説明

乳化重合体水分散液の製造方法

【課題】水性媒体中へ不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合により乳化重合体水分散液を製造する方法において、反応熱の冷却に必要なエネルギーを低減すると共に、重合工程時間を短縮する乳化重合体水分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行う乳化重合体水分散液の製造方法であって、かつ、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行う乳化重合体水分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有用なる乳化重合体水分散液の製造方法に関する。更に詳しくは、塗料、接着剤、繊維加工剤、紙加工剤等の幅広い用途に応用可能な乳化重合体水分散液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的に化学物質に対する規制が進む等地球環境への配慮が社会的課題として加速していることから、水系樹脂の一つである乳化重合水分散体は有機溶剤を全く含まないか、含むとしても少量しか含まない樹脂としてその重要性が年々増してきている。乳化重合体水分散液は、乳化剤の存在のもとで重合開始剤によるラジカル重合により製造され、使用する重合開始剤により熱重合開始剤の加熱による熱重合と、酸化剤と還元剤の組み合わせによるレドックス重合に大別することができる。さらに、乳化重合体水分散液の製造方法は、水性媒体中へ不飽和基含有重合性単量体を一括して仕込み重合を行う一括重合と、水性媒体中へ不飽和基含有重合性単量体を供給しながら重合を行う滴下重合に分けることができる。このうち、水性媒体の温度を一定に制御し水性媒体中へ不飽和基含有重合性単量体を滴下しながら熱重合により乳化重合水分散体を製造する方法が最も一般的に用いられている。
【0003】
一般的に熱重合により乳化重合体水分散液を製造する場合は、一定重合温度条件下において乳化重合されるのが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、工業的に製造する場合においては、反応槽のスケールアップに伴い反応槽を冷却するジャケット伝熱面積が相対的に小さくなるため、水性媒体の温度を一定に制御するためにより温度の低い冷媒を必要としたり、滴下重合時間を伸ばしたりする必要があった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−057868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水性媒体中へ不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合により乳化重合体水分散液を製造する方法において、反応熱の冷却に必要なエネルギーを低減すると共に、重合工程時間を短縮する乳化重合体水分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、不飽和基含有重合性単量体を供給しながらの熱重合に伴う反応熱の一部乃至全部を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで熱重合による乳化重合を行うことにより、水性媒体の温度を一定に制御して乳化重合を行う場合と比較して、反応熱を除熱するためのエネルギーを低減することができると共に、重合工程時間を短縮することができ、しかも、水性媒体の温度を一定に制御して乳化重合を行って得られる従来の乳化重合体水分散液と同様の性状を示す乳化重合体水分散液が容易に製造できること、水性媒体の温度をより高い温度で一定に制御して乳化重合を行った場合には、反応熱を除熱するためのエネルギーがあまり低減できず、しかも性状の異なる乳化重合体水分散液となりやすいという問題があること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行う乳化重合体水分散液の製造方法であって、かつ、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うことを特徴とする乳化重合体水分散液の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による乳化重合体水分散液の製造方法によれば、反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら乳化重合を行うため、反応熱を除熱するためのエネルギーを低減することができ、重合工程時間を短縮できる。しかも、水性媒体の温度を一定に制御して乳化重合を行って得られる従来の乳化重合体水分散液と同様の性状を示す乳化重合体水分散液が容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次いで、本発明を実施するにあたり、必要な事項を具体的に述べる。
本発明において乳化重合体水分散液は、熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行うと共に、この熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで乳化重合を行うことで製造される。
【0011】
本発明の製造方法で使用される熱重合開始剤としては、乳化重合に用いられている各種のラジカル重合開始剤を用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(2−アミノジプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾ系化合物類、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物類、過酸化水素等を挙げることができる。
【0012】
前記熱重合開始剤としては、1種類のみを用い加熱による熱重合を行うのが一般的ではあるが、場合により2種類以上を混合して用いてもよい。また、これら熱重合開始剤の使用量は、用いる不飽和基含有重合性単量体の種類や使用量などにより適宜変化させることができる。
【0013】
熱重合開始剤の使用量は、不飽和基含有重合性単量体の合計100重量部に対して、好ましくは0.001〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。
【0014】
本発明の製造方法で使用される不飽和基含有重合性単量体としては、ラジカル重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜30のアルキル(メタ)アクリレート類のアクリル系不飽和単量体;
【0015】
(メタ)アクリル酸、イタコン酸またはそのモノエステル、マレイン酸またはそのモノエステル、フマル酸またはそのモノエステル、イタコン酸またはそのモノエステル、クロトン酸、p−ビニル安息香酸などのカルボン酸基含有不飽和単量体およびこれらの塩;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、α−メチルスチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有不飽和単量体およびこれらの塩;
【0016】
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、N−メチルビニルピリジウムクロライド、(メタ)アリルトリエチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等の第3級または第4級アミノ基含有不飽和単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ビニルラクタム類などアミド基含有不飽和単量体;
【0017】
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和二塩基酸のジエステル類、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロルメチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族不飽和単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系不飽和単量体;ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン不飽和単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、メタクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート等の多官能不飽和単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のビニル系不飽和単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、オクチルビニルエステル、ベオバ9、ベオバ10、ベオバ11〔ベオバ:シェルケミカルカンパニー(株)商標〕等のビニルエステル不飽和単量体;エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル不飽和単量体;エチルアリルエーテル等のアリルエーテル不飽和単量体;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロアルキルアクリレート、フルオロメタクリレート等のハロゲン含有不飽和単量体等;
【0018】
(メタ)アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有不飽和単量体;ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン系不飽和単量体;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルブチルケトン、ダイアセトンアクリレート、アセトニトリルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルアセトフェノン、ビニルベンゾフェノン等のカルボニル基含有不飽和単量体等が挙げられる。
【0019】
また、本発明の乳化重合体水分散液の製造方法においては、乳化剤の存在下で不飽和基含有重合性単量体の熱重合を行うが、その際の乳化剤の使用量は、不飽和基含有重合性単量体100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲であり、好ましくは0.5〜5重量部である。このときの乳化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルキルサルフェート、アルカンスルフォネート、アルキルベンゼンスルフォネート、アルキルアリールポリエーテル硫酸塩、(ジ)アルキルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルサルフェート等のようなアニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のようなノニオン系乳化剤;セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルピリジニウムクロリド等のようなカチオン系乳化剤、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸アンモニウム、(メタ)アクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸ソーダ、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート、(メタ)アクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸ソーダ、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート等のアニオン系反応性乳化剤;ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤;
【0020】
市販されている反応性乳化剤、例えば、アクアロンHS−10、HS−20、ニューフロンティアA−229E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープSE−3N、SE−5N、SE−10N、SE−20N,SE−30N〔以上、(株)ADEKA製〕、AntoxMS−60、MS−2N、RA−1120、RA−2614〔以上、日本乳化剤(株)製〕、エレミノールJS−2、RS−30〔以上、三洋化成工業(株)製〕、ラテムルS−120A、S−180A、S−180〔以上、花王(株)製〕等のアニオン性反応性乳化剤;アクアロンRN−20、RN−30,RN−50、ニューフロンティアN−177E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40〔以上、(株)ADEKA製〕、RMA−564、RMA−568、RMA−1114〔以上、日本乳化剤(株)製〕等のノニオン性反応性乳化剤;
【0021】
ポリビニルアルコール、セルロースおよびその誘導体、澱粉およびその誘導体、スチレンマレイン酸樹脂、マレイン化ポリブタジエン、マレイン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水溶性アクリル樹脂、メラミンホルマリン縮合物のスルホン化物、ポリビニルピロリドン等の合成あるいは天然の水溶性高分子等が挙げられる。もちろん、これら以外の乳化剤を用いることも可能であり、これらのうちの2種以上を併用することも可能である。
【0022】
本発明の製造方法では、以上に述べた、不飽和基含有重合性単量体、熱重合開始剤、乳化剤および水、さらに必要に応じて、連鎖移動剤、中和剤等を用いることにより乳化重合を行う。この際、不飽和基含有重合性単量体は、最初にその一部を加熱し、乳化重合させて水性媒体中に乳化重合体粒子を形成させた後、残りの不飽和基含有重合性単量体を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うことが好ましい。
【0023】
また、不飽和基含有重合性単量体は、予め乳化剤を含む水性媒体と混合して単量体の乳化液を調製し、乳化液を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させ、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うこともできる。
【0024】
この際もまた、不飽和基含有重合性単量体は、予め乳化剤を含む水性媒体と混合して単量体の乳化液を調製し、その一部を加熱し、乳化重合させて水性媒体中に乳化重合粒子を形成させた後、残りの乳化液を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させ、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うことが好ましい。
【0025】
不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液の一部を予め加熱し乳化重合させて水性媒体中に乳化重合体粒子を形成させる場合、予め使用する不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液の量は、全体重量の0.3〜10重量%、好ましくは0.5〜7重量%の範囲である。
【0026】
さらに、前記不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液の一部を用いて得られる乳化重合体粒子の代わりに、前記不飽和基含有重合性単量体と同一もしくは類似組成の不飽和基含有重合性単量体を予め乳化重合させて得られる乳化重合体水分散液を用い、前記不飽和基含有重合性単量体もしくはその乳化液を供給しながら、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させ、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うシード重合法も好ましい製造方法として用いることができる。
【0027】
また、本発明の製造方法では、不飽和基含有重合性単量体の組成を変化させながら重合を行うパワーフィード重合法により乳化重合を行うこともできる。
【0028】
本発明の製造方法での不飽和基含有重合性単量体の供給は、定量ポンプを用いて行うことが好ましいが、不飽和基含有重合性単量体の供給速度は一定速度であっても速度を変化させても良い。また、不飽和基含有重合性単量体の供給は、連続的であることが好ましいが、水性媒体の昇温が停止しない範囲であれば断続的または半連続的であっても良い。
【0029】
さらに、熱重合開始剤は、最初に一度に水性媒体中に添加しても良いが、最初に一部を添加し、不飽和基含有重合性単量体の供給開始時若しくは供給開始後に、残りを断続的、半連続的又は連続的に添加しても良い。このとき、最終的に得られる乳化重合水分散体中の残存単量体量の低減下を図るため、熱重合開始剤は不飽和基含有重合性単量体の供給終了後、さらに1〜60分間、好ましくは5〜30分間添加を続けることが好ましい。この際、熱重合開始剤の供給も不飽和基含有重合性単量体の供給同様、定量ポンプを用いて行われることが好ましいが、供給速度は一定速度であっても速度を変化させても良い。
【0030】
本発明の製造方法において、不飽和基含有重合性単量体の供給開始時の水性媒体の温度としては、使用する熱重合開始剤が熱分解により重合に必要なラジカルを充分生成する60〜90℃であることが好ましく、より好ましくは60〜80℃である。また、不飽和基含有重合性単量体の供給終了時の水性媒体の温度としては、使用する熱重合開始剤の半減時間との兼ね合いから、好ましくは70〜130℃、より好ましくは80〜120℃である。水性媒体の温度の上昇幅は、重合により発生する反応熱を水性媒体の昇温により消費することで、反応熱を除熱するためのエネルギーを低減し、しかも、重合工程時間を短縮できることから、使用する不飽和基含有重合性単量体の種類、発生する反応熱の大きさ等により適宜決められるが、好ましくは5〜70℃、より好ましくは10〜60℃、最も好ましくは15〜50℃である。
【0031】
ここで、水性媒体の昇温は、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら乳化重合を進める間において、必ずしも一定の昇温速度に制御する必要はなく、例えば、水性媒体の昇温速度は使用する反応容器の冷却量、不飽和基含有重合性単量体の組成や供給量をコントロールすることにより制御することができ、比較的小さい昇温速度で乳化重合を開始し、乳化重合の進行と共に順次昇温速度が大きくなるように制御することも可能であるが、昇温速度を変化の少ない範囲で制御こと、例えば、乳化重合の開始時と終了時の温度を直線的に結ぶ温度変化に対して±5℃の範囲で制御することが好ましい。このような水性媒体を昇温させながら行う乳化重合の所要時間は、使用する不飽和基含有重合性単量体の組成、供給量、反応速度等により適宜決められるが、通常30分間〜6時間、好ましくは1〜4時間、さらに好ましくは1〜3時間である。
【0032】
本発明の製造方法では、不飽和基含有重合性単量体の供給と水性媒体の昇温を行いながら、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで熱重合による乳化重合を行うが、水性媒体の昇温は、不飽和基含有重合性単量体の供給による不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用した昇温であることから、水性媒体の昇温は、不飽和基含有重合性単量体の供給終了により停止する。なお、水性媒体の昇温が停止となった後、より低い温度で、さらに反応させることが好ましく、その際の反応温度としては、70〜100℃が好ましく、より好ましくは80〜100℃であり、反応時間としては、30分間〜5時間が好ましく、より好ましくは1〜4時間である。
【0033】
本発明の製造方法に使用する反応容器は、特に限定されず、各種の乳化重合に使用する反応槽を用いることが可能であるが、乳化重合は一般的には反応混合物が蒸発揮散しない圧力下で行うことが好ましいことから、前記した水性媒体の液温の範囲で乳化重合を行うためには、反応容器として耐圧性の密閉型圧力反応器を用いることが好ましい。しかしながら、供給終了時の反応容器の液温が90℃を超えない範囲で昇温制御を行う場合には、通常の開放型の反応容器を用いても良い。本発明のの製造方法においては、密閉型圧力反応器と通常の開放型の反応容器を使い分けることが可能である。
【0034】
本発明の製造方法により得られる乳化重合体水分散液は、必要により、顔料、分散剤、粘性調整剤、消泡剤、造膜助剤、凍結防止剤などを加えることにより、塗料、接着剤、繊維加工剤、紙加工剤として幅広い用途に応用可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例中の部は、特に断りのない限り重量部を示す。
【0036】
なお、以下の実施例および比較例で求めた平均ΔTと伝熱量Qの計算方法、平均粒径と粘度の測定方法を以下に示す。
【0037】
・平均ΔTの計算方法:反応容器内温度(水性媒体の温度)T(℃)と反応容器のジャケット内の冷却水温度T(℃)より平均ΔT(℃)は下記(1)式を用いて表すことができる。
ΔT=(T−T)・・・・(1)
平均ΔTが小さいほど除熱に必要なエネルギーが小さいと結論される。
【0038】
・伝熱量Qの計算方法:伝熱量Qは、反応容器のジャケットの冷却水量W(kg/s)、冷却水の入口および出口の温度をそれぞれtおよびt、水の定圧比熱をCp(J/kg・K)とすると、下記(2)式を用いて表すことができる。
Q=W×Cp×(t−t)・・・・(2)
製造を行うことにより得られた前記データを用い、式(2)より重合を行った際の伝熱量Qの算出を行った。伝熱量Qが小さいほど除熱に必要なエネルギーが小さくて済むと結論される。
【0039】
・平均粒径の測定方法:乳化重合体粒子の平均粒径は濃厚系粒径アナライザーFPAR1000(大塚電子株式会社製)を用い、動的光散乱法により平均粒径を測定した。
【0040】
・粘度の測定方法:乳化重合体水分散液を入れた容器を恒温水槽中に浸漬させることにより乳化重合体水分散液の温度を25℃に調整した後、B型粘度計により測定を行った。
【0041】
比較例1
本比較例1は、従来の製造方法による乳化重合体水分散液の製造例である。
攪拌機、窒素導入管、反応釜内温度を測定するための温度センサー、ジャケット入口とおよび出口の冷却水量および温度を測定するための流量計および温度センサーを備えた150リットル反応容器(ジャケット伝熱面積1.15m)に、窒素を導入しつつ、イオン交換水46.5kgとニューコール707SF〔日本乳化剤(株)製の固形分30%のアニオン乳化剤〕1.70kgを仕込んだ。攪拌を開始し、2.0リットル/分の速度で窒素ガスを流しながら、反応容器内の水性媒体の温度を80℃まで昇温した。
【0042】
一方、攪拌機、窒素導入管、定量ポンプおよびロードセル式天秤機能を備えた100リットルタンクにイオン交換水10.7kg、ニューコール707SF3.0kg、ブチルアクリレート25.0kg、メチルメタクリレート44.0kgおよびメタクリル酸3.0kgを仕込み、攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0043】
100リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス4.3kgを抜き取り、水性媒体の温度を80℃に保持した反応容器内に添加した。添加後、さらに2.0リットル/分の速度で窒素ガスを10分間流した。10分後窒素ガスを止め、排気弁を閉じることにより反応容器内を密閉状態にし、反応容器内の水性媒体の温度を80℃で保持した。
【0044】
反応容器内に、イオン交換水1.4kgに過硫酸カリウム0.04kgを溶解することにより調製した熱重合開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を80℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックスを80℃の一定温度に制御して4.0時間かけて滴下することにより乳化重合を行った。滴下終了後80℃に冷却し、同温度で3時間保持した後、室温まで冷却した。
【0045】
得られたデータより80℃で4.0時間かけて単量体乳化プレミックスを滴下させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第1表にまとめた。得られた乳化重合体水分散液の平均粒径を測定したところ155nm、粘度は1470mPa・sであった。
【0046】
実施例1
攪拌機、窒素導入管、反応釜内温度を測定するための温度センサー、ジャケット入口とおよび出口の冷却水量および温度を測定するための流量計および温度センサーを備えた150リットル反応容器(ジャケット伝熱面積1.15m)に、窒素を導入しつつ、イオン交換水46.5kgとニューコール707SF1.70kgを仕込んだ。攪拌を開始し、2.0リットル/分の速度で窒素ガスを流しながら、反応容器内の水性媒体の温度を70℃まで昇温した。
【0047】
一方、攪拌機、窒素導入管、定量ポンプおよびロードセル式天秤機能を備えた100リットルタンクにイオン交換水10.7kg、ニューコール707SF3.0kg、ブチルアクリレート25.0kg、メチルメタクリレート44.0kgおよびメタクリル酸3.0kgを仕込み、攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0048】
100リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス4.3kgを抜き取り、水性媒体の温度を70℃に保持した反応容器内に添加した。添加後、さらに2.0リットル/分の速度で窒素ガスを10分間流した。10分後窒素ガスを止め、排気弁を閉じることにより反応容器内を密閉状態にし、反応容器内の水性媒体の温度を70℃で保持した。
【0049】
反応容器内に、イオン交換水1.4kgに過硫酸カリウム0.04kgを溶解することにより調製した熱重合開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を70℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックス及びイオン交換水5.7kgに過硫酸カリウム0.04kgを溶解することにより調整した熱重合開始剤水溶液を1.5時間かけて併行滴下することにより乳化重合を行った。このとき同時に反応容器内の水性媒体の温度を70℃から100℃に直線的に1.5時間かけて昇温させた。滴下終了後80℃に冷却し、同温度で3時間保持した後、室温まで冷却した。
【0050】
得られたデータより単量体乳化プレミックスを滴下しながら反応容器内の水性媒体の温度を70℃から100℃に直線的に1.5時間かけて変化させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第1表にまとめた。また、得られた乳化重合体分散液の平均粒径を測定したところ156nm、粘度は1220mPa・sであった。
【0051】
第1表において、比較例1と比較して伝熱量Qが大幅にダウンし、重合時間を1.5時間にして、比較例1の重合時間4.0時間の半分未満にしているにもかかわらず反応容器内の水性媒体の温度とジャケット内の冷却水温度の平均温度差(平均ΔT)が比較例1と殆ど変わらないことが分かる。また、得られた乳化重合体水分散液は、平均粒径と粘度が比較例1で得られた乳化重合体水分散液の数値とほぼ同等であり、比較例1で得られた乳化重合体水分散液の同等品と評価できるものであった。
【0052】
実施例2
初期重合を70℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックスの乳化重合を行う際、重合温度を70℃から120℃に直線的に1.5時間かけて昇温させた以外は実施例1と同様の操作を行って乳化重合体水分散液を得た。得られたデータより70℃から120℃に直線的に1.5時間かけて単量体乳化プレミックスを滴下させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第1表にまとめた。また、得られた乳化重合体分散液の平均粒径を測定したところ149nm、粘度は1100mPa・sであった。
【0053】
第1表において、比較例1と比較して伝熱量Qが大幅にダウンし、重合時間を1.5時間にして、比較例1の重合時間4.0時間の半分未満にしているにもかかわらず反応容器内の水性媒体の温度とジャケット内の冷却水温度の平均温度差(平均ΔT)が比較例1より大幅に小さくなっていることが分かる。また、得られた乳化重合体水分散液は、平均粒径と粘度が比較例1で得られた乳化重合体水分散液の数値とほぼ同等であり、比較例1で得られた乳化重合体水分散液の同等品と評価できるものであった。
【0054】
実施例3
初期重合を80℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックスの乳化重合を行う際、重合温度を80℃から100℃に直線的に1時間かけて昇温させた以外は実施例1と同様の操作を行って乳化重合体水分散液を得た。得られたデータより80℃から100℃に直線的に1時間かけて単量体乳化プレミックスを滴下させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第1表にまとめた。また、得られた乳化分散体の平均粒径を測定したところ147nm、粘度は1300mPa・sであった。
【0055】
第1表において、比較例1と比較して伝熱量Qが大幅にダウンし、重合時間を1.0時間にして、比較例1の重合時間4.0時間の1/4にしているにもかかわらず反応容器内の水性媒体の温度とジャケット内の冷却水温度の平均温度差(平均ΔT)が比較例1と殆ど変わらないことが分かる。また、得られた乳化重合体水分散液は、平均粒径と粘度が比較例1で得られた乳化重合体水分散液の数値とほぼ同等であり、比較例1で得られた乳化重合体水分散液の同等品と評価できるものであった。
【0056】
比較例2
本比較例2は、従来の製造方法より高温(100℃)で重合時間を短縮した乳化重合を行った乳化重合体水分散液の製造例である。
初期重合100℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックスの乳化重合を行う際、重合温度を100℃の一定温度に制御して1.5時間かけて滴下し、滴下終了後80℃に冷却した以外は実施例1と同様の操作を行って乳化重合体水分散液を得た。得られたデータより100℃で90分間かけて単量体乳化プレミックスを滴下させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を表1にまとめた。表1において実施例1と比較して伝熱量Qが大幅にアップし、反応容器内の水性媒体の温度とジャケット内の冷却水温度の平均温度差(平均ΔT)も2倍近くになっていることが分かる。また、得られた乳化重合体水分散液の平均粒径を測定したところ120nmと80℃において4.0時間重合を行った比較例1の乳化重合体水分散液の平均粒径と比較して小さく、粘度も大きくなっており、比較例1で得られた乳化重合体水分散液の同等品と評価できるものではなかった。
【0057】
【表1】

【0058】
比較例3
本比較例3は、従来の製造方法による乳化重合体水分散液の製造例である。
比較例1で用いたものと同じ反応容器に、窒素を導入しつつ、イオン交換水39.0kgを仕込んだ。攪拌を開始し、2.0リットル/分の速度で窒素ガスを流しながら反応容器内の水性媒体の温度を80℃まで昇温した。
【0059】
一方、攪拌機、窒素導入管、定量ポンプおよびロードセル式天秤機能を備えた100リットルタンクにイオン交換水16.2kg、ネオゲンS−20F〔第一工業製薬(株)製の固形分20%のアニオン乳化剤〕5.5kg、ブチルアクリレート41.8kg、エチルアクリレート22.5kgおよびメタクリル酸1.0kgを仕込み、攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0060】
100リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス2.7kgを抜き取り、水性媒体の温度を80℃に保持した反応容器内に添加した。添加後、さらに2.0リットル/分の速度で窒素ガスを10分間流した。10分後窒素ガスを止め、排気弁を閉じることにより反応容器内を密閉状態にし、反応容器内の水性媒体の温度を80℃で保持した。
【0061】
反応容器内に、イオン交換水3.5kgに過硫酸ナトリウム0.07kgを溶解することにより調製した熱重合開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を80℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックス及びイオン交換水3.5kgに過硫酸カリウム0.13kgを溶解することにより調整した熱重合開始剤水溶液を80℃の一定温度に制御して4.0時間かけて併行滴下することにより乳化重合を行った。滴下終了後80℃に冷却し、同温度で3時間保持した後、室温まで冷却して乳化重合体水分散液を得た。
【0062】
得られたデータより80℃で4.0時間かけて単量体乳化プレミックスを滴下させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第2表にまとめた。また、得られた乳化重合分散液の平均粒径を測定したところ225nm、粘度は40mPa・sであった。
【0063】
実施例4
実施例1で用いたものと同じ反応容器に、窒素を導入しつつ、イオン交換水39.0kgを仕込んだ。攪拌を開始し、2.0リットル/分の速度で窒素ガスを流しながら反応容器内の水性媒体の温度を80℃まで昇温した。
【0064】
一方、攪拌機、窒素導入管、定量ポンプおよびロードセル式天秤機能を備えた100リットルタンクにイオン交換水16.2kg、ネオゲンS−20F5.5kg、ブチルアクリレート41.8kg、エチルアクリレート22.5kgおよびメタクリル酸1.0kgを仕込み、攪拌乳化することにより単量体乳化プレミックスの調製を行った。
【0065】
100リットルタンクから調製した単量体乳化プレミックス2.7kgを抜き取り、水性媒体の温度を80℃に保持した反応容器内に添加した。添加後、さらに2.0リットル/分の速度で窒素ガスを10分間流した。10分後窒素ガスを止め、排気弁を閉じることにより反応容器内を密閉状態にし、反応容器内の水性媒体の温度を80℃で保持した。
【0066】
反応容器内に、イオン交換水3.5kgに過硫酸ナトリウム0.07kgを溶解することにより調製した熱重合開始剤水溶液を圧入することにより初期重合を開始した。初期重合を80℃で15分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックス及びイオン交換水3.5kgに過硫酸カリウム0.13kgを溶解することにより調整した熱重合開始剤水溶液を1.5時間かけて併行滴下することにより乳化重合を行った。このとき同時に反応容器内の水性媒体の温度を80℃から100℃に直線的に2.0時間かけて昇温させた。滴下終了後80℃に冷却し、同温度で3時間保持した後、室温まで冷却した。
【0067】
得られたデータより単量体乳化プレミックスを滴下しながら反応容器内の水性媒体の温度を80℃から100℃に直線的に2.0時間かけて変化させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第2表にまとめた。また、得られた乳化重合体分散液の平均粒径を測定したところ221nm、粘度は40mPa・sであった。
【0068】
第2表において、比較例3と比較して伝熱量Qが大幅にダウンし、重合時間を2.0時間にして、比較例3の重合時間4.0時間の半分にしているにもかかわらず反応容器内の水性媒体の温度とジャケット内の冷却水温度の平均温度差(平均ΔT)が比較例3大幅に小さくなっていることが分かる。また、得られた乳化重合体水分散液は、平均粒径と粘度が比較例3で得られた乳化重合体水分散液の数値とほぼ同等であり、比較例3で得られた乳化重合体水分散液の同等品と評価できるものであった。
【0069】
実施例5
初期重合を70℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックスの乳化重合を行う際、重合温度を70℃から90℃に直線的に2.0時間かけて昇温させた以外は実施例4と同様の操作を行って乳化重合体水分散液を得た。得られたデータより70℃から90℃に直線的に2.0時間かけて単量体乳化プレミックスを滴下させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第2表にまとめた。また、得られた乳化分散体の平均粒径を測定したところ230nm、粘度は49mPa・sであった。
【0070】
第2表において、比較例3と比較して伝熱量Qが大幅にダウンし、重合時間を2.0時間にして、比較例3の重合時間4.0時間の半分にしているにもかかわらず反応容器内の水性媒体の温度とジャケット内の冷却水温度の平均温度差(平均ΔT)が比較例3と変わらないことが分かる。また、得られた乳化重合体水分散液は、平均粒径と粘度が比較例3で得られた乳化重合体水分散液の数値とほぼ同等であり、比較例3で得られた乳化重合体水分散液の同等品と評価できるものであった。
【0071】
実施例6
初期重合を80℃で20分間継続した後、残りの単量体乳化プレミックスの乳化重合を行う際、重合温度を80℃から90℃に直線的に2.0時間かけて昇温させた以外は実施例4と同様の操作を行って乳化重合体水分散液を得た。得られたデータより80℃から90℃に直線的に2.0時間かけて単量体乳化プレミックスを滴下させた滴下重合時間中の平均ΔTと、伝熱量Qを求め、値を第2表にまとめた。また、得られた乳化分散体の平均粒径を測定したところ220nm、粘度は45mPa・sであった。
【0072】
第2表において、比較例3と比較して伝熱量Qが大幅にダウンし、重合時間を2.0時間にして、比較例3の重合時間4.0時間の半分にしているにもかかわらず反応容器内の水性媒体の温度とジャケット内の冷却水温度の平均温度差(平均ΔT)が比較例3と殆ど変わらないことが分かる。また、得られた乳化重合体水分散液は、平均粒径と粘度が比較例3で得られた乳化重合体水分散液の数値とほぼ同等であり、比較例3で得られた乳化重合体水分散液の同等品と評価できるものであった。
【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重合開始剤と乳化剤が存在する水性媒体中に、不飽和基含有重合性単量体を供給しながら熱重合による乳化重合を行う乳化重合体水分散液の製造方法であって、かつ、不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が70〜130℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行うことを特徴とする乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項2】
前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合の所要時間が、30分間〜6時間である請求項1に記載の乳化重合水分散体の製造方法。
【請求項3】
前記不飽和基含有重合性単量体の供給開始時の水性媒体の温度が、60〜90℃である請求項2に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項4】
前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合の昇温幅が、5〜70℃である請求項2に記載の乳化重合水分散体の製造方法。
【請求項5】
水性媒体を昇温させながら、水性媒体の温度が80〜120℃となるまで前記熱重合による乳化重合を行う請求項2に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項6】
前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合の所要時間が、1〜4時間である請求項1に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項7】
予め不飽和基含有重合性単量体の一部を乳化重合して得られる乳化重合体粒子の存在下で、水性媒体を昇温させながら、前記熱重合による乳化重合を行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項8】
前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合との終了後、70〜100℃で、さらに熱重合させる請求項7に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。
【請求項9】
前記不飽和基含有重合性単量体の熱重合に伴う反応熱を利用して昇温される水性媒体の温度を、前記水性媒体を昇温させながら行う熱重合による乳化重合の開始時と終了時の温度を直線的に結ぶ温度変化に対して、±5℃の範囲で制御する請求項1〜6のいずれか一項に記載の乳化重合体水分散液の製造方法。