説明

亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法及びそれを用いたシールドシステム

【課題】 亀裂性岩盤の掘削に適用するにあたり、適切な圧力を切羽に作用させる。
【解決手段】本発明に係るシールドシステム31は、亀裂性岩盤を掘進するシールド2と、チャンバー4に連通接続された送水管5及び排水管6と、排水管6に設けられた排水ポンプ8とを備えるとともに、送水管5と排水管6には、送水バルブ9と排水バルブ10をそれぞれ設けてあり、チャンバー4の後方に設けてあるバルクヘッドには、チャンバー4の水圧を計測する切羽水圧計11を設けてある。ここで、発進立坑35の内壁36にはガイドリーダー37を固定してあるとともに、かかるガイドリーダー37には、送水管5に連通接続された水位調整槽32が昇降自在に取り付けてあり、シールド2の駆動時におけるチャンバー4内の水圧がシールド2の停止時におけるチャンバー内の水圧に一致するように、その設置高さを調整することができるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亀裂性岩盤をシールド工法で掘削する際に適用される水圧設定方法及びそれを用いたシールドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
岩盤を掘削する場合、基本的には切羽が自立するため、開放型の掘削工法を採用することが多いが、岩盤といえども、破砕帯を掘削しているときや、岩の風化状況や亀裂状況によっては、湧水や漏水が発生することがある。このように切羽面に現れた亀裂から地下水が湧水する岩盤を亀裂性岩盤と呼ぶ。
【0003】
かかる亀裂性岩盤は、湧水が発生する関係上、開放型のTBMで掘削することはできないため、カッタヘッドに岩盤掘削に対応した、例えばローラカッターを装備してなるシールドを用いて泥水シールド工法で岩盤掘削を行う。すなわち、シールドのチャンバー内に泥水を送り込んでその泥水圧を切羽に作用させながらローラカッターで岩盤の掘削を行い、掘削によって発生した掘削ずりを排水管を介して泥水とともに回収する。
【0004】
【特許文献1】特開平11−107675
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、泥水シールド工法を亀裂性岩盤の掘削に適用するにあたっては、以下の問題を生じていた。
【0006】
すなわち、泥水シールド工法は本来的には、掘削地盤が砂礫、砂、粘土といったいわば崩壊性地盤に適用される工法であって、チャンバー内の泥水圧で切羽の背面に作用する土圧及び水圧に抵抗し、これによって切羽の崩壊を防止する。
【0007】
そのため、切羽が自立する亀裂性岩盤にシールド工法を適用すると、過大な泥水圧が切羽に作用することとなり、泥水が周辺に逸水する懸念があるとともに、これを防止すべく泥水圧を小さくする場合においても、泥水圧が過小になると、チャンバー内に地下水が流入し、周辺地盤の地盤沈下を招く。
【0008】
いずれにしろ、チャンバー内の泥水圧に関しては、従来の泥水シールド工法で知られている設定方法や経験値が全く通用せず、上述したように泥水の逸水あるいは地下水流入による地盤沈下のいずれかを招く懸念があるという問題を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、シールド工法を亀裂性岩盤の掘削に適用するにあたり、適切な圧力を切羽に作用させることが可能な亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法及びそれを用いたシールドシステムを提供することを目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法は請求項1に記載したように、掘進中のシールドを停止させるとともに送水管及び排水管のバルブを閉じ、前記シールドのチャンバー内における水圧を計測し、前記チャンバー内における水圧を前記計測値に一致させる制御を行いながら前記シールドを駆動して亀裂性岩盤を掘進し、前記シールドの停止時における水圧の計測と前記シールドの駆動時における水圧の制御を繰り返し行うものである。
【0011】
また、本発明に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法は、前記送水管に設けられた送水ポンプ及び前記排水管に設けられた排水ポンプの少なくともいずれかを駆動制御することで前記水圧の制御を行うものである。
【0012】
また、本発明に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法は、前記送水管に水位調整槽を連通接続するとともに、該水位調整槽の設置高さを調整し又は該水位調整槽の水位を調整することで前記水圧の制御を行うものである。
【0013】
また、本発明に係る亀裂性岩盤掘削におけるシールドシステムは請求項4に記載したように、亀裂性岩盤を掘進するシールドと、該シールドのチャンバーに連通接続された送水管及び排水管と、該送水管に連通接続された水位調整槽とを備えるとともに、該水位調整槽の設置高さ又は水位を、前記シールドの駆動時におけるチャンバー内の水圧が前記シールドの停止時におけるチャンバー内の水圧に一致するように調整したものである。
【0014】
また、本発明に係る亀裂性岩盤掘削におけるシールドシステムは、前記水位調整槽をその設置高さ又は水位が調整自在となるように構成したものである。
【0015】
本発明に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法及びそれを用いたシールドシステムにおいては、まず、掘進中のシールドを停止させるとともに送水管及び排水管のバルブを閉じる。
【0016】
掘進中のシールドを停止させるにあたっては、シールド掘削工程に予め組み込まれた停止工程、例えば昼夜交代のための休止工程を利用すればよい。
【0017】
次に、必要に応じて所定時間静置し、しかる後、シールドのチャンバー内における水圧を計測する。
【0018】
ここで計測されるチャンバー内の水圧値は、送水管及び排水管のバルブが閉じられているため、シールド付近の地下水圧に相当する。
【0019】
次に、チャンバー内における水圧を計測値に一致させる制御を行いながら、シールドを駆動して亀裂性岩盤を掘進する。
【0020】
このようにすると、チャンバー内がシールド付近の地下水圧に相当する水圧となるため、地下水圧に抵抗するだけの圧力が過不足なく切羽に作用し、周囲からの地下水の流入が防止されるとともに、逸水も防止される。
【0021】
このようなシールドの停止時における水圧の計測とシールドの駆動時における水圧の制御を、例えば昼夜交代ごとに繰り返し行うことで、逸水させることなくかつ地盤沈下を招くこともなく、亀裂性岩盤をシールド工法で掘削することが可能となる。
【0022】
チャンバー内の圧力については、掘削対象が亀裂性岩盤であるため、基本的に切羽は自立しており、土圧に抵抗するための圧力を切羽に作用させる必要はない。また、それに関連して土圧に抵抗する必要がないため、切羽に泥膜を形成する必要もなく、それゆえ、泥水を使用しなくても清水で足りる。
【0023】
チャンバー内における水圧を計測値に一致させる制御については、任意の方法を採用すればよいが、従来のシールドシステムを利用するのであれば、送水管に設けられた送水ポンプ及び排水管に設けられた排水ポンプの少なくともいずれかを駆動制御するようにすればよい。
【0024】
一方、従来のシールドシステムを利用しない場合、送水管に水位調整槽を連通接続するとともに、シールドの駆動時におけるチャンバー内の水圧がシールドの停止時におけるチャンバー内の水圧に一致するように、水位調整槽を設置してなる新規なシールドシステムを採用することが考えられる。
【0025】
このようなシステムを採用すれば、従来必須であった送水ポンプを省略することができるとともに、排水ポンプは、チャンバー内の掘削ずりを水とともに引き抜くことができるように制御することになるため、排水ポンプの制御と水位調整槽の設置高さ又は水位の調整とを分離してそれぞれ個別に制御することも可能となり、シールドシステム全体が簡素化される。
【0026】
水位調整槽は、シールドの停止・駆動を繰り返すごとにその設置位置を変えたり水位を変えたりするようにしてもかまわないが、その設置高さ又は水位が調整自在となるように構成しておけば、シールドの駆動時におけるチャンバー内の水圧を、シールドの停止時におけるチャンバー内の水圧に一致させやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法及びそれを用いたシールドシステムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0028】
(第1実施形態)
【0029】
図1は、本実施形態に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法を実施するためのシールドシステムを示した図である。同図でわかるように、本実施形態に係るシールドシステム1は、亀裂性岩盤を掘進するシールド2と、該シールドのカッターヘッド3の背面に形成されているチャンバー4に連通接続された送水管5及び排水管6と、送水管5に設けられた送水ポンプ7と、排水管6に設けられた排水ポンプ8とを備えるとともに、送水管5と排水管6には、送水バルブ9と排水バルブ10をそれぞれ設けてあり、チャンバー4の後方に設けてあるバルクヘッドには、チャンバー4の水圧を計測する切羽水圧計11を設けてある。
【0030】
カッターヘッド3は、亀裂性岩盤掘削に適するように例えばローラカッターを装備しておく。
【0031】
ここで、シールドシステム1は、切羽水圧計11の計測値に応じて送水ポンプ7及び排水ポンプ8を制御する制御手段12を備えてある。
【0032】
かかるシールドシステム1を用いて本実施形態に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法を実施するには、まず、掘進中のシールド2をいったん停止させるとともに、送水バルブ9及び排水バルブ10を閉じる。
【0033】
ここで、シールド2を停止するにあたっては、シールド2の掘削工程に予め組み込まれている昼夜交代のための休止工程を利用すれば、シールド2の掘削効率を低下させる懸念はない。
【0034】
次に、必要に応じて所定時間静置し、チャンバー4内の水圧が周囲の地下水圧と平衡状態になるのを待つ。
【0035】
次に、チャンバー4内における水圧を切羽水圧計11で計測する。
【0036】
このときに計測されるチャンバー4内の水圧値は、上述したように送水バルブ9及び排水バルブ10を閉じられている状態であるため、シールド2付近の地下水圧に相当する。
【0037】
次に、チャンバー4内における水圧を計測値に一致させる制御を制御手段12で行いながら、シールド2を駆動して亀裂性岩盤を掘進する。
【0038】
以降、シールド2の停止時における水圧の計測とシールド2の駆動時における水圧の制御を、例えば昼夜交代ごとに繰り返し行いつつ、掘進を進める。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法によれば、チャンバー4内がシールド2付近の地下水圧に相当する水圧となるため、地下水圧に抵抗するだけの圧力が過不足なく切羽に作用する。
【0040】
そのため、逸水や周囲からの地下水の流入ひいては圧密促進による地盤低下を未然に防止することが可能となり、かくして、逸水や地盤低下を招くことなく、亀裂性岩盤をシールド工法で掘削することが可能となる。
【0041】
本実施形態では特に言及しなかったが、シールド停止時のチャンバー内の水圧計測で得られた計測値は、シールド工事を行うに先立って行われるボーリング調査で得られた地下水位と適宜照合するのが望ましい。
【0042】
また、本実施形態では、切羽が自立している亀裂性岩盤を掘削対象としたため、切羽の土圧に抵抗する必要がなく、それゆえ、泥水を使用せずに清水を使用したが、掘進中に礫層等の崩壊性地盤に遭遇することが予想される場合には、泥水を使用してもかまわない。
【0043】
(第2実施形態)
【0044】
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
図2は、第2実施形態に係るシールドシステムを示した図である。同図でわかるように、本実施形態に係るシールドシステム31は、亀裂性岩盤を掘進するシールド2と、該シールドのカッターヘッド3の背面に形成されているチャンバー4に連通接続された送水管5及び排水管6と、排水管6に設けられた排水ポンプ8とを備えるとともに、送水管5と排水管6には、送水バルブ9と排水バルブ10をそれぞれ設けてあり、チャンバー4の後方に設けてあるバルクヘッドには、チャンバー4の水圧を計測する切羽水圧計11を設けてある。
【0046】
ここで、発進立坑35の内壁36にはガイドリーダー37を固定してあるとともに、かかるガイドリーダー37には、送水管5に連通接続された水位調整槽32が昇降自在に取り付けてあり、シールド2の駆動時におけるチャンバー4内の水圧がシールド2の停止時におけるチャンバー内の水圧に一致するように、その設置高さを調整することができるようになっている。
【0047】
水位調整槽32は、外槽33及び内槽34とからなる二重槽で構成してあり、内槽34は、その貯水空間に連通するように送水管5を接続してある。また、内槽34は、図示しない給水手段が接続されており、随時、清水が供給されるようになっている。
【0048】
一方、外槽33は、内槽34の水位を決定する側壁上縁を越えてオーバーフローした水を余剰水として貯水空間に貯留するようになっているとともに、かかる貯水空間に連通するように循環ポンプ38を接続してあり、余剰水を内槽34に適宜循環させるようになっている。
【0049】
シールドシステム31を用いて本実施形態に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法を実施するには、まず、掘進中のシールド2をいったん停止させるとともに、送水バルブ9及び排水バルブ10を閉じる。
【0050】
ここで、シールド2を停止するにあたっては、シールド2の掘削工程に予め組み込まれている昼夜交代のための休止工程を利用すれば、シールド2の掘削効率を低下させる懸念はない。
【0051】
次に、必要に応じて所定時間静置し、チャンバー4内の水圧が周囲の地下水圧と平衡状態になるのを待つ。
【0052】
次に、チャンバー4内における水圧を切羽水圧計11で計測する。
【0053】
このときに計測されるチャンバー4内の水圧値は、上述したように送水バルブ9及び排水バルブ10を閉じられている状態であるため、シールド2付近の地下水圧に相当する。
【0054】
次に、シールド2の駆動時におけるチャンバー4内の水圧を切羽水圧計11で計測しつつ、該計測値がシールド2の停止時におけるチャンバー4内の水圧に一致するように、水位調整槽32をガイドリーダー37に沿って昇降させてその設置高さを調整し、かかる状態でシールド2を駆動して亀裂性岩盤を掘進する。
【0055】
以降、シールド2の停止時における水圧の計測とシールド2の駆動時における水位調整槽32の設置高さを、例えば昼夜交代ごとに繰り返し行いつつ、掘進を進める。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法によれば、チャンバー4内がシールド2付近の地下水圧に相当する水圧となるため、地下水圧に抵抗するだけの圧力が過不足なく切羽に作用する。
【0057】
そのため、逸水や周囲からの地下水の流入ひいては圧密促進による地盤低下を未然に防止することが可能となり、かくして、逸水や地盤低下を招くことなく、亀裂性岩盤をシールド工法で掘削することが可能となる。
【0058】
また、従来必須であった送水ポンプ(送泥ポンプ)を省略することができるとともに、排水ポンプ8は、チャンバー4内の掘削ずりを水とともに引き抜くことができるように制御することになるため、排水ポンプ8の制御と水位調整槽32の設置高さ調整とを分離し、それぞれ個別に制御することも可能となり、シールドシステム全体を簡素化することが可能となる。
【0059】
また、水位調整槽32をその設置高さが調整自在となるように構成したので、該水位調整槽の設置高さを上下させることにより、チャンバー4内の水圧を増減させることができるので、シールド停止時の水圧に一致させやすくなる。
【0060】
本実施形態では特に言及しなかったが、シールド停止時のチャンバー内の水圧計測で得られた計測値は、シールド工事を行うに先立って行われるボーリング調査で得られた地下水位と適宜照合するのが望ましい。
【0061】
また、本実施形態では、水位調整槽32をガイドリーダー37に昇降自在に取り付けるようにしたが、これに代えて、水位調整槽32に貯留された清水の水位を可変に構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1実施形態に係る亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法を実施するためのシールドシステムを示した概略図。
【図2】第2実施形態に係る亀裂性岩盤掘削におけるシールドシステムの概略図。
【符号の説明】
【0063】
1,31 シールドシステム
2 シールド
4 チャンバー
5 送水管
6 排水管
7 送水ポンプ
8 排水ポンプ
9 送水バルブ
10 排水バルブ
11 切羽水圧計
32 水位調整槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進中のシールドを停止させるとともに送水管及び排水管のバルブを閉じ、前記シールドのチャンバー内における水圧を計測し、前記チャンバー内における水圧を前記計測値に一致させる制御を行いながら前記シールドを駆動して亀裂性岩盤を掘進し、前記シールドの停止時における水圧の計測と前記シールドの駆動時における水圧の制御を繰り返し行うことを特徴とする亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法。
【請求項2】
前記送水管に設けられた送水ポンプ及び前記排水管に設けられた排水ポンプの少なくともいずれかを駆動制御することで前記水圧の制御を行う請求項1記載の亀裂性岩盤掘削における水圧設定方法。
【請求項3】
前記送水管に水位調整槽を連通接続するとともに、該水位調整槽の設置高さを調整し又は該水位調整槽の水位を調整することで前記水圧の制御を行う請求項1記載の亀裂性岩盤における水圧設定方法。
【請求項4】
亀裂性岩盤を掘進するシールドと、該シールドのチャンバーに連通接続された送水管及び排水管と、該送水管に連通接続された水位調整槽とを備えるとともに、該水位調整槽の設置高さ又は水位を、前記シールドの駆動時におけるチャンバー内の水圧が前記シールドの停止時におけるチャンバー内の水圧に一致するように調整したことを特徴とするシールドシステム。
【請求項5】
前記水位調整槽をその設置高さ又は水位が調整自在となるように構成した請求項4記載のシールドシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−14059(P2008−14059A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187585(P2006−187585)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】