説明

乗客コンベア

【課題】運行中における乗客に対する安全性が確保しつつ、移動速度を高速化して乗客の輸送効率を高めることができる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】移動速度の異なる複数の領域を有するコンベア12a,12b,12c,12d,12e,12f,12gを複数備え、1のコンベアは、他の1又は2のコンベアに対して移動方向Mの一部が幅方向Wに重なり合うように並べて配置され、幅方向Wに隣り合うコンベアは、幅方向Wに重なり合う領域が同じ移動速度に設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客を搭乗させて移送する「動く歩道」として利用される乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
動く歩道として利用される乗客コンベアは、無端環状のベルトを備えている。無端環状のベルトは、乗口から降口までの間に複数設置されたガイドローラによって支持され、駆動部によって循環される。従来の乗客コンベアは、ベルトの折返し部に配置されるプーリでベルトを駆動する構成を有している。駆動部は、乗口付近または降口付近に設けられているものが多い。
【0003】
乗客コンベアは、搭乗中の支えとして乗客が掴むために用意された手摺ベルトを有する。手摺ベルトは、無端リングであり、欄干に巻き掛けられている。手摺ベルトは、乗口から降口まで欄干の上に沿って移動して降口から乗口までコンベア装置内を通って戻されるように、循環する。手摺ベルトは、コンベア装置内に設けられた手摺駆動機構によってベルトと同じ速度で駆動される。一般的な手摺駆動機構は、手摺ベルトを駆動ローラと加圧ローラの間に挟み、摩擦力によって手摺ベルトを把持し駆動するものが知られている。
【0004】
近年、乗客の輸送効率を高めるために、乗口付近および降口付近におけるベルトの速度が従来程度であるのに対して中間部におけるベルトの速度が速い中間加速型のベルト式乗客コンベアも散見される。
【0005】
例えば、下記特許文献1に記載された「輸送装置」は、移動速度が遅い低速移送部と移動速度の速い高速移送部を有している。この輸送装置は、低速移送部から高速移送部へ、また、高速移送部から低速移送部へ乗客を乗り移らせることによって、中間加速型を実現している。
【0006】
また、下記特許文献2に記載された「動く歩道」は、移動速度が異なる複数のベルトを直列に配置している。伸縮可能な多数の伸縮パレットがこれらベルトの全体に亘って巻き掛けられている。伸縮パレットは、ベルトで駆動されて循環移動する。この「動く歩道」は、各ベルトの速度に応じて伸縮パレットを伸縮させることにより、中間加速型を実現している。
【0007】
しかしながら、下記特許文献1に記載された「輸送装置」において、移動速度の異なる移送部の間にできる乗り移り部における速度変化は、不連続である。このため乗り移り部において乗客がよろけたり転んだりすることもあり、乗客の安全上好ましくない。しかも、低速移送部と高速移送部との移動速度の比率(加減速比率)を大きくすればするほど、上記した不連続部分において乗客がよろけたり転びやすくなることから、加減速比率を大きく設定して高速移送部の高速化することができず、乗客の輸送効率化に限界がある。
【0008】
また、下記特許文献2に記載された「動く歩道」において、伸縮パレットが伸びると、機械的な隙間が伸縮パレット上にできる。その隙間に小石などの異物が挟まると、伸縮パレットが物理的に縮まらなくなる不具合が生じる可能性がある。移動速度が減速されないだけでなく、折返し部において伸縮パレットを反転できなくなるため、乗客の安全上好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3308298号公報
【特許文献2】特開平7−232885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題を考慮してなされたものであり、運行中における乗客に対する安全性が確保しつつ、移動速度を高速化して乗客の輸送効率を高めることができる乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る乗客コンベアは、移動速度の異なる複数の領域を有するコンベアを複数備え、1のコンベアは、他の1又は2のコンベアに対して移動方向の一部が幅方向に重なり合うように並べて配置され、幅方向に隣り合うコンベアは、幅方向に重なり合う領域が同じ移動速度に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る乗客コンベアでは、上記構成により、運行中における乗客に対する安全性が確保しつつ、移動速度を高速化して乗客の輸送効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る乗客コンベアを概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す乗客コンベアの要部を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1に示す乗客コンベアの要部を概略的に示す平面図である。
【図4】図1に示す乗客コンベアを構成するコンベアの断面図である。
【図5】図4に示すコンベアの駆動機構の斜視図である。
【図6】図4に示すコンベアにおいて駆動ベルトから搭乗ベルトへ動力を伝達する機構、および速度変更手段に係る構造部を一部破断した斜視図である。
【図7】本発明の変更例に係る乗客コンベアを概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態における乗客コンベア1は、図1〜図3に示すように、複数台のベルト式のコンベアが幅方向Wに重なり合うように並べて配置されてなり、乗り口13が設けられた加速用コンベア群12と、降り口15が設けられた減速用コンベア群14と、加速用コンベア群12および減速用コンベア群14のそれぞれの終端部に重なり合うように並べて配置された主コンベア16と、幅方向Wに所定間隔をあけて立設された一対の案内壁20とを備える。
【0016】
加速用コンベア群12は、複数台(例えば、本実施形態では7台)のコンベア12a,12b,12c,12d,12e,12f,12gを備え、コンベア12aが移動方向Mの後端部に配置され、その前方にコンベア12b、コンベア12c、コンベア12d、コンベア12e、コンベア12fが移動方向Mの一部を幅方向Wに重ねて順次配置されており、移動方向Mの前端部にコンベア12gが配置されている。
【0017】
加速用コンベア群12を構成する個々のコンベア12a,・・・12gは、乗客を搭乗させて移送するベルトを備えるベルト式のコンベアであって、移動方向Mの後部領域より前部領域において乗客を搭乗させる搭乗ベルトの移動速度が高速に設定された加減速型のコンベアから構成されている。なお、個々のコンベア12a,・・・12gは、搭乗ベルトの移動速度が異なるのみで、各コンベアの構造は同一であるため、ここでは、コンベア12aの構成について説明し、他のコンベア12b,・・・12gの構成の説明を省略する。
【0018】
図4〜図6に示すように、コンベア12aが備えるベルトは、主枠32内に配設された駆動系によって循環されるもので、搭乗ベルト33と駆動ベルト34とで二重に構成される。
【0019】
搭乗ベルト33は、主枠32内に設けられる所定の循環経路(第1の循環経路)に沿って循環する。駆動ベルト34は、第1の循環経路の内側に設けられる第2の循環経路に沿って循環移動する。駆動ベルト34(34a,34b)は、搭乗ベルト33の内周面に接触することによって、搭乗ベルト33を循環させるための駆動力を搭乗ベルト33に伝達する。また、コンベア12aは、駆動ベルト34(34a,34b)を駆動する駆動機構35(35a,35b)を備えている。
【0020】
本実施形態において、駆動ベルト34の案内手段6は、ガイドローラなどで構成されている。案内手段6は、主枠32の内部に配置されている。案内手段6は、駆動ベルト4に適当な張力を付与するテンショナを含んでいる。
【0021】
駆動ベルト34は、搬送方向となる主枠32の長手方向に沿って直列に並ぶように2本設けられる。これに対して、搭乗ベルト33は、乗客コンベアの全長に亘って循環する連続する1本のベルトで構成される。
【0022】
各駆動ベルト34a,34bは、移動方向Mの前側または後側となるコンベア12aの後部領域12a−1または前部領域12a−2に配置されており、直径の大きい折返しローラ8と直径の小さい折返しローラ4fとの間に掛け渡されている。駆動ベルト34は、搭乗ベルト33の循環経路のうちの乗客が乗る部分の範囲内で、搭乗ベルト33と接触するように構成され、搭乗ベルト33へ駆動力を伝達する。なお、搭乗ベルト33の復路部分で駆動ベルト34が搭乗ベルト33と近接している区間においても、駆動ベルト34から搭乗ベルト33へ駆動力を伝達してもよい。
【0023】
次に、図4〜図6を参照して、後部領域12a−1に配置された第1の駆動ベルト34aを循環移動させるための第1の駆動機構35aおよび、前部領域12a−2に配置された第2の駆動ベルト34bを循環移動させるための第2の駆動機構35bについて説明する。なお、第2の駆動ベルト34bの構造は、第1の駆動ベルト34aの構造と同一であり、したがって、第2の駆動機構35bも、第1の駆動機構35aと同一である。
【0024】
図4および図5に示すように、第1の駆動機構35aは、駆動プーリ7を有している。この駆動プーリ7は、駆動ベルト34aの折返し部においてその駆動ベルト34aと噛み合うように設けられている。その噛み合い部の実行長さを確保するため、駆動ベルト34aは、案内ローラ8aを用いて駆動プーリ7に案内される。具体的には、図5に示すように、駆動ベルト34aは、搭乗ベルト33の内周面から離れて駆動プーリ7の外周面に沿って迂回し、折返しローラ8によって再び搭乗ベルト33と重ね合わされる。案内ローラ8aの回転軸は、主枠32の適当な部位に回転自在に取り付けられている。
【0025】
駆動プーリ7と同軸にタイミングプーリ9が付設されている。電動機10の駆動軸10aにはタイミングプーリ10bが取り付けられている。そして、タイミングプーリ10bとタイミングプーリ9との間にタイミングベルト11が掛け渡されている。タイミングプーリ9,10bの代わりにスプロケットを用い、タイミングベルト11の代わりにチェーンを掛けても良い。
【0026】
電動機10がタイミングプーリ10bを駆動すると、それに同期して、駆動プーリ7が回転する。この結果、駆動ベルト34aが駆動され、搭乗ベルト33が循環移動する。搭乗ベルト33および駆動ベルト34aの各折返し部は、折返しローラ8に互に重なり合って巻き掛けられている。
【0027】
そして、各駆動ベルト34a,34bは、上記のような構成の駆動機構35a,35bによってそれぞれ駆動される。このとき、第1の駆動ベルト34aは、速度Va1で循環され、第2の駆動ベルト34bは、速度Va1より大きい速度Va2で循環される。
【0028】
第1の駆動ベルト34aと第2の駆動ベルト34bとの間に速度差を設けるために、各駆動機構35a,35bに設けられるローラスプロケットやタイミングプーリの直径などが適宜設定される。
【0029】
搭乗ベルト33は、少なくとも循環方向に((Va2/Va1)−1)×100%だけ弾性的に伸びる部材が用いられる。第1の駆動ベルト34a、および第2の駆動ベルト34bは、それぞれ速度Va1,Va2で駆動される。これに伴って搭乗ベルト33は、伸びるので、後部領域12a−1において速度Va1で、前部領域12a−2において速度Va2で移動される。
【0030】
上記のように、コンベア12aは、搭乗ベルト33の伸縮によって後部領域12a−1と前部領域12a−2との速度を変化させるものであり、後部領域12a−1の移動速度Va1と前部領域12a−2の移動速度Va2との速度変化率は、搭乗ベルト33が弾性的に伸縮する伸縮率以下に設定される。本実施形態では、例えば、搭乗ベルト33の伸縮率が50%程度であることから、前部領域12a−2の移動速度Va2は後部領域12a−1の移動速度Va1の1.5倍の速度に設定されている。
【0031】
図6に示すように、コンベア12aおいて用いられる搭乗ベルト33は、断面が薄い矩形に成形された平ベルトであって、循環方向に等間隔で配置された複数の心材33aを有している。搭乗ベルト33の幅方向Wの両側の縁部は、ガイドローラ36によって支持される。
【0032】
複数の心材33a同士は、伸縮スリング33bにより連結されている。伸縮スリング33bは、搭乗ベルト33の循環方向に必要な弾性伸びを許容し、かつ、搭乗ベルト33の過大な伸びを防止するための伸び制限部材である。心材33aおよび伸縮スリング33bは、搭乗ベルト33を構成する弾性材料からなる被覆層33c内に埋め込まれている。また、駆動ベルト34a,34bについても、循環方向の強度および剛性を高めるため、鋼帯34eが駆動ベルト34a,34bの内部に埋め込まれている。
【0033】
第1の駆動ベルト34aの速度Va1と第2の駆動ベルト34bの速度Va2との間には、差が生じる。そのため、搭乗ベルト33と駆動ベルト34a,34bとの間でのスリップを防止することが必要である。搭乗ベルト33と駆動ベルト34a,34bとの間において駆動力のさらに高い伝達効率、言い換えれば搭乗ベルト33と駆動ベルト34a,34b間での確実な噛み合いが求められる。
【0034】
そこで、搭乗ベルト33の内周面に歯溝33dを形成し、駆動ベルト34a,34b,34cの外周面に歯溝34dを形成する。このとき歯溝33dおよび歯溝34dは、それぞれ相補的な形状に形成されている。これらの歯溝33d,34dの形状は、図6に示したような凹凸形状を搭乗ベルト33、駆動ベルト34a,34b,34cの表面に施す他に、三角波状の山と谷のような形状、歯車の歯溝のような形状とすることも可能である。
【0035】
心材33aは、図6に示すように、搭乗ベルト33の内周面側に突出する心材突出部33eを有している。この心材突出部33eは、駆動ベルト34a,34b,34cの歯溝34dと噛み合う。これにより、心材33aが駆動ベルト34にしっかりと噛み合うので、駆動力の伝達効率が向上する。
【0036】
なお、心材突出部33eの先端形状は、駆動ベルト34a,34b,34cの歯溝34dの溝形状に合わせた形に形成する場合のほか、心材突出部33eの先端形状を方形として、駆動ベルト34a,34b,34cの歯溝34dに心材突出部33eが噛み合う矩形の溝を設けてもよい。
【0037】
搭乗ベルト33は、駆動ベルト34a上から駆動ベルト34b上へ移行する際に急激に伸びる。そこで搭乗ベルト33の劣化を防止するために、搭乗ベルト33に局所的な荷重がかかることを防止することが好ましい。一例として図6に示される速度変更手段37が第1の駆動ベルト34aと第2の駆動ベルト34bとの間に設けられる。速度変更手段37は、搭乗ベルト33の速度をVa1からVa2に徐々に変化させるために設けられている。
【0038】
以下に、速度変更手段37は、図6を参照して、詳細に説明される。図6に示されるように、速度変更手段37は、複数のローラ組38を有している。ローラ組38は、駆動ベルトとほぼ同じ幅を有した幅広ローラである駆動ローラ38a3,38a4と、これらよりも相対的に幅の狭い幅狭ローラである伝達ローラ38b1,38b2,38b3,38b4,38b5,38b6,38b7とで構成される。
【0039】
搭乗ベルト33の内周面に形成された歯溝33dと噛み合うことができる歯溝38c3,38c4が、駆動ローラ38a3,38a4の外周面に設けられている。伝達ローラ38b1は、折返しローラ4fと同軸に設けられる。伝達ローラ38b2は、折返しローラ4fと同軸に設けられる。伝達ローラ38b3は、駆動ローラ38a3と同軸に設けられる。伝達ローラ38b4は、駆動ローラ38a4と同軸に設けられる。伝達ローラ38b5は、伝達ローラ38b1,38b3にそれぞれ接する。伝達ローラ38b6は、伝達ローラ38b3,38b4にそれぞれ接する。伝達ローラ38b7は、伝達ローラ38b4,38b2にそれぞれ接する。
【0040】
伝達ローラ38b1,38b2,38b3,38b4,38b5,38b6,38b7どうしの動力伝達を確実にするため、伝達ローラ38b5,38b6,38b7は、バネ38e5,38e6,38e7により伝達ローラ38b1,38b2,38b3,38b4に押し付けられている。
【0041】
ここで、駆動ローラ38a3,38a4の回転周速は、第1の駆動ベルト34aの循環速度から第2の駆動ベルト34bの循環速度へと段段と速くなるように設定する。具体的には、折返しローラ4f,4gおよび駆動ローラ38a3,38a4に対する各伝達ローラ38a1,38a2,38a3,38a4の直径比率が、第1の駆動ベルト34a側から第2の駆動ベルト34b側まで段階的に小さくなるように設定される。
【0042】
速度変更手段37が上述の構成を有するので、駆動ローラ38a3,38a4の周速は、第2の駆動ベルト34bに近い側のもの程大きくなる。第1の駆動ベルト34aに近い側の駆動ローラ38a3の周速は、第1の駆動ベルト34aの循環速度よりやや大きくなり、かつ第2の駆動ベルト34bに近い側の駆動ローラ38a4の周速は、第2の駆動ベルト34bの循環速度より小さくなるように、各伝達ローラの直径が定められている。
【0043】
このような構成のコンベア12aでは、コンベア12aの搭乗ベルト33が、後部領域12a−1において速度Va1で移動され、前部領域12a−2において速度Va2で移動されるとともに、後部領域12a−1と前部領域12a−2との間の領域、すなわち、速度変更手段37が配置された中間領域12a−3において速度をVa1からVa2まで段階的に増大させて移動される。
【0044】
そして、コンベア12aには、乗客コンベア1の乗り口13が設けられており、後部領域12a−1の移動速度Va1より速い移動速度Va2に設定された前部領域12a−2において、コンベア12bが幅方向Wに重なり合うように配置されている。
【0045】
コンベア12bは、搭乗ベルト33の後部領域12b−1がコンベア12aにおける搭乗ベルト33の前部領域12a−2と幅方向Wに重なり合うように並べて配置される。このようにコンベア12aの移動方向後側M2に配置されたコンベア12bは、後部領域12b−1の移動速度Vb1が移動方向前側M1に配置されたコンベア12aの前部領域12a−2の移動速度Va2と等しい速度に設定されている。
【0046】
コンベア12bの前部領域12b−2にコンベア12cの後部領域12c−1が幅方向Wに重なり合うように並べて配置され、コンベア12bの移動方向後側M2にコンベア12cが配置されている。コンベア12bの前部領域12b−2の移動速度Vb2は、後部領域12b−1の移動速度Vb1の1.5倍に設定される。また、コンベア12bの前部領域12b−2に対して幅方向Wに重なり合うように並べて配置されたコンベア12cの後部領域12c−1の移動速度Vc1は、コンベア12bの前部領域12b−2の移動速度Vb2と等しい速度に設定される。
【0047】
コンベア12d,・・・12gについても、上記したコンベア12a,12b,12cと同様、コンベア12cの前部領域12c−2にコンベア12dの後部領域12d−1が、コンベア12dの前部領域12d−2にコンベア12eの後部領域12e−1が、コンベア12eの前部領域12e−2にコンベア12fの後部領域12f−1が、コンベア12fの前部領域12f−2にコンベア12gの後部領域12g−1が、それぞれ幅方向Wに重なり合うように並べて配置され、幅方向Wに重なり合うように配置された領域の移動速度が等しい速度に設定されている。
【0048】
コンベア12d,・・・12gの前部領域12d−2,・・・12g−2の移動速度Vd2,・・・Vg2は、後部領域12d−1,・・・12g−1の移動速度Vd1,・・・Vg1の1.5倍に設定されている。
【0049】
つまり、加速用コンベア群12では、加速用コンベア群12の乗り口13に位置するコンベア12aの後部領域12a−1の速度Va1が、前部領域12a−2において速度Va2となりコンベア12aにおいて1.5倍に加速され、移動方向前側M1に位置する次のコンベア12bにおいて更に1.5倍に加速され、更に移動方向前側M1に位置する各コンベア12c,・・・12gにおいてそれぞれ1.5倍ずつ加速される。
【0050】
これにより、加速用コンベア群12の乗り口側(後端側)における速度Va1が、終端側(前端側)において約17(=1.5)倍に加速された速度Vg2となり、一例を挙げると、加速用コンベア群12の乗り口側における速度Va1が毎分20mであると、加速用コンベア群12の終端部における速度Vg2が毎時20kmまで加速することができる。
【0051】
なお、加速用コンベア群12を構成する各コンベア12a,・・・12gは、搭乗ベルト33の移動速度が速い領域ほど移動方向Mに沿った長さが長く設けられている。具体的には、各コンベア12a,・・・12gの前部領域12a−2,・・・12g−2は、後部領域12a−1,・・・12g−1より移動方向Mに沿った長さが長く設けられ、例えば、搭乗ベルト33の移動速度に比例して後部領域12a−1,・・・12g−1の1.5倍の長さにそれぞれ設けられ、互いに同じ速度に設定された幅方向Wに隣り合う領域は、移動方向Mに沿った長さが互いに等しく設けられている。このように各コンベア12a,・・・12gの長さを設定することで、乗客がコンベアの各領域を通過するのに要する時間がほぼ等しくなり、乗客が次の領域に移るまでの時間が不必要に長くなったり、幅方向Wに隣り合うコンベアに忙しなく乗り移ったりすることが無くなる。
【0052】
また、各コンベア12a,・・・12gの中間領域12a−3,・・・12g−3の移動方向Mに沿った長さも移動速度が速い領域ほど長く設けられている。本実施形態では、例えば、移動方向Mに隣接するコンベアは、移動方向前側M1のコンベアの中間領域の長さが、移動方向後側M2のコンベアの中間領域の長さの1.5倍に設定されており、このように設定することで、各中間領域12a−3,・・・12g−3における加速度を一定にすることができ、移動速度が急激に変化することが無く安全性を高めることができる。
【0053】
加速用コンベア群12を構成するコンベア12a,・・・12gは、図1に示すように左右交互に千鳥状に配置されてもよい。このように千鳥状にコンベア12a,・・・12gを配置することで、乗客コンベア1の幅寸法を小さくすることができ、地下道やコンコースなどの設置スペースが限られている場合にも、乗客コンベア1を適用しやすい。
【0054】
また、幅方向Wに隣り合うコンベア12a,・・・12gは、幅方向Wに重なり合う領域を駆動する対をなす駆動装置35,35が機械的に同期するようになっている。
【0055】
すなわち、コンベア12aにおいて前部領域12a−2に配置された駆動ベルト34bを循環移動させる直径の大きい折返しローラ8と、コンベア12bにおいて後部領域12a−1に配置された駆動ベルト34aを循環移動させる直径の大きい折返しローラ8とが、共通の回転軸(不図示)により回転し、また、コンベア12aにおいて前部領域12a−2に配置された駆動ベルト34bを循環移動させる直径の小さい折返しローラ4fと、コンベア12bにおいて後部領域12a−1に配置された駆動ベルト34aを循環移動させる直径の小さい折返しローラ4fとが、共通の回転軸(不図示)により回転する。つまり、幅方向Wに重なり合う領域に配置された1対の駆動機構35,35は、直径の大きい折返しローラ8と直径の小さい折返しローラ4fとがそれぞれ同じ回転軸によって回転され、機械的に同期するようになっている。
【0056】
また、コンベア12bとコンベア12cとが重なり合う領域や、コンベア12cとコンベア12dとが重なり合う領域や、コンベア12dとコンベア12eとが重なり合う領域やコンベア12eとコンベア12fとが重なり合う領域や、コンベア12fとコンベア12gとが重なり合う領域に配置された対をなす駆動機構35,35も、上記したコンベア12aとコンベア12bとが重なり合う領域に配置された駆動機構35,35と同様に、直径の大きい折返しローラ8と直径の小さい折返しローラ4fとがそれぞれ同じ回転軸によって回転され、機械的に同期するようになっている。
【0057】
そして、加速用コンベア群12の終端部、すなわち、本実施形態ではコンベア12gの前部領域12g−2と主コンベア16の後端部16−1とが幅方向Wに重なり合うように並べて配置されている。
【0058】
この主コンベア16は、乗客を搭乗させる搭乗ベルト40が区間の全域にわたって一定の速度で移動するコンベアであり、その移動速度Vmが、コンベア12gの前部領域12g−2の移動速度Vg2と等しい速度に設定されている。
【0059】
主コンベア16は、公知のコンベアの駆動構成を採用することができ、ここでは主コンベア16の駆動構成に関する詳細な説明を省略する。
【0060】
なお、主コンベア16は、本実施形態のような搭乗ベルト40が一定速度で移動するコンベア以外にも、中間部16−3における搭乗ベルト40の速度が、後端部16−1または前端部16−2における速度より大きい中間加速型のコンベアであってもよい。
【0061】
主コンベア16の前端部16−2には、減速用コンベア群14の後端部が幅方向Wに重なり合うように並べて配置されている。
【0062】
減速用コンベア群14は、複数台(例えば、本実施形態では7台)のコンベア14a,14b,14c,14d,14e,14f,14gを備え、個々のコンベア14a,・・・14gが、上記したコンベア12a,・・・12gの駆動構成と同一のベルト式のコンベアからなり、後部領域14a−1,・・・14g−1と前部領域14a−2,・・・14g−2とで搭乗ベルト42の移動速度が異なる。
【0063】
ただし、減速用コンベア群14を構成する個々のコンベア14a,・・・14gは、後部領域14a−1,・・・14g−1より前部領域14a−2,・・・14g−2において搭乗ベルト42の移動速度が低速に設定されている点で上記したコンベア12a,・・・12gと相違し、一例を挙げると、コンベア14a,・・・14gの前部領域14a−2,・・・14g−2の移動速度V’a2,・・・V’g2は、後部領域14a−1,・・・14f−1の移動速度V’a1,・・・V’g1の約0.67(=1/1.5)倍に設定されている。
【0064】
主コンベア16の前端部16−2には、コンベア14aが配置され、その前方にコンベア14b、コンベア14c、コンベア14d、コンベア14e、コンベア14fが移動方向Mの一部を幅方向Wに重ねて順次配置されており、移動方向Mの前端部に降り口15が設けられたコンベア14gが配置されている。コンベア14a,・・・14gは、幅方向Wに重なり合うように配置された領域の移動速度が等しい速度に設定されている。
【0065】
詳細には、コンベア14aの後部領域14a−1が主コンベア16の前端部16−2に対して幅方向Wに重なり合うように並べて配置されている。そして、コンベア14aの前部領域14a−2にコンベア14bの後部領域14b−1が、コンベア14bの前部領域14b−2にコンベア14cの後部領域14c−1が、コンベア14cの前部領域14c−2にコンベア14dの後部領域14d−1が、コンベア14dの前部領域14d−2にコンベア14eの後部領域14e−1が、コンベア14eの前部領域14e−2にコンベア14fの後部領域14f−1が、コンベア14fの前部領域14f−2にコンベア14gの後部領域14g−1が、それぞれ幅方向Wに重なり合うように並べて配置されている。
【0066】
なお、減速用コンベア群14を構成するコンベア14a,・・・14gにおいても、加速用コンベア群12のコンベア12a,・・・12g同様、図1に示すように左右交互に千鳥状に配置されてもよい。
【0067】
上記のような減速用コンベア群14では、コンベア14aの後部領域14a−1の速度V’a1が、前部領域14a−2において速度V’a2となりコンベア14aにおいて0.67倍に減速され、移動方向前側M1に位置する次のコンベア14bにおいて更に0.67倍に減速され、更に移動方向前側M1に位置する各コンベア14c,・・・14fにおいてそれぞれ0.67倍ずつ減速される。
【0068】
これにより、減速用コンベア群14の後端側における速度Va1が、終端側(降り口側)において約1/17倍に減速された速度V’f2となり、一例を挙げると、減速用コンベア群14の後端側における速度V’a1が毎時20kmであると、終端部において毎分20mまで減速することができる。
【0069】
なお、減速用コンベア群14を構成する各コンベア14a,・・・14gについても、加速用コンベア群12を構成する各コンベア12a,・・・12gと同様に、搭乗ベルト33の移動速度が速い領域ほど移動方向Mに沿った長さが長く設けられている。
【0070】
一対の案内壁20,20は、図2および図3に示すように、乗客コンベア1の移動経路に沿って配置されている。
【0071】
詳細には、加速用コンベア群12のうちコンベア12aの後部領域12a−1および中間領域12a−3では、案内壁20,20が搭乗ベルト33の左右両側に立設されている。コンベア12aおよびコンベア12bにおいて幅方向Wに重なり合うように配置された前部領域12a−2および後部領域12b−1では、案内壁20,20が移動方向前側M1のコンベア12bに向かって傾斜して搭乗ベルト33を横切るように配置されている。
【0072】
コンベア12bの中間領域12b−3では、案内壁20,20が搭乗ベルト33の左右両側に立設され、コンベア12bおよびコンベア12cにおいて幅方向Wに重なり合うように配置された前部領域12b−2および後部領域12c−1では、案内壁20,20が移動方向前側M1のコンベア12cに向かって傾斜して搭乗ベルト33を横切るように配置されている。
【0073】
コンベア12c,・・・12gについてもコンベア12bと同様、中間領域12c−3,・・・12g−3では、案内壁20,20が搭乗ベルト33の左右両側に立設され、幅方向Wに重なり合うように配置された前部領域では、案内壁20,20が移動方向前側M1のコンベア12d,・・・12gに向かって傾斜して搭乗ベルト33を横切るように配置され、左右にジグザク状に配置されている。
【0074】
そして、加速用コンベア群12の終端側において幅方向Wに重なり合うように配置されたコンベア12gの前部領域12g−2と主コンベア16の後端部16−1では、案内壁20,20が移動方向前側M1の主コンベア16に向かって傾斜して搭乗ベルト33,40を横切るように配置されている。
【0075】
主コンベア16の中間部16−3では、案内壁20,20は搭乗ベルト40の左右両側に立設されている。
【0076】
主コンベア16の前端部16−2と、減速用コンベア群14の後端部、つまり、コンベア14aの後部領域14a−1では、案内壁20,20が移動方向前側M1のコンベア14a16に向かって傾斜して搭乗ベルト33を横切るように配置されている。
【0077】
そして、減速用コンベア群14について加速用コンベア群12と同様、中間領域14a−3,・・・14g−3では、案内壁20,20が、搭乗ベルト42の左右両側に立設され、幅方向Wに重なり合うように配置された前部領域では、案内壁20,20が移動方向前側M1のコンベア14b,・・・14gに向かって傾斜して搭乗ベルト42を横切るように配置され、左右にジグザク状に配置されている。
【0078】
上記した案内壁20,20は、乗客コンベア1の移動方向Mに複数分割されており、分割された個々の案内壁は、対をなす折返しローラに掛け渡されたベルトが循環移動するコンベアを備える。案内壁20,20が備えるコンベアのベルトは、案内壁20,20の対向面20a,20aをなしており、コンベアの動作に伴って対向面20a,20aが、併走する搭乗ベルト33,40,42の移動速度と等しい速度で搭乗ベルト33,40,42の移動方向Mに沿って移動する。なお、案内壁20,20が備えるコンベアとして公知のコンベアの駆動構成を採用することができ、該コンベアの詳細な説明を省略する。
【0079】
以上のように本実施形態の乗客コンベア1では、加速用コンベア群12および減速用コンベア群14において、コンベアの一部が幅方向Wに重なり合うように並べて配置され、幅方向Wに重なり合う領域における搭乗ベルト33,40,42が同じ速度に設定されている。そのため、加速用コンベア群12および減速用コンベア群14において移動方向前方のコンベアに乗り移る箇所における搭乗ベルト33,40,42の移動速度が同一の速度となり、乗客が前方のコンベアに乗り移る際によろけたり転んだりしにくく安全性に優れる。
【0080】
また、加速用コンベア群12および減速用コンベア群14を構成する個々のコンベアは、後部領域の移動速度と前部領域の移動速度とが異なるので、個々のコンベアにおいて加速又は減速を繰り返すことで、容易に移動速度を大きくすることができ、搬送効率を高めることができる。しかも、個々のコンベアは、一続きの搭乗ベルトにおいて移動速度が加減速するため、速度変化に伴う乗客の不安感を軽減できる。
【0081】
さらにまた、本実施形態の乗客コンベア1では、移動方向Mに沿って案内壁20,20が立設されているため、乗客を移動方向Mへ確実に誘導することができる。しかも、案内壁20,20の対向面20a,20aが、併走する搭乗ベルト33,40,42の移動速度と等しい速度で搭乗ベルト33,40,42の移動方向Mに沿って移動するため、乗客と対向面20a,20aとの間の相対速度を小さくすることができる。そのため、搭乗ベルト33,40,42の移動速度を高速に設定しても、乗客が案内壁20,20に触れた際の衝撃を小さくすることができるとともに、高速移動する搭乗ベルトに乗客が搭乗しても体感速度を小さくすることができ、恐怖感を与えることがなく安全性に優れる。
【0082】
なお、上記した本実施形態では、主コンベア16の後端部16−1に加速用コンベア群12を設け、前端部16−2に減速用コンベア群14を設けたが、例えば、図7に示すように、主コンベア16の中間部16−3にも加速用コンベア群12や減速用コンベア群14を設けてもよい。
【0083】
また、上記した本実施形態では、直線状の主コンベア16を設けたが、図7に示すように、主コンベア16の中間部16−3を屈曲させてよく、これにより、乗客コンベア1の配置の自由度が高まり、乗客コンベア1を設置しやすくなる。
【符号の説明】
【0084】
1…乗客コンベア
12…加速用コンベア群
12a,12b,12c,12d,12e,12f,12g…コンベア
13 乗り口
14…減速用コンベア群
14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g…コンベア
15…降り口
16…主コンベア
20…案内壁
20a…対向面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動速度の異なる複数の領域を有するコンベアを複数備え、
1のコンベアは、他の1又は2のコンベアに対して移動方向の一部が幅方向に重なり合うように並べて配置され、
幅方向に隣り合うコンベアは、幅方向に重なり合う領域が同じ移動速度に設定されていることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
幅方向に隣り合うコンベアは、幅方向に重なり合う領域を駆動する駆動装置が機械的に同期することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
進行方向の前部領域が後部領域より高速に設定されたコンベアを幅方向に複数並べて配置した加速用コンベア群と、進行方向の前部領域が後部領域より低速に設定されたコンベアを幅方向に複数並べて配置した減速用コンベア群とを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
複数のコンベアの少なくとも一部が左右交互に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記加速用コンベア群と前記減速用コンベア群との間に配置され、前記加速用コンベア群および前記減速用コンベア群の中で最も速い移動速度と等しい移動速度に設定された主コンベアを備え、前記主コンベアが屈曲していることを特徴とする請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記加速用コンベア群と前記減速用コンベア群との間に配置され、前記加速用コンベア群および前記減速用コンベア群の中で最も速い移動速度と等しい移動速度に設定された主コンベアを備え、前記主コンベアは移送速度が一定に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
幅方向に所定間隔をあけて立設され隣り合うコンベアへ乗客を誘導する一対の案内壁を備え、前記一対の案内壁の対向面がコンベアの移動方向に沿って移動することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−136826(P2011−136826A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299214(P2009−299214)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】