説明

二次電池の充放電方法

【課題】 硫黄系化合物の有する高いエネルギー密度を有効に利用し、従来の問題点を克服し得る正極材料を用いた二次電池の充放電方法を提供すること。
【解決手段】 一つ以上の芳香族環と、ジスルフィド結合を一つ以上含むジスルフィド含有環とを持ち、前記ジスルフィド含有環の辺に前記芳香環の辺を含むレドックス活性硫黄含有物質を含むレドックス活性膜を導電性基体の表面に備えるレドックス活性可逆電極、を備える二次電池の充放電方法であって、前記硫黄含有物質のレドックス反応を、リチウム金属電極を対照電極とした前記レドックス活性可逆電極の電位でプラス2.0から4.5ボルトで起こす二次電池の充放電方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池等の電気化学デバイスに使用されるレドックス活性(酸化還元活性)可逆電極を用いた二次電池の充放電方法に係り、特には、迅速な電子および電荷移動反応を行い得るレドックス活性膜を導電性基体上に有するレドックス活性電極を用いたリチウム二次電池およびマグネシウム二次電池の充放電方法に関する。本発明は、特に、高エネルギー密度を必要とする携帯電話や電気自動車の電源として好適なリチウム二次電池もしくはマグネシウム二次電池の充放電方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウム二次電池は、正極にコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等のリチウム系無機金属酸化物が用いられ、負極に炭素系材料が用いられている。これらの電極材料の持つ理論容量は、正極材料が100〜150Ah/kgであるのに対し、負極材料はその3倍以上(炭素材料で370〜800Ah/kg)であることが知られている。
【0003】
このようなことから、高性能のリチウム二次電池を構成するためには、高エネルギー密度化が可能な正極材料の開発が急務になっている。また、リチウム二次電池の安全性を高めるためには、前記リチウム系金属酸化物の代わりにスルフィド化合物を正極材料として使用することが注目されている。一般に、硫黄系物質は、酸化還元反応活性を示し、高エネルギー密度で、高いエネルギー蓄積能力を有する。これは、レドックス中心の硫黄原子の原子量が32で、コバルト(59)、ニッケル(59)、マンガン(55)と比べ小さく、またその酸化数が−2から+6の値を取りうるため多電子移動反応を利用することができる可能性があることによる。硫黄化合物の中でもチオールのような化合物は電気化学的に活性なことが多い。チオールでは、一個の硫黄原子当たり一電子が可逆的に授受される。特に、チオール基を一つの分子内に二つ以上含む有機化合物は、電解質溶液に溶かした状態で電極で酸化するとS−S結合を介して重合化し電極に析出する。この酸化体は、還元により解重合し元のモノマーに戻る性質を持っている。2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMcT)を例としてあげることができ、この化合物は一分子当たり二つのチオール基を持つので二つの電子を授受できる。すなわち、DMcTのレドックス反応からDMcT1キログラム当たり362Ahのエネルギー密度の理論容量を得ることができる。しかしながら、このような硫黄系物質は、下記のいくつかの理由によりそのままでは正極材料として用いることが困難であった。その第一は、室温では電子移動反応が遅いためスムーズな充放電特性が得られないことである。第二は、このような硫黄系物質をレドックス反応活性層とした薄膜電極の形態では、ジチオールとS−S結合との間のレドックス反応が必ずしもスムーズには起こらないことである。すなわち、ジチオールを酸化するのに使用された電気量(充電電気量)が還元過程(放電過程)では100パーセント回収されず、この酸化と還元過程を繰り返すとその電気量は徐々に減少する。これは、一旦生成したS−S結合が全て元の還元状態には戻らないためである。
【0004】
上記第一の問題を解決した例として、本発明者の一人である小山らは、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMcT)とポリアニリンの複合体からなる正極材料を非特許文献1に報告した。この複合体からなる正極材料は、室温で速い電子移動反応を示す。それは、電子伝導性高分子であるポリアニリンが有機硫黄系化合物の酸化還元反応速度を加速するためであると考えられている。しかしながら、ポリアニリンは、酸化還元応答にプロトンが関与し複雑であること、また硫黄系化合物の酸化還元反応に対するその触媒能が電解質の酸性度、すなわちプロトン濃度に大きく依存するため、反応の最適条件の選定が困難であった。次に、プロトンの影響を取り除くために、電子伝導性高分子物質の中でポリピロールおよびポリチオフェンが候補として選択され、チオフェン環に2つの電子供与性酸素原子をカップリングさせた化合物、特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン(別名2,3−ジヒドロキシチエノ(3,4−b)(1,4)ジオキシン5,7−ジイルのポリマー)(略称PEDOT)およびその誘導体が、DMcTなどの有機硫黄系化合物のレドックス反応を触媒することが見出された(非特許文献2)。
【0005】
上記第二の問題を解決するための一つの方法として、上町らにより下記の提案があった(特許文献1)。ここでは、二つ以上のチオール基を持ち、酸化状態でS―S結合により中性の五あるいは六員環を形成し、還元状態で陰イオンのチオール基にそれぞれ戻る可逆的レドックス反応を行うことができる芳香族化合物を含む正極が提案されている。しかしながら、ここで提案されている反応は再現させることはできず、後に報告された二つの関連研究報文、すなわち含硫黄ナフタレン誘導体についての非特許文献3、および含硫黄アントラセン誘導体についての非特許文献4の中でも前述の特許文献1で主張された可逆的なレドックス応答の挙動は報告されていない。従って、第二の問題は依然として未解決であると判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5348819号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Oyama et al., Nature, vol. 373, 598-600 (1995)
【非特許文献2】N. Oyama et al., J. Electrochemical and Solid-state Letters, 6(12) A286-A289 (2003)
【非特許文献3】T. Inamasu et al., J. Electrochem. Soc., 150, A 128 (2003)
【非特許文献4】L. J. Xue et al., Electrochem. Commun., 5, 903 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記有機硫黄系化合物は、高エネルギー密度を有するという特徴を示すものの、電池の重量当たりに取り出せる電気エネルギーを大きくすること、および電子移動を繰り返し高速に行うことは困難であった。
【0009】
従って、本発明は、硫黄系化合物の有する高いエネルギー密度を有効に利用し、上記従来の問題点を克服し得る正極材料を用いた二次電池の充放電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、硫黄系(スルフィド)化合物をリチウム二次電池の正極の活物質として用いるために、電子移動反応を繰り返し高速に行うことができる物質の探索、およびその反応条件を鋭意検討した結果、所定のレドックス活性可逆電極を用いた二次電池の充電方法を発明するに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、一つ以上の芳香族環と、ジスルフィド結合を一つ以上含むジスルフィド含有環とを持ち、前記ジスルフィド含有環の辺に前記芳香環の辺を含むレドックス活性硫黄含有物質を含むレドックス活性膜を導電性基体の表面に備えるレドックス活性可逆電極を備える二次電池の充放電方法であって、前記硫黄含有物質のレドックス反応を、リチウム金属電極を対照電極とした前記レドックス活性可逆電極の電位でプラス2.0から4.5ボルトで起こす二次電池の充放電方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1の正極材料の対象物質の溶存状態でのCV特性を示すグラフである。
【図2】図2は、実施例2の正極材料のCV特性を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例4の正極材料のCV特性を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例5の正極材料のCV特性を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例8の正極材料のCV特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0014】
本発明のレドックス活性可逆電極は、導電性基板の表面にレドックス活性膜を有する。本発明のレドックス活性膜は、レドックス活性硫黄含有物質を含む。
【0015】
本発明のレドックス活性硫黄含有物質は、少なくとも一つ以上の芳香族環およびジスルフィド結合を一つ以上含む環を持ち、ジスルフィド含有環の辺にその芳香環の辺を含む化合物であって、そのジスルフィド含有環が開かずに環あたり一つ以上の電子を可逆的に供給あるいは受納することができる性質を持つ。そのような硫黄含有物質には、少なくとも一つの芳香環を含む芳香族部位と、前記芳香環の少なくとも一辺を共通辺として有する少なくとも一つのジスルフィド結合を含むジスルフィド含有複素環を有する硫黄含有環部位とを有する有機硫黄化合物が含まれる。ここで、芳香環とジスルフィド含有複素環とは、それぞれの環の辺を互いに少なくとも一つ共有している。通常、芳香環とジスルフィド含有複素環とは、少なくとも2個の炭素原子を共有原子として有する。芳香族部位としては、少なくとも一つのベンゼン環を有する縮合多環骨格または窒素含有複素環を含む。縮合多環骨格の例を挙げると、ナフタレン、ナフタセン、テトラセン、ヘキサセンのようなポリアセンおよびそのヒドロ体(例えば、ジヒドロヘキサセン、テトラヒドロヘキサセン)、ペリレン等の縮合多環である。また、窒素含有複素環の例を挙げると、ピロール等である。本発明において、少なくとも一つのジスルフィド結合に関し、n個(n≧3)の硫黄原子が連続して結合したポリスルフィド結合の場合、そのポリスルフィドは、(n−1)個のジスルフィド結合を含むものとみなされる。
【0016】
前記硫黄含有物質は、そのジスルフィド含有環では、その硫黄部位のレドックス反応によりその環は開閉せず、一つの環当たりプラス一価、および/またはプラス二価、および/またはマイナス一価に荷電する有機硫黄含有物質であることが好ましく、中性状態の一つのジスルフィド含有環を二電子還元せず硫黄活性部位をチオール基にしないものである。
【0017】
また、前記硫黄含有物質のレドックス反応が起こる電位は、リチウム金属電極を対照電極とした電位でプラス2.0から4.5ボルトに在ることが好ましい。本発明に用いられる硫黄含有物質のいくつかは、1.9ボルト以下の電位でジスルフィド含有環を二電子還元し硫黄活性部位をチオール基にしてしまう。この場合、前述した様にチオール基とS−S結合との間のレドックス反応は、分子内ではスムーズには起こらなくなり可逆性が失われる。すなわち、前記した米国特許第5348819号明細書では、明記されている化合物での還元状態、すなわち正極の放電状態でチオール基に戻すことが推奨されているが、この充放電様式では反応の可逆性が失われるので好ましくない。
【0018】
本発明に用いられるレドックス活性硫黄含有物質としては、下記化合物(1)〜(11)、および下記化合物(12)〜(14)が好ましい。
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
ここで、化合物(1)〜(11)のジスルフィド含有環の炭素部位には、アルキル基側鎖が含まれてもよく、また芳香族環の部位には、ハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基、水酸基、スルホン酸基、カルボン酸基およびアミノ基の1種またはそれ以上が置換されていてもよい。さらに、芳香族環の部位には、ビニル基、アクリレート基など重合が可能な側鎖を導入して、これを重合化した化合物(ポリマー)を用いてもよい。
【0021】
上記置換基を有する化合物は、例えば、下記式(A)〜(C)で示すことができる。
【化3】

【0022】
式(A)〜(C)において、Xは、上記置換基を示す。式(A)および(B)において、mおよびnは、それぞれ独立に、1または2であり、式(C)において、pおよびqは、それぞれ独立に、1〜4の整数である。
【0023】
また、化合物(1)〜(11)は、その2つ以上をその両端のベンゼン環においてチオエーテル結合(−S−)を介して連結させたポリマーの形態にあってもよい。かかるポリマーは、例えば、下記式(D)で示すことができる。
【化4】

【0024】
式(D)において、各Zは、−S−を表し、nは、2〜200である。このようなポリマーは、以後詳述する実施例13の手法により合成することができる。
【0025】
化合物(12)〜(14)では、複素芳香族環のα、α’の部位で結合した重合体が好ましく、ジスルフィド含有環の部位にアルキル基、水酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、アミノ基の1種またはそれ以上を含んでもよい。
【0026】
一般に、本発明で使用される有機硫黄化合物の中で、化合物(1)〜(11)は、モノマーおよびポリマーのどちらの形で使用してもよい。化合物(12)〜(14)では、酸化剤を用いた化学的酸化重合により得られる粉末、あるいは電解による酸化重合により得られる粉末あるいは薄膜を用いることができる。
【0027】
このレドックス活性膜は、硫黄含有物質の可逆的レドックス応答に対応する酸化還元波を示す。
【0028】
本発明のレドックス活性膜は、上記の有機硫黄含有物質の固体粉末に、好ましくは炭素系導電性粒子を添加するとともに、適量のバインダーを加えて混合し、その混合物を集電体基板上に塗布し加圧成型して作製することができる。このようにして作製された電極は、充放電の初期の段階から室温付近でも実用に見合う大電流、例えば0.1〜3mA/cm2の電流を取り出すことができる。炭素系導電性粒子(導電性炭素粒子)としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ等を例示することができる。導電性炭素粒子は、有機硫黄含有物質100重量部当たり、1〜30重量部の割合で用いることができる。
【0029】
さらに、本発明のレドックス活性膜は、金属酸化物及び金属錯体を含有することができる。そのような金属酸化物としては、五酸化バナジウムなどの、硫黄含有物質を層間に固定できる層状金属酸化物が含まれる。また、金属酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等のレドックス活性化合物をも含み、金属酸化物と有機硫黄化合物の両者のエネルギー貯蔵能を利用することもできる。
【0030】
さらに、本発明のレドックス活性膜は、金属系導電性微粒子である、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム、タングステン等の金属、酸化インジウム、酸化スズ等の導電性金属酸化物を混合してもよい。これら導電性微粒子は、好ましくは、銀、パラジウム、ニッケル、金または銅から形成され、異種導電性超微粒子の混合物も使用することができる。
【0031】
本発明のレドックス活性膜を支持する基板(集電体)は、少なくともレドックス活性膜と接する表面において導電性を示す導電性基板である。この基板は、金属、導電性金属酸化物、カーボン等の導電性材料で形成することができるが、銅、カーボン、金、アルミニウムまたはそれらの合金で形成することが好ましい。あるいは他の材料で形成された基板本体をこれら導電性材料で被覆したものでもよい。また、基板は、その表面に凹凸を有してもよく、あるいは網状であってもよい。
【0032】
また、レドックス活性膜は、電子伝導性高分子を含有することができる。例えば、ポリチオフェン系電子伝導性高分子にレドックス活性硫黄含有物質をドーピングし複合体を形成した材料では、スルフィド系化合物のレドックス反応に対し、電子移動反応の促進作用により、レドックス活性膜内およびレドックス活性膜と集電体との界面で迅速な電子移動反応を達成できる。
【0033】
さらに、本発明のレドックス活性膜は、リン酸鉄リチウム(オリビン酸リチウム)のような金属錯体を含んでいてもよい。
【0034】
本発明において、レドックス活性膜は、10〜100μmの厚さを有することが特に好ましい。また、本発明で用いる粒子(電子伝導性高分子物質、硫黄系化合物、導電性微粒子等)は、レドックス活性膜の厚さよりも小さいことが好ましい。
【0035】
本発明のレドックス活性可逆電極は、特にリチウム二次電池の正極として用いることが好ましい。リチウム二次電池は、正極とリチウム系負極を備え、それらの間に電解質層が配置されている。本発明のリチウム二次電池において、正極は本発明のレドックス活性可逆電極により構成される。リチウム系負極は、金属リチウムやリチウム合金(例えば、Li−Al合金)のようなリチウム系金属材料、またはリチウムインターカレーション炭素材料により構成することができる。リチウム系金属材料は、箔の形態で使用することが電池の軽量化の上で好ましい。正極と負極との間に介挿される電解質層は、電解質の溶液を含むポリマーゲルで構成すること(ポリマーゲル電解質)が好ましい。上記ポリマー電解質に含まれる電解質としては、CFSOLi、CSOLi、(CFSONLi、(CFSOCLi、LiBF、LiPF、LiClO等のリチウム塩を使用することができる。これら電解質を溶解する溶媒は非水溶媒であることが好ましい。そのような非水溶媒には、鎖状カーボネート、環状カーボネート、環状エステル、ニトリル化合物、酸無水物、アミド化合物、ホスフェート化合物、アミン化合物等が含まれる。非水溶媒の具体例を挙げると、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリジノン、N,N’−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネートとジメトキシエタンとの混合物、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物、スルホランとテトラヒドロフランとの混合物等である。
【0036】
ポリマーゲルとしては、アクリロニトリルとアクリル酸メチルもしくはメタアクリル酸との共重合体を用いることが好ましい。なお、上記ポリマーゲル電解質は、上記ポリマーを電解質溶液中に浸漬することによって、または電解質溶液の存在下で上記ポリマーの構成成分(モノマー/化合物)を重合させることによって得ることができる。また、本発明者の小山らが提案している新しいポリオレフィン系ゲルも好適に使用することができる(特開2002−198095号公報参照)。このゲルは、ポリエチレンのモル比で約10%がポリエチレングリコールなどのポリエチレンオキシドのオリゴマーを含有する化合物でグラフト化されている非架橋ポリマーのゲルである。このポリマーは、非グラフト化ポリエチレンと物性が全く異なり、大量の有機電解液を吸収してゲル化し、その吸収液を保持する能力を持つ。したがって、上記ポリマーを電解質溶液に浸漬することによってゲル電解質を得ることができる。また前述の非架橋ポリマーを有機溶媒中の電解質溶液に溶解した溶液に架橋性モノマーを添加してなる反応混合物を基材に適用し、該架橋性モノマーを架橋重合させる反応条件に供し、該基材と一体化されたポリマーゲル電解質を作製することもできる。
【0037】
本発明のレドックス活性可逆電極は、リチウム二次電池の正極以外にも非リチウム系イオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングする導電性高分子材料あるいは活性炭材料などから成る炭素材料負極と組み合わせた非リチウム系電池(例えばマグネシウム二次電池)の正極として用いることができる。該二次電池は、正極と非リチウム系負極を備え、それらの間に電解質層が配置されている。正極と負極との間に介挿される電解質層は、電解質の溶液を含むポリマーゲルで構成すること(ポリマーゲル電解質)が好ましい。電解質塩として、マグネシウムイオンのBF塩、 PF塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、トシレート塩を使用することができる。これら電解質を溶解する溶媒は非水溶媒であることが好ましく、リチウム二次電池において前記したニトリル化合物、カーボネート化合物等およびその混合物等である。ポリマーゲル電解質としてもリチウム二次電池において前記した材料を用いることができる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はそれら実施例により限定されるものではない。
【0038】
実施例1
化合物(1)(ナフト[1,8−cd][1,2]ジチオール(naphto[1,8-cd][1,2]dithiol)に関するレドックス応答を調べるため、該化合物は、K. Yui et al., Bull. Chem. Soc., Jpn., 61, 953 (1988)に従い合成した。
【0039】
該有機硫黄化合物のレドックス応答は、グラッシーカーボン(GC)電極を用いてサイクリックボルタンメトリー(CV)により調べた。対極にはリチウム金属電極を、参照電極には銀/銀イオン電極を用いた。CV測定を行う電解液として、プロピレンカーボネート(PC)、電解質塩として過塩素酸リチウムを用いて、1.0Mの過塩素酸リチウムを含有するPC溶液を調製した。この電解液中に1mMとなるように化合物(1)を溶解させ、−3.0〜+0.5V(対銀/銀イオン電極)までの範囲、すなわち対リチウム電極に対し+0.7〜4.2Vの電位範囲で、20mV/秒の掃引速度による電位掃引を繰り返した。図1にそのCV挙動を示す。この図より、−0.8〜+0.5Vの範囲(対リチウム電極に対し+2.9〜+4.2V)では酸化波および還元波に関して可逆的な応答が得られた。その応答から該化合物のレドックス反応の酸化還元電位は正側にあり、優れた電気化学活性を有することが分かった。それに対し、電位掃引範囲を−3.0〜−0.8V(対リチウム電極に対し+0.7〜+2.9V)にするとCVの繰り返しによる電流応答性が悪くなり、ジスルフィド環部を開環させると可逆性が悪くなることが示された。
【0040】
実施例2
化合物(1)をN−メチルピロリジノン(以下、NMPと略称する)に溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラックおよびバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させて動作電極を作製した。対極にはリチウム金属電極を、参照電極には銀/銀イオン電極を用いた。そのCV測定は、−0.2〜+0.2V対銀イオン電極(+3.5〜+3.9V対リチウム電極)の電位範囲で、20mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、プロピレンカーボネート(PC)、電解質塩として過塩素酸リチウムを用いて、0.1Mの過塩素酸リチウムを含有するPC溶液を調製した。図2にそのCV挙動を示す。溶存系の場合と同様に0V付近で可逆性の良い酸化還元電流応答が得られた。その電流応答は電位掃引の繰り返しにより、徐々に減少するのみであった。この減少の原因は、活物質の膜から溶液への溶解によるものであった。この減少は電解質としてポリマーゲルを用いて防ぐことができた。しかしながら、電位掃引を−3.0〜−0.8V(対リチウム電極に対し+0.7〜+4.2V)の範囲に広げて行うと、CVの繰り返しによる電流応答性が著しく悪くなり、ジスルフィド環部を開環させると可逆性が失われることが示された。
【0041】
実施例3
化合物(1)を濃硫酸(HSO)でスルホン化し、その被覆電極のレドックス応答性を調べた。まず、スルホン化は1グラムの化合物(1)を10ミリリットルの濃硫酸に溶かし、60℃で1時間撹拌する一般的手法で行われた。深緑色のペースト状液体は、撹拌時間の経過とともに赤紫色に変化した。この液体に、30ミリリットルの蒸留水を加え、沈殿物を得た。沈殿物をろ過し、次に蒸留水で繰り返し洗浄し、最後にアセトンで洗浄した。洗浄された沈殿物は、真空下の60℃で乾燥した。
【0042】
得られた化合物の既知量をNMPに溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラックおよびバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させ、乾燥させて動作電極を作製した。対極にはリチウム金属電極を、参照電極には銀/銀イオン電極を用いた。そのCV測定は、−1.0〜+0.5V対銀/銀イオン電極(+2.7〜+4.2V対リチウム電極)の電位範囲で、20mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、プロピレンカーボネート(PC)、電解質塩として過塩素酸リチウムを用いて、0.1Mの過塩素酸リチウムを含有するPC溶液を調製し使用した。実施例2の場合と同様に可逆性の良い酸化還元電流応答が得られた。ただし、実施例2の場合と比べ、そのレドックス応答の電位範囲は広くなり、かつその繰り返し安定性は著しく増した。しかしながら、電位掃引が−3.0〜+0.5V(対リチウム電極に対し+0.7〜+4.2V)の範囲に拡大するとCVの繰り返しによる電流応答性が悪くなり、ジスルフィド環部を開環させると可逆性が失われることが示された。
【0043】
実施例4
化合物(4)に関するレドックス応答を調べるため、該化合物はN. R. Ayyangar et al., Indian J. Chem., B16, 673 (1978)に従い合成した。この有機硫黄化合物を被覆した電極のレドックス応答特性を調べるために、該化合物をNMPに溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラックおよびバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させ乾燥して動作電極を作製した。対極および参照電極にはリチウム金属電極を用いた。そのCV測定は、+3.0〜+4.2V(対リチウム電極)の電位範囲で、1mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合液(重量比で1:3)、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いて1.0M濃度の電解質溶液を調製した。図3にそのCV挙動を示す。3.7V付近で可逆性の良い酸化還元電流応答が得られた。しかしながら、電位掃引をリチウム電極に対し+1.5〜+4.2Vの範囲に広げて行うと、CVの繰り返しによる電流応答性が悪くなり、ジスルフィド環部を開環させると可逆性が失われることが示された。
【0044】
実施例5
化合物(4)を濃硫酸(HSO)でスルホン化し、その被覆電極のレドックス応答性を調べた。まず、スルホン化は1グラムの化合物(4)を10ミリリットルの濃硫酸に溶かし、60℃で3時間撹拌する一般的手法で行われた。濃硫酸を加えると、ペースト状液体は、すぐに深赤色に変化した。3時間撹拌の後、この液体に30ミリリットルの蒸留水を加え、沈殿物を得た。沈殿物をろ過し、次に蒸留水で繰り返し洗浄し、最後にアセトンで洗浄した。洗浄された沈殿物は、真空下の60℃で乾燥した。
【0045】
この有機硫黄化合物を被覆した電極のレドックス応答特性を調べるために、該有機化合物をNMPに溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラックおよびバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させ乾燥して動作電極を作製した。対極および参照電極にはリチウム金属電極を用いた。そのCV測定は、+3.0〜+4.2V(対リチウム電極)の電位範囲で、1mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合液(重量比で1:3)、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いて1.0M濃度の電解質溶液を調製した。図4にそのCV挙動を示す。3.7V付近で可逆性の良い酸化還元電流応答が得られた。ただし、実施例3の場合と比べ、そのレドックス応答の繰り返し安定性は著しく増した。しかしながら、電位掃引をリチウム電極に対し+1.5〜+4.2Vの範囲に広げて行うと、CVの繰り返しによる電流応答性が悪くなり、ジスルフィド環部を開環させると可逆性が失われることが示された。
【0046】
実施例6
化合物(5)に関するレドックス応答を調べるため、該化合物は前記のIndian J. Chem. B16, 673 (1978)に従い合成した。この有機硫黄化合物を被覆した電極のレドックス応答特性を調べるために、該化合物をNMPに溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラックおよびバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させ乾燥して動作電極を作製した。対極および参照電極にはリチウム金属電極を用いた。そのCV測定は、+2.7〜+4.2V(対リチウム電極)の電位範囲で、1mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合液(重量比で1:3)、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いて1.0M濃度の電解質溶液を調製した。そのCV挙動では、3.4Vおよび3.6V付近にピーク電位値を持つ二つのシャープな酸化波並びに3.2V、3.0Vおよび2.9V付近にピーク電位値を持つ三つのシャープな還元波が得られた。しかしながら、電位掃引をリチウム電極に対し+1.7〜+4.2Vの範囲に広げて行うと、CVの繰り返しによる電流応答性が悪くなり、ジスルフィド環部を開環させると可逆性が失われることが示された。
【0047】
実施例7
化合物(5)を濃硫酸(HSO)でスルホン化し、その被覆電極のレドックス応答性を調べた。まず、スルホン化は1グラムの化合物(5)を10ミリリットルの濃硫酸に溶かし、60℃で15時間撹拌する一般的手法で行われた。濃硫酸を加えてもペースト状液体は深緑色で変化しなかった。15時間撹拌の後、この液体に30ミリリットルの蒸留水を加え、沈殿物を得た。沈殿物をろ過し、次に蒸留水で繰り返し洗浄し、最後にアセトンで洗浄した。洗浄された沈殿物は、真空下の60℃で乾燥した。
【0048】
この有機硫黄化合物を被覆した電極のレドックス応答特性を調べるために、該化合物をNMPに溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラックおよびバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させ乾燥して動作電極を作製した。対極および参照電極にはリチウム金属電極を用いた。そのCV測定は、+2.7〜+4.2V(対リチウム電極)の電位範囲で、1mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合液(重量比で1:3)、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いて1.0M濃度の電解質溶液を調製した。そのCV挙動では、3.4Vおよび3.6V付近にピーク電位値を持つ二つのシャープな酸化波並びに3.2V、3.0Vおよび2.9V付近にピーク電位値を持つ三つのシャープな還元波が得られた。ただし、実施例6の場合と比べ、そのレドックス応答の繰り返し安定性は増した。しかしながら、電位掃引をリチウム電極に対し+0.5〜+4.2Vの範囲に広げて行うと、CVの繰り返しによる電流応答性が悪くなり、ジスルフィド環部を開環させると可逆性が失われることが示された。
【0049】
実施例8〜10
化合物(12)〜(14)を特開2002−141065号公報に従い合成した。該化合物を用いてサイクリックボルタンメトリー(CV)の測定を行った。電解質溶液としては、プロピレンカーボネート(PC)、電解質塩として過塩素酸リチウムを用いて、0.1Mの過塩素酸リチウムを含有するPC溶液を調製した。この電解質溶液中に10mMとなるように化合物(12)を溶解させ、+0.2〜+1.4V(対銀/銀イオン参照電極)までの電位範囲を10mV/秒の掃引速度で電位掃引を繰り返し、電極上に電解重合膜(以下、これを化合物(12)被覆電極と呼ぶ)を作製した。図5に、化合物(12)を含有しない同電解質溶液中における化合物(12)被覆電極のCV挙動を示す。この結果から、上述の方法で電解重合した膜は、−0.4Vに可逆的な酸化還元ピーク電位値を持つ優れたレドックス活性を持つことが分かった。なお、この化合物(12)被覆電極の電流応答は、電位掃引範囲を−3.0〜0V(対リチウム電極に対し+0.7〜+3.7V)に広げても応答の劣化はなかった。化合物(13)および(14)を用いた場合でも、これらの化合物被覆電極は、それぞれ、酸化還元ピーク電位値を−0.25Vおよび−0.20Vに持つ可逆的なレドックス応答を示し、化合物(12)の場合と同様の挙動が得られた。
【0050】
実施例11
化合物(2)のナフタレン環のα、α’部位が4つの塩素で置換された3,4,7,8−テトラクロロナフト[1,8−cd:4,5−c’d’]ビス[1,2]ジチオール(TTN−4Clと略する)をE. Klingsberg, Tetrahedron, 28, 963 (1972)に従い合成した。オクタクロロナフタレン15gと硫黄6gを200ミリリットルフラスコに入れ、窒素気流下で310℃まで温度を上昇させた。途中で二塩化硫黄の大量発生があるが、310℃に約20分間保持した後、放冷し室温まで下げた。二硫化炭素での還流、および水による洗浄を二度繰り返した。ろ過後、真空乾燥し目的物を得た。E. Klingsberg, Tetrahedron, 28, 963 (1972)と同様にTTN−4Clを収率75%で得ることができた。
【0051】
この有機硫黄化合物を被覆した電極のレドックス応答特性を調べるために、該化合物をNMPに溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラックおよびバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させ乾燥して動作電極を作製した。対極および参照電極にはリチウム金属電極を用いた。そのCV測定は、+2.7〜+4.2V(対リチウム電極)の電位範囲で、1mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合液(重量比で1:3)、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いて1.0M濃度の電解質溶液を調製した。そのCV挙動では、3.8Vおよび3.9V付近にピーク電位値を持つ二つのシャープな酸化波、および3.8V、および3.7V付近にピーク電位値を持つ2つのシャープな還元波が得られた。
【0052】
実施例12
実施例11に記載した該化合物を被覆した電極のレドックス反応の繰り返し安定性を増すため、上記と同じ方法で作製した被覆電極上の被覆膜を乾燥させた後、パーフルオロイオン交換体であるナフィオンを5重量%含む水とアルコールから成る混合液の適量でその膜表面をさらに覆い乾燥して動作電極を作製した。
【0053】
対極および参照電極にはリチウム金属電極を用いた。そのCV測定は、+3.0〜+4.2V(対リチウム電極)の電位範囲で、1mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合液(重量比で1:3)、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いて1.0M濃度の電解質溶液を調製した。3.8Vおよび3.9V付近にピーク電位値を持つ酸化波、および3.8および3.7V付近にピーク電位値を持つ二つのシャープな還元波が得られた。この場合には、4時間以上の掃引でもその応答は減少せず実施例11の場合に比べ、そのレドックス応答の繰り返し安定性は著しく増した。
【0054】
実施例13
化合物(2)のナフタレン環のα、α’部位をチオエーテル(−S−)で連結したポリマーに関するレドックス応答を調べるため、該化合物は、実施例11に記載したE. Klingsberg, Tetrahedron, 28, 963 (1972)の合成法に新たなプロセスを追加し合成した。本方法では、実施例11に記載のTTN−4Clを単離せず310℃で20分間反応させた後、100℃まで温度を下降したTTN−4Clを含むフラスコに硫化ナトリウム9水和物5gを添加した。そして再び温度を330℃まで上昇、約30分間保持した。放冷後、窒素ガス気流を止めて、反応物に100ミリリットルの二硫化炭素を注ぎ加熱還流した。放冷後、ろ過により黒色の固体を得た。この固体を粉砕し、100ミリリットルの二硫化炭素に懸濁し加熱還流した。再び放冷後、ろ過しこの固体を200ミリリットルの水で十分洗浄し、乾燥した。さらに、1,2−ジクロロベンゼンで洗浄し、ろ過、乾燥し、黒色固体0.7gを得た。得られた黒色固体の生成物の赤外分光スペクトルは、TTN−4Clと異なり、570cm−1、645cm−1、750cm−1、1070cm−1、1140cm−1、および1400cm−1に新たに比較的強い吸収を生じた。ここでC−S結合に帰属される伸縮振動は700〜600cm−1の領域に生じることが知られているので、新たに生じた吸収はチオエーテルによる結合が存在することを示唆している。またX線光電子分光法(ESCA)のスペクトルは、TTN−4ClのCl(2p)に基づくスペクトルが200eVにピーク値を示すが、本合成で得られた黒色粉末では、該スペクトルの強度は1%以下となり塩素が検出されなかった。またTTN−4ClのS(2p)の結合エネルギーが163eVにピーク値を示すスペクトルが得られるが、本合成で得られた粉末ではその強度は1.5倍となり、硫黄含有量が増し、さらにそれには新たなスペクトル(165eV)を包含することが観察された。この事は、結合様式の異なる少なくとも二種類の硫黄が存在することを示唆している。TTN−4Clの元素分析では、重量比でC:30.8%、H:0.2%以下、S:33.7%、Cl:36.3%となり、これを分子式基準で炭素数を10とすると、C104.1Cl3.98となる。TTN−4Clの構造式ではC10Clであるので、両者の値は非常に良い一致を示す。反応中に硫化ナトリウムを添加して得られた本発明の黒色粉末中に残存している塩素は、元素分析の結果及びX線光電子分光法(ESCA)の結果により1%以下の存在であることが確認された。さらに、硫黄の分率は反応中に加えられた硫化ナトリウムの量の大小により変化するが、TTN−4Clで得られた値の1.5〜1.6倍となる。すなわち、ナフタレン環ユニットに平均2個の硫黄が新たに導入され、ポリマー化のために使われていることが明らかとなった。
【0055】
次に、この有機硫黄化合物を被覆した電極のレドックス応答特性を調べる為に、該化合物をNMPに溶解分散させ、導電性炭素粉末のケッチェンブラック及びバインダーのポリマーを加えペースト状液とし、これをGC電極上に被覆させ乾燥して動作電極を作製した。対極及び参照電極にはリチウム金属電極を用いた。そのCV測定は、+2.7〜+4.2V(対リチウム電極)の電位範囲で、1mV/秒の掃引速度で行われた。CV測定を行う電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合液(重量比で1:3)、電解質塩として四フッ化ホウ酸リチウムを用いて1.0M濃度の電解質溶液を調製した。そのCV応答挙動は4.0〜4.1V付近にピーク電位値を持つ重畳した二つの酸化波、および4.0〜3.8V付近にピーク電位値を持つ二つのシャープな還元波が得られた。その応答安定性は極めて良く、数時間の電位掃引でも減少しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の芳香族環と、ジスルフィド結合を一つ以上含むジスルフィド含有環とを持ち、前記ジスルフィド含有環の辺に前記芳香環の辺を含むレドックス活性硫黄含有物質を含むレドックス活性膜を導電性基体の表面に備えるレドックス活性可逆電極、
を備える二次電池の充放電方法であって、
前記硫黄含有物質のレドックス反応を、リチウム金属電極を対照電極とした前記レドックス活性可逆電極の電位でプラス2.0から4.5ボルトで起こす二次電池の充放電方法。
【請求項2】
前記硫黄含有物質が、前記ジスルフィド含有環が開かずに環あたり一つ以上の電子を可逆的に授受することができる性質を持つ請求項1に記載の充放電方法。
【請求項3】
前記ジスルフィド含有環を開閉させることなく環あたり一つ以上の電子を可逆的に授受する請求項1又は2に記載の充放電方法。
【請求項4】
前記硫黄含有物質のジスルフィド含有環は、その硫黄部位のレドックス反応により一つの環当たりプラス一価、および/あるいはプラス二価、および/あるいはマイナス一価に荷電する請求項1〜3のいずれかに記載の充放電方法。
【請求項5】
前記硫黄含有物質が、下記化合物(1)〜(11)、および下記化合物(12)〜(14)、並びにそれらの誘導体およびそれらのポリマーからなる群の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の充放電方法。
【化1】

【化2】

【請求項6】
前記硫黄含有物質が、
下記化合物(3)、(4)および(6)〜(14)、
下記化合物(1)〜(11)の芳香族環の部位に、スルホン酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、カルボン酸基およびアミノ基の1種またはそれ以上が置換されている誘導体、
下記化合物(1)〜(11)のジスルフィド含有環の炭素部位に、アルキル基側鎖が含まれている誘導体、
下記化合物(12)〜(14)のジスルフィド含有環の炭素部位に、スルホン酸基、水酸基、カルボン酸基およびアミノ基の1種またはそれ以上が置換されている誘導体、並びに
下記(1)〜(14)の誘導体を重合化したポリマー
からなる群の中から選ばれる少なくとも1種である、
請求項1〜4のいずれかに記載の充放電方法。
【化3】

【化4】

【請求項7】
前記硫黄含有物質が、下記式(A)〜(C)で示される化合物からなる群の中から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の充放電方法。
【化5】

(式中、Xは、スルホン酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、カルボン酸基およびアミノ基の1種またはそれ以上、mおよびnは、それぞれ独立に1又は2、pおよびqは、それぞれ独立に1〜4の整数)
【請求項8】
前記硫黄含有物質が、下記式(D)で示される少なくとも1種の化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の充放電方法。
【化6】

(式中、各Zは、−S−、nは、2〜200の整数)
【請求項9】
前記二次電池が、
前記レドックス活性可逆電極により構成される正極と、
リチウム系負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層を備えるリチウム二次電池である請求項1〜8のいずれかに記載の充放電方法。
【請求項10】
前記二次電池が、
前記レドックス活性可逆電極により構成される正極と、
非リチウム系レドックス活性負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層を備える二次電池である請求項1〜8のいずれかに記載の充放電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−60777(P2011−60777A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257035(P2010−257035)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【分割の表示】特願2005−518605(P2005−518605)の分割
【原出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(599037366)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】