説明

乳酸生成に効果的な材料および方法

【課題】本発明は、乳酸生成に効果的な材料および方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、乳酸の生成のために構築されたエタノール生成大腸菌K011の派生物を提供する。本発明の形質転換された大腸菌を、競合する経路をコードする遺伝子を欠失させることによって調製し、その後性能が改良された変異株を増殖に基づいて選択する。これらの形質転換された大腸菌は、食品および工業用途での使用のための乳酸供給の増加をもたらすために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳酸生成に効果的な材料および方法に関する。なお、米国仮出願第60/706,887号(2005年8月10日出願);同第60/761,576号(2006年1月24日出願);および同第60/799,619号(2006年5月11日出願)の恩典を主張する。
【0002】
政府援助
本発明は、米国エネルギー省(Department of Energy)から認可番号(grant number)USDOE-DE FG02-96ER20222を受け、かつ米国農務省(United States Department of Agriculture)との共同でエネルギー省から認可番号USDA & DOE Biomass RDI DE FG36-04GO14019を受けて、授与された助成金の下での政府援助によりなされた。また、本発明は、認可番号01-35504-10669および00-52104-9704を受けて、米国農務省からの政府援助によりなされた。同政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
乳酸は一般に保存、風味付け、および酸性度を目的とする食品添加物として使用されている。また、乳酸は生分解性プラスチック、すなわちポリ乳酸(PLA)の製造にも使用されている。石油関連製品の再生可能な代替品としてのPLAの使用は急速に拡大している(非特許文献1)。PLAの物理的特性および生物学的分解の速度は、キラル基質、D-乳酸およびL-乳酸の比を操作することによって制御できる(非特許文献2)。世界的な乳酸市場は、年間100,000トンを超えると推定されており、新しいPLA設備が稼働すると今後数年間でかなり市場は増加することが予想される。
【0004】
例えば、生分解性溶媒乳酸エチル(乳酸の誘導体)に対する需要は、近い将来、かなり増加することが予想されている。乳酸エステルは、毎年米国で使用される380万トンの溶剤の80%に取って代わる可能性があると予測されている。この溶剤は無毒で、電子機器製造において、塗料および被覆剤において、繊維製品において、洗剤および脱脂剤、接着剤、印刷ならびに脱インキを含む、多くの有用な用途がある。
【0005】
発酵による乳酸生成方法は、D異性体とL異性体双方の混合物が生じる化学合成よりも好まれる場合が多い。微生物発酵の生成物は、用いる生物に依存する。微生物発酵では、2種類の異性体の混合物をもたらすことも、または立体特異的な形態の光学的に純粋な乳酸をもたらすこともできる。生成物の所望の立体特異性は使用目的に依存する。
【0006】
乳酸桿菌(Lactobacilli)を用いた細菌による発酵は、乳酸の工業生産に一般的であるが、これらの発酵は稀にしか光学的に純粋な生成物を生じない。さらに、これらの細菌の選好姓の性質のため、多量の補助栄養素を増殖培地へ添加する必要があり、追加費用が増し、精製がより困難となる。さらに、乳酸を生成するための発酵法は、非常に非効率的で、前述の予期される市場拡大の経済的実現可能性を確実にするために改善する必要がある。
【0007】
酵母菌は乳酸をさほど量を生成することはできないが、組換え型サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)菌株は、乳酸桿菌起源かまたはウシ起源のldh遺伝子を含むことが記載されている(特許文献1および非特許文献3)。2〜4%(w/v)までの乳酸を生成することは可能であるものの、これらの菌株は生産性が低く、グルコースの大部分がエタノールへ変換される。
【0008】
糸状菌類リゾプス・オリゼ(Rhizopus oryzae)(R.アルヒズス(R. arrhizus)と同義)もまた、乳酸の工業生産に用いられている。R.オリゼ(R. oryzae)は、化学的に定義された培地中で、グルコースを多量の光学的に純粋なL-(+)-乳酸へ好気的に変換することができる。リゾプス属による乳酸生成に関する研究は、主に最少増殖培地における生成物の精製が容易であること、およびこの菌類が複合糖質と五炭糖の双方を利用することのできる能力を有することから継続されている(特許文献2)。このことにより、価値の低い農業バイオマスの乳酸への変換にこの菌類を利用することが可能となる。残念ながら、リゾプス(Rhisopus)属および他の菌類の遺伝子改変による乳酸生成の改変能力は限られていた。
【0009】
大腸菌(Escherichia coli)K-12に基づく生体触媒が、D-(-)-ラクテート生成のために設計されているが、複合培地または最少培地において、10%グルコースまたはスクロースを完全に発酵させることはできなかった(非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。
【0010】
大腸菌生体触媒の1つであるSZ63(pLOI3501)は、プラスミド上で大腸菌B由来のcscR' cscA' cscKB' 遺伝子を機能的に発現することによるスクロース発酵を目的として開発された(非特許文献8)。5%グルコースまたはスクロースの十分な発酵が可能であるにもかかわらず、より高い濃度の糖はこの生体触媒によって完全には代謝されず、プラスミドの維持のために継続的に抗生物質による選択を必要とした。
【0011】
大腸菌株Bに由来する他の生体触媒、例えばK011(寄託番号ATCC 55124)は、もともとスクロースを発酵させる能力がある(非特許文献9)。菌株SZ63と同様に、より高い濃度の糖はこの生体触媒によって完全には代謝されず、プラスミドの維持のために継続的に抗生物質による選択を必要とする。
【0012】
従って、生物による汎用化学製品生成に関連する費用を削減するため、発酵率、生成物力価、および収量の増加を伴う、改良された乳酸生体触媒に対して、必要性が今もなお存在する(非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;非特許文献13;および非特許文献14)。
【0013】
【特許文献1】特許国際公開公報第99/14335号
【特許文献2】米国特許第4,963,486号
【非特許文献1】Agrawal, A.K.、「Advances in the production of poly(lactic acid) fibers. A review.」、J. Macromolec. Science-Polymer Rev., 4、2003年、p.479-503
【非特許文献2】Narayananら、「L-(+) lactic acid fermentation and its product polymerization」、Elect. J. Beiotechnol., 7、2004年、p.167-179
【非特許文献3】Adachiら、「Modification of metabolic pathways of Saccharomyces cerevisiae by the expression of lactate dehydrogenase and deletion of pyruvate decarboxylase genes for the lactic acid fermentation at low pH value」、J. Ferment. Bioeng. 86、1998年、p.284-289
【非特許文献4】Chang, D.E.ら、「Homofermentative production of D-(-) or L-(+) lactate in metabolically engineered Echerichia coli RR1」、Appl Environ Microbiol 65、1999年、p.1384-1389
【非特許文献5】Dien, B.S.ら、「Recombinant Escherichia coli engineered for production of L-lactic acid from hexose and pentose sugars」、J Ind. Microbiol Biotechnol. 27、2001年、p.259-264
【非特許文献6】Zhou S., Ingram L.O.、「Engineering endoglucanase-secreting strains of ethanologenic Klebsiella oxytoca P2」、J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 22、1999年、p.600-607
【非特許文献7】Zhu, J.およびShimizu, K.、「The effect of pfl gene knockout on the metabolism for optically pure D-lactate production by Escherichia coli」、Appl Microbiol and Biotechnol. 64、2004年、p.367-375
【非特許文献8】Shukla, V.B.ら、「Production of D-(-)-lactate from sucrose and molasses」、Biotechnol Lett., 26、2004年、p.689-693
【非特許文献9】Moniruzzaman, M.ら、「Isolation and molecular characterization of high-performance cellobiose-fermenting spontaneous mutants of ethanologenic Escherichia coli K011 containing the Klebsiella oxytoca casAB operon」、Appl. Environ. Microbiol. 63、1997年、p.4633-4637
【非特許文献10】Arntzen, C.E., Dale, B.E.、「Biobased industrial products, priorities for research and commercialization」、National Academy Press, Washington, D.C.、1999年
【非特許文献11】Chotani, G.ら、「The commercial production of chemicals using pathway engineering」、Biochim. Biophys. Acta 1543、2000年、p.434-455
【非特許文献12】Datta, R.ら、「Technological and economic potential of poly (lactic acid) and lactic acid derivatives」、FEMS Microbiol. Rev. 16、1995年、p.221-231
【非特許文献13】Hofvendahl, K.およびHahn-Hagerdal, B.、「Factors affecting fermentative lactic acid production from renewable resources」、Enzy. Microbiol. Technol 26、2000年、p.87-107
【非特許文献14】Ohara, H.ら、「Development of industrial production of high molecular weight poly-L-lactate from renewable resources」、Nippon Kagaku Kaishi 6、2001年、p.323-331
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、乳酸生成に効果的な材料および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、乳酸の生成に有用な新規な微生物を提供する。さらに、本発明は、任意の多数の宿主生物、好ましくは大腸菌を形質転換して、特定の遺伝子を発現および/または抑制し、宿主生物を発酵性の培地で培養すると乳酸が生成されるといった使用のための新規構築物を提供する。従って、本発明の材料および方法を用いて、宿主生物での乳酸生成を促進することができ、それによって食品および工業用途での使用のための乳酸の供給増加をもたらすことができる。
【0016】
特定の態様では、エタノール生成大腸菌(Escherichia coli、本明細書においてE. coliとも呼ばれる)K011の派生物がD-(-)-ラクテートの生成のために構築される。本発明の別の態様では、大腸菌はL-(+)-ラクテートの生成のために本発明に従って操作される。
【0017】
本発明に従って、競合経路をコードする遺伝子を欠失させることにより大腸菌K011に基づく新規生体触媒を調製し、続いてグルコースおよび/またはスクロースを発酵させる能力が改良された変異株を、増殖に基づいて選択する。
【0018】
本発明の操作された微生物は、好ましくはスクロースの利用のために天然の遺伝子を含む。本発明の特定の操作された大腸菌株は10%グルコースまたはスクロースを発酵させて、発酵培養液によるが、約88%〜約95%の範囲の代謝された糖に基づく収量で、発酵培養液1lあたり1モルを超えるD-(-)-ラクテートを生成することができる。本発明の他の操作された大腸菌株は、グルコースまたはスクロースを発酵させてL-(+)-ラクテートを生成することができる。
【0019】
本発明(1)は、大腸菌(E. coli)株KO11(ATCC 55124)に対する以下の遺伝子改変を含む、遺伝子改変大腸菌株である:a)クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)casAB遺伝子の、lacYの終止コドンの後への挿入;b)エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)celY遺伝子のfrdA遺伝子への組み込み;c)focA-Z.mobilis pdc-adhB-pflBの不活性化または欠失;d)天然の大腸菌アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子の不活性化または欠失;およびe)アセテートキナーゼ(ackA)遺伝子の不活性化または欠失。
本発明(2)は、不活性化または欠失した抗生物質耐性遺伝子をさらに含む、本発明(1)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(3)は、クレブシエラ・オキシトカcasAB遺伝子およびエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において挿入後に不活性化されているかまたは欠失している、本発明(1)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(4)は、クレブシエラ・オキシトカcasAB遺伝子およびエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において挿入後に不活性化されているかまたは欠失している、本発明(2)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(5)は、代謝的に進化している、本発明(2)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(6)は、代謝的に進化している、本発明(3)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(7)は、代謝的に進化している、本発明(4)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(8)は、抗生物質遺伝子がFLPリコンビナーゼにより欠失される、本発明(1)〜(7)のいずれか一発明の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(9)は、SZ186である、本発明(7)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(10)は、SZ132である、本発明(5)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(11)は、菌株のmgsA遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において不活性化されているかまたは欠失している、本発明(1)〜(5)のいずれか一発明の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(12)は、mgsA遺伝子が不活性化されているかまたは欠失している大腸菌株SZ194(NRRL B30863)を含む、遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(13)は、代謝的に進化している、本発明(12)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(14)は、TG112、TG113、またはTG114である、本発明(13)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(15)は、不活性化または欠失した天然のldhA遺伝子と、組換えによって挿入されたL-特異的乳酸デヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子とをさらに含む、本発明(11)または(12)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(16)は、L-特異的乳酸デヒドロゲナーゼ異種遺伝子が、ldhL遺伝子(例えば、P.アシディラクチシ(P. acidilactici)から得たldhL遺伝子)である、本発明(15)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(17)は、代謝的に進化している、本発明(15)または(16)の遺伝子改変大腸菌株である。
本発明(18)は、以下からなる群より選択される、遺伝子改変大腸菌株である:SZ132(NRRL B-30861);SZ186(NRRL B-30862);SZ194(NRRL B-30863);TG103(NRRL B-30864);TG102(NRRL B-30921);TG105(NRRL B-30922);TG106(NRRL B-30923);TG107(NRRL B-30924);TG108(NRRL B-30925);TG112(NRRL B-30926);TG113(NRRL B-30927);TG114(NRRLB-30928);TG128(NRRL B-30962);TG129(NRRL B-30963);およびTG130(NRRL B-30964)。
本発明(19)は、本発明(1)〜(18)のいずれか一発明の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培地に播種する段階、および遺伝子改変大腸菌株を培養または増殖する段階を含む、遺伝子改変大腸菌株の培養または増殖方法である。
本発明(20)は、D-(-)-乳酸の生成を可能とし、任意でD-(-)-乳酸を中和してD-(-)-ラクテートを形成することを可能にする条件下で、本発明(1)〜(14)のいずれか一発明の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培養する段階を含む、D-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸の生成方法である。
本発明(21)は、一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株がTG112、TG113、TG114、またはSZ194から選択される、本発明(20)の方法である。
本発明(22)は、L-(+)-乳酸の生成を可能とし、任意でL-(+)-乳酸を中和してL-(+)-ラクテートを形成することを可能にする条件下で、本発明(15)〜(17)のいずれか一発明の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培養する段階を含む、L-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸の生成方法である。
本発明(23)は、一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株がTG103、TG105、TG106、TG107、またはTG108である、本発明(22)の方法である。
本発明(24)は、遺伝子改変大腸菌株が無機塩培地で培養される、本発明(19)〜(23)のいずれか一発明の方法である。
本発明(25)は、無機塩培地が2%〜20%(w/v)の間の糖を含む、本発明(24)の方法である。
本発明(26)は、無機塩培地が2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、10%、10.5%、11%、11.5%、12%、12.5%、13%、13.5%、14%、14.5%、15%、15.5%、16%、16.5%、17%、17.5%、18%、18.5%、19%、19.5%、または20%(w/v)の糖を含む、本発明(25)の方法である。
本発明(27)は、糖が、グルコースまたはスクロースまたはグルコースとスクロースの組合せである、本発明(25)または(26)の方法である。
本発明(28)は、本発明(11)の遺伝子改変大腸菌株が、キラル的に純粋なD-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸の生成を可能とする条件下で培養される、本発明(20)の方法である。
本発明(29)は、本発明(15)〜(17)のいずれか一発明の遺伝子改変大腸菌株が、キラル的に純粋なL-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸の生成を可能とする条件下で培養される、本発明(22)の方法である。
本発明(30)は、キラル的に純粋なD-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸を生成する、本発明(21)の方法である。
本発明(31)は、キラル的に純粋なL-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸を生成する、本発明(23)の方法である。
本発明(32)は、キラル的に純粋なラクテートを精製する段階をさらに含む、本発明(28)〜(31)のいずれか一発明の方法である。
本発明(33)は、ラクテートが少なくとも0.5Mの濃度で生成される、本発明(20)〜(32)のいずれか一発明の方法である。
本発明(34)は、培地が、化学的に定義された無機塩培地またはNBS無機塩培地である、本発明(33)の方法である。
本発明(35)は、乳酸の収量が少なくとも90%である、本発明(20)〜(34)のいずれか一発明の方法である。
本発明(36)は、収量が少なくとも90%、90.5%、91%、91.5%、92%、92.5%、93%、93.5%、94%、94.5%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、または99%である、本発明(35)の方法である。
本発明(37)は、他の立体異性形態を伴う乳酸もしくはラクテートの立体異性形態の検出可能な混入が1つもないか、または特定の立体異性体のキラル純度が少なくとも99.9%である、本発明(29)〜(36)のいずれか一発明の方法である。
本発明(38)は、本発明(1)〜(18)のいずれか一発明の、一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株と、培地とを含む、組成物である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、乳酸生成に効果的な材料および方法が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のさらなる利点は、以下の説明から容易に明らかとなる。
【0022】
本発明は、種々の発酵条件で増殖した場合に乳酸を生成する能力のある新規微生物を提供する。また、本発明は、このような微生物を操作するための方法、ならびに本発明の新規微生物を用いて効果的かつ安定して乳酸を生成するための方法を提供し、その結果グルコースまたはスクロースなどの比較的安価な原産物から乳酸が高い収量でもたらされる。
【0023】
「乳酸」という用語は、本出願では遊離酸または塩形態の2-ヒドロキシプロピオン酸を指す。乳酸の塩形態は、中和剤、すなわち炭酸カルシウムまたは水酸化アンモニウムに関わらず「ラクテート」と呼ばれる。本明細書において述べられるように、乳酸は、乳酸のいずれの立体異性形態(L-(+)-乳酸またはD-(-)-乳酸)も指すことがある。「ラクテート」という用語は、ラクテートのいずれの立体異性形態(L-(+)-ラクテートまたはD-(-)-ラクテート)も指すことがある。本発明は、乳酸またはラクテートの単一の立体異性体を生成する微生物を提供する。本発明のいくつかの局面に従って生成される乳酸立体異性体またはラクテート立体異性体は、「キラル的に純粋」である。「キラル的に純粋な」という表現は、他の立体異性形態を伴う乳酸またはラクテートの立体異性形態の検出可能な混入が1つもない(特定の立体異性体のキラル純度が少なくとも99.9%である、99.9%を上回る(または99.9%以上である)ことを示す。メチルグリオキサル経路(mgsA)が欠失しているかまたは不活性化されている、本明細書において開示される遺伝子改変微生物は、「キラル的に純粋な」D-(-)-乳酸またはL-(+)-乳酸を生成することが可能である。
【0024】
本発明の特定の態様としては、本発明の操作された微生物を用いてL-(+)-乳酸が生成される。本発明の別の態様では、本発明の操作された微生物を用いてD-(-)-乳酸が生成される。
【0025】
一態様では、本発明は、グルコースおよび/またはスクロースの乳酸への変換を促進するために大腸菌を生体触媒として使用する。本発明に従って、種々の遺伝子を導入し、発現させることによって、微生物の代謝を改変することができる。本発明に従って、形質転換された微生物が種々の発酵条件で大量の乳酸を生成することができるように、種々の新規プラスミドを大腸菌に導入することができる。本発明の組換え型大腸菌は好ましくは、グルコースおよび/またはスクロースを含む培地で増殖させると、乳酸を安定して高い収量で生成するように、改変されている。
【0026】
本発明のプラスミドを含有する大腸菌宿主は、Agricultural Research Service Culture Collection (1815 N. University Street, Peoria, Illinois, 61604 U.S.A.)に寄託した。アクセッション番号および寄託日は以下のとおりである。

【0027】
本培養物は、米国特許法施行規則1.14条および米国特許法122条の下で係属中の本特許出願が米国特許商標庁長官(Commissioner of Patents and Trademarks)により認定されると決まるまで、培養物の利用を可能とすることを保証するという条件で寄託されている。本出願またはその後代物の対応する特許が申請される国において、この寄託物は、外国の特許法による要求に応じて利用可能である。しかし、寄託物が利用可能であるということが、行政措置により認可された特許権を侵害して本発明を実践する権利をなすものではないということは当然理解されるべきである。
【0028】
さらに、本寄託培養物は、微生物の寄託に関するブダペスト条約(Budapest Treaty for the Deposit of Microorganisms)の規定に従って保存され、一般に公開される。すなわち培養物は、寄託物のサンプル提供の最も新しい要求から少なくとも5年間、またいずれにしても、寄託日から少なくとも30年間、または培養物の開示を公開しうる任意の特許が法的効力をもつ期間、生存可能かつ汚染のない状態を保つために必要なあらゆる配慮をもって保存される。寄託機関が要求を受けた時に寄託物の状態によりサンプルを提供することができない場合、寄託者は、寄託物を交換する責務を受け入れる。本寄託培養物の一般への利用可能性に関するあらゆる規制は、それらを開示する特許の認可に際して解除されることはない。
【0029】
本発明の一態様により、種々の培地で細胞増殖およびラクテート生成を促進するよう操作された大腸菌B菌株(「SZ132」;寄託番号NRRL B-30861)が提供される。一態様では、SZ132菌株を以下の段階により構築し、D-ラクテート(乳酸)を生成することができる:
(a)セロビオース利用のためのクレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)(寄託番号ATCC 68564)casAB遺伝子をlacYの終止コドンの後ろへ組み込み、エンドグルカナーゼをコードするエルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)(寄託番号ATCC 55124)celY遺伝子をfrdA遺伝子へ組み込むことによって、大腸菌K011から菌株LY52を構築する段階(Ohta, K. et al. (1991)「Genetic improvement of Escherichia coli for ethanol production by chromosomal integration of Zymomonas mobilis genes encoding pyruvate decarboxylase and alcohol dehydrogenase II」Appl Environ Microbiol. 57:893-900; Moniruzzaman et al., 1997; Zhou and Ingram, 1999);
(b)菌株SZ63を構築するために用いた大腸菌K-12の特定の突然変異(菌株W3110)をLY52へ順次形質導入する段階(Zhou, S. et al. (2003)「Production of optically pure D-lactic acid in mineral salt medium by metabolically engineered Escherichia coli W3110」Appl Environ Microbiol. 69:399-407);
(c)菌株SZ31(菌株W3110)由来のΔfocA-pflB欠失のP1形質導入により、エタノール生成のためのZ.モビリス(Z. mobilis)遺伝子を排除する段階;
(d)菌株TC20由来のadhE突然変異のP1形質導入によって、天然の大腸菌アルコールデヒドロゲナーゼ生成を不活性化する段階(Zhou et al., 2003);
(e)菌株SZ61由来の突然変異(菌株 W3110)を用いてアセテートキナーゼ(ackA)を欠失させる段階(Zhou et al., 2003);
(f)選択に用いた抗生物質遺伝子をFLPリコンビナーゼによって取り除く段階(Zhou et al., 2003);ならびに
(g)段階(f)の抗生物質遺伝子を取り除く間にcasABの内部セグメントを欠失させる段階(または抗生物質遺伝子を取り除く段階の後にcasAB遺伝子の内部セグメントを欠失させる段階)。
【0030】
本発明の関連する態様は、菌株SZ132を形質転換して全ての外来遺伝子を取り除く段階をさらに含む。一態様では、クレブシエラ・オキシトカcasABおよびエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子を、直鎖DNAを用いる相同組換えによって菌株SZ132から欠失させ、次に菌株SZ132の構築の際に用いた抗生物質遺伝子を、FLPリコンビナーゼを用いて排除した。生じた菌株SZ186(寄託番号NRRL B-30862)は、天然の大腸菌遺伝子だけを含む。
【0031】
本発明の別の態様においては、種々の培地において細胞増殖および乳酸のL異性体の生成を促進するよう操作された大腸菌B菌株(「TG103」)が提供される。一態様では、TG103菌株は、以下の段階によって構築することができる:
(a)本明細書において記載されるような方法を用いて菌株SZ186を操作する段階;
(b)増殖の増大および/または乳酸生成の増加を選択するために菌株SZ186を連続的な培養に供する段階(選択された菌株は菌株SZ194である);
(c)異種のL-乳酸遺伝子およびカナマイシンマーカーをSZ194の天然のldhA(D-乳酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子へ組み込み、コード領域の中央部分を欠失させてTG101を作製する段階;
(d)抗生物質遺伝子をFLPリコンビナーゼにより取り除いてTG102を作製する段階;ならびに
(e)予め播種しておいた培養物から毎日、1:100に希釈した培養液を用いて菌株TG102を数日間 (例えば約7日〜21日間、好ましくは、13日間)の連続的な植継ぎ(transfer)に供し、増殖の改良および/またはL-乳酸生成の増加を示す菌株を選択する段階(選択された菌株はTG103である)。
【0032】
本発明の特定の態様によれば、増殖の増加と乳酸生成の増加には関連がある。増殖および乳酸生成の改良された菌株の同時選択プロセスを「代謝の進化」と呼ぶ。また、本発明の特定の態様は、本出願により提供される遺伝子改変生物内の特定の遺伝子の不活性化または欠失を提供する。本発明の一局面では、遺伝子は、所望の活性を不活性化させるために欠失させる。機能を回復させるための逆突然変異の機会がないので、欠失によって最大の安定性が提供される。または、遺伝子の機能および/または発現を乱す核酸配列の挿入により遺伝子を不活性化することができる(例えば、P1形質導入または当技術分野において公知の他の方法)。本明細書において論じられるように一つまたは複数の特定のポリヌクレオチド配列の不活性化または欠失は、遺伝子の「改変」と呼ぶこともある。
【0033】
特定の遺伝子を宿主微生物へ導入するために用いられるベクターは、宿主微生物において複製可能であるかぎり、いかなるベクターであってもよい。本発明のベクターは、選択された宿主細胞においてクローニングベクターまたは発現ベクターとして作動可能であり得る。多数のベクターが当業者に公知であり、適切なベクターおよび宿主細胞の選択は、選定の問題である。ベクターは、例えば、バクテリオファージ、プラスミド、ウイルス、またはそのハイブリッド型、例えばManiatis, T. et al. (1989)「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」Cold Springs Harbor Laboratory; Ausubel, F.M. et al. (1995)「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley & Sons, Inc.; Miller, J.H. (1992)「A short course in bacterial genetics: A laboratory manual and handbook for Escherichia coli and related bacteria」Cold Spring Harbor Press; Sambrook, J. and Russell, D.W. (2001)「Molecular cloning: A laboratory manual」Cold Spring Harbor Pressに記載のものなどであってもよい。さらに、本発明のベクターは非融合ベクターまたは融合ベクターであってもよい。
【0034】
各特定のベクター内では、種々の部位が関心対象の核酸配列の挿入のために選択され得る。これらの部位は通常それを切断する制限酵素またはエンドヌクレアーゼによって指定される。ベクターは、遺伝子の末端配列に適合する制限酵素で消化することができ、配列を連結できる。連結は通常T4 DNAリガーゼなどのリガーゼを用いることによって達成される。
【0035】
組換えベクターを形成する際、選択したヌクレオチド断片のベクターへの挿入用に選定される特定の部位は、種々の要因によって決まる。これらには、発現させるポリペプチドのサイズおよび構造、宿主細胞成分およびそのタンパク質の混入による酵素分解に対する所望のポリペプチドの感受性、開始コドンおよび終止コドンの位置などの発現特性、ならびに当業者の認識する他の要因が挙げられる。これらの要因はどれも単独では全く特定のポリペプチドの挿入部位の選択を制御しない。それどころか、これらの要因のバランスを選定部位は反映するので、全ての部位が所与のタンパク質に対して等しく効果的であるとは限らない。
【0036】
種々のベクター-宿主細胞発現系を本発明の実践に用いることができる。細菌の菌株、例えば大腸菌は、本発明の実践に際して乳酸の生成に特に有用である。しかし、本明細書に記載される新規な発明は、種々の乳酸生成スキームに望ましい多数の宿主を用いて適用され得る。宿主菌株は、細菌、菌類または酵母起源であってよい。宿主菌株を選択する際に考慮され得る要素としては、基質範囲、耐久力、糖耐性、塩耐性、温度耐性、pH耐性、およびラクテート耐性が挙げられる。最も適切な宿主-ベクター系を確認することは、当業者の技術の範囲内にある。
【0037】
染色体欠失、組み込み、および除去可能な抗生物質耐性遺伝子のための方法は既に記載されている(Causey, T.B. et al. (2004)「Engineering Escherichia coli for efficient conversion of glucose to pyruvate」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:2235-2240; Datsenko, K.A., Wanner, B.L. (2000)「One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:6640-6645; Martinez-Morales, F. et al. (1999)「Chromosomal integration of heterologous DNA in Escherichia coli with precise removal of markers and replicons during construction」J. Bacteriol., 181:7143-7148; Zhou et al., 2003)。このような公知の方法の任意の1つまたはそれらの組合せを本発明の実践に用いてよい。
【0038】
プロモーターが宿主細胞において遺伝子機能に特異的な場合、宿主微生物(例えば、K.オキシトカcasABまたはE.クリサンテミcelY遺伝子)に存在する、遺伝子の発現のためのプロモーターとして、このプロモーターを使用できる。または、プロモーターの制御下で発現を得るために、外来プロモーターを、遺伝子をコードするDNAと連結させることも可能である。エシェリキア属(Escherichia)の細菌を宿主として用いる場合、このようなプロモーターとして、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、λファージのPRプロモーターおよびPLプロモーター、tetプロモーター、amyEプロモーター、spacプロモーターなどが使用できる。さらに、断片をプロモーターの制御下で発現させるために、pUC19のようにプロモーターを含有する発現ベクターを用いて、例えばK.オキシトカcasABをコードするDNA断片をベクターへ挿入することも可能である。
【0039】
染色体DNAの調製、PCR、プラスミドDNAの調製、DNAの消化および連結、形質転換、プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの設計および合成などのための方法は、当業者に周知の通常の方法であってよい。このような方法は、例えば、Sambrook, J. et al. (1989)「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Pressなどに記載されている。
【0040】
乳酸は、上記のように形質転換された微生物によってグルコースおよび/またはスクロースを乳酸へ変え、生成された乳酸を回収することにより生成することができる。本発明の一局面では、形質転換された生物が無機塩培地、例えばNBS無機塩培地で培養される場合に、0.5Mを上回るレベルで乳酸が生成され得る。
【0041】
本発明のベクターは、自己複製させても、または宿主のゲノムに組み込んでもよい。組み込みは、一般に相同組換えによって(例えば、染色体のアルギニン遺伝子に組み込まれるアルギニン選択マーカー)、またはベクター上のいかなる遺伝子とも無関係の染色体の部位で起こる。組み込みは、単一かまたは二重のクロスオーバー事象によって起こり得る。また、構築された同じ微生物で起こるこれらの組み込みおよび複製については多数有することも可能である。
【0042】
特定の態様では、本発明の操作された微生物の培養は、約0.5〜240時間、好気性条件下で行われる。培養の間、培養温度は好ましくは約25℃〜45℃に調整され、pHは好ましくは、5〜8に調整される。pH調整には無機もしくは有機の、酸性基質またはアルカリ性基質、ならびにアンモニアガスなどを用いることができる。
【0043】
本発明の微生物は、乳酸の生成に有用な特定の酵素を発現するためエシェリキア属に属する細菌を形質転換することによって得ることができる。好ましい実施態様では、本発明で使用され得るエシェリキア属に属する細菌は、大腸菌である。
【0044】
本発明の他の態様では、本発明で使用され得る細菌としては、限定されるものではないが、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、グルコノバクター・アサイイ(Gluconobacter asaii)、アクロモバクター・デルマルバ(Achromobacter delmarvae)、アクロモバクター・ビスコサス(Achromobacter viscosus)、アクロモバクター・ラクチカム(Achromobacter lacticum)、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)、アルカリゲネス・フェカーリス(Alcaligenes faecalis)、アルスロバクター・シトレウス(Arthrobacter citreus)、アルスロバクター・ツメセンス(Arthrobacter tumescens)、アルスロバクター・パラフィネウス(Arthrobacter paraffineus)、アルスロバクター・ヒドロカーボグルタミクス(Arthrobacter hydrocarboglutamicus)、アルスロバクター・オキシダンス(Arthrobacter oxydans)、オーレオバクテリウム・サペルダエ (Aureobacterium saperdae)、アゾトバクター・インディカス(Azotobacter indicus)、ブレビバクレリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)、ブレビバクテリウム・ディバリカツム(Brevibacterium divaricatum)、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・グロボサム(Brevibacterium globosum)、ブレビバクテリウム・フスカム(Brevibacterium fuscum)、ブレビバクテリウム・ケトグルタミカム(Brevibacterium ketoglutamicum)、ブレビバクテリウム・ヘルコルム(Brevibacterium helcolum)、ブレビバクテリウム・プシルム(Brevibacterium pusillum)、ブレビバクテリウム・テスタアセウム(Brevibacterium testaceum)、ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)、ブレビバクテリウム・インマリオフィラム(Brevibacterium immariophilium)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、ブレビバクテリウム・プロトファルミエ(Brevibacterium protopharmiae)、コリネバクテリウム・アセトフィラム(Corynebacterium acetophilum)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)、コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、エルウィニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エルウィニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)、エルウィニア・ヘルビコーラ(Erwinia herbicola)、エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)、フラボバクテリウム・ペレグリナム(Flavobacterium peregrinum)、フラボバクテリウム・フカタム(Flavobacterium fucatum)、フラボバクテリウム・アウランティナム(Flavobacterium aurantinum)、フラボバクテリウム・レナヌム(Flavobacterium rhenanum)、フラボバクテリウム・セワネンセ(Flavobacterium sewanense)、フラボバクテリウム・ブレベ(Flavobacterium breve)、フラボバクテリウム・メニンゴセプティカム(Flavobacterium meningosepticum)、ミクロコッカス属(Micrococcus)種CCM825、モルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)、ノカルディア・オパカ(Nocardia opaca)、ノカルディア・ルゴーサ(Nocardia rugosa)、プラノコッカス・ユーシナタス(Planococcus eucinatus)、プロテウス・レッゲリ(Proteus rettgeri)、プロピオニバクテリウム・シャーマニイ(Propionibacterium shermanii)、シュードモナス・シンキサンタ(Pseudomonas synxantha)、シュードモナス・アゾトフォルマンス(Pseudomonas azotoformans)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis)、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナス・アシドボランス(Pseudomonas acidovolans)、シュードモナス・ムシドレンス(Pseudomonas mucidolens)、シュードモナス・テストステロニ(Pseudomonas testosteroni)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス・ロドクラウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス属(Rhodococcus)種ATCC 15592)、ロドコッカス属(Rhodococcus)種ATCC 19070)、スポロサルシナ・ウレエ(Sporosarcina ureae)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ビブリオ・メチニコフィイ(Vibrio metschnikovii)、ビブリオ・チロゲネス(Vibrio tyrogenes)、アクチノマヅラ・マヅレ(Actinomadura madurae)、アクチノマイセス・ビオラセオクロモゲネス(Actinomyces violaceochromogenes)、キタサトスポリア・パルロサ(Kitasatosporia parulosa)、ストレプトマイセス・コエリコロル(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・フラベラス(Streptomyces flavelus)、ストレプトマイセス・グリセオラス(Streptomyces griseolus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・オリバセウス(Streptomyces olivaceus)、ストレプトマイセス・タナシエンシス(Streptomyces tanashiensis)、ストレプトマイセス・バージニエ(Streptomyces virginiae)、ストレプトマイセス・アンチバイオチクス(Streptomyces antibioticus)、ストレプトマイセス・カカオイ(Streptomyces cacaoi)、ストレプトマイセス・ラベンジュレ(Streptomyces lavendulae)、ストレプトマイセス・ビリドクロモゲネス(Streptomyces viridochromogenes)、アエロモナス・サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)、バシラス・プミルス(Bacillus pumilus)、バシラス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バシラス・チアミノリティカス(Bacillus thiaminolyticus)、エシェリキア・フロインディイ(Escherichia freundii)、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・ショットムレリ(Salmonella schottmulleri)、ザントモナス・シトリ(Xanthomonas citri)などが挙げられる。
【0045】
乳酸は、本発明に従って調製された形質転換微生物を含有する培養物を、スクロースおよび/またはグルコースと接触させることによって、反応混合物中に生成され得る。本発明の他の態様では、形質転換微生物の培養物から分離および回収された細胞;アセトン処理または凍結乾燥に供した、処理済みの形質転換微生物細胞;このような形質転換微生物細胞または処理済みの細胞から調製される細胞不含抽出物;このような細胞不含抽出物から分画された膜画分などの画分;あるいは形質転換微生物細胞、処理済みの細胞、細胞不含抽出物および画分を固定することにより作製できる固定された物質;以上のいずれかを独立にまたは組み合わせてスクロースおよび/またはグルコースと接触させて乳酸を生成する。微生物は、1種類の微生物からなっていてもよく、2種類以上の微生物の任意の混合物として用いられてもよい。
【0046】
発酵パラメータは、組換え酵素の生成に用いられる宿主生物の種類に依存する。増殖培地は、最少培地/定義された培地または完全培地/複合培地であってよい。発酵性の炭素源としては、六炭糖および五炭糖、デンプン、セルロース、キシラン、オリゴ糖、およびその組合せを挙げることができる。本発明に従って使用できる培地の一形態としては、Miller J.H. (1992)に記載されるように、改変されたLuria-Bertani(LB)培地(1リットル当たりDifcoトリプトン10g、Difco酵母抽出物5g、および塩化ナトリウム5gを含む)が挙げられる。本発明の他の態様では、本発明の構築した菌株の培養物は、NBS無機塩培地で増殖させてもよく(Causey et al., 2004に記載のとおり)、2%〜20%(w/v)の糖あるいは5%かまたは10%いずれかの糖(グルコースまたはスクロース)を補給してもよい。微生物はNBS無機塩培地中またはNBS無機塩培地上で培養することができる。NBS無機塩培地は、以下の成分(1リットルあたり)を含むか、本質的に以下の成分からなるか、または以下の成分からなる:KH2PO4 3.5g;K2HPO4 5.0g;(NH4)2HPO4 3.5g;MgSO4・7H2O 0.25g;CaCl2・2H2O 15mg;チアミン0.5mg;および微量金属保存液1ml、グルコース(例えば、プレート中2%または培養液中3%)、および1.5%寒天(プレートに対して)。微量金属保存液は0.1M HCl中に調製され、以下を含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる:(1リットルあたり)FeCl3 1.6g;CoCl2・6H2O 0.2g;CuCl2 0.1g;ZnCl2・4H2O 0.2g;NaMoO4 0.2g;H3BO3 0.05g。pH調整が必要な場合は、4-モルホリノプロパンスルホン酸(0.1M、pH7.1)を液体培地と固体培地の双方(濾過滅菌済)に加えることができる(さらに、任意で、10リットルの発酵に用いられる培地に含めてもよい)。また、最少培地は、スクシネート(1g・リットル-1)を唯一の炭素源(非発酵性基質)に用いて調製することができ、必要であればグルコース-最少培地への補充として加えることができる。特定の態様では、菌株構築の必要に応じて抗生物質を含めることができる。
【0047】
増殖およびラクテートの生成は、通常のバッチ発酵、流加発酵(fed batch fermentation)または連続発酵で実施することができる。特定の態様では、特定の宿主のための低酸素または嫌気性条件下で発酵を行うのが望ましい。他の態様では、ラクテート生成は、酸素とともに;および任意で、エアリフト発酵槽または同等の発酵槽を用いて実施することができる。
【0048】
発酵のpHは、宿主が増殖およびラクテート生成ができるように十分高くあるべきである。発酵培養液のpHの調整は、炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムなどの中和剤を用いて行ってよい。または膜技術、電気透析、溶媒抽出、および吸収性樹脂などの方法を用いて発酵の間に乳酸を継続的に取り出すことができる。任意の前記発酵法の選択および組み込みは、宿主菌株および好ましい後続処理に高度に依存する。
【0049】
本発明の種々の限定されない態様としては、以下が含まれる:
(1)大腸菌株KO11(ATCC 55124)に対する以下の遺伝子改変を含む、遺伝子改変大腸菌株:a)クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)casAB遺伝子の、lacYの終止コドンの後への挿入;b)エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)celY遺伝子の、frdA遺伝子への組み込み;c)focA-Z.mobilis pdc-adhB-pflBの不活性化または欠失;d)天然の大腸菌アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子の不活性化または欠失;およびe)アセテートキナーゼ(ackA)遺伝子の不活性化または欠失;
(2)不活性化または欠失した抗生物質耐性遺伝子をさらに含む、態様(1)の遺伝子改変大腸菌株;
(3)クレブシエラ・オキシトカcasAB遺伝子およびエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において挿入後に不活性化されているかまたは欠失している、態様(1)の遺伝子改変大腸菌株;
(4)クレブシエラ・オキシトカcasAB遺伝子およびエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において挿入後に不活性化されているかまたは欠失している、態様(2)の遺伝子改変大腸菌株;
(5)代謝的に進化している、態様(2)の遺伝子改変大腸菌株;
(6)代謝的に進化している、態様(1)または(3)の遺伝子改変大腸菌株;
(7)代謝的に進化している、態様(4)の遺伝子改変大腸菌株;
(8)抗生物質遺伝子がFLPリコンビナーゼにより欠失される、態様(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、または(7)の遺伝子改変大腸菌株;
(9)SZ186である、態様(7)の遺伝子改変大腸菌株;
(10)SZ132である、態様(5)の遺伝子改変大腸菌株;
(11)菌株のmgsA遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において不活性化されているかまたは欠失している、態様(1)、(2)、(3)、(4)、または(5)の遺伝子改変大腸菌株;
(12)mgsA遺伝子が不活性化されているかまたは欠失している大腸菌株SZ194(NRRL B30863)を含む、遺伝子改変大腸菌株;
(13)代謝的に進化している、態様(12)の遺伝子改変大腸菌株;
(14)TG112、TG113、またはTG114である、態様(13)の遺伝子改変大腸菌株;
(15)不活性化または欠損した天然のldhA遺伝子と、組換えによって挿入されたL-特異的乳酸デヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子とをさらに含む、態様(11)または(12)の遺伝子改変大腸菌株;
(16)L-特異的乳酸デヒドロゲナーゼ異種遺伝子が、ldhL遺伝子(例えば、P.アシディラクチシ(P. acidilactici)から得たldhL遺伝子)である、態様(15)の遺伝子改変大腸菌株;
(17)代謝的に進化している、態様(15)または(16)の遺伝子改変大腸菌株;
(18)TG112、TG113またはTG114、SZ194、SZ132、SZ186、またはTG103から選択される、遺伝子改変大腸菌株;
(19)態様(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、または(18)の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培地に播種する段階、および遺伝子改変大腸菌株を培養または増殖する段階を含む、遺伝子改変大腸菌株の培養または増殖方法;
(20)D-(-)-乳酸の生成を可能とし、任意でD-(-)-乳酸を中和してD-(-)-ラクテートを形成することを可能にする条件下で、態様(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、または(14)の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培養する段階を含む、D-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸の生成方法;
(21)一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株がTG112、TG113、TG114、またはSZ194から選択される、態様(20)の方法;
(22)L-(+)-乳酸の生成を可能とし、任意でL-(+)-乳酸を中和してL-(+)-ラクテートを形成することを可能にする条件下で、態様(15)、(16)、または(17)の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培養する段階を含む、L-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸の生成方法;
(23)一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株がTG103、TG105、TG106、TG107、またはTG108である、態様(22)の方法;
(24)遺伝子改変大腸菌株が無機塩培地で培養される、態様(19)、(20)、(21)、(22)、または(23)の方法;
(25)無機塩培地が2%〜20%(w/v)の間の糖を含む、態様(24)の方法;
(26)無機塩培地が2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、10%、10.5%、11%、11.5%、12%、12.5%、13%、13.5%、14%、14.5%、15%、15.5%、16%、16.5%、17%、17.5%、18%、18.5%、19%、19.5%、または20%(w/v)の糖を含む、態様(25)の方法;
(27)糖が、グルコースまたはスクロースまたはグルコースとスクロースの組合せである、態様(25)または(26)の方法;
(28)態様(11)の遺伝子改変大腸菌株が、キラル的に純粋なD-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸の生成を可能とする条件下で培養される、態様(20)の方法;
(29)態様(15)、(16)、または(17)の遺伝子改変大腸菌株が、キラル的に純粋なL-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸の生成を可能とする条件下で培養される、態様(22)の方法;
(30)キラル的に純粋なD-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸を生成する、態様(21)の方法;
(31)キラル的に純粋なL-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸を生成する、態様(23)の方法;
(32)キラル的に純粋なラクテート(L-(+)-ラクテートまたはD-(-)-ラクテート)を精製する段階をさらに含む、態様(28)、(29)、(30)、または(31)の方法;
(33)ラクテート(例えば、L-(+)-ラクテートまたはD-(-)-ラクテート)が少なくとも0.5Mの濃度で生成される、態様(20)、(21)、(22)、(23)、(24)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)、(30)、(31)、または(32)の方法;
(34)培地が、NBS無機塩培地などの化学的に定義された無機塩培地である、態様(33)の方法;
(35)乳酸(L-(+)-乳酸またはD-(-)-乳酸)の収量が少なくとも90%であるか、または90%を上回る(または90%以上である)、態様(20)、(21)、(22)、(23)、(24)、(25)、(26)、(27)、(28)、(29)、(30)、(31)、(32)、(33)、または(34)の方法;
(36)収量が少なくとも90%、90.5%、91%、91.5%、92%、92.5%、93%、93.5%、94%、94.5%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、または99%である、態様(35)の方法;
(37)他の立体異性形態を伴う乳酸もしくはラクテートの立体異性形態の検出可能な混入が1つもない(例えば、特定の立体異性体のキラル純度が少なくとも99.9%であるか、99.9%を上回る(または99.9%以上である)、態様(29)、(30)、(31)、(32)、(33)、(34)、(35)、または(36)の方法;
(38)態様(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、または(18)の、一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株と、培地とを含む、組成物。
【0050】
以下の実施例は本発明の実践のための手順を説明する。これらの実施例は制限的なものであると解釈されるべきではない。特別の定めのない限り、全てのパーセンテージは重量パーセンテージであり、全ての溶媒混合物の比は容量比である。
【実施例】
【0051】
実施例1
大腸菌株SZ132およびSZ186の調製および分析
本実施例で用いられる大腸菌株を表1に列挙する。菌株SZ63は大腸菌K-12(ATCC 27325)の派生物である。KO11(ATCC 55124)は、pflB遺伝子へ組み込まれたザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)エタノール生成遺伝子を含む大腸菌B(ATCC 11303)の派生物である。
【0052】
(表1)大腸菌株

【0053】
培養物を、改変されたLuria-Bertani(LB)培養液中(1リットルあたり:Difcoトリプトン10g、Difco酵母抽出物5g、塩化ナトリウム5g)で、あるいは、5%かまたは10%の糖(グルコースまたはスクロース)を補給したNBS無機塩培地中で37℃にて増殖した。菌株構築の必要性に応じて抗生物質を含めた。
【0054】
標準法をプラスミド構築に用いた。染色体欠失、組み込み、および除去可能な抗生物質耐性遺伝子のための方法は既に記載されている。菌株大腸菌DH5αおよびS17-1をプラスミド構築の宿主として用いた。菌株NC3を中間体宿主として用いて、K-12菌株からB菌株へのP1形質導入間の制限酵素に関連する問題を最小限にした(Dien et al., 2001)。
【0055】
Shuklaら(2004)およびZhouら(2003)に既に記載されているように種培養を調製し、小さな発酵容器(作業用量350ml、35℃、攪拌150rpm)への播種に用いた。6N KOHを自動的に添加して培養液をpH7.0で維持した。グラフ表示されたデータは2回以上の複製の平均を表す。平均値の標準誤差を表すバーには3回以上の発酵の平均が含まれる。ラクテートの最大容量生産性を、各グラフの最も急な領域から評価した。種培養の増殖の間または発酵培養液中には抗生物質を含めなかった。
【0056】
550nmでの光学濃度を測定することによって細胞量を評価した(1.0 OD550nmにて乾燥細胞重量330mg/l)。有機酸(主にラクテート)の総生成量を塩基(KOH)消費により測定した。発酵の最後に酸性生成物を高速液体クロマトグラフィーによって分析した。ガスクロマトグラフィーによってエタノールを測定した。
【0057】
菌株SZ132の構築
セロビオースの利用のためのクレブシエラ・オキシトカcasAB遺伝子(Moniruzzaman et al. 1997)をlacYの終止コドンの後ろへ組み込むこと、およびエンドグルカナーゼ (Zhou and Ingram, 1999)をコードするエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子をfrdA遺伝子へ組み込むことによってKO11から菌株LY52を構築した。ラクテート生成のためのSZ63(Zhou et al., 2003)を構築するために用いた、既に特徴付けられた大腸菌K-12の突然変異(菌株W3110)を順次LY52へ形質導入した。エタノール生成のためのZ.モビリス遺伝子を、SZ31由来のΔfocA-pflB欠失のP1形質導入により排除した。TC20由来のadhE突然変異のP1形質導入により天然の大腸菌アルコールデヒドロゲナーゼを不活性化した。SZ61における突然変異を用いてアセテートキナーゼ(ackA)を欠失させた。選択に用いた抗生物質遺伝子をFLPリコンビナーゼにより取り除いた(Zhou et al., 2003)。FLPリコンビナーゼでの抗生物質遺伝子の除去の際に、casABの内部セグメントも欠失させた。casABおよびプロモーターの配列解析によりFLPリコンビナーゼの認識部位に非常によく似たDNA領域の存在が明らかとなり、この欠失の原因であると推定される。
【0058】
1%の接種物で順次継代培養することによって、生じた菌株を最少培地に順応させた。これらの植継ぎの間に、細胞増殖とラクテート生成の双方が改良された。最終植継ぎからの培養液を、クローンの単離のために固形培地に塗布した。1つを選択し、SZ132と命名した。
【0059】
菌株SZ186の構築
全ての外来遺伝子を取り除いた、SZ132のさらなる派生物を構築した。K.オキシトカcasABおよびE.クリサンテミcelY遺伝子を、直鎖DNAを用いる相同組換えによって欠失させた。構築の間に、FLPリコンビナーゼを用いて、用いた抗生物質遺伝子を排除した。生じた菌株SZ186は天然の大腸菌遺伝子のみを含む。
【0060】
乳酸生成の分析
類似の遺伝子突然変異体を大腸菌K-12および大腸菌Bの派生物に構築して、それぞれSZ63(Zhou et al., 2003)およびSZ132を作製した。細胞増殖およびラクテート(D異性体)生成に関して、SZ132がSZ63より優れていた(図1A参照)。富栄養培地において、SZ132は10%グルコースの発酵を48時間で完了してラクテート1モル/lを超える発酵培養液を生成し、これは大腸菌K-12に基づく菌株について以前報告されたものの2倍であった。SZ63および10%グルコースを用いる発酵は72時間後に失速し、120時間後にわずかラクテート840ミリモル/lの培養液しか生成しなかった。富栄養培地において、ラクテートの収量は、SZ132(95%)のほうがK-12菌株SZ63(88%)のものより高かった。SZ132の最大容量生産性は75ミリモル/l時間であり、SZ63のものより76%高かった(表2)。
【0061】
(表2)乳酸発酵の概要


【0062】
5%グルコースを含有するNBS無機塩培地において、SZ132の細胞収量および容量生産性はSZ63の2倍であった(図1B参照)。菌株SZ132は5%グルコースの発酵を36時間以内に完了したが、これはSZ63の要した時間の1/4未満である。これらの条件下で、NBS無機塩培地での発酵の細胞収量および容量生産性は、富栄養培地および10%グルコースでの発酵のわずか25〜35%であった。
【0063】
菌株SZ132もSZ63もNBS無機塩培地において10%グルコースの発酵を144時間以内に完了しなかった(図1C参照)。双方の菌株のラクテート収量は、代謝された糖を基準として90%を超えた。10%グルコースを含有するNBS無機塩培地で、SZ132の細胞収量(0.83g/l)、ラクテート生成(発酵培養液700ミリモル/l)、および容量生産性(ラクテート11.2ミリモル/l・時間)は、SZ63のものよりも約2倍高かった。NBS無機塩培地および10%グルコースでは、SZ132の容量生産性は富栄養培地で観察されたものの20%未満であった。
【0064】
スクロースは、富栄養培地において、またNBS無機塩培地においてグルコースよりもゆっくり発酵した。これまでの研究から、SZ63(pLOI3501)は富栄養培地において5%スクロースの発酵を完了するのに36時間を要することが示されているが、この培地では10%スクロースの発酵を完了することができなかった。SZ132は富栄養培地において10%スクロースの発酵を120時間以内に完了し、ラクテート1モル/lを超える発酵培養液を生成した(図1D参照)、これはスクロースプラスミドを擁するSZ63に関して既に報告されているもののほぼ2倍である。
【0065】
10%スクロースを含有するNBS無機塩培地におけるSZ132の容量生産性(9.3ミリモル/l・時間)は、スクロースを含む富栄養培地において観察されたものの1/3であり、10%グルコースを含有する富栄養培地において観察されたものの1/8未満であった(表2)。5%スクロースはNBS無機塩培地において72時間以内に完全に発酵したが(図1E参照)、10%スクロースは培養時間を延ばしてもこの培地において完全には代謝されなかった。代謝された糖を基準にして、スクロースの収量は双方の培地で86%〜93%の範囲であった。
【0066】
これらの結果は、改変された大腸菌Bの菌株によって、グルコースおよび/またはスクロースから高レベルの有機酸を生成することができることを実証する。富栄養培地(LB)における最大容量生産性はラクテート75ミリモル/l・時間と推定された、これはNBS無機塩培地での推定値より3倍以上高かった。改良のための余地は多く残っている。10%スクロースの代謝を完了するために必要とされる培養時間は、複合培地における10%グルコースに関するものより3倍長く、無機塩培地におけるよりものよりさらに長い。費用のかかる複合栄養の添加をせずに発酵時間を減少させることが不可欠であろう。増殖および生産性を増加させる構成成分を同定することが、発酵に関連する費用を実質的に削減し、また、ラクテート精製および廃棄物処理に関連する支出を削減する機会ももたらすであろう。
【0067】
図2〜5は、種々の態様、すなわちNBS無機塩培地における、種々の発酵条件下での本発明のSZ132、SZ186、およびSZ194(寄託番号NRRL B-30863)による、乳酸(D異性体)生成の進行を説明する。
【0068】
実施例2
大腸菌株SZ194の調製
菌株SZ194の調製に用いた菌株およびプラスミドを表3に列挙する。培養物を、改変Luria培養液(1リットルあたり:Difcoトリプトン10g、Difco酵母抽出物5g、塩化ナトリウム5g)(Miller, J.H. 1992 A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria. Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)において、またはベタイン1mMおよび2%〜14%(w/v)の糖(グルコースまたはスクロース)を補給したNBS無機塩培地(Causey, T.B. et al. 2004, “Engineering Escherichia coli for efficient conversion of glucose to pyruvate,” Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:2235-2240)において、37℃にて増殖させた。必要な場合、アンピシリン(50mg/L)およびカナマイシン(50mg/L)を菌株構築に用いた。
【0069】
(表3)大腸菌株およびプラスミド

【0070】
DNA増幅、酵素消化、精製およびプラスミド構築に標準的な方法を用いた(Miller et al., 1992; Sambrook and Russell, 2001)。染色体遺伝子欠失および組み込みのための方法は既に記載されている(Causey et al., 2004; Datsenko and Wanner, 2000; Martinez-Morales et al., 1999; Zhou, S. et al. (2003a)「Productions of optically pure D-lactic acid in mineral salt medium by metabolically engineered Escherichia coli D-(-)-lactate dehydrogenase gene (ldhA) with the L-(+)-lactate dehydrogenase gene (ldhL) from Pediococcus acidilactici」Appl. Environ. Microbiol. 69:2237-2244)。
【0071】
プラスミドpLOI3924を構築して、lacYおよびlacA遺伝子をORFmers(Sigma-Genosis, The Woodlands, TX)を用いてクローニングすること、ならびにpLOI2511由来のFRT-kan-FRTカセット(SmaI消化)をlacYのカルボキシ末端のNdeI部位とlacAのN末端ATGとの間に挿入することによりcasAB遺伝子の欠失を促進した。このプラスミド由来の増幅された断片(lacY用のフォワードORFmer;lacA用のリバースORFmer)を染色体の組み込みに用い、casAB遺伝子を欠失させた。さらなる遺伝子欠失に用いた、標的遺伝子の先頭または終端の約45塩基対に対応する配列に加えてFRTに隣接するカナマイシンカセットに対応する20塩基対のDNA配列を含めたハイブリッドプライマーを表4に記載する。
【0072】
(表4)プライマー

【0073】
特に定めない限り、1mMベタインおよび10%の糖(グルコースまたはスクロース)を含有するNBS無機塩培地(Causey et al., 2004)を全ての発酵に用いた(pH7.0)。種培養を、既に記載されているように調製し(Zhou et al., 2003)、500ml発酵容器(作業用量350ml、35℃、攪拌150rpm)の播種に用いて初期密度を33mg cdw l-1とした。指示されている場合は、ベタイン(1mM)も加えた。培養液のpHを6N KOHの自動的な添加によって維持した。合計12%(w/v)のグルコースを、次のとおり流加発酵(6% + 3% + 3%)に用いた:21グラムのグルコースを含む308mlのNBS培地。24時間後および48時間後、21mlの50%グルコースを各容器へ徐々に加えた。
【0074】
pH調整された発酵による細胞を、様々な時間(24時間または48時間)で連続的に植え継ぎし、増殖に基づく選択を通じて代謝の進化を促進した。順次移された培養物を初期密度33mg cdw l-1にて播種した。選択の最後に単離されたクローンに新規な菌株名を与えた。
【0075】
Bausch & Lomb Spectronic 70 分光光度計を用いて550nmにて光学濃度を測定することにより細胞量を評価した。総有機酸生成量(主にラクテート)を、pHの維持のための塩基(KOH)消費によって評価した。酸性生成物およびキラル純度を、発酵の最後に高速液体クロマトグラフィーによって分析した(Zhou et al., 2003a)。グラフ表示されたデータは2回以上の複製の平均を表す。標準偏差を表すバーには3回以上の発酵の平均が含まれる。
【0076】
乳酸生成量の分析
保護性のあるオスモライト(osmolyte)であるベタインは、高い糖濃度を含有する無機塩培地におけるSZ132による細胞増殖およびラクテート生成に非常に有益であったが、これはおそらくグルタミン酸塩およびトレハロースなどの天然のオスモライトの生合成への不十分な炭素の分割に起因すると思われる(Purvis, J.E. et al. (2005)「Enhanced trehalose production improves growth of Escherichia coli under osmotic stress」Appl. Environ. Microbiol. 71:3761-3769)。10%スクロースを含有する無機塩培地でSZ132を連続的に植え継ぎし、ベタインの不在下で同等の能力を有する菌株を選択した(図6Aおよび6B)。菌株SZ132における増殖のためのエネルギー生成は、NADH酸化の主要経路としてラクテートを含む解糖流量に依存しているので、増殖を基準とした選択をもたらす。増殖および酸生成(塩基消費量)は連続的な植継ぎの間に着実に改良された。最終の植継ぎにおいて、ベタインを添加せずに10%スクロースを完全に発酵させた。この培養液からクローンを単離し、菌株SZ136と命名した。この菌株は96時間後に、親株SZ132の細胞収量の2倍量の、かつ3倍高力価のラクテートを生成した(図6)。SZ136はまた、SZ132よりも高レベルのスクシネートおよびエタノールを生成し(表5)、ラクテートの収量を低下させた(代謝された糖に基づく)。
【0077】
(表5)グルコース発酵からの生成物

a特に定めない限り10%グルコースを含有するNBS無機塩培地(pH7.0)。指示されている場合、1mMベタインも添加された。
b収量は、最大理論収量を六炭糖1モルあたりラクテート2モルと仮定し、代謝された糖に基づく(等量換算)。
【0078】
10%(w/v)スクロースに関するSZ132における増殖の改良は、増殖を改良したが副生成物経路のための突然変異遺伝子の機能を部分的に回復させもした、突然変異に伴って起こったように思われる。菌株SZ132におけるフマル酸レダクターゼ突然変異はあまり特徴がなく、当初はTn5欠失(Ohta et al., 1991)として、その後frdAとfrdBとの間へのcelYの挿入(Zhou, S., Yomano, L.P., Shanmugam, K.T., Ingram, L.O. (2005)「Fermentation of 10% (w/v) sugar to D-(-)-lactate by engineered Escherichia coli B」Biotechnol. Lett. 27:1891-1896)により得られたものであった。FRT部位が隣接する抗生物質マーカーの挿入によってアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を阻害した。次に、フリッパーゼを用いて抗生物質遺伝子を除去してFRT領域のみを残した。SZ162を作製するためのfrdBCおよびadhEのためのコード領域のさらなる欠失は、双方の副生成物を排除したが、不完全な糖利用による増殖および最終のラクテート力価を低下させた(表5)。この菌株にさらなる欠失も作り出し、セルロース利用のために既に組み込まれていた外来遺伝子(Zhou et al., 2005):クレブシエラ・オキシトカ由来のcasAB(セロビオーストランスポーター遺伝子)およびエルウィニア・クリサンテミ由来のcelY(エンドグルカナーゼ)を排除した。生じた菌株SZ186は、ごく少量のレベルの副生成物を生成したが、ベタインを含むまたは含まない無機塩培地において10%の糖を完全に利用することができなかった(図7A;表5)。しかし、代謝された糖に基づく収量はSZ162とSZ186の双方で高かった(96%〜99%)。
【0079】
副生成物経路を排除したSZ136における欠失(SZ186)も、細胞収量をほぼ半分減少させ、生合成への炭素の分割に悪影響を及ぼした。代謝の進化を用いて、1mMベタインおよび10%グルコースの存在下で、増殖および発酵性能の双方が改良されたSZ186の派生物を同時選択した(図7Aおよび7B)。細胞収量および有機酸生成量は選択の初期段階の間に同時に増加した。単一のクローンを最後の増菌(enrichment)より単離し、SZ194と命名した。
【0080】
菌株SZ194はSZ186よりも急速に増殖し、高い細胞収量に達した。最大900mMのラクテート濃度がいくつかの発酵でSZ194により生成され、一貫してSZ186のものよりも高かった(表5)。双方の菌株は、最小の副生成物で理論収量に近い量でグルコースよりラクテートを生成した。しかし、双方の菌株で、長期の培養の後でさえもpH7.0で糖が未使用のまま残った。pH7.0で、10%(w/v)グルコースから生成された800〜900mMラクテートは、pH7.0での増殖を阻害するために必要な最大ラクテート濃度をはるかに上回り、さらなるグルコース代謝も阻害し得る。
【0081】
SZ194による10%(w/v)糖の不完全な発酵の可能性のある原因として2つの要因:未知の栄養上の欠点とラクテート耐性を調べた。1mMベタインを含有する無機塩培地をpH7.0でLuria培養液(富栄養培地)と交換することは、ラクテート収量(表5)またはラクテート生成(表6)にほとんど効果がなかった。pHの発酵への効果を比較することによりラクテートの毒性を試験した(表5)。ラクテートなどの弱有機酸の毒性は、共役の中性型の脱共役作用に一部分関連していて(Warnecke, T. and R.T. Gill (2005)「Organic acid toxicity, tolerance, and production of Escherichia coli biorefining applications」Microbial Cell Factories 4:25)、それが今度は反比例してpHに関連する。類似の傾向が発酵にも観察された。Luria培養液では、最終のラクテート力価がpH6.5で最も低く、pH7.5およびpH8.0で最も高かった。pHの変化は細胞収量にあまり効果がなかった。pH7.5で、10%(w/v)グルコースを、Luria培養液を用いて72時間で完全に発酵させた。
【0082】
(表6)ラクテート生産性の比較

a特に定めない限り、10%(w/v)グルコースおよび1mMベタインを含有する無機塩(NBS)。
b最も生産的な24時間期の平均値。
【0083】
このpHの増加の恩典を、1mMベタインを含有する無機塩培地において確認した(図8;表5)。pH7.5で、10%および12%(w/v)グルコースは完全に発酵し、ごく微量の副生成物とともに1モルl-1を超えるラクテートを生成した(図3A)。グルコース1gあたりラクテート0.95gの生成物収量は、発酵に加えられた糖の合計に基づく最大理論収量の95%を表す。より高レベルの糖の添加は、最終のラクテート力価をさらに増加させなかった。流加実験の間に類似の最終力価が観察され(図8B)、追加の糖を加えた場合もさらに増加しなかった。最終のラクテート力価の約1.0〜1.2Mは、SZ194によるpH7.5での糖代謝の上限を表しているように思われる(表5)。
【0084】
発酵に最適なpHであるpH7.5が、大腸菌の細胞質について報告されているものと非常に近いことは興味深い(Axe, D.D. and J.E. Bailey (1995)「Transport of lactate and acetate through the energized cytoplasmic membrane of Escherichia coli」Biotechnol. Bioeng. 47:8-19; Warnecke et al., 2005)。ラクテートトランスポーター遺伝子は大腸菌内で1つも確認されていないが、いくつかの研究から大腸菌および乳酸細菌でのそれらの存在の証拠が提供されている(Axe et al., 1995; Konings, W. N. (2002)「The cell membrane and the struggle for life of lactic acid bacteria」Antonie van Leeuwenhoek 82:3-27; Poolman, B. (2002)「Transporters and their roles in LAB cell physiology」Antonie van Leeuwenhoek, 82:147-164)。これらの輸送体はラクテート/H+共輸送体であると推測され、その活性は外部のpHの増加とともに効率を増加させてもよい。「エネルギー再利用モデル」(Michels, P. A. M. et al. (1979)「Generation of an electrochemical proton gradient in bacteria by the excretion of metabolic end products」FEMS Microbial. Lett. 5:357-364)によれば、担体に媒介される、ラクテートなど代謝の最終生成物の流出は、膜を横切る電気化学的プロトン勾配の生成をもたらし、ATP生成に寄与し得る。乳酸菌におけるラクテートの流出は、全細胞エネルギーの30%に寄与すると推定されている(van Maris, A. J. A. et al. (2004a)「Microbial export of lactic and 3-hydroxypropanoic acid: implications for industrial fermentation processes」Metabolic Engineering 6:245-255)。大腸菌SZ194および乳酸菌は同様の経路によってグルコースを代謝するので、大腸菌でのラクテート流出によりさらなるATPが生成されることも可能である。
【0085】
SZ194により生成されたラクテートのキラル純度を調べ、95%を超えるD-ラクテートであることが見出された。良好ではあるが、このキラル純度は親株SZ132(D-ラクテート99.5%)のものよりも低い(Zhou et al., 2005)。このキラル不純物の出所は不明である。
【0086】
本発明によれば、1mMベタインを補給した無機塩培地においてpH7.5で大腸菌SZ194によって1Mを超えるラクテート力価を生成できる。この培地において、SZ194のラクテート生産性および細胞収量は、Luria培養液のものと同等であった(表6)。菌株SZ194の最終のラクテート力価の110gl-1および収量(0.95 ラクテートgグルコースg-1)は、L.ヘルベティクス(L. helveticus)(Kyla-Nikkila, K. et al. (2000)「Metabolic engineering of Lactobacillus helveticus CNR32 for production of pure L-(+)-lactic acid」Appl. Environ. Microbiol. 66:3835-3841)およびL.デルブリュッキィ(L. delbrueckii)(Demirci, A. and A.L. Pometto (1992)「Enhanced production of D-(-)-lactic acid by mutants of Lactobacillus delbrueckii ATCC9649」J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 11:23-28)などの乳酸菌と有利に匹敵し、以前に操作された生体触媒の富栄養培地または無機塩培地における生産力を超えた(Dien et al., 2001; Porro, D. et al. (1999)「Replacement of a metabolic pathway for large-scale production of lactic acid from engineered yeasts」Appl. Environ. Microbiol. 65:4211-4215; Saitoh, S. et al. (2005)「Genetically engineered wine yeast produces a high concentration of L-lactic acid of extremely high optical purity」Appl. Environ. Microbiol. 71:2789-2792; van Maris, A. J. A. et al. (2004b)「Homofermentative lactate production cannot sustain anaerobic growth of engineered Saccharomyces cerevisiae: possible consequence of energy-dependent lactate export」Appl. Environ. Microbiol. 70(5):2898-2905)。
【0087】
実施例3
材料および方法
菌株、プラスミド、培地および増殖条件
本研究で利用した大腸菌株、プラスミドおよびプライマーを表7に列挙する。菌株SZ194は以前に大腸菌B(ATCC 11303)の派生物から構築され、構築の出発点としての役割を果たした(実施例2およびZhou, S., Shanmugam, K.T., Yomano, L.P., Grabar, T.B., Ingram, L.O. (2006)「Fermentation of 12% (w/v) glucose to 1.2 M lactate by Escherichia coli B strain SZ194 using mineral salts medium」Biotechnol. Lett. In Press参照)。菌株構築の間、培養物を2%(w/v)グルコースまたはアラビノースを含有するLuria培養液(1リットルあたり:Difcoトリプトン10g、Difco酵母抽出物5g、塩化ナトリウム5g)(Miller 1992)において30℃、37℃、または39℃で好気的に増殖させた。アンピシリン(50mg/L)、テトラサイクリン(12.5または6.25mg/L)、またはカナマイシン(25または50mg/L)を必要に応じて加えた。発酵試験のため、菌株を、1mMベタインおよび2〜12%(w/v)グルコースを補給したNBS無機塩培地(Causey et al., 2004)において抗生物質を用いずに37℃で増殖させた。MOPSバッファー(100mM、pH7.4)を、pH調整を欠く条件下(プレート、試験管、振盪フラスコ)で固体培地または液体培地に加えた。
【0088】
遺伝子的方法
DNA精製(Qiagen)、制限エンドヌクレアーゼ消化(New England Biolabs)、DNA増幅(Stratagene and Invitrogen)および形質転換については、製造元のプロトコールおよび標準法(Miller 1992, Sambrook and Russell 2001)に従った。染色体欠失および組み込みのための方法は既に記載されている(Causey et al., 2004, Zhou et. al., 2003, Datsenko and Wanner 2000, Martinez-Morales et al., 1999)。mgsA遺伝子の先頭または終端の50ヌクレオチドと相同である配列(斜体)に加えて、FRTに隣接するpKD4のカナマイシンカセットの配列に対応する20ヌクレオチド(下線)を含むハイブリッドプライマー(表7)を、天然のmgsA遺伝子の欠失に用いた。プラスミドpLOI2398を予め構築してペディオコッカス・アシディラクチシ(Pedioccoccus acidilactici)ldhLの大腸菌の染色体ldhA遺伝子への組み込みを促進した(Zhou et al., 2003a)。
【0089】
発酵
前接種物(pre-inoculum)は、250mlフラスコ(2%(w/v)グルコースを含むNBS培地100mlおよび100mM MOPS、pH7.4)にコロニーを播種することで増殖させた。16時間後(37℃、120rpm)、この前接種物を350ml NBS培地(糖は5〜12%、1mMベタイン含有または不含)を含有する500ml発酵容器へ希釈して33mg dcw l-1とした。24時間後(37℃、150rpm、7.0にpHを調整)、この培養物を用いて出発接種物33mg dcw l-1を提供した。容量生産性を、最も活性のある24時間について報告する。比生産性を、容量生産性を24時間での細胞量で割った商として計算した。
【0090】
代謝の進化
pH調整された発酵からの細胞を24時間または48時間間隔で連続的に植え継ぎ、競合的な、増殖に基づく選択によって代謝の進化を促進した。植継ぎごとに、接種物を予め温めた新鮮培地へ希釈した(1/100〜1/350)。これらの選択から単離されたクローンに新規な菌株名を与えた。
【0091】
分析
Bausch & Lomb Spectronic 70 分光光度計を用いて550nmにて光学濃度を測定することにより細胞量を評価した。総有機酸生成量(主にラクテート)を、pH7.0の維持のためのKOH消費によって評価した。酸性生成物およびキラル純度を、発酵の最後に高速液体クロマトグラフィーによって分析した。塩基消費量による有機酸の推定値は、一貫してHPLCによるラクテートの測定値よりも低かったが、これはおそらく無機代謝に起因するものと思われる。
【0092】
結果および考察
D-(-)-ラクテート生成のためのキラル純度の回復
菌株SZ194は、無機塩培地においてキラル純度99%にてグルコースからD-(-)-ラクテートを効果的に生成することが示されている(Zhou et al., 2006)。ベタインは、高濃度の糖を含むラクテートの生産性を増加させた(力価および率)が、キラル純度を95%まで低下させた(表8)。大腸菌にはいくつかの考えられるL-(+)-ラクテートの源がある(図9A)。L-(+)-ラクテートは、双方とも本培地では存在しないラムノースまたはフコースの異化中間体(Badia, J., Gimenez, R., Baldoma, L., Barnes, E., Fessner, W.D., Aguilar, J. (1991)「L-lyxose metabolism employs the L-rhamnose pathway in mutant-cells of Escherichia coli-adapted to grow on xylose」J. Bacteriol. 173:5144-5150)であるラクトアルデヒドから生成することも、解糖のメチルグリオキサルバイパス(Methylglyoxal Bypass)からの生成物として生成することもある(図9Aおよび9B)。メチルグリオキサルバイパスは、急速な解糖の際のジヒドロキシアセトンリン酸の蓄積によって、またATP合成のためのリン酸制限によって誘導される、短縮溢流経路を意味する。ジヒドロキシアセトンリン酸の蓄積とリン酸制限の双方とも、高い速度の解糖流量によって激化する場合もあり得る。この仮説を試験するため、最初の関与段階である、メチルグリオキサルシンターゼをコードするmgsA遺伝子を欠失させた。生じた菌株TG112は、キラル的に純粋なD-(-)-ラクテートを生成した(表8および9;図10Aおよび10B)。増殖および初期生産性はこの欠失によってSZ194と比較して増加した。HPLC分析に基づく収量は類似した(表8)。
【0093】
TG112におけるさらなる改良点を、81日間の増殖の間の代謝の進化によって選択した(図11)。発酵中の培養物を、10%(w/v)グルコース、12%(w/v)グルコース、および1mMベタインを含む12%(w/v)グルコースを含有する無機塩培地に連続的に植え継いだ。1つのクローンを28日目に単離し(TG113)、別のクローンを増菌の最後に単離した(TG114)。D-(-)-ラクテートの生産性(率、力価、および収量)および細胞収量は、このプロセスの間に改善された(図10Aおよび10B;表8および表9)。SZ114を用いた発酵はほとんどの実験において実質的に48時間以内に完了し、最終収量は0.98 D-(-)-ラクテートgグルコースg-1であった。高度な接種物は、比生産性および容量生産性において適度なさらなる改良をもたらした。副生成物およびキラル不純物はこれらのmgsA欠失菌株で検出以下であった(<0.1%)。TG114によるD-(-)-ラクテートの生成は有利に他の生体触媒に匹敵し、単純な培地および発酵条件で高い生産性、力価、収量、およびキラル純度を提供する(表10)。
【0094】
キラル的に純粋なL-(+)-ラクテートの生成
D-(-)-ラクテート菌株、SZ194を再操作してD-(-)-乳酸デヒドロゲナーゼをコードする天然のldhA遺伝子を、L-(+)-乳酸デヒドロゲナーゼをコードするP.アシディラクチシ由来のldhL遺伝子に置換することによって、主にL-(+)-ラクテートを生成した(Zhou et al., 2003a)。生じた菌株TG102は、主にL-(+)-ラクテートを生成し、5%(w/v)グルコース、10%(w/v)グルコース、および1mMベタインを含む10%(w/v)グルコースを含有する最少培地に連続的に植え継いで、改良された増殖および生産性について選択した。24日後、1つのクローンを選択し、TG103と命名した。解糖流量の増加に起因してラクテート生産性は改善されたが(図10Cおよび10D;表9)、L-(+)-ラクテートに5%D-(-)-ラクテートが混入した(表8)。メチルグリオキサルバイパスはラクテートの両キラル型を生成する可能性があるため、mgsAを最も可能性の高いキラル不純物の起源と特定した。絶対キラル純度はmgsAの欠失後に回復した。生じた菌株TG105は、L-(+)-ラクテートのみを生成した(図10および10D;表8)。さらなる改良点は、10%〜12%(w/v)グルコースおよび1mMベタインを含有する無機塩培地(接種物の希釈率1:100〜1:350)における連続的な植継ぎの際の同時選択による増殖および生産性であった。TG106およびTG107を、それぞれ10回および22回の植継ぎの後に中間体菌株として単離した(図10Eおよび10F)。菌株TG108を99日後に単離した。全てがL-(+)-ラクテートだけを高い収量で最小レベルの副生成物とともに生成した(表8)。12%(w/v)グルコースにおける容量生産性および細胞収量は、菌株選択の間に増加したが、比生産性は本質的に一定のままであった(表9)。より高度な接種物では、最大容量生産性(最も活性のある24時間)に僅かな増加が観察された。
【0095】
菌株TG108をL-(+)-ラクテート生成について他の生体触媒と比較した(表10)。この菌株の力価および収量は他の生物について報告されているものよりも高かった。他の利点としては、単純な発酵条件および培地、ならびにキラル純度が挙げられる。
【0096】
結論
高力価(48時間で>100gl-1)のキラル的に純粋なL-(+)およびD-(-)-ラクテート(キラル純度>99.9%)は、1mMベタインを補給した無機塩培地において組換え型大腸菌Bによって容易に生成することができる。メチルグリオキサルバイパスの排除は、ラクテートのD-(+)およびL-(-)型鏡像異性体双方の不純物を排除するために不可欠である。
【0097】
実施例4
TG114由来の全ての外来DNAの除去によるTG128の構築
ラクテート生成のための組換え型大腸菌株の市販用途を促進するため、先の遺伝子操作の間に染色体に残されていた全ての外来性DNAを除去した、TG114のさらなる派生物を構築した。除去されたDNAには、抗生物質マーカーを除去するために用いたフリッパーゼ(リコンビナーゼ)のFRT認識部位を含有するスカー(scar)領域、ザイモモナス・モビリス由来の小さなDNA断片、クレブシエラ・オキシトカcasABの一部、およびエルウィニア・クリサンテミcelYの一部が含まれる。これらの外来DNAセグメントは、ラクテートの生成を改良するために選択された遺伝子の中心領域が削除された、天然の染色体DNAのみを残して完全に排除された。
【0098】
菌株、プラスミド、培地、および増殖条件
本研究で用いられた大腸菌株、プラスミド、および プライマーを表11に列挙する。菌株TG114は以前に大腸菌Bの派生物(ATCC 11303)から構築され、構築の出発点としての役割を果たした(Grabar et al., 2006)。菌株構築の間、培養物を、2%(w/v)グルコースもしくはアラビノースまたは10%スクロースを含有するLuria培養液(1リットルあたり:Difcoトリプトン10g、Difco酵母抽出物5g、および塩化ナトリウム5g)(Miller 1992)において30℃、37℃、または39℃で好気的に増殖させた。アンピシリン(50mg/L)、クロロテトラサイクリン(10mg/L)、またはクロラムフェニコール(40mg/L)を必要に応じて加えた。
【0099】
培養物を2%(w/v)グルコースを補給したNBS無機塩培地(Causey et al., 2004)を含有するプレートで維持した。MOPSバッファー(100mM、pH7.4)を、pH調整を欠く条件下(プレート、試験管、振盪フラスコ)で固体培地または液体培地に加えた。発酵試験のため、AM1無機塩培地(1リットルあたり:2.63g (NH4)2HPO4、0.87g NH4H2PO4、0.37g MgSO4・7H2O、2.4mg FeCl3、0.3mg CoCl2・6H2O、0.15mg CuCl2、0.3mg ZnCl2・4H2O、0.3mg NaMoO4、0.075mg H3BO3、0.075mg MnCl2.4H2O2、1mMベタインおよび120g/Lグルコース)において抗生物質を用いずに37℃で菌株を増殖させた。
【0100】
遺伝子的方法
遺伝子のクローニング(Invitrogen)、DNA精製(Qiagen)、制限エンドヌクレアーゼ消化(New England Biolabs)、DNA増幅(Stratagene and Invitrogen)、および形質転換については、製造元のプロトコールおよび標準法(Miller 1992, Sambrook and Russell 2001)に従った。染色体欠失および組み込みのための方法は既に記載されている(Causey et al., 2004, Zhou et. al., 2003, Datsenko and Wanner 2000, Martinez-Morales et al., 1999)。用いられるプラスミドおよびプライマーの説明を表11に列挙する。
【0101】
プラスミド構築
大腸菌B gDNA、「frdA frdB frdCおよびfrdD」のfrdABCDオペロン内で増幅したプライマーを設計し、その後Invitrogenクローニングベクター、pCR2.1-TOPOに連結することによりプラスミドpLOI4411を作成した(表11)。関心対象の天然の遺伝子、ackA、adhE、focA-plfB、およびmgsAをそれぞれクローニングするために、プラスミドpLOI4412、pLOI4413、pLOI4415、およびpLOI4416を類似のアプローチで構築した。
【0102】
継ぎ目のない遺伝子ノックアウトをコードするプラスミドを、アンチセンスプライマーを用いて作成した。5'にリン酸基を有するアンチセンスプライマーを設計して除外する遺伝子領域を引いた全プラスミドを増幅した(図12)。例えば、pLOI4417は、frdAの3'末端から上流へ向かってアニーリングしたプライマー、およびfrdCの中から下流へ向かってアニーリングしたプライマーを用いて、pLOI4411のPCRを実施することにより作成した。生じた4263bpのPCR産物を制限酵素DpnIで処理して天然のpLOI4411プラスミドを消化した。新規なプラスミドpLOI4417を作成するため、消化されたPCR産物をその後自己連結した。同じような方法で表11に列挙されるプライマーセットを用いてプラスミドpLOI4418、pLOI4419、pLOI4421、およびpLOI4422を作成した。これらのプラスミドは、所望の欠失を含み、かつ全ての異種配列を欠く直鎖DNAを増幅するためのPCR鋳型としての役割を果たす。この直鎖DNAを用いてFRTスカー領域、異種DNA、およびsacBを、相同組換え(ダブルクロスオーバー事象)により置換した。このような方法で、選択された遺伝子の継ぎ目のない欠失を染色体上に作成した。
【0103】
FRTスカーおよび異種DNAのTG114からの除去
Datsenko and Wanner (2000)の一段階欠失法(one-step deletion method)によって残された〜85bp FLP認識標的(FRT)スカーを二段階アプローチによって除去した。最初に、FRT部位を環状のFRT-cat-sacBカセットによって個別に標的化し、その結果このカセットの染色体上のFRTスカーへの単一クロスオーバー組み込みをもたらした(FRT-cat-sacB-FRT)。cat-sacB-FRTカセットを含有する環状DNAを以下のように構築した:1.プラスミドpLOI4151を鋳型として用いるFRT-cat-sacBカセットのPCR増幅。増幅したカセットは隣接するPstI部位を含む;2)PstIでの消化の後の自己連結で自己複製ができない閉じた環を作製。この環状DNAを組み込みに用いた。cat遺伝子の発現はクロラムフェニコール耐性を付与し、この組み込みを含有する細胞の直接的な選択を可能にした。
【0104】
第二段階で、sacB遺伝子は、sacBを含有するDNA領域が相同組換え(ダブルクロスオーバー事象)によって取り除かれている細胞の直接選択を可能にした。10%スクロースの存在下でsacBを発現している細胞(Ausubel, F.M., R. Brent, R.E. Klingston, D.D. Moore, J.G. Deidman, J.A. Smith and K. Struhl (eds.) (2005)「Current protocols in molecular biology」John Wiley & Sons, Inc. New York, N.Y.; Lee, E-C., Yu, K., Martinez de Velasco, J., Tessarollo, L., Swing, D.A., Court, D.L., Jenkins, N.A., and Copeland, N.G. (2001)「A highly efficient Escherichia coli-based chromosome engineering system adapted for recombinogenic targeting and subcloning of BAC DNA」Genomics 73: 56-65)を死滅させ、多糖類の細胞内生成によって溶解させた。この方法を用いて、DNAが挿入されてsacBを置換している組換え体を大きな個体群から選択することができ得る。この実施例において、ダブルクロスオーバー事象を介した直鎖DNA断片の組み込みの結果、全ての異種DNAを欠く、天然のDNAまたは欠失を有する天然のDNAのみを含有する完全なノックアウト菌株を生じた。天然のDNA配列または所望の遺伝子欠失を含有する天然の配列をこの第二段階に用いてFRTスカー領域および菌株TG114由来の全ての異種DNAを完全に除去した。
【0105】
直鎖状DNA断片を用いるエレクトロポレーションの後、細胞を1mL SOC培地において37℃で4時間振盪しながら培養した。4時間増殖した後、細胞を、10%(w/v)スクロースを補給した、塩を含まない50mL LB培地(1リットル当たり:Difcoトリプトン10g、Difco酵母抽出物5g)において16〜20時間培養した。次に、細胞を5%スクロースを補給した、塩を含まないLB寒天プレート上に塗布した。FRT-cat-sacBを保持している大多数の細胞はスクロースの存在下での長期間の後で生存能力がなかった。コロニーを形成している生存細胞は、sacB、およびスカー領域を欠いていた。
【0106】
この方法を用いてTG114に存在する全ての5つのFRTスカーを順次排除し、lacオペロンを回復させた。このプロセスに用いたプライマー、プラスミド、および菌株を表11に要約する。また、lacAに組み込まれたcasAB遺伝子も取り除き、この二段階法の変法を用いてこの領域中の野生型配列で置換した。frdAに組み込まれたエルウィニア・クリサンテミcelY(およびZ.モビリスDNA)の断片を、継ぎ目のないfrdBC欠失の構築の間に取り除いた。生じた菌株TG128はFRTスカーを欠き、表11に示される遺伝子中の欠失された領域とともに天然のDNA配列のみを含む。遺伝子欠失の領域での元の配列との比較をTG114およびTG128について示す(表12)。
【0107】
天然のlacオペロンの回復
TG114は、lacY、lacA領域における先の構築物から異種DNAのセグメント(ザイモモナス・モビリス、クレブシエラ・オキシトカcasAB、およびエルウィニア・クリサンテミcelYの一部由来のDNA断片)を含んでいた(Grabar et al., 2006)。これらはTG122を作製するためTG120から取り除かれ、TG122のその後の派生物には存在しない。この構築のためのプライマーを表11に列挙する。これを達成するため、天然のlacZ'からcynXの領域を大腸菌Bから増幅し、pCR2.1-TOPOへクローニングしてpLOI3956を作製した。組換え体の選択を促進するため、pLOI3956の中央の領域(lacZ'〜lacA')を、cat遺伝子およびsacB遺伝子を含有するカセットで次のように置換した。pLOI3956を鋳型として用い、NheI部位を含有するアンチセンスプライマーを用いてlacZ'、pCR2.1、およびcynX(lacZ'の一部、lacY、lacAおよびcynX'の一部を除去したもの)を増幅させた。NheI部位を含有する第2のプライマーのセットを用いてcat-sacBカセットをプラスミドpEL04(本来pK04として公知、Ausubel et al., 2005およびLee et al., 2001)から増幅した。NheIでの消化後、これらのPCR産物を連結してlacZ'-sacB-cat-cynX'を含むPCR2.1の派生物であるpLOI3957を作製した。プラスミドpLOI3957を鋳型として用いて、lacZ'-sacB-cat-cynX'領域をPCRによって増幅し、TG120へ組み込み、クロラムフェニコール耐性について選択してTG121を作製した。pLOI3956を鋳型として用いて、野生型lacZ'-lacY-lacA-cynX'領域をPCRによって増幅し、TG121へ組み込んだ。lacZYAオペロンの天然の配列を含有する組み込み体を、スクロースの存在下での増殖の間にsacB機能の欠如によって選択した。これらのうちの1つをTG122と命名した。菌株TG122はTG128の構築の間の中間体菌株であった。
【0108】
発酵
前接種物を、2%(w/v)グルコースおよび100mM MOPS(pH7.4)を含む100mlのNBS培地(Causey et al., 2004)を含有する250mlフラスコへコロニーを播種することによって増殖させた。16時間後(37℃、120rpm)、この前接種物を350ml AF1無機塩培地(12%糖)を含有する500ml発酵容器へ希釈して33mg dcw/Lとした。24時間後(37℃、150rpm、7.0にpHを調整)、生じた培養物を用いて33mg dcw/Lの出発接種物を準備し、同じ条件下で96時間培養した。サンプルを分析のために取り出した。
【0109】
分析
Bausch & Lomb Spectronic 70分光光度計を用いて550nmにて光学濃度を測定することにより細胞量を推定した。総有機酸生成量(主にラクテート)を、pH7.0を維持するために用いたKOH消費によって推定した。酸性生成物およびキラル純度を、発酵の最後に高速液体クロマトグラフィーによって分析した。塩基消費量による有機酸の推定値は、一貫してHPLCによるラクテートの測定値よりも低かったが、これはおそらく無機質代謝に起因するものと思われる。
【0110】
TG128によるグルコースの発酵
菌株TG114を、集中的な遺伝子操作に供してFRTスカーおよび他の外来性DNAを除去した。生じた生物、菌株TG128は、不必要な発酵生成物を排除するため天然の野生型DNA配列および継ぎ目のない遺伝子の欠失のみを含む。この菌株の発酵性能はTG114のものと本質的に同等であり、最大理論収量の96〜98%のラクテート収量であった(表13)。
【0111】
ラクテート生成のための熱耐性変異株の代謝の進化による選択
代謝の進化を用いて、高温下で効果的なラクテート生成の可能な菌株を選択した。pH調整された発酵からの細胞を24時間間隔で連続的に植え継いで、競合的な、増殖に基づく選択によって代謝の進化を促進した。植継ぎごとに、接種物を予め温められた新鮮な培地へ希釈した(1/100〜1/350)。増殖によって熱耐性菌株の単離が促進されるように、培養温度を僅かな程度上昇させた。菌株TG128は、37℃で至適に発酵する。変異株を、連続的な植継ぎの間に培養温度を漸増させることによって得た。このアプローチを用いて、現在39℃(菌株TG129)および43℃(菌株TG130)で効果的な発酵の可能なTG128から、新規な菌株を選択した。高温下での双方の熱耐性菌株の収量は、37℃でのTG114と同等であった(表13)。
【0112】
TG128によるグルコースの発酵
菌株TG114を、集中的な遺伝子操作に供してFRTスカーおよび他の外来性DNAを除去した。生じた生物、菌株TG128は、不必要な発酵生成物を排除するため天然の野生型DNA配列および継ぎ目のない遺伝子の欠失のみを含む。この菌株の発酵性能はTG114のものと本質的に同等であり、最大理論収量の96〜98%のラクテート収量であった(表13)。
【0113】
ラクテート生成のための熱耐性変異株の選択
代謝の進化を用いて、高温下で効果的なラクテート生成の可能な菌株を選択した。温度を僅かな程度上昇させた発酵槽への連続的植継ぎは、39℃で至適に発酵するTG129および43℃で至適に発酵するTG130の単離を可能にした。高温下での双方の収量は、37℃でTG114と同等であった(表13)。
【0114】
(表7)本研究で用いられた大腸菌株、プラスミド、およびプライマー

【0115】
(表8)グルコース発酵からの生成物

a特別の定めのない限り、12%(w/v)グルコースを含有するNBS無機塩培地(pH7.0)。示されている場合、1mMベタインも添加された。太字の菌株はD-(-)-ラクテートを生成する。下線の菌株はL-(+)-ラクテートを生成する。
b収量は、最大理論収量を六炭糖1モルあたりラクテート2モルと仮定し、代謝された糖に基づく(等量換算)。
【0116】
(表9)操作された大腸菌Bによるラクテート生産性

a12%(w/v)グルコース、1mMベタインを含有する、pH7.0に調整した無機塩(NBS)(特別の定めのない限り)。太字の菌株はD-(-)-ラクテートを生成する。下線の菌株はL-(+)-ラクテートを生成する。
bpH7.5に調製。
c5%接種物。
d10%接種物。
e10%グルコース。
f最も生産的な24時間の平均値。
【0117】
(表10)細菌、酵母および菌類によるグルコースからのキラルラクテート生成

【0118】
(表11)本研究で用いられた大腸菌株、プラスミド、およびプライマー



【0119】
(表12)欠失領域の部分配列

a太字で示されている部分は遺伝子の5'および3'領域の部分配列であり、斜体部分はFRTスカーであり、下線部はTG128株において欠失された領域である。
bこの領域もZ.モビリスプロモーター由来の部分配列、ならびにE.クリサンテミcelY遺伝子由来の部分配列を含んでいた(通常の下線で示す)。
cダッシュ記号は欠失領域を示す。
【0120】
(表13)グルコース発酵からの生成物

apH7.0に調整した12%(w/v)グルコース、1mMベタインを含有する無機塩(NBS)。
b収量は、最大理論収量を六炭糖1モルあたりラクテート2モルと仮定し、代謝された糖に基づく(等量換算)。
【0121】
本明細書において参照または引用された全ての特許、特許出願、および刊行物は、全ての図および表をはじめ、本明細書の明示的な開示と矛盾しない程度まで、参照として全文が本明細書に組み入れられる。
【0122】
当然のことながら、本明細書において記載される実施例および態様は例証目的のためだけのものであり、その点を踏まえての種々の改変または変更は、当業者に示唆され、かつ本願の精神および範囲内に含まれるものである。
【0123】
参考文献
その他の文献は、以下に示す通りである。
米国公開特許第20040005677号
米国公開特許第20030003553号
米国公開特許第20050112737号
米国公開特許第20040029256号
Bianchi, M.M., Brambilla, L., Protani, F., Liu, C., Lievense, Porro, D. (2001)「Efficient homolactic fermentation by Kluveromyces lactis strains defective in pyruvate utilization and transformed with heterologous LDH gene」Appl. Environ. Microbiol. 67:5621-5625.
Posfai, G., Koob, M.D., Kirkpatrick, H.A., Blattner, F.C. (1997)「Versatile insertion plasmids for targeted genome manipulations in bacteria: Isolation, deletion, and rescue of the pathogenicity island LEE of the Escherichia coli O157:H7 genome」J. Bacteriol. 179:4426-4428.
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】菌株SZ63と比較した、本発明の態様間の活性の違いを示す図である。
【図2−1】NBS無機塩培地における発酵条件下での本発明の種々の態様による乳酸生成の進行を示す図である。
【図2−2】NBS無機塩培地における発酵条件下での本発明の種々の態様による乳酸生成の進行を示す図であり、図2-1の続きである。
【図3】本発明の一態様による乳酸生成において酸耐性および糖耐性を増加させるベタインの能力を示す図である。
【図4】本発明の一態様が無機培地に順応する能力について示す図である。
【図5−1】種々の発酵条件下での本発明のさらなる別の態様による乳酸生成の進行を示す図である。
【図5−2】種々の発酵条件下での本発明のさらなる別の態様による乳酸生成の進行を示す図であり、図5-1の続きである。
【図5−3】種々の発酵条件下での本発明のさらなる別の態様による乳酸生成の進行を示す図であり、図5-2の続きである。
【図5−4】種々の発酵条件下での本発明のさらなる別の態様による乳酸生成の進行を示す図であり、図5-3の続きである。
【図6】10%スクロース(pH7.0)における増殖およびラクテート生成の改良に関するSZ132の代謝の進化を示す図である。菌株SZ132を順次10%(w/v)スクロースを含有する無機塩培地に植え継ぎ、ベタイン無しで、増殖およびラクテート生成の改良された自然突然変異株を増菌させた。1つのクローン、SZ136を最終植継ぎ物から単離した。図6Aは細胞量を示す。図6Bは総有機酸量(消費塩基量)を示す。
【図7】10%グルコース(pH7.0)における増殖およびラクテート生成の改良に関するSZ186の代謝の進化を示す図である。菌株SZ186を順次10%(w/v)グルコースおよび1mMベタインを含有する無機塩培地に植え継ぎ、増殖およびラクテート生成の改良された自然突然変異株を増菌させた。1つのクローン、SZ136を最終植継ぎ物から単離した。図7Aは細胞量を示す。図7Bは総有機酸量(消費塩基量)を示す。
【図8】バッチ発酵および流加発酵におけるSZ194によるラクテート生成の比較を表す図である。1mMベタインを含有する無機塩培地(pH7.5)で発酵を行った。図8Aは12%(w/v)グルコースを含有する単純なバッチ発酵を示し、図8Bは流加発酵を示す。記号は全てに対して、□,細胞量;●,総有機酸量(pHを維持するために消費された塩基量);○,グルコースを表す。
【図9】大腸菌におけるラクテート生成のための天然の経路を示す図である。図9Aはジヒドロキシアセトンリン酸を中核として示す。図9Bはメチルグリオキサルバイパスを示す。略語は、DHAP,ジヒドロキシアセトンリン酸;Gly3P,グリセルアルデヒド3リン酸である。
【図10】組換え型大腸菌による、12%(w/v)グルコース(NBS無機塩培地+1mMベタイン)からラクテートへの発酵を示す図である。図10AはD-(-)-ラクテート菌株による有機酸生成を示す。図10BはD-(-)-ラクテート菌株の増殖を示す。図10Aおよび図10Bの記号は、△,SZ194;○,TG112(10% w/vグルコース);◇,TG113;□,TG114を表す。図10CはL-(+)-ラクテート菌株(10%グルコース+1mMベタイン)による有機酸生成でのmgsA欠失の効果を示す。図10DはL-(+)-ラクテート菌株(10%グルコース)の増殖でのmgsA欠失の効果を示す。図10Cおよび図10Dの記号は、●,TG102(mgsA+、10% w/vグルコース、ベタイン無し);○,TG103(mgsA+、10% w/vグルコース、ベタイン無し);■,TG105(mgsA欠失、1mMベタイン);*,TG103(mgsA+、1mMベタイン)を表す。図10EはL-(+)-ラクテート菌株による有機酸生成を示す。図10FはL-(+)-ラクテート菌株の増殖を示す。図10Eおよび10Fの記号は、■,TG105;▲,TG106;●,TG107;◆,TG108を表す。
【図11】D-(-)-ラクテート生成および増殖の改良に関する代謝の進化を示す図である。大腸菌株TG112を24時間または48時間ごとに順次10%または12%(w/v)グルコースおよび1mMベタインを含有する無機塩培地に植え継ぎ、増殖、耐久力およびラクテート生成の改良された自然突然変異株を選択した。1つのクローンTG113を、TG112の植継ぎ数28(29日目)由来の中間体として単離し、および別のクローンTG114を、81日目の最終培養物から単離した。明確にするために、24時間間隔は4回、および48時間間隔は1回植え継いだグラフを示す。親株SZ194を比較のために含めた。図11AはpH7を維持するため消費された塩基から計算した全有機酸(mM)を示す。図11Bは細胞量(g/L)を示す。記号は▲,SZ194、12%(w/v)グルコース;○,TG112、10%(w/v)グルコース、希釈率1:100、24時間での植継ぎ;●,TG112、12%(w/v)グルコース、希釈率1:100、24時間での植継ぎ;□,TG113、12%(w/v)グルコース、希釈率1:350、24時間での植継ぎ;および◆,TG113、12%(w/v)グルコース、希釈率1:100、48時間での植継ぎを表す。
【図12】pLOI4417の作製を示す図である。frdAの3'末端にアニーリングし上流へ伸長させるプライマー、およびfrdC内にアニーリングし下流へ向けて伸長させるプライマーを用いてpLOI4411のPCRを実施することにより、pLOI4417を作製した(図12A)。生じた4263bpのPCR産物を制限酵素DpnIで処理して天然のpLOI4411プラスミドを消化した(図12B)。消化したPCR産物をその後自己連結させて新規プラスミドpLOI4417を作製した(図12C)。
【配列表フリーテキスト】
【0125】
配列の簡単な説明
SEQ ID NO:1は、frdBC欠失のためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:2は、frdBC欠失のためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:3は、adhE欠失のためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:4は、adhE欠失のためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:5は、celY欠失のためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:6は、celY欠失のためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:7は、mgsA欠失のためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:8は、mgsA欠失のためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:9は、FRT-cat-sacBの増幅のためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:10は、FRT-cat-sacBの増幅のためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:11は、5'NheI部位を含むcat-sacBの増幅のためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:12は、5'NheI部位を含むcat-sacBの増幅のためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:13は、frdABCDをクローニングするためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:14は、frdABCDをクローニングするためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:15は、ackAをクローニングするためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:16は、ackAをクローニングするためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:17は、lacZ-cynXをクローニングするためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:18は、lacZ-cynXをクローニングするためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:19は、mgsAをクローニングするためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:20は、mgsAをクローニングするためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:21は、focA-pflBをクローニングするためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:22は、focA-pflBをクローニングするためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:23は、adhEをクローニングするためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:24は、adhEをクローニングするためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:25は、frdBCを欠失させるためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:26は、frdBCを欠失させるためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:27は、ackAを欠失させるためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:28は、ackAを欠失させるためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:29は、5'NheI部位を含むlacZアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:30は、5'NheI部位を含むcynXアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:31は、mgsAを欠失させるためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:32は、mgsAを欠失させるためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:33は、focA-pflBを欠失させるためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:34は、focA-pflBを欠失させるためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:35は、adhEを欠失させるためのセンスプライマーの核酸配列である。
SEQ ID NO:36は、adhEを欠失させるためのアンチセンスプライマーの核酸配列である。.
SEQ ID NO:37〜46は、FRTスカーを欠失した遺伝子領域の部分配列を示す。遺伝子の5'領域および3'領域の部分配列を太字で示し、FRTスカーを斜体で示し、菌株TG128における欠失を下線で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸菌(E. coli)株KO11(ATCC 55124)に対する以下の遺伝子改変を含む、遺伝子改変大腸菌株:a)クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)casAB遺伝子の、lacYの終止コドンの後への挿入;b)エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)celY遺伝子のfrdA遺伝子への組み込み;c)focA-Z.mobilis pdc-adhB-pflBの不活性化または欠失;d)天然の大腸菌アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子の不活性化または欠失;およびe)アセテートキナーゼ(ackA)遺伝子の不活性化または欠失。
【請求項2】
不活性化または欠失した抗生物質耐性遺伝子をさらに含む、請求項1記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項3】
クレブシエラ・オキシトカcasAB遺伝子およびエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において挿入後に不活性化されているかまたは欠失している、請求項1記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項4】
クレブシエラ・オキシトカcasAB遺伝子およびエルウィニア・クリサンテミcelY遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において挿入後に不活性化されているかまたは欠失している、請求項2記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項5】
代謝的に進化している、請求項2記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項6】
代謝的に進化している、請求項3記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項7】
代謝的に進化している、請求項4記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項8】
抗生物質遺伝子がFLPリコンビナーゼにより欠失される、請求項1、2、3、4、5、6、または7記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項9】
SZ186である、請求項7記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項10】
SZ132である、請求項5記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項11】
菌株のmgsA遺伝子が、遺伝子改変大腸菌株において不活性化されているかまたは欠失している、請求項1、2、3、4、または5記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項12】
mgsA遺伝子が不活性化されているかまたは欠失している大腸菌株SZ194(NRRL B30863)を含む、遺伝子改変大腸菌株。
【請求項13】
代謝的に進化している、請求項12記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項14】
TG112、TG113、またはTG114である、請求項13記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項15】
不活性化または欠失した天然のldhA遺伝子と、組換えによって挿入されたL-特異的乳酸デヒドロゲナーゼをコードする異種遺伝子とをさらに含む、請求項11または12記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項16】
L-特異的乳酸デヒドロゲナーゼ異種遺伝子が、ldhL遺伝子(例えば、P.アシディラクチシ(P. acidilactici)から得たldhL遺伝子)である、請求項15記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項17】
代謝的に進化している、請求項15または請求項16記載の遺伝子改変大腸菌株。
【請求項18】
以下からなる群より選択される、遺伝子改変大腸菌株:SZ132(NRRL B-30861);SZ186(NRRL B-30862);SZ194(NRRL B-30863);TG103(NRRL B-30864);TG102(NRRL B-30921);TG105(NRRL B-30922);TG106(NRRL B-30923);TG107(NRRL B-30924);TG108(NRRL B-30925);TG112(NRRL B-30926);TG113(NRRL B-30927);TG114(NRRLB-30928);TG128(NRRL B-30962);TG129(NRRL B-30963);およびTG130(NRRL B-30964)。
【請求項19】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、または18記載の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培地に播種する段階、および遺伝子改変大腸菌株を培養または増殖する段階を含む、遺伝子改変大腸菌株の培養または増殖方法。
【請求項20】
D-(-)-乳酸の生成を可能とし、任意でD-(-)-乳酸を中和してD-(-)-ラクテートを形成することを可能にする条件下で、請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14記載の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培養する段階を含む、D-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸の生成方法。
【請求項21】
一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株がTG112、TG113、TG114、またはSZ194から選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
L-(+)-乳酸の生成を可能とし、任意でL-(+)-乳酸を中和してL-(+)-ラクテートを形成することを可能にする条件下で、請求項15、16、または17記載の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株を培養する段階を含む、L-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸の生成方法。
【請求項23】
一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株がTG103、TG105、TG106、TG107、またはTG108である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
遺伝子改変大腸菌株が無機塩培地で培養される、請求項19、20、21、22、または23記載の方法。
【請求項25】
無機塩培地が2%〜20%(w/v)の間の糖を含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
無機塩培地が2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、10%、10.5%、11%、11.5%、12%、12.5%、13%、13.5%、14%、14.5%、15%、15.5%、16%、16.5%、17%、17.5%、18%、18.5%、19%、19.5%、または20%(w/v)の糖を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
糖が、グルコースまたはスクロースまたはグルコースとスクロースの組合せである、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
請求項11記載の遺伝子改変大腸菌株が、キラル的に純粋なD-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸の生成を可能とする条件下で培養される、請求項20記載の方法。
【請求項29】
請求項15、16、または17記載の遺伝子改変大腸菌株が、キラル的に純粋なL-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸の生成を可能とする条件下で培養される、請求項22記載の方法。
【請求項30】
キラル的に純粋なD-(-)-ラクテートまたはD-(-)-乳酸を生成する、請求項21記載の方法。
【請求項31】
キラル的に純粋なL-(+)-ラクテートまたはL-(+)-乳酸を生成する、請求項23記載の方法。
【請求項32】
キラル的に純粋なラクテートを精製する段階をさらに含む、請求項28、29、30、または31記載の方法。
【請求項33】
ラクテートが少なくとも0.5Mの濃度で生成される、請求項20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、または32記載の方法。
【請求項34】
培地が、化学的に定義された無機塩培地またはNBS無機塩培地である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
乳酸の収量が少なくとも90%である、請求項20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、または34記載の方法。
【請求項36】
収量が少なくとも90%、90.5%、91%、91.5%、92%、92.5%、93%、93.5%、94%、94.5%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、または99%である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
他の立体異性形態を伴う乳酸もしくはラクテートの立体異性形態の検出可能な混入が1つもないか、または特定の立体異性体のキラル純度が少なくとも99.9%である、請求項29、30、31、32、33、34、35、または36記載の方法。
【請求項38】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、または18記載の一つまたは複数の遺伝子改変大腸菌株と、培地とを含む、組成物。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−49993(P2007−49993A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217580(P2006−217580)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(500228159)ユニバーシティ・オブ・フロリダ・リサーチ・ファンデーション・インコーポレーテッド (13)
【Fターム(参考)】