説明

乗客コンベアの移動手摺

【課題】本発明は、手摺本体の接続部と他の部分との剛性の差を抑制するとともに、接続部の引張強度を安定して確保することを目的とするものである。
【解決手段】抗張体2の第1の端部2aには、複数の第1の貫通孔5a〜5fが設けられている。抗張体2の第2の端部2bには、複数の第2の貫通孔6a〜6fが設けられている。第1及び第2の端部2a,2bは、第1の貫通孔5a〜5fと第2の貫通孔6a〜6fとが連通するように重ね合わせられる。第1及び第2の端部2a,2bの周囲は、芯体1と同じ熱可塑性材料により覆われる。また、第1及び第2の貫通孔5a〜5f,6a〜6fにも熱可塑性材料が充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性材料からなる芯体内に帯状の抗張体が埋設されている乗客コンベアの移動手摺に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアの移動手摺では、抗張体の両端部を接着剤により接着した後、その周囲を熱可塑性材料で覆うことにより、手摺本体の両端部が接続される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−211872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来の移動手摺では、手摺本体の両端部の接続部で抗張体が重ね合わせられているため、接続部の曲げ剛性が他の部分の曲げ剛性よりも高くなり過ぎる。このため、接続部が湾曲されると、抗張体の重ね合わせ範囲の両端に力が集中し、その部分に過度の変形が生じる。また、抗張体の両端部は接着剤により接着されているだけであるため、万一接着剤が剥がれた場合、手摺本体の接続部の引張強度は熱可塑性材料の引張強度のみとなり大幅に低下する。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、手摺本体の接続部と他の部分との剛性の差を抑制することができるとともに、接続部の引張強度を安定して確保することができる乗客コンベアの移動手摺を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベアの移動手摺は、熱可塑性材料により成形されている芯体と、芯体内に長手方向に沿って連続的に設けられている帯状の抗張体とを有する手摺本体を備え、抗張体の長手方向の第1の端部には第1の貫通孔が設けられており、抗張体の長手方向の第2の端部には第2の貫通孔が設けられており、第1及び第2の貫通孔が連通するように第1及び第2の端部を重ね合わせた上で、第1及び第2の端部の周囲を熱可塑性材料により覆うとともに第1及び第2の貫通孔に熱可塑性材料を充填することにより、手摺本体の両端部が接続されている。
【発明の効果】
【0007】
この発明の乗客コンベアの移動手摺は、抗張体の第1及び第2の端部に貫通孔を設けたので、手摺本体の接続部における抗張体の断面積が小さくなり、接続部の剛性が低下し、接続部と他の部分との剛性の差を抑制することができる。また、貫通孔にも熱可塑性材料が充填されるので、熱可塑性材料が第1及び第2の端部間を機械的に締結することになり、接続部の引張強度を安定して確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による乗客コンベアの移動手摺の断面図である。図において、断面C字状の芯体1は、熱可塑性エラストマー等の熱可塑性材料により成形されている。芯体1は、使用目的や製造方法に応じて1層又は複数の層により構成されている。芯体1内には、帯状の抗張体2が芯体1の長手方向に沿って連続的に埋設されている。抗張体2は、例えば鋼又はステンレス鋼等の金属(金属テープ)により構成されている。
【0009】
芯体1の内面には、スライド布3が芯体1の長手方向に沿って連続的に付着されている。このスライド布3により、手摺ガイド(図示せず)との間の摩擦力が低減されるとともに、手摺駆動ローラ(図示せず)との間で所要の摩擦力が確保される。また、スライド布3の材料としては、例えば綿、又はポリエステル等の合成繊維が用いられる。実施の形態1の手摺本体4は、芯体1、抗張体2及びスライド布3を有している。
【0010】
次に、移動手摺の製造方法について説明する。上記の手摺本体4は、所定長さで直線状に成形された後、その両端部が接続され、全体形状が環状にされる。図2は図1の手摺本体4の両端部の接続部の接続前の状態を示す斜視図である。抗張体2は、長手方向の一端部である第1の端部2aと、長手方向の他端部である第2の端部2bとを有している。
【0011】
第1及び第2の端部2a,2bの周囲の芯体1は除去されており、これにより第1及び第2の端部2a,2bは芯体1から露出されている。第1の端部2aには、抗張体2をその厚さ方向に貫通する複数の円形の第1の貫通孔5a〜5fが設けられている。第1の貫通孔5a〜5fは、抗張体2の幅方向及び長手方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0012】
第2の端部2bには、抗張体2をその厚さ方向に貫通する複数の円形の第2の貫通孔6a〜6fが設けられている。第2の貫通孔6a〜6fは、第1の貫通孔5a〜5fに対応する位置に配置されている。即ち、第2の貫通孔6a〜6fは、第1の貫通孔5a〜5fと等ピッチで配置されている。また、第2の貫通孔6a〜6fの径は、第1の貫通孔5a〜5fの径と同じである。
【0013】
抗張体2の第1及び第2の端部2a,2bは、図3に示すように、第1の貫通孔5a〜5fと対応する第2の貫通孔6a〜6fとが連通するように重ね合わせられ、専用接続型に入れられる。この後、専用接続型内に溶融した熱可塑性材料が注入され、熱可塑性材料が硬化される。これにより、第1及び第2の端部2a,2bの周囲は、芯体1と同じ熱可塑性材料により覆われる。また、第1及び第2の貫通孔5a〜5f,6a〜6fにも熱可塑性材料が充填される。このようにして、手摺本体4の両端部が接続され、移動手摺が製造される。
【0014】
このような乗客コンベアの移動手摺では、第1及び第2の端部2a,2bに貫通孔5a〜5f,6a〜6fを設けたので、手摺本体4の接続部における抗張体2の断面積が小さくなり、接続部の剛性が低下し、接続部と他の部分との剛性の差を抑制することができる。このため、手摺本体4が曲げられたときに接続部が過度に変形するのを防止することができる。
【0015】
また、貫通孔5a〜5f,6a〜6fにも熱可塑性材料が充填されるので、熱可塑性材料が第1及び第2の端部2a,2b間を機械的に締結することになり、接続部の引張強度を安定して確保することができる。
【0016】
実施の形態2.
次に、図4はこの発明の実施の形態2による乗客コンベアの移動手摺の接続部を示す斜視図、図5は図4のV−V線に沿う断面図である。図において、第1の端部2aには、抗張体2をその厚さ方向に貫通する複数の第1の貫通孔7a〜7dが設けられている。第1の貫通孔7a〜7dは、長孔であり、それらの長手方向が抗張体2の幅方向に対して平行となるように配置されている。また、第1の貫通孔7a〜7dは、抗張体2の長手方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0017】
第2の端部2bには、抗張体2をその厚さ方向に貫通する複数の第2の貫通孔8a〜8dが設けられている。第2の貫通孔8a〜8dは、第1の貫通孔7a〜7dに対応する位置に配置されている。即ち、第2の貫通孔8a〜8dは、第1の貫通孔7a〜7dと等ピッチで配置されている。また、第2の貫通孔8a〜8dの形状及び大きさは、第1の貫通孔7a〜7dの形状及び大きさと同じである。
【0018】
さらに、実施の形態2では、第1及び第2の端部2a,2bが接着剤9により接着されている。
【0019】
このような乗客コンベアの移動手摺では、第1及び第2の貫通孔7a〜7d,8a〜8dの形状が横長になっているため、実施の形態1よりも、接続部の剛性を低下させ、接続部と他の部分との剛性の差を抑制することができる。
【0020】
また、第1及び第2の端部2a,2bが接着剤9により接着されているため、第1及び第2の端部2a,2bの先端(図5のA部及びB部)の浮き上がりが防止され、曲げに対する強度及び信頼性を向上させることができる。さらに、接続部の引張強度をさらに高めることができる。
【0021】
実施の形態3.
次に、図6はこの発明の実施の形態3による乗客コンベアの移動手摺の接続部を示す斜視図である。図において、第1の端部2aには、抗張体2をその厚さ方向に貫通する第1の貫通孔10が設けられている。第1の貫通孔10は、長孔であり、その長手方向が抗張体2の長手方向に対して平行となるように配置されている。
【0022】
第2の端部2bには、抗張体2をその厚さ方向に貫通する第2の貫通孔11が設けられている。第2の貫通孔11は、第1の貫通孔10に対応する位置に配置されている。また、第2の貫通孔11の形状及び大きさは、第1の貫通孔10の形状及び大きさと同じである。
【0023】
このように、第1及び第2の貫通孔10,11の形状を縦長の長孔としてもよく、手摺本体4の接続部と他の部分との剛性の差を抑制することができるとともに、接続部の引張強度を安定して確保することができる。
【0024】
なお、第1及び第2の貫通孔の形状や数は実施の形態1〜3に限定されるものではなく、必要な曲げ剛性や引張強度に応じて種々の変更が可能である。
また、この発明の移動手摺は、例えばエスカレータ、水平な動く歩道、及び傾斜型の動く歩道など、あらゆる乗客コンベアに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施の形態1による乗客コンベアの移動手摺の断面図である。
【図2】図1の手摺本体の両端部の接続部の接続前の状態を示す斜視図である。
【図3】図2の抗張体の第1及び第2の端部を重ね合わせた状態を示す斜視図である。
【図4】この発明の実施の形態2による乗客コンベアの移動手摺の接続部を示す斜視図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】この発明の実施の形態3による乗客コンベアの移動手摺の接続部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 芯体、2 抗張体、2a 第1の端部、2b 第2の端部、4 手摺本体、5a〜5f,7a〜7d,10 第1の貫通孔、6a〜6f,8a〜8d,11 第2の貫通孔、9 接着剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性材料により成形されている芯体と、上記芯体内に長手方向に沿って連続的に設けられている帯状の抗張体とを有する手摺本体を備えた乗客コンベアの移動手摺であって、
上記抗張体の長手方向の第1の端部には第1の貫通孔が設けられており、
上記抗張体の長手方向の第2の端部には第2の貫通孔が設けられており、
上記第1及び第2の貫通孔が連通するように上記第1及び第2の端部を重ね合わせた上で、上記第1及び第2の端部の周囲を熱可塑性材料により覆うとともに上記第1及び第2の貫通孔に熱可塑性材料を充填することにより、上記手摺本体の両端部が接続されていることを特徴とする乗客コンベアの移動手摺。
【請求項2】
上記抗張体の上記第1及び第2の端部は、接着剤により接着されていることを特徴とする請求項1記載の乗客コンベアの移動手摺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−1504(P2008−1504A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175031(P2006−175031)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】