説明

乗員拘束ベルト及び乗員拘束装置

【課題】乗員の肩部の上方を通って該乗員の前面側に引き回され、該乗員の肩部の上方に配置される部分から該乗員の前面側に配置される部分にかけて膨張可能部となっている乗員拘束ベルトにおいて、この膨張可能部の容積を過度に増大させることなく、該乗員拘束ベルトを乗員の肩部の上面の上部に当接させることができる乗員拘束ベルト及び乗員拘束装置を提供する。
【解決手段】乗員拘束ベルト1のショルダーベルト部10は、乗員の肩部の上方に配置される肩上配置部10Sと、乗員の前面側にかけて配置される前側配置部10Fとを有している。ショルダーベルト部10は、前側配置部10Fから肩上配置部10Sにかけて、乗員の肩部の上面に沿って曲った形状に膨張するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに座った乗員を拘束する膨張可能な乗員拘束ベルトと、この乗員拘束ベルトを備えた乗員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートに座った乗員を膨張可能なベルトで拘束する乗員拘束装置として、乗員の肩部の上方を通って該乗員の前面側に引き回され、該乗員の肩部の上方に配置される部分から該乗員の前面側に配置される部分にかけて膨張可能部となっている乗員拘束ベルトを備えた乗員拘束装置が公知である(例えば、特開2003−312439号公報)。
【0003】
上記特開2003−312439号公報の乗員拘束装置(エアベルト装置)にあっては、車両のシートの斜め後方に位置するピラー部の上部にショルダーアンカが取り付けられており、このショルダーアンカに掛通された乗員拘束ベルトが、該シートに座った乗員の前面側へ引き回される。
【0004】
この乗員拘束ベルトは、該ショルダーアンカから乗員の一方の肩部の上方を通って該乗員の上半身の前面側を該ショルダーアンカと反対側の腰部付近まで斜めに引き回されるショルダーベルト部と、該ショルダーベルト部の下端に連なっており、乗員の腹部付近を覆うように左右方向に引き回されるラップベルト部とを有している。同号公報では、該ショルダーベルト部は膨張可能な袋状ベルトにより構成されている。この袋状ベルトは、上端側が乗員の肩部の上方に位置するように配置される。なお、同号公報では、ラップベルト部も、膨張可能な袋状ベルトにより構成されている。
【0005】
車両衝突時や横転時等には、該ショルダーベルト部及びラップベルト部が膨張して乗員を拘束する。この際、該ショルダーベルト部の上端側は乗員の肩部の上方、即ち乗員の頭部と車室側面との間において膨張する。これにより、乗員の頭部が車室側面等に直に当ることが防止される。
【特許文献1】特開2003−312439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特開2003−312439号公報の図2のように、ショルダーアンカがシートのシートバックの上端よりも高い位置に配置されていると、このショルダーアンカから乗員の前面側に引き回された乗員拘束ベルト(ショルダーベルト部)は、乗員の肩部の上面から上方へ離隔して延在し、乗員の肩部の上面と乗員拘束ベルトとの間にやや広い空間が存在することとなる。
【0007】
乗員拘束ベルトを膨張させるに当って、この乗員拘束ベルトと乗員拘束装置の肩部の上面との間の空間を埋めるようにするためには、該乗員拘束ベルトを下側へ余分に膨張させる必要がある。このように構成すると、乗員拘束ベルトの膨張可能部の容積はかなり大きなものとなる。
【0008】
本発明は、乗員の肩部の上方を通って該乗員の前面側に引き回され、該乗員の肩部の上方に配置される部分から該乗員の前面側に配置される部分にかけて膨張可能部となっている乗員拘束ベルトにおいて、この膨張可能部の容積を過度に増大させることなく、該乗員拘束ベルトを乗員の肩部の上面に当接させることができる乗員拘束ベルト及び乗員拘束装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の乗員拘束ベルトは、乗員の肩部の上方を通って該乗員の前面側に引き回され、該乗員の肩部の上方に配置される部分から該乗員の前面側に配置される部分にかけて膨張可能部となっており、該膨張可能部は、膨張した状態において、該乗員の肩部の上方に配置される肩上配置部と、該乗員の肩部よりも下側の部位の前面側に配置される前側配置部とを有する乗員拘束ベルトにおいて、該膨張可能部は、該前側配置部から肩上配置部にかけて、該肩部の上面に沿って曲った形状に膨張するよう構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の乗員拘束ベルトは、請求項1において、該膨張可能部は、少なくとも乗員の肩部の前面側から該肩部の上方に配置される部分において、該乗員と対面する側の長さがこれと反対側の長さよりも短く、これにより、該膨張可能部は、該前側配置部から肩上配置部にかけて、該肩部の上面に沿って曲った形状に膨張するよう構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の乗員拘束装置は、膨張可能部を有する乗員拘束ベルトと、該膨張可能部を膨張させるインフレータとを備えた乗員拘束装置において、該乗員拘束ベルトは、請求項1又は2に記載の乗員拘束ベルトであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乗員拘束ベルト及び乗員拘束装置にあっては、該乗員拘束ベルトの膨張可能部は、前側配置部から肩上配置部にかけて、乗員の肩部の上面に沿って曲った形状に膨張するよう構成されている。このように構成することにより、膨張可能部の容積を過度に増大させることなく、膨張した該膨張可能部を乗員の肩部の上面に当接させることができる。
【0013】
請求項2にあっては、膨張可能部が膨張した場合、肩上配置部が乗員と対面する側に引張られて乗員の肩部の上面にしっかりと当接するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
第1図は実施の形態に係る膨張可能な乗員拘束ベルトを備えた乗員拘束装置の斜視図であり、第2図はこの乗員拘束ベルトの膨張可能部の側面図である。なお、第1図及び第2図は、膨張可能部が膨張した状態を示している。第3図(a)はこの膨張可能部を構成するパネル(基布)の展開図、第3図(b)は縫製後の膨張可能部の側面図、第3図(c)は第3図(b)のB−B線断面図である。第4〜9図はこの膨張可能部(バッグ)の折り畳み手順の説明図である。なお、第4〜9図の(a)図は膨張可能部の平面図であり、第4,5図の(b)図は同(a)図のB−B線断面図、第6〜9図の(b)図は同(a)図のB−B線矢視図である。
【0016】
この実施の形態の乗員拘束装置は、車両のシートに座った乗員の一方の肩部の上方を通って該乗員の上半身の前面側を斜めに(この実施の形態では左上から右下へ)引き回される、膨張可能なショルダーベルト部10と、該ショルダーベルト部10に接続されたウェビング10aと、この乗員の腰部付近の上側を左右方向に引き回されるラップベルト部11と、該シートの側方(この実施の形態では右側)に隣接して設置されたバックル装置12と、ベルト装着時に該バックル装置12に挿入係止されるタング13と、ウェビング10aを案内するショルダーアンカ14等を備えている。
【0017】
この実施の形態では、該ショルダーベルト部10、ウェビング10a及びラップベルト部11により乗員拘束ベルト1が構成されている。
【0018】
該ショルダーベルト部10は、第2図に示すように、乗員の肩部の上方に配置される肩上配置部10Sと、該乗員の肩部の前面側から腰部の前面側にかけて配置される前側配置部10Fとを有している。この肩上配置部10Sと前側配置部10Fとは一連のものとなっている。図示の通り、このショルダーベルト部10は、該前側配置部10Fから肩上配置部10Sにかけて、乗員の肩部の上面に沿って曲った形状に膨張しうるように構成されている。
【0019】
この実施の形態では、第2図に示すように、該前側配置部10Fから肩上配置部10Sにかけての乗員と対向する側の長さLがこれと反対側の長さLより短くなっており、これにより、ショルダーベルト部10は、膨張したときに肩上配置部10Sが乗員側へ引張られて該乗員の肩部上面に沿って曲った形状となるようになっている。
【0020】
この実施の形態では、該ショルダーベルト部10は、太幅の帯状のバッグ20を細幅帯状となるように折り畳んでカバーにより覆ったものであり、通常時には帯状に保形されている。
【0021】
このバッグ20は、ショルダーベルト部10とされたときに肩上配置部10Sを構成する肩上配置部構成室20Sと、前側配置部10Fを構成する前側配置部構成室20Fとを有し、これらの室20F,20Sが略「く」字形に連なったものとなっている。なお、本発明においては、該前側配置部構成室20Fの延在方向の軸心線Cからの肩上配置部構成室20Sの延在方向の軸心線Cの傾きθ(第3図(b))は、10〜45°程度であることが好ましい。この実施の形態では、該前側配置部構成室20Fの肩上配置部構成室20Sと反対側の端部にガス導入口21が形成されている。
【0022】
この実施の形態では、該バッグ20は、膨張した状態におけるショルダーベルト部10の左半側及び右半側の各側面をそれぞれ形成する2個のくの字形パネル部分22L,22Rを有するパネル22により構成されている。該パネル部分22L,22R同士は、各々の前側配置部10F(前側配置部構成室20F)の側面を形成する領域の乗員と反対側となる辺縁において連なり合っている。このパネル22を該パネル部分22L,22Rの境界線(折り返し線)Lに沿って2つ折りにし、重なり合った辺縁同士を縫糸23等の縫合手段によって結合することにより、袋状のバッグ20が構成されている。
【0023】
なお、第3図(a)の二点鎖線Lは、この縫糸23による縫合線を示している。符号24はこのパネル22のガス導入口21の周辺部分の補強布を示し、二点鎖線Lは、この補強布24のパネル22への縫合線を示している。
【0024】
この実施の形態では、前述のショルダーベルト部10の乗員と反対側の長さLは、このバッグ20の前側配置部構成室20Fから肩上配置部構成室20Sにかけての前記折り返し線Lに沿う辺縁(以下、辺縁Lと称することがある。)の長さをいい、乗員側の長さLは、該前側配置部構成室20Fから肩上配置部構成室20Sにかけての各パネル部分22L,22Rの該折り返し線Lと対向する辺縁22a(縫合された辺縁)の長さをいう。この辺縁22aが辺縁Lよりも短くなっている。
【0025】
次に、このバッグ20の折り畳み手順について説明する。
【0026】
まず、第3図(b)のように、各パネル部分22L,22R同士を重ね合わせるようにしてバッグ20を平たく広げる。次いで、第4図のように、肩上配置部構成室20Sの先端側を該パネル部分22L,22R同士の間に折り込み、該肩上配置部構成室20Sの長さを短くする。
【0027】
次に、第5図のように、この肩上配置部構成室20Sの根元付近を回動中心として該肩上配置部構成室20Sを辺縁L側へ回動させるようにして、バッグ20を前側配置部構成室20Fから肩上配置部構成室20Sにかけて真直ぐに延在するようにする。この際、該肩上配置部構成室20Sの根元付近に生じるたるみ部22bは、パネル部分22L,22R同士の間に折り込む。
【0028】
その後、このバッグ20の折り畳み中間体を、幅が小さくなるように第6〜9図の如く折り畳み、細幅帯状の折り畳み体とする。その後、この折り畳み体にバンド(図示略)を巻き付けるなどして保形する。
【0029】
この細幅帯状のバッグ20の折り畳み体にカバーを被せることにより、ショルダーベルト部10が構成される。
【0030】
このショルダーベルト部10の肩上配置部10S側の端部に縫合等により前記ウェビング10aが接続され、他端側(ガス導入口21側)にタング13が連結されている。
【0031】
ウェビング10aは、従来の一般的な非膨張式シートベルトと同様のノーマルベルトよりなり、ショルダーアンカ14に摺動自在に案内掛通されている。ウェビング10aの端部は、車体に設置された緊急時ロック機構付きシートベルトリトラクタ(ELR)15に巻き取り可能に連結されている。
【0032】
この実施の形態では、バックル装置12に、車両衝突時等の緊急必要時に作動して高圧のガスを発生するインフレータ17が連結されており、タング13には、このインフレータ17からのガスをショルダーベルト部10に導くための通路(図示略)が設けられている。前記バッグ20のガス導入口21はこの通路に連通している。
【0033】
なお、この実施の形態では、ラップベルト部11も、一般的な非膨張式シートベルトと同様のノーマルベルトにより形成され、その一端がタング13に連結されているとともに、他端が、シートのバックル装置12と反対側に設置されたシートベルトリトラクタ(ELR)16に巻き取り可能に連結されている。
【0034】
この乗員拘束ベルト1は、通常のシートベルトと同様に使用される。車両の衝突時や横転時等にインフレータ17が作動すると、前記通路及びガス導入口21を介してショルダーベルト部10(バッグ20)内にガスが導入され、第2図の如くショルダーベルト部10が厚み(径)を増大させるように膨張する。
【0035】
この乗員拘束ベルト1にあっては、ショルダーベルト部10が、その前側配置部10Fから肩上配置部10Sにかけて、乗員の肩部の上面に沿って曲った形状に膨張するよう構成されている。このように構成することにより、該ショルダーベルト部10の容積を過度に増大させることなく、膨張した該ショルダーベルト部10を乗員の肩部の上面に当接させることができる。
【0036】
上記実施の形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は図示の構成に限定されない。
【0037】
上記の実施の形態では乗員拘束ベルトはショルダーベルト部10のみ膨張する構成となっているが、ラップベルト部11も膨張するように構成してもよい。この乗員拘束ベルトの膨張可能部へのガス供給システムやベルト非装着時の巻き取りシステム、タングやスルーアンカへのベルトの掛通構造などは、図示以外の構成であってもよい。
【0038】
上記の実施の形態では、膨張可能部(ショルダーベルト部10)は、肩上配置部10Sが前側配置部10Fよりも太く、且つ該前側配置部10Fはその全長にわたって太さが略同等となるよう構成されているが、膨張可能部の各部の太さはこれに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施の形態に係る膨張可能な乗員拘束ベルトを備えた乗員拘束装置の斜視図である。
【図2】図1の乗員拘束ベルトの膨張可能部の側面図である。
【図3】膨張可能部の構成図である。
【図4】膨張可能部の折り畳み手順の説明図である。
【図5】膨張可能部の折り畳み手順の説明図である。
【図6】膨張可能部の折り畳み手順の説明図である。
【図7】膨張可能部の折り畳み手順の説明図である。
【図8】膨張可能部の折り畳み手順の説明図である。
【図9】膨張可能部の折り畳み手順の説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 乗員拘束ベルト
10 ショルダーベルト部
10a ウェビング
10F 前側配置部
10S 肩上配置部
11 ラップベルト部
12 バックル装置
13 タング
14 ショルダーアンカ
15,16 リトラクタ
17 インフレータ
20 バッグ
20F 前側配置部構成室
20S 肩上配置部構成室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の肩部の上方を通って該乗員の前面側に引き回され、該乗員の肩部の上方に配置される部分から該乗員の前面側に配置される部分にかけて膨張可能部となっており、
該膨張可能部は、膨張した状態において、該乗員の肩部の上方に配置される肩上配置部と、該乗員の肩部よりも下側の部位の前面側に配置される前側配置部とを有する乗員拘束ベルトにおいて、
該膨張可能部は、該前側配置部から肩上配置部にかけて、該肩部の上面に沿って曲った形状に膨張するよう構成されていることを特徴とする乗員拘束ベルト。
【請求項2】
請求項1において、該膨張可能部は、少なくとも乗員の肩部の前面側から該肩部の上方に配置される部分において、該乗員と対面する側の長さがこれと反対側の長さよりも短く、これにより、該膨張可能部は、該前側配置部から肩上配置部にかけて、該肩部の上面に沿って曲った形状に膨張するよう構成されていることを特徴とする乗員拘束ベルト。
【請求項3】
膨張可能部を有する乗員拘束ベルトと、該膨張可能部を膨張させるインフレータとを備えた乗員拘束装置において、
該乗員拘束ベルトは、請求項1又は2に記載の乗員拘束ベルトであることを特徴とする乗員拘束装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate