説明

乗用型作業車両

【課題】乗用型の摘心作業車両において、刈刃を直接エンジンによって駆動する形態のものでは、通常、エンジン始動用入り切りスイッチは、エンジン付近に設けられており、作業中、一時的にエンジンを停止するときには、運転席より一旦降りてからエンジンを停止しなければならず、操作性が著しく低下する問題があった。
【解決手段】本発明は、自走しながら作物の先端部を切断処理するバリカン式刈刃10と、該バリカン式刈刃10を駆動する刈刃駆動用エンジン11を備えた摘心作業装置12を、走行車体1の前部に装着された昇降可能な昇降リンク機構8部に支持させて設け、刈刃駆動用エンジン11の始動用入り切りスイッチ20を乗用運転操作部近くに配備してあることを特徴とする乗用型作業車両の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自走しながら作物の摘心作業が行える乗用型作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体フレームから後方上方に延設するハンドルを握って押しながら前進走行し、バリカン式刈刃をエンジンにて駆動することにより、成育した大豆の茎の最上端部を剪定する歩行型剪定機が、例えば、特許文献1によって知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−267018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乗用型の摘心作業車両において、刈刃を直接エンジンによって駆動する形態のものでは、通常、エンジン始動用ON・OFFスイッチは、エンジン付近に設けられており、作業中、一時的にエンジンを停止するときには、運転席より一旦降りてエンジンを停止しなければならず、操作性が著しく低下するものであった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記の実情に鑑みこれらの課題解決を図ることを目的とするものであって次のような技術的手段を講じた。
【0006】
すなわち、請求項1においては、自走しながら作物の先端部を切断処理するバリカン式刈刃(10)と、該バリカン式刈刃(10)を駆動する刈刃駆動用エンジン(11)を備えた摘心作業装置(12)を、走行車体(1)の前部に装着された昇降可能な昇降リンク機構(8)部に支持させて設け、刈刃駆動用エンジン(11)の始動用入り切りスイッチ(20)を乗用運転操作部近くに配備してあることを特徴とする乗用型作業車両とする。
【0007】
自走しながら圃場の作物に対して左右に往復動するバリカン式刈刃(10)が作用し、作物の先端部が適宜の位置で切断処理される。作業中、安全のため、刈刃(10)の駆動を停止したい場合には、エンジン始動用スイッチ(20)をOFF操作することによって運転席(5)から降りることなく運転位置から刈刃駆動用エンジン(11)を緊急停止することができる。
【0008】
請求項2記載の本発明は、前記刈刃駆動用エンジン(11)の回転速度を調整するスロットルレバー(22)を乗用運転操作部近くに配備してあることを特徴とする請求項1記載の乗用型作業車両とする。
【0009】
摘心作業を行わない区域、例えば、圃場の枕地での旋回時等では、スロットルレバー(22)によるエンジン(11)のスロットル調整で刈刃の作動速度を遅くして周囲の安全性を確保し、作業時はフルスロットルで刈刃作動速度を最高にして作業を効率よく行うことができる。
【0010】
そして、このようなスロットル調整は、運転席(5)から降りることなく運転位置に居ながらにして直ちに行うことができ、作業能率が向上する。
【発明の効果】
【0011】
以上要するに、請求項1の本発明によれば、摘心作業中、刈刃の駆動を停止したい場合には、乗用運転操作部近くに配備されたエンジン始動用スイッチをOFF操作することによって運転席から降りることなく運転位置から刈刃駆動用エンジンを緊急停止することができる。従って、刈刃が機体の最前部に位置しているため、作業中では常時危険が伴うが、運転位置から即座に緊急停止することができるので、操作性の向上並びに安全性がより向上するものとなった。
【0012】
請求項2の本発明によれば、請求項1の発明効果を奏するものでありながら、圃場の枕地での旋回時等では、スロットルレバーによるエンジンのスロットル調整で刈刃の作動速度を遅くすることで周囲の安全性向上を図ることができ、作業時はフルスロットルで刈刃作動速度を最高にして作業を効率よく行うことができる。
【0013】
また、エンジンのスロットル調整は、運転席から降りることなく運転位置に居ながらにして直ちに行うことができて、作業能率がより向上するものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】作物摘心作業装置を備えた乗用型作業車両の側面図
【図2】同上平面図
【図3】同上要部の拡大平面図
【図4】同上要部の拡大平面図
【図5】摘心作業装置の側面図
【図6】別例摘心作業装置の平面図
【図7】別例摘心作業装置の平面図
【図8】別例同上平面図
【図9】別例摘心作業装置の側面図
【図10】別例摘心作業装置の側面図
【図11】同上要部の平面図
【図12】別例摘心作業装置の要部の平面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1及び図2は、大豆作物等の摘心作業装置を備えた乗用型作業車両を示すものであり、この走行車体1の前部にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力を走行ミッションケ−ス2内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪3と後輪4とに伝えるようにしている。機体後部側中央に運転席5が、その前方にはステアリングハンドル6が装備され、これらの乗用運転操作部はキャビンCによって包囲されている。
【0017】
車体1の前方側には、昇降シリンダ7の伸縮作動により対地面対して略平行姿勢を保って昇降する昇降リンク機構8が装備されている。昇降リンク機構8には、作物の先端部を切断処理するバリカン式刈刃10と、この刈刃10を駆動する2サイクルエンジン11を備えた摘心作業装置12が装備されている。
【0018】
また、前記昇降リンク機構8部には、圃場の作物に薬液を散布する散布ノズル13、散布ホース14、散布ブームランス15等を有した薬液散布装置16が備えられている。
【0019】
機体後部に搭載された薬液タンク17内の薬液は、ポンプにより散布ホ−ス14を通じて散布ノズル13から噴出されるようになっている。
【0020】
前記昇降リンク機構8は、回動軸芯Q1,Q2を支点として上下動する上リンク8uと下リンク8dと前リンク(前フレーム)8f等からなる。
【0021】
摘心作業装置12の刈刃10は、左右の刈刃10L,10Rが前後に位置をずらせて配置され、固定受刃10aと左右に往復動する可動刈刃10bとからなり、そして、可動刈刃10bは、左端に設置されたエンジン11,11により刈刃駆動ケース9内の駆動機構を介して左右に往復駆動する構成としている。
【0022】
また、前記摘心作業装置12は、散布ブームランス15の前側に支持ステー18を介して装着支持された構成になっている。
【0023】
また、図2に示すように、昇降リンク機構8の前面に設けた前フレーム8fに、ブーム支持フレーム19をローリング軸29を介して左右ローリング自在に装着し、ブーム支持フレーム19と前フレーム8fを自動水平用シリンダ34にて連結し、そして、このローリング可能なブーム支持フレーム19に散布ブームランス15と摘心作業用刈刃10を装備した構成としている。ブーム支持フレーム19は、機体が傾いても水平状態を保持するので、作物の摘心位置が正確に決まり、所定位置で確実に摘心することができる。
【0024】
前記刈刃駆動用エンジン11,11には、通常、エンジン始動用ON・OFFスイッチ(以下始動スイッチと云う)やエンジンの回転速度を調整するスロットルレバーが設置されている。図3に示す実施例では、エンジン11側の始動スイッチに連動して、運転席6側からでもハーネス21を介してON・OFF操作ができる始動スイッチ20が設けられている。また、エンジン11のスロットル調整においても、図4に示すように、エンジン側のスロットル調整手段と連動して作動可能なスロットルケーブル23を介して運転席6側からスロットル調整ができるスロットルレバー22が設置されている。
【0025】
摘心作業中において、緊急時には、運転席6側から始動スイッチ20をOFF操作することで、エンジン回転の停止と同時に刈刃の駆動を緊急停止することができる。また、旋回時等において刈刃の作動速度を遅くしたい場合には、スロットルレバー22をもって運転位置から直ちにスロットル調整操作することができる。このように、始動スイッチのON・OFF操作並びにスロットル調整は、運転席から降りることなく、キャビン内から遠隔操作することができる。
【0026】
薬液タンク17の後方部には送風手段として送風機(送風ファン)24が設置されている。そして、その送風機24により発生する強制風は、機体前方に向けて送風すべく配管された縦送風管25と、この縦送風管25より刈刃10の後側上部で左右横方向に配管された横送風管26と、この横送風管26より刈刃10上を前方に向けて送風すべく開口された数個の送風ノズル27…を介して刈刃の全面にわたって吹き付けられるようになっており、刈刃後方上部から刈刃前方に向けて送風しながら摘心作業が行えるように構成している。
【0027】
これによれば、ノズルからの噴風が刈刃の全面にわたって吹き付けられるので、切断後の残骸排除作用が効率よく的確に行える。
【0028】
なお、刈刃10とブームランス15との間隔(隙間)を30cm以上に配置しておくと、切断した茎葉部の落下が容易となり、刃部とブームランス間に残葉が残らず、切断性能を高く維持することができる。
【0029】
また、刈刃上にエアを吹き付ける手段として、上記実施例では、刈刃の後方から墳風を吹き付ける構成であるが、図5に示すように、刈刃10の上方でやや後方位置から横送風管26の送風ノズル27を臨ませ、刈刃の上方からエアを刈刃上面に吹き付けて切断された茎葉部を前方下方に向けて吹き飛ばすように構成することもできる。この方式によれば、横送風管の前側に配置したブーム開閉シリンダ、ブーム水平シリンダ、ブームランス及び刈刃角度調整用アジャスタ等に風が当たって刈刃上に残葉が一時的に残り、切断ミスが発生するなどの不具合を解消することができる。
【0030】
刈刃10の前側には、切断性を高めるため、作物の上部を前倒れ状態に規制案内する抵抗ガイド28が設けられている。また、この抵抗ガイド28は、刈刃の安全ガードを兼ね備えた構造にもなっており、人身事故を防ぐことができる。
【0031】
エンジン11にて刈刃10を往復動させる構成と、刈刃上に強制風を吹き付ける送風機24とを組み合わせた構成において、摘心作業中、圃場内で作業を一次中断した際には、例えば、エンジン始動スイッチ20をOFFにすると、このOFF操作に連動して送風機24の電磁クラッチ33をOFFにして送風を停止するよう構成しておくと、無駄なエネルギーロスを抑制し、省エネ作業を実現することができる。送風開始の操作忘れが無くなり、切断ミスのない安定した摘心作業が行える。なお、エンジン始動スイッチ20をONにした場合は、同時に送風機も電磁クラッチをONにすることによって作業を再開することができる。
【0032】
左右複数の刈刃10L,10Rを前後に配置した摘心作業装置において、図4に示すように、刈刃の前方に設けられた抵抗ガイド28を、左側刈刃10Lと右側刈刃10Rに対する隙間L1とL2が略同等となるよう配置することで、隣接する作物の切断精度を均一化することができる。
【0033】
刈刃10と散布ブームランス15は、該散布ブームランス15の後方近くに架設した横軸30を支点として一体的に回動できる構成としている。これにより、刈刃10の作物に対する作用角度を任意に決定でき、最も切断性能が良好な切断角度を決定することができる。そして、刈刃の角度調節は、刈刃の上方に配した調節ハンドル31の回動操作で、伸縮可能なアジャスタ32を介して行えるように構成してある。
【0034】
複数の刈刃を左右刈刃10L,10Rとに配置した摘心作業装置において、図6に示すように、左右刈刃10L,10Rを、それぞれの内端側が後位に外端側のエンジン部11が前方に位置するよう所定角度θ角傾けて配置し、機体進行方向に向かって刈刃部をV字型とするすることで、従来の一直線上に配置した刈刃構造のものと比較し、作物と刃部の接触長さが長くできて、切断性能が向上し、また、作物と刃部の接触時間も長くできるので、切断性能がより向上するものとなる。
【0035】
また、このV字型刈刃部の前方には、刃部と等間隔に抵抗ガイド28を設けることで、作物の茎葉部を刈刃終端部まで案内し易くなり、刃部との接触が増えて切断精度を高めることができる。刃部はバリカン式で高速揺動してるため、危険を伴うが、上記抵抗ガイドによって枕地旋回での安全性も確保することができる。
【0036】
図7に示す実施例は、機体の進行方向前後に第1刈刃10Fと第2刈刃10Bを配置して設けた構成としている。第1刈刃での刈残しを第2刈刃で補い確実に切断することができ、茎葉部の切断ミスが低減する。また、図7例では、固定受刃10aに対する可動刈刃10bを左右に往復動させる一つの揺動アーム35でもって前後複数の可動刈刃を作動させる構成としている。
【0037】
また、前記構成において、第1刈刃10Fと第2刈刃10Bとの間には、図8に示すように、第1刈刃で切断ミスした茎葉部が入り込む程度の充分な空間Sを設けることで、第2刈刃での茎葉部の切断作用を行い易くしている。更に、図9に示す実施例では、第1刈刃の後方に第2刈刃を設けた上記構成において、前方に位置する第1刈刃は上方に高くし、後方に位置する第2刈刃は第1刈刃よりも下方に低く配置して茎葉部を上下2段階で切断するように構成している。段階的に切断するので、作物の切断高さが一定に揃え易くなるメリットがある。
【0038】
なお、かかる実施例では、第2刈刃部に第1刈刃で切断した葉が残らないように送風ノズル27からのエアを第2刈刃部の上方から吹き付けるようにし、切断された茎葉部が第1刈刃と第2刈刃との間から下方に落下する構成としている。また、この構成において、刈刃角度及び送風角度も任意に調整できるように構成しておくとよい。
【0039】
次に図10及び図11に示す実施例について説明する。
【0040】
図例は、茎葉部の切断作業開始を認識させる方法として、刈刃10の前方に設けられた抵抗ガイド28を活用したもので、例えば、機体進行に伴い先行する抵抗ガイド28が作物と接触すると、この抵抗ガイドは、接触抵抗によりスプリング39に抗して回動支点Qを中心として(イ)位置から(ロ)位置に回動(図10)し、ガイド後端の規制プレート36がマイクロスイッチ37をスイッチオンすることで、刈刃駆動モータ38の作動にて刈刃を駆動するように構成することができる。これは刈刃による事故防止手段で、マイクロスイッチがオン状態であるときのみ、刈刃を作動させることで安全性が向上する。
【0041】
また、抵抗ガイド28が(ロ)位置から(イ)位置に復帰した場合には、摘心作業を終了と判断し、油圧駆動モータを停止し、刈刃の駆動も同時に停止することができる。
【0042】
上記の制御構成において、マイクロスイッチ37がオフすると同時に刈刃をその都度停止すると、作物は等ピッチに間隔を空けて栽培しているため、その間隔を通過する毎に刈刃の駆動が停止することになるので、次の作物を切断する際、刈刃の駆動開始タイミングが遅れ切断ミスを起こす問題が生じてくる。この課題を解決するため、本例では、作業開始後、マイクロスイッチがオフされても、所定時間経過後に刈刃の駆動を停止するように制御する構成としている。
【0043】
また、他の実施例として、前輪の操舵角が規定角度を超えると、マイコンが旋回と判断し、刈刃の駆動を一時的に停止するように制御可能に構成しておけば、枕地旋回時の安全性を確保することができる。
【0044】
なお、図10に示された上記抵抗ガイド28、規制プレート36、マイクロスイッチ37、スプリング39等の構成部品は刈刃部の上方へ配置することによって、切断された茎葉部は大半が刈刃の下側位置を通過するので、機能の妨げとならず、特にマクロスイッチの誤作動を防止することができる。
【0045】
図12に示す実施例では、抵抗ガイド28を前後方向にスライドする構成とし、抵抗ガイド28が作物に対する接触抵抗によりスプリング39に抗して後退移動すると、マイクロスイッチ37のスイッチオンによって刈刃駆動モータ38が作動し刈刃が駆動するようになっている。また、抵抗ガイドが元の位置に復帰すると、刈刃駆動モータの停止と同時に刈刃も即時停止するようになっている。このような抵抗ガイドのスライド構成は、抵抗ガイドが刈刃の両端より外側でスライドする構成であるため、刈幅全体はもとより、それよりも外側にわたってガイドすることになり、機体が走行路を多少ずれても作物の抵抗を作業中継続的に受けるので、作業中刈刃が停止するなどの不具合が発生しない。
【符号の説明】
【0046】
1 車体
8 昇降リンク機構
5 乗用運転席
10 バリカン式刈刃
11 刈刃駆動用エンジン
12 摘心作業装置
20 エンジン始動用スイッチ
21 ハーネス
22 スロットルレバー
23 スロットルケーブル
26 送風手段(送風ノズル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走しながら作物の先端部を切断処理するバリカン式刈刃(10)と、該バリカン式刈刃(10)を駆動する刈刃駆動用エンジン(11)を備えた摘心作業装置(12)を、走行車体(1)の前部に装着された昇降可能な昇降リンク機構(8)部に支持させて設け、刈刃駆動用エンジン(11)の始動用入り切りスイッチ(20)を乗用運転操作部近くに配備してあることを特徴とする乗用型作業車両。
【請求項2】
前記刈刃駆動用エンジン(11)の回転速度を調整するスロットルレバー(22)を乗用運転操作部近くに配備してあることを特徴とする請求項1記載の乗用型作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−200167(P2011−200167A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70422(P2010−70422)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】