説明

乗用型農作業機

【課題】走行機体の後部に苗植装置がリンク装置にて昇降可能に連結されている田植機において、リンク装置をシンプルながら強度的に優れた形態とする。
【解決手段】リンク装置3はトップリンク54とロアリンク55とを有している。両リンク54,55の前端部はリア支柱13に連結されて、両リンク54,55の後端部はヒッチ56に連結されている。苗植装置はヒッチ56に連結されている。トップリンク54は幹部54aと二股部54bとを有する平面視Y型の形態を成しており、幹部54aが後ろに向いて二股部54bが前に向いている。トップリンク54の後端はヒッチ56の内部に入り込んでいる。ロアリンク55は梯子型の形態になっている。リンク装置は全体としてシンプルでしかも強度的に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、乗用型田植機に代表される乗用型苗植機のような乗用型農作業機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型農作業機の例として乗用型田植機がある。この乗用型田植機は左右の前輪及び左右の後輪で支持された走行機体を有しており、走行機体の後部に苗植装置を高さ調節可能に取り付けている。そして、走行機体には座席と操縦ハンドルとが配置されていると共にエンジンが搭載されており、エンジンからの動力によって走行と苗植作業とが行われる。苗植装置と走行機体とはリンク装置で相対回動可能に連結されており、走行機体とリンク装置とを油圧シリンダで連結している。従って、油圧シリンダを伸縮動させると苗植装置が昇降する。
【0003】
乗用型農作業機において昇降用リンク装置は一般に上下に分離したトップリンクとロアリンクとを有している。これらトップリンクとロアリンクとの前端部は走行機体のフレーム等に回動可能に連結されており、また、トップリンクとロアリンクとの後端部には上下長手のヒッチ(バックリンク)が相対回動可能に連結されており、従って、リンク装置は全体として平行リンク機構を構成している。ヒッチには苗植装置が左右回動可能(ローリング可能)に連結されており、また、シリンダはロアリンクと走行機体とに連結されている。
【0004】
トップリンクとロアリンクとの形態も様々であり、例えば特許文献1,2には、トップリンクとロアリンクとの両方を平行に延びる左右2本ずつの部材で構成することが記載されており、他方、特許文献3には、トップリンクは1本の部材で構成してロアリンクは左右2本の部材で構成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3238328号公報
【特許文献2】特許第3450642号公報
【特許文献3】特開平10−52126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、農作業機は田畑を走行するものであるため重量はできるだけ軽いのが好ましいと言える。特に、田植機は泥土からなる圃場を走行するため軽量化の要請は高く、従って、各部材は機能を損なうことなく軽量化するように配慮されるべきである。
【0007】
そこで各引用文献を検討するに、引用文献1,2のようにトップリンクとロアリンクとの両方を平行に延びる左右2本のずつの部材で構成すると、強度は高くできるが重量を軽減することが難しいという問題がある。また、ヒッチには苗植装置の左右傾きを補正するためのローリング制御装置が取り付けられることがあるが、ローリング制御装置はトップリンクと干渉しないように配置せねばならないため、トップリンクとの関係でローリング制御装置の配置が面倒になる虞もある。
【0008】
他方、特許文献3ではトップリンクは主として前後方向に延びる1本の部材で構成されているため、シンプルな構造になって軽量化に貢献できると共に、ヒッチにローリング制御装置を取り付ける場合でも設計が容易になる利点がある。
【0009】
本願発明は作業装置を昇降させるリンク装置の改良を要点とするものであり、特許文献3にみられる構造のシンプル性を踏襲しつつ、強度等の面で一層優れたパフォーマンスを得んとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明に係る乗用型農作業機は、前後輪を有して自走し得る走行機体と、前記走行機体の後部にリンク装置を介して昇降可能に取り付けられた作業装置とを有しており、前記走行機体とリンク装置とをシリンダで相対回動自在に連結することにより、前記シリンダが伸縮するとリンク装置が回動して作業装置が昇降するようになっている、という基本構成になっている。そして、第1の発明(請求項1の発明)は、前記基本構成において、前記リンク装置は上下に配置されたトップリンクとロアリンクとを有しており、前記トップリンクとロアリンクとのうちいずれか一方又は両方を、前後長手の1本の幹部とこれから分岐したV形の二股部とを有する平面視でY形に形成している。
【0011】
第2の発明(請求項2の発明)は、第1の発明において、前記トップリンクが平面視Y形に形成されており、前記トップリンクは、前記二股部が走行機体に向いて幹部が作業装置に向く姿勢で配置されている一方、前記ロアリンクは、前後長手で略平行に延びる左右メンバーが横長の部材で連結された梯子形の形態を成している。
【0012】
第3の発明(請求項3の発明)は第2の発明の好適な展開例であり、この発明では、前記リンク装置は、前記トップリンク及びロアリンクの後端部が連結された上下長手のヒッチを有していてこのヒッチに作業装置が連結されており、かつ、前記ヒッチは左右の側板を有する略溝型又は略筒型の形態を成しており、前記トップリンクの後端部はヒッチの内部に入り込んでおり、この入り込んだ部位がヒッチに連結されている。
【0013】
第4の発明(請求項4の発明)は第3の発明を更に展開したものであり、この発明では、前記トップリンクの後端部には左右長手の軸受け筒が溶接されており、前記ヒッチの左右側板に貫通したピンを前記軸受け筒に挿通することによってトップリンクとヒッチとが相対回動可能に連結されている。
【0014】
第5の発明(請求項5の発明)は第3の発明又は第4の発明を具体化したものであり、この発明では、前記作業装置は左右ローリング可能な状態で前記ヒッチに連結されており、かつ、前記ヒッチの上端部には、前記走行機体と作業装置との相対的な左右回動を制御するローリング制御装置が取り付けられている。
【発明の効果】
【0015】
本願各発明では、トップリンク又はロアリンク若しくは両方がY型の形態であるため、左右2本の部材を有するタイプに比べて軽量化することが可能になり、延いては乗用型農作業機の軽量化に貢献し得る。また、Y型であることから1本の部材からなる場合に比べてねじりや曲げに対する剛性は著しく高くなっており、このため、軽量でありながら高い強度を確保することができる。
【0016】
トップリンクとロアリンクとの両方をY型とすることも可能であるが、第2の発明のようにトップリンクをY型にしてロアリンクを梯子型にすると、ロアリンクによって高い支持安定性を確保できるため、リンク装置全体としてシンプルな構造でありながら高い強度を確保できる利点がある。また、トップリンクは二股部が走行機体に連結されているため、乗用型農作業機の左右ローリングに対する支持安定性に優れている。
【0017】
第3の発明では、トップリンクの幹部がヒッチの内部に入り込んでいるため、ヒッチを含めたリンク装置が全体としてごくシンプルな構造になり、外観もスッキリとして見栄えも良い。また、ヒッチは溝型又は筒型であるため曲げに対する剛性は極めて高くなっており、このため強度的にも優れている。
【0018】
第4の発明を採用すると、乗用型農作業機の幹部に軸受け筒が溶接されていることでピンを安定的に支持することができ、その結果、ガタ付きやねじれ・こじれを抑制してリンク装置のスムースな回動を確保できると共に、強度面でも優れている。この場合、実施形態のようにヒッチの側板にも軸受け筒を溶接すると、ピンの支持面積が大きくなるため特に有益である。
【0019】
既述のようにヒッチにはローリング制御装置を取り付けることがあり、本願では第5の発明でこの点を特定している。そして、トップリンクの幹部はヒッチの内部に入り込んでいるため、ヒッチの外側にはトップリンクが邪魔にならない空間が広く存在しており、このためローリング制御装置の取り付け位置を選択するに際して設計の自由性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】田植機の全体的な側面図である。
【図2】田植機の全体的な平面図である。
【図3】田植機の全体的な斜視図である。
【図4】走行機体の側面図である。
【図5】走行機体の概略底面図である。
【図6】走行機体の骨組みを示す斜視図である。
【図7】(A)は苗植装置の骨組みを示す斜視図、(B)は苗植装置の概略斜視図である。
【図8】リンク装置を中心にした部分の背面図である。
【図9】(A)はリンク装置を中心にした部分の平面図、(B)は(A)のB−B視断面図、(C)及び(D)は別例図である。
【図10】リンク装置を中心にした部分を下方からみた斜視図である。
【図11】リア支柱とリアアクスルケースとの分離背面図である。
【図12】リア支柱とシリンダとトップリンクとを示す斜視図である。
【図13】リンク装置を中心にした部分を斜め上方からみた斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」と略す)に適用している。以下の説明では、方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は、特に断らない限り、田植機の前進方向を向いて着座した運転者を基準にして表示している。
【0022】
(1).田植機の概要
まず、田植機の概要を説明する。図1〜図3から容易に理解できるように、田植機は主要部分として走行機体1と苗植装置2とを有しており、苗植装置2はリンク装置3を介して走行機体1の後部に昇降自在に連結されている。走行機体1は左右の前輪4と後輪5とで支持されており、前輪4と後輪5とは動力で駆動される。
【0023】
走行機体1は、運転者が腰掛ける背もたれ付き座席6とその前方に配置された操縦ハンドル7とを有している。座席6と操縦ハンドル7は走行機体1の左右中間位置に配置されている。座席6の前方でかつ左右両側の部分には予備苗台8を配置している。
【0024】
例えば図6から明瞭に理解できるように、走行機体1は、前後方向に延びる左右のサイドフレーム9と、左右のサイドフレーム9をその前端寄り部位において連結したフロントフレーム10と、左右サイドフレーム9の後端に連結された左右長手のリアフレーム11とを有している。これらサイドフレーム9とフロントフレーム10とリアフレーム11とにより、走行機体1の中核を成す車体フレーム(シャーシ)が構成されている。サイドフレーム9の手前にバンパー12が配置されており、また、リアフレーム11は左右2本のリア支柱13で支持されている。
【0025】
サイドフレーム9は、ほぼ前後中間部を境にして略前半部は略水平姿勢になって後半部は後傾姿勢となるように屈曲している。すなわち、サイドフレーム9の略後半部は、後ろに行くほど高さが高くなる傾斜部9aになっている。サイドフレーム9の水平部には左右外側に突出した複数本の外向き枝フレーム14が固着されている。
【0026】
また、サイドフレーム9の左右外側には前後方向に延びる補助フレーム15が平面視で平行に配置されており、補助フレーム15は外向き枝フレーム13とリアフレーム11とに溶接されている。従って、リアフレーム11はサイドフレーム9の左右外側に突出している(張り出している。)。また、図2に示すように、後輪5は平面視でサイドフレーム9と補助フレーム15との間の部位に位置している。
【0027】
例えば図4から理解できるように、側面視でサイドフレーム9における傾斜部9aの下方に位置した部位にはエンジン16が配置されており、エンジン16の手前でかつサイドフレーム9より低い位置にはギア群を内蔵したミッションケース17が配置されている。エンジン16は、クランク軸18が左右方向に延びる姿勢で配置されており、動力はプーリ及びベルト19でミッションケース17の内部に伝達される。ミッションケース17の前部の左右側面にはフロントアクスル装置20が取り付けられており、フロントアクスル装置20を介して前輪4が回転自在に支持されている。
【0028】
例えば図5から理解できるように、エンジン16は走行機体1の縦長中心線に沿った位置に配置されている(すなわち、エンジン16は走行機体1の左右中間部に配置されている。)。また、例えば図4に明示するように、エンジン16は、クランク軸18が手前に位置すると共にシリンダボアは後傾した姿勢で配置されている。
【0029】
座席6は、走行機体1のほぼ左右中間部の位置でかつ側面視では概ねサイドフレーム9における傾斜部9aの前半部の上方に位置している。そして、図4から理解できるように、平面視でエンジン16の前部は座席6と重なり合っており、平面視と側面視でエンジン16は座席6の後ろに大きくはみ出している。
【0030】
座席6とエンジン16との間には燃料タンク21が配置されている。燃料タンク21の前端は座席6の前端よりもやや後ろに位置している一方、燃料タンク21の後端は座席6の後端よりもやや後ろにはみ出ている。
【0031】
図1〜図4に示すように、座席6の後ろには施肥装置22が配置されている。施肥装置22は植付け条数と同じ数のホッパーを備えており、ホッパーに溜められた肥料は送風機の送り作用により、植付けタイミングに同期してホースで苗の株許に投下される。施肥装置22はリアフレーム11で支持されている。
【0032】
ミッションケース17の後ろでかつエンジン16の斜め後ろにはリアアクスルケース25が配置されており、リアアクスルケース25から左右外向きに突出した後ろ車軸26に後輪5が取り付けられている。なお、図2に二点鎖線で示すように、泥土が深い圃場の場合は後ろ車軸26に補助輪27を取り付けることがある。
【0033】
図5や図11に示すように、リアアクスルケース25の左右両端部は後ろ向きに突出した張り出し部25aになっており、左右の張り出し部25aから後ろ車軸26が左右外向きに突出している。例えば図5に明示するように、リアアクスルケース25の内部にはミッションケース17の前部から走行駆動軸28によって駆動動力が伝達される。
【0034】
図11に示すように、リアアクスルケース25のうち後ろ向きの張り出し部25aの付け根箇所には段部25bがあり、この段部25bにボルトで締結したリアブラケット29にリア支柱13が固定されている。リア支柱13は角パイプで製造されているが、断面視で前後に長い角形になっている。リア支柱13には前後方向からの外力が強く作用するためである。例えば図4に示すように、リア支柱13は側面視において鉛直線に対してやや前傾した姿勢になっている。
【0035】
リアフレーム11は丸パイプを使用しているので、リア支柱13の上端はリアフレーム11にきっちり重なるように側面視で上向き凹状に湾曲している。例えば図5から容易に理解できるように、左右サイドフレーム9の間隔はリアアクスルケース25の左右長さと概ね同じ程度の寸法に設定されている。従って、リア支柱13の左右間隔は左右サイドフレーム9の間隔よりも小さくなっている。
【0036】
走行機体1のうち人が載る部分は一体構造の車体カバーで覆われている。図2を除いて車体カバー30は省略している。車体カバーには多数のスリットが形成されている。詳細な説明は省略するが、図4に一部だけ示すように、リアアクスルケース25の右側部の手前側の箇所には株間調節装置31が配置されており、株間調節装置31から植付け駆動軸(PTO軸)32が後ろ向きに突出している。また、図では表示していないが、株間調節装置31からは施肥装置22を駆動する施肥駆動軸も上向きに突出している。図5に示すように、リアアクスルケース25のうち中間からやや左に寄った箇所からは整地駆動軸33が突出している。
【0037】
(2).苗植装置の概要
次に、苗植装置2の概要とリンク装置3による連結構造とを説明する。
【0038】
例えば図2や図7から理解できるように、苗植装置2は、その後端部に配置されたロータリー式の4個の植付け装置34、4本の縦送りベルト35を有して側面視でやや前傾姿勢の苗載台36、圃場に当接する3つのフロート37の手前に配置された整地ロータ38などを有している。2個の植付け装置34が1セットになっている。
【0039】
図7から容易に理解できるように、苗植装置2は、左右長手のロアサポート(ロアガイド)41及びアッパーサポート(アッパーガイド)42と上下長さの左右サイドサポート43とで略四角形の大まかな骨組みが構成されている。左右のサイドサポート43は、アッパーサポート42のやや下方の部位に配置された左右長手の補助サポート44によっても連結されている。
【0040】
ロアサポート41は後ろ向き開口溝を有する押し出し加工品が作用されており、また、アッパーサポート42は下向き開口溝を有する押し出し加工品が使用されている。苗載台36はロアサポート41とアッパーサポート42に左右移動自在に取り付けられており、図示しない横送り機構と縦送り機構とにより、苗マット(図示せず)の間欠的な横送りと縦送りとが行われる。
【0041】
ロアサポート41には後ろ向きに突出する2本の植付けアーム45が設けられており、両植付けアーム45の先端部に一対ずつの植付け装置34が回転(回動)自在に取り付けられている。ロアサポート41の左右中間部にはセンターブラケット46が固定されており、センターブラケット46からキングピン47が前向きに突出している。
【0042】
また、センターブラケット46とロアサポート41とにはギアボックスが固定されており、センターブラケット46のうちキングピン47の下方の部位には前向きに開口した植付け軸受け49が設けられている。植付け軸受け49から植付け入力軸(図示せず)が突出しており、この植付け回転軸と図4で表示した植付け駆動軸(PTO軸)32とが自在継手及び植付け駆動軸(いずれも図示せず)で連結されている。敢えて述べるまでもないが、植付け駆動軸(PTO軸)32の回転により、植付け装置34と横送り機構と縦送り機構とが同期して駆動される。
【0043】
図7(B)に示すように、整地ロータ38は左右一対の揺動リンク50によって苗植装置2に昇降可能に連結されている。また、整地ロータ38を有する整地装置51は前向きに突出した整地入力軸52を有しており、整地入力軸52と図11に示す整地駆動軸31とが自在継手付き連動軸(図示せず)で連結されている。
【0044】
(3).リンク装置
次に、リンク装置3を説明する。例えば図6や図10に示すように、リンク装置3は、その上部を構成するトップリンク54と下部を構成するロアリンク55と後端部を構成するヒッチ56とを有しており、全体として平行リンク機構を構成している。そして、トップリンク54の前端とロアリンク55の前端とはリア支柱13に回動自在に連結されており、ヒッチ56の下端部に苗植装置2が連結されている。
【0045】
例えば図9や図13に示すように、トップリンク54は、後端部を構成する1本の幹部54aとその前端から手前に延びる二股部54bとを有しており、二股部54bは手前に行くに従って間隔が広がる形態になっている。換言すると、二股部54bが後ろに行くに従って間隔を狭めてやがて1本の幹部54aに収束している。従って、トップリンク54は平面視で略Y形の形態を成しており、左右の二股部54bの前端部がそれぞれ左右長手の第1ピン57でリア支柱13の上端部の内面部に連結され、幹部54aの後端部がヒッチ56の上部に左右長手の第2ピン58で連結されている。
【0046】
トップリンク54は2本の断面コ字型チャンネル材で構成されており、チャンネル材を相対向して開口する姿勢で配置し、その端部を互いに嵌め合わせて溶接することで幹部54aと成している。そして、幹部54aには大きな荷重がかかるが、幹部54aは角形になっていてしかも上端と下端とは2枚構造になっているため、高い強度を確保できる。二股部54bはチャンネル材の構造のままになっている。図9(B)(C)(D)では54bの符号を付しているが、これは、二股部54bの延長部という意味で付しており、二股部54bと幹部54aとが同一個所に存在するという意味ではない。
【0047】
トップリンク54の素材として角形鋼管を使用することも可能である。その場合は、図9(B)に一点鎖線で示す一枚の側板54b′を幹部54aの箇所で切欠くことで、2本の二股部54bの延長部を互いに嵌め合わせることができる。図9(C)に示すように、二股部54bを角形鋼管で構成してその延長部を重ねて溶接することで幹部54aと成すことも可能である。また、図9(C)に示すように、二股部54bにコ字型チャンネル材を使用して、2本の二股部54bの延長部を一方は上下に広げ変形させて他方は狭め変形させることで幹部54aにおいて互いに嵌め合わせることも可能である。
【0048】
また、リア支柱13の上端部に第1ピン57が嵌まる第1軸受け筒59を溶接によって固着している。第1軸受け筒59はリア支柱13の左右両側に突出しており、このため第1ピン57は安定的に支持されている。なお、トップリンク54はその全長の大部分を二股部54aが占めているが、二股部54bと幹部54aとの長さの比率は任意に設定できる。また、トップリンク54及びロアリンク55は、丸パイプ製としたりC型チャンネル構造としたりするなど、各種の素材で製造できる。
【0049】
図13に明瞭に示すように、ヒッチ56は後ろ向きに開口した断面コの字状の形態を成しており、その上端部の側面に第2ピン58でトップリンク54の後端が連結されている。トップリンク54における幹部54aの後端には第2軸受け筒60が溶接されており、第2軸受け筒60に第2ピン58が挿通されている。また、ヒッチ56を構成する前面板の上端部にはトップリンク54との干渉を回避するため上向きに開口した上部凹所61が形成されている。ヒッチ56の背面にはカバー62を装着している。カバー62はねじ止めしても良いし、溶接で固着しても良い。
【0050】
例えば図13から明瞭に把握できるように、ロアリンク55は角パイプ製で前後長手の左右サイドメンバー55aを有しており、左右サイドメンバー55aは、その前端に貫通した左右長手の第3軸受け筒63と前後略中間部に配置されたセンター補強64とで一体に連結されている。従って、ロアリンク55は大まかに梯子形の形態を成している。第3軸受け筒63とセンター補強64とは請求項に記載した横長の部材に該当する。左右のサイドメンバー55aを更に補強用ステーで連結することも可能である。
【0051】
第3軸受け筒63は左右メンバー55aの左右外側に露出しており、ロアリンク55は、第3軸受け筒63を介して第3ピン65でリア支柱13に回動自在に連結されている。
【0052】
例えば図10に示すように、ロアリンク55の後端部は左右長手の第4ピン66によってヒッチ56の下部に回動自在に連結されている。図13に示すように、ヒッチ56の下部には第4軸受け筒67が溶接によって固着されており、第4軸受け筒67に第4ピン66が嵌まっている。ロアリンク55を構成する左右サイドメンバー55aの後端にも、第4ピン66が嵌まる軸受け筒を固着している。
【0053】
図10,図12,図13等に示すように、リアフレーム11の左右中間部とロアリンク55の後ろ寄り部位とが、シリンダの一例としての油圧シリンダ68で連結されている。すなわち、油圧シリンダ68は筒体68aとピストンロッド68bを有しており、例えば図13に示すように、筒体68aの前端部は、リアフレーム11に溶接されたブラケット69に左右長手の第5ピン70で連結されており、ピストンロッド68bの後端部(先端部)は左右長手の第6ピン71でロアリンク55に連結されている。ブラケット69はリアフレーム11からおおよそ下向きに突出している。このため施肥装置22をリアフレーム11で支持するにおいてブラケット69が邪魔になることはない。
【0054】
例えば図10から理解できるように、ロアリンク55における左右サイドメンバー55aの間の空間には、第6ピン71を手前側から囲う左右一対の補強部材72が配置されている。左右の補強部材72は側面視では断面コの字になっている一方、平面視では互いの間隔が後ろに行くに従って広がるように台形状の形態になっている。ピストンロッド68bの後端に板材製のフック73が溶接されており、フック73に第6ピン71を挿通している。
【0055】
油圧シリンダ68が縮み作動するとリンク装置3はその後部が上昇するように回動し、その結果、ヒッチ56は上昇する。逆に、油圧シリンダ68が伸び作動するとリンク装置3はその後部が下降するように回動し、その結果、ヒッチ56は下降する。油圧シリンダ68は伸縮しながら第5ピン70を中心にして回動する。第1ピン57と第5ピン70の軸心とは近接しているが、第1ピン57は左右に分断しているため、第1ピン57と油圧シリンダ68とが干渉することはない。
【0056】
例えば図13に明示するように、ヒッチ56の下端部は下向きに開口した下部凹所74になっており、この下部凹所74に前後開口のメイン軸受け75が溶接によって固着されている。そして、メイン軸受け75に苗植装置2のキングピン47が抜け不能に嵌め込まれている。このため、油圧シリンダ68を伸縮してヒッチ56を昇降させると苗植装置2が昇降する。
【0057】
キングピン47とメイン軸受け75とは相対回転可能に嵌まり合っている。従って、走行機体1と苗植装置2とはキングピン47の軸心回りに相対回動し得る。そして、ヒッチ56の上部は、図2や図14に示すローリング制御装置77を介して苗植装置2の補助サポート44に連結されている。ローリング制御装置77はモータで進退動するねじ式等のロッド(図示せず)を有しており、ロッドの先端がブラケット78を介してヒッチ56の上端部に固定されている。ローリング制御装置77の本体部は苗植装置2の補助サポート44にブラケット(図示せず)を介して固定されている。
【0058】
図示は省略しているが、苗植装置2は水平に対する左右傾斜角度を検知する傾斜センサーを有しており、ローリング制御装置77は傾斜センサーからの信号に基づいて作動し、これにより、苗植装置2は走行機体2の左右傾きに関係なく正面視(或いは背面視)でほぼ水平状に保たれる。
【0059】
(4).実施形態の補足・利点
既述のとおり、本実施形態では左右のサイドフレーム9とフロントフレーム10とリアフレーム11とで本体フレームが構成されているが、更に、ミッションケース17及びリアアクスルケース25の両者は、走行機体1の骨組みを構成する構造部材としても機能している。
【0060】
すなわち、既述のように、リアアクスルケース25はリアフレーム11とリア支柱13を介して連結されており、また、例えば図5に示すように、ミッションケース17とリアアクスルケース25とがジョイント部材79を介して連結されていると共に、ミッションケース17の前端はフロントブラケットの群とパワーステアリングユニット81とを介してフロントフレーム9に固定されている。
【0061】
ミッションケース17やリアアクスルケース25は多数のギア類を回転自在に支持する機能からして頑丈な構造になっており、このような頑丈な構造のミッションケース17とリアアクスルケース25とを骨組み部材(構造材)に兼用しているのであり、このため、簡素な構造でありながら高い支持強度を確保することができる。
【0062】
リアフレーム11は丸パイプを採用しているが、これは主としてサイドフレーム9とリア支柱13との取り付けの容易性(突き合わせの方向性を無くす)のためである。当然ながら、サイドフレーム9やリアフレーム11やリア支柱13は他の断面形状も採用できる。
【0063】
既述のとおりエンジン16は側面視傾斜姿勢で配置されており、例えば図4から理解できるように、エンジン16は、ジョイント部材79とリアアクスル25とで支持されている。図5に示すように、ミッションケース17の一側面には、エンジン16からの動力が入力されるHST(静油圧式無断変速装置)82が取り付けられており、ミッションケース17のうちHST82と反対側の右側面には、油圧シリンダ68やパワーステアリングユニット81を駆動するための油圧ポンプ83が取り付けられている。
【0064】
さて、トップリンク54をロアリンク55と同様に梯子形に形成すると、この場合はトップリンク54を構成するサイドメンバーの前端部がヒッチ56の左右外側に位置するため、トップリンク54とヒッチ56との相対回動によってローリング制御装置77がトップリンク54に干渉しないように配慮せねばならず、すると、ローリング制御装置77の配置について面倒な設計をせねばならない虞がある。これに対して本願発明のようにトップリンク54を平面視Y形の形態にすると、トップリンク54の後端部がヒッチ56の左右外側に露出ことはないため、ローリング制御装置77はトップリンク54の回動を阻害することなくヒッチ56の左又は右に近接して配置できるのであり、このため、ローリング制御装置77の配置構造を簡単化できる。
【0065】
また、トップリンク54における幹部54aには、当該幹部54aの左右外側に突出する長さの第2軸受け筒60が溶接されているため、トップリンク54をY型に形成したものであっても、第2ピン58によってヒッチ56とトップリンク54とをガタ付きなくスワースに回動する状態に連結できるのであり、このため苗植装置2の支持機能が阻害されることはない。
【0066】
(5).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。適用対象は乗用型田植機には限らず、野菜の苗移植やトラクタなどリンク装置を有する各種の乗用型農作業機に後半に用できる。また、昇降用シリンダとしては電動シリンダなどの油圧以外のものも使用できる。
【0067】
Y型のリンクを構成する幹部の長さはごく短くてもよいのであり(実施形態を例に採ると、ヒッチに入り込んでいる部分のみを幹部と成しても良いのである。)、従って、トップリンク又はロアリンク若しくは両方が殆どV型の外観を呈していても良い。また、二股部の左右の先端に前後方向に真っ直ぐ延びる平行部を形成しても良い。
【産業上の理由可能性】
【0068】
以上の説明のとおり、本願発明は田植機等の乗用型農作業機に具体化して当該作業機の有用性を向上できる。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0069】
1 走行機体
2 植付け装置の一例としての苗植装置
3 リンク装置
4 前輪
5 後輪
6 座席
7 操縦ハンドル
9 サイドフレーム
10 フロントフレーム
11 リアフレーム
13 リア支柱
41 苗植装置を構成するロアサポート
42 苗植装置を構成するアッパーサポート
47 キングピン
54 トップリンク
54a 幹部
54b 二股部
55 ロアリンク
56 ヒッチ
58 トップリンクとヒッチとを連結する第2ピン
60 第2軸受け筒
68 油圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後輪を有して自走し得る走行機体と、前記走行機体の後部にリンク装置を介して昇降可能に取り付けられた作業装置とを有しており、前記走行機体とリンク装置とをシリンダで相対回動自在に連結することにより、前記シリンダが伸縮するとリンク装置が回動して作業装置が昇降するようになっている、という構成であって、
前記リンク装置は上下に配置されたトップリンクとロアリンクとを有しており、前記トップリンクとロアリンクとのうちいずれか一方又は両方を、前後長手の1本の幹部とこれから分岐したV形の二股部とを有する平面視でY形に形成している、
乗用型農作業機。
【請求項2】
前記トップリンクが平面視Y形に形成されており、前記トップリンクは、前記二股部が走行機体に向いて幹部が作業装置に向く姿勢で配置されている一方、前記ロアリンクは、前後長手で略平行に延びる左右メンバーが横長の部材で連結された梯子形の形態を成している、
請求項1に記載した乗用型農作業機。
【請求項3】
前記リンク装置は、前記トップリンク及びロアリンクの後端部が連結された上下長手のヒッチを有していてこのヒッチに作業装置が連結されており、かつ、前記ヒッチは左右の側板を有する略溝型又は略筒型の形態を成しており、前記トップリンクの後端部はヒッチの内部に入り込んでおり、この入り込んだ部位がヒッチに連結されている、
請求項2に記載した乗用型農作業機。
【請求項4】
前記トップリンクの後端部には左右長手の軸受け筒が溶接されており、前記ヒッチの左右側板に貫通したピンを前記軸受け筒に挿通することによってトップリンクとヒッチとが相対回動可能に連結されている、
請求項3に記載した乗用型農作業機。
【請求項5】
前記作業装置は左右ローリング可能な状態で前記ヒッチに連結されており、かつ、前記ヒッチの上端部には、前記走行機体と作業装置との相対的な左右回動を制御するローリング制御装置が取り付けられている、
請求項3又は4に記載した乗用型農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−213652(P2010−213652A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66159(P2009−66159)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】