洞部
25…超音波振動子
28…連通孔
30…工具ホルダー
40…ドローバー
40A…第1バー
40B…第2バー
41…係合部
42…コイルバネ(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に回転自在に支持したスピンドル本体と、
超音波振動子を組み込んだホーン部、及びこのホーン部の周囲に形成した空洞部を有しており、前記スピンドル本体の先端側に設けて前記スピンドル本体と共に回転するスピンドル先端部と、
このスピンドル先端部の先端側に装着し、前記スピンドル本体及び前記スピンドル先端部と共に回転する工具ホルダーと、
前記スピンドル本体の軸芯及び前記スピンドル先端部の軸芯に挿入し、工具ホルダーをクランプ・アンクランプするドローバーとを備えていることを特徴とする主軸装置。
【請求項2】
前記スピンドル先端部は前記空洞部と外部とを連通する連通孔を有していることを特徴とする請求項1記載の主軸装置。
【請求項3】
前記ドローバーは、
前記工具ホルダーを係合する係合部、及びクランプ方向に弾性力を付与する弾性部材を具備し、前記スピンドル先端部から後方に延びた第1バーと、
この第1バーの後端部と隙間を設けて同軸上に配置し、前記弾性部材の弾性力に抗してこの第1バーをアンクランプ方向に押すことができる第2バーとを有していることを特徴とする請求項1又は2記載の主軸装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−166303(P2012−166303A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29171(P2011−29171)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(390020639)株式会社キラ・コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】