説明

乳化された硼酸含有の多相潤滑剤組成物

【課題】潤滑剤に種々の添加剤を加えて、潤滑剤の性能を改良することが試みられたが、満足なものになっていない。添加剤として硼酸を用いることも試みられたが、硼酸は従来の潤滑剤に不溶であるために、安定な潤滑剤にはならなかった。
【解決手段】硼酸を溶解する液体を用いて硼酸溶液を作り、界面活性剤の助けにより硼酸溶液を潤滑剤中に乳化させてエマルジョンとして用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学技術に関するものである。とくに、この発明は、硼酸含有のエンジン油、作動液体、伝動液体、切削油および合成油のような潤滑剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤は機械部品を維持し、機械の運転寿命を延ばすのに重要な働きをする。車輌エンジンやその他の機械は、効率と能力の増大に関して一層過酷で困難な条件下に駆動させるので、潤滑剤の特性を最適にすることは重要な目的として残っている。多くの添加剤が開発されてきたが、潤滑剤に対して現在出されている多くの要求に適応するためには、まだしなければならない多くの問題が残っている。
【0003】
硼酸は環境に対して安全で、安価であって、滑り合う金属表面の潤滑性と耐摩耗性とを向上させるのに異常な性能を持っている。硼酸は結晶性化合物であって、石油を基材とする大抵の潤滑剤と合成潤滑剤とに不溶である。硼酸を含んだ安定な潤滑剤組成物を作ろうとする種々の試みがなされてきた。例えばErdemirの下記特許文献1は、混合物および/または懸濁物中に硼酸粒子を含んでいる潤滑剤組成物を開示している。しかし、最初に硼酸の粒子を潤滑剤に加え、その後に安定な製品を作ることは、困難であるというのがこの組成物の欠点である。
【特許文献1】米国特許第5,431,830号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、エンジンおよびその他の機械に良好な効率と性能とをもたらすような、硼酸含有の安定な潤滑剤組成物に対する要求はまだ残っている。さらに容易に製造できるような硼酸含有の安定な潤滑剤組成物に対する要求はまだ残っている。この発明は、これらの要求を満たし、さらに関連する利点を与えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
さて、この発明により、エンジンおよびその他の機械の効率と性能を増大させるような硼酸含有の安定な潤滑剤組成物が見出された。その多相潤滑剤組成物は、(a)潤滑剤からなる第1相と、(b)硼酸と、硼酸の溶剤であるが第1相中に混和しない液体、例えば有機液体とを含んだ第2相と、(c)界面活性剤とを含んだエマルジョンで構成されている。上記液体は、有機液体、例えば低級アルキルポリオール、好ましくはグリセリン、酢酸エチル、アセトン、およびアルコール、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、および3−メチル−1−ブタノールであってもよいが、または無機液体、例えば氷酢酸または水であってもよく、グリセリンが好ましい。
【0006】
代表的な潤滑剤は、エンジン油、作動液体、伝動液体、切削油および合成油である。
或る具体例では、潤滑剤組成物の重量を基準として、第1相の濃度は約30から約70重量%までで、好ましくは約45から約55重量%までであり、第2相の濃度は約30から約70重量%までで、好ましくは約45から約55重量%までである。また、或る具体例では、第2相の重量を基準にして、第2相は約10から約25重量%までの硼酸と、約90から約75重量%の有機液体を含んでいる。
【0007】
この潤滑剤組成物中の最終硼酸濃度は、潤滑剤組成物の重量を基準として、約10ppmから約50,000ppmまでの範囲内にあって、さらに好ましくは約30ppmから約5,000ppmまでの範囲内にあるのが普通である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の原理と効果とを具体的に説明する目的で、この発明の特殊な具体例をかなり詳しく以下に説明する。しかし、種々の変更を加えることができるので、この発明の範囲は以下に説明する模範的な具体例に限定されない。
【0009】
この発明による多相潤滑剤組成物は、(a)潤滑剤の第1相と、(b)硼酸と、硼酸の溶剤であるが第1相中に混和しない液体、例えばグリセリンとで構成される第2相と、(c)界面活性剤とを含むエマルジョンで構成されている。
【0010】
代表的な潤滑剤は、低粘度の油、例えばスピンドル油、およびタービン潤滑油、中粘度の油、例えばエンジン油、および高粘度の油、例えばギヤ油を含んでいる。有用な油は、炭化水素を基材とする油、例えば石油を基材とする油、合成油および鉱油である。第1相として有用な他の潤滑剤は作動液体、伝動液体および切削油だけでなく、硼酸と反応しないその他の適当な潤滑剤およびそれらの混合物を含んでいる。
【0011】
第2相を構成するのに有用な硼酸は、100ミクロン以下、好ましくは65ミクロン以下の大きさの粒子であるのが普通である。さらに好ましい具体例では、硼酸は約0.1から約2.5ミクロンまでの範囲内の大きさの粒子であり、さらにより好ましいのは、約0.5から約1ミクロンまでの範囲内の大きさの粒子である。好ましい硼酸粒子は、市販されている硼酸を低温ジェットミルで粉砕することによって作るのが有利である。
【0012】
硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない適当な液体は、潤滑剤およびその使用と両立するものでなければならない。その液体は、有機のものであっても無機のものであってもよい。代表的な有機液体は、低級アルキルポリオールを含んでいる。第2相を構成するのに有用な低級アルキルポリオールは、3個から7個の炭素原子と少なくとも3個のヒドロキシル基を含んでいるのが普通である。好ましい低級アルキルポリオールはグリセリンである。その他の適当な有機液体は、酢酸エチル、アセトンおよびアルコール例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−メチル−1−プロパノールおよび3−メチル−1−ブタノールである。適当な無機液体は氷酢酸または水である。
【0013】
第2相中の硼酸の量は、液体への硼酸の溶解度によって異なる。一般には、充分な硼酸を添加して第2相を飽和させることが望ましい。第2相は、第2相の重量を基準として、約10から約25重量%までの硼酸と、約90から約75重量%までの有機液体を含んでいるのが普通である。
【0014】
この発明の潤滑剤組成物に適した界面活性剤は、トリスチリルフェノール(tristyrylphenol)エトキシレート、例えばソプロフォール(Soprophor)TS−10(Rhone Poulenc S. A.)、またはBSU(Rhodia Geronazzo Spa)、EO/PO/EOブロックコポリマー、例えばプルロニック(Pluronic)F−108、プルロニックF−38、プルロニックP−105(BASF Wyandotte Corp.)、および/またはスルホン化ナフタレンスルホン酸−ホルムアルデヒド縮合生成物、例えばモルウェット(Morwet)D−425(Witco Chem. Corp.)、またはオロタン(Orotan)SN(Rohm & Haas, France S. A.)、リグノスルホネート類(lignosulfonates)、PO/EOブタノール共重合体、例えばアトロクス(Atlox)G−5000、ポリヒドロキシステアリン酸とポリアルキレングリコールとのブロック共重合体、例えばアトロクス4912または4914(Uniqema)、または一部加水分解されたか、または完全に加水分解されたポリ酢酸ビニル、例えばモウイオール(Mowiol)18−88またはモウイオール4−88(Hoechst AG)である。
【0015】
潤滑剤中に比較的高い濃度の第2相を含む潤滑剤組成物を初めに作るのが、最も効率のよいことが多い。そのような濃縮物中の潤滑剤の量は、濃縮物の重量を基準として、約30から約70重量%までであるのが普通であり、約45から約55重量%であることが好ましい。そのような濃縮物中の第2相の量は、濃縮物の重量を基準として、一般に約30から約70重量%まで、好ましくは約45から約55重量%までである。そのような濃縮物は、第1相と第2相とを安定化させるに充分な量の界面活性剤を含み、一般に濃縮物の重量を基準として、約0.5から約1.5重量%までの界面活性剤を含んでいる。
【0016】
濃縮物はその後追加の潤滑剤で薄められて所望の最終濃度となる。出来上がった潤滑剤組成物中の硼酸の濃度は、特定の潤滑剤によって異なる。一般に、好ましい範囲は、組成物の全重量を基準として約0.5から約50重量%までであり、さらに好ましくは約1から約15重量%までであり、グリースは約1から約50重量%までであり、さらに好ましくは約1から約20重量%までである。
【0017】
また、この発明の潤滑剤組成物は、1種以上の従来の潤滑剤用添加剤を含むことができる。例えば、この潤滑剤組成物は高温オーブンでの処方またはアルミニウムの押出操作では、選ばれた潤滑剤の添加剤と共に使用することができる。適当な添加剤は酸化防止剤、金属不働態化剤、増稠剤、耐摩耗剤および極圧剤のみならず、粘度指数改良剤、分散剤、抗乳化剤(anti-emulsifying agent)、着色安定剤、洗剤、さび止め剤および流動点降下剤を含んでいるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
代表的な酸化防止剤は、硫化フェネート、フォスフォスルフライズドテルペン、硫化エステル類(sulfurized esters)、芳香族アミン、例えばフェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニル−P−フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、P,P´−ジオクチルジフェニルアミン、N,N´−ジイソプロピル−P−フェニレンジアミンおよびN,N´−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、およびフェノールを基材とする化合物、例えば2,6−ジ−tert−ジブチルフェノールおよびヒンダードフェノール、例えばヒンダードエステル−置換フェノールを含んでいるが、それらに限定されるものではない。
【0019】
代表的な金属不働態化剤は、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、2−アルキルジチオベンズイミダゾール、2−アルキルジチオベンゾチアゾール、2−(N,N−ジアルキルジチオカルバモイル)ベンゾチアゾール、2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、および2,5−ビス(N,N−ジアルキルジチオカルバモイル)−1,3,4−チアジアゾールを含んでいるが、それらに限定されるものではない。
【0020】
前記の増稠剤は、ネオポリオールエステルと協同して半流体または固体構造を作る材料ならば、どのような材料でも含むことができる。代表的な増稠剤はアルミニウム、リチウム、バリウム、ナトリウム、カルシウムの石鹸類、それらの混合物、シリカ、クレイ、テフロン(登録商標)の弗素含有重合体、ポリエチレン、およびそれらの混合物を含んでいるが、それらに限定されるものではない。
【0021】
代表的な耐摩耗剤は、トリクレジルフォスフェート、ジチオフォスフェート、ステアリン酸金属塩、酸化亜鉛、硼砂、モリブデン酸アンモニウム、炭酸カルシウム、およびそれらの混合物を含んでいるが、それらに限定されるものではない。
【0022】
代表的な極圧剤は、黒鉛、トリフェニルフォスフォロチオネート、塩素化パラフィン、ジチオカーボネート、脂肪油、脂肪酸または脂肪酸エステルの燐酸塩付加物、硫化脂肪油、脂肪酸または脂肪酸エステル、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、燐酸エステル、フォスフォラス−硫黄(phosphorous-sulfur)含有化合物、およびそれらの混合物を含んでいるが、それらに限定されるものではない。この添加剤は、その正規の働きを与えるような量が使用され、普通は組成物の全重量を基準として約0.01と約10.0重量%の間の範囲で使用される。
【0023】
この発明の潤滑剤組成物は、硼酸、有機液体、および界面活性剤を強力剪断混合器に入れて、均一な混合物が得られるまで混合することによって作られる。必要により、このとき、他の従来の潤滑剤用添加剤を加えることができる。一般に、これらの成分は約150°Fの温度で混合される。しかし、混合はまたさらに高い温度でも低い温度でも行うことができ、高い温度は低い温度よりも好ましいが、その理由は均一な溶液を作り易いからである。この混合物は、その後徐々に室温まで冷却される。
【0024】
この混合物に、濃縮物を作るための量か、または潤滑剤組成物を作るための量かの、何れかの量の潤滑剤が徐々に添加される。この添加の間および好ましくはその後暫らくの間、多相組成物は、強力剪断混合器を使用して、安定なエマルジョンが生成されるまで混合される。
【0025】
この濃縮されたおよび最終の潤滑剤組成物は、不安定にする可能性のある種々の状態に置かれている時でも、安定な状態に留まる。例えば硼酸は約−30°Fから150°Fまでの範囲の温度でエマルジョン内にとどまり、エマルジョンは1年から2年の間安定に貯蔵できる。さらに、最終の潤滑剤組成物は、すぐれた潤滑性を発揮し、機械部品の摩耗を減少させ、一方では腐食を防ぐ。
【0026】
以上、この発明の種々の具体例を説明してきたが、これらの具体例は例示の積りで提供したものであって、限定する積りではないことは云うまでもない。そこでは、この発明の精神と範囲から外れることなく、添付のクレームで定義したところに従って、形式と細部とにおいて種々の変更を行うことができることは当業者の理解するところである。従って、この発明の幅と範囲とは、上に述べた模範的な具体例の何れによっても限定されるべきでなく、以下のクレームとその均等物とに従ってのみ限界を定められるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)潤滑剤からなる第1相と、
(b)(i)硼酸と、
(ii)硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない液体とからなる第2相と、
(c)界面活性剤
とを含むエマルジョンからなる多相潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記の液体が有機液体である、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記の有機液体、すなわち硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない有機液体が、低級アルキルポリオール、酢酸エチル、アセトン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、または3−メチル−1−ブタノールである、請求項2に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記の有機液体、すなわち硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない有機液体がグリセリンである、請求項2に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記の液体が無機液体である、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項6】
硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない前記の無機液体が氷酢酸または水である、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項7】
前記の潤滑剤組成物が、第2相の重量を基準として、約10から約25重量%の硼酸と、約90から約75重量%の液体とを含んでいる、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項8】
前記の潤滑剤が石油を基材とする油、合成油、鉱油、シリコンオイル、作動液体、または伝動液体である、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項9】
前記の有機液体、すなわち硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない液体が、低級アルキルポリオールである、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項10】
前記の有機液体、すなわち硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない液体がグリセリンである、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項11】
前記の潤滑剤組成物の重量を基準として、前記第1相の濃度が約30から約70重量%であり、前記第2相の濃度が約30から約70重量%である、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項12】
前記の潤滑剤組成物の重量を基準として、前記第1相の濃度が約45から約55重量%であり、前記第2相の濃度が約45から約55重量%である、請求項1に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項13】
(a)潤滑剤からなる第1相と、
(b)(i)硼酸と、
(ii)グリセリンとからなる第2相と、
(c)界面活性剤
とを含むエマルジョンからなる多相潤滑剤組成物。
【請求項14】
前記の潤滑剤組成物が、第2相の重量を基準として、約10から約25重量%の硼酸と、約90から約75重量%のグリセリンを含んでいる、請求項13に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項15】
前記の潤滑剤が石油を基材とする油、合成油、鉱油、シリコンオイル、作動液体、または伝動液体である、請求項13に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項16】
前記の潤滑剤組成物の重量を基準として、前記第1相の濃度が約30から約70重量%であり、前記第2相の濃度が約30から約70重量%である、請求項13に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項17】
前記の潤滑剤組成物の重量を基準として、前記第1相の濃度が約45から約55重量%であり、前記第2相の濃度が約45から約55重量%である、請求項13に記載の多相潤滑剤組成物。
【請求項18】
(a)ディーゼル潤滑剤からなる第1相と、
(b)(i)硼酸と、
(ii)硼酸の溶剤であるが、第1相中に混和しない液体とからなる第2相と、
(c)界面活性剤
とを含むエマルジョンからなる多相潤滑剤組成物。

【公表番号】特表2009−504840(P2009−504840A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526002(P2008−526002)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2006/024344
【国際公開番号】WO2007/021367
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(502263477)アドバンスト・ルブリケーション・テクノロジー・インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】