説明

丼物用加工卵白液セット及び丼物の製造方法

【課題】卵とじ部分の外観に優れた丼物を簡便に製することができる丼物用加工卵白液セット及び丼物の製造方法を提供する。
【解決手段】第1加工卵白液と第2加工卵白液の1組からなる丼物用加工卵白液セットであって、前記第1加工卵白液が、水溶性カルシウム塩を配合し、粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、前記第2加工卵白液が、水溶性アルギン酸塩を配合し、粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い丼物用加工卵白液セット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を簡便に製することができる丼物用加工卵白液セット及び丼物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつ丼や親子丼等の丼物は、例えば、肉や玉葱等の具材を割り下で煮て卵でとじ、得られた丼物の具を丼飯の上に載せて製する。家庭等で丼物を手作りする場合、丼物の卵とじ部分に鬆が立たないように適宜調整しながら加熱調理を施す。また、全卵液の濃厚卵白部分が均一に混合されにくいため、製した丼物の卵とじ部分は、卵黄凝固物の黄色、卵白凝固物の白色及び2つの中間色が混ざり合う。
【0003】
一方、丼物を外食産業や弁当用に大量生産する場合、例えば、大型の矩形の型枠に5〜30食分程度の割り下、具材及び丼物用加工卵液を投入して一度に加熱調理し、それを一食分ずつの大きさにカットして用いる。そのため、一食分ずつの加熱調理の条件に少なからずばらつきが生じ、適宜調整しながら加熱調理を施すことが難しく、過加熱により丼物の卵とじ部分に鬆が立ってしまい、製した丼物の卵とじ部分が手作りと異なり外観を損ねてしまう問題があった。また、従来の丼物用卵液は、殻付卵を割卵した全卵液を異物除去のためストレーナーに通して濾過後、連続式プレート加熱殺菌機又は撹拌羽根の付いたバッチ式加熱殺菌機で処理したものが使用され、全卵液中の濃厚卵白部分が崩れ黄色一色の均一状となっているため、製した丼物の卵とじ部分が手作りと異なり外観を損ねてしまう問題があった。
【0004】
このような問題を解決する方法として、例えば、実開昭63−196991号公報(非特許文献1)には、容器内を板垣にて複数の空間部に区切り、該空間部に冷凍した卵黄液と冷凍した卵白液とを分けて充填する製造方法が記載されている。しかしながら、前記製造方法を用いて得られた丼物の卵とじ部分は、卵黄液と卵白液が完全に分けられているためか、消費者の意向を十分に満足するだけの外観を有しているとは言い難いものであった。
【0005】
【非特許文献1】実開昭63−196991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を簡便に製することができる丼物用加工卵白液セット及び丼物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記問題を解決すべく、鋭意研究を行ったところ、水溶性カルシウム塩を配合し特定の粘度である第1加工卵白液と、水溶性アルギン酸塩を配合し特定の粘度である第2加工卵白液の1組からなる丼物用加工卵白液セットを特定の製造方法で接触及び加熱調理することで、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物が簡便に得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)第1加工卵白液と第2加工卵白液の1組からなる丼物用加工卵白液セットであって、前記第1加工卵白液が、水溶性カルシウム塩を配合し、粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、前記第2加工卵白液が、水溶性アルギン酸塩を配合し、粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い丼物用加工卵白液セット、
(2)割り下を加熱調理しながら、全卵液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで第2加工卵白液を上掛けする丼物の製造方法であって、前記第1加工卵白液が、水溶性カルシウム塩を配合し、粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、前記第2加工卵白液が、水溶性アルギン酸塩を配合し、粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い丼物の製造方法、
(3)割り下を加熱調理しながら、全卵液及び一部の第2加工卵白液の混合液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで残りの第2加工卵白液を上掛けする丼物の製造方法であって、前記第1加工卵白液が、水溶性カルシウム塩を配合し、粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、前記第2加工卵白液が、水溶性アルギン酸塩を配合し、粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い丼物の製造方法、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を簡便に製することができる丼物用加工卵白液セット及び丼物の製造方法を提供することができる。これにより、工業生産される丼物用加工卵白液セット及び丼物の商品価値を高めることができ、食品市場の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
本発明の丼物用加工卵白液セットは、水溶性カルシウム塩を配合し特定の粘度である第1加工卵白液と、水溶性アルギン酸塩を配合し特定の粘度である第2加工卵白液の1組からなり、丼物用加工卵白液セットを特定の製造方法で接触及び加熱調理することにより、卵とじ部分の外観に優れた丼物を簡便に製することができる。
【0012】
本発明の第1加工卵白液は、卵白及び水溶性カルシウム塩を配合し、0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)の粘度を有し、加熱調理すると白色を呈する。
【0013】
本発明の第1加工卵白液の粘度は、0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、0.8〜1.8Pa・s(品温20℃)が好ましい。粘度が前記範囲より低い又は高い場合、後述の本発明の第2加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分の外観に優れた丼物を得ることができない場合がある。
【0014】
本発明の第1加工卵白液は、一般的な生卵白の粘度が0.05Pa・s(品温20℃)であることから、粘度を前記範囲内に調整するために増粘剤を配合する。配合する増粘剤は、特に限定されないが、例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等のガム質の1種又は2種以上を配合することが好ましい。
【0015】
本発明の第1加工卵白液に用いる水溶性カルシウム塩は、清水への溶解度が1%以上(25℃)のものを指し、具体的には特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等が挙げられ、特に塩化カルシウムが清水への溶解度が高く好ましい。
【0016】
本発明の第1加工卵白液に用いる水溶性カルシウム塩の配合量は、特に限定されないが、0.03〜1%が好ましく、0.05〜0.7%がより好ましい。水溶性カルシウム塩の配合量が前記範囲より低い場合、水溶性カルシウム塩と後述の第2加工卵白液に配合した水溶性アルギン酸塩の反応によるアルギン酸カルシウムの生成が十分に行われず、本発明の第2加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。前記範囲より高い場合、前記アルギン酸カルシウムの生成が過剰となり、本発明の第2加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。
【0017】
本発明の第1加工卵白液の卵白配合量は、特に限定されないが、生卵白換算で第1加工卵白液に対して60〜100%が好ましく、70〜100%がより好ましい。卵白配合量が前記範囲より少ない場合、加熱調理した際の白色が淡くなり、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。前記範囲より多い場合、第1加工卵白液の粘度が高くなりすぎ、本発明の第2加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。
【0018】
本発明の第2加工卵白液は、卵白及び水溶性アルギン酸塩を配合し、0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ本発明の第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い粘度を有し、加熱調理すると白色を呈する。
【0019】
本発明の第2加工卵白液の粘度は、0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)であり、0.1〜0.3Pa・s(品温20℃)が好ましい。粘度が前記範囲より低い又は高い場合、本発明の第1加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。
【0020】
本発明の第2加工卵白液に用いる水溶性アルギン酸塩は、清水への溶解度が1%以上(25℃)のものを指し、具体的には特に限定されないが、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等が挙げられ、特に、アルギン酸ナトリウムが清水への溶解度が高く好ましい。
【0021】
本発明の第2加工卵白液に用いる水溶性アルギン酸塩の配合量は、特に限定されないが、0.05〜2%が好ましく、0.1〜1.5%がより好ましい。水溶性アルギン酸塩の配合量が前記範囲より低い場合、段落〔0016〕記載のアルギン酸カルシウムの生成が十分に行われず、本発明の第1加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。前記範囲より高い場合、段落〔0016〕記載のアルギン酸カルシウムの生成が過剰となり、本発明の第1加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。
【0022】
本発明の第2加工卵白液の卵白配合量は、特に限定されないが、生卵白換算で第2加工卵白液に対して60〜100%が好ましく、70〜100%がより好ましい。卵白配合量が前記範囲より少ない場合、加熱調理した際の白色が淡くなり、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。前記範囲より多い場合、第2加工卵白液の粘度が高くなりすぎ、本発明の第1加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。
【0023】
本発明の第2加工卵白液の粘度は、本発明の第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い。第1加工卵白液に対する第2加工卵白液の粘度が、前記範囲より高い場合、両者を接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を製することができない場合がある。
【0024】
粘度の測定方法は、本発明の第1加工卵白液の場合、BH形粘度計を用いローター:No.2、回転数:20rpmの条件で測定し、10回転後の示度により算出した。本発明の第2加工卵白液の場合、BH形粘度計を用いローター:No.1、回転数:20rpmの条件で測定し、10回転後の示度により算出した。
【0025】
本発明の丼物用加工卵白液セットにおいて、第1加工卵白液に対する第2加工卵白液の配合比率は、特に限定されないが、1:10〜10:1が好ましく、1:3〜3:1がより好ましい。本発明の第2加工卵白液の配合比率が、前記範囲より低い又は高い場合、両者を接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。
【0026】
本発明の第1及び第2加工卵白液に用いる原料の卵白は、特に限定されないが、例えば、鶏卵を割卵して得られる生卵白をはじめ、当該生卵白にストレーナー等によるろ過処理、加熱等による殺菌処理、冷凍処理、乾燥処理、プロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、イオン交換樹脂等による脱塩処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したもののうち、1種又は2種以上を混合したものを挙げることができる。
【0027】
また、本発明の第1及び第2加工卵白液には、上述した原料以外に本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、割り下、食塩、砂糖、醤油、みりん、食塩、味噌、ケチャップ、ソース、ブイヨン、豆板醤、コチュジャン等の調味料、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等の増粘剤、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等の澱粉、胡椒、唐辛子等の香辛料、クエン酸塩、酢酸塩、カルシウム塩、アルギン酸塩、リン酸塩等の塩類、食用油脂、乳化油脂、香味油等の油脂、ポリリジン、グリシン等の保存料、香料、着色料等を配合することができる。
【0028】
本発明の丼物用加工卵白液セットは、以下のように製することができるがこれに限定するものではない。例えば、まず、卵白液に水溶性カルシウム塩、増粘剤等を加え攪拌混合後、プレート式熱交換機等により加熱殺菌し、粘度を0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)に調整した本発明の第1加工卵白液を調製する。別途、卵白液に水溶性アルギン酸塩等を加え攪拌混合後、プレート式熱交換機等により加熱殺菌し、粘度を0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記本発明の第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低く調整した本発明の第2加工卵白液を調製する。得られた2種類の加工卵白液は、段落〔0016〕記載のアルギン酸カルシウムの生成反応を起こす本発明の1組からなる丼物用加工卵白液セットとして使用することができる。
【0029】
本発明の丼物用加工卵白液セットの保管方法は、特に限定されないが、例えば、保管せずに製造直後に用いても、タンク等に冷蔵保管しても、袋等に容器詰めし冷凍保管してもよい。特に、容器詰めし冷凍保管した場合、冷凍変性の影響を受けているにも関わらず、卵とじ部分の外観に優れた丼物を簡便に製することができ好ましい。
【0030】
本発明の丼物の製造方法は、上述した第1及び第2加工卵白液を用い、割り下を加熱調理しながら、全卵液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで第2加工卵白液を上掛けすることを特徴とし、これにより卵とじ表面に鬆が立たず、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を簡便に製することができ好ましい。具体的には、例えば、段落〔0028〕記載の第1及び第2加工卵白液を用い、割り下を加熱調理しながらカツや玉葱等の具材を投入し、ついで全卵液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで第2加工卵白液を上掛けすることで丼物の具を調製する。最後に、丼に盛った米飯の上から前記丼物の具を盛りつけることで丼物を得る。
【0031】
前記本発明の丼物の製造方法において、第1加工卵白液に対する第2加工卵白液の配合比率は、特に限定されないが、段落〔0025〕記載の本発明の丼物用加工卵白液セットと同様の比率が好ましい。
【0032】
本発明の丼物の製造方法に用いる全卵液は、卵黄及び卵白を配合し加熱調理すると黄色を呈する。卵黄及び卵白以外に本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、割り下、食塩、砂糖、醤油、みりん、食塩、味噌、ケチャップ、ソース、ブイヨン、豆板醤、コチュジャン等の調味料、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等の増粘剤、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等の澱粉、胡椒、唐辛子等の香辛料、クエン酸塩、酢酸塩、水溶性カルシウム塩、水溶性アルギン酸塩、リン酸塩等の塩類、食用油脂、乳化油脂、香味油等の油脂、ポリリジン、グリシン等の保存料、香料、着色料等を配合することができる。
【0033】
本発明の丼物の製造方法に用いる全卵液の卵の配合量は、特に限定されないが、生卵黄と生卵白の合計換算で全卵液に対し60〜100%が好ましく、70〜100%がより好ましい。また、生卵黄と生卵白の比率換算で1:10〜3:1が好ましく、1:5〜2:1がより好ましい。生卵黄と生卵白の合計換算又は生卵白に対する生卵黄の比率が前記範囲より低い場合、加熱調理した際の黄色が淡くなり、本発明の加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。前記範囲より高い場合は、加工全卵液の粘度が高くなりすぎ、本発明の加工卵白液と接触及び加熱調理した際に、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。
【0034】
前記本発明の丼物の製造方法において、第1及び第2加工卵白液の合計に対する全卵液の配合比率は、特に限定されないが、1:10〜10:1が好ましく、1:3〜3:1がより好ましい。全卵液の配合比率が、前記範囲より低い又は高い場合、卵黄凝固物の黄色、卵白凝固物の白色及び2つの中間色が手作り様に混ざり合わない場合がある。
【0035】
さらに、本発明の丼物の製造方法は、上述した第1及び第2加工卵白液を用い、割り下を加熱調理しながら、全卵液と一部の第2加工卵白液の混合液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで残りの第2加工卵白液を上掛けすることを特徴とし、これにより卵とじ表面に鬆が立たず、かつ、卵黄凝固物の黄色、卵白凝固物の白色及び2つの中間色が手作り様に混ざり合い、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を簡便に製することができより好ましい。具体的には、例えば、段落〔0028〕記載の第1及び第2加工卵白液を用い、割り下を加熱調理しながらカツや玉葱等の具材を投入し、ついで全卵液と一部の前記第2加工卵白液の混合液を投入し、ついで前記第1加工卵白液を上掛けし、ついで残りの前記第2加工卵白液を上掛けすることで丼物の具を調製する。最後に、丼に盛った米飯の上から前記丼物の具を盛りつけることで丼物を得る。
【0036】
前記本発明の丼物の製造方法において、第1加工卵白液に対する第2加工卵白液の配合比率は、特に限定されないが、段落〔0025〕記載の本発明の丼物用加工卵白液セットと同様の比率が好ましい。
【0037】
前記本発明の丼物の製造方法において、第2加工卵白液の投入比率は、特に限定されないが、全卵液との混合投入量に対する残りの上掛け投入量が、1:10〜10:1が好ましく、1:3〜3:1がより好ましい。全卵液との混合投入量に対する残りの上掛け投入量の比率が前記範囲より低い場合、卵とじ表面に鬆が立ち、卵とじ部分が手作りと同様の外観を有する丼物を得ることができない場合がある。混合投入量に対する上掛け投入量の比率が前記範囲より高い場合、卵とじ表面の鬆は防止できるものの、卵黄凝固物の黄色、卵白凝固物の白色及び2つの中間色が手作り様に混ざり合わない場合がある。
【0038】
本発明の丼物の製造方法に用いる具材は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記2種類の加工卵白液以外に、例えば、生全卵、生卵黄、生卵白等の卵、豚肉、鶏肉、牛肉、羊肉等の畜肉、海老、蟹、あさり、まぐろ、わかさぎ、鰯、しらす、鰻、雲丹、いくら、蒲鉾等の魚介、玉葱、人参、おくら、茄子、三つ葉、もやし、キャベツ、レタス等の野菜、椎茸、えのき茸等のきのこ等の素材から、1種又は2種以上の素材を選び、必要に応じて、食べ易い大きさにカットし、油揚、ボイル又は焼成等の処理を施したものが挙げられる。
【0039】
本発明の丼物の製造方法に用いる割り下は、例えば、昆布や鰹節等でだしを取り、醤油、砂糖、酒、味醂、味噌等を加え調製したものが挙げられる。
【0040】
本発明の丼物の製造方法に用いる米飯は、例えば、玄米、発芽玄米、胚芽米、白米、赤米、黒米、無洗米等の米のうち1種又は2種以上を配合したものや、前記米に小麦、大麦、鳩麦、ヒエ、アワ、キビ、アズキ、トウモロコシ、ソバ、アマランサス、キヌア等の穀物を混合したもの等が挙げられる。
【0041】
以下、本発明の実施例、比較例及び試験例を述べ、本発明を更に説明する。なお、本発明はこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
まず、鶏卵を割卵し生卵黄と生卵白とを分けた後、前記生卵白を30メッシュのストレーナーでろ過して調製した卵白液95%に、塩化カルシウム0.1%、キサンタンガム0.3%、清水4.6%を加え、攪拌混合した後、プレート式熱交換機により56℃で3.5分間加熱殺菌することで本発明の第1加工卵白液(1.1Pa・s(品温20℃))を調製した。合わせて、鶏卵を割卵し生卵黄と生卵白とを分けた後、前記生卵白を30メッシュのストレーナーでろ過して調製した卵白液75%に、アルギン酸ナトリウム0.5%、清水24.5%を加え、攪拌混合した後、プレート式熱交換機により56℃で3.5分間加熱殺菌することで本発明の第2加工卵白液(0.1Pa・s(品温20℃))を調製した。最後に、1kg容ポリエチレン製袋に前記2種類の加工卵白液を1kgずつ充填密封後、冷凍し、本発明の丼物用加工卵白液セットを得た。
【0043】
[実施例2]
まず、鶏卵を割卵し生卵黄と生卵白とを分けた後、前記生卵白を30メッシュのストレーナーでろ過して調製した卵白液70%に、乳酸カルシウム0.2%、キサンタンガム0.25%、清水29.55%を加え、攪拌混合した後、プレート式熱交換機により56℃で3.5分間加熱殺菌することで本発明の第1加工卵白液(0.7Pa・s(品温20℃))を調製した。合わせて、鶏卵を割卵し生卵黄と生卵白とを分けた後、前記生卵白を30メッシュのストレーナーでろ過して調製した卵白液95%に、アルギン酸ナトリウム0.2%、清水4.8%を加え、攪拌混合した後、プレート式熱交換機により56℃で3.5分間加熱殺菌することで本発明の第2加工卵白液(0.3Pa・s(品温20℃))を調製した。最後に、20kg容タンクに前記2種類の加工卵白液を16kgずつ充填し、本発明の丼物用加工卵白液セットを得た。
【0044】
[比較例1]
第1加工卵白液の塩化カルシウム、及び第2加工卵白液のアルギン酸ナトリウムをそれぞれ清水に置換えた以外は、実施例1に準じ、丼物用加工卵白液セットを得た。
【0045】
[比較例2]
第1加工卵白液の塩化カルシウムを清水に置換えた以外は、実施例1に準じ、丼物用加工卵白液セットを得た。
【0046】
[比較例3]
第2加工卵白液のアルギン酸ナトリウムを清水に置換えた以外は、実施例1に準じ、丼物用加工卵白液セットを得た。
【0047】
[実施例3]
実施例1で調製した丼物用加工卵白液セットを用い、下記手順でカツ丼を調製した。まず、みりん8%、濃口醤油8%、カツオだし(顆粒)1.5%及び清水82.5%を攪拌混合し割り下を調製した。次に、1メートル四方の矩形の型枠に前記割り下1600gを流し入れた後、80℃で加熱調理しながら、玉葱のスライス25gの上に6つ切りにしたヒレカツ120gを重ねたもの16セットを一定間隔で並べ入れた。次に、全卵液480gを投入し、ついで第1加工卵白液240gを上掛けし、ついで第2加工卵白液240gを上掛けして丼物の具を調製した。最後に、加熱調理を止め、調製した丼物の具をヘラで16セットに切り分けたものをポリスチレン製丼容器に盛った200gの米飯の上にのせてカツ丼を得た。得られたカツ丼は、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有し好ましかった。なお、ここでは示していないが、第1加工卵白液に対する第2加工卵白液の配合比率を1:10〜10:1に変更した場合も同様の結果となった。
【0048】
[試験例1]
実施例2及び比較例1〜3の各丼物用加工卵白液セットを用い、前記実施例3と同様の手順でカツ丼を調製し、丼物の卵とじ部分の外観を下記の評価基準に沿って評価した。
【0049】
表中の評価記号
<卵とじ表面の鬆防止>
A:丼物の卵とじ表面に鬆がほとんど立っていない。
B:丼物の卵とじ表面にやや鬆が立っている。
C:丼物の卵とじ表面に鬆が立ち、丼物の適性を損ねる。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の結果より、水溶性カルシウム塩を配合し粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)である第1加工卵白液と、水溶性アルギン酸塩を配合し粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い第2加工卵白液の1組からなる丼物用加工卵白液セットを用いて、割り下を加熱調理しながら、全卵液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで第2加工卵白液を上掛けすると、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有し好ましかった(実施例1、2)。また、実施例1の冷凍した丼物用加工卵白液セットを用いた場合、冷凍変性の影響を受けているにも関わらず、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有しており、実施例2より顕著な効果がみられた。一方、第1加工卵白液が水溶性カルシウム塩、又は第2加工卵白液が水溶性アルギン酸塩を配合しない場合、丼物の卵とじ表面に鬆が立ち、丼物の卵とじ部分の外観が手作りと異なり適性を損ねた(比較例1〜3)。
【0052】
[試験例2]
第1加工卵白液の粘度が本発明に及ぼす影響を調べるため、表2の配合表に従い第1加工卵白液のみを変更し、実施例1に準じて丼物用加工卵白液セットを調製した。さらに、試験例1と同様の方法で各丼物用加工卵白液セットを用いた丼物を調製し外観評価を行った。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の結果より、第1加工卵白液の粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)の場合、卵とじ表面に鬆が立たず、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有し好ましかった(No.2〜4)。特に0.8〜1.8Pa・s(品温20℃)の場合、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有しより好ましかった(No.3)。一方、第1加工卵白液の粘度が0.4Pa・s(品温20℃)未満、又は、2.0Pa・s(品温20℃)より高い場合、丼物の卵とじ表面に鬆が立ち、丼物の卵とじ部分の外観が手作りと異なり適性を損ねた(No.1、5)。
【0055】
[試験例3]
第2加工卵白液の粘度が本発明に及ぼす影響を調べるため、表3の配合表に従い第2加工卵白液のみを変更し、実施例1に準じて丼物用加工卵白液セットを調製した。さらに、試験例1と同様の方法で各丼物用加工卵白液セットを用いた丼物を調製し外観評価を行った。
【0056】
【表3】

【0057】
表3の結果より、第2加工卵白液の粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)の場合、卵とじ表面に鬆が立たず、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有し好ましかった(No.7〜9)。特に0.1〜0.3Pa・s(品温20℃)の場合、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有しより好ましかった(No.8)。一方、第2加工卵白液の粘度が0.05Pa・s(品温20℃)未満、又は、0.5Pa・s(品温20℃)より高い場合、丼物の卵とじ表面に鬆が立ち、丼物の卵とじ部分の外観が手作りと異なり適性を損ねた(No.6、10)。
【0058】
[試験例4]
第1加工卵白液及び第2加工卵白液の粘度差が、本発明に及ぼす影響を調べるため、表4の配合表に従い第1加工卵白液のみを変更し、実施例2に準じて丼物用加工卵白液セットを調製した。さらに、試験例1と同様の方法で各丼物用加工卵白液セットを用いた丼物を調製し外観評価を行った。
【0059】
【表4】

【0060】
表4の結果より、第2加工卵白液の粘度が、第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低い場合、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、丼物の卵とじ部分がほとんど手作りと同様の外観を有し好ましかった(No.13〜15)。一方、水溶性カルシウム塩を配合し粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)である第1加工卵白液と、水溶性アルギン酸塩を配合し粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)である第2加工卵白液を用いても、前記第2加工卵白液の粘度が、前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低くない場合、丼物の卵とじ表面に鬆が立ち、丼物の卵とじ部分の外観が手作りと異なり適性を損ねた(No.12)。
【0061】
[実施例4]
実施例1で調製した丼物用加工卵白液セットを用いて、下記手順でカツ丼を調製した。まず、みりん8%、濃口醤油8%、カツオだし(顆粒)1.5%及び清水82.5%を攪拌混合し割り下を調製した。次に、1メートル四方の矩形の型枠に前記割り下1600gを流し入れた後、80℃で加熱調理しながら、玉葱のスライス25gの上に6つ切りにしたヒレカツ120gを重ねたもの16セットを一定間隔で並べ入れた。次に、全卵液480g及び一部の第2加工卵白液120gの攪拌混合液を投入し、ついで第1加工卵白液240gを上掛けし、ついで残りの第2加工卵白液120gを上掛けして丼物の具を調製した。最後に、加熱調理を止め、調製した丼物の具をヘラで16セットに切り分けたものをポリスチレン製丼容器に盛った200gの米飯の上にのせてカツ丼を得た。得られたカツ丼は、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、かつ、卵黄凝固物の黄色、卵白凝固物の白色及び2つの中間色が手作り様に混ざり合い、実施例3のカツ丼より手作りに近い外観を有していた。
【0062】
[実施例5]
実施例2の丼物用加工卵白液セットを用い下記手順でうな卵丼を調製した。まず、濃口醤油8%、酒4%、みりん4%、上白糖3%、カツオだし(顆粒)2%及び清水79%を攪拌混合し割り下を調製した。次に、1メートル四方の矩形の型枠に前記割り下1600gを流し入れた後、80℃で加熱調理しながら、ごぼうのささがき30gの上に4つ切りにしたうなぎの蒲焼き100gを重ねたもの16セットを一定間隔で並べ入れた。次に、全卵液600g及び一部の第2加工卵白液120gの攪拌混合液を投入し、ついで第1加工卵白液120gを上掛けし、ついで残りの第2加工卵白液120gを上掛けして丼物の具を調製した。最後に、加熱調理を止め、調製した丼物の具をヘラで16セットに切り分けたものをポリスチレン製丼容器に盛った200gの米飯の上にのせてうな卵丼を得た。得られたうな玉丼は、卵とじ表面にほとんど鬆が立たず、かつ、卵黄凝固物の黄色、卵白凝固物の白色及び2つの中間色が手作り様に混ざり合い、丼物の卵とじ部分が手作りと同様の外観を有し好ましかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1加工卵白液と第2加工卵白液の1組からなる丼物用加工卵白液セットであって、前記第1加工卵白液が、水溶性カルシウム塩を配合し、粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、前記第2加工卵白液が、水溶性アルギン酸塩を配合し、粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低いことを特徴とする丼物用加工卵白液セット。
【請求項2】
割り下を加熱調理しながら、全卵液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで第2加工卵白液を上掛けする丼物の製造方法であって、前記第1加工卵白液が、水溶性カルシウム塩を配合し、粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、前記第2加工卵白液が、水溶性アルギン酸塩を配合し、粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低いことを特徴とする丼物の製造方法。
【請求項3】
割り下を加熱調理しながら、全卵液及び一部の第2加工卵白液の混合液を投入し、ついで第1加工卵白液を上掛けし、ついで残りの第2加工卵白液を上掛けする丼物の製造方法であって、前記第1加工卵白液が、水溶性カルシウム塩を配合し、粘度が0.4〜2.0Pa・s(品温20℃)であり、前記第2加工卵白液が、水溶性アルギン酸塩を配合し、粘度が0.05〜0.5Pa・s(品温20℃)かつ前記第1加工卵白液より0.3Pa・s(品温20℃)以上低いことを特徴とする丼物の製造方法。

【公開番号】特開2010−220502(P2010−220502A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69116(P2009−69116)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】