説明

乳酸の濃度測定装置及びそれを用いる測定方法

【課題】D−乳酸脱水素酵素を使用してNADHを生成させる系を利用して、迅速、簡便かつ高精度で長期安定性に優れて低分析コストの酵素固定化体を利用した乳酸の濃度測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】緩衝液の流れを形成し(2)、該緩衝液流に試料を注入し(3)、注入点の下流側において、D−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの混合固定化体(5)を緩衝液に接触させ、前記混合固定化体に接触後の緩衝液中の電気化学的活性物質濃度を測定する(6)D−乳酸の濃度測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品製造、生分解性高分子製造に重要なD−およびL−乳酸を定量するにあたり、迅速、簡便かつ高精度で長期安定性に優れて低分析コストの酵素固定化体を利用した濃度測定を実現する測定装置および測定方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、生物の解糖系によりグルコースなどの糖分が分解されて生産される有機酸であり、さらにTCA回路に誘導されて生体エネルギー産生の起点になる重要な化合物である。一般的に動物細胞ではL−乳酸のみが生産されるが、微生物では光学異性体であるD−およびL−乳酸のいずれか一方か、その混合物が生産される。したがって食品等の製造において用いる微生物、特に乳酸菌、の種類によってその生成比率は異なる。そこで発酵生産の工程管理を実施するうえでは光学異性体を個別に迅速、簡便に測定することが求められていた。
【0003】
さらに、近年環境保全に対する意識の高まりとともに、高分子物質に生分解性を付与し、廃棄物による汚染を防止しようとする動きが活発に行われている。その中で、乳酸重合体は代表的なものであるが、L−乳酸とD−乳酸を混合して重合するとその特性が変化するため、ここでも両方の乳酸を測定する要求が多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
L−乳酸を測定するためには、L−乳酸オキシダーゼを利用することにより固定化酵素法による測定装置を構成できることが特許文献1に開示されている。しかし、D−乳酸のオキシダーゼは発見されておらず、D−乳酸脱水素酵素が分離されている。脱水素酵素ではニコチンアデニンジヌクレオチド(NAD)の還元体(NADH)が生成するが、これを電気化学的に検知することは困難であった。
一方で、NADHを共存する酸素を取り込んで酸化するNADHオキシダーゼが単離されている。この酵素は、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)を補酵素とするが、弱く結合しているため、反応溶液中にFADを添加することにより活性が数十倍になることが特許文献2に開示されている。そのため、分析コストが上昇する結果となり使用上問題があった。
【0005】
【特許文献1】特公昭58-6477号公報
【特許文献2】特開昭63-251082号公報
【0006】
本発明は前記の問題点を解決して、D−乳酸脱水素酵素を使用してNADHを生成させる系を利用して、迅速、簡便かつ高精度で長期安定性に優れて低分析コストの酵素固定化体を利用した乳酸の濃度測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(1)緩衝液の流れを形成し、(2)該緩衝液流に試料を注入し、(3)注入点の下流側において、D−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの混合固定化体を緩衝液に接触させ、(4)前記混合固定化体に接触後の緩衝液中の電気化学的活性物質濃度を測定するD−乳酸の濃度測定方法である。
更に、前記D−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの混合固定化体に送液する緩衝液がNADおよびFADを混合した緩衝液であることがより好ましい。
上述のD−乳酸の濃度測定方法においてさらに(5)前記緩衝液中の電気化学的活性物質濃度を測定後の緩衝液に、L−乳酸オキシダーゼ固定化体を接触させ、(6)前記L−乳酸オキシダーゼ固定化体に接触後の緩衝液中の電気化学的活性物質濃度を更に測定する、D−及びL−乳酸濃度の測定ができるので更に好ましい。
本発明に係る乳酸の濃度測定装置は、緩衝液の流れを形成する機構と、該緩衝液流に試料を注入する機構と、該注入機構の下流側に配置したD−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの混合固定化体と、この混合固定化体の下流側に配置した電気化学的活性物質濃度を検知する第1の電極と、さらに下流側に配置したL−乳酸オキシダーゼ固定化体と、この固定化体の下流側に配置した電気化学的活性物質濃度を検知する第2の電極と、を備える乳酸濃度測定装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の乳酸の濃度測定装置及びそれを用いる測定方法は、D−乳酸脱水素酵素を使用してNADHを生成させる系を利用した、迅速、簡便かつ高精度で長期安定性に優れて低分析コストの乳酸の濃度測定方法および装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
D−乳酸脱水素酵素(EC1.1.01.78)は細菌などから分離される。本酵素は下記の反応(1)を触媒する。
D−乳酸 + NAD = ピルビン酸 + NADH (1)
【0010】
この反応は左方向に偏っており、ピルビン酸と補酵素であるNADHからD−乳酸を生成する方向の還元反応は迅速に行われるが、単純にD−乳酸とNADを混合して酵素に接触させてもNADHはほとんど生成しない。そこで本発明者らはNADHオキシダーゼを同時固定化して生成したNADHを速やかにNADに戻すことにより酸化反応を進行できることを見出した。NADHオキシダーゼは下記の反応(2)を触媒する。
NADH + O2 = NAD + H2O2 (2)
【0011】
発明者等の試行によって、NADHオキシダーゼを固定化して用いると、FADが存在しなくともNADHを効率的に酸化できることが分かった。この理由は明瞭ではないが、固定化の操作により酵素の立体構造に変化が起きて、FAD添加による活性上昇が少なくなり、逆にFADが溶液に添加されていなくても高活性が得られるものと考えられる。ただし、FADの効果は別の面で発揮されることが次に説明するように判明した。
NADHオキシダーゼ固定化体はNAD存在下では高濃度のNADHを酸化する活性が阻害され、検量線の直線領域が狭くなることも判明した。その対策としてFADを共存させたところ直線領域が著しく改善することを見出した。
【0012】
D−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの固定化方法としては、物理吸着法、イオン結合法、包括法、共有結合法などタンパク質の固定化方法として公知の方法を利用できるが、中でも共有結合法が長期安定性に優れ望ましい。タンパク質を共有結合させる方法としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド基を有する化合物を用いるか、多官能基性アシル化剤を利用する方法、スルフヒドリル基を架橋させる方法など各種の方法を利用できる。酵素固定化体の形状としては、膜状に固定化し白金、金、カーボンなどからなる電極上にのせることもできるし、不溶性担体に固定化し担体をカラムリアクターに充填して用いることもできる。さらに固定化の際に他種の酵素あるいはゼラチンや血清アルブミンなどのタンパク質、ポリアリルアミンやポリリジンなどの合成高分子を共存させ、酵素固定化体の特性、すなわち膜強度、基質透過特性などを変更することもできる。酵素を不溶性担体に固定化する場合の担体としては、無機質の担体としてケイソウ土、活性炭、アルミナ、酸化チタン、有機質の担体として架橋処理デンプン粒子、セルロール系高分子、キチンおよびキトサン誘導体などの公知の担体を利用できる。上記の中でも特に無機質の担体が、耐圧性に優れ安定した検量線を確保する上で特に好ましい。
【0013】
D-乳酸脱水素酵素は、バチルス属の耐熱菌、あるいは常温菌、大腸菌など広範な微生物から取得することができる。一般的に耐熱菌から精製された酵素を固定すると、固定化体の耐熱特性も良い。ただし同時に利用する酵素の至適温度により同時に固定化するD-乳酸脱水素酵素の最も適したものは変わってくる。例えば常温菌であるバチルス属最近から取得されたNADHオキシダーゼの至適温度は40℃付近で、固定化体ではわずかに至適温度が高くなるが、30〜45℃の範囲で利用することが望ましい。このような場合、耐熱菌のD-乳酸脱水素酵素を利用すると、乳酸からピルビン酸を生成する工程の反応速度が遅くなり、全体としての効率が低下する場合がある。一方常温菌の酵素を利用するとNADHオキシダーゼの動作温度で最大速度が得られる場合が多く、固定化量を低減できるなどの経済的効果が期待できるので望ましい。
【0014】
酵素の固定化量については、分析に用いる担体の粒度、試料の接触時間などにより変化するが、固定化カラムを利用したリアクター形式の場合、D-乳酸脱水素酵素については、ひとつのカラム内に5〜1000ユニット、より望ましくは50〜500ユニットを固定化することが望ましい。
同様にNADHオキシダーゼは2〜1000ユニット、より好ましくは10〜100ユニットを固定化することが望ましい。いずれの酵素についても、あまり活性が低いと反応の進行が遅くて所定の分析感度が得られないことが多く、逆に多すぎるとコストが上昇するためあまり望ましいことではない。
【0015】
該D−乳酸脱水素酵素固定化体の至適pHは、5.5〜8.5、より好ましくは6.5〜7.5である。これは同時に固定化体として使用するNADHオキシダーゼの至適pHと合致し、同時固定化体の使用時のpHとしては6.5〜7.5が望ましい。このpH域ではリン酸緩衝液、クエン酸―リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などが強い緩衝能を有するため好適である。
【0016】
また該D−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ同時固定化体の特性としては、その至適温度が40℃付近である。至適温度とは、反応の速度の上昇が続く限り温度を上げ、最大の速度が得られた際の温度を意味する。実際に分析を行う場合、室温の変動に測定結果が影響を受けることを避け、かつ酵素反応により生成した過酸化水素などの電気化学的活性物質の検出を行う電極の感度を高める上でも、多用される温度は30〜50℃である。
【0017】
固定化された酵素に試料を一定時間接触させて反応を進行させるには、試料液を一定時間撹拌しながら反応を起こさせるバッチ方式でも可能であるが、より高精度の測定を実施するためにフロー方式の測定を用いることが望ましい。
【0018】
もちろん、固定化する担体の表面積は一定であるので固定化できる酵素量には限界があるし、固定化する酵素量を増やすとコストも高くなる。そのため、できるだけ低い酵素量で効率的にD−乳酸から過酸化水素への変換を行うことが望ましい。そのための方法としては酵素固定化体と試料の接触時間を増加させることが挙げられる。接触時間を増加させるには担体の粒度を小さくして接触面積を増やす方法、流量を低下させる、あるいは酵素固定化体と試料が接触した状態で一定時間送液を停止させるとよい。
【0019】
さらに試料中にD−乳酸とL−乳酸が混合していると、D−乳酸検出用電極系を上流にL−乳酸検出用電極系を下流に配置するほうが良いことも判明した。
この理由は、D−乳酸脱水素酵素の反応が還元方向に偏っているため、L−乳酸オキシダーゼを利用したL−乳酸の酸化を上流側で行うとピルビン酸濃度が上昇してしまい、先に説明した式(1)の速度が低下するためである。
【0020】
D−およびL−乳酸の両方を検知するため、試料注入機構の下流に、D−乳酸脱水素酵素とNADHオキシダーゼの同時固定化体とその下流に電気化学的活性物質濃度を検知できる電極を配置し、さらに該電極の下流に L−乳酸オキシダーゼ固定化体、さらにその下流に電気化学的活性物質濃度を検知できる電極を配置して測定することにより両者を測定することが可能である。
【0021】
またD−乳酸をピルビン酸に変換するために緩衝液に添加するNADの量としては0.05〜10mM程度であるが、より好ましくは0.1〜5mM、さらに0.5〜5mMがより好適である。
FADは10〜1000μMの範囲で添加し、より好ましくは20〜100μMが好適である。あまり低濃度ではいずれも効果が認められないが、補酵素は緩衝液に利用する無機塩類に比べて高価であり、不必要に高濃度添加すると分析コストの上昇原因となる。
【0022】
以下に実際にD−およびL−乳酸の両方を検知するためにD−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ混合固定化体とL−乳酸オキシダーゼ固定化体を直列させて測定を行う場合を説明する。
【0023】
[実施例1]
(1)D−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ混合固定化カラムの製造方法
耐火レンガ(60〜80メッシュ)300mgをよく乾燥し、10%γ−アミノプロピルトリエトキシシランの無水トルエン溶液に1時間浸漬した後、よくトルエンで洗浄し、乾燥する。こうしてアミノシラン化処理した担体を5%グルタルアルデヒドに1時間浸漬した後、よく蒸留水で洗浄し、最後にpH7.0、100mMのリン酸ナトリウム緩衝液で置き換え、この緩衝液をできるだけ除いておく。このホルミル化した耐火レンガにpH7.0、100mMリン酸ナトリウム緩衝液にD−乳酸脱水素酵素を1100ユニット/mlの濃度で、NADHオキシダーゼ380ユニット/mlの濃度で溶解した混合溶液200μlを接触させ、0〜4℃で1日放置し固定化する。この酵素固定化担体を内径3.5mm、長さ60mmのカラムに充填した。
【0024】
(2)L−乳酸オキシダーゼ固定化カラムの製造
耐火レンガ(80〜100メッシュ)150mgをよく乾燥し、10%γ−アミノプロピルトリエトキシシランの無水トルエン溶液に1時間浸漬した後、よくトルエンで洗浄し、乾燥する。こうしてアミノシラン化処理した担体を5%グルタルアルデヒドに1時間浸漬した後、よく蒸留水で洗浄し、最後にpH7.0、100mMのリン酸ナトリウム緩衝液で置き換え、この緩衝液をできるだけ除いておく。このホルミル化した耐火レンガにpH7.0、100mMリン酸ナトリウム緩衝液にL−乳酸オキシダーゼ60ユニット/mlの濃度で溶解した溶液200μlを接触させ、0〜4℃で1日放置し固定化する。この酵素固定化担体を内径3.5mm、長さ30mmのカラムに充填した。
【0025】
(3)過酸化水素電極の製造方法
直径2mmの白金線の側面を熱収縮テフロン(登録商標)で被覆し、その線の一端をやすりおよび1500番のエメリー紙で平滑に仕上げる。この白金線を作用極、1cm角型白金板を対極、飽和カロメル電極を参照極として、0.1M硫酸中、+2.0Vで10分間の電解処理を行う。その後白金線をよく水洗した後、40℃で10分間乾燥し、10%γ−アミノプロピルトリエトキシシランの無水トルエン溶液に1時間浸漬後、洗浄する。牛血清アルブミン(シグマ社製、Fraction V)20mgを蒸留水1mlに溶解し、その中にグルタルアルデヒドを0.2%になるように加える。この混合液を手早く先に用意した白金線上に5μlのせ、40℃で15分間乾燥硬化する。これを過酸化水素電極とする。
また参照電極としてはAg/AgCl参照電極を用い、対極には導電性の配管を用いた。
【0026】
(4)測定装置
図1にフロー型の測定装置に前述のD−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ混合固定化カラムとL−乳酸オキシダーゼ固定化カラムを装着した本発明の乳酸の濃度測定装置の一例のフロー図を示した。緩衝液槽(1)より緩衝液をポンプ(2)により送液し、オートサンプラー(3)より試料5μlを注入する。送液された試料は、恒温槽(4)中に設置されたD−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ固定化カラム(5)第1の過酸化水素電極(6)を通過する。第1の過酸化水素電極(6)ではD−乳酸から過酸化水素が生成した電流値の変化をとらえる。
【0027】
さらに下流側ではL−乳酸オキシダーゼ固定化カラム(7)、第2の過酸化水素電極(8)を通過し、L−乳酸から過酸化水素が生成し電流値の変化をとらえる。
電流値の変化は、検出器(9)により検出される。さらに信号をパーソナルコンピューター(10)に送ることもできる。検出器(9)は電流値の測定演算の他、ポンプ(2)やオートサンプラー(3)の制御等を行う演算制御部を搭載している。
【0028】
この装置に流す緩衝液の組成は、100mMのリン酸ナトリウム、50mMの塩化カリウム、および1mMのアジ化ナトリウムを含みpHは7.0とし、さらに0.5mMのNADと10μMのFADを添加した。緩衝液の流速は1.0ml/分、恒温槽の温度は37℃とした。
【0029】
(5)D−乳酸、L−乳酸の測定
上記(4)において説明した装置を用いて、0、2、5、10mMのD−乳酸および0、1、2、5mMのL−乳酸溶液の各5μlずつを注入し、検出値を得た。
【0030】
上流側のD−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ混合固定化カラムと第1の過酸化水素電極での測定結果は表1のようになり図2に示す検量線が得られた。図2はD−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ固定化カラムと第1の過酸化水素電極で得られたD−乳酸の検量線である。ただしYは検出値(nA)Xは試料中の濃度(mM)である。またrは相関係数である。
D−乳酸検量線 Y= 2.11X+0.23 r=0.9997
【0031】
下流側のL−乳酸オキシダーゼ固定化カラムと第2の過酸化水素電極での結果は表2のようになり図3に示す検量線が得られた。図3はL−乳酸オキシダーゼ固定化カラムと過酸化水素電極で得られたL−乳酸の検量線である。ただしYは検出値(nA)Xは試料中の濃度(mM)である。またrは相関係数である。
L−乳酸検量線 Y= 25.33X+1.26 r=0.9997
【0032】
[実施例2]
以下に実際にD−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ混合固定化体のみを使用した系によって説明する。
実施例1において使用した測定系においてL−乳酸オキシダーゼ固定化カラムと第2の過酸化水素電極を使用せず、NADHに着目して測定を行った。
【0033】
(1)D−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ混合固定化体の製造方法
実施例1と同様にD−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼを固定化した。
(2)L−乳酸オキシダーゼ固定化カラム
本実施例ではL−乳酸オキシダーゼ固定化カラムは使用しなかった。
【0034】
(3)過酸化水素電極の製造方法
実施例1と同様に製造した過酸化水素電極を使用した。
(4)測定装置
実施例1と同様に図1のフロー型測定装置に前述のD−乳酸脱水素酵素とNADHオキシダーゼを混合固定した固定化カラムと過酸化水素電極を装着した。L−乳酸オキシダーゼ固定化体と第2の過酸化水素電極を利用しなかったことは除き、その他の分析条件は同様であった。
【0035】
(5)FAD添加効果の確認
緩衝液中に0、1、10、30、100μMのFADを各々添加した際のNADHの直線性を検討した。
その結果を表1に示す。表1には緩衝液に添加されたFAD濃度と、電流値YとNADHの濃度Xの間に、Y=AX+Bの直線関係があるとして最小二乗法で直線近似した場合の相関係数が0.999以上になる濃度範囲を調べた。単位濃度当たりの検量線の勾配Aを傾きとし、Bを切片として記録した。
【0036】
【表1】

【0037】
[評価]
NADHの直線濃度範囲は、FADが添加されていない場合(0μM)では、相関係数が0.999以上になる濃度範囲は2mMまでであった。
一方、FAD濃度が上昇するにつれて検量線の直線範囲は広がり、1および10μMで5mMまで、30および100μMで10mMまで直線となった。この濃度範囲内のFAD添加では、NADHの感度はほぼ一定で相関係数は0.999以上であった。
この結果より、FAD添加の効果が検量線の直線範囲の拡大にのみあり、感度すなわち検量線の傾きに影響を与えていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
食品製造、生分解性高分子製造分野で用いられるD−乳酸、L−乳酸の測定用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の乳酸の濃度測定装置の一例のフロー図。
【図2】D−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ固定化カラムと第1の過酸化水素電極で得られたD−乳酸の検量線。
【図3】L−乳酸オキシダーゼ固定化カラムと第2の過酸化水素電極で得られたL−乳酸の検量線。
【符号の説明】
【0040】
1 緩衝液槽
2 ポンプ
3 オートサンプラー
4 恒温槽
5 D−乳酸脱水素酵素・NADHオキシダーゼ混合固定化カラム
6 第1の過酸化水素電極
7 L−乳酸オキシダーゼ固定化カラム
8 第2の過酸化水素電極
9 検出器
10 パーソナルコンピューター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)緩衝液の流れを形成し、(2)該緩衝液流に試料を注入し、(3)注入点の下流側において、D−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの混合固定化体を緩衝液に接触させ、(4)前記混合固定化体に接触後の緩衝液中の電気化学的活性物質濃度を測定するD−乳酸の濃度測定方法。
【請求項2】
前記D−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの混合固定化体に送液する緩衝液がNADおよびFADを混合した緩衝液である請求項1記載のD−乳酸の濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載のD−乳酸の濃度測定方法においてさらに(5)前記緩衝液中の電気化学的活性物質濃度を測定後の緩衝液に、L−乳酸オキシダーゼ固定化体を接触させ、(6)前記L−乳酸オキシダーゼ固定化体に接触後の緩衝液中の電気化学的活性物質濃度を更に測定する、D−及びL−乳酸濃度の測定方法。
【請求項4】
緩衝液の流れを形成する機構と、該緩衝液流に試料を注入する機構と、該注入機構の下流側に配置したD−乳酸脱水素酵素およびNADHオキシダーゼの混合固定化体と、この混合固定化体の下流側に配置した電気化学的活性物質濃度を検知する第1の電極と、さらに下流側に配置したL−乳酸オキシダーゼ固定化体と、この固定化体の下流側に配置した電気化学的活性物質濃度を検知する第2の電極と、を備える乳酸濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−125956(P2006−125956A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313392(P2004−313392)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】