説明

二次電池用正極の製造方法、二次電池正極用スラリー及び二次電池

【課題】水系スラリーにおいて高容量向けの活物質を適用する際に集電体の腐食を抑制し、かつ二次電池の出力特性を向上させることのできる二次電池用正極の製造方法を提供する。
【解決手段】正極活物質、水、水溶性ポリマー、及び粒子状ポリマーを含んでなる二次電池正極用スラリーを、金属からなる集電体上に、塗布する工程と、塗布された前記二次電池正極用スラリーを乾燥する工程を含み、前記二次電池正極用スラリーのpHが、10以上12以下であることを特徴とする二次電池用正極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極の製造方法、及びそれに用いる二次電池正極用スラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、実用化電池の中で最も高いエネルギー密度を示し、特に小型エレクトロニクス用に多用されている。また、自動車用途への展開も期待されている。その中で、リチウムイオン二次電池の長寿命化や、広い温度範囲での作動、及び安全性の向上などの更なる高性能化が要望されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極は、一般に、正極活物質として用いられる、LiCoO、LiMn及びLiFePO等のリチウム含有金属酸化物等を、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダーにより結合させて形成されている。PVDFをバインダーとして用いて二次電池正極用スラリーを作製する際には、分散媒として一般的にN−メチルピロリドン(NMP)が用いられている。しかし、その一方で、水系スラリーへの関心も高まっている。
【0004】
一方、リチウムイオン二次電池の高性能化に向けて、正極用活物質の開発も進められており、高容量化へむけて、ニッケル等の遷移金属を含有する活物質が注目を浴びている。これらの高容量向け活物質は、活物質製造時に使用される炭酸リチウムが活物質中に残存することにより強い塩基性を示す。
そのため、それらの活物質を用いて水系のスラリーを作製すると、その強い塩基性により、アルミニウム等からなる集電体の表面を腐食し、電極の不良、さらには電池の性能低下および安全性低下に繋がるといった課題があった。
【0005】
そこで、特許文献1には、水系スラリーに対してpH調整剤を添加し、pHを5以上、9以下とすることで集電体の腐食を抑制し、良好な電極および電池の作製が可能であることが開示されている。また、特許文献2によれば、正極活物質として特定の組成のものを適用することにより、水系スラリーのpHの上昇を抑制し、良好な電極および電池を作製する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−064564号公報
【特許文献2】特開2006−134777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1の記載の方法では、水系スラリーのpHを9以下とする必要があるが、pHが9以下まで低下すると、水系スラリー中に含まれる粒子状のポリマーの安定性が低下し、それに伴いスラリーの安定性が低下し、その結果、二次電池用正極の極板を作製する際に不良が生じやすくなることがわかった。
また、特許文献2に記載の方法では、使用できる活物質種類に制限が生じるため、本来の目的である高容量向け活物質の適用が困難となり、結果として所望の性能を有する二次電池の作製が難しいということがわかった。
従って、本発明の目的は、水系スラリーにおいて高容量向けの活物質を適用する際に集電体の腐食を抑制し、かつ二次電池の出力特性を向上させることのできる二次電池用正極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、高容量向け活物質を水系スラリーに適用する際に、適用する水系スラリーのpHを10以上、12以下という極めて限られた範囲に調整することにより、スラリー安定性とスラリー塗布後の集電体の腐食抑制効果という、バランスさせることが困難なこの両者の特性のいずれも優れたものとすることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
(1)正極活物質、水、水溶性ポリマー及び粒子状のポリマー粒子を含んでなる二次電池正極用スラリーを、金属からなる集電体上に塗布する工程、並びに塗布された前記二次電池正極用スラリーを乾燥する工程を含み、前記二次電池正極用スラリーのpHが、10以上12以下であることを特徴とする二次電池用正極の製造方法。
(2)前記二次電池正極用スラリーが、さらにpH調整剤を含むものである上記(1)に記載の二次電池用正極の製造方法。
(3)前記正極活物質が、ニッケルを含有するものである上記(1)又は(2)に記載された二次電池用正極の製造方法。
(4)正極活物質、水、水溶性ポリマー及び粒子状のポリマー粒子を含み、pHが10以上12以下であることを特徴とする二次電池正極用スラリー。
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載された製造方法により製造された二次電池用正極、二次電池用負極、及び非水電解液を有する二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定のpHの範囲にある水系スラリーを用いて二次電池用正極を作製することにより、水系スラリーの保存安定性と、スラリー塗布後の集電体の腐食抑制効果というバランスさせることが困難なこの両者の特性をいずれも優れたものとすることができ、その結果出力特性に優れた二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳述する。
本発明の二次電池用正極の製造方法は、正極活物質、水、水溶性ポリマー及び粒子状ポリマーを含んでなる二次電池正極用スラリーを、金属からなる集電体上に塗布する工程、並びに塗布された前記二次電池正極用スラリーを乾燥する工程を含む。
【0012】
(二次電池正極用スラリー)
本発明に用いる二次電池正極用スラリーは、正極活物質、水、水溶性ポリマー及び粒子状ポリマーを含んでなる。
【0013】
(正極活物質)
本発明に用いる正極活物質は、電極が利用される二次電池に応じて選択することが一般的である。前記二次電池としては、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池が挙げられる。
【0014】
本発明の二次電池用正極の製造方法を、リチウムイオン二次電池正極用に適用する場合、リチウムイオンの吸蔵放出可能な活物質が用いられ、リチウムイオン二次電池正極用の電極活物質(正極活物質)は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0015】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
【0016】
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO、V、V13、TiO、Cu、非晶質VO−P、MoO、V、V13等が挙げられ、中でも得られる二次電池のサイクル安定性と容量からMnO、V、V13、TiOが好ましい。
遷移金属硫化物としては、TiS、TiS、非晶質MoS、FeS等が挙げられる。
リチウム含有複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0017】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはマンガン酸リチウム(LiMn)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn3/21/2]O(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLiMPO(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0018】
有機化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。
【0019】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。正極活物質の粒子径は、電池の他の特性との兼ね合いで適宜選択されるが、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常0.1〜50μm、好ましくは1〜20μmである。50%体積累積径がこの範囲であると、充放電容量が大きい二次電池を得ることができ、かつ電極活物質スラリーおよび電極を製造する際の取扱いが容易である。50%体積累積径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0020】
本発明においては、上記正極活物質の中でも、ニッケルを含有するものであることが好ましい。正極活物質が、ニッケルを含有するものを用いると、水系のスラリーを作製した際に、スラリーのpHが上昇しやすいため、本発明における効果が大きい。ニッケルを含有する活物質としては、遷移金属としてNiを含有する活物質である、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物が特に好ましく用いられる。
【0021】
本発明の二次電池用正極の製造方法を、ニッケル水素二次電池正極用に適用する場合、用いることのできる正極活物質としては、水酸化ニッケル粒子が挙げられる。水酸化ニッケル粒子は、コバルト、亜鉛、カドミウム等を固溶していてもよく、あるいは表面がアルカリ熱処理されたコバルト化合物で被覆されていてもよい。
【0022】
二次電池正極用スラリーにおける正極活物質の含有割合は、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは60〜90質量%である。正極スラリーにおける正極活物質の含有割合を上記範囲とすることにより、良好なスラリー及び電極を作製することができる。
【0023】
(粒子状ポリマー)
本発明に用いる粒子状ポリマーは、分散媒である水中にポリマー粒子が分散された状態(重合体分散液)で、水系正極スラリー内に添加される。
水系の重合体分散液は、通常、重合体が水中に分散した重合体粒子分散液であり、例えば、ジエン系重合体粒子分散液、アクリル系重合体粒子分散液、フッ素系重合体粒子分散液、シリコン系重合体粒子分散液などが挙げられる。電極活物質との結着性および得られる電極の強度や柔軟性に優れるため、ジエン系重合体粒子分散液、又はアクリル系重合体粒子分散液が好ましい。
中でも、正極用バインダーとしては、電気化学安定性が高いという観点から、重合体中の主鎖中に不飽和結合を含まないアクリル系重合体粒子分散液がさらに好ましい。
【0024】
(アクリル系重合体)
アクリル系重合体とは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを重合してなる単量体単位を含む重合体である。アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを重合してなる単量体単位の割合は、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上である。アクリル系重合体の具体例としては、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの単独重合体、これと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。前記共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類; N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物などが挙げられる。
【0025】
アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、およびアクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチル、ベンジルアクリレート等のアクリル酸エステルなどのアクリル酸アルキルエステル;
アクリル酸2−(パーフルオロブチル)エチル、アクリル酸2−(パーフルオロペンチル)エチルなどのアクリル酸2−(パーフルオロアルキル)エチル;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、およびメタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;
メタクリル酸2−(パーフルオロブチル)エチル、メタクリル酸2−(パーフルオロペンチル)エチルメタクリル酸2−(パーフルオロアルキル)エチルなどのメタクリル酸2−(パーフルオロアルキル)エチル;が挙げられる。
【0026】
本発明に用いる粒子状ポリマーは、架橋構造を有していてもよい。架橋構造を導入する方法としては、加熱またはエネルギー線照射により架橋させる方法が挙げられる。加熱またはエネルギー線照射により架橋可能なポリマーを架橋して用いることで、加熱やエネルギー線照射の強度により架橋度を調節できる。また、架橋度が高いほど膨潤度が小さくなるので、架橋度を変えることにより膨潤度を調節することができる。加熱またはエネルギー線照射により架橋可能とする方法としては、ポリマー中に架橋性基を含有させる方法やポリマーと架橋剤とを併用する方法が挙げられる。
【0027】
本発明に用いる粒子状ポリマーは、上述した単量体成分以外に、これらと共重合可能な単量体を含んでいてもよい。これらと共重合可能な単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体; 酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのアミド系単量体;が挙げられる。これらの単量体を、適宜の手法により、共重合させることによりポリマー中に導入することができる。
【0028】
粒子状ポリマーが水中に粒子状で分散している場合において、分散している粒子状ポリマーの数平均粒径は、50nm〜500nmが好ましく、70nm〜400nmがさらに好ましく、最も好ましくは100nm〜250nmである。粒子状ポリマーの数平均粒径がこの範囲であると得られる電極の強度および柔軟性が良好となる。
【0029】
粒子状ポリマーが水中に分散している場合において、分散液の固形分濃度は、通常15〜70質量%であり、20〜65質量%が好ましく、30〜60質量%がさらに好ましい。固形分濃度がこの範囲であると電極用スラリー製造における作業性が良好である。
【0030】
本発明に用いる粒子状ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−50〜25℃、より好ましくは−45〜15℃、特に好ましくは−40〜5℃である。粒子状ポリマーのTgが上記範囲にあることにより、優れた強度と柔軟性を有し、高い出力特性の二次電池用電極を得ることができる。なお、粒子状ポリマーのガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調製可能である。
【0031】
本発明に用いる粒子状ポリマーの製造方法は、特に限定はされず、懸濁重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合方法としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどがあげられる。
【0032】
本発明に用いる粒子状ポリマーを製造するに際して、前記重合法において用いられる分散剤は、通常の合成で使用されるものでよく、具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホコハク酸塩;ラウリン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテルサルフェートナトリウム塩、ポリオキシエチレンノニルフェニルエ−テルサルフェートナトリウム塩などのエトキシサルフェート塩;アルカンスルホン酸塩;アルキルエーテルリン酸エステルナトリウム塩;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンラウリルエステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などの非イオン性乳化剤;ゼラチン、無水マレイン酸−スチレン共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、重合度700以上かつケン化度75%以上のポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などが例示され、これらは単独でも2種類以上を併用して用いても良い。これらの中でも好ましくは、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、テトラドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩であり、更に好ましくは、耐酸化性に優れるという点から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどのベンゼンスルホン酸塩である。分散剤の添加量は任意に設定でき、モノマー総量100質量部に対して通常0.01〜10質量部程度である。
【0033】
本発明に用いる粒子状ポリマーが水中に分散している時のpHは、5以上13以下であることが好ましく、5以上12以下であることがより好ましく、10以上12以下であることが特に好ましい。粒子状ポリマーが水中に分散している時のpHが上記範囲にあることにより、粒子状ポリマーの保存安定性が向上し、さらには、機械的安定性が向上する。
【0034】
粒子状ポリマーが水中に分散している時のpHを調整するpH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物;水酸化アルミニウムなどの長周期律表でIIIA属に属する金属の水酸化物などの水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩などの炭酸塩;有機アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミンなどのアルキルアミン類;モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミンなどのアルコールアミン類;アンモニア水などのアンモニア類;などが挙げられる。これらのなかでも、結着性や操作性の観点からアルカリ金属水酸化物が好ましく、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが好ましい。
【0035】
二次電池正極用スラリーにおける粒子状ポリマーの含有割合は、好ましくは0.5〜5質量%、より好ましくは1.0〜3.0質量%である。二次電池正極用スラリーにおける粒子状ポリマーの含有割合を上記範囲とすることにより、結着力及び柔軟性に優れた電極を作製することができる。
【0036】
(水溶性ポリマー)
本発明に用いる水溶性ポリマーとは、25℃において、高分子0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5重量%未満の高分子をいう。水溶性高分子の具体例としては、増粘剤が挙げられる。
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体水素化物などが挙げられる。本発明において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味し、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタアクリル」を意味する。
【0037】
二次電池正極用スラリー中の水溶性高分子の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。水溶性高分子の含有割合が上記範囲であることにより、正極用スラリー中の活物質等の分散性に優れ、平滑な電極を得ることができ、優れた負荷特性及びサイクル特性を示すことができる。
【0038】
(pH調整剤)
本発明に用いる二次電池正極用スラリーは、さらにpH調整剤を含むことが好ましい。pH調整剤を含むことにより、容易にスラリーのpHを調整することができる。
pH調整剤の種類は特に限定されないが、酸性を示す水溶性物質であることが好ましい。強酸や弱酸いずれも使用することができる。
【0039】
弱酸性を示す水溶性物質の具体例としては、カルボン酸基、燐酸基、スルホン酸基など酸基を有する有機化合物が挙げられる。これらの中でも、特にカルボン酸基を有する有機化合物が好ましく用いられる。カルボン酸基を有する化合物の具体例としては、琥珀酸、フタル酸、マレイン酸、無水琥珀酸、無水フタル酸、無水マレイン酸などが挙げられる。こられの化合物は、乾燥することにより電池内において悪影響が少ない酸無水物にすることができる。
【0040】
強酸性を示す水溶性物質の具体例としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などが挙げられる。
本発明においては、pH調整剤の中でも、スラリーの乾燥工程において分解または揮発するものであることが好ましい。この場合、得られた正極にpH調整剤が残留しない。このようなpH調整剤としては、酢酸、塩酸などが挙げられる。
【0041】
pH調整剤は、正極合剤100質量部に対して0.1質量部以上、0.5質量部以下の範囲で添加されることが好ましい。なお、ここで正極合剤とは、正極活物質、水溶性ポリマー、粒子状のポリマー粒子およびその他の添加剤を含めた正極活物質層を構成する材料の合計量である。pH調整剤の正極合剤に対する添加量が0.1質量%未満である場合は、スラリーのpHを好適に調整することが困難となる傾向にある。一方、pH調整剤の正極合剤に対する添加量は、0.5質量%以下で十分である。
【0042】
(その他の成分)
本発明に用いる二次電池正極用スラリーには、上記成分のほかに、さらに導電性付与材、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤、その他結着剤等の、他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0043】
導電付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔などが挙げられる。導電性付与材を用いることにより電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、特にリチウムイオン二次電池に用いる場合に放電負荷特性を改善したりすることができる。補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な電極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。二次電池正極用スラリー中の導電性付与材や補強剤の含有割合は、正極活物質100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。二次電池正極用スラリー中の導電性付与材や補強剤の含有割合が前記範囲であることにより、高い容量と高い負荷特性を示すことができる。
【0044】
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。分散剤は用いる電極活物質や導電剤に応じて選択される。二次電池正極用スラリー中の分散剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。二次電池正極用スラリー中の分散剤の含有割合が上記範囲であることにより、正極用スラリーの安定性に優れ、平滑な電極を得ることができ、高い電池容量を示すことができる。
【0045】
レベリング剤としては、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。前記界面活性剤を混合することにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、電極の平滑性を向上させることができる。二次電池正極用スラリー中のレベリング剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%である。二次電池正極用スラリー中のレベリング剤の含有割合が上記範囲であることにより、電極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。
【0046】
酸化防止剤としては、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が挙げられる。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体であり、重量平均分子量が200〜1000、好ましくは600〜700のポリマー型フェノール化合物が好ましく用いられる。二次電池正極用スラリー中の酸化防止剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.05〜5質量%である。二次電池正極用スラリー中の酸化防止剤の含有割合が上記範囲であることにより、正極用スラリーの安定性、電池容量及びサイクル特性に優れる。
【0047】
本発明に用いる二次電池正極用スラリーの固形分濃度は、塗布、浸漬が可能な程度でかつ、流動性を有する粘度になる限り特に限定はされないが、一般的には10〜80質量%程度である。
【0048】
本発明に用いる二次電池正極用スラリーのpHは、10以上12以下、更に好ましくは10.5以上11.5以下とすることが必要である。二次電池正極用スラリーのpHを上記範囲とすることにより、安定性とスラリー塗布後の集電体の腐食抑制効果の両方に優れるスラリーを得ることができる。
本発明に用いる二次電池正極用スラリーのpHを調整する方法としては、pHを前記範囲に調整することができれば、いかなる方法でもよく、例えば、スラリー作製前に正極活物質を洗浄してスラリーのpHを調整する方法や、作製したスラリーに炭酸ガスをバブリングしpHを調整する方法があげられるが、好ましくは前述したpH調整剤を使って調整する方法が好ましい。
【0049】
(二次電池正極用スラリー製法)
本発明においては、二次電池正極用スラリーの製法は、特に限定はされず、前記正極活物質、水溶性ポリマー、粒子状ポリマー及び水と、必要に応じ添加される他の成分とを混合して得られる。
本発明においては上記成分を用いることにより混合方法や混合順序にかかわらず、電極活物質が高度に分散された二次電池正極用スラリーを得ることができる。混合装置は、上記成分を均一に混合できる装置であれば特に限定されず、ビーズミル、ボールミル、ロールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどを使用することができるが、中でも高濃度での分散が可能なことから、ボールミル、ロールミル、顔料分散機、擂潰機、プラネタリーミキサーを使用することが特に好ましい。
二次電池正極用スラリーの粘度は、均一塗工性、スラリー経時安定性の観点から、好ましくは10mPa・s〜100,000mPa・s、更に好ましくは100〜50,000mPa・sである。前記粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した時の値である。
【0050】
二次電池正極用スラリーのpHの調整は、スラリー作製工程中であればどこで行っても構わないが、二次電池正極用スラリーを所定の固形分濃度まで調整した後に、pH調整剤により調整することが好ましい。二次電池正極用スラリーを所定の固形分濃度まで調整した後にpHの調整を行うことにより、正極活物質の溶解等の問題なく、pHの調整を容易に行うことができる。
【0051】
(集電体)
本発明に用いられる集電体は、金属からなり、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。中でも、リチウムイオン二次電池の正極用としてはアルミニウムが特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、正極活物質層の接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、正極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0052】
本発明では、金属からなる集電体上に前記二次電池正極用スラリーを塗布する。二次電池正極用スラリーを集電体へ塗布する方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ジップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。前記二次電池正極用スラリーは、集電体の片面だけでに塗布してもよく、両面に塗布してもよい。
【0053】
本発明では、金属からなる集電体上に塗布された前記二次電池正極用スラリーを乾燥する。
乾燥温度及び乾燥時間は、特に制限されず、120℃以上で1時間以上加熱処理すればよい。乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0054】
本発明では、金属からなる集電体上に前記二次電池正極用スラリーを塗布、乾燥した後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により電極の空隙率を低くすることが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5%〜15%、より好ましくは7%〜13%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難かったり、電極が剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。さらに、硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0055】
本発明により得られる二次電池用正極の正極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。電極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0056】
(二次電池)
本発明の二次電池は、上記製造方法により製造された正極、二次電池用負極、及び非水電解液を有するものである。
【0057】
前記二次電池としては、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池等挙げられるが、、長期サイクル特性の向上・出力特性の向上等性能向上が最も求められていることから用途としてはリチウムイオン二次電池が好ましい。以下、リチウムイオン二次電池に使用する場合について説明する。
【0058】
(リチウムイオン二次電池用非水電解液)
リチウムイオン二次電池用の非水電解液としては、有機溶媒に支持電解質を溶解した非水電解液が用いられる。支持電解質としては、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に制限はないが、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。これらは、二種以上を併用してもよい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0059】
リチウムイオン二次電池用の非水電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)などのカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
また前記非水電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としては前述の二次電池正極用スラリー中に使用されるビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が挙げられる。
【0060】
リチウムイオン二次電池用の非水電解液中における支持電解質の濃度は、通常1〜30質量%、好ましくは5質量%〜20質量%である。また、支持電解質の種類に応じて、通常0.5〜2.5モル/Lの濃度で用いられる。支持電解質の濃度が低すぎても高すぎてもイオン導電度は低下する傾向にある。
上記以外の非水電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質や前記ポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、LiI、LiNなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0061】
(リチウムイオン二次電池用セパレーター)
リチウムイオン二次電池において、正極、負極及び非水電解液以外の部材としては、セパレーターが挙げられる。
リチウムイオン二次電池用セパレーターとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂や芳香族ポリアミド樹脂を含んでなる微孔膜または不織布;無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート;など公知のものを用いることができる。例えばポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)、及びこれらの混合物あるいは共重合体等の樹脂からなる微多孔膜、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂からなる微多孔膜またはポリオレフィン系の繊維を織ったもの、またはその不織布、絶縁性物質粒子の集合体等が挙げられる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くし電池内の活物質比率を上げて体積あたりの容量を上げることができるため、ポリオレフィン系の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
セパレーターの厚さは、通常0.5〜40μm、好ましくは1〜30μm、更に好ましくは1〜10μmである。この範囲であると電池内でのセパレーターによる抵抗が小さくなり、また電池作成時の作業性に優れる。
【0062】
(リチウムイオン二次電池負極)
リチウムイオン二次電池用負極は、負極活物質及びバインダーを含む負極活物質層が、集電体上に積層されてなる。バインダー及び集電体としては、二次電池用正極で説明したものと同様のものが挙げられる。
【0063】
(リチウムイオン二次電池用負極活物質)
リチウムイオン二次電池負極用の電極活物質(負極活物質)としては、たとえば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料、ポリアセン等の導電性高分子などがあげられる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属やこれらの合金、前記金属又は合金の酸化物や硫酸塩が用いられる。加えて、金属リチウム、Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコン等を使用できる。電極活物質は、機械的改質法により表面に導電付与材を付着させたものも使用できる。負極活物質の粒径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、50%体積累積径が、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmである。
【0064】
負極活物質層中の負極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9質量%、より好ましくは95〜99質量%である。負極活物質層中の負極活物質の含有量を、前記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0065】
リチウムイオン二次電池用負極には、上記成分のほかに、さらに前述の二次電池用正極中に使用される分散剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0066】
(リチウムイオン二次電池負極用バインダー)
リチウムイオン二次電池負極用バインダーとしては特に制限されず公知のものを用いることができる。例えば、前述のリチウムイオン二次電池正極用に使用される、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂や、アクリル系軟質重合体、ジエン系軟質重合体、オレフィン系軟質重合体、ビニル系軟質重合体等の軟質重合体を用いることができる。これらは単独で使用しても、これらを2種以上併用してもよい。
【0067】
集電体としては、前述の二次電池用正極用に使用される集電体を用いることができ、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、リチウムイオン二次電池の負極用としては銅が特に好ましい。
【0068】
リチウムイオン二次電池負極の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。電極厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
【0069】
リチウムイオン二次電池負極は、前述のリチウムイオン二次電池正極用と同様に製造することができる。
【0070】
リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法としては、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【0071】
(実施例)
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価する。
【0072】
<集電体腐食性>
二次電池用正極から、活物質を含む正極活物質層を水中にて超音波により剥離し、集電体の剥離面をX線光電子分光法(XPS)によって分析する。得られた酸素1s軌道のスペクトルをピーク分離し、酸化アルミニウムに起因するピーク及び水酸化アルミニウムに起因するピークに分離し、強度比から(水酸化アルミニウムに起因するピーク面積)×100/(酸素1s軌道に起因するピーク面積)を算出する。これを、集電体腐食性の評価基準とし、以下の基準により判定する。この値がが高い程、腐食が大きく水酸化アルミニウムの生成が多いことを表す。
A:40%未満
B:40%以上50%未満
C:50%以上60%未満
D:60%以上
【0073】
<スラリー安定性:粘性変化率>
得られた正極スラリーを、JIS Z8803:1991に準じて単一円筒形回転粘度計(25℃、回転数=60rpm、スピンドル形状:4)により測定し、測定開始後1分の値を求め、これをスラリー粘度とし、スラリー作製5時間後のスラリー粘度の値をスラリー作製1時間後のスラリー粘度の値で割ったものを粘性変化率とする。粘性変化率が小さいほどスラリー安定性に優れている。
A:10%未満
B:10%以上20%未満
C:20%以上30%未満
D:30%以上
【0074】
<電池特性:出力特性>
得られたフルセルコイン型電池を用いて、25℃で0.1Cの定電流法によって4.3Vまで充電し次いで0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量を求める。その後、0.1Cにて4.3Vまで充電し次いで20Cにて3.0Vまで放電し、20C放電容量を求める。これらの測定をフルセルコイン型電池10セルについて行い、各測定値の平均値を、0.1C放電容量a、20C放電容量bとする。20C放電容量bと0.1C放電容量aとの電気容量の比(b/a(%))で表される容量保持率を求め、これを出力特性の評価基準とし、以下の基準により判定する。この値が高いほど出力特性に優れている。
A:50%以上
B:40%以上50%未満
C:20%以上40%未満
D:1%以上20%未満
E:1%未満
【0075】
(実施例1)
(A)粒子状ポリマーの製造
重合缶Aに、2エチルヘキシルアクリレート10.75部、アクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分攪拌した後に、別の重合缶Bに2エチルヘキシルアクリレート67部、アクリロニトリル19部、メタクリル酸2.0部、メタクリル酸アリル0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて攪拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分攪拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、粒子状ポリマーAの水分散液を得た。得られたバインダーAの、ガラス転移温度は−32℃、数粒子径は0.15μmであった。
得られたバインダーAのpHは、4重量%のNaOH水溶液で調整後、10.5とした。
【0076】
(B)二次電池正極用スラリーおよび二次電池用正極の製造
電極活物質としてNi,Mn,Co複合活物質(LiNiMnCo)100部と、アセチレンブラック(HS−100:電気化学工業)と、前記バインダーAの水分散液2.5部(固形分濃度40%)と、増粘剤としてのエーテル化度が0.8であるカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分濃度2%)と、適量の水とをプラネタリーミキサーにて攪拌し、正極用スラリーを調製した。その後、無水マレイン酸水溶液(固形分濃度10%)を添加してpHが11.5となるように調整し、二電池正極用スラリーを作製した。作製したスラリーを用いて、スラリー安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
上記二次電池正極用スラリーをコンマコーターで厚さ20μmのアルミ箔上に乾燥後の膜厚が90μm程度になるように塗布し、60℃で20分間乾燥後、150℃で2時間加熱処理して電極原反を得た。この電極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.5g/cm、アルミ箔および電極活物質層からなる厚みが75μmに制御された正極極板を作製した。得られた正極極板を用いて、集電体腐食性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(C)電池の作製
前記正極極板を直径16mmの円盤状に切り抜き、この正極の活物質層面側に直径18mm、厚さ25μmの円盤状のポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ、負極として用いる金属リチウム、エキスパンドメタルを順に積層し、これをポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)中に収納した。この容器中に電解液を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約2mmのリチウムイオンコイン電池を作製した。
なお、電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=1:2(20℃での容積比)で混合してなる混合溶媒にLiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させた溶液を用いた。
この電池を用いて出力特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
pH調整剤を、無水マレイン酸から、酢酸に変えたこと以外は実施例1と同様として、二次電池正極用スラリー、二次電池用正極及び二次電池を作製した。そして得られたスラリー安定性、集電体腐食性及び二次電池の出力特性の評価を行った。なお、得られた二次電池正極用スラリーのpHは11.5であった。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3)
正極活物質を、Ni,Mn,Co複合活物質(LiNiMnCo)から、Ni,Mn,Co複合活物質(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)に変えたこと以外は実施例1と同様として、二次電池正極用スラリー、二次電池用正極及び二次電池を作製した。そして得られたスラリー安定性、集電体腐食性及び二次電池の出力特性の評価を行った。なお、得られた二次電池正極用スラリーのpHは10.8であった。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4)
pH調整剤を、無水マレイン酸から、酢酸に変え、更に正極活物質を、Ni,Mn,Co複合活物質(LiNiMnCo)から、Ni,Mn,Co複合活物質(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)に変えたこと以外は実施例1と同様として、二次電池正極用スラリー、二次電池用正極及び二次電池を作製した。そして得られたスラリー安定性、集電体腐食性及び二次電池の出力特性の評価を行った。なお、得られた二次電池正極用スラリーのpHは10.8であった。結果を表1に示す。
【0081】
(比較例1)
pH調整剤を使用しなかったこと以外は実施例1と同様として、二次電池正極用スラリー、二次電池用正極及び二次電池を作製した。そして得られたスラリー安定性、集電体腐食性及び二次電池の出力特性の評価を行った。得られたスラリーのpHは、13.1であった。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例2)
pH調整剤を使用しなかったこと以外は実施例3と同様として、二次電池正極用スラリー、二次電池用正極及び二次電池を作製した。そして得られたスラリー安定性、集電体腐食性及び二次電池の出力特性の評価を行った。得られたスラリーのpHは、12.5であった。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例3)
スラリーのpHを8.0としたこと以外は、実施例1と同様として、二次電池正極用スラリーを作製した。スラリー安定性の評価結果を表1に示す。なお、スラリー安定性が悪かったため、二次電池用正極の作製が困難であり、集電体腐食性及び二次電池の出力特性の評価に至らなかった。
【0084】
(比較例4)
スラリーのpHを8.0としたこと以外は、実施例3と同様として、二次電池正極用スラリーを作製した。スラリー安定性の評価結果を表1に示す。なお、スラリー安定性が悪かったため、二次電池用正極の作製が困難であり、集電体腐食性及び二次電池の出力特性の評価に至らなかった。
【0085】
【表1】

【0086】
表1の結果から、以下のことがわかる。
本発明によれば、実施例に示すように、集電体へ塗布する二次電池正極用スラリーのpHを10以上12以下とすることにより、スラリー安定性に優れ、かつ集電体腐食効果に優れる電極を得ることができ、出力特性に優れる二次電池を得ることができる。実施例の中でも、酢酸でpH調整した実施例1は、乾燥時に揮発し電池内に残存しないため、特に出力特性に優れる。
一方、二次電池正極用スラリーのpHが12を超えるもの(比較例1〜2)は、スラリー安定性に劣り、電極の集電体腐食がみられ、その電極を用いた二次電池は出力特性に劣る。また、二次電池正極用スラリーのpHが10未満のもの(比較例3〜4)は、スラリー安定性に特に劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質、水、水溶性ポリマー、及び粒子状ポリマーを含んでなる二次電池正極用スラリーを、金属からなる集電体上に塗布する工程、並びに塗布された前記二次電池正極用スラリーを乾燥する工程を含み、
前記二次電池正極用スラリーのpHが、10以上12以下であることを特徴とする二次電池用正極の製造方法。
【請求項2】
前記二次電池正極用スラリーが、さらにpH調整剤を含むものである請求項1に記載の二次電池用正極の製造方法。
【請求項3】
前記正極活物質が、ニッケルを含有するものである請求項1又は2に記載された二次電池用正極の製造方法。
【請求項4】
正極活物質、水、水溶性ポリマー、及び粒子状ポリマーを含み、pHが10以上12以下であることを特徴とする二次電池正極用スラリー。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載された製造方法により製造された二次電池用正極、二次電池用負極、及び非水電解液を有する二次電池。

【公開番号】特開2011−76981(P2011−76981A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229713(P2009−229713)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】