説明

乳化剤、硬化性組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルム

【解決課題】液泡と分散媒を含有するSPD用硬化性組成物の調製時において、より短時間で液泡を所望の分散径にまで乳化することができ、安定性に優れた硬化性組成物が得られる乳化剤を提供する。また、当該乳化剤を含有させることで、電界印加時の光透明性のムラや耐熱性低下が小さいSPDが得られるフィルムを提供する。
【解決手段】直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との共重合体(X)からなる懸濁粒子デバイス用乳化剤、及び当該乳化剤、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光弁(Light Valve)のうち、電圧により配向を変える粒子を懸濁した組成物を利用したデバイスを懸濁粒子デバイス(Suspended Particle Device、以下、SPDという場合がある)という。本発明は、この懸濁粒子デバイスに用いられる、乳化剤、乳化組成物及び懸濁粒子デバイス用フィルムに関する。
【0002】
さらに詳しくは、懸濁粒子デバイスにおいて、偏光性粒子が液状樹脂に懸濁する液泡を、液泡に対して相溶し難い硬化性分散媒中に安定的に分散させることを可能とする懸濁粒子デバイス用乳化剤、該懸濁粒子デバイス用乳化剤を用いて偏光性粒子が液状樹脂に懸濁する液泡を、硬化性分散媒に分散させてなる硬化性乳化組成物、及び該乳化組成物を硬化してなる懸濁粒子デバイス用フィルムに関する。
【背景技術】
【0003】
SPDは、電界印加の有無により光の透過率が変化することによって、全体入射光量の調整が可能な光弁である。つまりSPDは光の遮蔽、透過を制御する働きを有する。SPDのマトリクス中において、無秩序な懸濁状態となっていた偏光性粒子は、電圧を加えると電場が形成され、粒子自体の配向性によって、配向する。電界印加下で配向した偏光性粒子を有する液泡は光を透過する。ここで、電圧をかけない状態に戻すと、配向していた偏光性粒子は再度無秩序に分散し、液泡は光透過性を失う。例えば透明導電性基板を通じて偏光性粒子に電界印加することによって、光の透過/遮断を制御するデバイスとすることができる。このような電圧のON/OFFによって、光の透過、遮断を行う材料は次世代調光材料として期待されている。
【0004】
SPDのマトリックスは、例えば、第一に光の透過、遮断を可能とする、アルカリ土類金属過沃化物と含窒素複素環式化合物との分子間化合物からなる偏光性粒子及びラウリル(メタ)アクリレートのような長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを主成分として重合した液状で透明な(メタ)アクリレート樹脂とからなる液泡と、第二に、液泡に対して相溶し難い、シリコーン樹脂からなる分散媒とから構成されている(例えば特許文献1)。
【0005】
このようなSPDを所望の形状で得るために、前記した第二の成分であるシリコーン樹脂として、必要な形状に保っての硬化が可能となるよう、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂が用いられている。
【0006】
加工成形前に、流動性を有し液状である(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂を硬化することで、液泡が点在する状態で内包されたマトリックスを形成とすることができる。この硬化により、分散媒であるシリコーン樹脂だけは固体となり流動性が無くなるが、該液泡は流動性があるため、電界印加によって液泡中の偏光性粒子は配向することができる。このようにして光透過/遮断が可能な調光材料が得られる。
【0007】
SPDにおいて良好な光透過/遮断制御を行なおうとする場合、液泡の平均径を1〜10μmとする必要があるし、より短時間で液泡を分散媒に乳化分散できること、分散後は長時間に亘って安定であること等が生産性の観点からも好ましい。
【0008】
特許文献2には、液泡と分散媒を含有するSPD用硬化性組成物の調製時における、液泡の分散媒中での分散性を改良する一つの手段として、乳化剤を併用することが開示されており、該乳化剤として、ラウリル(メタ)アクリレート〔=ドデシル(メタ)アクリレート〕とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを、両末端に官能基を有する二官能ポリシロキサンと共に共重合させたシリコーン樹脂型乳化剤が記載されている。
【0009】
しかしながら、該乳化剤は、乳化力も未だ不十分であるため、硬化性組成物を得るためには、長時間の乳化時間が必要であった。より短い時間では、液泡の平均径が1〜10μmとならず、また分散後も経時で会合しやすく、分離してゲル化するなど安定性に欠けるという不具合もあった。また、このような硬化性組成物を硬化することで得られた成形フィルムは、前記した分散状態が不十分であることに起因して、光透過性にもムラが出るという問題があり、その結果、高温環境下におかれたSPDは表示コントラストの低下が大きくなるという問題もあった。
【0010】
このように、懸濁粒子デバイスのマトリックスを形成させるための硬化性組成物の用途に利用できる乳化剤には、硬化前後を問わず分散媒に対して液泡を乳化する高い能力と、得られたSPDにおいて電界印加時の光透明性のムラや耐熱性低下が小さいという能力とを兼備できることが求められる。
【0011】
【特許文献1】特開2005−300962公報
【特許文献2】WO2007/008354A2公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、液泡と分散媒を含有するSPD用硬化性組成物の調製時において、より短時間で液泡を所望の分散径にまで乳化することができ、また分散後も経時で会合し難く、分離やゲル化も起こり難い、安定性に優れた硬化性組成物が得られる乳化剤を提供することを課題とする。
また本発明は、このような乳化剤を含有させることで、電界印加時の光透明性のムラや耐熱性低下が小さいSPDが得られるフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記した課題に鑑みて、乳化剤として用いる重合体の化学構造につき鋭意検討した結果、従来のシリコーン樹脂型乳化剤を調製するために用いられていた、直鎖状オルガノポリシロキサンの両末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の二官能オルガノポリシロキサンマクロモノマーは、乳化剤を調製する重合の際に架橋などに基づく不具合が起こり、それを用いて液泡を分散媒に分散させる結果、より長時間の分散時間を要することになることを知見した。
そして、この二官能オルガノポリシロキサンマクロモノマーを、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマーに置換して同様な共重合体を得て、これを乳化剤として用いることで、上記した課題が一挙に解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との共重合体(X)からなる懸濁粒子デバイス用乳化剤。
(2)上記の懸濁粒子デバイス用乳化剤、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物。
(3)上記の懸濁粒子デバイス用乳化剤を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の懸濁粒子デバイス用乳化剤は、共重合体を構成するマクロモノマーが単官能であるため、二官能以上のマクロモノマーを用いて得た共重合体からなる乳化剤に比べて、乳化力がより高く、液泡を分散媒に安定分散させるのに要する乳化時間を大幅に削減することができるという格別顕著な効果を奏する。
このような乳化剤を含有してなる本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、分散後に経時で会合し難く、分離したりゲル化したりすることもなく安定性に優れるという格別顕著な効果を奏する。
また、このような乳化剤を用いた本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、SPDとした時、電界印加時の光透明性のムラが小さく、しかも耐熱性低下が小さいという格別顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明における乳化剤は、直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との共重合体(X)からなる。
【0018】
この共重合体(X)は、直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)とを公知慣用の方法で共重合させることにより得ることができる。
【0019】
直鎖状オルガノポリシロキサンとしては、シロキサンの繰り返し単位中の珪素原子上の置換基の種類や直鎖状分子の末端基の種類により各種のオルガノポリシロキサンが知られている。オルガノポリシロキサンの繰り返し単位における珪素原子上の二つの置換基は、水素原子、メチル基、フェニル基からなる群から選ばれ、この様なオルガノポリシロキサンとしては、例えばポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリ(ジメチルジフェニル)シロキサンなどが知られている。共重合体(X)の(メタ)アクリロイル基を有しない側の末端基は、水酸基であっても良いが、後記する液泡と相溶せず、液泡に対して放射状に配位するためには、オルガノポリシロキサンの直鎖構造の末端は、メチル基、ブチル基の様な炭素原子数1〜6の直鎖また分岐アルキル基か、フェニル基のいずれかの非反応性基であることが好ましい。
【0020】
単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)のオルガノポリシロキサンの繰り返し単位は、10以上あれば良く、15〜300であれば合成後の乳化剤粘度の点からより好ましく、なかでも20〜100だと、分散媒及び液泡との親和性のバランスが良好で特に好ましい。
【0021】
珪素原子上の置換基が二つともメチル基で、オルガノポリシロキサンの繰り返し単位が20〜70であり、直鎖状オルガノポリシロキサン単位の(メタ)アクリロイル基を有しない側の末端基が、メチル基かブチル基であるオルガノポリシロキサンマクロモノマーは、SPDとした際に、分散媒及び液泡との親和性のバランスが良好で屈折率への影響も少ないため好ましい。この様なポリジメチルシロキサンの構造は、分散媒に対する親和性を高く維持したまま、液泡に対する親和性を低く抑えられる点で特に好ましい。
【0022】
本発明で用いる単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)は、この様な非反応性基の一つだけが、直接(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されているか、またはスペーサーとなるアルキレン結合を介して(メタ)アクリロイルオキシ基にて置換された構造である。尚、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイルとメタクリロイルの総称である。
【0023】
この様な単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)としては、例えば直鎖状オルガノポリシロキサン単位の両末端の珪素原子のそれぞれに直接結合するアルキル基又はフェニル基のうち、一方の末端(片末端)の一つのアルキル基又はフェニル基が、(メタ)アクリロイルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシアルキル基で置換された単官能オルガノポリシロキサンからなるマクロモノマーが挙げられる。
【0024】
この際の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基としては、例えば(メタ)アクリロイルオキシメチル基、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基等が挙げられる。(メタ)アクリロイルオキシアルキル基においては、これらアルキレン結合が、上記したスペーサーの役割を果たす。
【0025】
この様な単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)としては、例えば以下の様なものが挙げられる。
【0026】
式1
【0027】
【化1】

【0028】
上記式中、nは20〜100、Rは炭素原子数1〜6の直鎖また分岐アルキル基である。
【0029】
この単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)は、以下に述べる方法によって製造することができる。
1)アニオン重合法を利用した製造方法
リチウムトリアルキルシラノレート等の重合開始剤を使用し、環状トリシロキサンまたは環状テトラシロキサン等を重合してシリコーンリビングポリマーを得、これとγ−メタクリロイルオキシプロピルモノクロロジメチルシラン等を反応させる製造方法。
2)縮合反応を利用した製造方法
末端にシラノール基を有するシリコーンと、γ−メタクリロイルオキシモノメトキシジヒドロシラン等との縮合反応によるマクロモノマーの製造方法。
【0030】
本発明の乳化剤に用いる単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)は、標準ポリスチレンによって換算された重量平均分子量で500〜200,000であると(メタ)アクリロイル基を有する媒質の分散物を適度な距離に分散することができ、2,000〜10,000であるとシリコーン鎖同士の立体的反発力を有効に利用でき、乳化効率が高められるため、好ましい。
【0031】
なかでも、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)として、重量平均分子量を2,000〜10,000であるものを用い、共重合体(X)1分子を構成する単量体総量を100モル%としたとき、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)が2〜4モルとなるようにすると、後記する、分散媒である(メタ)アクリロリル基を含有するシリコーン樹脂により高い親和性を有する基と、液泡を構成する液状(メタ)アクリレート樹脂により高い親和性を有する基とが、分極した状態に配向するため、乳化剤のみで会合しにくくなり、液泡と分散媒界面において、安定した配向状態を維持することができるので好ましい。
【0032】
本発明で用いることが出来る単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)としては、例えば、チッソ(株)製MCR−M11、MCR−M17、信越化学工業(株)製LSF−230、同LSF−240等が挙げられる。
【0033】
本発明における共重合体(X)は、上記した単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との共重合体である。(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)としては、例えば炭素原子数6〜24のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。この様なエステルとしては、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを用いることが、後記する液状(メタ)アクレート樹脂が炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体やそれとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体である場合における当該樹脂と(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂との親和性を高め、より高い安定な懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を調製する上で好ましい。
【0034】
本発明おける共重合体(X)において、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との共重合割合は特に制限されるものではないが、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との合計を100質量%としたとき、両者仕込み時の質量比〔(A):(B)〕が、20:80〜80:20中でも25:75〜50:50で重合を行なった共重合体であることが、乳化剤同士の会合を起こしにくく、共重合体(X)の液胞への親和性と、分散媒への親和性のバランスが良いので好ましい。
【0035】
本発明おける共重合体(X)は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であっても良い。また共重合体(X)は、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との二元共重合体であっても、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)と、エチレン性不飽和二重結合を含有するその他の単官能単量体(C)との三元以上の多元共重合体であっても良い。
【0036】
この様なエチレン性不飽和二重結合を含有するその他の単官能単量体(C)としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートの様な低級アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの様なヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、共重合体(X)の液胞への親和性に優れる点でヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを併用すること好ましい。
【0037】
本発明における共重合体(X)は、乳化剤として、SPDのマトリックスを形成する(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂(分散媒に相当する)と液状(メタ)アクリレート樹脂(液泡)との親和性を高めるものであり、両者がいずれも疎水性が強い樹脂である場合には、この乳化剤を親水性にすると、両者に対する乳化作用が低減するため好ましくない。従って、この様な場合においては、共重合体(X)を形成する際に、コモノマーとして、中和によって親水性が高くなる様な(メタ)アクリル酸の様な極性単量体を併用しないことが好ましい。
【0038】
共重合体(X)は、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)とを公知慣用の製造方法にて共重合することで容易に得ることが出来る。この際の製造方法としては、例えば溶液重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。
【0039】
勿論、上記した通常のラジカル重合のほかに、ATRP(Atom Transfer Radical Polymerization)重合やRAFT(Reversible Addition Fragmentatio chain Transfer)重合等を用いてもよい。
【0040】
この際の重合開始剤としては、例えば有機アゾ化合物系重合開始剤や有機過酸化物系重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えばt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジt−ブチルパーオキサイド等を使用することが出来る。
【0041】
重合開始剤の使用量は、重合性成分の合計量に対し0.01〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。共重合の際の温度としては、50〜150℃が好ましく、さらに好ましくは温度100〜140℃であり、重合時間は通常〜25時間が好ましい。共重合体(X)の分子量を調整するに当たっては公知慣用のメルカプト系連鎖移動剤を併用することが出来る。連鎖移動剤としては、例えばn−オクチルメルカプトプロピオネートや2 − エチルヘキシルメルカプトプロピオネート等を使用することが出来る。
【0042】
共重合体(X)を溶液重合法で調製する際に使用する有機溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドおよびヘキサメチルホスホアミド等を挙げることができる。中でもケトン系溶剤、酢酸エステル系溶剤または芳香族炭化水素系溶剤を使用すると、それ以外の有機溶剤を使用する場合に比べて、生成する共重合体の良溶媒となり易くなるため、未重合シリコーンの量がより少なくなるので好ましい。
【0043】
こうして得られた共重合体(X)が、分散媒と液泡とを取り持つ乳化剤としてより有効に機能するためには、重量平均平均分子量3,000〜40,000、中でも乳化性能と粘度のバランスの観点から4,000〜30,000、特に5,000〜18,000であることが好ましい。この重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法により測定することができる。
【0044】
本発明の乳化剤における共重合体(X)の調製では、重合性のエチレン性不飽和二重結合を二つ以上含有する多官能のオルガノポリシロキサンマクロモノマーを用いるのではなく、重合性のエチレン性不飽和二重結合を一つだけしか含有しない単官能のオルガノポリシロキサンマクロモノマーを用いるため、共重合体の重合は直線的に直鎖状に進行し、架橋を生じない。このように、架橋を生じなくなったことにより得られた共重合体は、乳化剤としての高い安定性が得られる。
【0045】
従来では、重合性のエチレン性不飽和二重結合を二つ以上含有する多官能のオルガノポリシロキサンマクロモノマーを用いていたが、このマクロモノマーは、両末端に官能基を有するため、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)やエチレン性不飽和二重結合を含有するその他の単官能単量体(C)との共重合体を得ようとして単なる組成比や反応温度等を選択しても、この増粘や層分離の問題解決は容易ではなかった。
【0046】
重合性のエチレン性不飽和二重結合を二つ以上含有する多官能のオルガノポリシロキサンマクロモノマーを用いた場合には、それら複数の分子の分子間反応が進行し過ぎるために、反応の過程で架橋を生じて共重合体自体が急激に増粘ゲル化したり、逆に増粘ゲル化を防ごうとしてマクロモノマーを減量し、反応時間を短くすると相分離を生じやすい。増粘ゲル化と相分離はトレードオフの関係にあり、増粘ゲル化を起こさず、かつ層分離も起こさないような反応条件は、現状では見出されていない。
【0047】
本発明では、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)とを必須単量体とした共重合体(X)とすることによって、それ自体で、好適な粘度や透明性を有する乳化剤を得ることが出来ることを見い出した。
【0048】
特に、共重合体(X)が、側鎖に、ドデシル基、ヒドロキシエチル基及びオルガノポリシロキサンの原子団をそれぞれ独立に有する直鎖共重合体は、液泡及び分散媒との親和性のバランスが好適で、乳化物の合一も起こりにくくなるため、高い乳化力が発揮され好適である。
【0049】
次に本発明における懸濁粒子デバイス用硬化性組成物について説明する。本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、前記した共重合体(X)からなる懸濁粒子デバイス用乳化剤、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有するものである。
【0050】
SPDを作製する際の分散媒としては、液泡の分散安定性、フィルム化した後の液泡との相分離状態の安定性、透明性、液泡成分との屈折率差、硬化性、ないしは硬化後の柔軟性の点から、従来シリコーン樹脂が用いられている。特に、分子中に(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、例えば光重合開始剤の存在下で紫外線を照射すると硬化する性質を有しているので、硬化成形可能な分散媒となる。
【0051】
この様な(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、SPDマトリックスにおいて後記する液泡の分散媒を構成するものであり、例えば前記した直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)が挙げられる。(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、それ自体では流動性があるが(メタ)アクリロイル基の重合による硬化で流動性のないSPDマトリックスを形成する。共重合体(X)が乳化剤として作用するのは、硬化前の(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂である。ここで用いる(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の直鎖状分子の末端基は、炭素原子数1〜6の直鎖また分岐アルキル基、フェニル基ばかりでなく水酸基であっても良い。(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂としては、SPDの分散媒として適切な屈折率に容易に調整できる点において、ジメチルシロキサン構造と、ジフェニルシロキサン構造とを同時に含有しているオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0052】
(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、重量平均分子量30,000〜100,000であり、それより低分子量である乳化剤としての共重合体(X)とは明確に区別出来る。
【0053】
一方、液胞は、偏光性粒子及び液状(メタ)アクリレート樹脂とからなる。
【0054】
偏光性粒子としては、公知慣用のもの、例えばアルカリ土類金属過沃化物と含窒素複素環式化合物(粒子の前駆体)との分子間化合物(ポリ沃化物の針状小結晶粒子)が挙げられる。より具体的には、沃素と沃化カルシウムからなるポリ沃化物とピラジンジカルボン酸とから構成された分子間化合物があり、一般式 CaI(C・ZHO(x:3〜7、y:1〜2、Z:1〜3)で表される。この様な分子間化合物は、沃素と、アルカリ土類金属沃化物と、含窒素複素環式化合物とを溶媒中で反応させることにより得られる。
【0055】
液状(メタ)アクリレート樹脂は、上記した(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂と出来るだけ同一の屈折率となる様にすることで、両者間の屈折率差を無くし、透明性を高めることが出来る。液状(メタ)アクリレート樹脂としては、例えばアルキル(メタ)アクリレート単独重合体やアルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体からなる(メタ)アクリレート樹脂等を使用することが出来る。尚、本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0056】
この液状(メタ)アクリレート樹脂を調製する際のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。乳化剤として用いる共重合体(X)が、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルを用いた共重合体である場合には、この液状(メタ)アクリレート樹脂も、同様に、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体やそれとヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体とすることが、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂との親和性を高め、より高い安定な懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を調製する上で好ましい。
【0057】
液状(メタ)アクリレート樹脂が、側鎖に、炭素原子数8〜18という様な長鎖アルキル基を含有する重合体である場合には、それによって樹脂粘度を低く抑えることができるため、それを用いた際のSPDにおける偏光性粒子の応答速度を速くすることが出来る。液状(メタ)アクリレート樹脂が、側鎖にヒドロキシル基を含有する重合体である場合には、偏光性粒子をより安定に分散できる。
【0058】
こうして得られる液状(メタ)アクリレート樹脂に対して偏光性粒子を分散させることで液泡を調製することが出来る。
【0059】
本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、液泡が粒子として分散媒中に分散した形態がとれれば、どちらにどちらを加えて分散を行なっても良い。つまり、本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、液状(メタ)アクリレート樹脂中に、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を加える様にして分散させても、その逆に、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂中に液状(メタ)アクリレート樹脂を加える様にして分散させても、調製することが出来る。
【0060】
乳化剤の仕込み順序として、液泡に乳化剤を混合してから分散媒を加えて乳化しても、分散媒に乳化剤を混合してから液泡を加えて乳化してもよく、また、液泡と分散媒とを混合させた後に乳化剤を加えて乳化させても良い。
【0061】
乳化方法としては、常温乳化、高温乳化、転相乳化等、従来公知の方法がいずれも適用できる。本発明の乳化剤を用いると、常温乳化でも十分に安定な硬化性組成物が得られるので、エネルギーコストが抑制でき、より好ましい。
【0062】
乳化装置としては、通常の混合機、攪拌機、分散機でも十分安定な硬化性組成物が得られるが、分散時間と分散物の乳化安定性の面から、乳化機として市販されているホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサーなどを用いることが好ましい。
【0063】
尚、分散媒である(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂と、液泡である偏光性粒子が分散した液状(メタ)アクリレート樹脂とは、任意の割合で用いることが出来るが、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の硬化物が連続相を形成し、その連続相中に液泡が粒子として点在して分散する様な構造形態にすることで、調光特性の良好なSPDを作製出来ることから、質量換算で(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂100部当たり、液胞(偏光性粒子と液状(メタ)アクリレート樹脂との合計)は20〜100部となる様に用いることが好ましい。硬化後の連続相に分散した点在する個々の液泡は、硬化物の固体マトリックス中に液滴として存在しているため、液泡中の偏光性粒子も何ら拘束はされておらず流動性を維持しており、電界印加により配向が出来るようになっている。
【0064】
本発明においては、SPDを作製する際、この液胞を分散媒に分散させるために、前記した共重合体(X)からなる乳化剤を併用する。本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、前記した液泡を前記した乳化剤にて分散媒中に分散させることで調製することが出来る。SPDとしての光透過性制御をより容易とするために、分散媒中における液泡の平均径が1〜10μmとなる様にすることが好ましい。
【0065】
乳化状態は、光学顕微鏡で確認することができる。液泡は偏光性粒子により着色しており、一方、分散媒が無色透明である場合には、着色した液泡の径を測定することが出来る。この液泡は時間と共に合一して径が増加するため、その時間変化を追跡することで乳化安定性を評価することが可能である。
【0066】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を調製するに当たり、分散媒中における液泡の平均径が前記好ましい範囲となる様にするには、質量換算で、偏光性粒子と液状(メタ)アクリレート樹脂の合計100部に対してSPD用乳化剤を1〜10部、より経時安定性、硬化性に優れた硬化性組成物が得られ調光性に優れたSPDが得られる点で、3〜10部含有させることが好ましく、中でも3.5〜7部含有させることがより好ましい。
【0067】
本発明の共重合体(X)からなるSPD用乳化剤は、液泡を分散媒に乳化する上で、従来達成できなかった乳化時間の短縮を可能とする。特に、共重合体(X)に、液泡と分散媒がそれぞれ固有に有する二つの化学構造を導入する設計を行なったことで、ポリマーの構成制御と架橋抑制が可能となった。さらに、偏光性による光の透過/遮断を電界印加によって行うSPDの光学的効果も実用レベル以上であって、その寿命も従来よりも向上させることが出来る。
【0068】
すなわち、液泡を分散媒に乳化分散する際、従来のSPD用乳化剤の同量使用の場合と比較して、より短時間で、前記した好適な平均径の液泡を含むSPD用硬化性組成物を調製することができ、得られた硬化性組成物の安定性がより良好であるという顕著に優れた乳化力を示す。また、この乳化剤は分散された液泡のSPD特性を邪魔することも無い。
【0069】
懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、任意の方法にて硬化させることが出来る。この硬化により、分散媒である(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂が重合硬化し、偏光性粒子が分散した液状(メタ)アクリレート樹脂からなる液泡が重合硬化物に固定されSPDが作製される。(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を硬化させるためには、熱や、紫外線や電子線の様な活性エネルギー線を用いることができる。熱源よりも光源を用いた活性エネルギー線硬化のほうが、省エネルギーに貢献でき短時間での硬化が容易であるため、光源を用いて活性エネルギー線を照射して硬化することが好ましい。紫外線を用いる場合は、照射光の波長でラジカルを発生するエネルギー線重合開始剤を併用したり窒素パージしたりすることで、硬化性はより良好になる。
【0070】
活性エネルギー線重合開始剤としては、水素引き抜き型、直接開裂型のいずれも使用できるが、硬化速度の面から直接開裂型のアリールアルキルケトン系、オキシム系、アシルフォスフィンオキサイド系、メタロセン系が好ましい。アリールアルキルケトン系としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製IRGACURE 651),2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(同IRGACURE 1173),オキシム系としては1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)](同IRGACURE OXE01),アシルフォスフィンオキサイド系としてはビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(同IRGACURE 819),2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製Lucirin TPO),2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルフォスフィンオキサイド(同Lucirin TPO−L)が挙げられる。また、上記重合開始剤は二種以上を組み合わせて使用することもできる。特に分散媒が(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の場合は、アシルフォスフィンオキシド系重合開始剤を用いることが好ましい。
【0071】
本発明のSPD用硬化性組成物には、後記するSPD用フィルムの効果を阻害しない範囲で、前記した活性エネルギー線重合開始剤の他、紫外線吸収剤や酸化防止剤、安定剤、粘着付与剤、離型剤等の添加剤を添加することが出来る。
【0072】
本発明のSPD用硬化性組成物の性状は、25℃において液状であり、流動性を示すものであることがSPDを作製する際の作業性が良好であるため好ましい。
【0073】
本発明のSPD用硬化性組成物は、液状であると、塗布、吐出、あるいは注型等の方法で容易に任意形状とすることができ、これを硬化すれば所望の形状のSPDを容易に得ることが出来る。
【0074】
本発明のSPD用硬化性組成物の、硬化後の硬化物の性状は、全体として25℃において固体状であり流動性を示さないことが、取扱いが良好であるため好ましい。
【0075】
本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、例えば透明プラスチックフィルムと透明電極との間で硬化させることで、SPD用フィルムとすることが出来る。この様な透明プラスチックフィルムとしてはPETフィルムを、透明電極としてはITO電極をそれぞれ用いることが出来る。
【0076】
この場合、本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物を、透明プラスチックフィルムまたは透明電極に塗布した後、その上に透明電極または透明プラスチックフィルムを重ね合わせてから、その外側から活性エネルギー線や熱によって、透明フィルムと透明電極の間にある(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂を硬化させて、SPD用フィルムとすることが出来る。透明プラスチックフィルムを用いることで、透明ガラスを用いるよりも可撓性に優れたSPDを作製することが出来る。これを成型加工し、調光材料として使用することができる。
【0077】
以下、製造例、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0078】
(製造例1:偏光性粒子の製造例)
温度センサー、窒素導入管、ジムロートコンデンサーを備えた500mL4つ口フラスコに9.91%のニトロセルロース(旭化成工業(株)製LIGI/8:LIGI/4=79:21)を酢酸イソアミルに溶解した溶液265g、沃化カルシウム5.30g、メタノール4.00g、純水(所要量は1.61gからニトロセルロースの酢酸イソアミル溶液、沃化カルシウム、メタノール中の水分を差し引き算出した)を加え、45℃に保持した湯浴に漬けて15分間攪拌することによって沃化カルシウムを完全に溶解した。次に沃素9.00gを加え、同温度で30分間攪拌することによって沃素を完全に溶解し、カルシウム過沃化物を得た。この溶液に、ピラジン− 2,5 −ジカルボン酸2水和物6.00gを投入し、同温度で攪拌を3時間継続し、さらに超音波分散機で2時間分散した。得られた分散液を遠心分離機に入れ、12,000Gの重力をかけて偏光性粒子を沈降させた。上澄みを廃棄し、沈降物に酢酸イソアミルを75g加えて超音波分散し、偏光性粒子分散液を製造した。
【0079】
(製造例2:液状(メタ)アクリレート樹脂の製造例)
滴下ロート、温度センサー、窒素導入管、ジムロートコンデンサーを備えた500mL4つ口フラスコにトルエン(国産化学(株)製試薬一級)を50mL仕込み、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、室温にて窒素を30分間トルエンにバブリングさせ、系内を窒素置換した。ついで窒素導入管を少し引き上げてバブリングさせずに導入するようにすると同時に、オイルバスによる加熱を開始した。オイルバス温度が142〜145℃に達し系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)122.10g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)2.60g、N−オクチル3−メルカプトプロピオネート(日油(株)製連鎖移動剤、品名NOMP)16.00g、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート(日油(株)製有機過酸化物系重合開始剤、品名パーブチルO)12.50gの混合液を1時間かけて滴下した。さらに加熱還流を4時間継続し、重合反応を進行させた。加熱を止め、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。こうして、透明の油状物が147.85g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、炭素原子数12のアルキル基とヒドロキシルエチル基とを側鎖に有する液状のメタクリレート樹脂を得た。
【0080】
こうして得られた液状のメタクリレート樹脂は、以下の構造である。直鎖状末端基は解列後の重合開始剤末端である。
【0081】
式2
【0082】
【化2】

【0083】
(製造例3:偏光性粒子を含む(メタ)アクリレート樹脂からなる液泡の製造例)
200mLビーカーに製造例2で得たメタクリレート樹脂25g、トリメリット酸トリイソデシル13g、パーフルオロスベリン酸ジメチル1g、製造例1で得た偏光性粒子分散体33gを加え、攪拌機により30分間混合した。次いで、酢酸イソアミルをロータリーエバポレーターにて1330Paの真空で70℃、3時間減圧除去し、粒子沈降および凝集現象のない、安定な偏光性粒子を含む液状のメタアクリレート樹脂を得た。
【0084】
(製造例4:(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の製造例)
温度センサー、ディーンスタークトラップを備えた2Lの4つ口フラスコに未精製量末端シラノール基ジメチルジフェニルシロキサンコポリマー158g、3−アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン20g、ヘプタン800mlを投入し、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、75分間加熱還流を行なった。留出水は0.4mlであった。一旦90℃に冷却し、2−エチルヘキサン酸スズ(II)66mgを少量のヘプタンに溶解した溶液に加え、再び105分間加熱還流し脱水を行なった。留出水は1.6mlであった。次いで、ディーンスタークトラップの冷却管上部より、メトキシトリメチルシラン120mlを注意深く加えた。2時間還流を継続後、冷却・部分的に脱溶剤を行い、無色透明油状の粗シリコーン樹脂316gを得た。該粗シリコーン樹脂を560gのメタノールで4回洗浄し、脱溶剤を行って、無色透明油状のアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂166gを得た。
このアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、ジメチルポリシロキサンとジフェニルポリシロキサンの両方の構造を同時に含有しているオルガノポリシロキサンであり、その重量平均分子量は52,000であった。
【0085】
こうして得られたアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂は、以下の構造である。
【0086】
式3
【0087】
【化3】

【実施例1】
【0088】
滴下ロート、温度センサー、窒素導入管、ジムロートコンデンサーを備えた500mL4つ口フラスコにトルエン(国産化学(株)製試薬一級)を50mL仕込み、磁気攪拌子を用い攪拌しながら、室温にて窒素を30分間トルエンにバブリングさせ、系内を窒素置換した。ついで窒素導入管を少し引き上げてバブリングさせずに導入するようにすると同時に、オイルバスによる加熱を開始した。系内が還流状態になったのを確認した後、ドデシルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)68.38g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬(株)製試薬一級)1.46g、シリコーンマクロモノマーLSF−240(信越化学(株)製、品名X−22−174DX、上記式1においてR=ブチル基でありかつ平均してnが60であるもの。)29.30g、日油(株)製NOMP 6.40g、日油(株)製パーブチルO 4.98gのモノマー混合液を17分間かけて滴下した。このときフラスコ内温は115℃から132℃に上昇した。さらに加熱還流を3時間継続し、重合反応を進行させた。このとき、内温は132℃から141℃に上昇した。反応終了後、60℃、2hPa、1時間の条件にて、エバポレーターを用いてトルエンを除去した。透明の油状物が106.72g得られた。ついで得られた油状物を、200℃、2Paの条件下で薄膜蒸留により揮発性不純物を除去して、本発明の共重合体からなる乳化剤(X−1)を得た。
【0089】
こうして得られた乳化剤(X−1)は、以下の構造である。但し、重合単位の右下の数字は全単量体を100モル%とした際の、それぞれの単量体のモル%を示す。直鎖状末端基は解列後の重合開始剤末端である。R=ブチル基、nは平均して60である。
【0090】
式4
【0091】
【化4】

【実施例2】
【0092】
上記実施例1のモノマー混合液を、ドデシルメタクリレート 48.84g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート 1.04g、シリコーンマクロモノマーLSF−240 48.84g、日油(株)製NOMP 6.40g、日油(株)製パーブチルO 4.98gのモノマー混合液に代えて用いる以外は実施例1と同様にしてトルエンに滴下した。このときフラスコ内温は115℃から128℃に上昇した。
加熱還流も実施例1と同様に行なって重合反応を進行させた。このとき、内温は128℃から138℃に上昇した。反応終了後、実施例1と同様の条件にて、トルエンを除去した。
透明の油状物が106.46g得られた。
この油状物から、実施例1と同様の条件で揮発性不純物を除去して、本発明の共重合体からなる乳化剤(X−2)を得た。
【実施例3】
【0093】
上記実施例1のモノマー混合液を、ドデシルメタクリレート 29.30g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート 0.62g、シリコーンマクロモノマーLSF−240 68.38g、日油(株)製NOMP 6.40g、日油(株)製パーブチルO 4.98gのモノマー混合液に代えて用いる以外は実施例1と同様にしてトルエンに滴下した。滴下時間は19分間となる様にした。このときフラスコ内温は115℃から127℃に上昇した。
加熱還流も実施例1と同様に行なって重合反応を進行させた。このとき、内温は127℃から139℃に上昇した。反応終了後、実施例1と同様の条件にて、トルエンを除去した。
透明の油状物が105.45g得られた。
この油状物から、実施例1と同様の条件で揮発性不純物を除去して、本発明の共重合体からなる乳化剤(X−3)を得た。
【実施例4】
【0094】
シリコーンマクロモノマーLSF−240に代えてシリコーンマクロモノマーLSF−230(信越化学(株)製、品名X−24−8201、上記式1においてR=メチル基でありかつ平均してnが25であるもの。)を用いる以外は実施例1と同様にしてモノマー混合液を調製した。このモノマー混合液を用いる以外は実施例1と同様にしてトルエンに滴下した。このときフラスコ内温は115℃から130℃に上昇した。
加熱還流も実施例1と同様に行なって重合反応を進行させた。このとき、内温は130℃から140℃に上昇した。反応終了後、実施例1と同様の条件にて、トルエンを除去した。
透明の油状物が106.62g得られた。
この油状物から、実施例1と同様の条件で揮発性不純物を除去して、本発明の共重合体からなる乳化剤(X−4)を得た。
【0095】
〔比較例1〕
上記した特許文献2の実施例1に従って乳化剤を合成した。
500mlの三つ口丸底フラスコに、ジシラノール末端のジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン 50g、ヘプタン200mlを加えた。一つの口は、機械攪拌のために用いられ、二番目の口は、ディーンスターク縮合装置のセットアップに用いられ、三番目の口は、サンプリングのために用いられた。
このフラスコに、反応触媒と3−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン 2gを加えて、還流を90分間行い、90分後に温度を80℃まで下げて、トリメチルメトキシシラン 15mlを加えて、3−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシランで末端封鎖されていないポリマー鎖末端を封鎖した。この末端封鎖反応は、60分間に亘って行なった。この反応終了後、反応混合物をエタノール 250mlを仕込んだ1lビーカーに注入し攪拌した。反応に用いたフラスコはヘプタン 50mlで濯ぎ、その液体はこの1lビーカーに加えた。
この攪拌混合物に対して、メタノール 250mlを加えて更に10分間攪拌を継続した。層分離のためにビーカー内容物を分液漏斗に移した。約12時間放置した後、下層を分離して、メタクレート部位を含ませるための乳化剤のシロキサン部位を、ロータリーエバポレーターで得た。こうして、アクリロイル基を両末端に含有するジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサンを得た。
次に、上記で得たアクリロイル基を両末端に含有するジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン 11.5gと、ドデシルメタクリレート16.06gと、2−ヒドロキシエチルメタクリレート 0.35gと、1−ヘキサンチオール 0.3gとを、250ml三口フラスコに仕込み、窒素ガスで脱気したトルエン 20mlを加えた。
全体の反応が終わるまでの間、反応混合物は、攪拌子を入れたマグネチックスターラーで、攪拌した。
フラスコの一つの口は、還流溶剤の凝縮に用いられ、二番目の口は、反応温度の監視用の温度計が導入に用いられ、三番目の口はサンプリングのために用いられた。反応の全工程において窒素ガスがバブリングされた。反応混合物は75℃まで加熱され、その温度でアゾビスイソブチロニトリル 0.05gが開始剤として含められたトルエン 10mlを加えた。未反応の開始剤のために、反応温度は80℃に維持された。共重合体を得るために反応混合物はロータリーエバポレーターで蒸発乾燥された。
こうして蒸発乾燥された共重合体は、100℃で2mトールの圧力でミクロ蒸留装置を通過させ精製した。
こうして、アクリロイル基を両末端に含有するジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン/ドデシルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレートの三元共重合体からなる乳化剤を得た。得られた乳化剤の重量平均分子量は23,000であった。
【0096】
こうして得られた実施例1〜4及び比較例1の乳化剤は、以下の表1の通りである。
【0097】
表1
【0098】
【表1】

【実施例5】
【0099】
上記製造例4で得られたアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂150gに、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカル社製 Irgacure 819)0.45gを溶解させた後、上記実施例1で得た乳化剤(X−1)3gを混合し、さらに製造例3で得た偏光性粒子を含むメタクリレート樹脂60gを加え、プライミクス社製T.K.ホモミキサーM型を用いて25℃で攪拌を開始し、1,400rpmに調整した。液温は50℃で安定した。そのまま攪拌を続け、1時間毎にSPD用紫外線硬化性組成物のサンプリングを行い、そのSPD用紫外線硬化性組成物を直ちにITO蒸着PETフィルムのITO蒸着側に3milのアプリケーターで塗布し、ITO蒸着PETフィルムと同じ大きさのITO蒸着PETフィルムを重ね合わせて、PETフィルム側から5J/cmの紫外線を照射して分散媒のアクリロイル基を重合させると共に貼り合わせを行ない、SPD用フィルムを作製した。
こうして得られた各SPD用フィルムについて、外観を目視して、濃淡の筋模様が全く無いSPD用フィルムが得られるまで上記分散時間を求めた。濃淡の筋模様が全く無いSPD用フィルムが得られた以降は攪拌操作を中止した。
【実施例6】
【0100】
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記実施例2で得た乳化剤(X−2)を用いた以外は、実施例5と同様に硬化性組成物を調製し、分散時間を求めた。
【実施例7】
【0101】
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記実施例3で得た乳化剤(X−3)を用いた以外は、実施例5と同様に硬化性組成物を調製し、分散時間を求めた。
【実施例8】
【0102】
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記実施例4で得た乳化剤(X−4)を用いた以外は、実施例5と同様に硬化性組成物を調製し、分散時間を求めた。
【0103】
〔比較例2〕
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記比較例1の乳化剤を用いた以外は、実施例5と同様に硬化性組成物を調製し、分散時間を求めた。
【0104】
こうしてそれぞれ測定された分散時間を表2に示した。
【0105】
表2
【0106】
【表2】

【0107】
実施例5〜8の硬化性組成物の液泡は、いずれも1〜10μmの平均径の範囲であった。また分散後、長時間経ても会合し難く、分離したりゲル化したりすることもなく安定性に優れていた。
【0108】
上記表2の結果からわかる通り、本発明の乳化剤は従来の乳化剤を用いる場合に比べて、分散時間が1/4に短縮出来るため、SPD用硬化性組成物の生産性は飛躍的に高まる。また、同一分散時間対比において、本発明の乳化剤を用いて得たSPD用硬化性組成物から作製したSPDは、従来の乳化剤を用いて得たSPD用硬化性組成物から作製したそれに比べて、著しく濃度均一性が高いことがわかる。
【実施例9】
【0109】
上記製造例4で得られたアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂150gに、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(チバ・スペシャリティ・ケミカル社製 Irgacure 819)0.45gを溶解させた後、上記実施例1で得た乳化剤(X−1)3gを混合し、さらに製造例3で得た偏光性粒子を含むメタクリレート樹脂60gを加え、プライミクス社製T.K.ホモミキサーM型を用いて25℃で攪拌を開始し、1400rpmに調整した。液温は50℃で安定した。2時間経過後、攪拌を中止し、偏光性粒子を含むメタクリレート樹脂が液泡となってアクリロイル基を含有するシリコーン樹脂の分散媒に乳化分散したSPD用紫外線硬化性組成物を得た。
次に、このSPD用紫外線硬化性組成物をITO蒸着PETフィルムのITO蒸着側に3milのアプリケーターで塗布し、ITO蒸着PETフィルムと同じ大きさのITO蒸着PETフィルムを重ね合わせて、PETフィルム側から5J/cmの紫外線を照射して分散媒のアクリロイル基を重合させると共に貼り合わせを行ない、SPD用フィルムを作製した。
【実施例10】
【0110】
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記実施例2で得た乳化剤(X−2)を用いた以外は、実施例9と同様に硬化性組成物、SPD用フィルムを作製した。
【実施例11】
【0111】
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記実施例3で得た乳化剤(X−3)を用いた以外は、実施例9と同様に硬化性組成物、SPD用フィルムを作製した。
【実施例12】
【0112】
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記実施例4で得た乳化剤(X−4)を用いた以外は、実施例9と同様に硬化性組成物、SPD用フィルムを作製した。
【0113】
〔比較例3〕
上記実施例1で得た乳化剤(X−1)に代えて上記比較例1の乳化剤を用いた以外は実施例9と同様に硬化性組成物、SPD用フィルムを作製した。
【0114】
こうして得られた各SPD用フィルムについて、分散時間、コントラスト及びヘイズを下記の要領で測定した。
【0115】
コントラスト;SPD用フィルムは、二つの電極の間に挟持した状態で電圧をかけることによって偏光性粒子が配向し、光の非透過の状態から光が透過する状態とすることができる。この方法において、電圧をかける状態をON、電圧をかけない状態をOFFと定義すると、ONとOFFのそれぞれの状態で得られる光の透過率の差をコントラストと称し、ΔT(%)にて表した。SPDとして実用上利用可能なコントラスト(ΔT)は50%以上であることが好ましい。ON−OFF時のそれぞれの光透過率は、(株)東洋精機製作所製Haze−Gard IIで測定した。尚、コントラスト測定時の印加電圧は100V、400Hzとした。
ヘイズ;上記コントラスト測定時における電圧をかけた状態(ON時)の曇価をヘイズと称し、H(%)にて表した。ヘイズ(H)は8%よりも低いことが好ましい。尚、このヘイズは、(株)東洋精機製作所製Haze−Gard IIで測定した。
【0116】
こうしてそれぞれ測定されたコントラスト及びヘイズを表3に示した。
【0117】
表3
【0118】
【表3】

【0119】
表3からわかる様に、実施例9〜11の硬化性組成物から得られたSPD用フィルムは、実施例12のそれよりも、コントラストが良好であった。また、実施例9〜10の硬化性組成物から得られたSPD用フィルムは、実施例11〜12のそれらよりも、コントラストとヘイズの両面において優れていた。
【0120】
また、上記実施例9及び比較例3の各SPD用フィルムについて、促進試験後のコントラストΔTを上記した促進試験前のそれと同様にして測定し、耐候性及び耐熱性を評価した。
耐候性促進試験では、Atlas社製Ci4000 Xenon Weather-OmeterにてSAE J1960kJ(加湿、スプレー無し)の条件に、SPD用フィルムを300時間暴露させる様にして、促進試験前後のコントラストから、次式で示すコントラストの低下度合いΔΔT(%)を求めた。
【0121】
【数1】

【0122】
ΔTの数値は暴露により減少するためΔΔTはマイナスとなり、数値が小さいほど劣化が大きいことを示す。
【0123】
一方、耐熱性促進試験では、SPD用フィルムを110℃に3時間暴露させる様にして、促進試験前後のコントラストの低下度合いΔΔT(%)を上記耐候性の場合と同様にして求めた。
【0124】
こうしてそれぞれ測定された耐候性及び耐熱性を表4に示した。
【0125】
表4
【0126】
【表4】

【0127】
上記表4の結果からわかる通り、本発明の乳化剤を用いて得たSPD用硬化性組成物から作製したSPDは、従来の乳化剤を用いて得たSPD用硬化性組成物から作製したそれに比べて、耐熱性が高いことがわかる。
【0128】
この様に、本発明の懸濁粒子デバイス用乳化剤は、共重合体を構成するマクロモノマーが単官能であるため、二官能以上のマクロモノマーを用いて得た共重合体からなる乳化剤に比べて、乳化力がより高く、液泡を分散媒に安定分散させるのに要する乳化時間を大幅に削減することができることがわかる。
また、このような乳化剤を含有してなる本発明の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物は、分散後に経時で会合し難く、分離したりゲル化したりすることもなく安定性に優れていることがわかる。また、濃淡の筋模様が全く無いSPD用フィルムが得られるまで分散時間が短く濃度均一性にも優れていることがわかる。
更に、このような乳化剤を用いた本発明の懸濁粒子デバイス用フィルムは、SPDとした時、電界印加時の光透明性のムラが小さく、しかも耐熱性低下が小さいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状オルガノポリシロキサンの片末端に(メタ)アクリロイル基を有する構造の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と、長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)との共重合体(X)からなる懸濁粒子デバイス用乳化剤。
【請求項2】
単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)が、重量平均分子量2,000〜10,000の単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマーである請求項1記載の懸濁粒子デバイス用乳化剤。
【請求項3】
共重合体(X)が、単官能オルガノポリシロキサンマクロモノマー(A)と長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)とが、仕込時の質量比〔(A):(B)〕で、20:80〜80:20で重合を行なった共重合体である請求項1記載の懸濁粒子デバイス用乳化剤。
【請求項4】
長鎖モノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(B)が、炭素原子数8〜18のモノアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルである請求項1記載の懸濁粒子デバイス用乳化剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の懸濁粒子デバイス用乳化剤、(メタ)アクリロイル基を含有するシリコーン樹脂、偏光性粒子及び液状(メタ)アクリレート樹脂を含有する懸濁粒子デバイス用硬化性組成物。
【請求項6】
質量換算で、偏光性粒子と液状(メタ)アクリレート樹脂の合計100部に対して懸濁粒子デバイス用乳化剤を3.5〜7部含有する請求項5記載の懸濁粒子デバイス用硬化性組成物。
【請求項7】
活性エネルギー線重合開始剤を含有する請求項5記載の懸濁粒子デバイス用活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の懸濁粒子デバイス用乳化剤を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の硬化性組成物を用いた懸濁粒子デバイス用フィルム。

【公開番号】特開2010−85606(P2010−85606A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253243(P2008−253243)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】