説明

二次成形用樹脂シートとこのシートを二次成形して得られる成形品、および二次成形用樹脂シートの製造方法

【課題】機械的特性に優れ、環境負荷が小さいと共に、二次成形性を向上させた二次成形用樹脂シートを提供する。
【解決手段】二次成形用樹脂シート1は、熱可塑性樹脂を母材とし、この母材中に天然植物繊維を分散させた第1の樹脂層2と、第1の樹脂層2よりも破断伸びに優れた第2の樹脂層3とを交互に重ね合わせて一体化したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次成形用樹脂シートとこのシートを二次成形して得られる成形品、および二次成形用樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の二次成形用樹脂シートは、その優れた機能性と成形性、成形時の取扱い易さ等により、文具や各種包装材などの日用品用途の他、工業用途の樹脂製品の二次成形用に好適に使用されている。
【0003】
ところで、上記樹脂製品の成形性や製造コストの面から母材にポリプロピレンなどの安価な樹脂を使用する場合には、当該樹脂製品に要求される強度、剛性を補強する目的で、各種繊維を強化材として母材樹脂に配合することが行われている。また、近年では、環境負荷低減に対する要求を受けて、上記強化繊維に竹繊維などの天然植物繊維を使用したものが提案されている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−117768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、これら樹脂製品を、上記二次成形用の樹脂シートから二次成形する場合には、当該樹脂シートに、母材としての熱可塑性樹脂と、この樹脂中に竹繊維等の天然植物繊維を強化材として配合したものを使用すればよいようにも思われる。
【0006】
しかしながら、母材樹脂中に天然植物繊維を配合した二次成形用樹脂シートは、優れた強度や剛性を示す一方で、樹脂シートとしてのじん性は低下する傾向にあり、裂け易くなる。また、破断伸びも低下することで折損し易くなる。天然植物繊維を構成する、あるいは天然植物繊維のまわりに付着する木質成分が樹脂との親和性に乏しく、両者間で十分な結合力を得ることができないことが理由と考えられる。そのため、この種の樹脂シートを真空成形や圧空成形等で各種樹脂製品に二次成形する際には、成形割れを生じ、不良率の増加を招くおそれがある。
【0007】
以上の事情に鑑み、本発明では、機械的特性に優れ、環境負荷が小さいと共に、二次成形性を向上させた二次成形用樹脂シートを提供することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決は、本発明に係る二次成形用樹脂シートにより達成される。すなわち、この樹脂シートは、母材としての熱可塑性樹脂中に天然植物繊維を分散させた第1の樹脂層と、この樹脂層よりも破断伸びに優れた第2の樹脂層とを相互に重ね合わせて一体化した点をもって特徴づけられる。
【0009】
上記構成の樹脂シートであれば、第1の樹脂層に分散させた天然植物繊維が強化材として作用することで、樹脂シートの強度や剛性を向上させつつも、第1の樹脂層よりも破断伸びに優れた第2の樹脂層を一体に設けることで、第1の樹脂層が有するぜい性を補って、二次成形時の曲げ変形や伸びに対する耐久性を高めることができる。従って、樹脂シート全体として優れた機械的特性を発揮しつつもその二次成形性を向上させることが可能となる。もちろん、天然植物繊維を使用した分だけ第1の樹脂層を構成する母材(熱可塑性樹脂)の使用量を減らすことになるので、上記樹脂シートの二次成形品を燃焼廃棄する際の二酸化炭素の排出量削減にもつながる。
【0010】
上記二次成形用樹脂シートは、例えば、母材としての熱可塑性樹脂中に天然植物繊維を分散配合した樹脂組成物を第1の樹脂シートとして押出すと共に、この樹脂シートよりも破断伸びに優れた第2の樹脂シートを第1の樹脂シートに重ね合わせて一体に成形することで二次成形用樹脂シートを得る、二次成形用樹脂シートの製造方法によって製造することができる。
【0011】
例えば、綿状に解繊してシート状にした天然植物繊維に熱可塑性樹脂を含浸させたものを使用する場合には、天然植物繊維間に十分に熱可塑性樹脂が含浸せず、成形品に欠陥が残る可能性がある。十分に含浸させようとすると、結果的に多量の樹脂を使用することになって厚みが増すため、この樹脂シートを用いた二次成形品の用途が限定される。これに対して、上述のように、天然植物繊維を予め熱可塑性樹脂中に分散配合したものをシート状に押出して第2の樹脂シートと一体に成形するようにすれば、上記欠陥のない二次成形用樹脂シートを成形できる。また、この樹脂シートの厚みについても押出し態様等により比較的自由に調整できる。
【0012】
天然植物繊維としては、例えばジュートやケナフ等の麻系繊維や綿系繊維、竹繊維など各種の天然植物繊維が使用可能である。また、その中でも、竹繊維は、他の天然植物繊維以上の強度や剛性を有し、また、国内外を問わず持続的再生産可能な天然資源である竹から取出すことで容易かつ安価に入手可能との利点を有するため、工業生産物の強化材として好適である。なお、ここでいう「竹繊維」には、竹の単繊維のほか、複数本の単繊維が集合してなる竹繊維束も含まれる。
【0013】
また、本発明に係る二次成形用樹脂シートは、天然植物繊維に加えてさらに、第1の樹脂層の母材中に、この母材よりも融点の高い樹脂からなる繊維を分散させたものであってもよい。上記樹脂からなる合成繊維は、母材に対して適度な剛性を有し(母材と剛性が大きく異ならず)、また母材との接着性も天然植物繊維に比べて良好である。また、母材よりも高融点であることから、二次成形用樹脂シートの成形後も当該シート中に繊維の形態で残る。よって、この繊維を天然植物繊維に加えてさらに母材中に分散させることで第1の樹脂層自体のじん性や破断伸びを向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る二次成形用樹脂シートは、複数の凹部を少なくとも一方の樹脂層の表面に形成したものであってもよい。この場合、天然植物繊維は熱可塑性樹脂中に分散した形態をなすため、その分散位置を含めた分散態様が樹脂シートごとに異なる点に着目し、母材中における天然植物繊維の分散態様に応じて複数の凹部がシート表面に現れるようにしてもよい。このように構成したものであれば、当該樹脂シートを平面的に見た場合、シート表面にランダムな凹凸模様が現れることになる。従って、例えばエンボス加工用ローラにより押圧して形成された凹凸模様と比べて、ランダムかつ各個唯一の凹凸模様を付与することができる。
【0015】
上記ランダム模様を構成する凹部を有する二次成形用樹脂シートは、例えば含水割合を所定の範囲内に管理した状態の天然植物繊維を熱可塑性樹脂と混合し、この混合物をシート状に押出して成形することによって製造することができる。これは、以下の理由による。すなわち、竹繊維などをはじめとする天然の植物繊維はその構造上水を含み易く、これを溶融状態の熱可塑性樹脂に供給した場合には、上記繊維に含まれる水分が膨張、蒸発する。また、本発明のように成形品がシート状で薄い場合には、成形時収縮により、シート表層部が、上記水分の蒸発により形成された成形品内部の空洞部分に対応する位置に凹みを生じることを利用したものである。よって、上記方法によれば、樹脂シートの表面にランダムな凹凸模様を形成することができる。なお、上記凹凸模様を構成する凹部の形状は天然植物繊維の形態、分散態様によって定まり、例えばディンプル状や溝状などの形状が形成可能である。
【0016】
上記二次成形用樹脂シートは、その優れた剛性、低環境負荷特性、ならびに良好な二次成形性から、日用品をはじめ種々の分野の薄肉樹脂製品に適用可能であり、例えば二次成形によりファイルカバーなどの樹脂製文具として好適に提供できる。この場合、ファイルカバーは、例えば上記二次成形用樹脂シートを適当な大きさに切り出した後、背表紙部に対して表裏の表紙部に対応する部分をコの字状に折曲げる(必要に応じて折曲げ部を加熱しながら折曲げる)ことで成形可能である。
【0017】
この場合、ファイルカバーの上記折曲げ加工は、表紙となるファイルカバーの外面側から内面側へと折曲げることを考慮して、内面側に第1の樹脂層を配し、外面側に第2の樹脂層を配した構造としてもよい。このように構成することで、ファイルカバーの成形割れを避けることができ、また、例えばファイルカバーの折り畳みおよび展開の繰り返しに対する耐久性を高めることができる。
【0018】
また、上記構成のファイルカバーは、このカバーに紙綴じ具を取り付けてなるファイルとしても提供することができる。
【0019】
あるいは、上記説明に係る二次成形用樹脂シートは、二次成形により食品用トレイや弁当箱などの食品用容器として提供することも可能である。本発明に係る樹脂シートであれば、食品用容器に要求される機能やサイズを満たし易い。この場合、食品用容器は、例えば上記樹脂シートの真空成形や圧空成形など、公知の二次成形手段により廉価で成形可能である。もちろん、上記樹脂シートを温めておいて、比較的低温の金型で成形したり、比較的低温の上記樹脂シートをホットプレスで成形する等の単純なプレス成形によっても成形可能である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、機械的特性に優れ、環境負荷が小さいと共に、二次成形性を向上させた二次成形用樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る二次成形用樹脂シートの斜視図である。
【図2】二次成形用樹脂シートの製造に使用される製造装置の要部正面図である。
【図3】本発明に係る二次成形用樹脂シートを二次成形して得られるファイルカバーの斜視図である。
【図4】図3に示すファイルカバーの要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る二次成形用樹脂シート1は、例えば図1に示すように、母材としての熱可塑性樹脂に、強化材としての天然植物繊維を分散させた形態をなす第1の樹脂層2と、第1の樹脂層2よりも破断伸びに優れた第2の樹脂層3とを相互に重ね合わせて一体化した多層構造を有する。図1では、各1層ずつの第1および第2の樹脂層2,3を重ね合わせて一体化することで二次成形用樹脂シート1を構成している。
【0023】
まず、第1の樹脂層2に関し、この樹脂層の母材となる熱可塑性樹脂には、天然植物繊維を分散させた状態でシート状に成形可能な限りにおいて任意の樹脂が使用でき、例えば、汎用樹脂、汎用エンジニアリング樹脂、スーパーエンジニアリング樹脂などの別を問わず、また、結晶性樹脂、非結晶性樹脂の別を問わず種々の樹脂を使用することができる。ただし、あまりに融点が高いと、溶融状態の樹脂中に分散混合させた天然植物繊維が熱劣化するおそれがあるため、比較的耐熱温度(融点)の低い汎用樹脂や汎用エンジニアリング樹脂を使用するのが好ましい。もちろん、低融点化のために変性したものであれば特に上記種別に囚われることなく使用可能である。具体例として、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、塩化ビニル(PVC)などの汎用樹脂や、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネイト(PC)などの汎用エンジニアリング樹脂を挙げることができる。
【0024】
天然植物繊維は、第1の樹脂層2の母材中に分散可能な形態を有する限りにおいて任意の種類(麻系、綿系、竹系など)が使用でき、例えば竹繊維であれば単繊維あるいは繊維束何れの状態でも使用可能である。採取する竹の種類、年齢、部位についても特に限定されない。
【0025】
また、上記天然植物繊維の他、母材に分散可能な要素として天然植物粉が挙げられる。特に竹粉は、竹繊維含有部分も含めて、葉や茎など竹のほぼあらゆる部位から採取することができる。また、種々の竹製品の製造過程(研削工程など)で不可避的に生成されるため、竹繊維よりも安価かつ容易に入手が可能である。よって、竹繊維又は熱可塑性樹脂の一部を竹粉に置き換えることで、樹脂の使用量を減らして樹脂シートをより安価に製造することができる。また、その製造過程に応じて所望の粒径範囲内の竹粉を入手することができるので、成形すべき樹脂シートの厚みに応じたサイズの竹粉を使用することができる。もちろん、天然植物粉以外にも、例えば竹のパルプ材を微細化したものなど、天然植物由来のものであればその形態を問わず使用することができる。
【0026】
なお、後述するように、例えば本発明に係る二次成形用樹脂シート1でファイルカバーなど清浄性が要求される可能性のある樹脂製品を二次成形する場合、例えばその外面側に竹繊維を分散させた第1の樹脂層2を配するのがよい。竹繊維は抗菌作用を示すので、これを分散配合してなる樹脂組成物であれば、シート表面に抗菌性を付与して、成形品の清浄性を高めることができるためである。もちろん、竹粉や竹パルプ材など、竹の一部であれば、その形態に関らず抗菌作用を示すので、例えば第2の樹脂層3をファイルカバーの外面側に配した場合であっても、その母材中に微細な竹粉を配合しておくことで、ファイルカバーの表面に抗菌性を付与することができる。
【0027】
上記天然植物繊維や天然植物粉などの充填材には、二次成形用樹脂シート1の厚みを考慮したサイズのものが使用される。そのため、天然植物繊維であればその最大繊維径が第1の樹脂層2の厚み以下であることが望ましく、天然植物粉であればその最大粒径が上記厚み以下であることが望ましい。ここで、例えば第1の樹脂層2が10−1mm〜10mmオーダーである場合、最大繊維径ないし粒径がシート厚より1オーダー小さい(10−2mm〜10−1mmオーダーの)ものが好適に使用できる。一例として、第1の樹脂層2の厚みが0.4mmである二次成形用樹脂シート1に対して、最大繊維径又は最大粒径0.05mm(50μm)の竹繊維又は竹繊維と竹粉が分散されている構成を挙げることができる。
【0028】
以上の構成に対して、第2の樹脂層3の母材には、第2の樹脂層3が第1の樹脂層2よりも優れた破断伸びを示し得る樹脂を使用するのがよい。具体的には、第2の樹脂層3を単体でシート状に成形した場合、その破断伸び(例えばJIS K7113に準拠)が50%以上となる樹脂を母材に使用するのが好ましい。あるいは、第1の樹脂層2との一体成形性を考慮して、第1の樹脂層2の母材に使用する樹脂と同じ樹脂を母材に使用することも可能である。この場合、第1の樹脂層2の母材に使用する樹脂についても破断伸びが50%以上を示す樹脂を使用することができる。また、上記範囲の破断伸びを確保できるのであれば、母材樹脂単体に限らず、上記天然植物繊維や天然植物粉など適当な充填材を当該母材に配合したものを使用することも可能である。
【0029】
また、二次成形用樹脂シート1の表面性状に着目した場合、図1に示すように、この樹脂シート1の何れか一方の表面(この図示例では第1の樹脂層2の表面2a)に、天然植物繊維又は天然植物繊維と天然植物粉の分散態様に応じて複数の凹部4を形成し、これにより表面2aにランダムな凹凸模様が現れるようにすることも可能である。これは、既述のように、第1の樹脂層2の母材としての熱可塑性樹脂に、水分の含有割合を管理した状態の天然植物繊維を混合し、この混合物をシート状に押出して成形することで得ることができる。例えば天然植物繊維として竹繊維を使用する場合、竹繊維の含水割合は、0.2wt%以上5wt%以下の範囲に管理するのがよく、外観品質(触感を含む)の観点からは0.5wt%以上2wt%以下の範囲に管理するのがよりよい。竹繊維中の水分が0.2wt%未満だと、凹部を形成するに十分な水分の膨張、蒸発を生じることが難しく、竹繊維に含まれる水分の割合が5wt%を超えると、竹繊維と母材との間、あるいは母材に水分が侵入して竹繊維と母材との接着性に悪影響を及ぼす可能性、又はシートを貫通する程度の大きな孔が形成される可能性があるためである。また、上記含水割合を調整することで凹部の大きさを調整することもできる。例えば、上記含水割合を0.5wt%以上2wt%以下に管理することで、直径0.5mm〜2mmの凹部(凸部)を形成することができる。また、含水割合を2wt%以上5wt%以下に管理することで、直径2mm〜5mmの凹部(凸部)を形成することができる。なお、上記数値範囲はシート表面に凹凸模様を形成する場合の好適な範囲であるため、逆にいえば、竹繊維中の水分を0.2wt%未満に管理することで、凹凸の無い平坦な二次成形用樹脂シート1を得ることが可能である。
【0030】
上記二次成形用樹脂シート1の配合割合に関し、例えば第1の樹脂層2における天然植物繊維および天然植物粉等の充填材の含有率を、上記樹脂層2全体に対して5wt%以上51wt%以下に管理することも可能である。5wt%以上分散されていれば、天然植物繊維等による十分な補強効果を得ることができる。また、51wt%を超えない範囲内で天然植物繊維等を分散するようにすれば、その製造方法次第で、上記繊維等の凝集を避けて母材中に天然植物繊維等を均一に分散させることができる。また、二次成形用樹脂シート1の表面にランダムな凹凸模様を形成するためには、含水率の管理はもちろんのこと、所定の割合以上の天然植物繊維等が含まれている必要がある。具体的には、例えば竹繊維の含有率、又は、竹繊維と竹粉を合わせた含有率を20wt%以上51wt%以下の範囲に管理することで、好ましくは25wt%以上51wt%以下に管理することで、適当な数ならびに大きさの凹部を形成して、ランダムな凹凸模様を樹脂シートの表面に具現化させることができる。また、竹繊維単独で20wt%以上分散させることで、二次成形用樹脂シート1の十分な補強効果を得ることができる。
【0031】
一方で、天然植物繊維等の含有率が20wt%を超えると、これを分散させた第1の樹脂層2およびこれを含む二次成形用樹脂シート1のじん性が低下し、裂け易くなる。この場合、上記樹脂層2のじん性の向上を目的として、例えば母材としての熱可塑性樹脂よりも融点の高い樹脂からなる繊維を、第1の樹脂層2の母材中にさらに分散させることもできる。例えば、母材として、PPやPE、PSなどの汎用熱可塑性樹脂を使用する場合には、これらより融点の高い樹脂(PETなど)からなる繊維を配合することができる。これにより、例えば第1の樹脂層2中に竹繊維を30wt%以上分散させた場合においても、高い機械的特性と共に、優れた二次成形性を二次成形用樹脂シート1に付与することが可能となる。なお、この場合の配合態様としては、配合(分散)すべきPET繊維の繊維長は5mm以上で、配合量は10wt%以上とする場合を例示することができる。
【0032】
もちろん、双方の樹脂層2,3の母材には、上記の充填材に限らず、種々の充填剤を分散させることが可能である。例えば、低融点の熱可塑性樹脂には透明なものが多いため、これを着色する目的で、カーボンブラック等の顔料を、本発明の技術的意義を逸脱しない範囲内で配合することもできる。
【0033】
また、以上の説明では、二次成形用樹脂シート1として、第1の樹脂層2と第2の樹脂層3とを1層ずつ重ね合わせて一体化したものにつき説明したが、もちろん、3層以上に重ね合わせて一体化したものであってもよいことはもちろんである。例えば、二次成形用樹脂シート1は、第1の樹脂層2を中央にしてその両面側に第2の樹脂層3,3を配した構成を採ることもでき、これとは逆に、第2の樹脂層3を中央に、2層の第1の樹脂層2,2を第2の樹脂層3の両面側に配した構成を採ることもできる。また、第1の樹脂層2と第2の樹脂層3とを交互に2層ずつ重ね合わせた構成を採ることも可能である。
【0034】
上記構成に係る二次成形用樹脂シート1は、例えば以下の方法により製造される。ここでは、PPを母材とし、この母材中に竹繊維を分散配合した樹脂組成物を第1の樹脂シートとして押出すと共に、PPのみからなる第2の樹脂シートを第1の樹脂シートに重ね合わせて一体に成形する場合を例にとって説明する。
【0035】
図2は、上記二次成形用樹脂シートの製造装置10の要部正面図を示している。この製造装置10は、2台の押出し機11,12と、各押出し機11,12の先端に設けられ、各々の押出し機11,12から竹繊維と母材との混合物、あるいは母材単体をシート状に押出すためのフラットダイ(Tダイとも呼ばれる)13,14と、各フラットダイ13,14によりシート状に押出された2枚の樹脂シート15,16を重ね合わせて挟持加圧するローラ17,17と、挟持加圧されて一体化された複層樹脂シート18(二次成形用樹脂シート1)を巻取る巻取り装置19とを主に備える。
【0036】
押出し機11,12は何れも、混練を伴って押出し動作を行うものであり、例えば1軸又は2軸混練押出し機が使用される。母材と竹繊維との混練を伴う場合、2軸混練押出し機が好適である。
【0037】
ここでは、一方の押出し機11のフィーダに、母材としてのPPと竹繊維との混合物が供給され、混練された混合物がフラットダイ13を通過してシート状に押出される。また、他方の押出し機12のフィーダにはPPのみが供給され、供給されたPPがフラットダイ14を通過してシート状に押出される。
【0038】
ここで、押出し機11,12による混練温度は160℃以上200℃以下に設定される。160℃未満では母材としての熱可塑性樹脂(ここではPP)の流動性が不十分となり、成形性に悪影響を及ぼす可能性が生じるためである。また、混練時の温度が200℃を超えると、母材に混合させた竹繊維が過熱により劣化するおそれがあるためである。ただし、200℃を僅かに超える程度(210℃まで)であれば、竹繊維がその強度を損なうことなく茶色に変色させることもでき、これにより、カーボンブラックなどの顔料を入れずとも第1の樹脂シート15、ひいては二次成形用樹脂シート1を不透明とすることができる。また、この場合には、紫外線の遮断効果を有するので、例えばこの樹脂シート1で後述するファイルカバーを形成した場合には、ファイル内部に綴じた紙の退色を抑制することができる。
【0039】
このようにして押出されたPPと竹繊維との第1の樹脂シート15と、PPのみからなる第2の樹脂シート16とを重ね合わせた状態で対向する一対のローラ17,17間に供給して加圧する。これにより、2層に重ね合わせた樹脂シート15,16が複層樹脂シート18として一体に成形されると共に、下流側に配設した巻取り装置19により複層樹脂シート18が巻き取られ、長尺状態の二次成形用樹脂シート1が完成する。あるいは、巻き取った複層樹脂シート18を適当な長さに切断することで二次成形用樹脂シート1が完成する。この複層樹脂シート18の厚み(二次成形用樹脂シート1の厚みに等しい)は、この構成では、押出し機11,12による混合物の押出し量(速度)と巻取り装置19による巻取り速度とを調整することで所定の寸法に管理される。
【0040】
なお、この実施形態では、各々の押出し機11,12先端にフラットダイ13,14が設けられ、各々の樹脂シート15,16を押出すようになっているが、これらに代えて、ダイ内部で各押出し機11,12から押出された混合物をそれぞれ層状にして合流させる1台の多層ダイを用いることもできる。
【0041】
以上のようにして成形された二次成形用樹脂シート1は、母材としてのPP中に竹繊維が均等に分散した状態の第1の樹脂層2と、第1の樹脂層2と重ね合わさった第2の樹脂層3とを一体に有する。また、第1の樹脂層2のシート表面においては竹繊維が樹脂で覆われており、竹繊維が比較的リッチな部位で露出している部分には、高い抗菌性が付与される。
【0042】
以上、二次成形用樹脂シート1の製造方法の一例につき説明したが、当該製造方法が上記例示の方法に限定されるわけではなく、完成品が、第1の樹脂層2と第2の樹脂層3とを少なくとも1層ずつ重ね合わせて一体化させた形態を採り得る限りにおいて、任意の製造方法を採用することができる。
【0043】
以下、本発明に係る二次成形用樹脂シート1を用いた成形品の例を説明する。図3はその一例で、上記樹脂シートを二次成形して得られたファイルカバー20の斜視図を示している。この形態の二次成形品(ファイルカバー20)は、例えば上記製造方法により得られた二次成形用樹脂シート1の所定部位を必要に応じて加熱しながら折曲げ加工することで得られるもので、具体的には、ファイルカバー20の背表紙部21に対応する箇所と、表裏の表紙部22,23に対応する部分との間の折曲げ部24,25に折曲げ加工を施すことで得ることができる。
【0044】
この場合、既述のランダムな凹凸模様は、ファイルカバー20の外面に現れるのが好ましい。そのため、例えば各1層の樹脂層2,3からなる二次成形用樹脂シート1でファイルカバー20を形成する場合には、竹繊維を母材中に分散してなる第1の樹脂層2がファイルカバー20の外面側に位置するように、折曲げ部24,25を形成する必要がある。もちろん、図4に示すように、上記竹繊維を分散させた第1の樹脂層2をファイルカバー20の内面側に配した場合でも、樹脂のみからなる第2の樹脂層3の厚みを第1の樹脂層2に比べて小さくすることで、図4に示すように、ファイルカバー20の外面側に、複数の凹部4からなるランダムな凹凸模様が現れる。また、第1の樹脂層2に比べて破断伸びに優れた第2の樹脂層3をファイルカバー20の外面側に配するのであれば、折曲げ部24,25の曲げ加工時に生じる割れに対して非常に有効である。
【0045】
もちろん、本発明に係る二次成形用樹脂シート1は、上記ファイルカバー20などの樹脂製文具(文具製品の一部をなす場合も含む)用途全般に適用することができる他、他の樹脂製薄肉製品、例えば食品用トレイや弁当箱など樹脂製食品用容器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 二次成形用樹脂シート
2 第1の樹脂層
3 第2の樹脂層
4 凹部
10 二次成形用樹脂シートの製造装置
11,12 押出し機
13,14 フラットダイ
15 第1の樹脂シート
16 第2の樹脂シート
17 加圧ローラ
18 複層樹脂シート
19 巻取り機
20 ファイルカバー
21 背表紙部
22,23 表紙部
24,25 折曲げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材としての熱可塑性樹脂中に天然植物繊維を分散させた第1の樹脂層と、この樹脂層よりも破断伸びに優れた第2の樹脂層とを相互に重ね合わせて一体化した、二次成形用樹脂シート。
【請求項2】
さらに、第1の樹脂層の母材中に、この母材よりも融点の高い樹脂からなる繊維を分散させた請求項1に記載の二次成形用樹脂シート。
【請求項3】
複数の凹部を少なくとも一方の樹脂層の表面に形成した請求項1に記載の二次成形用樹脂シート。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の樹脂シートを二次成形して得られた二次成形品。
【請求項5】
二次成形品がファイルカバーである請求項4に記載の二次成形品。
【請求項6】
内面側に第1の樹脂層を配し、外面側に第2の樹脂層を配した請求項5に記載のファイルカバー。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のファイルカバーに紙綴じ具を取り付けてなるファイル。
【請求項8】
二次成形品が食品用容器である請求項4に記載の二次成形品。
【請求項9】
母材としての熱可塑性樹脂中に天然植物繊維を分散配合した樹脂組成物を第1の樹脂シートとして押出すと共に、この樹脂シートよりも破断伸びに優れた第2の樹脂シートを第1の樹脂シートに重ね合わせて一体に成形することで二次成形用樹脂シートを得る、二次成形用樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−234548(P2010−234548A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82371(P2009−82371)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【出願人】(000109347)テージー株式会社 (1)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】