説明

二次電池用水素吸蔵合金

【課題】サイクル寿命が永くかつ高放電容量の二次電池用水素吸蔵合金を提供すること。
【解決手段】
(RxMy)・(NiCoMnAl
(ただし、Rは、Laを75%以上含有する希土類混合金属、Mは、Ti、Zr、Hfから選ばれる何れか一種の金属、x+y=1、0.002≦y0.01、3.5<a<4.5、0.6≦b<1.0、c≦0.2、0.2≦d≦0.4、5.1≦(a+b+c+d)≦5.3)で表わされる二次電池用水素吸蔵合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用水素吸蔵合金に関し、特にサイクル寿命が長くかつ高容量の二次電池用水素吸蔵合金について提案する。
【背景技術】
【0002】
現在、二次電池用の負極として用いられている水素吸蔵合金は、ミッシュメタルのようなLa、Ce、Nd、Pr等の希土類金属にニッケルを配合した希土類−ニッケル合金に、AlやMn、Co等の金属を固溶した、いわゆるAB系の合金が主体である。二次電池用水素吸蔵合金として、La、Ce等を含有する混合希土類金属を配合した希土類−ニッケル系のAB系の合金が賞用される理由は、Ti−Zr系のいわゆるAB系合金に比べると、サイクル寿命が永いという特性を有するためである。
【0003】
このような希土混合系合金において、Laは、電池容量を高めるという特性を有する。従って、混合希土類金属中には、La量を多めに配合することが好ましいが、あまり多いと、電池のサイクル寿命、すなわち繰り返し充放電回数が少なくなってしまうという欠点があった。このことから、従来はCeリッチの合金が用いられたり、La主体の合金であっても、La量:60%以下の合金が用いられてきた。
【0004】
また、上記希土類元素含有水素吸蔵合金には、その他電池容量およびサイクル寿命を高めるためにAl、Mn、Coのような金属を固溶・添加していた。例えば、Coは、サイクル寿命をさらに長くする目的で、原子比で0.6〜1.5程度添加していた。また、Mnについては、La量を抑制したために低下する容量を補う効果があり、原子比で0.2〜0.6程度を添加していた。
【0005】
なお、これらの添加元素は、AB系合金のうちのBサイト(Niサイト)に添加されるものがほとんどである。一方、Aサイト(LaまたはLaを含む混合希土類金属サイト)に添加する元素としては、特許文献1や特許文献2に記載されたZr、Mo等の元素が知られている。
【0006】
上記特許文献1に記載された技術は、ZrをLaに対し、原子比で0.2〜0.3を添加することによって、水素を吸蔵しないNi−Zrの網目状の析出相を合金中に析出させ、該析出相によって、水素吸蔵・放出時に起こるクラックの拡大を阻止するという技術である。また、上記特許文献2に記載された技術は、Laを70%以上含有する水素吸蔵合金に、ZrまたはMoを原子比で0.02〜0.03添加した合金であり、この合金溶製後に急冷凝固させることで、Zr−Co−Ni−Alのような金属間化合物を析出させ、合金の偏析を防止し、耐食性を向上させることによって、容量が大きいままで長サイクル寿命の合金を得ようとする技術である。
【特許文献1】特開平04−328256号公報
【特許文献2】特開平05−222474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した各従来技術(特許文献1,特許文献2)のうち、例えば、Laサイトに元素を添加して容量とサイクル寿命を高めるという技術は、同公報に記載されているように添加元素が第2相として析出相を形成し、この析出相がアルカリによる腐食を受け、電池性能が劣化する、という課題を残していた。
【0008】
本発明の主たる目的は、サイクル寿命が永くかつ高放電容量の二次電池用水素吸蔵合金を提供することにある。また、本発明の他の目的は、水素吸蔵・放出時の割れが少なく、かつ耐アルカリ性に優れる二次電池用水素吸蔵合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的の実現に向けて鋭意研究の結果、発明者らは、合金組成の最適バランスと、第2相を形成しない適切な添加元素の配合という合金設計を見いだし、本発明を完成した。すなわち、本発明は、一般式が、(RxMy)・(NiCoMnAl
(ただし、Rは、Laを75%以上含有する希土類混合金属、Mは、Ti、Zr、Hfから選ばれる何れか一種の金属、x+y=1、0.002≦y0.01、3.5<a<4.5、0.6≦b<1.0、c≦0.2、0.2≦d≦0.4、5.1≦(a+b+c+d)≦5.3)で表わされる二次電池用水素吸蔵合金である。
なお、本発明にかかる水素吸蔵合金は、マイクロビッカース硬度を、400以上にすることにより、水素吸蔵・放出時の割れが少なく、アルカリに対する腐食の小さいものが得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水素吸蔵合金は、放電容量が大きく、かつサイクル寿命が永く、二次電池用負極として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の水素吸蔵合金設計思想の特徴は、第1に、該合金中のLa配合比率を高めることにより、高容量化を実現することにある。第2は、Laサイトに添加固溶させるTi、Zr、Hfのいずれか1種の添加元素の作用により、合金の硬度を向上させてサイクル寿命を高めることにある。本発明は、このような考え方に立脚して開発したものであり、前者の考え方に対しては、La量を混合希土類金属(R)中に占めるLaの量にして75%以上とする。これによって、放電容量を可能な限り高め、La−Ni系の合金の理論放電容量に限りなく近づけることができる。
【0012】
一方、後者の考え方に立脚する構成として、上記のLaサイトに添加する元素M(Ti、Zr、Hfの何れか1種)の量は、Laと固溶することを前提とし、かつ第2相を析出させない量、即ち、原子比で0.002以上0.01未満の極微量とした。なお、Mの添加量を、原子比で0.002以上0.01未満とした理由は、0.002未満では、この合金のマイクロビッカース硬度を400以上とすることができず、そのために水素吸蔵・放出時、すなわち、充放電時に合金が割れやすくなり、サイクル寿命が低下するからであり、一方、0.01以上では、M元素が、合金中に第2相として析出し、該第2相がアルカリによる腐食を受けるため、耐食性の低下を招いてサイクル寿命の低下につながるからである。
【0013】
また、本発明のNiサイトに添加する元素は、Laサイトに添加する上記元素Mとのバランスを考慮して、Al、Mn、Coの3元素とした。特に、Mnの量cは、この組み合わせの合金では、このMnが多すぎると、容量が大きくなる反面、耐食性の低下を招くので、原子比で0.2以下とした。Coの量bについては、添加量が多ければ多いほど電池寿命、すなわち、サイクル寿命を長くできるが、本発明の合金系では、原子比で1以上添加・配合してもそれほどの向上がみられず、また、0.6以下では寿命が短くなるので、0.6以上で、かつ1.0未満とした。また、Alの量dについては、本発明の合金の耐食性を改善しサイクル寿命を高める効果があるが、添加元素Mとの関係で、添加量が多すぎるとM元素との第2相を作りやすくなり、また、少なすぎると耐食性改善に効果がないので、原子比で0.2以上で、かつ、0.4以下とした。また、Niの量aは、原子比で3.5超え4.5未満とする。また、本発明において、上記Ni、Co、MnおよびAlの添加量の原子比であるa,b,cおよびdの合計は、いわゆるAB系合金としての特性を維持するため、CaCu型の結晶構造を維持し、それ以外の構造を有する偏析相の出現を極力防止するため、5.1〜5.3の範囲とする必要がある
【0014】
次に、本発明の合金においては、マイクロビッカース硬度が400以上を示す特性が要求される。この理由は、水素吸蔵・放出時の割れを減少して、サイクル寿命を長くするために必要である。
【0015】
なお、本発明の合金を溶製後は、鋳込み時に第2相を形成しないような鋳込み方法または、焼鈍処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0016】
Rとして、ランタンリッチミッシュメタルと純ランタンメタル(La 100%)を用い、これに金属Hf、金属Zr或いは金属Tiの内の一種の金属と、金属Ni、金属Co、金属Mn、金属Alの所定量を高周波溶解炉で、アルゴン雰囲気下で加熱溶解して表1に示す組成の合金を作製し、得られた合金を、1000℃×10時間で熱処理を行い、不活性ガス中で 100ミクロン以下に粉砕した。こうして得られた合金粉末0.5gと金属Ni粉末0.12gおよびPTFE 0.03gを混合し、加圧成形して試験用の負極を得た。
【0017】
上記負極の性能試験を行うべく、該負極と市販の焼結式ニッケル極と組み合わせ、セパレータとしてポリイミド不織布を用いて、8NKOH電解液中で電池評価試験を行った。この試験は、25℃で60mA/gの電気量での6時間の充電と、60mA/gの電流で端子電圧0.8Vまでの放電を繰り返す充・放電サイクルで行い、負極規制の放電容量の変化を調べたものである。得られた、飽和放電容量、サイクル特性(10サイクル目の容量と300サイクル目の容量の比)および合金の硬度を表1に示した。なお、同様の方法で作製した従来合金の電池特性試験の結果を比較例として表1に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の合金は、飽和容量が300mAh/g以上で、容量維持率90%と高いことが判った。従って、本発明の合金は、電池寿命が長く、かつ、サイクル特性に優れていることが判る。また、上記の結果から、本発明合金は従来合金と比較すると硬度が大きく、それはサイクル特性とも比例していて、両者の間には相関があることが判った。従って、本発明合金によれば、硬度を大きくすることにより、水素吸蔵・放出時の割れが少なくかつ添加元素の均一混合による耐アルカリ性の向上によるサイクル寿命の改善が図れることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式が、(RxMy)・(NiCoMnAl
(ただし、Rは、Laを75%以上含有する希土類混合金属、Mは、Ti、Zr、Hfから選ばれる何れか一種の金属、x+y=1、0.002≦y0.01、3.5<a<4.5、0.6≦b<1.0、c≦0.2、0.2≦d≦0.4、5.1≦(a+b+c+d)≦5.3)で表わされる二次電池用水素吸蔵合金。
【請求項2】
上記水素吸蔵合金のマイクロビッカース硬度が、400以上であることを特徴とする請求項1記載の二次電池用水素吸蔵合金。

【公開番号】特開2008−210809(P2008−210809A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59341(P2008−59341)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【分割の表示】特願平9−66822の分割
【原出願日】平成9年3月19日(1997.3.19)
【出願人】(000231372)日本重化学工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】