説明

乗員検知装置

【課題】助手席や後部座席に乗員が着座しているか否か、着座している場合は大人であるか子供であるか、正常な姿勢で着座しているか否かを識別する。
【解決手段】ダッシュボード11に水平方向に所定の距離だけ離間して一対のサーモパイルセンサ13、14を配置する。一対のサーモパイルセンサ13、14の各々は、助手席12に乗員15が着座していないときに、助手席12の表面における所定の同一位置Pを監視するように配置されている。一対のサーモパイルセンサ13、14の各々から出力された出力信号は減算回路25で減算して一対のサーモパイルセンサ13、14の出力差信号を取り出し、この信号により乗員が着座しているか否かを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置を備えた乗用車等の車両において運転席以外の助手席や後部座席に乗員が着座しているか否かを検知するための乗員検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は自動車の衝突時に乗員が受ける衝撃を緩和するために、運転席および助手席の前方あるいは側面に設置され、自動車が衝突したときに受ける衝撃に対して加速度センサが動作することにより、エアバッグが作動して乗員を衝突による衝撃から保護するものである。このエアバッグ装置は、一般にシートに大人が着座していることを想定して装着されており、運転席には通常大人が着座しているので、自動車衝突時の衝撃を受けたときに自動的に運転席のエアバッグが作動するように構成しておけばよい。
しかし、助手席や後部座席には必ずしも乗員が着座しているとは限らず、その場合、衝突時に助手席や後部座席側のエアバッグが作動することは無駄であるばかりでなく、運転者に横側や後側から圧力が加わって却って危険である場合すらある。また、助手席や後部座席に乗員が着座している場合でも、乗員が子供の場合もあり、子供が着座している場合には作動されたエアバッグが子供の顔面を強打するために却って危険であり、エアバッグが作動しない方が望ましい場合もある。
また、乗員が着座している場合でも、眠っている場合や前かがみになっている場合など、正常な着座位置からずれている場合にもエアバッグの作動を異ならせる方が好ましい。
したがって、エアバッグ装置を備えた乗用車等の車両において、助手席や後部座席に乗員が着座しているか否か、着座状態が正常か否かを検知して、その検知状態に応じてエアバッグ装置の作動を制御することが提案されている。
従来、自動車の座席に乗員が着座しているか否かを検知する方法として、助手席のシート部内に重量センサを配置し、助手席に乗員が座ったときの体重を検知する構成(たとえば特許文献1参照)、座席の座面に内蔵した着座センサと、座席におけるシートベルトの装着を検出する装着検出手段と、シートベルトの使用量を検出する使用量検出手段の検出結果に基づいて座席へのチャイルドシート搭載の有無を判定し、大人が着座している場合と、チャイルドシートが搭載されている場合とを明確に区別する構成(たとえば特許文献2参照)、ほぼ座席正面に乗員と非接触でその人体温度を感知する焦電赤外線検出器によるセンサを備え、このセンサの出力信号により座席における乗員の有無を検知する構成(たとえば特許文献3参照)、自動車のシートバックに埋設した複数のアンテナ電極と、アンテナ電極の周囲に電界を発生させる電界発生手段を有し、シートに乗員が着座すると、電界発生手段から各々のアンテナ電極に流れる電流が増加してアンテナ電極への人体の接近を検出し、検出した組み合わせパターンを予め記憶したパターンと比較してシートに着座した乗員の有無および体格を判定する構成(たとえば特許文献4参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開2004−284425号公報((0010)、(0025)および図1など)
【特許文献2】特開2002−255010号公報((0013)〜(0014)および図1〜図2など)
【特許文献3】特開2002−234415号公報((001)〜(0016)および図1〜図4など)
【特許文献4】特開平11−198705号公報((0017)〜(0024)および図1〜図5など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1による重量センサを利用した方法は、助手席や後部座席に荷物を置いた場合にも重量センサが作動するので、乗員が着座しているか荷物が置かれているかの区別をすることができない。したがって、助手席や後部座席に荷物を置いた際にも乗員が着座しているものと判定してエアバッグが無駄に作動してしまったり、作動したエアバッグの急激な膨張により乗員の耳が聞こえなくなったり、エアバックが乗員の顔面を強打することで失明したりするおそれがあるなどの危害が加わる場合すらある。また、乗員が重量センサからずれて着座している場合や幼児がチャイルドシートなどに着座している場合には重量センサが乗員を検知しないことがあり、その場合には乗員が着座していないと判定するおそれがある。
特許文献2による着座センサとシートベルト装着検出を併用した方法は、シートベルトやチャイルドシートを嫌って着用しない場合には正確に乗員を検出することができない。また、荷物をシートベルトで固定した場合には荷物を乗員と誤認識してしまうことがあり、エアバッグが無駄に作動してしまうことがある。
特許文献3による焦電赤外線検出器センサの出力信号により座席における乗員の有無を検知する方法は、焦電赤外線検出器センサを使用しており、乗員の乗降時のように温度変化を検知するものであるので、乗員がゆっくりと乗降したり静止している状態では焦電赤外線検出器センサが乗員の体温と背景温度である室温との差異を明確に検出することができない。
特許文献4によるアンテナ電極で人体の接近を検出する方法は、アンテナ電極の周囲に電界を発生させる電界発生手段が必要であり、構成が複雑であるばかりでなく、外部からの電界の影響や自動車内の各種の電子制御機器が電界による誤動作するおそれがある。
【0004】
そこで本発明はかかる問題点を解消し、助手席や後部座席に乗員が着座しているか否か、着座している場合は大人であるか子供であるか、正常な姿勢で着座しているか否かを確実に識別することができる乗員検知装置を提供することを目的とする。
また、助手席あるいは後部座席に乗員が着座しているのか荷物が置かれているのかを確実に識別することができる乗員検知装置を提供することを目的とする。
また、乗員や荷物が静止していて温度変化が無い場合でも乗員の着座を確実に検出することができる乗員検知装置を提供することを目的とする。
また、自動車内の各種の電子制御機器に影響を与えることなく、乗員の着座を簡単な構成で検出することができる乗員検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の乗員検知装置は、車両の座席に乗員が着座しているか否かを検知する乗員検知装置であって、水平方向に所定の距離だけ離間して配置された一対のサーモパイルセンサと、一対の前記サーモパイルセンサの各々から出力される検出値の出力差を取り出す減算手段を有し、一対の前記サーモパイルセンサの各々は前記座席に前記乗員が着座していないときに前記座席または座席周辺の所定の同一位置を監視するように配置されていることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の乗員検知装置において、一対の前記サーモパイルセンサの各々は複数のサーモパイル素子を複数列、複数段にアレイ状に配列したことを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2記載の乗員検知装置において、一方の前記サーモパイルセンサにおける各サーモパイル素子の監視領域と、他方の前記サーモパイルセンサにおける各サーモパイル素子の監視領域が背景物体の位置においてそれぞれ同一または重畳していることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項2記載の乗員検知装置において、前記サーモパイル素子のアレイにおける各段間の出力差により、前記乗員の大人と子供の区別または前記乗員と荷物の区別を行うことを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗員検知装置において、一対の前記サーモパイルセンサの出力における揺らぎにより、前記乗員と荷物の区別を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、一対のサーモパイルセンサの各々から出力される検出値の出力差を検出しているので、自動車内の座席などの背景温度の変化を相殺することができる。したがって自動車内の温度が激しく変化しても、助手席や後部座席に乗員が着座しているか否か、着座している場合は大人であるか子供であるか、正常な姿勢で着座しているか否かを確実に識別することができる。
また、サーモパイルセンサを複数行、複数段のサーモパイル素子のアレイにより構成しているので、各段間の出力差により乗員の大人と子供の区別や乗員と荷物の区別を行うことができる。
また、一対のサーモパイルセンサの出力における揺らぎの有無により乗員と荷物の区別を行うことができる。
また、乗員をサーモパイルセンサで検知しているので、乗員が静止していて温度変化が無い場合でも乗員の着座を確実に検出することができる。
また、自動車内の各種の電子制御機器に影響を与えることなく乗員の着座を簡単な構成で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の第1の実施の形態による乗員検知装置は、水平方向に所定の距離だけ離間して配置された一対のサーモパイルセンサを座席に乗員が着座していないときの背景位置における同一位置を監視するように配置して、一対のサーモパイルセンサの各々から出力される検出値の出力差を検出しているので、自動車内の座席などの背景温度の変化を相殺することができる。乗員が着座しているときは、一対のサーモパイルセンサが乗員の異なる位置を監視するので温度差が生じる。したがって自動車内の温度が激しく変化しても、助手席や後部座席に乗員が着座しているか否かを確実に識別することができる。
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による乗員検知装置において、一対のサーモパイルセンサの各々を複数列、複数段にアレイ状に配列したサーモパイル素子で構成したもので、各段間の出力差により乗員の大人と子供の区別や乗員と荷物の区別を行うことができる。
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による乗員検知装置において、一対のサーモパイルセンサの各々の対応する位置におけるサーモパイル素子の監視領域が背景物体の位置においてそれぞれ同一または重畳しているもので、サーモパイルセンサの各々から出力される検出値の出力差を検出することにより背景温度の変化を確実に相殺することができる。したがって自動車内の温度が激しく変化しても、助手席や後部座席に乗員が着座しているか否かを確実に識別することができる。
本発明の第4の実施の形態は、第2の実施の形態による乗員検知装置において、サーモパイル素子のアレイにおける各段間の出力差を比較するもので、乗員の大人と子供の区別または乗員と荷物の区別を確実に行うことができる。
本発明の第5の実施の形態は、第1から第3の実施の形態による乗員検知装置において、一対のサーモパイルセンサの出力における揺らぎを観察するもので、乗員と荷物の区別を行うことができる。
【実施例】
【0008】
以下に、本発明の乗員検知装置の一実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本発明による乗員検知装置の基本構成を示す概念図である。以下の説明では助手席に着座する乗員を検知する場合を例に説明するが、後部座席の場合でもその構成は本質的に同一である。
ダッシュボード11の助手席12と対面する位置に、水平方向に距離dだけ離間して一対のサーモパイルセンサ13、14が設置されている。サーモパイルセンサ13、14は、各々遠赤外線を検出可能なサーモパイル素子を複数個アレイ状に配列して構成される。各サーモパイルセンサ13、14は、助手席12に乗員15が着座していないときに助手席12の背もたれ部分表面の所定の領域Pを監視するように光軸が調整されて配置される。助手席12に乗員15が着座した場合には、各サーモパイルセンサ13、14は、助手席12の表面より各サーモパイルセンサ13、14に近接した位置である乗員15の前面における異なる位置を監視することになる。
【0009】
図2は、複数のサーモパイル素子の配列構成の例で、検出空間を面状で捉えるために、面の横軸方向および縦軸方向に複数のサーモパイル素子をアレイ状に配列する。同図(A)は4つのサーモパイル素子1a〜1dを2列2段に配列した例である。同図(B)は5つのサーモパイル素子2a〜2eを2列2段、中間位置に1個配列した例、同図(C)は6つのサーモパイル素子3a〜3fを2列3段に配列した例、同図(D)は9つのサーモパイル素子4a〜4iを3列3段に配列した例、同図(E)はn×mのサーモパイル素子5をn列m段に配列した例である。これらの複数のサーモパイル素子のアレイにより助手席12の所定の領域、すなわち図1における領域Pを面状に監視する。
【0010】
図3は図1の構成を車両の天井側から見た場合の構成である。図1と同一部分には同一符号を付して説明を省略する。サーモパイルセンサ13の光軸にはミラー16が、サーモパイルセンサ14の光軸にはミラー17が配置され、ミラー16の角度を変えることによりサーモパイルセンサ13の監視領域18を、ミラー17の角度を変えることによりサーモパイルセンサ14の監視領域19を変化させることができる。サーモパイルセンサ13の監視領域18とサーモパイルセンサ14の監視領域19は、図3に示すように助手席12の背もたれ部分表面における所定の領域Pで互いに一致ないし重畳するようにミラー16、17の光軸角度を調整する。たとえば、サーモパイルセンサ13、14として図2(C)に示す6素子のサーモパイル素子3a〜3fを2列3段にアレイ状に配列したものを使用した場合、図4に示すように、サーモパイルセンサ13の監視領域18における各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置131〜136とサーモパイルセンサ14の監視領域19における各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置141〜146が重畳するようにミラー16、17の光軸角度を調整する。この場合、たとえば、サーモパイルセンサ13の上段のサーモパイル素子3a、3bによる監視位置131、132およびサーモパイルセンサ14の上段のサーモパイル素子3a、3bによる監視位置141、142でヘッドレスト部を、サーモパイルセンサ13の中段のサーモパイル素子3c、3dによる監視位置133、134およびサーモパイルセンサ14の中段のサーモパイル素子3c、3dによる監視位置143、144で背もたれ部の上部を、サーモパイルセンサ13の下段のサーモパイル素子3e、3fによる監視位置135、136およびサーモパイルセンサ14の下段のサーモパイル素子3e、3fによる監視位置145、146で背もたれ部の下部を監視するように光軸角度を調整する。光軸角度の調整は、たとえば座席シートの移動に連動させて自動的に変化させればよい。光軸自動調整シートは背もたれ用面ヒーターによる自動調整する方式もある。もちろん手動で調整するようにしてもよい。
【0011】
なお、図4においては、わかりやすくするために実線で示したサーモパイルセンサ13の監視領域18と破線で示したサーモパイルセンサ14の監視領域19、および、実線で示したサーモパイルセンサ13の各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置131〜136と破線で示したサーモパイルセンサ14の各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置141〜146をややずらせて図示しているが、実際には完全に一致ないし重畳するようにすることが好ましい。サーモパイルセンサ13、14のサーモパイル素子の配列が図2(C)に示す6素子配列以外の配列である場合も同様にサーモパイルセンサ13の監視領域18における各サーモパイル素子の監視位置とサーモパイルセンサ14の監視領域19における各サーモパイル素子の監視位置が一致ないし重畳するようにミラー16、17の角度を調整する。
この状態で助手席12に乗員15が着座した場合は、サーモパイルセンサ13の監視領域18は乗員15の表面における位置Qに、サーモパイルセンサ14の監視領域19は乗員15の表面における位置Rになる。すなわち、サーモパイルセンサ13およびサーモパイルセンサ14は乗員15の異なる位置を監視する。
【0012】
図5は本発明による乗員検知装置の信号処理回路系の一例を示すブロック図である。サーモパイルセンサ13、14として図2(C)に示した6素子のものを使用した場合を例に説明する。サーモパイルセンサ13で監視した監視領域18における絶対温度は図4に示す6つのサーモパイル素子3a〜3fにより監視位置131〜136に対応した6チャンネルの電気信号として取り出され、6チャンネルの増幅器21で増幅されて信号処理回路22で6チャンネルの温度信号として測定される。同様に、サーモパイルセンサ14で監視した監視領域19における絶対温度は6つのサーモパイル素子3a〜3fにより監視位置141〜146に対応した6チャンネルの電気信号として取り出され、6チャンネルの増幅器23で増幅されて信号処理回路24で6チャンネルの温度信号として測定される。
信号処理回路22および信号処理回路24の出力は6チャンネルの減算回路25に供給される。減算回路25では、信号処理回路22から出力されるサーモパイルセンサ13のサーモパイル素子3aによる温度信号と信号処理回路24から出力されるサーモパイルセンサ14のサーモパイル素子3aによる温度信号とを減算する。同様に、サーモパイルセンサ13のサーモパイル素子3bによる温度信号とサーモパイルセンサ14のサーモパイル素子3bによる温度信号とを、サーモパイルセンサ13のサーモパイル素子3cによる温度信号とサーモパイルセンサ14のサーモパイル素子3cによる温度信号とを、サーモパイルセンサ13のサーモパイル素子3dによる温度信号とサーモパイルセンサ14のサーモパイル素子3dによる温度信号とを、サーモパイルセンサ13のサーモパイル素子3eによる温度信号とサーモパイルセンサ14のサーモパイル素子3eによる温度信号とを、および、サーモパイルセンサ13のサーモパイル素子3fによる温度信号とサーモパイルセンサ14のサーモパイル素子3fによる温度信号とをそれぞれ減算する。減算回路25からの6チャンネルの減算信号は増幅器26で増幅されてワンチップマイクロコンピュータなどによるエアバッグ作動制御回路27に供給される。
ところで、サーモパイルセンサ13、14は監視領域における絶対温度を測定するが、サーモパイルセンサ13、14が配置されている位置の温度によりその出力信号レベルが変化する。そこで、サーモパイルセンサ13、14の配置位置の温度をサーミスタ28で測定し、サーミスタ28による測定温度信号を増幅器26に供給して減算回路25からの6チャンネルの減算信号を温度補償する。なお、この温度補償は信号処理回路22、信号処理回路24において行ってもよい。
【0013】
つぎに本発明による乗員検知装置の動作を図1〜図5とともに説明する。
助手席12に乗員15が着座していない状態では、助手席12の表面における位置Pを背景とし、図4に示すように、サーモパイルセンサ13は助手席12の監視領域18における表面温度を背景温度として測定し、サーモパイルセンサ14は助手席12の監視領域19における表面温度を背景温度として測定する。サーモパイルセンサ13におけるサーモパイル素子3a〜3fの配列構成とサーモパイルセンサ14におけるサーモパイル素子3a〜3fの配列構成とは同一であり、それぞれの監視領域はミラー16、17により同一になるように調整されているので、サーモパイルセンサ13の各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置131〜136とサーモパイルセンサ14の各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置141〜146は重畳し、助手席の同一位置の温度を測定していることになる。
サーモパイルセンサ13で測定した助手席12の絶対温度はサーモパイル素子3a〜3fにより監視位置131〜136に対応した6チャンネルの電気信号として取り出され、6チャンネルの増幅器21で増幅されて信号処理回路22で6チャンネルの温度信号として測定される。信号処理回路22では、各チャンネルの各々の信号において、他のいずれかのチャンネルの信号との差信号を演算して出力する。
同様に、サーモパイルセンサ14で測定した助手席12の絶対温度はサーモパイル素子3a〜3fにより監視位置141〜146に対応した6チャンネルの電気信号として取り出され、6チャンネルの増幅器23で増幅されて信号処理回路24で6チャンネルの温度信号として測定される。信号処理回路24では、各チャンネルの各々の信号において、他のいずれかのチャンネルの信号との差信号を演算して出力する。
信号処理回路22および信号処理回路24の出力は減算回路25に供給され、減算回路25ではサーモパイルセンサ13で測定された助手席12の絶対温度信号とサーモパイルセンサ14で測定された助手席12の絶対温度信号とを減算する。前述したように、サーモパイルセンサ13の各サーモパイル素子3a〜3fとサーモパイルセンサ14の各サーモパイル素子3a〜3fは助手席12の同一位置の温度を測定しているので、減算回路25の減算出力は助手席の各部の温度の如何にかかわらず常に「ゼロ」になる。したがって、増幅器26の出力も「ゼロ」になり、助手席12に乗員が着座していない状態では常に増幅器26の出力は「ゼロ」になる。すなわち、助手席12の表面である背景における信号を「ゼロ」として認識する。
【0014】
一般に、自動車内の温度は夏と冬、朝夕と昼間、空調の状態、日照位置、ドアの開閉などにより全体的にあるいは局所的に異なり、また、温度変化も激しい。したがって、サーモパイルセンサ13、14が測定する背景温度も大きく変化するが、上述したように、サーモパイルセンサ13で測定された背景温度とサーモパイルセンサ14で測定された背景温度とを減算することにより背景温度の変化の如何にかかわらず背景温度の測定値を常に「ゼロ」に規定することができる。
ところで、サーモパイルセンサ13、14の出力値はサーモパイルセンサ13、14自体の温度環境よって変化し、同一位置を測定しているにもかかわらず測定時の自動車内の温度状態により変化する。そこで、サーミスタ28でサーモパイルセンサ13、14の配置位置の温度を測定してその測定温度信号を増幅器26に供給し、減算回路25からの減算信号を温度補償する。
【0015】
助手席12に乗員が着座すると、図3に示すように、サーモパイルセンサ13の監視領域18は乗員15の表面における位置Qに、サーモパイルセンサ14の監視領域19は乗員15の表面における位置Rになる。すなわち、サーモパイルセンサ13およびサーモパイルセンサ14は乗員15の異なる位置を監視する。
サーモパイルセンサ13で測定した乗員15の監視位置Qにおける絶対温度はサーモパイル素子3a〜3fにより監視位置131〜136に対応した6チャンネルの電気信号として取り出され、増幅器21で増幅されて信号処理回路22で6チャンネルの温度信号として測定される。同様にサーモパイルセンサ14で測定した乗員15の監視位置Rにおける絶対温度はサーモパイル素子3a〜3fにより監視位置141〜146に対応した6チャンネルの電気信号として取り出され、増幅器23で増幅されて信号処理回路24で6チャンネルの温度信号として測定される。信号処理回路22および信号処理回路24の出力は減算回路25で減算されるが、この場合は、サーモパイルセンサ13の各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置131〜136とサーモパイルセンサ14の各サーモパイル素子3a〜3fの監視位置141〜146が乗員15の異なる位置の温度を測定しているので、サーモパイルセンサ13とサーモパイルセンサ14の出力にはその温度差による測定値の差が存在し、減算回路25の6チャンネルの各出力はゼロにはならず、温度差に対応した値が得られる。したがって、増幅器26からはこの温度差に対応した値が出力し、この測定値の有無により乗員15が着座しているか否かを検出することができる。
増幅器26の出力はエアバッグ作動制御回路27に供給され、その出力の大きさに応じてエアバッグを作動させる空気量を制御する。
なお、乗員15の異なる位置Q、Rにおける温度差は同一人の着衣の異なる位置であるので、通常小さい値である。したがって、増幅器21、23の増幅率はある程度大きいことが好ましい。
なお、特許文献1のような助手席12のシート部内に重量センサを配置し、乗員15の体重を検知する構成や、特許文献2のようなシートベルト着用検知を併用すれば一層高精度に乗員検知をすることができる。
【0016】
前述したように、助手席12に子供が着座している場合にはエアバッグが作動しない方が望ましい場合がある。そこで、乗員15が大人であるか子供であるか判定する必要がある。乗員15が大人であるか子供であるかを判定するにはサーモパイルセンサ13、14をサーモパイル素子の複数個をアレイ状に配列した多素子構成とする。本実施例においては、サーモパイルセンサ13の上段のサーモパイル素子3a、3bによる監視位置131、132およびサーモパイルセンサ14の上段のサーモパイル素子3a、3bによる監視位置141、142でヘッドレスト部を、サーモパイルセンサ13の中段のサーモパイル素子3c、3dによる監視位置133、134およびサーモパイルセンサ14の中段のサーモパイル素子3c、3dによる監視位置143、144で背もたれ部の上部を、サーモパイルセンサ13の下段のサーモパイル素子3e、3fによる監視位置135、136およびサーモパイルセンサ14の下段のサーモパイル素子3e、3fによる監視位置145、146で背もたれ部の下部を監視するようにする。
乗員15が大人あるいは大人とほぼ同等の体格である中学生以上である場合は、その体格から見てヘッドレスト部および背もたれ部のすべてを覆って着座する状態になる。したがって、サーモパイル素子3a〜3fのすべてに対しての監視領域が図3の位置Q、Rになる。一方、乗員が小学生以下の子供である場合は座高が低いので、ヘッドレスト部、場合によっては背もたれ部の上部を覆わずに着座する状態になる。したがって、ヘッドレスト部に対応する上段のサーモパイル素子3a、3b、場合によっては背もたれ部の上部に対応する中段のサーモパイル素子3c、3dの監視領域が図3の位置Q、Rの位置ではなく助手席12の表面である背景位置になる。乗員15の表面位置である位置Q、Rにおける温度と助手席12の表面である背景温度は異なっており、また、人体の温度変化は体温によるものなので緩慢であるのに対し、背景温度の温度変化は車両の室内温度環境により比較的急激に変化する。また、乗員15の表面位置である位置Q、Rは乗員15の呼吸や姿勢の変化などによる動きにより時刻とともに変化し、さらに人体は静止していてもわずかに熱線変化があるので、その温度測定値には揺らぎが存在するが、助手席12の表面である背景温度には揺らぎはほとんど存在しない。したがって、これらの相違によるサーモパイルセンサ13、14の各サーモパイル素子3a〜3fの出力値が変化し、乗員15が大人である場合には減算回路25から6チャンネルの出力が得られ、乗員15が子供である場合には減算回路25からは2〜4チャンネルの出力しか得られない。したがって、乗員15が大人であるか子供であるかの区別をすることができる。
乗員15が子供である場合は、減算回路25から2〜4チャンネルの出力しか出力されないので、エアバッグ作動制御回路27はその出力の状態に応じてエアバッグを作動させる空気量を少なくしたり、作動させないように制御する。
なお、助手席12に重量センサを併用すれば大人と子供の区別は一層高精度に行うことができる。
【0017】
乗員が眠っている場合など助手席12の左右いずれかに片寄って正常な着座位置からずれている場合は、サーモパイルセンサ13およびサーモパイルセンサ14のいずれかの監視領域が乗員15の表面位置である位置Q、Rから外れたり、サーモパイルセンサ13およびサーモパイルセンサ14の各サーモパイル素子3a〜3fの配列における列の位置、すなわち、サーモパイル素子3a、3c、3eの列または3b、3d、3fの列による監視位置が乗員15の表面位置である位置Q、Rから外れることにより検知することができる。この場合も重量センサを併用すれば一層高精度に判定することができる。
また、乗員が前かがみになっている場合は、乗員15とサーモパイルセンサ13、14との距離が近くなるので、乗員15の表面位置である位置Q、Rの面積および位置が変化する。これによりサーモパイルセンサ13、14の出力が変化するので、前かがみ状態を検知することができる。
これらの場合においても、エアバッグ作動制御回路27によりエアバッグを作動させる空気量を少なくしたり、作動させないように制御する。
【0018】
助手席12に乗員15が着座せずに荷物をおいた場合は、サーモパイルセンサ13、14の監視領域が乗員15が着座した場合と同様に背景位置とは異なる位置Q、Rになる。前述したように、助手席に荷物を置いた場合はエアバッグを作動させないことが好ましい。したがって、助手席12に乗員が着座しているのか荷物がおいてあるのかを区別する必要がある。この区別は、前述した大人と子供の区別と同様に、大きさによる区別の場合ではヘッドレスト部に対応する上段のサーモパイル素子3a、3bや背もたれ部の上部に対応する中段のサーモパイル素子3c、3dの監視領域の位置が助手席12の表面である背景位置であるか否かで判定することができる。また、荷物が乗員と同様な大きさである場合は、サーモパイルセンサ13、14の監視領域Q、Rにおける温度に揺らぎが存在するか否かで判定することができる。この場合も重量センサを併用すれば一層高精度に判定することができる。
助手席12に荷物が置かれていると判定された場合は、エアバッグ作動制御回路27はエアバッグを作動させないように制御する。
【0019】
以上の説明においては、助手席に着座する乗員を検知する場合を例に説明したが、後部座席の場合でも同様に構成し、同様に作用させることができる。
また、以上の説明においては、サーモパイルセンサ13、14をダッシュボード11に設置した例について説明したが、車両の天井面に設置して助手席や後部座席の乗員を監視するようにしてもよい。この場合は、背景が座席の背もたれ表面以外に、サイドドア内面など異なる位置になることがある。
また、サーモパイルセンサ13、14の光学系として、ミラー16、17の代わりにレンズ系あるいはレンズとミラーの組み合わせによる光学系を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の乗員検知装置は、エアバッグ装置を備えた乗用車等の車両における運転席以外の助手席や後部座席に乗員が着座しているか否か、着座している場合は大人か子供であるかを判定して、エアバッグ装置を助手席や後部座席の乗員の状態に適合させて作動させるための乗員検知装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による乗員検知装置の基本構成を示す概念図
【図2】本発明による乗員検知装置に使用されるサーモパイルセンサのサーモパイル素子の配列構成を示す正面図で、(A)は4つのサーモパイル素子を2列2段に配列した図、(B)は5つのサーモパイル素子を配列した図、(C)は6つのサーモパイル素子を2列3段に配列した図、(D)は9つのサーモパイル素子を3列3段に配列した図、(E)はn×mのサーモパイル素子をn列m段に配列した図
【図3】図1の構成を車両の天井側から見た場合の構成を示す概念図
【図4】本発明による乗員検知装置における一対のサーモパイルセンサの監視領域およびサーモパイル素子の監視位置を説明する正面図
【図5】本発明による乗員検知装置の信号処理回路系の一例を示すブロック図
【符号の説明】
【0022】
1a〜1d、2a〜2e、3a〜3f、4a〜4i、5 サーモパイル素子
11 ダッシュボード
12 助手席
13、14 サーモパイルセンサ
15 乗員
16、17 ミラー
18、19 監視領域
21、23 増幅器
22、24 信号処理回路
25 減算回路
26 増幅器
27 エアバッグ作動制御回路
131〜136、141〜146 監視位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に乗員が着座しているか否かを検知する乗員検知装置であって、水平方向に所定の距離だけ離間して配置された一対のサーモパイルセンサと、一対の前記サーモパイルセンサの各々から出力される検出値の出力差を取り出す減算手段を有し、一対の前記サーモパイルセンサの各々は前記座席に前記乗員が着座していないときに前記座席または座席周辺の所定の同一位置を監視するように配置されていることを特徴とする乗員検知装置。
【請求項2】
一対の前記サーモパイルセンサの各々は複数のサーモパイル素子を複数列、複数段にアレイ状に配列したことを特徴とする請求項1に記載の乗員検知装置。
【請求項3】
一方の前記サーモパイルセンサにおける各サーモパイル素子の監視領域と、他方の前記サーモパイルセンサにおける各サーモパイル素子の監視領域が背景物体の位置においてそれぞれ同一または重畳していることを特徴とする請求項2に記載の乗員検知装置。
【請求項4】
前記サーモパイル素子のアレイにおける各段間の出力差により、前記乗員の大人と子供の区別または前記乗員と荷物の区別を行うことを特徴とする請求項2に記載の乗員検知装置。
【請求項5】
一対の前記サーモパイルセンサの出力における揺らぎにより、前記乗員と荷物の区別を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗員検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−208241(P2006−208241A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22048(P2005−22048)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(397058747)マツダマイクロニクス株式会社 (9)
【Fターム(参考)】