説明

乳飲料類及びその製造方法

【課題】
乳飲料類の離水や沈殿抑制効果を有し、かつ乳飲料類の官能特性に悪影響を与えない乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料、並びにその製造方法等を提供すること。
【解決手段】
酵母を添加することで、沈殿や離水が抑制された乳製品乳酸菌飲料等を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母により沈殿や離水を抑制した乳飲料類、即ち乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、乳飲料類の飲料は半透明の小さなプラスチック容器で販売されており、製品成分の沈殿や離水が品質上、外観上大きな問題となっている。
乳飲料類の沈殿や離水は、発酵ミックスの殺菌温度と発酵温度(例えば、非特許文献1参照。)、発酵速度(例えば、非特許文献2参照。)、製品pH等による影響を受けやすいことが開示されている。さらに、飲料の製品成分の沈殿を抑制する方法として安定剤の使用について開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、酵母を用いることにより、野菜や果物のえぐ味やくさみ等のくせのある味が感じられず、清涼感のある酸味とまろやかな乳味を有する発酵飲料の製造方法について開示されている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、培養液中の乳酸菌の生菌数を増加させ、高い培養効率および生産性を得るとともに乳酸菌の死滅減少を抑制するため糸状菌と同時に同一培養器内で乳酸菌等を培養する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−280366号公報
【特許文献2】特開2001−190251号公報
【特許文献3】特開2006−238743号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Texture Studies 34:515-536 2004
【非特許文献2】Journal of Texture Studies 29:413-426 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乳飲料類の飲料の成分の沈殿や離水は、製品pH、発酵温度、発酵速度等による影響を受けるため、これらを制御しながら乳飲料類を製造することは非常に困難であった。そのため、特許文献1では、安定剤の使用により沈殿を抑制しているが、安定剤の使用は乳飲料類の重要な官能特性であるのどごしやフレーバーリリースに悪影響を及ぼし、さわやかな風味が失われるという問題点が認められた。
また、特許文献2は、先ず酵母を添加して発酵処理を施した後、乳酸菌を添加して発酵処理を施すことを特徴とする発酵飲料の製造方法に関するものであり、酵母と乳酸菌を一緒に発酵させる、もしくは、酵母発酵物と乳酸菌発酵物を混合することにより沈殿等を抑制する本発明とは製造方法も異なる。さらに、特許文献2は、野菜や果実のえぐ味や臭みを減少させることを目的とするものであり、乳製品乳酸菌飲料の沈殿や分離を抑制するという目的、課題及び効果をもつ本発明とは全く異なる。
特許文献3には、乳酸菌と糸状菌の共培養、及びその得られた乳酸菌培養物を含有する飲料に関するものであり、酵母を用いておらず、かつ該飲料の成分の沈殿や分離を抑制するという目的、課題及び効果についての記載や示唆も全くない。
さらに、乳酸菌と酵母を利用した乳酸菌飲料等の商品も認められるが、殺菌され、安定剤が添加されているものであり、殺菌により乳酸菌が死滅しておりプロバイオティクス効果が低く、官能特性であるのどこしやフレーバーリリースに影響をするものが多い状況である。
本発明は、これらの問題点を改善し、乳飲料類、即ち乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の官能特性に影響を与えず、安定剤等の添加物を添加しない乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明は、下記のいずれかの構成からなる発明である。
(1)乳飲料原料に酵母を添加して発酵させることにより沈殿を抑制した乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
(2)乳酸菌の生菌を1×106cfu/ml以上含有する上記(1)に記載の乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
(3)前記酵母が、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属のいずれか1種以上である上記(1)又は(2)に記載の乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
(4)安定剤を使用しない上記(1)〜(3)のいずれかに記載の乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
(5)殺菌した乳飲料原料に酵母と乳酸菌を添加して共発酵する工程を有する、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の製造方法。
(6)殺菌した乳飲料原料に酵母を添加して発酵させる工程と、殺菌した乳飲料原料に乳酸菌を添加して発酵させる工程と、前記発酵後に前記酵母発酵物と前記乳酸菌発酵物を混合する工程を有する、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の製造方法。
(7)乳飲料原料に酵母を添加して発酵させることにより乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の沈殿の発生を抑制する方法。
【発明の効果】
【0007】
酵母を添加することで、沈殿が抑制された乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、乳飲料類、即ち乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の沈殿や離水抑制に優れた効果を有し、かつ乳飲料類ののどごしやフレーバーリリースに悪影響を与えない、乳酸菌の製造条件について鋭意検討を進めたところ、酵母の添加が沈殿抑制効果のあることを見出した。以下に本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明に使用する酵母の菌種として、一般的に食用に用いることができる酵母を使用することができるが、乳飲料類の風味が良好であるとともに、該飲料の沈殿や分離抑制効果に優れているクリベロマイセス(Kluyveromyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属を選択することが好ましい。
【0010】
本発明に使用する乳酸菌の菌種として、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属を選択することができるが、特に限定されるものではない。例えば、プロバイオティクス効果の点より、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus )やラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri )、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus )、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )、ビフィズス菌等も用いることができるし、これらの乳酸菌を併用することもできる。
【0011】
本発明は、乳飲料類、即ち乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料のなかでも蛋白質や乳酸菌を多く含む飲料で、離水や沈殿抑制の効果が顕著である。
【0012】
本発明の乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料は、酵母及び乳酸菌発酵後に殺菌せずに、乳酸菌や酵母の生菌を含有するものを含む。乳酸菌や酵母の生菌を含んでいるため、プロバイオティクスとしての効果も期待できる。乳酸菌飲料であれば乳酸菌が生きた状態で1×106cfu/ml以上、乳製品乳酸菌飲料であれば1×107cfu/ml以上存在するため、整腸効果等の様々な効果を十分に発揮させることが可能である。
また、乳酸菌及び酵母発酵後に殺菌を施すことにより、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の沈殿や分離を更に抑制し、かつ、長期間保存することができる。
【0013】
本発明において、乳製品乳酸菌飲料とは、乳などを乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は、主要原料とした飲料のことをいい、無脂乳固形分が3.0%以上のものとして乳酸菌数または酵母数が1,000万個/ml以上のものをいい、乳酸菌飲料のうち特に乳製品に属するものをいう。本発明において、乳酸菌飲料とは、乳などを乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は、主要原料とした飲料のうち、無脂乳固形分が3.0%未満のものとして乳酸菌数または酵母数が100万個/ml以上のものをいう。本発明において、乳飲料とは、生乳、牛乳若しくは特別牛乳又はこれらを原料として製造した食品を主要原料とした飲料をいい、カルシウムや鉄などのミネラル、ビタミンなどを加えて特定の栄養素を強化してもよく、乳固形分3.0%以上のものである。また、本発明において、乳性飲料とは、生乳を主原料としたもので、乳固形分3.0%未満のものをいう。なお、本発明において、乳飲料類の「沈殿」とは、製品成分の目に見える沈殿物をいい、主には、乳固形分が沈殿物として生じることをいう。
【0014】
本発明の酵母を用いた乳飲料類の製造方法としては、例えば、乳製品乳酸菌飲料や乳酸菌飲料等を製造する際に、殺菌した乳飲料原料に酵母と乳酸菌を添加して共発酵することもできるし、それぞれを単独で発酵した後に混合することもできる。なお、それ以外の製造方法は特に変更せずに、離水や沈殿を抑制した飲料を製造することができる。発酵温度としては、通常乳酸菌を発酵する温度、例えば30℃を超えて40℃以下で発酵することもできるし、20℃以上30℃以下の温度域で発酵することにより、さらに、離水や沈殿を抑制することができる。特に20℃以上30℃以下、68〜76時間で発酵することにより沈殿や離水をさらに抑制することができる。なお、乳酸菌スターターとしては、一般的に乳酸菌の発酵に用いられる脱脂乳培地等により発酵させたものを用いることもできるし、乳酸菌の凍結菌体や凍結乾燥菌体を用いることもできる。
【0015】
本発明の製造方法により、発酵物中の離水や沈殿を抑制することができるが、例えば後述する発酵試験の結果によると、本発明の製造方法を用いて乳製品乳酸菌飲料や乳酸菌飲料等を20℃以上30℃以下で発酵して製造した場合、15℃で21日間保存後に沈殿や離水はほとんど認められなかった。また、30℃を超えて40℃以下で発酵して製造した場合、10mlの目盛り付プラスチック容器で15℃、21日間保存後、沈殿2ml(全容量中20%)、離水2ml(全容量中20%)程度であり、従来の方法で製造した場合と比べて、沈殿や離水が著しく抑制されていた。
このように、本発明の製造方法を用いることにより、乳飲料類の沈殿や離水を抑制することが可能であり、従来の乳飲料類の発酵物の風味を損なわずに乳飲料類を製造することができる。
【0016】
原材料や製造装置等は、一般的な乳飲料類の製造に用いられるものを用いることができる。原材料としては、乳原料、糖類、必要に応じて風味物質としての野菜及び/又は果物の汁液、フレーバー、酸味料、栄養物質等を用いることができる。具体的には、次のとおりである。
乳原料としては、牛乳、羊乳、山羊乳等の獣乳や、脱脂乳、バター、クリーム、脱脂粉乳、全脂粉乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、練乳等を用いることができる。
糖類としては、砂糖、果糖、ブドウ糖、液糖、オリゴ糖、はちみつ、乳糖、澱粉、水あめ、高甘味度甘味料等も用いることができる。
必要に応じて、野菜及び/又は果物の汁液を添加することもできる。例えば、ケール、ホウレンソウ、モロヘイヤ、コマツナ、ニンジン、トマト、ピーマン、ダイコン、カブ、タバネギ、キャベツ、リンゴ、バナナ、イチゴ、モモ、キウイ、パイナップル、マンゴ、ブドウ、オレンジ、ミカン、グレープフルーツ等を用いることができる。
さらに必要に応じて、クエン酸や乳酸等の酸味料、ビタミンやミネラル等の栄養物質および香料等を添加することもできる。
なお、キサンタンガム、グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、寒天、カードラン、アルギン酸等の増粘多糖類等の安定剤は、乳製品乳酸菌飲料等の風味やのどごしに影響を及ぼすため添加をせずに製造するのがよい。
【0017】
次に実施例を示し、本発明を詳細に説明する。なお、以下に記載する実施例は本発明を説明するものであり、本発明は実施例の記述に限定されるものではない。
【0018】
〔実施例1〕
10%還元脱脂乳培地でそれぞれ培養したラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130、及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083をスターターとして用いた。
95℃で90分殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)10gにラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130のスターターを3%添加し、37℃で24時間発酵した。または、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130のスターター3%を添加した発酵ミックスにサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083のスターター3%をそれぞれ添加し、37℃で24時間発酵した。各発酵物10gを異性化糖40gと混合してBRIX 15%の乳製品乳酸菌飲料とした。この乳製品乳酸菌飲料10mlを目盛り付きのプラスチック容器に入れて15℃で保存し、7日、14日、21日後の沈殿及び離水の測定を行った。
【0019】
【表1】

【0020】
沈殿及び離水量の結果を表1に示した。全容量中の沈殿及び離水量を括弧内に記載した。すべての菌株の組み合わせで良好な発酵を示し、発酵後の飲料のpHは3.6であった。乳酸菌単独で製造した飲料(比較例1:JCM8130)は保存7日目ですでに2.0mlの沈殿及び離水が認められ、21日目には5.0mlの沈殿及び5.0mlの離水が発生した。一方、実施例1-1〜実施例1-3の乳酸菌と酵母を共発酵した飲料(JCM8130+NBRC10217、JCM8130+NBRC10005、JCM8130+NBRC0083)は、保存7日目では1.0ml以下の沈殿量、離水量であり、保存21日目における沈殿量、離水量も2.0ml以下であり、沈殿や離水が抑制された乳製品乳酸菌飲料が製造できた。なお、安定剤を使用していないため、のどごしやフレーバーリリースも良好であり、さわやかな風味を有していた。また、製造直後の乳酸菌数は8×107cfu/mlであった。
【0021】
〔実施例2〕
10%還元脱脂乳培地でそれぞれ培養したラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083をスターターとして用いた。
95℃で90分殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)10gにラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130のスターター3%添加し、30℃で76時間発酵した。または、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130のスターター3%を添加した発酵ミックスにサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083のスターター3%をそれぞれ添加し、30℃で76時間発酵した。この発酵物10gを異性化糖40gと混合してBRIX 15%の乳製品乳酸菌飲料とした。この乳製品乳酸菌飲料100mlを目盛り付きのプラスチック容器に入れて15℃で保存し、7日、14日、21日後の離水及び沈殿の測定を行った。
【0022】
【表2】

【0023】
沈殿及び離水量の結果を表2に示した。全容量中の沈殿及び離水量を括弧内に記載した。全ての菌株が良好な発酵を示し、発酵後のpHは3.8であった。
実施例1に比べて発酵温度が低いため保存中の離水及び沈殿は少なかったが、乳酸菌単独で製造した飲料(比較例2)に比べて乳酸菌と酵母を共発酵することにより得られた飲料(実施例2-1〜実施例2-3)は、明らかに沈殿及び離水を抑制することができた。よって、酵母の添加により、保存期間が長い飲料においても、沈殿及び離水が抑制されることが明らかとなった。
なお、安定剤を使用していないため、のどごしやフレーバーリリースも良好であり、さわやかな風味を有していた。また、飲料の製造直後の乳酸菌数は9×107cfu/mlであった。
【0024】
〔実施例3〕
10%還元脱脂乳培地でそれぞれ培養したラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083をスターターとして用いた。
各スターターを95℃で90分殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)10gに3%となるようにそれぞれ添加し、30℃で76時間発酵した。ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130の発酵物5gとサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083の発酵物それぞれ5g、あるいは酵母により発酵させていない発酵ミックス5gを混合し、異性化糖40gと混合してBRIX 15%の乳製品乳酸菌飲料とした。この乳製品乳酸菌飲料100mlを目盛り付きのプラスチック容器に入れて15℃で保存し、7日、14日、21日後の離水の測定を行った。
【0025】
【表3】

【0026】
沈殿及び離水量の結果を表3に示した。全容量中の沈殿及び離水量を括弧内に記載した。乳酸菌(JCM8130)は良好な発酵を示し、発酵後のpHは3.8であったが、酵母は単独発酵であったため、発酵後のpH は6.7であり発酵ミックスを凝固しなかった。混合後の飲料のpHは3.6〜3.8であった。
乳酸菌(JCM 8130)発酵物と発酵させていない発酵ミックスを混合した飲料(比較例3)では、保存14日目から沈殿や離水が認められた。一方、乳酸菌(JCM 8130)発酵物と各酵母発酵物(NBRC 10217、NBRC 10005、NBRC 0083)を混合した飲料(実施例3-1〜実施例3-2)では、保存21日目においてもほとんど沈殿及び離水は認められなかった。よって、酵母の添加により沈殿及び離水抑制効果が明らかとなった。
なお、安定剤を使用していないため、のどごしやフレーバーリリースも良好であり、さわやかな風味を有していた。また、飲料の製造直後の乳酸菌数は2×108cfu/mlであった。
【0027】
〔実施例4〕
10%還元脱脂乳培地で培養したラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus )SBT0621株(FERM P-21883)及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083をスターターとして用いた。
95℃で90分殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)にラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus )SBT0621株(FERM P-21883)のスターター3%及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083のスターター3%をそれぞれ添加し、30℃で76時間発酵した。この発酵物5gを異性化糖45gと混合してBRIX 15%の乳酸菌飲料を製造した。
全ての乳酸菌飲料の発酵後のpHは3.90であり、良好な発酵を示した。また、保存中の離水や沈殿は抑制されていた。
なお、安定剤を使用していないため、のどごしやフレーバーリリースも良好であり、さわやかな風味を有していた。また、飲料の製造直後の乳酸菌数は1×108cfu/mlであった。
【0028】
〔実施例5〕
10%還元脱脂乳培地でそれぞれ培養したサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083をスターターとして用いた。ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130は脱脂乳培養物を凍結乾燥させた菌体を用いた。
95℃で90分殺菌した発酵ミックス(16%脱脂粉乳+3%グルコース)10gにラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei )基準株JCM 8130の凍結乾燥菌体を0.1%と、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)基準株NBRC 10217、クリベロマイセス・マーキシアナス(Kluyveromyces marxianus)基準株NBRC 10005、デバリオマイセス・ハンセニ(Debaryomyces hansenii)基準株NBRC 0083のスターター3%をそれぞれ添加し、28℃で70時間発酵した。発酵後、95℃、30秒で殺菌を行った。各発酵物10gを異性化糖40gと混合してBRIX 15%の乳製品乳酸菌飲料とした。全ての乳酸菌飲料の発酵後のpHは3.90であり、この乳製品乳酸菌飲料10mlをプラスチック容器に入れて15℃で21日間保存したが、離水や沈殿はほとんど認められなかった。また、安定剤を使用していないため、のどごしやフレーバーリリースも良好であり、さわやかな風味を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
乳飲料類、即ち乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の製品成分の沈殿や離水が抑制されており、かつ、乳飲料類の官能特性に影響を与えず、安定剤等の添加物を添加しない乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料、およびその製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳飲料原料に酵母を添加して発酵させることにより沈殿を抑制した乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
【請求項2】
乳酸菌の生菌を1×106cfu/ml以上含有する請求項1に記載の乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
【請求項3】
前記酵母が、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属のいずれか1種以上である請求項1又は2に記載の乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
【請求項4】
安定剤を使用しない請求項1乃至3のいずれかに記載の乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料。
【請求項5】
殺菌した乳飲料原料に酵母と乳酸菌を添加して共発酵する工程を有する、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の製造方法。
【請求項6】
殺菌した乳飲料原料に酵母を添加して発酵させる工程と、殺菌した乳飲料原料に乳酸菌を添加して発酵させる工程と、前記発酵後に前記酵母発酵物と前記乳酸菌発酵物を混合する工程を有する、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の製造方法。
【請求項7】
乳飲料原料に酵母を添加して発酵させることにより乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、乳飲料又は乳性飲料の沈殿の発生を抑制する方法。

【公開番号】特開2012−55278(P2012−55278A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203978(P2010−203978)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(711002926)雪印メグミルク株式会社 (65)
【Fターム(参考)】