説明

乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置及びその接続方法

【課題】 移動手摺の接続部の当て布の接着力が所定値以下となった場合、移動手摺を補修するための乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置及びその接続方法を得る。
【解決手段】 最内側にスライダー層33を備えた乗客コンベア用熱可塑性エラストマー移動手摺3の接続部に接着された当て布33aの接着力が所定値以下となった際に用いられるものにおいて、移動手摺化粧層表面の温度を化粧層表面が溶融する温度未満に維持しつつ、当て布の近傍を加熱加圧する金型101を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエスカレータや動く歩道などの乗客コンベアの欄干に設けられて踏段と同期して回転駆動される乗客コンベア用移動手摺を補修するための加熱加圧装置及びその接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にエスカレータなどの乗客コンベアは、図4に示す如く、上下階側乗降口相互間において、無端状に配した踏段1と、その左右両サイドの欄干2の外周に配した無端状の移動手摺3とを、相互に同期させて同方向に回転移動させることで乗客を運搬するものである。そうしたエスカレータの移動手摺3は、一般に欄干2の下部内の移動手摺帰路途中に設けた複数の駆動ローラ4とその各駆動ローラ4の下側に転接すべく配設した加圧ローラ5との間に通されて、その両ローラ4、5間に図5(図4のC−C線に沿う断面図)に示す如く挟圧されて、その駆動ローラ4の回転による摩擦力で駆動されるようになっていると共に、その駆動される移動手摺3は欄干2の下部内帰路側では複数の案内ローラ(図示せず)により案内され、さらに欄干2の上部では欄干フレームに取付けた手摺ガイドレール10により案内されて、エンドレス状に回転移動するようになっている。
【0003】
図6は移動手摺3と手摺ガイドレール10を含む摺動機構の一部断面図であって、図4の移動手摺往路側の断面図である。
移動手摺3自体は図6に示す如く、全体としてC字型の横断面を有し、全体としてT字型の内側スロットを構成し、T字型スロットの周りに延びる芯体層31と、この芯体層31の外部の周りに延び、移動手摺3の外側輪郭を定める表面層32と、芯体層31の内側面に結合されたスライダー層33と、芯体層31内に延びる伸び防止手段(抗張体)34とを備えている。芯体層31、表面層32は熱可塑性エラストマーが使用されている。
【0004】
乗客コンベアの欄干2上部の手摺ガイドレール10は図6に示す如く、その両側凸状部に合成樹脂製ガイドクリップ10aが装着され、移動手摺3の内周面に摺接するようになっている。
【0005】
移動手摺3の最内側のスライダー層33には帆布が用いられているが、このスライダー層33の役目は手摺ガイドクリップ10aと摺動する時の摩擦係数を適切な値にするためと、移動手摺3の形状を所定の強度を持ってC字型に維持するためである。
【0006】
この移動手摺の製造方法は、芯体層用の熱可塑性エラストマーと金属製又は合成繊維製の抗張体及びスライダーを成形機から同時に押出して該抗張体及びスライダーを抱合した断面略C字状の芯体層を成形する工程と、透明を含み客先指定色等の所望の色に着色された表面層用の熱可塑性エラストマーを成形機から押出して断面略C字状の表面層を成形する工程を少なくとも具備している。
【0007】
乗客コンベアの移動手摺3は、エンドレス(環状)にして乗客コンベアに組込まれるので、直線状の移動手摺3を所定長さに切断しその両端部を接続してエンドレスに形成する。まず、所定の長さに切断された移動手摺3の両端部から、芯体層31、スライダー層33及び表面層32の端部を除去し、抗張体34を露出させる。次に、露出された抗張体34の両端部を、接着剤を介して互いに重ね合わせる。この後、接続部を図7に示す金型100内にセットする。金型100は、上型200と、下型300と、三分割されて下型300の凹部300a内に嵌合する中型400とからなる。さらに前記金型100内のキャビティに芯材用熱可塑性エラストマーを充填し、加熱後冷却硬化させる。これにより接続部の成形が完了する(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
移動手摺の接続部の詳細は図8、図9(図8のD−D線に沿う断面図)に示すように、接続される移動手摺本体部3同士の中間に充填部3aが存在する。この充填部3aにはスライダー部分が無いので、図8、図9のア〜エ部は手摺の屈曲により亀裂が生じ、長期間使用すると、この部分から移動手摺が破断する。したがって、移動手摺の破断を防止するため、図10、図11(図10のE−E線に沿う断面図)に示すように、充填部3aに補強のための当て布33aを設けている。当て布33aは、上記環状接続時にスライダー33との間に熱硬化性接着剤を塗布して金型100内にセットされる。
【0009】
図7において、金型100内の発熱体としての電熱ユニットは、上型200に電熱ユニットR1、R2が設けられ、下型300に電熱ユニットR3、R4が設けられている。金型100は、更に上型200及び下型300を締結するための複数個の締め付けボルト60と、上型200内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴70、70a、下型300内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴80、80aを備えている。なお、図中、3は移動手摺である。
上記構成により、乗客コンベアの移動手摺3を接続する場合は、図7に示すように、移動手摺3を、上型200、中型400及び下型300で挟み込み、締め付けボルト60で上型200と下型300に加圧力を付与するようにすればよい。
上型200と下型300に加圧力を付与した状態で、電熱ユニットR1〜R4を発熱させれば、移動手摺3を熱融着によって接続することができる。
次に、接続が完了して、金型100を冷却する方法について述べる。
まず電熱ユニットR1〜R4の発熱を停止させ、次に、上型200内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴70、70aと、下型300内に設けられた冷却用流体が通る冷却穴80、80aに、冷却用流体を注入して金型100を冷却するものである。
【0010】
【特許文献1】特開2000−211872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、従来の移動手摺の接続装置では、接続時に熱可塑性エラストマーである熱可塑性ウレタンが金型100内で加熱され金型内の圧力が上昇すると、金型の両端は開放されているため、熱可塑性ウレタンが金型の両側に延びて行き、熱硬化性接着剤で接着した当て布33aと、スライダー33の間に引っ張り力が発生し、相対運動が発生するため、接着した当て布33aとスライダー33間の硬化しかかっている接着剤の接着力が低下し、所定の接着力が得られないという不具合が発生することがある。また、移動手摺をエスカレータ実機で実用運転した際に掛かる移動手摺の引っ張り力によって接着力が所定値以下となってこの接続部の当て布33aが剥がれるという問題点があった。
【0012】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、移動手摺の接続部の当て布の接着力が所定値以下となった場合、移動手摺を補修するための乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置及びその接続方法を提供するものである。なお、接着力の大きさは治具を用いて数値評価される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係る乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置においては、最内側にスライダー層を備えた乗客コンベア用熱可塑性エラストマー移動手摺の接続部に接着された当て布の接着力が所定値以下となった際に用いられるものにおいて、移動手摺化粧層表面の温度を化粧層表面が溶融する温度未満に維持しつつ、当て布の近傍を加熱加圧する金型を備えたものである。
【0014】
また、当て布を加熱加圧する金型は、上型、下型及び移動手摺の内側に挿入される中型とで構成され、この金型の中型のみを加熱可能にする手段を備えたものである。
【0015】
また、金型と移動手摺化粧層との間にクッション材を挿入したものである。
【0016】
この発明に係る乗客コンベア用移動手摺の接続方法においては、最内側にスライダー層を備えた乗客コンベア用熱可塑性エラストマー移動手摺の接続部に接着された当て布の接着力が低下した際に用いられるものであって、接続部の当て布の接着力が所定値以下となった時、当て布をスライダーから鋭利な刃物等で引き剥がすステップと、引き剥がした当て布とスライダーとの間に再度熱硬化性の接着材を塗布してから金型に入れるステップと、金型内で移動手摺の化粧層表面の温度を、化粧層表面が溶融する温度未満に維持しつつ、当て布の近傍を加熱加圧するステップとを備えたものである。
【0017】
また、接続部の当て布の接着力が所定値以下となった時、当て布をスライダーから鋭利な刃物等で引き剥がすステップと、引き剥がした当て布とスライダーとの間に再度熱硬化性の接着材を塗布してから金型に入れるステップと、金型と接着剤が塗布された移動手摺表面との間にクッション材を入れるステップと、金型内で移動手摺の化粧層表面の温度を、化粧層表面が溶融する温度未満に維持しつつ、当て布の近傍を加熱加圧するステップとを備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、移動手摺の接続部の接着力が所定値以下となって、移動手摺の当て布が剥離しても、現地にても容易に補修することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺の接続部補修装置を図1により説明する。
図1はこの発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺の接続部補修装置を示す金型の構造図、図2は乗客コンベア用移動手摺の接続部補修装置により補修される接続部を示す内面側から見た図、図3は図2のA−A線に沿った断面図である。
図1において、接続部補修装置の金型101は、上型201と、下型301と、三分割されて下型301の凹部301a内に嵌合する中型401とからなる。金型101内の上型201、下型301には発熱体としての電熱ユニット及び冷却用流体が通る冷却穴は設けられていない。しかし、三分割された中型401のうちの中央に位置する型に電熱ユニットR5及び冷却用流体が通る冷却穴90が設けられている。また金型101は、上型201及び下型301を締結するための複数個の締め付けボルト60を備えている。なお、図中、3は移動手摺である。移動手摺3の接続部の当て布33aの接着力が所定値以下となったと認められる時には、当て布33aをスライダー層33から鋭利な刃物等で引き剥がす。この時、図2、図3に示すように、当て布33aの両側耳部33b、33cは、熱可塑性ウレタンが当て布33aに強力に含浸しているため、強度低下も無いし、刃物で引き剥がすことも出来ない。一方、図2、図3に示すように、当て布33aの両側耳部33b、33c間に存在するスライダー33面との接着部33dは、鋭利な刃物等で容易に引き剥がすことができるものである。そして、引き剥がした当て布33aとスライダー33との間に再度熱硬化性接着剤を塗布して、上記接続部補修装置の金型101に入れる。
【0020】
移動手摺3を金型101で加圧すると、上型201、下型301の両端部あるいは型の面に存在する僅かな凸凹が移動手摺3の表面に圧痕を生じることがある。そこで、このような圧痕を防止するために、図1に示すように、ゴム、プラスティックシート等のクッション材40を金型101と移動手摺3間に入れて、移動手摺3を締め付けボルト60で加圧する。
【0021】
次に、三分割された中型401のうちの中央に位置する型に設けた電熱ユニットR5に通電し、中型401だけを加熱すると、当て布33aに塗布された熱硬化性接着剤が硬化する。この時、熱可塑性ウレタンは加熱されないか、もしくは加熱されても化粧層表面が溶融する温度未満に維持されるので、当て布33aとスライダー33間には相対運動は発生しない。当て布33aの接着力が所定値以上に確保されたら、中型401のうちの中央に位置する型に設けた冷却穴90に冷却用流体を通流して、金型101及び移動手摺3を冷却することで、補修が完了する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺の接続部補修装置を示す金型の構造図である。
【図2】この発明の実施の形態1における乗客コンベア用移動手摺の接続部補修装置により補修される接続部を示す内面側から見た図である。
【図3】図2のA−A線に沿った断面図である。
【図4】一般の乗客コンベアの概略的な構成を示す側面図である。
【図5】図4のC−C線に沿った断面図である。
【図6】移動手摺と手摺ガイドレールを含む摺動機構の一部断面図である。
【図7】従来の乗客コンベア用移動手摺接続装置の一例を示す金型の構造図である。
【図8】従来の乗客コンベア用移動手摺の接続部の一例を示す内面側から見た図である。
【図9】図8のD−D線に沿った断面図である。
【図10】従来の乗客コンベア用移動手摺の接続部の他の例を示す内面側から見た図である。
【図11】図10のE−E線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 踏段
2 欄干
3 移動手摺
3a 充填部
4 駆動ローラ
5 加圧ローラ
10 手摺ガイドレール
10a 手摺ガイドクリップ
31 芯体層
32 表面層
33 スライダー層(帆布)
33a 当て布
33b、33c 両側耳部
33d 接着部
34 抗張体
60 締め付けボルト
70、70a、80、80a、90 冷却穴
100、101 金型
200、201 上型
300、301 下型
301a 凹部
400、401 中型
R1〜R5 電熱ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最内側にスライダー層を備えた乗客コンベア用熱可塑性エラストマー移動手摺の接続部に、所定長の当て布を接着する際に用いられる乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置において、
移動手摺化粧層表面の温度を化粧層表面が溶融する温度未満に維持しつつ、前記当て布の近傍を加熱加圧することを特徴とする乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置。
【請求項2】
上型、下型及び移動手摺の内側に挿入される中型とで構成され、この金型で加熱加圧することによって当て布を接着する乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置において、
中型のみを加熱可能にする手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置。
【請求項3】
上型及び下型と移動手摺化粧層との間にクッション材を挿入したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置。
【請求項4】
最内側にスライダー層を備えた乗客コンベア用熱可塑性エラストマー移動手摺の化粧面層表面の温度を、化粧層表面が溶融する温度未満に維持しつつ、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の乗客コンベア用移動手摺の加熱加圧装置を用いて移動手摺の接続部に所定長の当て布を接着することを特徴とする乗客コンベア用移動手摺の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−31072(P2007−31072A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217008(P2005−217008)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【出願人】(591040122)株式会社トーカン (15)
【Fターム(参考)】