説明

乗物用シート

【課題】座り心地が良好でかつ軽量な乗物用シートを提供する。
【解決手段】発泡樹脂から形成されるパッド2と、パッド2の表面を覆う表皮3とを有する乗物用シート1であって、パッド2は、表側に配される表層パッド4と、表層パッド4の裏側に配される裏層パッド5を層状に有している。裏層パッド5は、表層パッド4よりも硬く、かつ密度が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの乗物に設けられる乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用シートは、一般に、ウレタンフォームなどの発泡樹脂から形成されるパッドと、パッドの表面を覆う表皮を有している。従来のパッドは、例えば、使用者の臀部の下方に位置する第一パッド部位と、それ以外の部分を構成する第二パッド部位を並設した状態で有している(特許文献1参照)。そして第二パッド部位が、第一パッド部位よりも低密度でかつ反発弾性率の高いウレタンフォームから形成されている。したがって第二パッド部位が軽量であるために、パッド全体が軽くなっている。また座り心地上重要である臀部下部に第一パッド部位を設置し、座り心地上あまり重要でない部位に第二パッド部位を設置することによって、シートの座り心地が良好に保たれている。また従来、パッド本体と、パッド本体の裏面に形成された凹所に設けられる挿填体とを有し、挿填体がシートパッド本体よりも高硬度であるパッドも知られている(特許文献2,3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−33297号公報
【特許文献2】特開2006−75589号公報
【特許文献3】特開2005−74108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1に記載のパッドは、第一部位と第二部位の境界において弾性変形量が異なるために、シート着座時に使用者が違和感を覚える場合がある。これに対して特許文献2,3に記載のパッドは、表側が柔らかく裏側が硬いため、座り心地に優れかつ着座時の使用者の安定性に優れる。ところが従前、パッドを軽くしたいという要望もある。そこで本発明は、座り心地が良好でかつ軽量な乗物用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える乗物用シートであることを特徴とする。請求項1に記載の発明によると、パッドは、表側に配される表層パッドと、表層パッドの裏側に配される裏層パッドを層状に有している。裏層パッドは、表層パッドよりも硬く、かつ密度が小さい。
【0006】
したがって表層パッドと裏層パッドの厚みを調整することで、パッドの硬さを調整でき、座り心地を良好にし得る。またパッドは、表層パッドが表側に位置するために、硬さの異なるパッド部位が並設される従来のパッドに生じるパッド部位間の段差における違和感も生じない。しかも柔らかい表層パッドが表側に設置されるために、座り心地に優れ得る。また裏層パッドは、密度が小さくかつ硬い。そのためパッドを軽量にすることができ、かつパッド全体の剛性をも向上させ得る。
【0007】
請求項2に記載の発明によると、使用者が着座するシートクッションを有している。シートクッションのパッドの表層パッドは、パッドの表側全面を構成し、かつ使用者の大腿部下方と臀部下後方において裏側に凹部を有し、その凹部に裏層パッドが配設される。したがってパッドは、大腿部下方と臀部下後方が他の部分よりも硬くなる。そのためパッドは、使用者の大腿部と臀部下後部の沈み込みを抑制でき、これによって使用者の前後方向の滑りや位置ずれを抑制できる。
【0008】
請求項3に記載の発明によると、表層パッドは、パッドの表側全面を構成し、かつ裏側外周部に凹部を有し、その凹部に裏層パッドが配設される。したがってパッドは、外周部において他の部分よりも硬くなり、これによってパッドの型崩れが効果的に抑制され得る。また従来、パッドには、型崩れ防止のために金属ワイヤーが内設される場合があるが、本発明によると、この金属ワイヤーが不要になるために、シートが軽量に構成され得る。
【0009】
請求項4に記載の発明によると、表皮の端末に設けられたクリップが係止される係止部が、裏層パッドに凹設されている。したがってクリップを係止部に係止することで、表皮の端末をパッドに保持させ得る。また係止部は、裏層パッドの硬さを利用して、裏層パッドの一部によって形成されている。そのため部品点数を増やすことなく、表皮の端末をパッドに保持させ得る。
【0010】
請求項5に記載の発明によると、裏層パッドの成形時に裏層パッドに埋め込まれる板部と、板部から裏層パッドから突出して乗物ボディに取付けられ得る取付部とを具備する取付具を備えている。したがって取付具は、裏層パッドの硬さを利用して、裏層パッドに取付けられる。しかも取付具は、裏層パッドに内設される板部を有しているために、裏層パッドによって保持される面積を比較的広くでき、確実に保持され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】乗物用シートの斜視図である。
【図2】パッドの分解斜視図である。
【図3】図1のIII―III線断面矢視図である。
【図4】取付具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態を図1〜4にしたがって説明する。図1に示すように乗物用シート1は、車両などの乗物に設けられるシートであって、例えば、リアシートと使用される。この乗物用シート1は、車体の幅と略同じ幅長さを有するベンチシートタイプであって、複数の使用者が着座し得るシートクッション1aと、シートクッション1aの後端部に立設されて使用者の背中を支持するシートクッション1aを有している。シートクッション1aとシートバック1bは、それぞれ図1,3に示すようにパッド2,8と、パッド2,8の表面を覆う表皮3,9を有している。
【0013】
パッド2は、図2,3に示すように表側に配される表層パッド4と、表層パッド4の裏側に配設される裏層パッド5を層状に有している。表層パッド4は、ポリウレタンを発泡させたウレタンフォームなどの発泡樹脂から形成されている。表層パッド4は、弾性力に富んでおり、発泡倍率等によって密度ρが例えば0.045±0.005g/cm3に設定されている。
【0014】
表層パッド4は、図2,3に示すようにシートクッション1aの表側全面を占める形状および面積を有する表面部4aと、表面部4aの裏側中央部から膨出する膨出部4bを一体に有している。表層パッド4の裏面には、前端部に沿って形成される凹部4cと、後端部に沿って形成される凹部4dと、左右端部に沿って形成される凹部4eが形成されている。これにより表層パッド4は、外周部が薄くなっている。
【0015】
裏層パッド5は、AS樹脂(アクリロニトリル、スチレンのコポリマー)などの樹脂を発泡させた発泡樹脂から形成されている。裏層パッド5は、表層パッド4よりも硬く、弾性率が表層パッド4の弾性率より高い。裏層パッド5の密度ρは、表層パッド4の密度よりも低く、例えば0.035±0.005g/cm3である。裏層パッド5の体積は、パッド2の全体体積の約1/3、例えば1/4〜1/2に設定されている。
【0016】
裏層パッド5は、図2,3に示すように外周部に凸部5a〜5cを有し、中央に穴5dを有している。凸部5aは、裏層パッド5の表側前端部から突出し、表層パッド4の凹部4cに突入する。凸部5bは、裏層パッド5の表側後端部から突出し、表層パッド4の凹部4dに突入する。凸部5cは、裏層パッド5の表側左右端部から突出し、表層パッド4の凹部4eに突入する。穴5dは、裏層パッド5を厚み方向に貫通し、穴5dに表層パッド4の膨出部4bが突入する。
【0017】
裏層パッド5の裏面には、図3に示すように係止部5eが凹設されている。係止部5eは、裏層パッド5の裏面の外周部に沿って複数形成されている。係止部5eは、所定の幅長さを有し、裏面から表面に向けて延出している。係止部5eには、表皮3の端末3aに設けられたクリップ3bが係止される。クリップ3bは、先端に爪を有しており、係止部5eに挿入され、爪が係止部5eの溝壁面に係止する。これによりクリップ3bが係止部5eから抜止めされ、表皮3の端末がパッド2の裏面に保持される。
【0018】
裏層パッド5には、図2,3に示すように乗物ボディ11に取付けられる取付具6,7が設けられている。取付具6,7は、図4に示すように金属板製の板部6a,7aと、板部6a,7aに取付けられた取付部6b,7bを有している。取付部6b,7bは、金属ワイヤーであって、両端部6b1,7b1が板部6a,7aに溶接され、中央にU字状のU字部6b2,7b2を有している。
【0019】
取付具6,7は、裏層パッド5の発泡成形する際に成形型にセットされ、一体発泡される。これにより取付具6,7は、図2,3に示すように板部6a,7aと取付部6b,7bの一部が裏層パッド5に内設され、取付部6b,7bの一部が裏層パッド5から突出する。取付具6は、裏層パッド5の裏側前部に設けられ、乗物ボディ11の取付孔11aに係止される。取付具7は、裏層パッド5の後端部に設けられ、乗物ボディ11の取付孔11bに係止される。これによりシートクッション1aが乗物ボディ11に取付けられる。
【0020】
シートバック1bのパッド8は、表層パッド4と同様に、ポリウレタンを発泡させたウレタンフォームなどの発泡樹脂から形成されている。パッド8の表面には、表皮9が設けられている。パッド8は、一層であるために、全体的にほぼ同じ硬さを有している。一方、シートクッション1aのパッド2は、表層パッド4と裏層パッド5の厚みのバランスによって硬さが調整されている。例えば、表層パッド4が薄くかつ裏層パッド5が厚い部分において硬く、表層パッド4が厚くかつ裏層パッド5が薄い(もしくは有しない)部分において柔らかい。
【0021】
図3に示すようにパッド2は、シート1に着座した使用者10の臀部10aの下後位置と大腿部10bの下位置において、表層パッド4が薄くかつ裏層パッド5が厚い。そのためこれら部位は、他の部位よりも硬い。一方、これらの間に位置する臀部10aの下前位置は、表層パッド4が厚く、表層パッド4のみが配設されているために、他の部位よりも柔らかい。
【0022】
以上のように、パッド2は、図3に示すように表層パッド4と裏層パッド5を層状に有している。裏層パッド5は、表層パッド4よりも硬く、かつ密度が小さい。したがって表層パッド4と裏層パッド5の厚みを調整することで、パッド2の硬さを調整でき、座り心地を良好にし得る。またパッド2は、表層パッド4が表側に位置するために、硬さの異なるパッド部位が並設される従来のパッドに生じるパッド部位間の段差における違和感も生じない。しかも柔らかい表層パッド4が表側に設置されるために、座り心地に優れ得る。また裏層パッド5は、密度が小さくかつ硬い。そのためパッド2を軽量にすることができ、かつパッド2全体の剛性をも向上させ得る。
【0023】
またパッド2の表層パッド4は、図3に示すようにパッド2の表側全面を構成し、かつ使用者10の大腿部10b下方と臀部10a下後方において裏側に凹部4c,4dを有し、凹部4c,4dに裏層パッド5が配設される。したがってパッド2は、大腿部10b下方と臀部10a下後方が他の部分よりも硬くなる。そのためパッド2は、使用者10の大腿部10bと臀部10a下後部の沈み込みを抑制でき、これによって使用者10の前後方向の滑りや位置ずれを抑制できる。
【0024】
また表層パッド4は、図2に示すようにパッド2の表側全面を構成し、かつ裏側外周部に凹部4c〜4eを有し、凹部4c〜4eに裏層パッド5が配設される。したがってパッド2は、外周部において他の部分よりも硬くなり、これによってパッド2の型崩れが効果的に抑制され得る。また従来、パッドには、型崩れ防止のために金属ワイヤーが内設される場合があるが、本形態によると、この金属ワイヤーが不要になるために、シートが軽量に構成され得る。
【0025】
また図3に示すように係止部5eが裏層パッド5に凹設されている。したがってクリップ3bを係止部5eに係止することで、表皮3の端末をパッド2に保持させ得る。また係止部5eは、裏層パッド5の硬さを利用して、裏層パッド5の一部によって形成されている。そのため部品点数を増やすことなく、表皮3の端末をパッド2に保持させ得る。
【0026】
また取付具6,7は、図3に示すように裏層パッド5に埋め込まれる板部6a,7aと、乗物ボディ11に取付けられ得る取付部6b,7bを有している。したがって取付具6,7は、裏層パッド5の硬さを利用して、裏層パッド5に取付けられる。しかも取付具6,7は、裏層パッド5に内設される板部6a,7aを有するために、裏層パッド5によって保持される面積を比較的広くでき、確実に保持され得る。
【0027】
(他の実施の形態)
本発明は、上記実施の形態に限定されず、以下の形態等であっても良い。
(1)実施の形態のシートバック1bのパッド8は、一層である。しかしシートバックのパッドがシートクッション1aのパッド2と同様に、表層パッドと裏層パッドを層状に有する形態であっても良い。
(2)実施の形態のパッド2は、別々に形成された表層パッド4と裏層パッド5を有している。しかしパッドが二色成形等によってこれらを一体に有する形態であっても良い。
(3)実施の形態のパッド2は、乗物ボディ11に載置されて乗物ボディ11に支持される形態である。しかしシートがシートフレームを有し、シートレームにパッドが支持される形態であっても良い。
【符号の説明】
【0028】
1…乗物用シート
1a…シートクッション
1b…シートバック
2,8…パッド
3,9…表皮
3a…端末
3b…クリップ
4…表層パッド
4c〜4e…凹部
5…裏層パッド
5a〜5c…凸部
5d…穴
5e…係止部
6,7…取付具
6a,7a…板部
6b,7b…取付部
10…使用者
10a…臀部
10b…大腿部
11…乗物ボディ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂から形成されるパッドと、そのパッドの表面を覆う表皮とを有する乗物用シートであって、
前記パッドは、表側に配される表層パッドと、前記表層パッドの裏側に配される裏層パッドを層状に有し、
前記裏層パッドは、前記表層パッドよりも硬く、かつ密度が小さいことを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートであって、
使用者が着座するシートクッションを有し、
前記シートクッションのパッドの表層パッドは、前記パッドの表側全面を構成し、かつ前記使用者の大腿部下方と臀部下後方において裏側に凹部を有し、その凹部に裏層パッドが配設されることを特徴とする乗物用シート。
【請求項3】
請求項1または2に記載の乗物用シートであって、
表層パッドは、パッドの表側全面を構成し、かつ裏側外周部に凹部を有し、その凹部に裏層パッドが配設されることを特徴とする乗物用シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の乗物用シートであって、
表皮の端末に設けられたクリップが係止される係止部が、裏層パッドに凹設されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の乗物用シートであって、
裏層パッドの成形時に前記裏層パッドに埋め込まれる板部と、前記板部から前記裏層パッドから突出して前記乗物ボディに取付けられ得る取付部とを具備する取付具を備えることを特徴とする乗物用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−99693(P2013−99693A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−46325(P2013−46325)
【出願日】平成25年3月8日(2013.3.8)
【分割の表示】特願2008−304209(P2008−304209)の分割
【原出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】