説明

乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置および方法

【課題】 信頼性に優れた溶損防止装置および溶損防止方法を提供する。
【解決手段】 乾式調質圧延設備を構成するロール2の溶損を防止するための装置であって、前記ロール2の表面における、ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域5の温度を赤外線センサで測定する温度測定手段と、前記温度測定手段によって測定された前記温度を用いてロール2の溶損を予測する予測手段を備えた溶損防止装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置および溶損防止方法に関し、特に信頼性に優れた溶損防止装置および溶損防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調質圧延は、焼鈍後の鋼板の機械的性質と表面仕上げ状況を改善し、鋼板の形状を矯正する目的で、圧下率が数%程度の圧延を冷間圧延ラインの最終で行うものである。当該調質圧延においては、製品である鋼板表面の汚れを嫌って、潤滑剤・冷却剤を用いない乾式調質圧延が数多くの製造現場で採用されている。
従来より、乾式調質圧延の操業中にロール(ワークロール、中間ロール、バックアップロールの総称である)が部分的に加熱し、発生頻度は稀ではあるが、ロールの溶損に至る事故が発生していた。一般的に乾式調質圧延は、ロールの冷却が困難で、ロール間やロール・金属粉間の摩擦熱が大きくなるためロールの溶損が生じ易い。ロールが溶損するメカニズムについては種々の報告があるが、まだ充分に解明されてはいない。
ロールの溶損事故が発生すると、調質圧延ラインを休止し、ロールの取替えが必要となって調質圧延ラインの稼働率を低下させるのみならず、溶融飛散した金属の回収や付帯設備の損傷部の修理などに多くの労力が必要となる。更に最悪の事態では火災を誘発し、重大事故の原因となることも想定される。
【0003】
溶損事故を防止する試みは過去においても行われているが、その前兆を捉まえることが極めて困難であることや、ロールの部分的加熱は短時間に進むなどの特性から、これまでに有効な防止策は見つかっていない。
従って、従来はロールの摩擦による加熱を防ぐと考えられる予防的処置も検討されてきたが、生産性や経済性の面で採用が困難である上、完全に溶損事故を防止できるものではなかった。また、ロールを潤滑油などで直接冷却する湿式調質圧延では、溶損事故を殆ど皆無にできるものの、製品表面が潤滑油で汚れるため、面倒な洗浄処理を行なわねばならない欠点があった。
【0004】
ロールの溶損を防止する採用可能な方法として、耐磨耗性が高いものや硬度が高いものをロール材質として使用する方法や、溶損を防止あるいは予測する方法および装置(例えば、特許文献1)が提案されている。
【特許文献1】特開平11−248604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された技術では、ロール溶損の発生しやすい部位を、当接する他のロールとの接触部およびその近傍であって、ロール軸方向における、当接する他のロールとの接触状態から非接触状態に変化する境界部およびその近傍であるとしている。しかしながら、本発明者らの研究によれば、特許文献1に開示されたロール溶損の発生しやすい部位は、他の高温部分から放射された赤外線や隣り合うロール間で反射された赤外線が重畳されて生じる外乱による誤差により、赤外線センサでは、正確な温度の測定が困難な部分であること、またロールの表面は反射率が高いため、放射された赤外線の影響を受けやすく、溶損防止に対する信頼性が低くなる虞があることが判明した。
例えば、本発明者らの研究によれば、特許文献1に開示された溶損の発生しやすい部位(ロールの接触部)は、サーモビュアの画像では、実際のロール温度より見かけ上高温に表示される。この部分は他の高温部分(ロールチョック部)から放射された赤外線が重畳されているので外乱が多く、正確な温度を示していないことが分かった。
【0006】
また、ロール材質として耐磨耗性が高いものや硬度が高いものを使用しても、それだけでは溶損を十分に防止することはできなかった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、信頼性に優れたロールの溶損防止装置および溶損防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究することにより、ロールの表面の温度を赤外線センサで測定する場合に、測定領域を赤外線が重畳されて生じる外乱に起因する測定誤差が生じにくい領域とすることにより、高精度にロールの表面の温度を非接触で測定することが可能であることを見出した。
【0009】
本発明の溶損防止装置は、乾式調質圧延設備を構成するロールの溶損を防止するための装置であって、上記課題を解決するために、前記ロール表面のロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度を赤外線センサで測定する温度測定手段と、前記温度測定手段によって測定された温度を用いてロールの溶損を予測する予測手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
このような溶損防止装置では、ロール表面のロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度を赤外線センサで測定する温度測定手段を備えているので、赤外線が重畳されて生じる外乱に起因する測定誤差が生じにくく、高精度にロールの表面の温度を測定することが可能である。このため、測定領域の温度に基づいてロールの溶損を高精度で予測することができ信頼性に優れたものとなる。
【0011】
上記の溶損防止装置においては、前記予測手段が、ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の平均温度と、前記ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、前記ロールの溶損を予測することができる。
このような溶損防止装置とすることで、あらかじめ決定された管理値に基づく所定の精度で容易にロールの溶損を予測させることが可能となる。
【0012】
上記の溶損防止装置においては、前記予測手段が、ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差を用いてロール線圧を求め、前記ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、ロールの溶損を予測することができる。
このような溶損防止装置とすることで、ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによりロールの溶損を高精度で予測できる。
【0013】
上記の溶損防止装置においては、ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差と圧延荷重を用いてロール線圧を求め、前記ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、前記ロールの溶損を予測することができる。
このような溶損防止装置とすることで、ロール線圧をロール軸線方向の温度差と圧延荷重とに基づいて求めることが可能となり、ロール線圧を用いてロールの溶損を高精度で予測できる。
【0014】
また、上記の溶損防止装置においては、前記予測手段で得られた結果に応じて圧延速度と圧延荷重を制御する制御手段を備えることができる。
このような溶損防止装置とすることで、例えば、前記予測手段で得た結果が、ロール線圧があらかじめ設定された値以上となったことに応じて、圧延速度を遅くしたり、圧延荷重を減少させて、ロール線圧を低下させ、溶損を防止する制御を行うことができる。
【0015】
上記の溶損防止装置においては、前記温度測定手段が、被測定物体であるロールの表面温度分布を画像で表示する機能を有する赤外線センサとすることができる。この赤外線センサは、商品名「サーモビュア」として一般的に知られている。
このような溶損防止装置とすることで、測定領域の温度差を容易に測定できる。また、温度測定手段によって測定された温度分布を容易に認識できるものとなる。
【0016】
また、上記の溶損防止装置においては、前記温度測定手段と前記ロールの間に前記ロールを遮蔽するカバーが備えられ、前記カバーには前記温度測定手段と前記測定領域の間に位置する部分に窓が設けられている。
赤外線センサを用いてロールの表面の温度を測定する場合、赤外線センサは、ロールの表面における赤外線の放射パワーを測定する。このとき、赤外線センサの周囲にロールだけが存在する場合には、ロールの放射パワーを高精度に測定することが可能である。しかし、実際には、周囲にロール以外の物体が存在し同様に赤外線を放射しているため、この影響により測定誤差が生じる。上記の溶損防止装置においては、カバーが備えられているので、測定領域以外から放射される赤外線の放射による誤差を少なくすることができ、より一層高精度にロールの表面の温度を測定することが可能となる。
【0017】
また、上記の溶損防止装置においては、前記乾式調質圧延設備が、被圧延材を挟んで上下にそれぞれワークロール、中間ロール、バックアップロールが配置された、いわゆる6ロール圧延機であって、前記温度測定手段が、全てのロールの測定領域の温度を測定することが望ましい。
温度測定対象が、全てのロールの測定領域であるので、各ロール毎に焼き戻し温度や変形限界線圧が異なる場合であっても、ロールの溶損を高精度で予測することができる。
【0018】
また、上記の溶損防止装置においては、前記乾式調質圧延設備のロールが、被圧延材を挟んで上下にそれぞれ配置されたワークロール、中間ロール、バックアップロールからなり、前記中間ロールは、少なくとも一方の端部の断面形状が曲線とされることにより形成された肩部を備えたものであり、各ロールの測定領域の幅が、前記各ロールの直径の1/20〜1/50の範囲とされ、前記測定領域の長さ方向の縁部が、前記中間ロールの肩部の位置よりも内側であり、かつ、前記中間ロールの肩部の位置から前記各ロールのロール幅の1/4の長さ分内側の位置よりも外側に位置している。
このような溶損防止装置とすることで、赤外線が重畳されて生じる外乱に起因する測定誤差が非常に生じにくく、より一層高精度にロールの表面の温度を測定することが可能となる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の溶損防止方法は、乾式調質圧延設備を構成するロールの溶損を防止する方法であって、ロール表面のロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度を、赤外線センサを用いて測定する温度測定工程と、測定された温度を用いてロールの溶損を予測させる予測工程を備えたことを特徴とする。
【0020】
このような溶損防止方法では、温度測定手段によって測定された温度が、赤外線の重畳によって生じる外乱に起因する測定誤差の生じにくいものとなるので、温度測定工程において高精度にロールの表面温度を測定することが可能である。このため、予測工程においてロールの溶損を高精度で予測することができる。
【0021】
また、上記の溶損防止方法においては、予測工程が、ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の平均温度と、ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較して、ロールの溶損を予測する方法とすることができる。
また、上記の溶損防止方法においては、予測工程が、ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差を用いてロール線圧を求め、ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、ロールの溶損を予測する方法とすることができる。
また、上記の溶損防止方法においては、予測工程が、ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差と圧延荷重を用いてロール線圧を求め、前記ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、前記ロールの溶損を予測する方法とすることができる。
【0022】
また、上記の溶損防止方法においては、予測工程で得られた結果に応じて、圧延速度と圧延荷重を制御させることができる。
このような溶損防止方法とすることで、予測工程で得られた結果に応じて、圧延速度を遅くしたり、圧延荷重を減少させて、ロール線圧を低下させ、溶損を防止する制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、前記ロール表面のロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度を温度測定手段で測定するので、測定精度が高く、信頼性に優れた予測ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、乾式調質圧延設備を構成するロール周辺部分および本発明の溶損防止装置の例を示す概略構成図である。図1において、符号1は乾式調質圧延設備、符号2はロール、符号3は被圧延材を示している。図1に示す乾式調質圧延設備1は、ロール2として、被圧延材3を挟んで上下にそれぞれワークロール23、中間ロール22、バックアップロール21が配置された6ロール圧延機である。乾式調質圧延設備1のロール2の周囲には、温度測定手段6、温度測定手段6と前記ロール2の間に設けられたカバー9、ロール2の溶損を予測する予測手段7、および機側モニタ15を備えた溶損防止装置が配置されている。
機側モニタ15は、ロール2の近傍に設けられ、測定手段6の測定視野、測温温度レンジ、被測定ロールの温度画像などを映し出す機能を持ったモニタである。機側モニタ15は、ロール2の近傍での設備点検時などに用いることができ、機側モニタ15からの出力を用いてロール2の状態を把握することで、ロール2の状態を容易かつ迅速に把握できるので、迅速に操業対応ができる。
【0025】
図2は、図1に示す被圧延材3、被圧延材3の上側にあるロール2、およびその周辺部分を被圧延材の進行方向に沿って見た拡大構成図である。図3は、図1に示す被圧延材3、被圧延材の上側にあるロール、およびその周辺部分をロールの軸線方向から見た拡大構成図である。
バックアップロール21、中間ロール22、ワークロール23は、それぞれ軸受け(ロールチョック)11、12、13に接続され、ロール軸線4を中心に回転可能に軸支されている。
中間ロール22の一方の端部のみが、肩落しされて断面形状が曲線とされ、肩部25が形成されている。
【0026】
本実施形態においては、バックアップロール21として、直径960mm、焼き戻し温度545℃、変形限界線圧1833kg/mmのものを用い、中間ロール22として、直径460mm、焼き戻し温度210℃、変形限界線圧2165kg/mmのものを用い、ワークロール23として、直径430mm、焼き戻し温度110℃、変形限界線圧2570kg/mmのものを用いた。
【0027】
温度測定手段6は、サーモビュアであり、図2に示す測定領域5の温度をあらかじめ決定された時間毎に非接触で測定するものである。
測定領域5は、バックアップロール21の測定領域51と、中間ロール22の測定領域52と、ワークロール23の測定領域53からなる。測定領域5は、図2に示す如く被圧延材3の進行方向に沿って見た時に、上から左下方向に向かう斜線で示される部分であり、ロール軸線4に沿う短冊形の領域である。
本発明ではこの領域を『ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域』と便宜上定義する。近接対向部位とはサーモビュア等の赤外線センサを使用して測温する場合に、曲面を形成するロール表面の内、センサに対向する部分でセンサ側に最も近接している曲面領域を意味する。上記『ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域』を以降、単に測定領域とも呼ぶ。
【0028】
測定領域5は、図2において網目で示される領域Aや上から右下方向に向かう斜線で示される領域Bを含まないので、赤外線が重畳されて生じる誤差が生じにくい領域である。
図2に示す領域Aは、図3に示すようにロール2の端面も含むロール2のエッジ領域26であり、後述する図4に示すように、高温部分である軸受け10から放射された赤外線が重畳されて生じる外乱により、誤差が生じやすく、正確な温度の測定が困難な部分である。
また、図2に示す領域Bは、隣り合う他のロールとの接触部分であり、後述する図4に示すように、隣り合うロール間で反射された赤外線が重畳されて生じる外乱による誤差により、正確な温度の測定が困難な部分である。
【0029】
図4は、バックアップロールにおいて、ロール軸線に沿う位置とロールの温度の関係を示したグラフであり、横軸は、ロールの端部から中心方向300mmの位置を0とし、ロールの端部を180として示した場合のロール軸線に沿う測定位置であり、縦軸はバックアップロールの温度である。
あらかじめ標準サンプルを用いて赤外線センサの校正を行った結果、輻射率εを0.52とすれば、赤外線センサでの測定結果と接触式温度計での測定結果とが一致することが分かった。図4に赤外線センサの輻射率を0.52に設定した赤外線センサでロール軸線に沿う温度分布を測定した結果を示す。
図4において、符号Gで示す線は、図2の測定領域5を測定した結果を示し、符号Cで示す線は、図2の領域Bを測定した結果を示している。また、図4において、符号E、F、H、I、Jで示す点は接触式温度計で測定した温度の結果を示している。図4に示すように、測定領域5を測定した結果Gは、符号E、F、H、Iで示す接触式温度計で測定した温度の結果と一致しており、ノイズが少ない。これに対し、図2に示す領域Bを測定した結果Cは、赤外線が重畳されているためにロール温度が見掛け上高温を示している。また、図2に示す領域Aでは、測定領域5を測定した結果Gであっても、赤外線が重畳されているために接触温度計の測定値Jに比べてロール温度が見掛け上高温を示している。
【0030】
測定領域5の望ましい長さおよび幅は、各ロール毎に異なっていてもよいし、同じであってもよい。各ロール21、22、23の測定領域51、52、53の望ましい長さL方向の縁部は、中間ロール22の肩部25の位置よりも内側とされることがより望ましい。なお、バックアップロール21、ワークロール23において、中間ロール22の肩部25の位置よりも内側とは、中間ロール22の肩部25と対向する位置よりも内側のことを意味する。
本発明において、中間ロール22の肩部25とは、中間ロール22が他の隣接するロールと接する最も外側の部分であり、中間ロール22の端部が直線や曲線で肩落しされている場合には、中間ロール22の端部から肩落しした分だけ長さL方向内側に入った場所となる。また、中間ロール22がオシレートされる場合には、中間ロール22の移動にともない、中間ロール22が他の隣接するロールと接する最も外側の位置を中間ロール22の肩部25とする。
各ロール21、22、23の測定領域51、52、53の長さL方向の縁部を中間ロール22の肩部25よりも内側とすることで、軸受け10からの熱による測定誤差や隣り合う他のロールとの接触部分おける測定誤差の影響を受けにくくすることができ、信頼性の高い測定結果が得られる。
【0031】
また、測定領域51、52、53の長さL方向の縁部は、中間ロール22の肩部25の位置からロール幅の1/4の長さ分内側の位置よりも外側とされることがより望ましい。中間ロール22の肩部25には応力が集中しロール温度が上昇しやすい。従って、中間ロール22が例えば100mmオシレートされる場合には、接触する中間ロール22の肩部25の位置が100mm移動するため、バックアップロール21、ワークロール23の中間ロール22の肩部25に対応する部位のロール温度が上昇する。このため、バックアップロール21、ワークロール23の測定領域51、53の望ましいL方向の長さは、中間ロール22がオシレートされることにより肩部25が接触する位置からロール幅の1/4の長さ分内側の位置よりも外側とすることが望ましい。
また、中間ロール22の肩部25から外側は、バックアップロール21、ワークロール23と接触しないためロール温度の上昇の可能性は極めて低い。従って、中間ロール22の測定領域52の望ましいL方向の長さを、肩部25の位置からロール幅の1/4の長さ分内側の位置よりも外側とする。
【0032】
また、ロール軸線に沿う測定領域5の幅Dは、ロール直径の1/20〜1/50の範囲とされる。各ロール21、22、23の測定領域51、52、53の幅Dをロール直径の1/50未満とすると、温度測定手段6による測定や温度測定手段6の配置が困難となる虞が生じる。各ロール21、22、23の測定領域51、52、53の幅Dがロール直径の1/20を超えると、温度測定するロールと温度測定するロールに隣り合う他のロールの間で反射された熱エネルギーによる測定誤差の影響を受けやすくなり、十分な信頼性を有する測定結果が得られない虞がある。
【0033】
カバー9は、ロール2を遮蔽する鉄板からなるものであり、図1、図3に示すように、温度測定手段6とロール2の間、およびロール2の上方に備えられている。また、図2に示すように、カバー9には、温度測定手段6と測定領域5の間に位置する部分に窓8が設けられ、被圧延材3の通過する位置に通過窓82が設けられている。窓8は、バックアップロール21、中間ロール22、ワークロール23全ての測定領域51、52,53の一部と、温度測定手段6の間が、カバー9に遮られることのないようにするものである。通過窓82は、被圧延材3を通過させるためのものである。
カバー9は、図1および図3に示すように、ロール2の上方と、温度測定手段6とロール2の間にのみ設けられていてもよいが、ロール2をより効果的に遮蔽するためにロールの軸線方向にも設けることができる。
また、カバー9は、上述したように、通過窓82を設けたものとしてもよいが、カバー9の設置が容易なものとするために、通過窓82の延在方向に沿って分断されたものや、通過窓82の一方の端部をカバー9の縁部まで延ばしたスリットが形成されたものとしてもよい。さらに、被圧延材3の上側のみで測定領域5の温度を測定する場合には、カバー9として、通過窓82の延在方向に沿って分断されたものを用い、カバー9を被圧延材3の上側のみに配置することができる。
また、カバー9は、ロール2や軸受け10からの熱伝導によってカバー9の温度が上昇することにより、測定される温度の精度に支障をきたすことがないように、独立して設置することが望ましい。
【0034】
予測手段7は、温度測定手段6によって測定された温度と圧延荷重を用いてロール2の溶損を予測するものである。予測手段7は、その予測結果に応じて圧延速度と圧延荷重を制御する制御手段と、温度測定手段6による測定結果や予測手段7の予測結果などを表示するモニタを備えたものである。
予測手段7としては、PC(パーソナルコンピュータ)を用いることができる。予測手段7としての機能は、予測手段7としての機能を実現するためのプログラムを、PCに備わるメモリにロードしてCPU(中央処理装置)が実行することによりその機能が実現されるものとする。また、モニタは、PC内蔵のモニタまたは外部接続のモニタを用いることができる。なお、モニタは、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶ディスプレイ等からなる表示装置のことをいう。
【0035】
このような溶損防止装置を用いて乾式調質圧延設備1を構成するロール2の溶損を防止するには、まず、圧延操業中のロール2の表面2aにおける被圧延材3のロール軸線4に沿う測定領域5の温度を、温度測定手段6によって、あらかじめ決定された所定時間毎に非接触で測定させる(温度測定工程)。
温度測定手段6によって測定された測定領域5の温度の測定結果は、予測手段7に例えば、測定領域の温度の2次元分布、測定領域5の平均温度、ロール軸線4方向の最高温度、ロール軸線4方向の最低温度を求めさせることにより、予測手段7のモニタに、例えば、測定領域の温度の2次元分布、測定領域5の平均温度、ロール軸線4方向の最高温度、ロール軸線4方向の最低温度として表示される。
なお、温度測定は、1つのロール、すなわちバックアップロール、中間ロール、ワークロールのいずれか1つについて行ってもよいが、各ロール毎に焼き戻し温度や変形限界線圧が異なるので、全てのロールについて行うことが望ましい。
【0036】
次いで、予測手段7により、温度測定手段6によって測定された測定領域5の平均温度を求めさせ、測定領域5の平均温度を予測手段7のモニタに表示させ、測定領域5の平均温度と、ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較させて、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させる(予測工程)。
ロール2の溶損は、ロール2の温度が圧延操業中に上昇して焼き戻し温度以上になり、ロール2の表面硬度が低下してロール線圧がロールの変形限界線圧となることによって発生する。したがって、予測手段7に、測定領域5の平均温度を求めさせ、測定領域5の平均温度と、ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較させることで、ロールの溶損を予測させることができる。
管理値としては、例えば、ロールの焼き戻し温度のよりも10℃〜80℃低い値とすることができる。ロールの焼き戻し温度との差が10℃未満であると、ロールの溶損を予測した時点ですでにロールに溶損が生じている虞が生じる。ロールの焼き戻し温度との差が80℃を超えると、ロールが溶損する危険性が低すぎて、ロールの溶損を予測した結果の信頼性が低下するため好ましくない。
【0037】
そして、予測手段7の予測結果が、例えば、ロール2のうちの少なくとも1つのロールの平均温度があらかじめ設定された管理値以上になったことに応じて、制御手段に圧延速度と圧延荷重を制御させることにより、溶損が防止される。
ここでの制御としては、ロールの平均温度があらかじめ設定された管理値以上となった場合に、圧延速度を遅くしたり、圧延荷重を減少させて、ロールの平均温度およびロール線圧を低下させ、溶損を防止する制御を行うことができる。
また、予測手段7の予測結果が、例えば、ロール2のうちの少なくとも1つのロールの平均温度があらかじめ設定された管理値以上になったことに応じて、モニタに制御手段による制御内容を表示させたり、制御手段に警報を発させるようにしてもよい。
【0038】
このような溶損防止装置では、ロール2の表面におけるロール軸線4に沿う測定領域5の温度を赤外線センサで測定する温度測定手段6を備えているので、赤外線が重畳されて生じる外乱に起因する測定誤差が生じにくく、高精度にロール2の表面の温度を測定することが可能であり、測定領域5の温度を温度測定手段によって測定させ、温度測定手段6によって測定された温度を用いて予測手段7にロール2の溶損を予測させることにより、ロール2の溶損を防止することができる。
【0039】
また、このような溶損防止装置には、カバー9が備えられているので、測定領域5以外から放射される赤外線の放射パワーによる誤差を少なくすることができる。よって、非常に高精度にロール2の表面の温度を測定することができる。
【0040】
上述した実施形態においては、予測手段7は、温度測定手段6のみによって測定された温度を用いてロールの溶損を予測しているが、温度測定手段6によって測定された温度と接触式温度計によって測定された温度を用いてロールの溶損を予測してもよい。この場合、ロールの溶損をより正確に予測でき、ロールの溶損をより効果的に防止できる。
【0041】
また、本発明の溶損防止方法における予測工程は、上述した実施形態に限定されるものではなく、以下に示す工程としてもよい。
予測手段7により、ロール軸線4方向の最高温度とロール軸線4方向の最低温度からロール軸線4方向の温度差を求めさせて、ロールの直径、ロール表面硬度、ロール胴長(荷重掛かる支点間距離)、ロール軸線4方向の温度差を用いてロール線圧を求めさせ、得られたロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較させることで、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させる(予測工程)。
【0042】
ロール2の溶損は、ロール2の温度が圧延操業中に上昇して焼き戻し温度以上になっていなくても、ロール2の表面の温度差が大きくなりロール線圧がロールの変形限界線圧となることによって発生する可能性がある。したがって、予測手段7により、ロール軸線方向の温度差を用いてロール線圧を求めさせ、得られたロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較させることで、ロールの溶損を予測させることができる。
管理値としては、例えば、ロールの変形限界線圧のよりも400kg/mm〜650 kg/mm低い値とすることができる。ロールの変形限界線圧との差が400kg/mm未満であると、ロールの溶損を予測した時点ですでにロールに溶損が生じている虞が生じる。ロールの変形限界線圧との差が650kg/mmを超えると、ロールが溶損する危険性が低すぎて、ロールの溶損を予測した結果の信頼性が低下するため好ましくない。
本実施形態においては、このロール線圧の変化は、予測手段7に、ロール軸線4方向の温度差を用いて算出させることができる。
【0043】
また、ロール線圧は、後述する図5に示すように、圧延荷重が変化した場合にも、それに応じて変化する。また、ロール線圧は、後述する図6に示すように、ロール軸線4方向に温度差がある場合には、熱膨張差で上昇する。したがって、予測手段7に、ロール軸線4方向の温度差を求めさせ、ロール軸線4方向の温度差に起因するロール線圧の上昇を、圧延荷重によるロール線圧に加算したロール線圧を求めさせることで、ロール線圧を高精度で求めることができる。
【0044】
そして、予測手段7の予測結果が、例えば、ロール2のうちの少なくとも1つのロールのロール線圧があらかじめ設定された管理値以上になったことに応じて、制御手段に圧延速度と圧延荷重を制御させることにより、溶損が防止される。
【0045】
このような溶損防止方法においても、測定領域5の温度を温度測定手段6によって測定させ、温度測定手段6によって測定された温度を用いて予測手段7にロール2の溶損を予測させることにより、ロール2の溶損が防止される。
【0046】
また、本発明においては、予測手段7を、温度測定手段6によって測定された測定領域5の平均温度を求めさせ、測定領域5の平均温度を予測手段7のモニタに表示させ、測定領域5の平均温度と、ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較させて、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させる第1の予測と、予測手段7により、ロール軸線4方向の最高温度とロール軸線4方向の最低温度からロール軸線4方向の温度差を求めさせて、ロール軸線4方向の温度差を用いてロール線圧を求めさせ、得られたロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較させることによって、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させる第2の予測を行うものとし、予測手段7により、第1の予測と第2の予測を行う方法としてもよい。
このような溶損防止方法とすることで、非常に信頼性の高い予測ができる。
【0047】
また、本発明においては、予測手段7を、ロール軸線4方向の最高温度とロール軸線4方向の最低温度からロール軸線4方向の温度差を求めさせて、ロール軸線4方向の温度差を予測手段7のモニタに表示させ、管理値としての温度差と、ロール軸線4方向の温度差を比較させることで、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させるものとしてもよい。
ここでの管理値は、温度差であり、ロールの直径、ロール表面硬度、ロール胴長(荷重掛かる支点間距離)、ロール軸線4方向の温度差を用いて求められたロール線圧と、ロールの変形限界線圧とに基づいてあらかじめ決定された値とされる。
【0048】
以下、実験例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
(実験例1)
被圧延材を挟んで上下にそれぞれワークロール、中間ロール、バックアップロールが配置された6ロール圧延機において、ロール径960mm、変形限界線圧1833kg/mmのバックアップロールと、ロール径460mm、変形限界線圧2165kg/mm、エッジ領域の断面形状が曲線とされた中間ロールとの間における圧延荷重とロール線圧の関係を調べた。
その結果を図5に示す。図5より、ロール線圧は、圧延荷重の増大に比例して上昇するため、圧延荷重からロール線圧を求めることができることが確認できた。図5において、圧延荷重700tonのときのロール線圧は861kg/mmであり、圧延荷重800tonのときのロール線圧は984kg/mmであり、圧延荷重900tonのときのロール線圧は1107kg/mmであり、圧延荷重1000tonのときのロール線圧は1230kg/mmであった。
(実験例2)
また、中間ロールのエッジ領域の断面形状が直線とされたこと以外は実験例1と同様にして、圧延荷重とロール線圧の関係を調べた。その結果を図5に示す。図5において、圧延荷重700tonのときのロール線圧は905kg/mmであり、圧延荷重800tonのときのロール線圧は1034kg/mmであり、圧延荷重900tonのときのロール線圧は1164kg/mmであり、圧延荷重1000tonのときのロール線圧は1293kg/mmであった。
【0049】
(実験例3)
実験例1と同様のバックアップロールの変形限界線圧を一定に維持する条件下で、ロール軸線方向の温度差と圧延荷重の関係を調べた。その結果を図6に示す。図6に示す結果より、ロール軸線方向の温度差が大きい場合には、圧延荷重が小さくても変形限界線圧となり、ロール線圧は、ロール軸線方向の温度差が増大すると上昇することが確認できた。また、ロール軸線方向の温度差と圧延荷重から圧延操業中のロール線圧を求め、変形限界線圧と比較することで、ロールの溶損を予測できることが確認できた。
図6において、圧延荷重700tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は74℃であり、圧延荷重800tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は65℃であり、圧延荷重900tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は55℃であり、圧延荷重1000tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は45℃であった。
(実験例4)
中間ロールのエッジ領域の断面形状が直線とされたこと以外は実験例3と同様にして、バックアップロールにおける変形限界線圧に対するロール軸線方向の温度差と圧延荷重の関係を調べた。その結果を図6に示す。
図6に示す結果より、ロール軸線方向の温度差が大きい場合には、圧延荷重が小さくても変形限界線圧となり、ロール線圧は、ロール軸線方向の温度差が増大すると上昇することが確認できた。図6において、圧延荷重700tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は71℃であり、圧延荷重800tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は61℃であり、圧延荷重900tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は50℃であり、圧延荷重1000tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は40℃であった。
【0050】
(実験例5)
実験例1と同様の中間ロールにおける変形限界線圧に対するロール軸線方向の温度差と圧延荷重の関係を調べた。その結果、ロール軸線方向の温度差が大きい場合には、圧延荷重が小さくても変形限界線圧となり、ロール線圧は、ロール軸線方向の温度差が増大すると上昇することが確認できた。また、ロール軸線方向の温度差と圧延荷重から圧延操業中のロール線圧を求め、変形限界線圧と比較することで、ロールの溶損を予測できることが確認できた。圧延荷重700tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は215℃であり、圧延荷重800tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は194℃であり、圧延荷重900tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は174℃であり、圧延荷重1000tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は154℃であった。
(実験例6)
中間ロールのエッジ領域の断面形状が直線とされたこと以外は実験例5と同様にして、中間ロールにおける変形限界線圧に対するロール軸線方向の温度差と圧延荷重の関係を調べた。その結果ロール軸線方向の温度差が大きい場合には、圧延荷重が小さくても変形限界線圧となり、ロール線圧は、ロール軸線方向の温度差が増大すると上昇することが確認できた。圧延荷重700tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は207℃であり、圧延荷重800tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は186℃であり、圧延荷重900tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は165℃であり、圧延荷重1000tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は143℃であった。
【0051】
(実験例7)
実験例1と同様の6ロール圧延機において、ロール径460mm、変形限界線圧2165kg/mm、エッジ領域の断面形状が曲線とされた中間ロールと、ロール径430mm、変形限界線圧2570kg/mmのワークロールの間における圧延荷重とロール線圧の関係を調べた。その結果、ロール線圧は、圧延荷重の増大に比例して上昇し、圧延荷重からロール線圧を求めることができることが確認できた。圧延荷重700tonのときのロール線圧は663kg/mmであり、圧延荷重800tonのときのロール線圧は757kg/mmであり、圧延荷重900tonのときのロール線圧は852kg/mmであり、圧延荷重1000tonのときのロール線圧は947kg/mmであった。
(実験例8)
また、中間ロールのエッジ領域の断面形状が直線とされたこと以外は実験例7と同様にして、圧延荷重とロール線圧の関係を調べた。その結果、圧延荷重700tonのときのロール線圧は693kg/mmであり、圧延荷重800tonのときのロール線圧は1813kg/mmであり、圧延荷重900tonのときのロール線圧は1718kg/mmであり、圧延荷重1000tonのときのロール線圧は1623kg/mmであった。
【0052】
(実験例9)
実験例7と同様のワークロールにおける変形限界線圧に対するロール軸線方向の温度差と圧延荷重の関係を調べた。その結果、ロール軸線方向の温度差が大きい場合には、圧延荷重が小さくても変形限界線圧となり、ロール線圧は、ロール軸線方向の温度差が増大すると上昇することが確認できた。また、ロール軸線方向の温度差と圧延荷重から圧延操業中のロール線圧を求め、変形限界線圧と比較することで、ロールの溶損を予測できることが確認できた。圧延荷重700tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は336℃であり、圧延荷重800tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は319℃であり、圧延荷重900tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は303℃であり、圧延荷重1000tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は286℃であった。
(実験例10)
中間ロールのエッジ領域の断面形状が直線とされたこと以外は実験例9と同様にして、ワークロールにおける変形限界線圧に対するロール軸線方向の温度差と圧延荷重の関係を調べた。その結果ロール軸線方向の温度差が大きい場合には、圧延荷重が小さくても変形限界線圧となり、ロール線圧は、ロール軸線方向の温度差が増大すると上昇することが確認できた。圧延荷重700tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は331℃であり、圧延荷重800tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は313℃であり、圧延荷重900tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は296℃であり、圧延荷重1000tonのときの変形限界線圧に達するロール軸線方向の温度差は278℃であった。
【0053】
(実験例11)
図1〜図3に示す乾式調質圧延設備および溶損防止装置を用いて、幅740mm、厚み0.22mmの被圧延材3を、圧延スピード(LS)550mpm、荷重850tonで圧延し、圧延操業中の全てのロール2の測定領域5の温度を温度測定手段6によって、連続で非接触で測定させた。そして、予測手段7により、温度測定手段6によって測定された全てのロール2の測定領域5の平均温度を予測手段7のモニタに表示させ、全てのロール2の測定領域5の平均温度と、ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値である100℃とを比較させて、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させた。
そして、予測手段7の予測結果が、ワークロール23の平均温度が100℃以上になったことに応じて、制御手段により圧延速度を−2mpm/minの速度で低下させ、圧延荷重を−5ton/minで600まで低下させる制御を行わせた。
その結果、ワークロール23の測定領域5の平均温度が100℃から60℃に低下し、溶損を防止することができた。
【0054】
(実験例12)
図1〜図3に示す乾式調質圧延設備および溶損防止装置を用いて、幅740mm、厚み0.22mmの被圧延材3を、圧延スピード(LS)550mpm、荷重800tonで圧延し、圧延操業中の全てのロール2の測定領域5の温度を温度測定手段6によって、連続で非接触で測定させた。そして、予測手段7により、温度測定手段6によって測定された全てのロール2のそれぞれのロール軸線4方向の温度を予測手段7のモニタに表示させ、ロール軸線4方向の最高温度とロール軸線4方向の最低温度からロール軸線4方向の温度差を求めさせて、ロール軸線4方向の温度差に基づいてあらかじめ決定された管理値である50℃とを比較させることで、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させた。
ワークロール23のロール軸線4方向の温度差が1℃/minで増幅し、予測手段7の予測結果が、ワークロール23のロール軸線4方向の温度差が50℃以上になったことに応じて、制御手段により圧延荷重を−5ton/minで700tonまで低下させ圧延速度を−2mpm/minの速度で低下させる制御を行わせた。
その結果、ワークロール23の測定領域5のロール幅方向の温度差は50℃から22℃に低下し、溶損を防止することができた。
【0055】
(実験例13)
図1〜図3に示す乾式調質圧延設備および溶損防止装置を用いて、幅740mm、厚み0.22mmの被圧延材3を、圧延スピード(LS)550mpm、荷重800tonで圧延し、圧延操業中の全てのロール2の測定領域5の温度を温度測定手段6によって、連続かつ非接触で測定させた。そして、予測手段7により、温度測定手段6によって測定された全てのロール2のそれぞれのロール軸線4方向の温度を予測手段7のモニタに表示させ、ロール軸線4方向の最高温度とロール軸線4方向の最低温度からロール軸線4方向の温度差を求めさせて、ロールの直径、ロール表面硬度、ロール胴長(荷重掛かる支点間距離)、ロール軸線4方向の温度差を用いてロール線圧を求めさせ、得られたロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値である1648kg/mmとを比較させることで、ロールの溶損を予測させ、得られた予測結果をモニタに表示させた。
そして、予測手段7の予測結果が、ワークロール23のロール線圧が1648kg/mm以上になったことに応じて、制御手段により圧延荷重を−5ton/minで700tonまで低下させ圧延速度を−2mpm/minの速度で低下させる制御を行わせた。
その結果、ワークロール23のロール線圧が1648kg/mmから1280kg/mmに低下し、溶損を防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、乾式調質圧延設備を構成するロール周辺部分と、本発明の溶損防止装置を例として示す概略構成図である。
【図2】図2は、図1に示す被圧延材、被圧延材の上側にあるロール、およびその周辺部分を被圧延材の進行方向から見た拡大構成図である。
【図3】図3は、図1に示す被圧延材、被圧延材を挟んで上側にあるロール、および温度測定手段をロール軸線の方向から見た拡大構成図である。
【図4】図4は、ロール軸線に沿う位置とロール温度の関係を示したグラフである。
【図5】図5は、ロールにおける圧延荷重とロール線圧の関係を示したグラフである。
【図6】図6は、ロールにおける変形限界線圧を一定に維持する場合の、ロール軸線方向の温度差と圧延荷重の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1…乾式調質圧延設備、2…ロール、2a…表面、3…被圧延材、4…ロール軸線、5、51、52、53…測定領域、6…温度測定手段、7…予測手段、8…窓、82…通過窓、9…カバー、15…機側モニタ、10、11、12、13…軸受け(ロールチョック)、21…バックアップロール、22…中間ロール、23…ワークロール、4…ロール軸線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式調質圧延設備を構成するロールの溶損を防止するための装置であって、前記ロール表面のロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度を赤外線センサで測定する温度測定手段と、前記温度測定手段によって測定された温度を用いてロールの溶損を予測する予測手段を備えたことを特徴とする乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項2】
前記予測手段が、前記ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の平均温度と、前記ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、前記ロールの溶損を予測することを特徴とする請求項1に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項3】
前記予測手段が、前記ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差を用いてロール線圧を求め、前記ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、前記ロールの溶損を予測することを特徴とする請求項1に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項4】
前記予測手段が、前記ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差と圧延荷重を用いてロール線圧を求め、前記ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、前記ロールの溶損を予測することを特徴とする請求項1に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項5】
前記溶損防止装置が、前記予測手段で得られた結果に応じて圧延速度と圧延荷重を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項6】
前記温度測定手段が、被測定物体の表面温度分布を画像で表示する機能を有する赤外線センサであることを特徴とする請求項1に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項7】
前記温度測定手段と前記ロールの間に前記ロールを遮蔽するカバーが備えられ、前記カバーには前記温度測定手段と前記近接対向部位にある測定領域の間に位置する部分に窓が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項6のいずれかに記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項8】
前記乾式調質圧延設備のロールが、被圧延材を挟んで上下にそれぞれ配置されたワークロール、中間ロール、バックアップロールからなり、前記温度測定手段が、全てのロールの前記近接対向部位にある測定領域の温度を測定することを特徴とする請求項1に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項9】
前記乾式調質圧延設備のロールが、被圧延材を挟んで上下にそれぞれ配置されたワークロール、中間ロール、バックアップロールからなり、前記中間ロールは、少なくとも一方の端部の断面形状が曲線とされることにより形成された肩部を備えたものであり、各ロールの測定領域の幅が、前記各ロールの直径の1/20〜1/50の範囲とされ、前記測定領域の長さ方向の縁部が、前記中間ロールの肩部の位置よりも内側であり、かつ、前記中間ロールの肩部の位置から前記各ロールのロール幅の1/4の長さ分内側の位置よりも外側とされていることを特徴とする請求項1に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止装置。
【請求項10】
乾式調質圧延設備を構成するロールの溶損を防止する方法であって、前記ロール表面のロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度を、赤外線センサを用いて測定する温度測定工程と、測定された温度を用いてロールの溶損を予測させる予測工程を備えたことを特徴とする乾式調質圧延におけるロールの溶損防止方法。
【請求項11】
前記予測工程が、前記ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の平均温度と、ロールの焼き戻し温度に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、ロールの溶損を予測することを特徴とする請求項10に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止方法。
【請求項12】
前記予測工程が、前記ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差を用いてロール線圧を求め、ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、ロールの溶損を予測することを特徴とする請求項10に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止方法。
【請求項13】
前記予測工程が、前記ロール軸線に沿う近接対向部位にある測定領域の温度差と圧延荷重を用いてロール線圧を求め、前記ロール線圧とロールの変形限界線圧に基づいてあらかじめ決定された管理値を比較することによって、前記ロールの溶損を予測することを特徴とする請求項10に記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止方法。
【請求項14】
前記予測工程で得られた結果に応じて、圧延速度と圧延荷重を制御することを特徴とする請求項10〜請求項13のいずれかに記載の乾式調質圧延におけるロールの溶損防止方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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