説明

二次電池耐熱保護層用バインダーおよび耐熱保護層用組成物

【課題】 フィラーや活物質層などとの結着力、および耐電解液性に優れた二次電池耐熱保護層用バインダーを含有し、強固な結着能力を有した二次電池耐熱保護層用組成物を得る。その結果として短絡防止効果に優れた二次電池耐熱保護層を形成することができる。
【解決手段】 フィラー、バインダーを含有する二次電池耐熱保護層において、該バインダーがカルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスであることを特徴とする二次電池耐熱保護層用バインダー及び二次電池耐熱保護層用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池耐熱保護層用バインダーおよび耐熱保護層用組成物に関するものである。更に詳しくは、耐熱保護層フィラーとの結着能力に優れた二次電池耐熱保護層用バインダーおよび強固な結着能力を有した二次電池耐熱保護層用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、軽量でエネルギー密度が大きいことから、小型電子機器を初めとして、自動車あるいは住宅の電源としての活用が検討されており、安全性の更なる向上が要望されている。従来から、正負極間の短絡防止を目的に、無機フィラーを主剤とした保護層を電池内部に設けることが提案されている。
例えば、特開平9−147916号公報(特許文献1)では、無機フィラーと水溶性ポリマーから構成される保護層を電極上に設けることで、安全性に優れた非水二次電池が得られることが提案されている。また、WO2009−096528号公報(特許文献2)では、無機フィラーおよびポリマーバインダーとして特定重合度の水溶性高分子および粒子状の非水溶性高分子を用いた耐熱保護層を電池内部に設けることによる短絡防止が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−147916号公報
【0004】
【特許文献2】WO2009−096528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の水溶性ポリマーや、特許文献2に記載のポリマーバインダーは、フィラー同士、およびフィラーと活物質層との結着力が不十分であり、耐熱保護層としての機能が不十分である。
そこで、本発明の目的は、フィラーや活物質層などとの結着力に優れた二次電池耐熱保護層用バインダーおよび耐熱保護層用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、フィラーとバインダーを含有する二次電池耐熱保護層において、該バインダーが、カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の二次電池耐熱保護層用バインダーは、カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスであることを特徴としているため、フィラーや活物質層などとの結着力、および耐電解液性に優れており、その結果として短絡防止効果に優れた耐熱保護層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明におけるカルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスは、脂肪族共役ジエン系単量体とエチレン系不飽和カルボン酸単量体を必須成分とし、任意成分として、これらと共重合可能な他の単量体を共重合して得られるものである。
【0009】
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特に1,3−ブタジエンが好ましい。
脂肪族共役ジエン系単量体は、5〜85重量%(全単量体の合計は100重量%)であることが好ましく、さらに好ましくは、10〜70重量%である。5重量%未満であると、バインダーとして機能せず結着力に劣る傾向にあり、85重量%を超えると、共重合体ラテックスの重合安定性が劣り凝集物が増えるなど生産性が劣る傾向があり、好ましくない。
【0010】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸(無水物)等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0011】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体は0.1〜20重量%(全単量体の合計は100重量%)であることが好ましい。エチレン系不飽和カルボン酸単量体が0.1重量%未満ではフィラーの結着性が劣る傾向にあり、耐熱保護層の剥離が起こり、短絡防止機能を示さなくなるため、安全上問題である。また、20重量%を超えるとラテックスの粘度が高くなり、共重合体ラテックス自身の取り扱い上の問題を生じる傾向にあるため好ましくない。さらに好ましくは0.5〜10重量%である。
【0012】
これらと共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド系単量体等が挙げられ、これらは、1種または2種以上用いることができる。中でも、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体を用いることで、フィラーや活物質層などとの結着力と、耐電解液性のバランスが良好となるため、これらを組み合わせることが好ましい。
【0013】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にスチレンが好ましい。
【0014】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリロニトリル、メタクリロニトリルが好ましい。
【0015】
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメチルメタクリレート、ブチルアクリレートが好ましい。
【0016】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレートが好ましい。
【0017】
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にアクリルアミド、メタクリルアミドが好ましい。
【0018】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0019】
脂肪族共役ジエン系単量体とエチレン性不飽和カルボン酸単量体の必須成分と共重合可能な他の単量体は、0〜94.9重量%が好ましいが、さらに好ましくは5〜89.5重量%(全単量体の合計は100重量%)である。特に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体および/または不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体の合計は、5〜85重量%、さらに好ましくは10〜75重量%(全単量体の合計は100重量%)の範囲であることが好ましい。この範囲内にすることで、フィラーや活物質層などとの結着力と耐電解液性のバランスがより良好となる。
【0020】
上述の単量体を乳化重合してカルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスを製造するに際しては、常用の乳化剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、酸化還元触媒、炭化水素系溶剤、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0021】
乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が好ましい。
【0022】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイドの油溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0023】
還元剤としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類及びその塩、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸、エリソルビン酸、が好ましい。
【0024】
連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテルなどの他、ターピノレン、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマーが好ましい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、単量体100重量部に対して0〜5重量部にて使用される。
【0025】
また、重合に際してペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素を使用しても良い。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0026】
さらに、カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを適宜添加することができる。
【0027】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックス重合方法としては、一段重合、二段重合、多段階重合、シード重合法等何れを採用してもよい。また、重合における各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード法の何れも採用することができる。
【0028】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスのガラス転移温度(Tg)には特に制限はないが、−60〜70℃であることが好ましい。ガラス転移温度が−60℃未満では、耐電解液性に劣る傾向があり、好ましくない。ガラス転移温度が70℃を超えると、フィラーとの結着性が劣ることで耐熱保護層の剥離が発生し、短絡防止機能を示さなくなる傾向があるため好ましくない。
【0029】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスにおける重合体粒子の数平均粒子径には特に制限はないが、50〜250nmであることが好ましい。数平均粒子径が50nm未満では、ラテックスの粘度が高くなり、共重合体ラテックス自身の取り扱い上の問題を生じるため好ましくない。数平均粒子径が250nmを超えると、フィラーとの結着性が劣ることで耐熱保護層の剥離が発生し、短絡防止機能を示さなくなる傾向があるため好ましくない。
【0030】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスにおける重合体のトルエン不溶分(ゲル含有量)には特に制限はないが、20重量%以上、さらに40〜99重量%、特に60〜98重量%であることが好ましい。トルエン不溶分が20重量%未満では、耐電解液性に劣る傾向があり、好ましくない。
【0031】
また、本発明の二次電池耐熱保護層用バインダーは、耐熱保護層中において、フィラー粒子同士、フィラー粒子と正極活物質塗工層表面、フィラー粒子と負極活物質塗工層表面、または、フィラー粒子とセパレータ表面とを結着させるバインダーとして機能する。
具体的には、カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスを、フィラーに配合することにより、二次電池耐熱保護層用組成物が調製される。
【0032】
耐熱保護層の主剤となるフィラーとしては、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、二酸化チタン、タルクなどの無機物やアラミドなどの有機物が挙げられ、特に無機フィラーである酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましい。酸化アルミニウム(アルミナ)の粒子径(体積基準D50)には、特に制限はないが、0.1〜10μmであることが、好ましい。
【0033】
本発明の二次電池耐熱保護層用組成物(第二発明)とは、フィラー、バインダーを含有する二次電池耐熱保護層において、該フィラーが無機フィラーであり、かつバインダーがカルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスであることを特徴とする二次電池耐熱保護層用組成物である。二次電池耐熱保護層用組成物を構成するフィラーおよびバインダーの配合比率には特に制限はないが、フィラー100重量部に対して二次電池耐熱保護層用バインダーを、固形分換算で0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部となるように配合する。
フィラー100重量部に対するバインダー(固形分)が、0.1重量部未満では、良好な結着力が得られず、耐熱保護層の剥離が起こり、短絡防止機能を示さなくなる可能性が高く、10重量部を超えると、二次電池として組み立てたときの体積エネルギー密度に不利となるため、好ましくない。
【0034】
二次電池耐熱保護層用組成物には、フィラーならびにバインダー以外に、必要により、水溶性高分子、分散剤、安定化剤などの各種添加剤を添加することができる。水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられ、分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダなどが挙げられ、安定化剤としては、例えば、ノニオン性、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0035】
二次電池耐熱保護層用組成物に水溶性高分子を添加する場合には、例えば、フィラー100重量部に対して固形分換算で、0.05〜10重量部、好ましくは、0.1〜5重量部の割合で配合する。
【0036】
本発明の二次電池耐熱保護層用組成物は、正極活物質層表面上、負極活物質層表面上、セパレータ表面上の、少なくともいずれかに塗布、乾燥することにより、二次電池耐熱保護層として設けられる。
【0037】
また、本発明の二次電池耐熱保護層用組成物を電極またはセパレータに塗布する方法としては、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法など任意のコーターヘッドを用いることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。乾燥温度は、50℃以上で行うことが好ましい。
【0038】
本発明の二次電池耐熱保護層用バインダーおよび組成物を用いた電池を製造する際に使用される集電体、セパレータ、電解液、端子、絶縁体、電池容器等については、既存のものが特に制限無く使用可能である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を変更しない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0040】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックス中の重合体のガラス転移温度(Tg)の測定
重合体ラテックスをガラス板上に流延し70℃で4時間乾燥してフィルムを作製し、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製 DSC6200)を用いて昇温速度10℃/minにて測定した。
【0041】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックス中の重合体粒子の数平均粒子径(μm)の測定
数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。測定に際しては、大塚電子株式会社製FPAR−1000を使用した。
【0042】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックス中の重合体のトルエン不溶分(ゲル含有量)の測定
温度80℃の雰囲気にてラテックスフィルムを作成した。その後ラテックスフィルムを約1g秤量し、これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させた。その後、これを300メッシュの金網で濾過し、金網に捕捉されたトルエン不溶部を乾燥後、秤量し、下記式より重量%で算出した。
ゲル含有量(%)=100×(トルエン不溶部重量)/(溶解前のフィルム重量)
【0043】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスA,E,F,G,H,K,Mの作製
耐圧性の重合反応器に、窒素雰囲気下で、表1および2の「添加1」に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて70℃に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から2時間後に表1および2の「添加2」に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を添加し、重合を継続した。重合開始から8時間以降に、重合転化率が97%を超えたことを確認して、重合停止剤を添加し、内温を35℃以下に冷却後、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.5に調整した。その後に、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表1および2に示すガラス転移温度、数平均粒子径、トルエン不溶分の重合体ラテックスA,E,F,G,H,K,Mを得た。

【0044】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスB,I,Jの作製
耐圧性の重合反応器に、窒素雰囲気下で、表1および2の「添加1」に示す各単量体、α-メチルスチレンダイマー、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸第一鉄、純水を加えて35℃に昇温した後に、クメンハイドロパーオキサイド、L−アスコルビン酸を加えて重合を開始した。重合開始から20時間以降に、重合転化率が97%を超えたことを確認して、重合停止剤を添加し、内温を35℃以下に冷却後、アンモニア水溶液でpHを7.5に調整した。その後に、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表1および2に示すガラス転移温度、数平均粒子径、トルエン不溶分の重合体ラテックスB,I,Jを得た。
【0045】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスCの作製
耐圧性の重合反応器に、窒素雰囲気下で、表1の「添加1」に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて60℃に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から3時間後に温度を80℃に昇温し、表1の「添加2」に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、純水を添加し、重合を継続した。重合開始から7時間以降に、重合転化率が97%を超えたことを確認して、重合停止剤を添加し、内温を35℃以下に冷却後、水酸化カリウム水溶液でpHを7.5に調整した。その後に、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表1に示すガラス転移温度、数平均粒子径、トルエン不溶分の重合体ラテックスCを得た。
【0046】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスDの作製
耐圧性の重合反応器に、窒素雰囲気下で、表1の「添加1」に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸第一鉄、純水を加えて40℃に昇温した後に、クメンハイドロパーオキサイド、L−アスコルビン酸を加えて重合を開始した。重合開始から15時間以降に、重合転化率が97%を超えたことを確認して、重合停止剤を添加し、内温を35℃以下に冷却後、水酸化カリウム水溶液及びアンモニア水溶液でpHを7.5に調整した。その後に、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表1に示すガラス転移温度、数平均粒子径、トルエン不溶分の重合体ラテックスDを得た。
【0047】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスLの作製
耐圧性の重合反応器に、窒素雰囲気下で、表2の「添加1」に示す各単量体、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて60℃に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から2時間後に表2の「添加2」に示す各単量体、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を添加し、重合を継続した。重合開始から8時間以降に、重合転化率が97%を超えたことを確認して、重合停止剤を添加し、内温を35℃以下に冷却後、アンモニア水溶液でpHを7.5に調整した。その後に、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表2に示すガラス転移温度、数平均粒子径、トルエン不溶分の重合体ラテックスLを得た。

【0048】
耐熱保護層用組成物の作成
フィラーとしてα−アルミナ「AKP−3000(住友化学株式会社製、平均粒子径(体積基準D50)0.4〜0.6μm)」を100部、表3に示す水溶性高分子を固形分で1部、バインダーとして重合体ラテックスA〜Mを固形分で3部とを全固形分が60%となるように適量の水を加えて、混合分散し、耐熱保護層用組成物1〜16を調整した。なお、耐熱保護層用組成物17は、水溶性高分子を3部配合したこと、バインダーとして重合体ラテックスAを含まないこと以外は、組成物2と同様にして調整した。
【0049】
耐熱保護層を有した負極の作成
負極活物質として天然黒鉛を100部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分で1部、結着剤として共重合体ラテックス「AL−1001(日本エイアンドエル株式会社製)」を固形分で2部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、負極用組成物を調製した。得られたスラリーを集電体として厚さ20μmの銅箔の両面に塗布乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μmの負極を得た。
こうして得られた両面の活物質塗工層表面上に、上記の耐熱保護層用組成物1〜17を塗布乾燥し、耐熱保護層の厚みが10μmの負極を得た。
【0050】
耐熱保護層を有した正極の作成
正極活物質としてLiCoOを100部、導電剤としてアセチレンブラックを5部、結着剤として共重合体ラテックス「AL−1001(日本エイアンドエル株式会社製)」を固形分で2部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、正極用組成物を調製した。得られたスラリーを集電体として厚さ20μmのアルニミウム箔の両面に塗布乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μmの正極を得た。
こうして得られた両面の活物質塗工層表面上に、上記の耐熱保護層用組成物1〜17を塗布乾燥し、耐熱保護層の厚みが10μmの正極を得た。
【0051】
耐熱保護層を有したセパレータの作成
厚みが20μmのポリエチレン製多孔膜である市販のセパレータ両面の表面上に、上記の耐熱保護層用組成物1〜17を塗布乾燥し、耐熱保護層の厚みが10μmの耐熱保護層を有するセパレータを得た。
【0052】
耐熱保護層の結着力の測定
各実施例および各比較例の正負極電極シートの表面、および耐熱保護層を有したセパレータ表面上に、ナイフを用いて、耐熱保護層から活物質塗工層表面、またはセパレータ表面に達する深さまでの切り込みを、2mm間隔で縦横それぞれ6本入れ、25個(5個×5個)のマス目を有する碁盤目を形成した。この碁盤目に粘着テープを貼着して直ちに引き剥がし、フィラーの脱落の程度を目視評価した。結果を表4、5および6に示す。
◎:剥離なし。
○:1〜3個のマス目が剥離。
△:4〜10個のマス目が剥離。
×:11個以上のマス目が剥離。
【0053】
耐熱保護層の耐電解液性の測定
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した溶媒にLiPF6を1mol/Lで溶解した電解液に、各実施例および各比較例の耐熱保護層を有した正・負極電極シートまたはセパレータより100cmの試験片を切り出し、48時間浸漬させる。試験片を取り出した後、120℃で真空乾燥を行った後に秤量し、下記の式により、溶出減量を測定した。結果を表4、5および6に示す。
溶出減量(%)=100×{(電解液浸漬前の重量)−(電解液浸漬後の重量)}/(電解液浸漬前の重量)
◎:溶出減量が0.01%未満。
○:溶出減量が0.01%以上、0.05%未満。
△:溶出減量が0.05%以上、0.1%未満。
×:溶出減量が0.1%以上。
【0054】
表3記載の耐熱保護層用組成物を塗工した耐熱保護層の物性評価結果を示す。
負極に塗工した場合の物性評価結果を表4に、正極に塗工した場合の結果を表5に、セパレータに塗工した場合の結果を表6に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
上記の通り、本発明の二次電池耐熱保護層用バインダーは、フィラーとの結着力および耐電解液性に優れる二次電池耐熱保護装用組成物を得ることができ、当該組成物を用いることにより、塗工欠陥の少ない耐熱保護層を得ることができる。その結果として、安全性の良好な電池を得ることが可能である。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラー、バインダーを含有する二次電池耐熱保護層において、該バインダーがカルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスであることを特徴とする二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項2】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体が、カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスを構成する全単量体100重量%あたり0.1〜20重量%含有することを特徴とする請求項1記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項3】
脂肪族共役ジエン系単量体が、カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスを構成する全単量体100重量%あたり5〜85重量%含有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項4】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックス中の重合体粒子の数平均粒子径が、50〜250nmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項5】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックス中の重合体のトルエン不溶分が、20重量%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項6】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスの重合体が、1)脂肪族共役ジエン系単量体及び2)エチレン性不飽和カルボン酸単量体と、3)芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる群より選ばれる1種の単量体を共重合して得られることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項7】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスの重合体が、1)脂肪族共役ジエン系単量体及び2)エチレン性不飽和カルボン酸単量体と、3)芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体からなる群より選ばれる2種の単量体を共重合して得られることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項8】
カルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスの重合体が、1)脂肪族共役ジエン系単量体、2)エチレン性不飽和カルボン酸単量体、3)芳香族ビニル系単量体、4)シアン化ビニル系単量体、5)不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体を共重合して得られることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項9】
フィラー、バインダーを含有する二次電池耐熱保護層において、該フィラーが無機フィラーであり、かつ該バインダーがカルボキシ変性ジエン系重合体ラテックスであることを特徴とする二次電池耐熱保護層用組成物。
【請求項10】
無機フィラーが、アルミナであることを特徴とする請求項9に記載の二次電池耐熱保護層用組成物。
【請求項11】
アルミナの平均粒子径(体積基準D50)が、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項10に記載の二次電池耐熱保護層用組成物。
【請求項12】
フィラーが、無機フィラーであることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項13】
無機フィラーが、アルミナであることを特徴とする請求項12に記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項14】
アルミナの平均粒子径(体積基準D50)が、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項13に記載の二次電池耐熱保護層用バインダー。
【請求項15】
フィラーが、無機フィラーであり、バインダーが請求項1〜8の何れかに記載の二次電池耐熱保護層用バインダーであることを特徴とする二次電池耐熱保護層用組成物。
【請求項16】
無機フィラーが、アルミナであることを特徴とする請求項15に記載の二次電池耐熱保護層用組成物。
【請求項17】
アルミナの平均粒子径(体積基準D50)が、0.1〜10μmであることを特徴とする請求項16に記載の二次電池耐熱保護層用組成物。


【公開番号】特開2011−165430(P2011−165430A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25442(P2010−25442)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】