説明

乗客コンベアのインレット安全装置

【課題】利用者の指等が移動手摺りとインレット部材との隙間に巻き込まれる事態を未然に防止でき、しかも、設置が容易にできる乗客コンベアのインレット安全装置を提供する。
【解決手段】移動手摺り5が外部よりスカート部内に進入する位置で移動手摺り5の外周を覆うインレット部材11と、スカート部の正面プレート6cの内面に設けられ、移動手摺り5が外部からスカート部に進入する外側近傍エリアを検出エリアとし、この検出エリアへの物体の近接を検出するマイクロ波センサ12Aと、マイクロ波センサ12Aが物体の近接を検出すると、警告等の安全処理の実行を制御する制御部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動手摺りがスカート部内に入り込む箇所での巻き込み事故を防止するための乗客コンベアのインレット安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアであるエスカレータは、上階床と下階床の間に亘って配置されたトラス構造体と、このトラス構造体内でほぼ長楕円軌道に沿って配置され、無端状に連結された多数の踏段と、この踏段の両側位置に立設された一対の欄干と、一対の欄干の周縁部にそれぞれ装着され、踏段と同期して移動する無端状の一対の移動手摺りと、一対の欄干の各下部位置で、一方の乗降口から他方の乗降口の間に亘って設けられた一対のスカート部とを備えている。
【0003】
移動手摺りは、エスカレータの乗り口側でスカート部より外部に現れ、欄干の上端側を走行する際に利用者が手で掴めるように外部を移動する。そして、エスカレータの降り口側でスカート部内に入り込み、欄干の下端側を走行する際にはスカート部内を移動する。移動手摺りが外部よりスカート部内に入り込む箇所では、移動手摺りと共に利用者の指等の異物がスカート部との隙間に巻き込まれることが想定される。そのため、スカート部への巻き込み防止対策として従来より種々のインレット安全装置が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に開示されたインレット安全装置は、スカート部に移動手摺りが進入する位置で、移動手摺りの移動方向に変位できるように設けられたインレット部材と、スカート部の内部に設けられ、インレット部材の変位を検出する安全スイッチとを備えている。
【0005】
移動手摺りとインレット部材との隙間に利用者の指などが巻き込まれると、インレット部材が移動手摺りの移動方向に変位し、これを安全スイッチが検知する。この安全スイッチの検知によって、エスカレータの運転を停止し、利用者の指等が移動手摺りとインレット部材との隙間に深く巻き込まれる事態を防止する。
【0006】
しかしながら、上記従来のインレット安全装置では、利用者の指等がインレット部材と移動手摺りとの隙間に挟まれて初めて作動するため、エスカレータの緊急停止タイミングを迅速に行う必要がある。
【0007】
このような問題を解決した従来技術として特許文献2に開示されたものがある。特許文献2のインレット安全装置は、図5に示すように、移動手摺り100が反転する昇降口の床101側に設置された物体検出手段102と、この物体検出手段102に所定時間だけ物体が乗ると通報信号を発する図示しない通報装置とを備えている。
【0008】
この従来のインレット安全装置によれば、移動手摺り100がスカート部110に進入する位置に近づいた時点で警告を発するため、利用者の指等の異物が移動手摺り100とインレット部材111との隙間に巻き込まれる事態を未然に防止できる。
【特許文献1】実開平2−52880号公報
【特許文献2】実開平1−140390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示された従来例では、昇降口の床101に物体検出手段102を設置しなければならないため、装置が大掛かりであり、設置が面倒である。特に、既に設置されている乗客コンベアに設置する場合には、過大な設置時間及び設置コストが掛かる。
【0010】
そこで、本発明は、利用者の指等の異物が移動手摺りとインレット部材との隙間に巻き込まれる事態を未然に防止でき、しかも、設置が容易にできる乗客コンベアのインレット安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、乗客コンベアのインレット安全装置であって、スカート部に移動手摺りが進入する位置で前記移動手摺りの外周を覆うインレット部材と、前記移動手摺りが外部から進入する前記スカート部の内側に設けられ、前記移動手摺りが外部から前記スカート部に進入する外側近傍エリアを検出エリアとし、この検出エリアへの物体の近接を検出する物体検出手段と、前記物体検出手段が物体の近接を検出すると、安全処理の実行を制御する制御部とを備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動手摺りがスカート部に進入する箇所の近傍に指等の異物が近づくと、その異物を物体検出手段が検出し、安全処理が実行される。そして、スカート部の内部に物体検出手段を設置すれば良いため、簡単な設置作業で設置できる。以上より、利用者の指等の異物が移動手摺りとインレット部材との隙間に巻き込まれる事態を未然に防止でき、しかも、設置が容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0014】
図1〜図4は本発明に係る乗客コンベアのインレット安全装置を適用した一実施の形態を示し、図1はエスカレータの概略側面図、図2はインレット安全装置の設置状態を示す断面図、図3はインレット安全装置の制御系の概略ブロック図、図4はインレット安全装置の動作説明を行う図である。
【0015】
図1に示すように、乗客コンベアであるエスカレータ1は、上階床と下階床の間に亘って配置されたトラス構造体2と、このトラス構造体2内で長楕円軌道に沿って配置され、無端状に連結された多数の踏段3と、この多数の踏段3の両側位置に立設された一対の欄干4と、一対の欄干4の周縁部にそれぞれ装着され、多数の踏段3と同期して移動する無端状の一対の移動手摺り5と、一対の欄干4の各下方位置を覆い、上階床の乗降口から下階床の乗降口の間に亘って設けられた一対のスカート部6とを備えている。
【0016】
移動手摺り5は、上昇方向Uの運転時には下階床の乗降口側でスカート部6内より外部に現れ、上階床の乗降口側でスカート部6内に入り込む。又、下降方向Dの運転時には上階床の乗降口側でスカート部6内より外部に現れ、下階床の乗降口側でスカート部6内に入り込む。そして、各運転時において、移動手摺り5が欄干4の上端側を走行する際に利用者が手で掴むことに利用される。
【0017】
スカート部6は、図2に示すように、欄干4の踏段3側である内側を覆い、利用者の足元を保護する内側デッキ部6aと、欄干4の外側を覆う外側デッキ部6b(図1に示す)と、内側デッキ部6aと外側デッキ部6bの長手方向の両側位置、つまり、上階床及び下階床の双方の乗降口の位置で、その各端面の内側を覆う正面プレート6cとから構成されている。
【0018】
上階床及び下階床の双方の乗降口位置の各正面プレート6cには、欄干4と移動手摺り5を通すための欄干・手摺り用孔7がそれぞれ形成されている。そして、この双方の欄干・手摺り用孔7の周辺位置にインレット安全装置10が設置されている。尚、インレット安全装置10は、移動手摺り5がスカート部6に入り込む位置にのみ設置すれば良いが、本エスカレータ1は、上昇運転と下降運転の選択運転が可能である。そのため、インレット安全装置10は、上階床及び下階床の双方の乗降口位置側の2カ所を対象として設置されている。
【0019】
図2及び図3に詳しく示すように、インレット安全装置10は、正面プレート6cの欄干・手摺り用孔7に基端側が挿入され、先端側が正面プレート6cより外部に突出されたインレット部材11と、上階床及び下階床の双方の乗降口位置における各正面プレート6cの内面に固定された物体検出手段であるマイクロ波センサ12A,12Bと、双方のマイクロ波センサ12A,12Bの検出信号が出力される制御部13とを備えている。
【0020】
インレット部材11は、ゴム製であり、正面プレート6cに固定されている。正面プレート6cは、マイクロ波が透過する合成樹脂材にて形成されている。
【0021】
マイクロ波センサ12A,12Bは、マイクロ波(周波数が数百MHz〜数十GHz)を発生するマイクロ波発生部と物体を反射して戻ってくるマイクロ波を受信するマイクロ波受信部とを備えている。この各マイクロ波センサ12A,12Bは、移動手摺り5が外部からスカート部6に進入する外側近傍エリアを検出エリアE(図4に示す)とし、この検出エリアEへの物体の近接を検出する。マイクロ波センサ12A,12Bの感度は、検出レベルの調整によって自由に調整可能になっている。
【0022】
制御部13には、上階床と下階床の双方の乗降口位置に設置された2カ所のマイクロ波センサ12A,12Bの出力が入力されている。そして、制御部13は、エスカレータの運転方向に応じて、移動手摺り5がスカート部6より外部に退出する側のマイクロ波センサ12A又は12B(上昇運転Uではマイクロ波スイッチ12B、下降運転Dではマイクロ波センサ12A)の検出出力を無効とし、移動手摺り5がスカート部6に外部から進入する側のマイクロ波センサ12B又は12A(上昇運転Uではマイクロ波スイッチ12A、下降運転Dではマイクロ波センサ12B)の検出出力を有効として以下の安全処理を実行する。つまり、有効とされたマイクロ波センサ12A又は12Bが物体の近接を検出すると、具体的には、一定距離以内(検出エリアE)に一定時間以上(例えば10cm以内に5秒以上)物体が存在している場合に、アラーム等による警告を発するよう制御する。警告を発しても一定時間以上物体の検出が続けば、エスカレータ1の運転を緊急停止するよう制御する。
【0023】
上記構成において、図4に示すように、移動手摺り5がスカート部6に進入する箇所の近傍に指a等の異物が近づくと、その異物をマイクロ波センサ12が検出し、警告やエスカレータ1の緊急停止を行うものである。
【0024】
本発明に係るインレット安全装置10では、スカート部6の内部にマイクロ波センサ12を設置すれば良いため、簡単な設置作業で設置できる。以上より、利用者の指a等の異物が移動手摺り5とインレット部材11との隙間に巻き込まれる事態を未然に防止でき、しかも、インレット安全装置10の設置が容易にできる。
【0025】
また、既存設備に対しては基本的にスカート部6の正面プレート6c内面にマイクロ波センサ12を設置すれば良いため、既存設備への後付け設置を容易に行うことができる。ただし、スカート部6の正面プレート6cが金属製であれば合成樹脂製に交換する必要があるが、いずれにしても簡単な作業でできる。
【0026】
この実施の形態では、物体検出手段は、マイクロ波センサ12である。従って、スカート部6の正面プレート6cをマイクロ波の透過材にて形成するだけで設置できる。尚、この実施の形態では、物体検出手段がマイクロ波センサ12であるが、検出波がスカート部6を通過でき、かつ、検出エリアEへの物体の近接を非接触で検出できるものであれば良い。
【0027】
この実施の形態では、マイクロ波センサは、移動手摺り5がスカート部6に外部から進入する箇所とスカート部6の内部より外部に退出する箇所をエスカレータ1の運転方向に逆転させる2カ所に設けられ、制御部13は、エスカレータの運転方向に応じて、移動手摺り5がスカート部6より外部に退出する側のマイクロ波センサ12A又は12Bの検出出力を無効とし、移動手摺り5がスカート部6に外部から進入する側のマイクロ波センサ12B又は12Aの検出出力を有効として制御を実行する。従って、指等の異物が巻き込まれる可能性が皆無に近い、移動手摺り5がスカート部6より外部に退出する側のマイクロ波センサ12A又は12Bに物体が近接した場合にエスカレータ1が緊急停止するような誤作動を防止できる。
【0028】
尚、この実施の形態では、インレット安全装置10,20を乗客コンベアであるエスカレータ1に適用したが、エスカレータ1以外の乗客コンベア、例えば動く歩道に適用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係るエスカレータの概略側面図。
【図2】本発明の実施の形態に係るインレット安全装置の設置状態を示す断面図。
【図3】本発明の実施の形態に係るインレット安全装置の制御系の概略ブロック図。
【図4】本発明の実施の形態に係るインレット安全装置の動作説明を行う図。
【図5】従来例のインレット安全装置の設置状態を示す側面図。
【符号の説明】
【0030】
1 エスカレータ(乗客コンベア)
5 移動手摺り
6 スカート部
6c 正面プレート
10 インレット安全装置
11 インレット部材
12 マイクロ波センサ(物体検出手段)
13 制御部
E 検出エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカート部に移動手摺りが進入する位置で前記移動手摺りの外周を覆うインレット部材と、
前記移動手摺りが外部から進入する前記スカート部の内側に設けられ、前記移動手摺りが外部から前記スカート部に進入する外側近傍エリアを検出エリアとし、この検出エリアへの物体の近接を検出する物体検出手段と、
前記物体検出手段が物体の近接を検出すると、安全処理の実行を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアのインレット安全装置。
【請求項2】
前記物体検出手段は、マイクロ波センサであることを特徴とする請求項1に記載された乗客コンベアのインレット安全装置。
【請求項3】
前記物体検出手段は、前記移動手摺りが前記スカート部に外部から進入する箇所と前記スカート部の内部より外部に退出する箇所を乗客コンベアの運転方向によって逆転させる2カ所に設けられ、前記制御部は、乗客コンベアの運転方向に応じて、前記移動手摺りが前記スカート部より外部に退出する側の前記物体検出手段の検出出力を無効とし、前記移動手摺りが前記スカート部に外部から進入する側の前記物体検出手段の検出出力を有効として制御を実行することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された乗客コンベアのインレット安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−174338(P2008−174338A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8303(P2007−8303)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】