説明

乳酸の製造方法

【課題】微生物培養液中の無機塩を除去と同時に培養由来の不純物(タンパク質や多糖)を除去して、結晶化に有利な高純度の乳酸を分離する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離する工程を含む乳酸の製造方法であって、(a)該培養液をナノフィルターに通じて濾過する工程、続いて(b)乳酸を結晶化し単離する工程を含む、乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を単離する工程を含む、乳酸の製造方法に関する。詳しくは、微生物の発酵培養液をナノフィルターに通じることによって結晶化工程に適した純度の乳酸溶液が得られ、結晶化工程により、高光学純度、低着色度の乳酸を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、食品用、医薬用などといった用途の他に、生分解性プラスチックのモノマー原料として工業的用途にまで広く適用され、需要が増加している。2−ヒドロキシプロピオン酸、即ち乳酸は、微生物による発酵により生産されることが知られており、微生物はグルコースに代表される炭水化物を含有する基質を乳酸に変換する。乳酸は、カルボニルα位の炭素に結合している水酸基の立体により、(L)−体および(D)−体の光学異性体に分類される。微生物発酵によれば、微生物を適宜選択することにより(L)−体または(D)−体の乳酸を選択的に、または(L)−体及び(D)−体の混合体(ラセミ体)の乳酸を生産することができる。
【0003】
微生物発酵による乳酸の生産は、一般に、培養液中にアルカリ性物質を添加することで、微生物発酵に最適なpHに保持されながら行われる。微生物発酵により生産された酸性物質である乳酸の多くは、アルカリ性物質が添加さているために、培養液中で乳酸の多くは乳酸塩として存在している。また当然であるが培養することで様々な副産物(タンパク質や多糖など)が発生する。
【0004】
高純度の乳酸を得るためには結晶化工程が重要である。しかしながら結晶化工程を行うためには培養液中に存在する乳酸をフリー化することおよび可能な限り不純物を除去した状態にする必要がある。そのために従来は様々な工程を経て結晶化に適した乳酸水溶液を得ていた。
【0005】
例えば、乳酸をフリー化させるためには金属陽イオン類(カルシウムイオン、ナトリウムイオンなど)を除去すればよい。こうした金属陽イオン類を除去する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、イオン交換樹脂のイオン交換性能を保持するためには、定期的にイオン交換樹脂を再生する必要がある。例えばカルシウムイオン除去の場合、イオン交換樹脂の再生には大量の塩化ナトリウム水溶液を用いて行われるが、再生に伴い、大量の廃液が排出され、廃液処理に多額のコストがかかるという問題がある。さらに、繰り返しイオン交換樹脂の再生を行うとイオン交換樹脂の再生率が低下する上に、イオン交換性能が低下し、カルシウム塩の除去率が低下するという問題点があった。また不純物除去の観点からは例えばイオン化していない物質(タンパク質、多糖など)はイオン交換では取り除ききることができない。
【0006】
また乳酸のフリー化としては、溶媒抽出により金属陽イオン類の除去を行った後に、結晶化工程を行う方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、抽出に用いる溶媒の処理リサイクルが必要になるうえ、その溶媒に溶解しない不純物(例えばタンパク質など)を除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2001−506274号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表2004−509091号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述したしたような課題、すなわち、微生物発酵により乳酸を生産する場合において、培養液中の金属陽イオン類(無機塩)を除去と同時に培養由来の不純物(タンパク質や多糖)を除去するという課題を解決し、結晶化に有利な高純度の乳酸を分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、pH6.9以下に調整した微生物発酵培養液を、ナノフィルターに通じることにより、培養液中のカルシウムイオンなどの金属陽イオンを高効率で除去し、なおかつ培養由来のタンパク質や多糖などを除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、次の(1)〜(7)から構成される。
【0010】
(1)微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離する工程を含む乳酸の製造方法であって、(a)該培養液をナノフィルターに通じて濾過する工程、続いて(b)乳酸を結晶化し単離する工程を含む、乳酸の製造方法。
【0011】
(2)前記ナノフィルターの機能層がポリアミドを含む、(1)に記載の乳酸の製造方法。
【0012】
(3)前記ポリアミドが架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、化学式1で示される構成成分を含有することを特徴とする(2)に記載の乳酸の製造方法。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは−Hまたは−CH、nは0から3までの整数を表す。)
(4)前記(a)工程における培養液のpHが6.9以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0015】
(5)前記(a)工程における培養液の濾過圧が0.1MPa以上8MPa以下である、(1)から(4)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0016】
(6)前記培養液中の乳酸を乳酸塩として晶析してから、前記工程(a)に供する、(1)から(5)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0017】
(7)前記(b)工程において、2〜5℃/hで徐冷する、(1)から(6)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、発酵培養液中に存在する金属陽イオン類(無機塩)および発酵培養液由来のタンパク質や多糖などを簡単な操作で効率的に除去することができるため、結晶化工程において乳酸結晶化を効率的に行うことができるとともに、化学純度、光学純度に優れた乳酸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明で用いたナノフィルター膜分離装置の一つの実施の形態を示す概要図である。
【図2】本発明で用いたナノフィルター膜分離装置のナノフィルターが装着されたセル断面図の一つの実施の形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0021】
微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を単離する工程を含む乳酸の方法であって、(a)該培養液をナノフィルターに通じて濾過する工程、続いて(b)乳酸を結晶化し単離する工程を含むものである。
【0022】
本発明の乳酸の製造方法で用いるナノフィルターとは、ナノ濾過膜(ナノフィルトレーション膜、NF膜)とも呼ばれるものであり、「一価のイオンは透過し、二価のイオンを阻止する膜」と一般に定義される膜である。数ナノメートル程度の微小空隙を有していると考えられる膜で、主として、水中の微小粒子や分子、イオン、塩類等を阻止するために用いられる。
【0023】
また、「ナノフィルターに通じて濾過する」とは、微生物の発酵培養により生産された乳酸を含む培養液を、ナノフィルターに通じて濾過し、溶解または固体として析出している無機塩を除去または阻止または濾別し、乳酸溶液を濾液として透過させることを意味する。ここで、無機塩には、培養液中に含まれる無機塩のいずれの形態のものも含まれ、また培養液中において溶解しているもの、培養液中に析出し若しくは沈殿して含まれているもののいずれも含まれる。
【0024】
本発明で使用されるナノフィルターの素材には、酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材を使用することができるが、前記1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。複合膜としては、例えば、特開昭62−201606号公報に記載の、ポリスルホンを膜素材とする支持膜にポリアミドの機能層からなるナノフィルターを構成させた複合膜を用いることができる。
【0025】
これらの中でも高耐圧性と高透水性、高溶質除去性能を兼ね備え、優れたポテンシャルを有する、ポリアミドを機能層とした複合膜が好ましい。操作圧力に対する耐久性と、高い透水性、阻止性能を維持できるためには、ポリアミドを機能層とし、それを多孔質膜や不織布からなる支持体で保持する構造のものが適している。また、ポリアミドナノフィルターとしては、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応により得られる架橋ポリアミドの機能層を支持体に有してなる複合ナノフィルターが適している。
【0026】
ポリアミドを機能層とするナノフィルターにおいて、ポリアミドを構成する単量体の好ましいカルボン酸成分としては、例えば、トリメシン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメリット酸、ピロメット酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ピリジンカルボン酸などの芳香族カルボン酸が挙げられるが、製膜溶媒に対する溶解性を考慮すると、トリメシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびこれらの混合物がより好ましい。
【0027】
前記ポリアミドを構成する単量体の好ましいアミン成分としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ベンジジン、メチレンビスジアニリン、4,4’−ジアミノビフェニルエーテル、ジアニシジン、3,3’,4−トリアミノビフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニルエーテル、3,3’−ジオキシベンジジン、1,8−ナフタレンジアミン、m(p)−モノメチルフェニレンジアミン、3,3’−モノメチルアミノ−4,4’−ジアミノビフェニルエーテル、4,N,N’−(4−アミノベンゾイル)−p(m)−フェニレンジアミン−2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾイミダゾール)、2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾオキサゾール)、2,2’−ビス(4−アミノフェニルベンゾチアゾール)等の芳香環を有する一級ジアミン、ピペラジン、ピペリジンまたはこれらの誘導体等の二級ジアミンが挙げられ、中でもピペラジンまたはピペリジンを単量体として含む架橋ポリアミドを機能層とするナノフィルターは耐圧性、耐久性の他に、耐熱性、耐薬品性を有していることから好ましく用いられる。より好ましくは前記架橋ピペラジンポリアミドまたは架橋ピペリジンポリアミドを主成分とし、かつ、前記化学式(1)で示される構成成分を含有するポリアミドであり、さらに好ましくは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、前記化学式(1)で示される構成成分を含有するポリアミドである。また、前記化学式(1)中、n=3のものが好ましく用いられる。架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式(1)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とするナノフィルターとしては、例えば、特開昭62−201606号公報に記載のものが挙げられ、具体例として、架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、前記化学式(1)中、n=3のものを構成成分として含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製の架橋ピペラジンポリアミド系ナノフィルターのUTC60が挙げられる。
【0028】
ナノフィルターは一般にスパイラル型の膜エレメントとして使用されるが、本発明で用いるナノフィルターも、スパイラル型の膜エレメントとして好ましく使用される。好ましいナノフィルターエレメントの具体例としては、例えば、酢酸セルロース系のナノろ過膜であるGE Osmonics社製ナノフィルターのGEsepa、ポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノフィルターのNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノフィルターのNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、あるいは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式(1)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノフィルターモジュールSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610が挙げられ、より好ましくはポリアミドを機能層とするアルファラバル社製ナノフィルターのNF99またはNF99HF、架橋ピペラジンポリアミドを機能層とするフィルムテック社製ナノフィルターのNF−45、NF−90、NF−200またはNF−400、あるいは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式(1)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノフィルターモジュールSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610であり、さらに好ましくは架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ前記化学式(1)で示される構成成分を含有するポリアミドを機能層とする、東レ株式会社製のUTC60を含む同社製ナノフィルターモジュールSU−210、SU−220、SU−600またはSU−610である。
【0029】
本発明の乳酸の製造方法で用いるナノフィルターの膜分離性能としては、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム水溶液(500mg/L)を0.75MPaの濾過圧で評価したときの塩除去率が45%以上のものが好ましく用いられる。ここでいう塩除去率は前記塩化ナトリウム水溶液の透過水塩濃度を測定することにより、式1によって算出することができる。
【0030】
塩除去率=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}・・・(式1)。
【0031】
また、ナノフィルターの透過性能としては、0.3MPaの濾過圧において、膜単位面積当たりの塩化ナトリウム(500mg/L)の透過流量(m/m/day)が0.5以上0.8以下のナノフィルターが好ましく用いられる。膜単位面積当たりの透過流量(膜透過流束)の評価方法としては、透過液量および透過液量を採水した時間および膜面積を測定することで、式2によって算出することができる。
【0032】
膜透過流束(m/m/day)=透過液量/膜面積/採水時間・・・(式2)。
【0033】
(a)工程に供する培養液のpHは、6.9以下であることが好ましい。ナノフィルターは、溶液中にイオン化している物質の方が、イオン化していない物質に比べて除去または阻止しやすいことが知られていることから、培養液のpHを6.9以下とすることで、乳酸が培養液中で解離して乳酸イオンとして存在している割合を少なくし、乳酸が透過しやすくなる。また、pHが2.0未満である場合、ナノフィルターの損傷に影響するおそれがあることから、pHは2以上であることが好ましい。より好ましくは、培養液をpH5以下pH2以上とする。さらに、乳酸のpKaが3.86であることから、pHを3.86以下とする場合、乳酸イオンと水素イオンに解離していない乳酸の方が培養溶液中に多く含まれるため、効率的に乳酸をナノフィルターに透過することができることから、より好ましい。なお、培養液のpH調整は微生物発酵時であっても、微生物発酵後であってもよい。
【0034】
(a)工程に供する培養液中の乳酸の濃度は、特に限定されないが、高濃度であれば、透過液中に含まれる乳酸の濃度も高いため、濃縮する時間を短縮することができることからコスト削減に好適であり、例えば10g/L以上100g/L以下が好ましい。
【0035】
(a)工程においては圧力をかけてもよく、その濾過圧は、0.1MPa以上8MPa以下の範囲で好ましく用いられる。濾過圧が0.1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるおそれがある。また、濾過圧が0.5MPa以上7MPa以下で用いれば、膜透過流束が高いことから、乳酸溶液を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、1MPa以上6MPa以下で用いることが特に好ましい。
【0036】
(a)工程における、乳酸のナノフィルター透過性の評価方法としては、乳酸透過率を算出して評価することができる。乳酸透過率は、高速液体クロマトグラフィーに代表される分析により、原水(培養液)中に含まれる乳酸濃度(原水乳酸濃度)および透過液(乳酸含有溶液)中に含まれる乳酸濃度(透過液乳酸濃度)を測定することで、式3によって算出することができる。
【0037】
乳酸透過率(%)=(透過液乳酸濃度/原水乳酸濃度)×100・・・(式3)。
【0038】
(a)工程における、溶解または固体として析出している無機塩の除去、阻止または濾別の程度を評価する方法としては、無機イオン除去率(阻止率)を算出することで評価する方法が挙げられるが、この方法に限定されるものではない。無機塩阻止率(除去率)は、イオンクロマトグラフィーに代表される分析により、原水(培養液)中に含まれる無機塩濃度(原水無機塩濃度)および透過液(乳酸溶液)中に含まれる無機塩の濃度(透過液無機塩濃度)を測定することで、式4によって算出することができる。
【0039】
無機塩除去率(%)=(1−(透過液無機塩濃度/原水無機塩濃度))×100・・・(式4)。
【0040】
本発明の乳酸の製造方法において、(a)工程により得られる乳酸溶液を、さらに(b)乳酸を結晶化し単離する工程に供することで、高化学純度、高光学純度の乳酸を得ることができる。結晶化工程は従来知られている方法を用いればよく、例えば冷却(冷却結晶化)、濃縮(蒸発結晶化)により乳酸を過飽和状態にすれば良い。すなわち、ナノフィルターに通じた乳酸溶液をエバポレーターに代表される濃縮装置で加熱濃縮し、水を蒸発させることで乳酸濃度を上げ、乳酸濃度として90%以上まで濃縮することが好ましく、より好ましくは95%以上まで濃縮することで乳酸結晶の回収率を向上させることができる。さらにこの高温になった高濃度乳酸溶液を好ましくは2から5℃/h、より好ましくは2℃/hの冷却速度で4℃以上15℃以下になるまで冷却することで過飽和されている乳酸が結晶となって析出する。析出した乳酸結晶は遠心分離、または定性濾紙を用いた吸引濾過等によって回収することができる。また、結晶を回収した後の母液は、培養液、ナノフィルターによる濾過工程、乳酸晶析工程等、各工程にリサイクルすることができ、トータルの乳酸回収率を高めることができる。
【0041】
また前記(a)工程の前に、培養液中の乳酸を乳酸塩として析出させ、定性濾紙等により濾別回収する晶析工程に供してもよい。乳酸塩の好ましい形態としては、乳酸カルシウム塩、乳酸マグネシウム塩、乳酸バリウム塩、乳酸リチウム塩、乳酸ナトリウム塩、乳酸カリウム塩、乳酸アンモニウム塩等の乳酸無機塩が挙げられ、これらの混合物であってもよい。乳酸を含む培養液を晶析工程に供することで、培養液中に含まれる発酵由来の糖、タンパク質など多くの不純物をあらかじめ除去することができ、その後の(a)工程におけるナノフィルターによる不純物除去効率をさらに高めることができる。また、晶析工程に供する前に、培養液をエバポレーターや逆浸透膜に代表される濃縮装置を用いて濃縮してもよい。培養液を濃縮することで、溶液中の乳酸の濃度を高めることができ、晶析工程における乳酸塩の回収効率を高めることができることから好ましい。
【0042】
さらに、晶析工程で回収した乳酸塩に酸性物質を添加した後、前記工程(a)に供することで乳酸を高効率で回収することができる。添加する酸性物質としては、硫酸、塩酸、炭酸、リン酸、硝酸などが挙げられる。具体的には、例えば乳酸カルシウムを含有する溶液に硫酸を添加し、該溶液中のカルシウム成分を難溶性硫酸塩である硫酸カルシウムとして沈殿、濾別する工程を行い、その濾液(乳酸を含む分離液)をナノフィルターに通じることで、より効果的にカルシウム成分を除去または阻止し、後段の結晶化工程でより高純度な乳酸を高収率で回収することができる。
【0043】
上記の通り得られた乳酸の光学純度は、乳酸溶液を高速液体クロマトグラフ法(HPLC)により分析することで評価することができる。また、乳酸結晶の着色度は、乳酸水溶液のAPHA単位色数により評価することができる。なお、APHA単位色数(ハーゼン単位色数)は、JISK0071−1(1998年10月20日制定)の測定法に従って求められる値である。
【0044】
以下、本発明の乳酸の製造方法に供される微生物の発酵培養による乳酸生産について説明する。
【0045】
微生物の発酵培養による乳酸生産に使用する発酵原料としては、培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である乳酸を良好に生産させうるものであればよく、炭素源、窒素源、無機塩類、及び必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、更には酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、グリセリンなども使用される。窒素源としてはアンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。
【0046】
本発明に使用する微生物が生育のために特定の栄養素(例えば、アミノ酸など)を必要とする場合には、その栄養物をそれ自体もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて使用してもよい。
【0047】
本発明において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。培養液に追加する発酵原料の組成は、目的とする乳酸の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0048】
本発明では、微生物の培養は、好ましくは通常pH3−8、温度20−40℃の範囲で行われる。培養液のpHはアルカリ性物質、好ましくは塩基性のカルシウム塩によって上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節することができる。塩基性カルシウム塩としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどが好ましく用いられる。
【0049】
微生物の培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、あるいは培養を加圧する、攪拌速度を上げる、通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
【0050】
本発明で使用される微生物については特に制限はないが、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、乳酸菌、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌などが挙げられる。動物細胞、昆虫細胞等の培養細胞も、本発明で使用される微生物に含まれる。前記微生物の中でも、酵母、乳酸菌および大腸菌のいずれかから選択されることが好ましい。使用する微生物は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
参考例1 乳酸生産能力を持つ酵母株の作製
乳酸生産能力を持つ酵母株を下記のように造成した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することでL−乳酸生産能力を持つ酵母株を造成した。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、La−Taq(宝酒造社製)、あるいはKOD-Plus-polymerase(東洋紡社製)を用い、付属の取扱説明に従って行った。
【0053】
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型としてSuperScript Choice System(Invitrogen社製)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを続くPCRの増幅鋳型とした。
【0054】
上記操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1および配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたKOD-Plus-polymeraseによるPCRによりL−ldh遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(TAKARA社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより各種L−ldh遺伝子(配列番号3)がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL−ldh遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてヒト由来L−ldh遺伝子発現プラスミドpL−ldh5(L−ldh遺伝子)を得た。
【0055】
ヒト由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−ldh5を増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.3kbのヒト由来LDH遺伝子、及びサッカロミセス・セレビセ由来のTDH3遺伝子のターミネーター配列含むDNA断片を増幅した。また、プラスミドpRS424を増幅鋳型として、配列番号6および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.2kbのサッカロミセス・セレビセ由来のTRP1遺伝子を含むDNA断片を増幅した。それぞれのDNA断片を1.5%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた1.3kb断片、1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCR法によって得られた産物を1.5%アガロースゲル電気泳動して、ヒト由来LDH遺伝子及びTRP1遺伝子が連結された2.5kbのDNA断片を常法に従い調製した。この2.5kbのDNA断片で出芽酵母NBRC10505株を常法に従いトリプトファン非要求性に形質転換した。
【0056】
得られた形質転換細胞がヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結されている細胞であることの確認は、下記のように行った。まず、形質転換細胞のゲノムDNAを常法に従って調製し、これを増幅鋳型とした配列番号8および配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより0.7kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。また、形質転換細胞が乳酸生産能力を持つかどうかは、SC培地(METHODS IN YEAST GENETICS 2000 EDITION、 CSHL PRESS)で形質転換細胞を培養した培養上澄に乳酸が含まれていることを下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定することで確認した。
【0057】
カラム:Shim-Pack SPR-H(株式会社島津製作所製)、移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)、反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)、検出方法:電気伝導度、温度:45℃。
【0058】
また、L−乳酸およびD−乳酸の濃度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
【0059】
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー株式会社製)、移動相 :1mM 硫酸銅水溶液、流速:1.0ml/min、検出方法 :UV254nm、温度 :30℃。
【0060】
また、L−乳酸の光学純度は式5で計算される。ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0061】
光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)・・・(式5)。
【0062】
HPLC分析の結果、4g/LのL−乳酸が検出され、D−乳酸は検出限界以下であった。以上の検討により、この形質転換体がL−乳酸生産能力を持つことを確認した。得られた形質転換細胞を酵母SW−1株として、続く実施例に用いた。
【0063】
参考例2 バッチ発酵によるL−乳酸の製造
微生物を用いた発酵形態として最も典型的なバッチ発酵を行い、その乳酸生産性を評価した。表1に示す乳酸発酵培地を用い、バッチ発酵試験を行った。該培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。微生物として参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、参考例1に示したHPLCを用いて評価し、グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。参考例2の運転条件を以下に示す。
【0064】
反応槽容量(乳酸発酵培地量):2(L)、 温度調整:30(℃)、反応槽通気量:0.2(L/min)、反応槽攪拌速度:400(rpm)、pH調整:1N 水酸化カルシウムによりpH4に調整。
【0065】
まず、SW−1株を試験管で5mlの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。温度調整、pH調整を行い、発酵培養を行った。この時の菌体増殖量は、600nmでの吸光度で15であった。回分発酵の結果を表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
実施例1 ナノフィルターを通じた乳酸溶液の結晶化
参考例2と同様の条件で乳酸発酵した培養液20L(乳酸濃度13g/L)を8,000gで15分間遠心分離することで菌体を取り除いた。次いで、図1に示す、膜濾過装置の原水槽1に上記で得られた培養液20Lを注入した。ナノフィルターモジュール2(架橋ピペラジンポリアミドナノフィルターモジュールSU−610、東レ株式会社製)を専用ベッセルにセットし、高圧ポンプ3の圧力を2MPaに調整して運転し、非透過液4、透過液5を回収した。透過液5には、5.6g/Lの乳酸が含まれていた。このナノフィルターを通じた乳酸溶液(10L)を、ロータリーエバポレーター(東京理化社製)を用いて、減圧下(0.1バール)、80℃で水を蒸発させて濃縮した。水の蒸発が観測されなくなったところで、大気開放し常圧にもどした。この溶液を2℃/hの冷却速度で22時間かけて15℃まで冷却した。冷却過程で、溶液温度が40℃になったところで乳酸の種結晶1gを添加した。こうして得られた乳酸結晶を遠心分離で固液分離にて回収した後、乾燥させたところ49.2g(結晶工程収率86%)の乳酸結晶を得ることができた。得られた乳酸結晶0.2gに超純水10mLを添加して完全に溶解させ、乳酸の光学純度を参考例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により分析し、式5に従って算出した結果、光学純度は99.9%であった。また、乳酸結晶9gを超純水1gに完全に溶解させて90%乳酸水溶液を調整し、着色度を比色計(日本電色工業株式会社製)によりAPHA単位色数として分析したところ、APHAは14であった。
【0069】
比較例1 ナノフィルターを通さない乳酸溶液の結晶化
参考例2と同様の条件で乳酸発酵した培養液20L(乳酸濃度13g/L)を8,000gで15分間遠心分離することで菌体を取り除いた。次いで、このナノフィルターを通さない乳酸溶液(10L)を、ロータリーエバポレーター(東京理化社製)を用いて、減圧下(0.1バール)、80℃で水を蒸発させて濃縮した。水の蒸発が観測されなくなったところで、大気開放し常圧にもどした。この溶液を2℃/hの冷却速度で22時間かけて15℃まで冷却した。冷却過程で、溶液温度が40℃になったところで乳酸の種結晶1gを添加した。こうして得られた乳酸結晶を遠心分離で固液分離にて回収した後、乾燥させたところ18g(結晶工程収率13%)の乳酸結晶を得ることができた。得られた乳酸結晶0.2gに超純水10mLを添加して完全に溶解させ、乳酸の光学純度を参考例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により分析し、式5に従って算出した結果、光学純度は99.9%であった。また、乳酸結晶9gを超純水1gに完全に溶解させて90%乳酸水溶液を調整し、着色度を比色計(日本電色工業株式会社製)によりAPHA単位色数として分析したところ、APHAは46であった。
【0070】
実施例2〜5 様々な素材のナノフィルターを通じた乳酸溶液の結晶化
参考例2と同様の条件で乳酸発酵した培養液20L(乳酸濃度13g/L)を8,000gで15分間遠心分離することで菌体を取り除いた。次いで、図1に示す、膜濾過装置の原水槽1に上記で得られた培養液20Lを注入した。図2の符号7に示される90φナノフィルターとして、架橋ピペラジンポリアミドナノフィルター“UTC60”(ナノフィルター1;東レ株式会社製)、架橋ピペラジンポリアミドナノフィルター“NF−400”(ナノフィルター2;フィルムテック製)、ポリアミドナノフィルター“NF99”(ナノフィルター3;アルファラバル製)、酢酸セルロースナノフィルター“GEsepa”(ナノフィルター4;GE Osmonics製)をそれぞれステンレス(SUS316製)製のセルにセットし、高圧ポンプ3の圧力を2MPaに調整して運転し、非透過液4、透過液5を回収した。透過液5に含まれる乳酸濃度は実施例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて分析した。また、原水槽1、透過液5に含まれる、カルシウムイオンの濃度をイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により以下の条件で分析し、カルシウムイオンの除去率を計算した。
【0071】
カルシウムイオン;カラム(CS12A(DIONEX製))、溶離液(20mMメタンスルホン酸)、温度(35℃)。
【0072】
このナノフィルターを通じた乳酸溶液(1L)を、ロータリーエバポレーター(東京理化社製)を用いて、減圧下(0.1バール)、80℃で水を蒸発させて濃縮した。水の蒸発が観測されなくなったところで、大気開放し常圧にもどした。この溶液を2℃/hの冷却速度で22時間かけて15℃まで冷却した。冷却過程で、溶液温度が40℃になったところで乳酸の種結晶0.1gを添加した。こうして得られた乳酸結晶を遠心分離で固液分離にて回収した後、乾燥することで乳酸結晶を得た。得られた乳酸結晶の重量を測定して結晶工程収率を算出し、乳酸の光学純度、90%乳酸水溶液の着色度を実施例1と同様の条件でそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)、比色計(日本電色工業株式会社製)を用いて分析した。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例6〜9 乳酸カルシウムの晶析工程を経た乳酸の製造
(培養液中の乳酸カルシウムの晶析)
参考例2と同様の条件で乳酸発酵した培養液20L(乳酸濃度13g/L)を8,000gで15分間遠心分離することで菌体を取り除いた。また、乳酸の結晶化工程における光学純度の向上効果について検証することを目的として、この培養液50LにD−乳酸(和光純薬株式会社製)6.6gを添加して光学純度を意図的に低下させ、光学純度98.0%のL−乳酸含有培養液を調製した。この培養液(50L)を、ロータリーエバポレーター(東京理化社製)を用いて、減圧下(0.1バール)、80℃で培養液が7Lとなるまで濃縮した。次いで、濃縮した培養液を10℃で24時間かけて冷却し、乳酸カルシウムを析出させた。析出した乳酸カルシウムは、定性濾紙No2(アドバンテック株式会社製)を用いて吸引濾過により回収し、0.5Lの超純水で洗浄した。乳酸カルシウム(含水)の回収量は1.1kgであった。
【0075】
(酸性物質添加による解離乳酸溶液の調製)
前記乳酸カルシウム1kgに超純水10Lを添加して溶解し、乳酸カルシウム水溶液とした。次いで、pHが2.6になるまで濃硫酸(和光純薬工業株式会社製)を滴下後、1時間25℃で攪拌し、溶液中の乳酸カルシウムを乳酸と硫酸カルシウムに変換した。次いで、沈殿した硫酸カルシウムを定性濾紙No2(アドバンテック株式会社製)を用いて吸引濾過により、沈殿物を濾別し、濾液10Lを回収した。透過液中の乳酸濃度を参考例1と同様の条件で測定した結果、48g/Lであった。また、原水槽1、透過液5のカルシウムイオンは実施例2〜5と同様の条件で、硫酸イオンは以下の条件でイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)を用いて分析した。
【0076】
硫酸イオン;カラム(AS4A−SC(DIONEX製))、溶離液(1.8mM炭酸ナトリウム/1.7mM炭酸水素ナトリウム)、温度(35℃)。
【0077】
(ナノフィルターを通じた乳酸溶液の結晶化)
前記乳酸溶液2L(乳酸濃度48g/L)を用いた以外は、実施例2〜5と同様の条件でナノフィルター1〜4を用いて乳酸溶液の濾過実験を行った。透過液5を回収し、透過液中の乳酸の光学純度を実施例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)を用いて分析した。
【0078】
このナノフィルターを通じた乳酸溶液(1L)を、実施例2〜5と同様の条件で乳酸の結晶化工程に供した。得られた乳酸結晶の重量を測定して結晶工程収率を算出し、乳酸の光学純度、90%乳酸水溶液の着色度を実施例1と同様の条件でそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)、比色計(日本電色工業株式会社製)を用いて分析した。結果を表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
比較例2 乳酸カルシウムの晶析工程を含む、ナノフィルターを通さない乳酸溶液の結晶化
参考例2と同様の条件で乳酸発酵した培養液20L(乳酸濃度13g/L)を実施例6と同様、乳酸カルシウムの晶析工程、酸性物質添加工程に供して、解離乳酸溶液48g/Lを得た。この乳酸溶液(1L)を、ロータリーエバポレーター(東京理化社製)を用いて、減圧下(0.1バール)、80℃で水を蒸発させて濃縮したところ、濃縮過程で硫酸カルシウムが析出した。水の蒸発が観測されなくなったところで、大気開放し常圧にもどした。この溶液を2℃/hの冷却速度で22時間かけて15℃まで冷却した。冷却過程で、溶液温度が40℃になったところで乳酸の種結晶0.1gを添加した。析出物を固液分離にて回収したところ、該析出物は乳酸と硫酸カルシウムの混合物として得られたため、乳酸結晶の分離回収には至らなかった。
【0081】
以上の実施例及び比較例の結果から、ナノフィルターに通じることにより、結晶化工程に適した乳酸水溶液が得られることが明らかとなった。また、培養液をナノフィルターに通じる前に、乳酸塩の晶析工程に供することで、結晶化工程の収率が向上し、さらに、化学純度、光学純度に優れた乳酸を得ることが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の乳酸の製造方法により得られる乳酸は、食品、医薬品のほか、生分解性プラスチックであるポリ乳酸のモノマー原料として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0083】
1 原水槽
2 ナノフィルターモジュールまたはナノフィルターが装着されたセル
3 高圧ポンプ
4 非透過液の流れ
5 透過液の流れ
6 高圧ポンプにより送液された培養液の流れ
7 ナノフィルター
8 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離する工程を含む乳酸の製造方法であって、(a)該培養液をナノフィルターに通じて濾過する工程、続いて(b)乳酸を結晶化し単離する工程を含む、乳酸の製造方法。
【請求項2】
前記ナノフィルターの機能層がポリアミドを含む、請求項1に記載の乳酸の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミドが架橋ピペラジンポリアミドを主成分とし、かつ、化学式1で示される構成成分を含有することを特徴とする請求項2に記載の乳酸の製造方法。
【化1】

(式中、Rは−Hまたは−CH、nは0から3までの整数を表す。)
【請求項4】
前記(a)工程における培養液のpHが6.9以下である、請求項1から3のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項5】
前記(a)工程における培養液の濾過圧が0.1MPa以上8MPa以下である、請求項1から4のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項6】
前記培養液中の乳酸を乳酸塩として晶析してから、前記工程(a)に供する、請求項1から5のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程において、2〜5℃/hで徐冷する、請求項1から6のいずれかに記載の乳酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−201506(P2009−201506A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14029(P2009−14029)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】