説明

乗客コンベア装置およびその再起動方法

【課題】非常停止の原因となった安全手段の作動が、一過性の異常によるものかどうかをより的確に判断し、安全に再起動することのできる乗客コンベア装置を提供する。
【解決手段】安全手段(10a,10b,11,12,13)が作動して乗客コンベアが非常停止した場合、制御手段4により一過性の異常かどうかを判断し自律的に再起動する乗客コンベア装置において、安全手段のうち利用者により作動させられる可能性のある外部安全手段(10a,10b,11)の外観の様子を撮像可能な監視カメラ14a,14bを設け、外部安全手段の作動により非常停止したとき、監視カメラの画像による当該外部安全手段の作動時の当該外部安全手段の外観の様子と、当該外部安全手段の現在の外観の様子とに基づき、当該異常が一過性の異常であるかどうかを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアに係り、特に、非常停止した場合に、自己診断により自律的に再起動する乗客コンベア装置およびその再起動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一過性の異常により安全手段が作動して乗客コンベアが非常停止した際、人員による確認を要することなく再起動させるものがある。例えば、特許文献1に開示されているように、安全手段の作動によって乗客コンベアが非常停止した場合、非常停止直前の運転状態および安全手段とカメラ等の乗客検出手段とから、乗客コンベアの現在状態に基づき、起動の可否を判断する。そして、異常がなく、かつ少なくとも踏段上に人や物体が無いと判断したとき、乗客コンベアを再起動するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−74527号公報(段落0021〜0030、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来技術では、非常停止直前の運転状態と乗客コンベアの現在状態とを比較して一過性の異常かどうかを判断する。この乗客コンベアの非常停止直前の運転状態とは、乗客コンベアの運転方向、速度、運転方式、および非常停止要因、すなわち、当該安全手段の検出信号から構成されるものである。また、カメラ等の乗客検出手段は、再起動に際して踏段上に人や物体が無いことを判断するために用いられている。
【0005】
このような従来技術においては、安全手段の作動によって非常停止した場合に、一過性の異常と判断して再起動したにもかかわらず、安全手段の再作動による再度の非常停止を招くおそれがあった。すなわち、一過性の異常を的確に判断する上で、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、一過性の異常かどうかをより的確に判断できる乗客コンベア装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はその一面において、乗客コンベアの異常を検出して異常信号を出力する複数の安全手段と、前記安全手段が作動して乗客コンベアが非常停止した場合に、前記非常停止の原因が一過性の異常か否かを判断する判断手段と、前記判断手段が一過性の異常であると判断したとき、前記乗客コンベアを再起動させる再起動制御手段とを備えた乗客コンベア装置において、前記安全手段のうち、利用者の行為により作動する可能性のある外部安全手段の外観の様子を撮像可能な監視カメラを備え、前記判断手段を、前記外部安全手段が作動したことにより前記乗客コンベアが非常停止した場合に、前記外部安全手段の作動時における当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像と、現在の当該外部安全手段の外観の様子を撮像する前記監視カメラの画像とに基いて、一過性の異常であるか否かを判断するように構成したことを特徴とする。
【0008】
すなわち、安全手段が動作したときの、当該安全手段と利用者との関係がどのようなものであったかを確認し、その安全手段の外観近傍の状況に変化により、再発の危険性がなくなったことを判断する。
【0009】
本発明は他の一面において、前記判断手段を、前記外部安全手段が作動したことにより乗客コンベアが非常停止した場合に、前記外部安全手段の作動時における当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像と、所定時間経過後の当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像とに基いて、一過性の異常であるか否かを判断するように構成したことを特徴とする。
【0010】
ここで、前記外部安全手段とは、スカートガードと踏段との間に異物が挟まったことを検知するスカートガードスイッチおよび手摺りの入込口(インレット)に異物が引き込まれたことを検知するインレットスイッチを含むことが望ましい。
【0011】
本発明の望ましい実施態様によれば、制御手段は、安全手段の作動により乗客コンベアが非常停止したとき、作動した当該安全手段は、利用者により作動させられる可能性のある外部安全手段かどうかを判断する。このとき、利用者により作動させられる可能性のある外部安全手段の作動であったと判断すると、監視カメラの画像に基づき当該外部安全手段の外面の様子を判断する。すなわち、当該外部安全手段の作動時には、当該外部安全手段の近傍に人がいたものの、現在では、当該外部安全手段の近くには人がいないと判断すると、一過性の異常であると判断して乗客コンベアを再起動する。
【0012】
このように、外部安全手段の表面に焦点を当て、その外観の様子を撮像した監視カメラの画像に基づいて、外部安全手段が作動したときの当該外部安全手段と利用者との関係、および、当該外部安全手段の現在の外観の様子とに基いて、一過性の異常かどうかを判断することによって、現在、外部安全手段の近傍に人がいないことを確実に判断でき、より安全な再起動を実現することができる。特に、エスカレータ上に人がいないだけでなく、スカートガードスイッチやインレットスイッチ等の外部安全手段の外観の様子を監視カメラで監視し、その作動時と現在の様子とから、再作動の危険が無いことを確認して、再起動することにより、エスカレータの輸送効率を高めるとともに、より安全性を向上することができる。
【0013】
また、本発明の望ましい実施態様においては、前記制御手段は、外部安全手段の作動時の当該外部安全手段の外観の様子と、安全手段の作動から所定時間経過後の当該外部安全手段の外観の様子とに基づき、当該異常が一過性の異常であるかどうかを判断することによって、所定時間後に、外部安全手段の近傍に人がいないと判断して、異常が起きた直後ではなく、少し時間を置いてから再起動のための判断を実行させ、より安全を確実にすることができる。
【0014】
このように構成した本発明の実施態様においては、一過性の異常が起こり易い外部安全手段を再起動判断の対象としたことで、効率と安全性の両立を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の望ましい実施態様によれば、外部安全手段の外観の様子(利用状態)に基づき、一過性の異常かどうかをより的確に判断することができ、これによって、乗客コンベア装置の輸送効率の向上と安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態による乗客コンベア装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による乗客コンベア装置の処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態による乗客コンベア装置を図に基づいて説明する。
【0018】
図1に示す実施形態の乗客コンベア装置は、例えばエスカレータ装置1であって、無端状に連結して回動する踏段2と、踏段2と同期して回動する無端状の手摺り3と、エスカレータを制御する制御手段(乗客コンベア制御装置)4と、駆動部5を備えている。駆動部5は、モータを有し、踏段2ならびに手摺り3を回動させるための動力を発生する。エスカレータ装置1の一方の乗降口の下部には、駆動部5により駆動チェーン6を介して駆動される駆動スプロケット7が配置されている。一方、エスカレータ装置1の他方の乗降口下部には、従動スプロケット8が配置されている。これらの駆動スプロケット7および従動スプロケット8に、踏段チェーン9が巻き掛けられ、踏段2に連結される。
【0019】
安全手段としては、外部安全手段として、図示しないスカートガードと踏段2との間に異物が挟まったことを検知するスカートガードスイッチ10a,10bがある。また、手摺り3の入込口(インレット)に異物が引き込まれたことを検知するインレットスイッチ11が設けられている。
【0020】
一方、内部安全手段として、駆動チェーン6の切断等の異常を検出するための駆動チェーン異常検出部12と、踏段チェーン9の伸び等の異常を検出する踏段チェーン異常検出部13とが備えられている。これらの内部安全手段は、機械室内部の機構におよぶ異常によって作動するもので、一般の利用者の行為によって直接的には作動し得ない。
【0021】
これらの安全手段のうち、利用者により作動させられる可能性のある外部安全手段、例えばスカートガードスイッチ10a,10bおよびインレットスイッチ11に対しては、それらの存在箇所を撮像可能なように、監視カメラ14a,14bが設けられている。したがって、外部安全手段の外観の様子が監視されており、その様子から、利用者により作動させられる可能性があるか否かを、高い精度で判断することが可能である。
【0022】
また、エスカレータ装置1の利用者に対して、音声案内を行うスピーカ15a,15bが備えられている。
【0023】
なお、前述の制御手段4には、駆動部5、スカートガードスイッチ10a,10b、インレットスイッチ11、駆動チェーン異常検出部12、踏段チェーン異常検出部13、カメラ14a,14bおよびスピーカ15a,15bが接続されている。また、制御手段4は、カメラ14a,14bの画像を記憶する図示しない記憶部、およびカメラ14a,14bの画像を入力して画像解析処理し、人や物体を検出する画像解析部を備えている。
【0024】
このように構成されるエスカレータ装置1にあっては、乗客がスカートガードを蹴り、衝撃を与えることによって、スカートガードスイッチ10a,10bが作動したり、走行中に手摺り3の入込口(インレット)に誤って荷物をぶつけることによって、インレットスイッチ11が作動したりすることがあり、エスカレータ装置1はその都度非常停止する。
【0025】
しかしながら、外部安全手段を作動させるこれらの要因は一過性のものであり、スイッチは自動的に平常に復帰し、かつ作動要因は取り除かれる(消滅する)ことから、安全に起動処理を実行して元の運転状態に復帰させることが可能である。
【0026】
以下、本実施形態のエスカレータ装置が非常停止した際の再起動処理の処理手順を図2に基づき詳述する。
【0027】
エスカレータ装置1の平常運転中に、手順201で、いずれかの安全手段が作動したことによって非常停止すると、エスカレータ装置1を運転制御する制御手段4は、手順202で、非常停止の要因となった安全手段が外部安全手段、すなわち、スカートガードスイッチ10a,10bおよびインレットスイッチ11かどうかを判断する。
【0028】
まず、非常停止の要因となった安全手段が、内部安全手段、すなわち、駆動チェーン異常検出部12および踏段チェーン異常検出部13のいずれかであると判断されたとする。この場合、手順203に示すように、自動再起動不可と判断し、予め設定されたエスカレータ装置1の保守会社あるいは管理人室など外部へ異常発生を通報する。
【0029】
一方、手順202で非常停止の要因となった安全手段が外部安全手段であると判断されると、手順204で、スカートガードスイッチ10a,10bまたはインレットスイッチ11のうちどの外部安全手段が動作したかを特定する。
【0030】
なお、ここでは、例としてスカートガードスイッチ10aが非常停止の要因となった外部安全手段であるものと仮定する。
【0031】
次いで、手順205に示すように、制御手段4は、記憶部に記憶した、例えばカメラ14aの画像に基づき、スカートガードスイッチ10aの作動時に、スカートガードスイッチ10aが配置された場所に人がいたかどうかを判断する。このとき、スカートガードスイッチ10aの配置箇所に人はいなかったと判断されると、スカートガードスイッチ10aが作動した要因を明確にするため、手順203に示すように、自動再起動不可と判断し、予め設定されたエスカレータ装置1の保守会社あるいは管理人室など外部へ異常発生を通報する。
【0032】
一方、手順205で、非常停止時には、スカートガードスイッチ10aの設置箇所に人がいたと判断されると、手順206において、一定時間(30秒〜2分程度)待機する。この後、手順207に示すように、制御手段4は、カメラ14aの画像に基づきスカートガードスイッチ10aの配置箇所に現在、人がいるかどうか(蹴飛ばしてスカートガードスイッチ10aを作動させるような様子があるか)、並びに、踏段2上に人がいるかどうかを判断する。ここで、いずれにも人がいないと判断されると、当該スカートガードスイッチ10aの作動が一過性の異常に基くものであり、かつ、安全に再起動が可能であると判断する。そこで、手順208に示すように、スピーカ15a,15bから再起動を行なう旨の起動警告放送を行ない、次いで、手順209として、低加速度にてエスカレータ装置1を再起動し、低速運転を行う。同時に、手順210に示すように、エスカレータ装置1が低速にて1周に亘り運転して異常がないことを確認した後、定格速度に戻して、平常運転を行う。
【0033】
尚、以上の説明では、スカートガードスイッチ10aの場合を仮定して説明したが、スカートガードスイッチ10b、インレットスイッチ11の場合も同様に判断可能である。
【0034】
本実施形態によれば、外部安全手段であるスカートガードスイッチ10a,10bまたはインレットスイッチ11の存在箇所に焦点を当てたカメラ14a,14bの画像に基づいて、外部安全手段が作動したときの当該外部安全手段と利用者との関係を把握する。次に、当該外部安全手段の設置箇所の現在の状態を把握し、前記作動時と現在の状態との比較に基いて、一過性の異常かどうかを判断する。これにより、より的確な判断を実現することができ、エスカレータ装置1の安全性の向上を図ることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、外部安全手段をスカートガードスイッチ10a,10bおよびインレットスイッチ11、それ以外の内部安全手段を駆動チェーン異常検出部12および踏段チェーン異常検出部13としたが、本発明はこれに限るものではなく、乗客コンベア装置の仕様に応じて適宜設定されるものであることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1…エスカレータ装置、2…踏段、3…手摺り、4…制御手段、5…駆動部、6…駆動チェーン、7…駆動スプロケット、8…従動スプロケット、9…踏段チェーン、10a、10b…スカートガードスイッチ(外部安全手段)、11…インレットスイッチ(外部安全手段)、12…駆動チェーン異常検出部、13…踏段チェーン異常検出部、14a、14b…カメラ、15a、15b…スピーカ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの異常を検出して異常信号を出力する複数の安全手段と、前記安全手段が作動して乗客コンベアが非常停止した場合に、前記非常停止の原因が一過性の異常か否かを判断する判断手段と、前記判断手段が一過性の異常であると判断したとき、前記乗客コンベアを再起動させる再起動制御手段とを備えた乗客コンベア装置において、
前記安全手段のうち、利用者の行為により作動する可能性のある外部安全手段の外観の様子を撮像可能な監視カメラを備え、
前記判断手段を、前記外部安全手段が作動したことにより前記乗客コンベアが非常停止した場合に、前記外部安全手段の作動時における当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像と、現在の当該外部安全手段の外観の様子を撮像する前記監視カメラの画像とに基いて、一過性の異常であるか否かを判断するように構成したことを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項2】
請求項1において、前記判断手段を、前記外部安全手段が作動したことにより乗客コンベアが非常停止した場合に、前記外部安全手段の作動時における当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像と、所定時間経過後の当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像とに基いて、一過性の異常であるか否かを判断するように構成したことを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記外部安全手段は、スカートガードと踏段との間に異物が挟まったことを検知するスカートガードスイッチおよび手摺りの入込口に異物が引き込まれたことを検知するインレットスイッチを含むことを特徴とする乗客コンベア装置。
【請求項4】
複数の安全手段により乗客コンベアの異常を検出して異常信号を出力するステップと、前記安全手段が作動して前記乗客コンベアが非常停止した場合に、前記非常停止の原因が一過性の異常か否かを判断するステップと、一過性の異常であると判断したとき、前記乗客コンベアを再起動させる再起動制御ステップを備えた乗客コンベアの再起動方法において、
前記安全手段のうち、利用者の行為により作動する可能性のある外部安全手段の外観の様子を監視カメラで撮像するステップと、
前記外部安全手段が作動したことにより前記乗客コンベアが非常停止した場合に、前記外部安全手段の作動時における当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像と、現在の当該外部安全手段の外観の様子を撮像する前記監視カメラの画像とに基いて、一過性の異常であるか否かを判断するステップを備えたことを特徴とする乗客コンベアの再起動方法。
【請求項5】
請求項4において、前記外部安全手段が作動したことにより前記乗客コンベアが非常停止した場合に、前記外部安全手段の作動時における当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像と、所定時間経過後の当該外部安全手段の外観の様子を撮像した前記監視カメラの画像とに基いて、一過性の異常であるか否かを判断するステップを備えたことを特徴とする乗客コンベアの再起動方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63353(P2011−63353A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213897(P2009−213897)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】