説明

乾燥肉食品の製造方法及び乾燥肉食品

【課題】 柔らかく、かつ、優れた食感を有する乾燥肉食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】 所定の大きさの食肉に切断する切断工程と、切断された食肉を所定の温度に冷却する冷却工程と、冷却された食肉を成形する成形工程と、成形された食肉を乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする乾燥肉食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥肉食品の製造方法及び乾燥肉食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ビーフジャーキー等の乾燥肉食品の独特の風味と硬さとが従来から好まれてきた。通常、このようなビーフジャーキーは、食肉を成形して、塩漬等により味付けした後、乾燥して製造されている。なお、本明細書では、「乾燥肉食品」とは、水分活性が0.87未満である肉食品のことをいい、例えば、ビーフジャーキー、等が挙げられる。
【0003】
一方、最近の食生活の多様化や高級化に伴い、形状を変化させたビーフジャーキーが望まれるようになってきている。
【0004】
しかしながら、上述した製造方法によって、厚さを10mmとするビーフジャーキーを得ると、ビーフジャーキーの最外層が硬すぎるために食することが困難であった。つまり、ビーフジャーキーを厚くしすぎると、乾燥肉食品とするために、食品全体として水分活性を0.87未満としなければならないので、内部では水分活性が高くなるが、最外層では水分活性が極めて低くかった。このため、ビーフジャーキーの最外層は、極めて硬かった。
【0005】
また、プロテアーゼを用いて塩漬及び/又は熟成した食肉を、乾燥後、圧延する方法(例えば、特許文献1参照)、低温マッサージを行なった後、更に肉繊維をほぐして乾燥する方法(例えば、特許文献2参照)、糖を添加する方法(例えば、特許文献3及び4参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平7−265013号公報
【特許文献2】特開平7−274814号公報
【特許文献3】特開平2−97364号公報
【特許文献4】特開平3−19646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した方法で得られた食肉は、概して硬いという問題があった。
【0007】
また、食肉を塩漬等により味付けした後、3mm程度に細かく刻んで結着させてから乾燥して、ビーフジャーキーを製造すると、食肉の繊維が切断されるために食感が不充分であった。
【0008】
このようなビーフジャーキーが硬いという問題は、乾燥工程で、食肉中の水分が最外層のみから外部に蒸発していくことに関係していると考えられる。したがって、ビーフジャーキーを厚くしすぎると、最外層は硬く、一方、内部は柔らかいというように、硬さの分布にバラツキを生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、このような従来技術の問題について鋭意検討した結果、所定の大きさの食肉に切断することにより、冷却工程で、食肉を均一に冷却させるため、全ての食肉を所定の温度で保存でき、さらに乾燥工程で、食肉中の水分を内部から最外層に迅速に移行させるため、食肉を均一に乾燥できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の乾燥肉食品の製造方法は、所定の大きさの食肉に切断する切断工程と、切断された食肉を所定の温度に冷却する冷却工程と、冷却された食肉を成形する成形工程と、成形された食肉を乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
このように本発明の乾燥肉食品の製造方法によれば、所定の大きさの食肉に切断することにより、冷却工程で、食肉を均一に冷却させるため、全ての食肉を所定の温度で保存でき、さらに乾燥工程で、食肉中の水分を内部から最外層に迅速に移行させるため、食肉を均一に乾燥できるので、柔らかく、かつ、優れた食感を有する乾燥肉食品を得ることができる。
【0012】
したがって、例えば、厚さを10mm以上とする乾燥肉食品を得ても、ビーフジャーキーが柔らかく、良好に食することができる。
【0013】
また、本発明の乾燥肉食品の製造方法においては、さらに、冷却工程前に、切断された食肉を容器に収容する収容工程を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明の乾燥肉食品の製造方法においては、前記切断工程で、最大長さを20mm以上30mm以下とする所定の大きさの食肉に切断することが好ましい。
【0015】
最大長さが、20mm未満であると、食肉の繊維が切断されるために食感が不充分となるおそれがあり、一方、30mmを超えると、冷却工程で、全ての食肉を所定の温度や所定の水分量で均一に保存できないおそれがある。
【0016】
すなわち、食肉をより均一に冷却するために、所定の大きさの食肉が必要であることを本発明者らは知見したのである。本発明では、冷却工程において最高温度の食肉と最低温度の食肉との温度差は3℃以下であれば、乾燥工程で食肉をより均一に乾燥できると考えている。また、所定の大きさの食肉を、マッサージすることにより、食肉の繊維をよりほぐすことができると考えている。このような目的を達成するためには、最大長さを20mm以上30mm以下とすればよい。
【0017】
なお、本明細書において、「所定の大きさ」とは、切断時の大きさをいう。つまり、切断後、食肉が柔らかいために、食肉の形状が変化したときの大きさを意味しない。
【0018】
また、本発明の乾燥肉食品の製造方法においては、前記所定の温度は、−5℃以上3℃以下であることが好ましい。
【0019】
食肉の温度が、−5℃未満であると、乾燥肉食品が硬いおそれがあり、一方、3℃を超えると、成形工程で、食肉を成形できないおそれがある。
【0020】
また、本発明の乾燥肉食品の製造方法においては、前記成形工程で、食肉の厚さを10mm以上15mm以下とすることが好ましい。
なお、本明細書において、「厚さ」とは、食肉の縦、横、高さの距離のうちで値が一番小さいもののことをいう。
【0021】
そして、本発明の乾燥肉食品は、上述した乾燥肉食品の製造方法により得られることを特徴とする。
【0022】
さらに、本発明の乾燥肉食品においては、厚さが5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明の乾燥肉食品の製造方法によれば、所定の大きさの食肉に切断することにより、冷却工程で、食肉を均一に冷却させるため、全ての食肉を所定の温度で保存でき、さらに乾燥工程で、食肉中の水分を内部から最外層に迅速に移行させるため、食肉を均一に乾燥できるので、柔らかく、かつ、優れた食感を有する乾燥肉食品を得ることができる。
【0024】
したがって、例えば、厚さを10mm以上とする乾燥肉食品を得ても、ビーフジャーキーが柔らかく、良好に食することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
【0026】
本発明の乾燥肉食品の製造方法は、切断工程と、収容工程と、冷却工程と、成形工程と、乾燥工程とを含むことが好ましい。
【0027】
上記食肉としては、例えば、牛肉、鮭、鶏のササミ、馬肉、豚肉等が挙げられる。これらの中でも、牛肉が好ましい。
【0028】
(1)切断工程
まず、食肉に、塩漬剤を添加する。塩漬剤を添加するときには、例えば、インジェクター等で注射することができる。その後、所要時間、保存する。なお、所要時間は、食肉の種類、大きさ、重量等に応じて適宜調整される。
【0029】
上記塩漬剤としては、例えば、亜硝酸塩と食塩と砂糖と水飴と香料との混合物等が挙げられる。また、上記塩漬剤は、食肉100重量部に対して、30重量部以上50重量部以下で添加されることが好ましい。
【0030】
次に、塩漬された食肉を所定の大きさに切断する。食肉を切断するときには、例えば、ミートチョッパー等を使用することができる。また、切断される食肉の形状としては、例えば、直方体状、立方体状、球状、円柱状等が挙げられる。そして、最大長さを20mm以上30mm以下とする所定の大きさの食肉に切断することが好ましい。
【0031】
ここで、ミートチョッパーの一例による切断工程について図面を用いて説明する。図1に、ミートチョッパーの一例の分解図を示す。つまり、本体8に、三つ目プレート1、両刃2、ミンチプレート3、サポーター4、スペーサ5、スペーサリング6がこの順に取り付けられるものである。
【0032】
三つ目プレート1は、円板状であり、複数の円形孔が重なって一体化したミンチ目を有する。
【0033】
両刃2は、略十字形状であり、本体8の回転軸7に回転可能に取り付けられる。
【0034】
ミンチプレート3は、円板状であり、円形孔であるミンチ目を有する。
【0035】
サポーター4、スペーサ5及びスペーサリング6は、略円筒形状である。
【0036】
まず、本体8に投入された食肉は、本体8に付属するフィーダーによって、本体8から三つ目プレート1へと押し出される。三つ目プレート1のミンチ目から押し出された食肉は、回転軸7に連動して回転する両刃2と、三つ目プレート1及びミンチプレート3との擦り合わせによって切断される。
【0037】
次に、切断された食肉は、ミンチプレート3へと押し出される。ミンチプレート3のミンチ目から押し出された食肉は、サポーター4、スペーサ5及びスペーサリング6を通過して取り出される。
【0038】
このようにミートチョッパーを使用して食肉を切断する場合には、メンチプレートと両刃とを組み合わせて、切断するサイズを所定の大きさにすることができる。
【0039】
さらに、切断された食肉をロータリーマッサージャー等に入れて、真空にするとともに機械的にマッサージしてもよい。
【0040】
なお、所定の大きさの食肉に切断する前に、食肉を塩漬しているが、所定の大きさの食肉に切断した後に、食肉を塩漬することとしてもよい。
【0041】
(2)収容工程
次に、切断された食肉を容器に収容する。上記容器内部の形状としては、例えば、直方体状、立方体状、球状、円柱状等が挙げられる。上記容器の内容量は、冷却温度に到達しやすいように、10kg以上20kg以下であることが好ましい。
【0042】
(3)冷却工程
次に、収容された食肉を所定の温度に冷却する。このとき、食肉の温度を−5℃以上3℃以下とすることが好ましい。その後、所要時間、保存する。なお、所要時間は、食肉の種類、大きさ、重量等に応じて適宜調整される。
【0043】
(4)成形工程
次に、冷却された食肉を成形する。食肉を成形するときには、例えば、成形機等を使用することができる。また、成形される食肉の形状としては、例えば、直方体状等が好ましい。そして、食肉の厚さを10mm以上15mm以下とすることが好ましい。なお、冷凍状態で食肉を成形してもよい。この場合、食肉が冷凍状態であるため、容易に成形できる。
【0044】
(5)乾燥工程
次に、成形された食肉を乾燥する。食肉を乾燥するときには、例えば、乾燥機、スモークチャンバー等を使用することができる。乾燥条件は、食肉の種類、大きさ、重量等に応じて適宜調整される。さらに、食肉を燻煙処理してもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
(1)切断工程
牛肉100重量部に、インジェクターで表1に示す塩漬剤40重量部を注射した。次に、塩漬された食肉を30mmφプレートを介して直径30mmの球状に切断した。さらに、切断された食肉をロータリーマッサージャーに入れて、真空にするとともに、90分間、機械的にマッサージした。
【0047】
【表1】

【0048】
(2)収容工程
次に、切断された食肉を、内部が縦630mm×横410mm×高さ130mmの直方体である容器に収容した。
【0049】
(3)冷却工程
次に、収容された食肉の温度を−5℃以上3℃以下とするように、7時間、−20℃の冷凍庫で食肉塊の表面を凍らせ、15時間、−7℃の冷凍庫で静置して冷却した。
【0050】
(4)成形工程
次に、冷凍状態の食肉を成形機で直方体状(14mm×25mm×17.5mm)に成形した。
【0051】
(5)乾燥工程
次に、成形された食肉を金網状に並べて、4時間、乾燥機(75℃)で乾燥し、さらに、15分間、乾燥機(75℃)で湿度65%の条件で加熱し、そして、10分間、乾燥機(75℃)で乾燥して、厚さが8mmである実施例1に係るビーフジャーキーを得た。
【0052】
<比較例1>
(1)切断工程
牛肉100重量部に、インジェクターで表1に示す塩漬剤40重量部を注射した。さらに、食肉をロータリーマッサージャーに入れて、真空にするとともに、90分間、機械的にマッサージした。次に、食肉をミートチョッパーで直径3mmの球状に切断した。
【0053】
(2)成形工程
次に、切断された食肉を成形機で直方体状(12mm×25mm×17.5mm)に成形した。
【0054】
(3)乾燥工程
次に、成形された食肉を金網状に並べて、4時間、乾燥機(75℃)で乾燥し、さらに、15分間、乾燥機(75℃)で湿度65%の条件で加熱し、そして、10分間、乾燥機(75℃)で乾燥して、厚さが8mmである比較例1に係るビーフジャーキーを得た。
【0055】
<評価方法>
実施例1及び比較例1に係るビーフジャーキーをパネルに試食してもらい、(1)弾力性、(2)パサツキ感、及び、(3)硬さと食感とについて、どちらの方が良好であるかという官能試験で評価を行った。その結果を、図2〜4に示した。
【0056】
図2〜4の結果より、実施例1に係るビーフジャーキーは、柔らかく、かつ、優れた食感を有した。一方、比較例1に係るビーフジャーキーは、満足されうるものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】ミートチョッパーの一例の分解図である。
【図2】弾力性についての官能試験の評価の結果を示す円グラフである。
【図3】パサツキ感についての官能試験の評価の結果を示す円グラフである。
【図4】硬さと食感とについての官能試験の評価の結果を示す円グラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 三つ目プレート
2 両刃
3 ミンチプレート
4 サポーター
5 スペーサ
6 スペーサリング
7 回転軸
8 本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の大きさの食肉に切断する切断工程と、
切断された食肉を所定の温度に冷却する冷却工程と、
冷却された食肉を成形する成形工程と、
成形された食肉を乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする乾燥肉食品の製造方法。
【請求項2】
さらに、冷却工程前に、切断された食肉を容器に収容する収容工程を含む、請求項1に記載の乾燥肉食品の製造方法。
【請求項3】
前記切断工程で、最大長さを20mm以上30mm以下とする所定の大きさの食肉に切断する、請求項1又は2に記載の乾燥肉食品の製造方法。
【請求項4】
前記所定の温度は、−5℃以上3℃以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の乾燥肉食品の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程で、食肉の厚さを10mm以上15mm以下とする、請求項1〜4のいずれかに記載の乾燥肉食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の乾燥肉食品の製造方法により得られることを特徴とする乾燥肉食品。
【請求項7】
厚さが5mm以上10mm以下である、請求項6に記載の乾燥肉食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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