説明

乗員検知システム

【課題】乗員の体格の判定を安定、且つ継続して判定することができる乗員検知システムを提供する。
【解決手段】乗員検知システム1では、電界発生部40が測定電極21に電界を発生させ、電流検出部7が測定電極21に流れる電流を検出する。また、電極選択部4が、被水電極22を接地した状態にして電流を検出する被水検知モードと被水電極22を非接地した状態にして電流を検出する乗員検知モードとに応じて、被水電極22の接続を切り換える。判定部61が、被水検知モードによって検出された電流における実数成分によって示される第1抵抗成分と、シート20が非被水状態にある場合の第1抵抗成分に基づいて算出された非被水状態における第2抵抗成分とに基づいて、乗員検知モードによって検出された電流における虚数成分によって示される容量成分の補正値を生成し、補正値に基づいて乗員の体格を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ・システムは、自動車の安全装置として普及しているが、乗員の体格や乗員の取る姿勢などによって、フロント・エアバッグを展開することで、乗員を危険にさらす可能性がある。このため、例えば米国連邦車両基準「FMVSS208」においては、エアバッグ・システムが、助手席シートに着席している乗員の体重に基づいてフロント・エアバッグの展開/非展開を制御するように定めている。
また、サイド・エアバッグを搭載した自動車においても、助手席シートにおける乗員の着席状況などに応じて、サイド・エアバッグの展開を制御することが自主的になされている。
このようなエアバッグ・システムでは、エアバッグの展開を制御するために、助手席シートに着席している乗員を検知するために、乗員検知システムを用いている。
【0003】
このような乗員検知システムにおいて、乗員検知を行う技術として、助手席シートの座面のシートクッションに微弱電界を発生する電極を備える静電容量検出型(電界系)の乗員検知システムが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
例えば、このような静電容量検出型の乗員検知システムでは、助手席シートの座面又は背面、あるいはその両方に電極を配置し、電極を交流駆動(AC駆動)して、電極と被測定物(乗員)との間に微弱電界を発生させる。この微弱電界は、電極と被測定物(乗員)との表面に電荷を生じさせる。このように、電極と被測定物(乗員)との表面は容量結合となり、この電極と被測定物(乗員)との間の容量が被測定物(乗員)の体格又は着席状況によって変化する。そのため、このような静電容量系の乗員検知システムでは、被測定物(乗員)の体格及び着席状況を、変位電流の変化として検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,696,948号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような乗員検知システムにおいて、乗員の体格を識別して、エアバッグを制御するためには、助手席シートにおける乗員の体格の判定が重要である。上述のような乗員検知システムは、法令に対応させて、自動車が前方方向に衝突した場合に、6歳児相当の子供以下では、フロント・エアバッグの展開を抑制する。また、上述のような乗員検知システムは、5パーセントタイル成人女性に相当する大人以上では、フロント・エアバッグの展開機能を維持する。なお、5パーセントタイル成人女性とは、成人女性の分布において、小柄なほうの5%に相当する女性のことである。
また、上述のような乗員検知システムでは、助手席シートが被水するなどの外乱によって、乗員の体格の判定を安定して行うことができないことがあった。すなわち、上述のような乗員検知システムでは、乗員の体格の区別において、被水などの外乱の影響よって、乗員の体格を安定して判定できないという課題があった。
【0006】
この課題を解決するために、特許文献1に記載されている乗員検知システムでは、測定モデルとして、抵抗成分(実数成分)と容量成分(虚数成分)との並列モデルを仮定して、抵抗成分の大きさに基づいて、シートの被水を検出する。そして、特許文献1に記載されている乗員検知システムでは、シートの被水を検出した場合に、正確に乗員の体格を判定できないという警告を出力することにより、判定の安定性を確保している。
しかしながら、特許文献1に記載されている乗員検知システムでは、警告によって判定の安定性は確保されるが、警告が出力されている間は、正確に乗員の体格を判定できない。つまり、特許文献1に記載されている乗員検知システムは、乗員の体格の判定を安定、且つ継続して判定できないという課題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、乗員の体格の判定を安定、且つ継続して判定することができる乗員検知システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、本発明は、シートに着席している乗員との間に電界が発生する測定電極と、前記測定電極に近接して配置された被水電極と、前記電界を発生させる電界発生部と、前記測定電極に流れる電流を検出する電流検出部と、前記被水電極を接地した状態にして前記電流を検出する第1検知モードと前記被水電極を非接地した状態にして前記電流を検出する第2検知モードとに応じて、前記被水電極の接続を切り換える切り換え部と、前記第1検知モードによって検出された前記電流における実数成分によって示される第1抵抗成分と、前記シートが乾燥している非被水状態にある場合の前記第1抵抗成分に基づいて算出された第2抵抗成分とに基づいて、前記第2検知モードによって検出された前記電流における虚数成分によって示される容量成分の補正値を生成し、前記補正値に基づいて前記乗員の体格を判定する判定部とを備えることを特徴とする乗員検知システムである。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、前記第2抵抗成分は、前記シートが非被水状態にある場合の前記第1抵抗成分における平均値であり、前記判定部は、前記容量成分の値が予め設定された範囲内である場合、且つ、前記第1抵抗成分の値が予め定められた範囲内である場合に、前記第1抵抗成分に基づいて前記第2抵抗成分を算出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、前記判定部は、前記第1検知モードによって検出された前記電流における実数成分と、前記シートに着席していない空席状態において予め検出された前記電流における実数成分との差として前記第1抵抗成分を抽出し、前記第2検知モードによって検出された前記電流における虚数成分と、前記空席状態において予め検出された前記電流における虚数成分との差として前記容量成分を抽出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、前記判定部は、前記第1抵抗成分の値が予め定められた閾値以上の場合に、前記閾値を前記第1抵抗成分にすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記判定部は、前記電界発生部から予め定められた抵抗値を示す抵抗素子に流れる電流であって、前記電流検出部によって予め検出されている電流における実数成分に基づいて、前記第1抵抗成分を補正することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記判定部は、前記電界発生部から予め定められた容量値を示す静電容量素子に流れる電流であって、前記電流検出部によって予め検出されている電流における虚数成分に基づいて、前記容量成分を補正することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記判定部は、前記乗員の体格の判定結果に基づく情報を、エアバッグを展開させるエアバッグ装置に送信し、前記エアバッグ装置30に対して前記エアバッグを展開可能な状態又は展開不可能な状態のいずれか一方にセットさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、乗員検知システムは、乗員の体格の判定を安定、且つ継続して判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態による乗員検知システムを示す概略ブロック図である。
【図2】同実施形態における測定電極と被水電極との配置の一例を示す図である。
【図3】同実施形態におけるシートの一例を示す図である。
【図4】同実施形態における乗員検知モードの状態を示す図である。
【図5】同実施形態における被水していない場合の測定モデルを示す図である。
【図6】同実施形態における被水している場合の測定モデルを示す図である。
【図7】同実施形態における抵抗成分と容量成分の測定方法の一例を示す図である。
【図8】同実施形態における抵抗成分と容量成分の測定結果の一例を示す図である。
【図9】同実施形態における乗員検知処理を示すフローチャートである。
【図10】同実施形態における基準負荷による線形補間を示す図である。
【図11】同実施形態における非被水状態の抵抗成分の平均値を更新する処理を示すフローチャートである。
【図12】同実施形態における非被水状態の抵抗成分の平均値を更新する処理を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態による乗員検知システムについて、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態による乗員検知システム1を示す概略ブロック図である。
この図において、乗員検知システム1は、乗員検知部10、シート20、及びエアバッグ装置30を備えている。
【0018】
シート20は、例えば、自動車の助手席シートであり、乗員が着席する。シート20は、測定電極21、被水電極22、裏面シールド電極23、及びシールド部24を備えている。
【0019】
測定電極21は、測定電極21と乗員との間に容量結合を生じさせる電極である。測定電極21は、シート20に着席している乗員との間に微弱電界が発生する。測定電極21は、シート20と乗員とが接する面(座面又は背面)と、裏面シールド電極23との間に配置される。また、測定電極21には、乗員を検知する際に、乗員検知部10から交流電圧が印加される。
被水電極22は、測定電極21に近接して配置され、シート20が被水している被水状態を判定するために使用される電極である。
【0020】
裏面シールド電極23は、測定電極21において乗員以外との容量結合を抑制する。裏面シールド電極23には、乗員を検知する際に、測定電極21に印加される交流電圧と同じ位相の交流電圧が乗員検知部10から印加される。
シールド部24は、乗員検知部10から測定電極21、被水電極22、及び裏面シールド電極23にそれぞれ接続される配線を覆うように配置され、これらの配線に発生する容量結合を抑制する。シールド部24には、裏面シールド電極23と同様に、乗員を検知する際に、測定電極21に印加される交流電圧と同じ位相の交流電圧が乗員検知部10から印加される。
【0021】
乗員検知部10は、電源部2、シールド駆動部3、電極選択部4、電流検出部7、記憶部8、警告灯駆動部9、電界発生部40、伝装通信部50、及び制御部60を備えている。
【0022】
電源部2は、乗員検知部10の各部に駆動電圧を供給する。
電界発生部40は、電源部2から供給された駆動電圧から正弦波の交流電圧を生成して、生成した交流電圧をシールド駆動部3及び電極選択部4に供給する。つまり、電界発生部40は、電極選択部4を介して測定電極21に交流電圧を印加して、測定電極21に微弱電界を発生させる。
また、電界発生部40は、正弦波発振部41及び電極駆動部42を備えている。
【0023】
正弦波発振部41は、電源部2から供給された駆動電圧から正弦波の交流信号(例えば、120kHz(キロヘルツ))を生成する発信回路である。正弦波発振部41は、生成した交流信号をシールド駆動部3及び電極駆動部42に供給する。
電極駆動部42は、正弦波発振部41から供給された正弦波の交流信号に基づいて、測定電極21及び裏面シールド電極23に印加する交流電圧を生成する。
シールド駆動部3は、正弦波発振部41から供給された正弦波の交流信号に基づいて、シールド部24に印加する交流電圧を生成する。
【0024】
電極選択部4(切り換え部)は、電界発生部40とシート20との間に配置され、測定電極21、被水電極22及び裏面シールド電極23に対する接続を切り換える。つまり、電極選択部4は、制御部60から供給される制御信号に基づいて、被水検知モード(第1検知モード)と乗員検知モード(第2の検知モード)とに応じて、被水電極22の接続を切り換える。ここで、被水検知モードとは、シート20の被水状態を検知するモードであり、この検知モードにおいて、乗員検知部10は、被水電極22を接地した状態にして測定電極21と乗員との容量結合によって生じる変位電流を検出する。また、乗員検知モードとは、乗員の体格や座席状態を検知するモードであり、この検知モードにおいて、乗員検知部10は、被水電極22を非接地した状態(例えば、オープン状態)にして測定電極21と乗員との容量結合によって生じる変位電流を検出する。
【0025】
電流検出部7は、測定電極21と乗員との容量結合によって生じる変位電流を検出する。すなわち、電流検出部7は、微弱電界に基づいて測定電極21に流れる変位電流を検出する。
また、電流検出部7、変位電流電圧変換部5、及び直交検波部6を備えている。
【0026】
変位電流電圧変換部5は、測定電極21に生じる変位電流を電圧(交流電圧)に変換する。
直交検波部6は、変位電流電圧変換部5よって変換された電圧を、例えば、直交検波などの手法を用いて、容量性負荷に依存する成分(容量成分)と抵抗性負荷に依存する成分(抵抗成分)とに分離して制御部60に出力する。つまり、直交検波部6は、電圧を検出することによって、測定電極21に流れる変位電流を検出し、さらに、容量成分(虚数成分)と抵抗成分(実数成分)とに分離して、制御部60に出力する。
【0027】
記憶部8は、上述の変位電流における容量成分及び抵抗成分を補正する際に使用される情報を記憶する。記憶部8が記憶する情報には、容量成分及び抵抗成分の初期化空席値、シート20が乾燥した状態(非被水状態)における抵抗成分1/Rの学習データ、及び基準負荷による測定情報などが含まれる。これらの情報の詳細は、後述する。
【0028】
制御部60は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などを含み、乗員検知部10の各部の制御を行う。具体的には、制御部60は、電極選択部4に制御信号を出力し、被水検知モードと乗員検知モードとによる電極を電極選択部4に切り換えさせる。また、制御部60は、電流検出部7によって検出された変位電流(容量成分及び抵抗成分)に基づいて、乗員の体格を判定する。制御部60は、乗員の判定結果に基づく情報を伝装通信部50に出力する。また、制御部60は、乗員の体格を判定において、外乱などの影響により、正しく乗員の体格を判定できない場合に、警告灯駆動部9に警告灯を点灯させる制御信号を出力する。
ここで、制御部60は、図示されない記憶部に記憶されたプログラムとCPUによって、制御処理を実行する。また、制御部60は、判定部61を備えている。
【0029】
判定部61は、被水検知モード(第1検知モード)によって検出された変位電流における抵抗成分(第1抵抗成分)と、非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)とに基づいて、乗員検知モード(第2の検知モード)によって検出された変位電流における容量成分の補正値を生成する。判定部61は、生成した補正値に基づいて乗員の体格を判定する。ここで、非被水状態における1/Rの学習データとは、シート20が乾燥した状態(非被水状態)にある場合に被水検知モードによって検出された抵抗成分に基づいて算出された情報である。
なお、非被水状態における1/Rの学習データは、記憶部8に記憶されている。判定部61は、非被水状態にある場合に被水検知モードによって検出された抵抗成分に基づいて算出して記憶部8に記憶させる1/Rの学習データの更新処理を行う。この更新処理の詳細は、後述する。
【0030】
判定部61は、例えば、上述した容量成分の補正値が予め定められた閾値以下である場合に乗員が子供であると判定し、予め定められた閾値より大きい場合に、乗員が大人であると判定する。判定部61は、乗員の判定結果に基づく情報を伝装通信部50に出力する。また、判定部61は、乗員の体格を判定において、外乱などの影響により、正しく乗員の体格を判定できない場合に、警告灯駆動部50に警告灯を点灯させる制御信号を出力する。
【0031】
警告灯駆動部9は、警告灯(不図示)を点灯させる駆動信号を出力する。警告灯駆動部9は、制御部60の判定部61から出力される制御信号に基づいて警告灯を点灯させる。自動車のユーザは、警告灯が点灯されることによって、乗員検知システム1が乗員の体格を正しく判定することができない状態であることを認識することができる。
伝装通信部50は、制御部60の判定部61から出力された乗員の判定結果に基づく情報をエアバッグ装置30に出力する。
【0032】
エアバッグ装置30は、自動車が衝突した場合に展開するエアバッグを備え、衝突に基づいてエアバッグを展開させる機能を有する。エアバッグ装置30は、判定部61から伝装通信部50を介して送信された乗員の判定結果に基づく情報に応じて、エアバッグを展開可能な状態又は展開不可能な状態のいずれか一方にセットする。具体的には、エアバッグ装置30は、判定結果に基づく情報が大人の乗員であることを示している場合に、エアバッグを展開可能な状態にセットする。また、エアバッグ装置30は、判定結果に基づく情報が子供の乗員であることを示している場合に、エアバッグを展開不可能な状態にセットする。
【0033】
次に、本実施形態において乗員を検知するための測定電極21及び被水電極22の配置について説明する、
図2は、本実施形態における測定電極21と被水電極22との配置の一例を示す図である。
【0034】
図2(a)は、正面(乗員側)からシート20を見た測定電極21と被水電極22との配置を示している。この図において、被水電極22は、測定電極21に近接して配置され、さらに、測定電極21を囲うように配置されている。
また、図2(b)は、図2(a)の直線A−Bにおける断面図である。この図において、測定電極21と被水電極22とは、基材25に接して配置されている。また、測定電極21及び被水電極22において、基材25に接していない面を覆うように、レジスト26が配置されている。さらに、裏面シールド電極23が、基材25を挟んで測定電極21に対向する位置に、基材25に接して配置されている。
【0035】
図3は、本実施形態におけるシート20の一例を示す図である。
この図が示すように、測定電極21、被水電極22、及び裏面シールド電極23は、シート20の内部に設置される。また、シート20には、乗員(被対象物OB)が着席し、乗員を検知する際には、測定電極21から微弱電界が発生する。
【0036】
次に、本実施形態における、乗員検知の原理について説明する。
図4は、本実施形態における乗員検知モードの状態を示す図である。
図4(a)は、被水検知モード(第1検知モード)における設定を示している。この図が示すように、被水検知モードでは、被水電極22は、電極選択部4によって、接地される。また、電界発生部40は、電極選択部4を介して測定電極21及び裏面シールド電極23に交流電圧を印加する。これにより、測定電極21から微弱電界が発生する。この微弱電界は、レジスト26及びトリム27を介して被水電極22に到達する。つまり、被水検知モードでは、微弱電界に基づいて、測定電極21と被水電極22とが容量結合される。被水検知モードでは、電流検出部7が、この状態における変位電流Itを検出する。
【0037】
図4(b)は、乗員検知モード(第2検知モード)における設定を示している。この図が示すように、乗員検知モードでは、被水電極22は、電極選択部4によって、非接地状態(例えば、何も接続されないオープン状態)にされる。また、電界発生部40は、電極選択部4を介して測定電極21及び裏面シールド電極23に交流電圧を印加する。これにより、測定電極21から微弱電界が発生する。被水検知モードでは、電流検出部7が、この状態における変位電流Itを検出する。
【0038】
図5は、本実施形態における被水していない場合の測定モデルを示す図である。
図5(a)は、シート20が被水していない場合(非被水状態にある場合)における被水検知モードの測定モデルを示している。この図において、測定モデルは、電界発生部40から印加される交流電圧によって発生する微弱電界に基づいて、測定電極21と被水電極22とがシート20上の乗員である被対象物OBを介して容量結合されるモデルとなる。この測定モデルにおいて、変位電流Itは、大部分が容量負荷に依存する電流である。
【0039】
図5(b)は、シート20が被水していない場合(非被水状態にある場合)における乗員検知モードの測定モデルを示している。この図において、測定モデルは、電界発生部40から印加される交流電圧によって発生する微弱電界に基づいて、シート20上の乗員である被対象物OBと測定電極21とが、容量結合されるモデルとなる。この測定モデルにおいて、変位電流Itは、図5(a)に示される場合と同様に、大部分が容量負荷に依存する電流である。
【0040】
図6は、本実施形態における被水している場合の測定モデルを示す図である。
図6(a)は、シート20が被水している場合(被水状態にある場合)における被水検知モードの測定モデルを示している。この図において、被水部分271は、トリム27において被水している部分を示している。この測定モデルは、電界発生部40から印加される交流電圧によって発生する微弱電界に基づいて、測定電極21と被水電極22とがシート20上の乗員である被対象物OBを介して容量結合される。
【0041】
また、この測定モデルでは、被水部分271によって生じる抵抗Rwが示されている。そのため、この測定モデルにおいて、変位電流Itは、容量負荷に依存する電流と抵抗負荷に依存する電流とが合成された電流である。つまり、シート20が被水状態にある場合、被水検知モードにおける変位電流Itは、被水部分271による抵抗Rwの影響によって、図5(a)に示される非被水状態にある場合より増大する。
【0042】
なお、被水検知モードでは、被水電極22が接地されているため、測定電極21から被水電極22に向かう安定した電流経路を設定することができる。つまり、この測定モデルでは、被対象物OB(乗員)による影響を低減して、被水部分271による抵抗Rwの影響を安定して検出することができる。このことから、被水検知モードにおいて検出した変位電流Itの抵抗負荷に依存する電流(変位電流Itの抵抗成分)を検出し、非被水状態にある場合と比較することにより、被水の影響を安定して推定することができる。
【0043】
図6(b)は、シート20が被水している場合(被水状態にある場合)における乗員検知モードの測定モデルを示している。この図において、被水部分271は、トリム27において被水している部分を示している。この測定モデルは、電界発生部40から印加される交流電圧によって発生する微弱電界に基づいて、測定電極21と被水電極22とがシート20上の乗員である被対象物OBを介して容量結合される。
【0044】
また、この測定モデルでは、被水部分271によって生じる抵抗Rwが示されている。そのため、この測定モデルにおいて、変位電流Itは、容量負荷に依存する電流と抵抗負荷に依存する電流とが合成された電流である。つまり、容量負荷に依存する電流シート20が被水状態にある場合、被水検知モードにおける変位電流Itは、被水部分271による抵抗Rwの影響によって、図5(b)に示される非被水状態にある場合より増大する。なお、この測定モデルでは、被水部分271による抵抗Rwの影響によって、被水部分271を経由して被対象物OB(乗員)と容量結合する経路ができるため、容量負荷に依存する電流(変位電流Itの容量成分)も、図5(b)に示される非被水状態にある場合より増大する。
【0045】
図7は、本実施形態における抵抗成分と容量成分の測定方法の一例を示す図である。
この図において変位電流電圧変換部5は、抵抗素子51と差動増幅部52とを備えている。抵抗素子51は、電極駆動部42と測定電極21との間に直列に接続され、抵抗素子51の両端が差動増幅部52の入力端子に接続されている。差動増幅部52は、抵抗素子51の両端の電位差を検出して、所定の係数によって増幅して出力する。これにより、変位電流電圧変換部5は、抵抗素子51に流れる変位電流iを電圧に変換する。
【0046】
なお、この図において、変位電流iは、抵抗性負荷に依存する電流ireと抵抗性負荷に依存する電流iimとの合成である。また、変位電流電圧変換部5によって変換された電圧νは、式(1)として示すことができる。
【0047】
【数1】

【0048】
式(1)において、Eは電界発生部40から印加される電圧値であり、rは抵抗素子51の抵抗値であり、ωは電界発生部40から印加される交流電圧の角周波数である。また、Zreは、抵抗性負荷に依存するインピーダンス(実数成分)であり、Zimは、容量性負荷に依存するインピーダンス(虚数成分)である。
本実施形態における乗員検知システム1では、直交検波部6によって、式(1)における実数成分と虚数成分に分離される。なお、本実施形態において、変位電流における実数成分として1/Zreを使用し、1/Rと表記する。また、変位電流における虚数成分としてZimを使用し、Cと表記する。
【0049】
図8は、本実施形態における抵抗成分と容量成分の測定結果の一例を示す図である。
ここでは、図8を参照して、乗員検知システム1における乗員検知の概要を説明する。
この図は、電流検出部7によって検出された変位電流に相当する量を複素直交座標で表現したものである。この図において、縦軸は、直交検波部6によって得られた虚数成分(Imaginary成分)を示し、横軸は、直交検波部6によって得られた実数成分(Real成分)を示している。また、本実施形態では、実数成分(この図の縦軸)は、直交検波部6によって得られたCと、記憶部8に予め記憶されているC(初期化空席値)との差ΔCを用いている。また、虚数成分(この図の横軸)は、直交検波部6によって得られた1/Rと、記憶部8に予め記憶されている1/R(初期化空席値)との差Δ1/Rを用いている。
【0050】
ここで、C(初期化空席値)及び1/R(初期化空席値)は、シート20に乗員が着席していない空席状態において、予め測定(検出)されたC及び1/Rの初期値に相当する値である。C(初期化空席値)及び1/R(初期化空席値)は、例えば、乗員検知システム1が搭載された自動車が出荷される前に測定されて、記憶部8に記憶される。
【0051】
この図において、ベクトルL1は、シート20が乾燥した状態(非被水状態)において、乗員検知モードによって得られた変位電流に対応する。また、ベクトルL2は、シート20が被水した状態(被水状態)において、乗員検知モードによって得られた変位電流に対応する。ベクトルL2は、被水による影響によって、実数成分及び虚数成分が、いずれも増大する。
【0052】
また、ベクトルL3は、被水状態において、被水検知モードによって得られた変位電流の実数成分に対応する。ここでベクトルL3の大きさは、Δ1/R(ch_g)である。
また、ベクトルL4は、被水状態において、乗員検知モードによって得られた変位電流の虚数成分に対応する。ここでベクトルL4の大きさは、ΔC(ch)である。
また、ベクトルL5及びL6は、上述した非被水状態における1/Rの学習データに対応する。ここでは、非被水状態における1/Rの学習データとして、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))と子供用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_crs))との2種類がある場合の例である。
また、ベクトルL7は、乗員検知システム1の判定部61によって補正された後における変位電流の虚数成分に対応する。ここでベクトルL7の大きさは、ΔC(ch)_compである。
【0053】
乗員検知処理において、乗員検知システム1の判定部61は、まず、被水検知モードにおいて、Δ1/R(ch_g)を得る。なお、判定部61は、Δ1/R(ch_g)の値が予め定められた閾値A以上である場合に、予め定められた閾値AをΔ1/R(ch_g)として用いる。
次に、判定部61は、Δ1/R(ch_g)と非被水状態における1/Rの学習データとに基づいて、ΔC(ch)を補正してΔC(ch)_compを生成する処理を行う。この際に、判定部61は、1/Rの学習データとして、ΔC(ch)に基づいて、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))と子供用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_crs))とのいずれか一方を使用する。
【0054】
次に、判定部61は、補正したΔC(ch)_compに基づいて、乗員の体格を判定する。具体的には、判定部61は、補正したΔC(ch)_compの値が予め定められた閾値B以上であるか否かを判定し、予め定められた閾値B以上である場合に乗員が大人であると判定する。また、判定部61は、補正したΔC(ch)_compの値が予め定められた閾値Bより小さい場合に、乗員が子供であると判定する。
なお、ここで、大人とは、乗員の体格が5パーセントタイル成人女性に相当する体格より大きいことを示す。また、子供とは、乗員の体格が5パーセントタイル成人女性に相当する体格より小さいことを示し、6歳児以下の体格が含まれるものとする。また、5パーセントタイル成人女性とは、成人女性の分布において、小柄な方の5%に相当する女性のことである。
【0055】
次に、本実施形態における乗員検知システム1の動作について詳細に説明する。
図9は、本実施形態における乗員検知処理を示すフローチャートである。
また、図10は、本実施形態における基準負荷による線形補間を示す図である。
まず、図9に示すフローチャートを参照して、乗員検知処理を説明する。
【0056】
図9において、まず、乗員検知システム1は、被水検知モードにおいて、1/R(ch_g)を検出する(ステップS101)。ステップS101の処理において、まず、制御部60は、電極選択部4に被水検知モードを選択させる制御信号を出力する。電極選択部4は、制御部60から供給された制御信号に基づいて、被水検知モードに接続を切り換える。また、電界発生部40は、電極選択部4を介して測定電極21及び裏面シールド電極23に交流電圧を印加する。これにより、測定電極21に微弱電界が発生する。次に、電流検出部7は、測定電極21に流れる変位電流を検出し、さらに、直交検波の手法を用いて、容量成分(虚数成分)と抵抗成分(実数成分)とに分離して、制御部60に出力する。これにより、制御部60の判定部61は、変位電流における抵抗成分(実数成分)である1/R(ch_g)を得る。
【0057】
次に、判定部61は、被水検知モードによって得られた1/R(ch_g)を基準負荷による線形補間によって補正する(ステップS102)。つまり、判定部61は、記憶部8に予め記憶されている基準負荷による測定情報に基づいて、得られた1/R(ch_g)を補正する。判定部61は、例えば、式(2)に従って1/R(ch_g)を補正する。
【0058】
【数2】

【0059】
式(2)において、1/R(ch)は、線形補間によって補正された1/R(ch_g)に相当し、ADreal(ch)は、補正前の1/R(ch_g)に対応する。また、Rref1及びRref2は、基準となる抵抗値(例えば、1Ω(オーム)と75Ω)を示し、ADreal_ref1及びADreal_ref2は、電界発生部40に測定電極21の代わりとして基準となる抵抗値1Ω及び75Ωをそれぞれ接続した場合に検出された1/R検出値(変位電流における抵抗成分)を示す。また、ADreal(open)は、電界発生部40に測定電極21を接続しない無負荷状態(オープン状態)における1/R検出値(変位電流における抵抗成分)を示す。記憶部8に記憶される上述した基準負荷による測定情報には、基準となる抵抗値、ADreal_ref1、ADreal_ref2、及びADreal(open)が含まれる。また、ADreal_ref1、ADreal_ref2、及びADreal(open)は、電流検出部7によって予め測定(検出)されていて、記憶部8に記憶されている。なお、式(2)のよる線形補間の概念を図10(a)に示す。
【0060】
つまり、判定部61は、電界発生部40から予め定められた抵抗値を示す抵抗素子に流れる電流における実数成分に基づいて、1/R(ch_g)を補正する。なお、この予め定められた抵抗値を示す抵抗素子に流れる電流は、電流検出部7によって予め検出されている電流である。
【0061】
次に、乗員検知システム1は、乗員検知モードにおいて、C(ch)を検出する(ステップS103)。ステップS103の処理において、まず、制御部60は、電極選択部4に乗員検知モードを選択させる制御信号を出力する。電極選択部4は、制御部60から供給された制御信号に基づいて、乗員検知モードに接続を切り換える。また、電界発生部40は、電極選択部4を介して測定電極21及び裏面シールド電極23に交流電圧を印加する。これにより、測定電極21が微弱電界を発生する。次に、電流検出部7は、測定電極21に流れる変位電流を検出し、さらに、直交検波の手法を用いて、容量成分(虚数成分)と抵抗成分(実数成分)とに分離して、制御部60に出力する。これにより、制御部60の判定部61は、変位電流における容量成分(虚数成分)であるC(ch)を得る。
【0062】
次に、判定部61は、乗員検知モードによって得られたC(ch)を基準負荷による線形補間によって補正する(ステップS104)。つまり、判定部61は、記憶部8に予め記憶されている基準負荷による測定情報に基づいて、得られたC(ch)を補正する。判定部61は、例えば、式(3)に従ってC(ch)を補正する。
【0063】
【数3】

【0064】
式(3)において、C(ch)は、線形補間によって補正されたC(ch)に相当し、ADimage(ch)は、補正前のC(ch)に対応する。また、Cref3及びCref4は、基準となる容量値(例えば、10pF(ピコファラッド)と82pF)を示し、ADimage_ref3及びADimage_ref4は、電界発生部40に測定電極21の代わりとして基準となる容量値10pF及び82pFをそれぞれ接続した場合に検出されたC検出値(変位電流における容量成分)を示す。また、ADimage(open)は、電界発生部40に測定電極21を接続しない無負荷状態(オープン状態)におけるC検出値(変位電流における容量成分)を示す。記憶部8に記憶される上述した基準負荷による測定情報には、基準となる容量値、ADimage_ref3、ADimage_ref4、及びADimage(open)が含まれる。また、ADimage_ref3、ADimage_ref4、及びADimage(open)は、電流検出部7によって予め測定(検出)されていて、記憶部8に記憶されている。なお、式(3)のよる線形補間の概念を図10(b)に示す。
【0065】
つまり、判定部61は、電界発生部40から予め定められた容量値を示す静電容量素子に流れる電流における虚数成分に基づいて、C(ch)を補正する。なお、この予め定められた容量値を示す静電容量素子に流れる電流は、電流検出部7によって予め検出されている電流である。
【0066】
次に、判定部61は、ΔC(ch)とΔ1/R(ch_g)を算出する(ステップS105)。ステップS105の処理において、判定部61は、例えば、式(4)に従ってΔ1/R(ch_g)を算出する。
【0067】
【数4】

【0068】
式(4)において、1/R(初期化空席値)は、上述したように、シート20に乗員が着席していない空席状態において、予め測定(検出)された抵抗成分1/Rの初期値に相当する値である。1/R(初期化空席値)は、記憶部8に記憶されている。したがって、判定部61は、記憶部8に記憶されている1/R(初期化空席値)を読み出して、Δ1/R(ch_g)を算出する。つまり、判定部61は、被水検知モード(第1検知モード)によって検出された変位電流における実数成分と、シート20に乗員がいない空席状態において予め検出された変位電流における実数成分との差Δ1/R(ch_g)として変位電流における抵抗成分(第1抵抗成分)を抽出する。
なお、判定部61は、Δ1/R(ch_g)(第1抵抗成分)の値が予め定められた閾値A以上の場合に、予め定められた閾値AをΔ1/R(ch_g)にする。これは、Δ1/R(ch_g)の値が大きくなり過ぎた場合を制限するためである。
【0069】
また、ステップS105の処理において、判定部61は、例えば、式(5)に従ってΔC(ch)を算出する。
【0070】
【数5】

【0071】
式(5)において、C(初期化空席値)は、上述したように、シート20に乗員が着席していない空席状態において、予め測定(検出)された容量成分Cの初期値に相当する値である。C(初期化空席値)は、記憶部8に記憶されている。したがって、判定部61は、記憶部8に記憶されているC(初期化空席値)を読み出して、ΔC(ch_g)を算出する。つまり、判定部61は、乗員検知モード(第2検知モード)によって検出された変位電流における虚数成分と、シート20に乗員がいない空席状態において予め検出された変位電流における虚数成分との差ΔC(ch)として変位電流における容量成分を抽出する。
【0072】
次に、判定部61は、ΔC(ch)を補正して、ΔC(ch)_compを生成する(ステップS106)。つまり、判定部61は、被水検知モード(第1検知モード)によって検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)(第1抵抗成分)と、非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)とに基づいて、乗員検知モード(第2の検知モード)によって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)の補正値ΔC(ch)_compを生成する。ステップS106の処理において、判定部61は、例えば、例えば、式(6)に従ってΔC(ch)_compを算出する。
【0073】
【数6】

【0074】
この式(6)において、非被水状態における1/Rの学習データは、上述のとおり記憶部8に記憶されている。また、非被水状態における1/Rの学習データは、シート20が非被水状態にある場合の変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)における平均値を示す。また、Gは、ゲインである。
【0075】
なお、ここでは、非被水状態における1/Rの学習データとして、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))と子供用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_crs))との2種類がある場合の例を示す。ステップS106の処理において、判定部61は、ΔC(ch)によって示される体格が、大人の体格と子供の体格とのいずれに近いかを判定する。判定部61は、この判定結果に基づいて、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))と子供用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_crs))とのいずれか一方を用いて、補正値ΔC(ch)_compを生成する。
【0076】
次に、判定部61は、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理を行う(ステップS107)。つまり、ステップS107の処理において、判定部61は、記憶部8に記憶されている1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))と、上述のΔ1/R(ch_g)とに基づいて、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))を新たに生成する。そして、判定部61は、新たに生成したΔ1/R(ch_avg)を記憶部8に記憶させる。この非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理については、図11に示すフローチャートを参照して後に説明する。
【0077】
次に、判定部61は、補正値ΔC(ch)_compの値が予め定められた閾値B以上であるか否かを判定する(ステップS108)。ステップS108において、判定部61は、補正値ΔC(ch)_compの値が予め定められた閾値B以上であると判定した場合に、処理をステップS109に進める。つまり、判定部61は、補正値ΔC(ch)_compの値が予め定められた閾値B以上である場合に、乗員の体格が大人(相当)であると判定する。
また、判定部61は、補正値ΔC(ch)_compの値が予め定められた閾値Bより小さいと判定した場合に、処理をステップS110に進める。判定部61は、補正値ΔC(ch)_compの値が予め定められた閾値Bより小さい場合に、乗員の体格が子供(相当)であると判定する。
【0078】
ステップS109において、乗員検知システム1は、エアバッグ装置30のエアバッグを展開可能な状態にする。つまり、判定部61は、乗員の体格が大人であるという情報(乗員の体格の判定結果に基づく情報)を、伝装通信部50を介してエアバッグ装置30に送信する。エアバッグ装置は、乗員の体格が大人であるという情報に基づいて、エアバッグを展開可能な状態にセットする。
【0079】
ステップS110において、乗員検知システム1は、エアバッグ装置30のエアバッグを展開不可能な状態にする。つまり、判定部61は、乗員の体格が子供であるという情報(乗員の体格の判定結果に基づく情報)を、伝装通信部50を介してエアバッグ装置30に送信する。エアバッグ装置は、乗員の体格が子供であるという情報に基づいて、エアバッグを展開不可能な状態にセットする。
【0080】
ステップS109又はステップS110の処理の後に、乗員検知システム1は、処理をステップS101に戻し、ステップS101からステップS110の処理が繰り返される。
【0081】
なお、ステップS102において、判定部61は、乗員検知モードによって得られた1/R(ch_g)を基準負荷による線形補間によって補正する。すなわち、変位電流における第1抵抗成分Δ1/R(ch_g)は、補正された1/R(ch_g)に基づいて生成されるため、変位電流における第1抵抗成分Δ1/R(ch_g)は、判定部61によって、基準負荷によって予め検出されている電流における実数成分に基づいて補正される。
また、ステップS104において、判定部61は、乗員検知モードによって得られた容量成分C(ch)を基準負荷による線形補間によって補正する。すなわち、変位電流における容量成分ΔC(ch)は、補正された容量成分C(ch)に基づいて生成されるため、変位電流における容量成分ΔC(ch)は、判定部61によって、基準負荷によって予め検出されている電流における虚数成分に基づいて補正される。
【0082】
次に、図11と図12を参照して、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理について詳細に説明する。
図11は、本実施形態における非被水状態の抵抗成分の平均値を更新する処理を示すフローチャートである。なお、図11のフローチャートは、図9のフローチャートにおけるステップS107の処理を詳細に示したものである。
また、図12は、本実施形態における非被水状態の抵抗成分の平均値を更新する処理を示す概念図である。
【0083】
図11において、まず、判定部61は、シート20が被水状態にあるか否かを判定する(ステップS201)。つまり、判定部61は、被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)に基づいて、シート20が被水状態にあるか否かを判定する。判定部61は、例えば、抵抗成分Δ1/R(ch_g)の値が予め定められた閾値以上であるか否かによって、被水状態にあるか否かを判定する。
ステップS201の処理において、判定部61は、シート20が被水状態にあると判定した場合に、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理を終了させる。また、判定部61は、シート20が被水状態にない(非被水状態にある)と判定した場合に、処理をステップS202に進める。
【0084】
次に、ステップS202の処理において、判定部61は、変位電流における虚数成分(容量成分)ΔC(ch)の値が予め定められた閾値B以上であるか否かを判定する。変位電流における容量成分ΔC(ch)は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)であり、図9のステップS105において算出される。
ステップS202の処理において、判定部61は、予め定められた閾値B以上であると判定した場合に、処理をステップS203に進める。また、判定部61は、予め定められた閾値Bより小さいと判定した場合に、処理をステップS207に進める。
なお、予め定められた閾値Bは、乗員検知モードによって検出された変位電流における虚数成分ΔC(ch)において、乗員の体格が大人であるか、子供であるかを判定する閾値である。
【0085】
次に、ステップS203の処理において、判定部61は、変位電流における容量成分ΔC(ch)が大人相当の体格における所定の範囲R1内(図12(a)参照)であるか否かを判定する。判定部61は、大人相当の体格における所定の範囲R1内であると判定した場合に、処理をステップS204に進める。また、判定部61は、大人相当の体格における所定の範囲R1外であると判定した場合に、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理を終了させる。
【0086】
次に、ステップS204の処理において、判定部61は、被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)が大人相当の体格における所定の範囲R3内(図12(b)参照)であるか否かを判定する。判定部61は、大人相当の体格における所定の範囲R3内であると判定した場合に、処理をステップS205に進める。また、判定部61は、大人相当の体格における所定の範囲R3外であると判定した場合に、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理を終了させる。
【0087】
次に、ステップS205の処理において、判定部61は、大人相当における被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)の平均値であるΔ1/R(ch_avg_adt)を、式(7)に従って算出する。
【0088】
【数7】

【0089】
この式(7)において、xbk−1は、1つ前の回に算出された平均値(Δ1/R(ch_avg_adt))であり、xは、今回検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)である。また、xbは、今回新たに算出される平均値(Δ1/R(ch_avg_adt))であり、Nは、サンプル数である。
【0090】
つまり、判定部61は、記憶部8に記憶された1つ前の回に算出された平均値(Δ1/R(ch_avg_adt))、今回検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)、及びサンプル回数Nに基づいて、今回新たに算出される平均値を算出する。
なお、ここで、平均値Δ1/R(ch_avg_adt)は、一定の期間において、検出された非被水状態の変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)の平均値である。この一定の期間とは、例えば、エンジン始動(イグニッションオン)から現在までの期間である。
【0091】
次に、判定部61は、今回新たに算出した平均値をΔ1/R(ch_avg_adt)として記憶部8に記憶させる(ステップS206)。この処理によって、Δ1/R(ch_avg_adt)は、新しい値に更新される。これにより、大人用の1/Rの学習データΔ1/R(ch_avg_adt)が最新の情報に基づいて更新される。そのため、判定部61は、補正値ΔC(ch)_compの精度を向上することができる。これにより、乗員検知システム1は、乗員の体格の判定を正確に行うことができる。
判定部61は、ステップS206の処理後に、非被水状態の抵抗成分の平均値を更新する処理を終了させる。
【0092】
一方で、ステップS207の処理において、判定部61は、変位電流における虚数成分(容量成分)ΔC(ch)が子供相当の体格における所定の範囲R2内(図12(a)参照)であるか否かを判定する。判定部61は、子供相当の体格における所定の範囲R2内であると判定した場合に、処理をステップS208に進める。また、判定部61は、子供相当の体格における所定の範囲R2外であると判定した場合に、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理を終了させる。
【0093】
次に、ステップS208の処理において、判定部61は、被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)が子供相当の体格における所定の範囲R4内(図12(b)参照)であるか否かを判定する。判定部61は、子供相当の体格における所定の範囲R4内であると判定した場合に、処理をステップS209に進める。また、判定部61は、子供相当の体格における所定の範囲R4外であると判定した場合に、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg))の更新処理を終了させる。
【0094】
次に、ステップS209の処理において、判定部61は、子供相当における被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)の平均値であるΔ1/R(ch_avg_crs)を、式(7)に従って算出する。
【0095】
ここでは、式(7)におけるxbk−1が、1つ前の回に算出された平均値(Δ1/R(ch_avg_crs))であり、xが、今回検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)である。また、xbは、今回新たに算出される平均値(Δ1/R(ch_avg_crs))である。
【0096】
つまり、判定部61は、記憶部8に記憶された1つ前の回に算出された平均値(Δ1/R(ch_avg_crs))、今回検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)、及びサンプル回数Nに基づいて、今回新たに算出される平均値を算出する。
なお、ここで、平均値Δ1/R(ch_avg_crs)は、一定の期間において、検出された非被水状態の変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)の平均値である。この一定の期間とは、例えば、エンジン始動(イグニッションオン)から現在までの期間である。
【0097】
次に、判定部61は、今回新たに算出した新しい平均値をΔ1/R(ch_avg_crs)として記憶部8に記憶させる(ステップS210)。この処理によって、Δ1/R(ch_avg_crs)は、新しい値に更新される。これにより、子供用の1/Rの学習データΔ1/R(ch_avg_crs)が最新の情報に基づいて更新される。そのため、判定部61は、補正値ΔC(ch)_compの精度を向上することができる。これにより、乗員検知システム1は、乗員の体格の判定を正確に行うことができる。
判定部61は、ステップS210の処理後に、非被水状態の抵抗成分の平均値を更新する処理を終了させる。
【0098】
次に、図12を参照して、大人用の1/Rの学習データΔ1/R(ch_avg_adt)を更新する処理の一例を説明する。
図12(a)は、縦軸が、乗員検知モードにおいて検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)を示し、横軸は、乗員の体格が子供相当(ここでは、空席/CRSとする)である場合と、大人相当(ここでは、AF05とする)である場合を示している。この図において、検出値P1及びP2は、乗員の体格が大人相当である場合である。また、検出値P3及びP4は、乗員の体格が子供相当である場合である。
【0099】
判定部61は、乗員の体格が大人相当である判定した場合に、容量成分ΔC(ch)の値が予め設定された範囲R1内であるか否かを判定する。そして、判定部61は、予め設定された範囲R1内である場合に、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))について更新を行う対象とする。つまり、図(a)において、検出値P1は、判定部61によって大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))について更新を行う対象にされるが、検出値P2は、更新を行う対象とされない。
【0100】
次に、図12(b)は、縦軸が、被水検知モードにおいて検出された変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)を示し、横軸は、乗員の体格が子供相当(ここでは、空席/CRSとする)である場合と、大人相当(ここでは、AF05とする)である場合を示している。この図において、検出値P5、P6及びP7は、乗員の体格が大人相当である場合である。また、検出値P8及びP9は、乗員の体格が子供相当である場合である。
【0101】
判定部61は、乗員の体格が大人相当であると判定した場合に、抵抗成分Δ1/R(ch_g)の値が予め設定された範囲R3内であるか否かを判定する。そして、判定部61は、予め設定された範囲R3内である場合に、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))について更新を行う対象とする。つまり、図(b)において、検出値P5は、判定部61によって大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))について更新が行われるが、検出値P6及びP7は、更新が行われない。
つまり、判定部61は、変位電流における容量成分ΔC(ch)の値が予め設定された範囲R1内である場合、且つ、変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)の値が予め定められた範囲R3内である場合に、変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)に基づいて、非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))を算出する。次に、判定部61は、算出した非被水状態における1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))を記憶部8に記憶させる。
【0102】
以上のように、乗員検知システム1は、電界発生部40が、測定電極21に微弱電界を発生させ、電流検出部7が、微弱電界に基づいて測定電極21に流れる変位電流を検出する。また、電極選択部4(切り換え部)が、被水電極22を接地した状態にして変位電流を検出する被水検知モード(第1検知モード)と被水電極22を非接地した状態にして変位電流を検出する乗員検知モード(第2検知モード)とに応じて、被水電極22の接続を切り換える。さらに、判定部61が、抵抗成分Δ1/R(ch_g)(第1抵抗成分)と、非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)とに基づいて、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)の補正値ΔC(ch)_compを生成する。ここで、抵抗成分Δ1/R(ch_g)は、被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分を示す。また、非被水状態における1/Rの学習データは、シート20が非被水状態にある場合の抵抗成分Δ1/R(ch_g)に基づいて算出される。また、判定部61が、補正した補正値ΔC(ch)_compに基づいて乗員の体格を判定する。
【0103】
これにより、乗員検知システム1は、被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分(Δ1/R(ch_g)及び非被水状態における1/Rの学習データ)に基づいて、シート20における被水状態を推定することができる。そのため、乗員検知システム1は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)を精度よく補正して、補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。また、乗員検知システム1は、シート20が被水状態であっても、継続して補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。したがって、乗員検知システム1は、乗員の体格の判定を安定、且つ継続して判定することができる。
【0104】
また、判定部61は、予め測定した基準負荷による測定情報に基づいて、被水検知モード及び乗員検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分(又は容量成分)を、式(2)(又は式(3))に従って線形補間による補正を行う。これにより、乗員検知システム1は、温度などの環境による変化を補正することができる。そのため、乗員検知システム1は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)をさらに精度よく補正した補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。
【0105】
また、本実施形態における乗員検知システム1は、非被水状態における1/Rの学習データとして、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))と子供用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_crs))とを選択して使用する。このため、乗員検知システム1は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)をさらに精度よく補正した補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。
【0106】
なお、本発明の実施形態によれば、乗員検知システム1は、シート20に着席している乗員との間に電界を発生する測定電極21と、測定電極21に近接して配置された被水電極22と、測定電極21に電界を発生させる電界発生部40と、測定電極21に流れる電流を検出する電流検出部7と、被水電極22を接地した状態にして電流を検出する被水検知モード(第1検知モード)と被水電極22を非接地した状態にして電流を検出する乗員検知モード(第2検知モード)とに応じて、被水電極22の接続を切り換える電極選択部4(切り換え部)と、被水検知モードによって検出された電流における実数成分によって示されるΔ1/R(ch_g)(第1抵抗成分)と、シート20が乾燥している非被水状態にある場合のΔ1/R(ch_g)に基づいて算出された非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)とに基づいて、乗員検知モードによって検出された電流における虚数成分によって示される容量成分(ΔC(ch))の補正値(ΔC(ch)_comp)を生成し、補正値に基づいて乗員の体格を判定する判定部61とを備える。
【0107】
これにより、乗員検知システム1は、被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分(Δ1/R(ch_g)及び非被水状態における1/Rの学習データ)に基づいて、シート20における被水状態を推定することができる。そのため、乗員検知システム1は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)を精度よく補正して、補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。また、乗員検知システム1は、シート20が被水状態であっても、継続して補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。したがって、乗員検知システム1は、乗員の体格の判定を安定、且つ継続して判定することができる。
【0108】
また、非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)は、シート20が非被水状態にある場合の変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)(第1抵抗成分)における平均値である。また、判定部61は、乗員検知モードによって検出された電流における容量成分(ΔC(ch))の値が予め設定された範囲R1(又はR3)内である場合、且つ、被水検知モードによって検出された変位電流における抵抗成分(Δ1/R(ch_g)の値が予め定められた範囲R2(又はR4)内である場合に、Δ1/R(ch_g)に基づいて非被水状態における1/Rの学習データΔ1/R(ch_avg_adt)(又は、Δ1/R(ch_avg_crs))を算出する。
これにより、非被水状態における1/Rの学習データΔ1/R(ch_avg_adt)(又は、Δ1/R(ch_avg_crs))は、更新されるため、判定部61は、最新の非被水状態における1/Rの学習データを使用して、補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。そのため、乗員検知システム1は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)をさらに精度よく補正した補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。
【0109】
また、判定部61は、被水検知モード(第1検知モード)によって検出された電流における実数成分と、シート20に乗員が着席していない空席状態において予め検出された電流における実数成分との差Δ1/R(ch_g)として第1抵抗成分を抽出する。また、判定部61は、乗員検知モード(第2検知モード)によって検出された電流における虚数成分と、シート20に着席していない空席状態において予め検出された電流における虚数成分との差ΔC(ch)として容量成分を抽出する。
これにより、乗員検知システム1は、測定系に依存する検出値への影響を低減することができる。よって、乗員検知システム1は、精度よく補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。
【0110】
また、判定部61は、抵抗成分Δ1/R(ch_g)(第1抵抗成分)の値が予め定められた閾値A以上の場合に、閾値AをΔ1/R(ch_g)にする。
これにより、抵抗成分Δ1/R(ch_g)が大きくなり過ぎることを防いで、制限をかけることができる。
【0111】
また、判定部61は、電界発生部40から予め定められた抵抗値(基準負荷1Ω及び75Ω)を示す抵抗素子に流れる電流であって、電流検出部7によって予め検出されている電流における実数成分に基づいて、抵抗成分Δ1/R(ch_g)(第1抵抗成分)を補正する。
これにより、乗員検知システム1は、温度などの環境による変化を補正することができる。そのため、乗員検知システム1は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)をさらに精度よく補正した補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。
【0112】
また、判定部61は、電界発生部40から予め定められた容量値(基準負荷10pF及び82pF)を示す静電容量素子に流れる電流であって、電流検出部7によって予め検出されている電流における虚数成分に基づいて、容量成分ΔC(ch)を補正する。
これにより、乗員検知システム1は、温度などの環境による変化を補正することができる。そのため、乗員検知システム1は、乗員検知モードによって検出された変位電流における容量成分ΔC(ch)をさらに精度よく補正した補正値ΔC(ch)_compを算出することができる。
【0113】
また、判定部61は、乗員の体格の判定結果に基づく情報を、エアバッグを展開させるエアバッグ装置30に送信し、エアバッグ装置30に対してエアバッグを展開可能な状態又は展開不可能な状態のいずれか一方にセットさせる。
これにより、乗員検知システム1は、乗員の体格の判定結果に基づいて、エアバッグ装置30のエアバッグの展開を制御することができる。つまり、乗員検知システム1は、乗員の体格に合わせてエアバッグの展開を制御できるため、エアバッグの展開により、乗員を危険にさらす可能性を低減することができる。
【0114】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。上記の実施形態において、乗員検知モードは、被水電極22をオープン状態にした形態について説明したが、他の非接地状態にする形態でもよい。例えば、測定電極21と同じ位相の交流信号を印加する形態でもよい。
【0115】
また、上記の実施形態において、補正値ΔC(ch)_compを算出する際に、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))と子供用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_crs))とのいずれか一方を使用する形態を説明したが、両方を使用する形態でもよい。この場合、判定部61は、大人用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_adt))と子供用の1/Rの学習データ(Δ1/R(ch_avg_crs))とのそれぞれを使用して補正値を算出し、閾値B以上であるか否かをそれぞれ判定する。そして、判定部61は、両方の補正値による判定結果が一致するまで、乗員の体格の判定結果(大人/子供)は、過去の判定結果を継承する形態でもよい。
【0116】
また、上記の実施形態において、判定部61は、被水状態及び非被水状態のいずれの場合においても補正値ΔC(ch)_compを算出する形態を説明したが、被水状態にある場合のみ、補正値ΔC(ch)_compを算出する形態でもよい。この場合、判定部61は、被水検知モードによって検出した変位電流における抵抗成分Δ1/R(ch_g)の値が予め定められた閾値以上であるか否かによって、被水状態にあるか否かを判定し、非被水状態にある場合に補正値ΔC(ch)_compを算出しない。このため、判定部61は、処理を減らすことができる。また、判定部61は、被水状態にある場合に、図11に示されるステップS202以降の処理を実施してもよい。
【0117】
また、非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)は、1種類でもよいし、乗員の体格の分類に応じて3種類以上を使用する形態でもよい。
また、非被水状態における1/Rの学習データは、予め実験によって得られた固定値を用いる形態でもよい。この場合、非被水状態における1/Rの学習データを更新する処理が不要になるため、判定部61による処理を低減することができる。ただし、上述したとおり、非被水状態における1/Rの学習データを更新する形態は、固定値を用いる形態に比べて、精度よく補正値を算出することができる。
【0118】
また、非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)を更新する際に、図12(b)に示すように、判定部61は、予め設定された範囲R3内であるか否かを判定する前に、予め定められた閾値C以下であるか否かを判定してもよい。この場合、予め設定された範囲R3内から大きく外れた検出値を予め排除することができるため、判定部61は、効率よく非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)を更新することができる。
また、図11におけるΔC(ch)が閾値B以上であるか否かを判定する処理(ステップS102の処理)は、省略してもよい。
【0119】
また、上記の実施形態において、非被水状態における1/Rの学習データ(第2抵抗成分)を更新は、エンジン始動(イグニッションオン)から現在までの期間においての平均値を算出する形態を説明したが、これに限定されない。例えば、記憶部8を電気的に書き換え可能な不揮発性メモリで構成し、数日前から現在までの期間においての平均値を算出する形態でもよい。
また、上記の実施形態において、図10に示す基準負荷による補正は、2つの基準負荷を用いて補正する形態を説明したが、2つ以外(例えば、1つ、又は3つ以上)の基準負荷を用いて補正する形態でもよい。また、基準負荷による測定情報は、予め取得した情報でもよいし、エンジン点火(イグニッションオン)の際に、取得した情報でもよい。
【0120】
また、上記の実施形態において、変位電流における実数成分(抵抗成分)と虚数成分(容量成分)との分離は、直交検波手法を用いて直交検波部6が行う形態を説明したが、他の手法を用いる形態でもよい。また、直交検波部6は、変位電流における実数成分(抵抗成分)と虚数成分(容量成分)との分離を、専用ハードを用いてアナログ処理によって行う形態でもよい。また、直交検波部6は、変位電流電圧変換部5から出力される電圧をデジタル変換して、デジタル処理によって、変位電流における実数成分(抵抗成分)と虚数成分(容量成分)との分離を行う形態でもよい。
【0121】
また、図2に示すように、乗員検知システム1は、測定電極21を複数備える形態でもよい。また、乗員検知システム1は、裏面シールド電極23及びシールド部24を備えない形態でもよい。
また、乗員検知システム1は、補正値ΔC(ch)_compを用いて、乗員の着席姿勢の判定や着席有無の判定に適用してもよい。
【0122】
また、上記の実施形態において、判定部61の各機能は、プログラムによって実現される形態を説明したが、専用のハードウェアによって実現されてもよい。
【0123】
なお、上述の乗員検知システム1は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した判定部61の処理過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われてもよい。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0124】
1 乗員検知システム
2 電源部
3 シールド駆動部
4 電極選択部
5 変位電流電圧変換部
6 直交検波部
7 電流検出部
8 記憶部
9 警告灯駆動部
10 乗員検知部
20 シート
21 測定電極
22 被水電極
23 裏面シールド電極
24 シールド部
25 基材
26 レジスト
27 トリム
30 エアバッグ装置
40 電界発生部
41 正弦波発振部
42 電極駆動部
50 伝装通信部
51 抵抗素子
52 差動増幅部
60 制御部
61 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着席している乗員との間に電界が発生する測定電極と、
前記測定電極に近接して配置された被水電極と、
前記電界を発生させる電界発生部と、
前記測定電極に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記被水電極を接地した状態にして前記電流を検出する第1検知モードと前記被水電極を非接地した状態にして前記電流を検出する第2検知モードとに応じて、前記被水電極の接続を切り換える切り換え部と、
前記第1検知モードによって検出された前記電流における実数成分によって示される第1抵抗成分と、前記シートが乾燥している非被水状態にある場合の前記第1抵抗成分に基づいて算出された第2抵抗成分とに基づいて、前記第2検知モードによって検出された前記電流における虚数成分によって示される容量成分の補正値を生成し、前記補正値に基づいて前記乗員の体格を判定する判定部と
を備えることを特徴とする乗員検知システム。
【請求項2】
前記第2抵抗成分は、
前記シートが非被水状態にある場合の前記第1抵抗成分における平均値であり、
前記判定部は、
前記容量成分の値が予め設定された範囲内である場合、且つ、前記第1抵抗成分の値が予め定められた範囲内である場合に、前記第1抵抗成分に基づいて前記第2抵抗成分を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の乗員検知システム。
【請求項3】
前記判定部は、
前記第1検知モードによって検出された前記電流における実数成分と、前記シートに着席していない空席状態において予め検出された前記電流における実数成分との差として前記第1抵抗成分を抽出し、
前記第2検知モードによって検出された前記電流における虚数成分と、前記空席状態において予め検出された前記電流における虚数成分との差として前記容量成分を抽出する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の乗員検知システム。
【請求項4】
前記判定部は、前記第1抵抗成分の値が予め定められた閾値以上の場合に、前記閾値を前記第1抵抗成分にする
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗員検知システム。
【請求項5】
前記判定部は、
前記電界発生部から予め定められた抵抗値を示す抵抗素子に流れる電流であって、前記電流検出部によって予め検出されている電流における実数成分に基づいて、前記第1抵抗成分を補正する
ことを特徴とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の乗員検知システム。
【請求項6】
前記判定部は、
前記電界発生部から予め定められた容量値を示す静電容量素子に流れる電流であって、前記電流検出部によって予め検出されている電流における虚数成分に基づいて、前記容量成分を補正する
ことを特徴とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の乗員検知システム。
【請求項7】
前記判定部は、
前記乗員の体格の判定結果に基づく情報を、エアバッグを展開させるエアバッグ装置に送信し、前記エアバッグ装置に対して前記エアバッグを展開可能な状態又は展開不可能な状態のいずれか一方にセットさせる
ことを特徴とする請求項1から請求項6いずれか1項に記載の乗員検知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−107895(P2012−107895A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255076(P2010−255076)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】