説明

二次電池

正極と、負極と、正極および負極よりなる群から選ばれる少なくとも1つの電極の表面に接着された多孔質電子絶縁層と、電解質とを具備する二次電池であって、多孔質電子絶縁層は、微粒子フィラーおよび樹脂結着剤を含み、微粒子フィラーは、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子を含む。一次粒子間にはネックが形成されていることが好ましい。多孔質電子絶縁層は、高い多孔度を有するため、実用上、特に重要とされる低温特性に優れ、大電流放電が可能な二次電池が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関し、詳しくは、電極表面に接着された多孔質電子絶縁層の改良による二次電池の放電特性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、一般に、正極と、負極と、これらの間に介在するシート状セパレータとを具備する。シート状セパレータは、正極と負極とを電子的に絶縁し、さらに電解液を保持する役目を果たす。例えば、従来のリチウムイオン二次電池には、ポリオレフィン製の微多孔膜がシート状セパレータとして多用されている。また、ポリオレフィン樹脂と無機粉体からなるシート状セパレータ等も提案されている(特許文献1参照)。これらのシート状セパレータは、通常、押出成形等の成形方法で得られた樹脂シートを延伸加工して製造される。
【0003】
近年、二次電池の品質向上のために、電極表面に多孔質電子絶縁層を接着することが提案されている(特許文献1参照)。多孔質電子絶縁層は、微粒子フィラーおよび樹脂結着剤を含むスラリーを、電極表面に塗布し、塗布されたスラリーを熱風で乾燥させることで、電極表面に形成される。多孔質電子絶縁層は、従来のシート状セパレータの代替物として用いられる場合もあるが、従来のシート状セパレータと併用される場合もある。
【0004】
微粒子フィラーおよび樹脂結着剤を含むスラリーは、一般に微粒子フィラーと樹脂結着剤とを液状成分と混合し、ビーズミル等の分散装置で微粒子フィラーを液状成分中に均一に分散させることにより調製される。従来の微粒子フィラーは、図3に模式的に示すように、主に球状もしくはほぼ球状の一次粒子31からなり、複数個の一次粒子31が弱いファンデアワールス力により集合して、凝集粒子30を形成している。
【0005】
従来は、多孔質電子絶縁層の厚さと空隙率(多孔度)とを安定させる観点から、ビーズミル等の分散装置により、可能な限り一次粒子の集合を解き、独立した一次粒子を液状成分中に均一に分散させる努力がなされている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平10−50287号公報
【特許文献2】特許第3371301号公報
【特許文献3】特開平10−106530号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
互いに独立した球状もしくはほぼ球状の一次粒子が均一に分散したスラリーを、電極表面に塗布し、熱風で乾燥させて、多孔質電子絶縁層を形成した場合、電池の製造時における短絡不良等は改善される。しかし、互いに独立した一次粒子は、多孔質電子絶縁層中に、高密度に充填されやすく、多孔質電子絶縁層の空隙率が低くなりやすい。その結果、二次電池の高率充放電特性や低温環境下での充放電特性が不十分になりやすいという問題が生じる。
【0007】
一方、例えば携帯電話やノートパソコンの電源には、ある程度の高率充放電特性や低温環境での充放電特性が要求されるため、従来の二次電池をこれらの機器の電源として適用することが困難な場合が生じる。特に0℃以下の低度環境下では、従来の二次電池の充放電特性が著しく低下する可能性がある。
【0008】
本発明は、上記を鑑み、電池の安全性を向上させるための多孔質電子絶縁層が電極表面に接着された二次電池において、高率充放電特性や低温環境下での充放電特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、正極と、負極と、正極および負極よりなる群から選ばれる少なくとも1つの電極の表面に接着された多孔質電子絶縁層と、電解質とを具備する二次電池であって、多孔質電子絶縁層は、微粒子フィラーおよび樹脂結着剤を含み、微粒子フィラーは、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子を含む二次電池に関する。ここで、「不定形」とは、球状もしくは鶏卵状またはこれらに類似する形状とは異なり、一次粒子に由来する瘤、隆起もしくは膨らみを有する形状であり、例えば樹枝、ぶどうの房もしくは珊瑚のような形状を言う。
【0010】
不定形粒子を構成する少なくとも一対の互いに連結固着する一次粒子間には、ネックが形成されていることが好ましい。すなわち、不定形粒子は、加熱処理等により、複数個の一次粒子が部分的に溶融して固着することにより形成される。ネックは、一次粒子同士が拡散結合する際に形成される。ただし、拡散結合が十分に進行して、ネックが明確に判別できない粒子であっても、不定形粒子として用いることができる。
【0011】
不定形粒子の平均粒径は、一次粒子の平均粒径の2倍以上であり、かつ10μm以下であることが好ましく、一次粒子の平均粒径の3倍以上であり、かつ5μm以下であることが更に好ましい。また、一次粒子の平均粒径は、0.05〜1μmであることが好ましい。
【0012】
不定形粒子は、金属酸化物からなることが好ましい。この場合、微粒子フィラーは、さらにポリエチレン微粒子等の樹脂微粒子を含むことができる。
多孔質電子絶縁層に含まれる樹脂結着剤は、ポリアクリル酸誘導体を含むことが好ましい。
【0013】
本発明をリチウムイオン二次電池に適用する場合、正極は、複合リチウム酸化物を含み、負極は、リチウムを充放電可能な材料を含むことが好ましい。また、電解質には、非水溶媒およびそれに溶解するリチウム塩からなる非水電解液を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の二次電池は、正極および負極のいずれからも独立したシート状セパレータを含むことができる。シート状セパレータには、ポリオレフィン製の微多孔膜を始め、従来のシート状セパレータを特に限定なく用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る不定形粒子においては、複数個の一次粒子が連結固着しているため、ファンディアワールス力により複数個の一次粒子が集合した凝集粒子とは異なり、容易に独立した一次粒子に分離することがない。このような不定形粒子を用いることにより、多孔質電子絶縁層において、微粒子フィラーが高密度に充填されることが回避される。よって、従来に比べて格段に高い空隙率を有する多孔質電子絶縁層を容易に形成することが可能となり、二次電池の高率充放電特性や低温環境下での充放電特性を大幅に改善することが可能である。
【0016】
複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子は、複雑な立体構造を有するため、多孔質電子絶縁層を形成する際に、不定形粒子同士が互いに作用し合い、微粒子フィラーの高密度充填が防止されるものと考えられる。
【0017】
複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子は、これを液状成分に分散させてスラリーを調製する工程において、分散装置による強いせん断力を受けても、その形状を高い確率で維持することができる。そのため、安定して高い空隙率を有する多孔質電子絶縁層を形成することができる。
【0018】
また、本発明によれば、高率充放電特性や低温環境下での充放電特性に優れ、かつ安全性にも優れた二次電池を、低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子の模式図である。
【図2】本発明の一実施例に係る多孔質電子絶縁層の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】従来の微粒子フィラーの模式図である。
【図4】本発明の一比較例に係る多孔質電子絶縁層のSEM写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の二次電池は、正極と、負極と、正極および負極よりなる群から選ばれる少なくとも1つの電極の表面に接着された多孔質電子絶縁層と、電解質とを具備する。本発明は、リチウムイオン二次電池に適用することが好ましいが、他の様々な二次電池、例えばアルカリ蓄電池にも適用可能である。
【0021】
本発明は、多孔質電子絶縁層が、正極と負極との間に介在するように配置される場合を全て含む。すなわち、本発明は、多孔質電子絶縁層が、正極表面だけに接着されている場合と、負極表面だけに接着されている場合と、正極表面と負極表面の両方に接着されている場合とを含む。また、本発明は、多孔質電子絶縁層が、正極の片面だけに接着されている場合と、正極の両面に接着されている場合と、負極の片面だけに接着されている場合と、負極の両面に接着されている場合とを含む。
【0022】
多孔質電子絶縁層は、微粒子フィラーおよび樹脂結着剤を含み、微粒子フィラーは、複数個(例えば2〜10個程度、好ましくは3〜5個)の一次粒子が連結固着した不定形粒子を含む。このような不定形粒子の一例を図1に模式的に示す。不定形粒子10は、複数個の連結固着した一次粒子11からなり、一対の互いに連結固着する一次粒子間には、ネック12が形成されている。なお、一次粒子は、通常、単一の結晶からなるため、不定形粒子10は、必ず多結晶粒子となる。すなわち、不定形粒子は、多結晶粒子からなり、その多結晶粒子は、拡散結合した複数個の一次粒子からなる。
【0023】
複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子は、例えば、従来の微粒子フィラー、すなわち互いに独立した一次粒子や一次粒子がファンデアワールス力で集合した凝集粒子を含む微粒子フィラーを、加熱処理して、一次粒子を部分的に溶融させ、複数個の一次粒子を固着させることにより得ることができる。このような方法で得られる不定形粒子は、せん断力が印加されても、独立した一次粒子に分離されにくい。
【0024】
なお、従来の微粒子フィラーに機械的せん断力を印加しても、複数個の一次粒子を連結固着させることは困難である。また、予め結着剤を用いて一次粒子を凝集させても、スラリーを調製する際に、一次粒子同士が乖離してしまい、独立した一次粒子に戻ることが確認されている。
【0025】
多孔質電子絶縁層は、従来のシート状セパレータと類似の作用も有するが、その構造は従来のシート状セパレータと大きく異なる。多孔質電子絶縁層は、樹脂シートを延伸して得られる微多孔膜等とは異なり、微粒子フィラーの粒子同士を樹脂結着剤で結合した構造を有する。よって、多孔質電子絶縁層の面方向における引張強度は、シート状セパレータよりも低くなる。ただし、多孔質電子絶縁層は、高温に曝されても、シート状セパレータのように熱収縮しない点で優れている。多孔質電子絶縁層は、内部短絡の発生時や電池が高温に曝された時に、短絡の拡大を防ぎ、異常加熱を防止し、二次電池の安全性を高める作用を有する。
【0026】
多孔質電子絶縁層は、非水電解液を適度に通過させるための空隙を有する。多孔質電子絶縁層を表面に接着させた電極を有する二次電池の低温環境下での大電流挙動、例えば0℃環境下で2時間率(2C)の電流値で放電するときの放電特性は、多孔質電子絶縁層の空隙率(多孔質電子絶縁層に占める空隙体積の割合)に依存する。
【0027】
多孔質電子絶縁層の空隙率は、例えば以下の要領で測定することができる。
まず、微粒子フィラーと、樹脂結着剤と、液状成分とを、混合し、多孔質電子絶縁層の原料スラリーを調製する。液状成分は、樹脂結着剤の種類等に応じて適宜選択する。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキサノン等の有機溶媒や、水を用いることができる。原料スラリーを調製する際に用いる分散装置としては、不定形粒子が一次粒子に解砕されない程度のせん断力を付与できる装置が好ましい。例えば、メディアレス分散装置や、マイルドな条件を適用したビーズミル等が好ましいが、これに限定されるわけではない。
【0028】
得られたスラリーを、適当なメッシュサイズのフィルタに通した後、例えば金属箔からなる基材上に、ドクターブレードを用いて、所定の厚さになるように塗布し、乾燥させる。基材上に形成された塗膜は、電極表面に接着させる多孔質電子絶縁層と同じような構造を有すると考えられる。よって、基材上に形成された塗膜の空隙率を多孔質電子絶縁層の空隙率と見なすことができる。
【0029】
基材上に形成された塗膜の空隙率(P)は、塗膜の見かけ体積(Va)と、真体積(Vt)から、計算式:P(%)={100×(Va−Vt)}/Va
により求めることができる。
【0030】
塗膜の見かけ体積Vaは、塗膜の厚さ(T)と塗膜の上面面積(S)との積(S×T)に相当する。一方、塗膜の真体積(Vt)は、塗膜の重量(W)と、微粒子フィラーの真密度(Df)と、樹脂結着剤の真密度(Db)と、塗膜中に占める微粒子フィラーおよび樹脂結着剤の重量割合から計算できる。
【0031】
例えば、微粒子フィラーと樹脂結着剤との重量割合が、x:(1−x)であるとき、塗膜の真体積Vtは、微粒子フィラーの真体積(xW/Df)と樹脂結着剤の真体積{(1−x)W/Db}との和に相当する。
【0032】
図3に示すような、従来の微粒子フィラーを用いる場合、スラリー調製時の分散処理により、凝集粒子30が容易に独立した一次粒子31に分離する。そのため、多孔質電子絶縁層の空隙率Pは、通常45%未満の低い値となり、それ以上の空隙率を有する多孔質電子絶縁層の形成は困難である。このような空隙率の低い多孔質電子絶縁層を備えた二次電池は、高率充放電特性や低温での充放電特性が不十分となる。
【0033】
一方、図1に示すような、複数個の一次粒子11が連結固着した不定形粒子10を用いる場合には、多孔質電子絶縁層は、容易に45%以上、さらには50%以上の空隙率Pを達成することができる。このような高い空隙率の達成は、微粒子フィラーの材質に依存するものではない。従って、不定形粒子の形状、粒度分布等が同様であれば、例えば酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化タングステン等のいずれを用いても、同様に高い空隙率を達成することができる。
【0034】
リチウムイオン二次電池に本発明を適用する場合、一次粒子の最大粒径は4μm以下であることが好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。なお、不定形粒子において、一次粒子を明確に識別できない場合には、不定形粒子の節部(knot)の最も太い部分を一次粒子の粒径と見なすことができる。
一次粒子径が4μmをこえると、多孔質電子絶縁層の空隙率の確保が困難になったり、極板が曲げにくくなったりすることがある。
【0035】
一次粒子の最大粒径は、例えば不定形粒子のSEM写真や透過型電子顕微鏡(TEM)写真で、少なくとも1000個の一次粒子の粒径を測定することにより、それらの最大値として求めることができる。また、一次粒子を加熱処理し、部分的に溶融させ、固着させることにより、不定形粒子を得る場合には、原料の一次粒子の最大粒径を、不定形粒子を構成する一次粒子の最大粒径と見なすことができる。一次粒子同士の拡散結合を促す程度の加熱処理では、一次粒子の粒径は、ほとんど変動しないからである。原料の一次粒子の最大粒径は、例えばマイクロトラック社製の湿式レーザー粒度分布測定装置等により測定することができる。
【0036】
湿式レーザー粒度分布測定装置等により、不定形粒子の原料である一次粒子の粒度分布を測定する場合、体積基準における一次粒子の99%値(D99)を、一次粒子の最大粒径と見なすことができる。
【0037】
なお、一次粒子の平均粒径についても、上記と同様に測定することができる。すなわち、例えば不定形粒子のSEM写真や透過型電子顕微鏡(TEM)写真で、少なくとも1000個の一次粒子の粒径を測定することにより、それらの平均値として求めるか、不定形粒子の原料である一次粒子の粒度分布を湿式レーザー粒度分布測定装置等により測定し、体積基準における一次粒子の50%値(メディアン値:D50)を、一次粒子の平均粒径と見なすことができる。
【0038】
不定形粒子の平均粒径は、一次粒子の平均粒径(好ましくは0.05μm〜1μm)の2倍以上であり、かつ10μm以下であることが望ましい。また、長期間にわたって高い空隙率を維持できる安定な多孔質電子絶縁層を得る観点からは、不定形粒子の平均粒径は、一次粒子の平均粒径の3倍以上であり、かつ5μm以下であることが更に好ましい。
【0039】
不定形粒子の平均粒径は、例えばマイクロトラック社製の湿式レーザー粒度分布測定装置等により測定することができる。この場合、体積基準における不定形粒子の50%値(メディアン値:D50)を、不定形粒子の平均粒径と見なすことができる。不定形粒子の平均粒径が、一次粒子の平均粒径の2倍未満では、多孔質電子絶縁層が緻密な充填構造をとることがあり、10μmを超えると、多孔質電子絶縁層の空隙率が過大(例えば80%超)となって、その構造が脆くなることがある。
【0040】
リチウムイオン二次電池の場合、多孔質電子絶縁層の厚さは、特に限定されないが、例えば20μm以下とすることが望ましい。電極表面への多孔質電子絶縁層の原料スラリーの塗布は、ダイノズル方式、ブレード方式等により行われる。よって、不定形粒子の平均粒径が大きくなると、多孔質電子絶縁層の原料スラリーを電極表面に塗布する際に、例えば電極表面とブレード先端との間隔の隙間に大きな粒子が引っかかりやすくなり、塗膜にスジを発生し、生産歩留まりが低下することがある。よって、生産歩留まりの観点からも、不定形粒子の平均粒径は、10μm以下であることが望ましい。
【0041】
本発明においては、金属酸化物の一次粒子から不定形粒子を得ることが好ましい。微粒子フィラーを構成する金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、特に、化学的安定性の点で、酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましく、特にα−アルミナが好ましい。
【0042】
微粒子フィラーは、樹脂微粒子を含むことができる。樹脂微粒子の比重は1.1程度であり、4前後の比重を有する金属酸化物に較べて、かなり軽量であるため、二次電池の軽量化に有効である。樹脂微粒子としては、例えばポリエチレン微粒子等を用いることができる。
ただし、樹脂微粒子を用いると製造コストが高くなるため、製造コストの観点からは、金属酸化物を単独で用いるか、または、樹脂微粒子を用いる場合でも、微粒子フィラー全体に占める樹脂微粒子の割合を50重量%以下とすることが望ましい。
【0043】
多孔質電子絶縁層に含まれる樹脂結着剤の構成材料は、特に限定されないが、例えばポリアクリル酸誘導体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
アルカリ蓄電池やリチウムイオン二次電池では、正極と負極とを捲回した極板群を用いることが主流である。しかし、このような捲回構造を有する極板群を構成するためには、極板表面に接着させる多孔質電子絶縁層に柔軟性が必要である。このような柔軟性を多孔質電子絶縁層に付与する観点からは、樹脂結着剤としてポリアクリル酸誘導体を用いることが望ましい。
【0045】
多孔質電子絶縁層において、微粒子フィラーと樹脂結着剤との合計に占める樹脂結着剤の割合は、1〜10重量%、さらには2〜4重量%であることが好ましい。
【0046】
本発明をリチウムイオン二次電池に適用する場合、正極には、複合リチウム酸化物を用い、負極には、リチウムを充放電可能な材料を用い、電解質には、非水溶媒およびそれに溶解するリチウム塩からなる非水電解液を用いることが好ましい。
【0047】
複合リチウム酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム含有遷移金属酸化物が好ましく用いられる。また、リチウム含有遷移金属酸化物の遷移金属の一部を他の元素で置換した変性体も好ましく用いられる。例えば、コバルト酸リチウムのコバルトは、アルミニウム、マグネシウム等で置換することが好ましく、ニッケル酸リチウムのニッケルは、コバルトで置換することが好ましい。複合リチウム酸化物は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
負極に用いるリチウムを充放電可能な材料としては、各種天然黒鉛、各種人造黒鉛、シリコン系複合材料、各種合金材料等を挙げることができる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
非水溶媒には、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の炭酸エステル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル等が用いられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、特に炭酸エステルが好ましく用いられる。
【0050】
リチウム塩には、特に限定されないが、例えば、LiPF、LiBF等が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0051】
非水電解液には、過充電時の安定性を確保するために、正極および/または負極上に良好な皮膜を形成する添加剤、例えばビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等を少量添加することが好ましい。
【0052】
本発明の二次電池は、多孔質電子絶縁層に加え、さらに、正極および負極のいずれからも独立したセパレータを含むことができる。このようなセパレータには、ポリオレフィン製の微多孔膜を始め、従来のシート状セパレータを特に限定なく用いることができる。なお、従来のシート状セパレータを用いない場合には、多孔質電子絶縁層がセパレータの役割を果たす。その場合、二次電池を低コストで提供することができる。
【0053】
リチウムイオン二次電池において、従来のシート状セパレータを用いない場合、多孔質電子絶縁層の厚さは、1〜20μmであることが好ましい。また、多孔質電子絶縁層に加え、さらに、従来のシート状セパレータ(好ましい厚さ5〜20μm)を用いる場合には、多孔質電子絶縁層の厚さは、1〜15μmであることが好ましい。
【0054】
シート状セパレータには、二次電池内の環境に耐性を有する材料を用いる必要がある。一般的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる微多孔膜が用いられる。シート状セパレータを用いることにより、短絡がより起こりにくくなり、二次電池の安全性と信頼性が向上する。
【0055】
以下、酸化アルミニウムからなる微粒子フィラーを用い、リチウムイオン二次電池を作製する場合について、本発明を実施例に基づいて説明するが、これらの実施例は、本発明の二次電池を例示するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0056】
(i)不定形粒子を含む微粒子フィラーの調製
(a)不定形粒子の原料である平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム(アルミナ)の一次粒子を、1100℃の温度で、空気中で、20分間加熱し、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子を生成させた。得られた不定形粒子のサイズを、直径15mmのアルミナボールと湿式ボールミルを用いて調整し、平均粒径0.5μmの微粒子フィラーA1を得た。
【0057】
(b)不定形粒子の原料である平均粒径0.2μmの酸化チタン(チタニア)の一次粒子を、800℃の温度で、空気中で、20分間加熱し、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子を生成させた。得られた不定形粒子のサイズを、微粒子フィラーA1と同様の方法で調整し、平均粒径0.5μmの微粒子フィラーA2を得た。
【0058】
(c)平均粒径0.5μmの酸化アルミニウム(アルミナ)の一次粒子を、そのままの状態で、微粒子フィラーB1として用いた。
【0059】
(d)平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム(アルミナ)の一次粒子に対し、直径40mmのアルミナバーを備えた振動ミルにより、機械的せん断力を印加し、平均粒径0.5μmの凝集粒子を含む微粒子フィラーB2を得た。
【0060】
(e)平均粒径0.1μmの酸化アルミニウム(アルミナ)の一次粒子に対し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を4重量%添加して混合し、平均粒径0.5μmの凝集粒子を含む微粒子フィラーB3を得た。
【0061】
(ii)多孔質電子絶縁層の原料スラリーの調製
(a)微粒子フィラーA1を100重量部と、ポリアクリル酸誘導体(日本ゼオン(株)製のBM720Hの固形分)(樹脂結着剤)を4重量部と、適量のN−メチル−2−ピロリドン(液状成分)とを、攪拌機を用いて混合し、不揮発成分の含有量が60重量%である混合物を調製した。この混合物を、内容積0.6Lのビーズミルに、内容積の80体積%に相当する量の直径3mmのジルコニアビーズとともに投入した。ビーズミルを稼働させて、微粒子フィラーA1を液状成分中に均一に分散させ、スラリーA1を得た。
【0062】
(b)微粒子フィラーA1の代わりに、微粒子フィラーA2、B1、B2またはB3を用いたこと以外、スラリーA1と同様の方法で、スラリーA2、B1、B2およびB3をそれぞれ調製した。
【0063】
(iii)多孔質電子絶縁層の空隙率
(a)スラリーA1を金属箔上にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥後の厚さが約20μmの塗膜(多孔質電子絶縁層A1)を形成した。この塗膜の見かけ体積Vaを、塗膜の厚さ(T)と塗膜の上面面積(S)から求め、さらに、塗膜の真体積(Vt)を、塗膜の重量(W)と微粒子フィラーの真密度(Df)と樹脂結着剤の真密度(Db)と塗膜中に占める微粒子フィラーおよび樹脂結着剤の重量割合から計算した。
【0064】
塗膜の空隙率(P)を、計算式:P(%)={100×(Va−Vt)}/Vaにより求めたところ、60%であった。また、塗膜、すなわち多孔質電子絶縁層A1の上面をSEMで観察し、図2に示すSEM写真を撮影した。図2より、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子が充填されている多孔質電子絶縁層A1中には、大きな空隙が形成されていることがわかる。
【0065】
(b)スラリーA1の代わりに、スラリーA2、B1、B2またはB3を用い、多孔質電子絶縁層A2、B1、B2およびB3をそれぞれ形成し、それらの空隙率を求めた。多孔質電子絶縁層A2、B1、B2およびB3の空隙率は、それぞれ58%、44%、45%および44%であった。また、多孔質電子絶縁層B1の上面をSEMで観察し、図4に示すSEM写真を撮影した。図4より、多孔質電子絶縁層B1中には、独立した一次粒子が高密度に充填されており、大きな空隙が形成されていないことがわかる。
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0066】
【表1】

【0067】
以上の結果から明らかなように、不定形粒子を含む微粒子フィラーを用いた多孔質電子絶縁層は、独立した一次粒子や凝集粒子を含む微粒子フィラーを用いたものに比べて、明らかに大きな空隙率を有する。また、空隙率の大きさは、微粒子フィラーを構成する材質(酸化物の種類)により、ほとんど影響されないことがわかる。
【0068】
振動ミルにより機械的せん断力を印加して一次粒子を凝集させた微粒子フィラーB2を用いた場合、多孔質電子絶縁層の空隙率は低く、多孔質電子絶縁層B2中では凝集粒子が乖離して、一次粒子に戻ってしまっていることがSEM写真で確認された。また、PVDFを添加して一次粒子を凝集させた微粒子フィラーB3についても、多孔質電子絶縁層B3中では凝集粒子が乖離して、一次粒子に戻ってしまっていることがSEM写真で確認された。この原因は、スラリー製造の際に、凝集粒子がビーズミル内でせん断力を受けるためと考えられる。
【0069】
一方、不定形粒子は、ビーズミル内でせん断力を受けても、一次粒子が乖離することがなく、形状をほぼ維持できるため、高い空隙率が達成されたものと理解できる。
【0070】
(iv)リチウムイオン二次電池の作製
スラリーA1、A2およびB1を用いて、負極の両面に多孔質電子絶縁層が接着されたリチウムイオン二次電池を作製し、それらの充放電特性を評価した。
【0071】
(負極の作製)
人造黒鉛(負極活物質)3kgと、スチレン−ブタジエン共重合体からなるゴム粒子(負極結着剤)75gと、カルボキシメチルセルロース(CMC:増粘剤)30gとを、適量の水とともに双腕式練合機にて攪拌し、負極合剤ペーストを調製した。このペーストを厚さ10μmの銅箔の両面に塗布し、乾燥させ、負極原反を得た。この負極原反を総厚が180μm、活物質層密度1.4g/cmとなるように圧延した。
【0072】
(正極の作製)
コバルト酸リチウム(LiCoO:正極活物質)3kgと、PVDF(正極結着剤)120gと、アセチレンブラック(正極導電剤)90gとを、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とともに双腕式練合機にて攪拌し、正極合剤ペーストを調製した。このペーストを厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させ、正極原反を得た。この正極原反を総厚が160μm、活物質層密度が3.3g/cmとなるように圧延した。
【0073】
(電池の組立)
圧延後の負極原反の両面に、スラリーA1を塗布し、乾燥させ、厚さ5μmの多孔質電子絶縁層を形成した。その後、多孔質電子絶縁層が両面に接着された負極原反を、円筒型18650の電池缶に挿入可能な所定幅に裁断し、所定サイズの負極を得た。また、圧延後の正極原反についても、円筒型18650の電池缶に挿入可能な所定幅に裁断し、所定サイズの正極を得た。
【0074】
正極と、多孔質電子絶縁層が両面に接着された負極とを、厚さ15μmのポリエチレン樹脂製のシート状セパレータを介して捲回し、極板群を構成した。この極板群を円筒型18650の電池缶に挿入し、5gの非水電解液を注入した。
【0075】
非水電解液には、エチレンカーボネートと、ジメチルカーボネートと、エチルメチルカーボネートとの体積比2:3:3の混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解し、さらにビニレンカーボネートを3重量%溶解させたものを用いた。
【0076】
その後、電池缶を密閉して、設計容量2000mAhのリチウムイオン二次電池A1を完成させた。また、スラリーA1の代わりに、スラリーA2およびB1を用いたこと以外、電池A1と同様の方法で、リチウムイオン二次電池A2およびB1をそれぞれ作製した。
【0077】
(v)電池の評価
完成したリチウムイオン二次電池A1、A2およびB1は、2度の慣らし充放電を行い、45℃環境下で7日間保存した。その後、20℃環境下で、以下の条件で充放電を行った。
【0078】
(1)定電流放電:400mA(終止電圧3V)
(2)定電流充電:1400mA(終止電圧4.2V)
(3)定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
(4)定電流放電:400mA(終止電圧3V)
(5)定電流充電:1400mA(終止電圧4.2V)
(6)定電圧充電:4.2V(終止電流100mA)
【0079】
上記充放電の後、各電池を3時間放置した。その後、0℃環境において、以下の充放電を行った。
(7)定電流放電:4000mA(終止電圧3V)
このときの放電容量を0℃−2C放電特性とした。各電池の0℃−2C放電特性を表2にまとめて示す。
【0080】
【表2】

【0081】
以上の結果から、大きな空隙率を有する多孔質電子絶縁層を具備する電池は、優れた低温放電特性を示すことがわかる。一方、不定形粒子を用いずに形成される空隙率の小さい多孔質電子絶縁層を具備する電池は、低温放電特性が顕著に低下することがわかる。
【実施例2】
【0082】
調製後のスラリーは、フィルタによる精製等の工程を経た後に、多孔質電子絶縁層の形成に供される。よって、多孔質電子絶縁層の物性を安定させるためには、スラリー調製後の数日間は、微粒子フィラーの沈降がほとんど進行しないことが望まれる。なお、本発明者らは、沈降の進行度合いが微粒子フィラーの一次粒子の平均粒径に依存することを知見している。そこで、本実施例では、微粒子フィラーの一次粒子の平均粒径と沈降度合いとの関係について説明する。
【0083】
不定形粒子の原料である酸化アルミニウムの一次粒子の平均粒径を、0.1μmから、0.01μm、0.05μm、0.3μm、0.5μm、1μm、2μm、3μmまたは4μmに変更したこと以外、実施例1の微粒子フィラーA1と同様の方法で、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子を生成させ、不定形粒子のサイズを調整し、平均粒径がそれぞれ0.03μm、0.16μm、0.8μm、1.3μm、2.5μm、6μm、8μmまたは10μmの微粒子フィラーC1、C2、C3、C4、C5、C6、C7およびC8を調製した。
【0084】
微粒子フィラーA1の代わりに、微粒子フィラーC1、C2、C3、C4、C5、C6、C7またはC8を用いたこと以外、スラリーA1と同様の方法で、スラリーC1、C2、C3、C4、C5、C6、C7およびC8を調製した。得られたスラリーを25℃環境下に静置し、1日ごとに、沈降の進行度合いを目視で観測した。
【0085】
その結果、一次粒子の平均粒径が0.01〜1μmであるスラリーC1〜C5では、4日以上経過しても、微粒子フィラーの沈降がほとんど見られなかった。一方、一次粒子の平均粒径が1μm以上であるスラリーC6〜C8では、いずれも1日未満で微粒子フィラーの沈降が観測された。
【0086】
なお、微粒子フィラーC1〜C5の原料に用いた一次粒子の粒度分布を測定したところ、いずれも最大粒径(D99)が3μm以下であった。一方、微粒子フィラーC6〜C8の原料に用いた一次粒子の粒度分布を測定したところ、いずれも最大粒径(D99)が3μmを超えていた。
【0087】
スラリーC1〜C5を用いたこと以外、実施例1と同様の方法で、リチウムイオン二次電池C1〜C5をそれぞれ作製し、それらの0℃−2C放電特性を評価したところ、いずれも1750mAh以上であり、電池B1よりも大幅に優れていた。
【実施例3】
【0088】
不定形粒子の原料である酸化アルミニウムの一次粒子の平均粒径を、0.1μmから、0.2μmに変更したこと以外、実施例1の微粒子フィラーA1と同様の方法で、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子を生成させた。ただし、不定形粒子のサイズを様々に調整し、平均粒径がそれぞれ0.3μm、0.4μm、0.5μm、0.7μm、1.2μm、3μm、8μm、10μm、12μmまたは15μmの微粒子フィラーD1、D2、D3、D4、D5、D6、D7、D8、D9およびD10を調製した。
【0089】
不定形粒子のサイズ調整は、内容積の30%が直径3mmのアルミナボールで占められた湿式ボールミルを用いて行った。不定形粒子の平均粒径の変更は、ボールミルの稼働時間を変更することにより行った。
【0090】
微粒子フィラーA1の代わりに、微粒子フィラーD1、D2、D3、D4、D5、D6、D7、D8、D9またはD10を用いたこと以外、スラリーA1と同様の方法で、スラリーD1、D2、D3、D4、D5、D6、D7、D8、D9およびD10を調製した。
【0091】
各スラリーを、金属箔上に、一般的なブレードコーターを用いて塗布した。塗膜の目標厚さは20μmとした。その結果、不定形粒子の平均粒径が10μm以下のスラリーD1〜D8は表面の均一な塗膜が形成された。一方、不定形粒子の平均粒径が10μmを超える不定形粒子を含むスラリーD9、D10を用いた場合、塗膜の表面にスジが発生する頻度が高く、生産歩留まりが大きく低下した。
【0092】
次に、スラリーD1〜D8を用いたこと以外、実施例1と同様の方法で、リチウムイオン二次電池D1〜D8をそれぞれ作製し、それらの0℃−2C放電特性を評価したところ、いずれも1750mAh以上であり、電池B1よりも大幅に優れていた。
また、0℃−2C放電特性は、電池D2〜D5の結果が特に良好であり、電池D3およびD4の結果が特に顕著に良好であった。よって、不定形粒子の平均粒径は、一次粒子の平均粒径の2〜6倍程度が好ましく、2.5〜3.5倍程度が最も好ましい。
【実施例4】
【0093】
二次電池の極板群の最も一般的な構造は、正極と負極とを、シート状セパレータを介して捲回した構造である。よって、多孔質電子絶縁層が硬い場合には、多孔質電子絶縁層に亀裂が発生したり、電極表面から剥離したりする。そこで、本実施例では、多孔質電子絶縁層の柔軟性を変化させた場合について説明する。
【0094】
ポリアクリル酸誘導体の代わりに、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いたこと以外、実施例1のスラリーA1と同様の方法で、スラリーE1を調製し、これを用いて実施例1の電池A1と同様の電池を500個作製した。また、実施例1の電池A1を同じく500個作製した。
【0095】
各電池の端子間電圧を測定し、内部短絡の有無を確認したところ、電池E1については短絡不良の発生率が10%と大きくかったが、電池A1の短絡不良の発生率は0.4%であった。なお、従来の一般的なリチウムイオン二次電池の短絡不良発生率は0.5%以下である。短絡不良の認められた電池E1を分解し、樹脂結着剤としてPVDFを含む多孔質電子絶縁層の状態を観察たところ、亀裂が多く見られ、特に極板群の中心付近で亀裂の発生が顕著であった。
【0096】
一方、電池A1を分解し、樹脂結着剤としてポリアクリル酸誘導体を含む多孔質電子絶縁層の状態を観察たところ、亀裂は全く見られなかった。以上の結果より、PVDFは比較的硬度の高い多孔質電子絶縁層を与えるが、ポリアクリル酸誘導体は、柔軟性に優れた多孔質電子絶縁層を与えることがわかる。
【実施例5】
【0097】
負極の両面に形成する多孔質電子絶縁層の厚さを、5μmから20μmに変更し、ポリエチレン樹脂製のシート状セパレータを用いなかったこと以外、実施例1の電池A1と同様の電池F1を作製した。
【0098】
電池F1の0℃−2C放電特性を評価したところ、1750mAhが達成され、電池F1が電池A1と同レベルの優れた低温放電特性を有することが確認できた。なお、電池F1は、従来の高価なシート状セパレータを省略できるため、製造コストが安価になり、産業上極めて有望であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、リチウムイオン二次電池を始め、様々な二次電池に適用可能であり、高い安全性の確保と、高度な低温放電特性や高率放電特性との両立が要求されるリチウムイオン二次電池において特に有効である。リチウムイオン二次電池の市場規模は大きく、本発明が商品の性能改善や安全性の向上に果たす役割は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極および前記負極よりなる群から選ばれる少なくとも1つの表面に接着された多孔質電子絶縁層と、電解質と、を具備する二次電池であって、
前記多孔質電子絶縁層は、微粒子フィラーおよび樹脂結着剤を含み、
前記微粒子フィラーは、複数個の一次粒子が連結固着した不定形粒子を含む二次電池。
【請求項2】
前記不定形粒子を構成する少なくとも一対の互いに連結する一次粒子間に、ネックが形成されている、請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記不定形粒子が、複数個の一次粒子が部分的に溶融して固着することにより形成されている、請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記不定形粒子の平均粒径が、前記一次粒子の平均粒径の2倍以上であり、かつ10μm以下である、請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
前記不定形粒子が、金属酸化物からなる、請求項1記載の二次電池。
【請求項6】
前記微粒子フィラーが、さらに樹脂微粒子を含む、請求項5記載の二次電池。
【請求項7】
前記樹脂結着剤が、ポリアクリル酸誘導体を含む、請求項1記載の二次電池。
【請求項8】
前記正極が、複合リチウム酸化物を含み、前記負極が、リチウムを充放電可能な材料を含み、前記電解質が、非水溶媒およびそれに溶解するリチウム塩からなる、請求項1記載の二次電池。
【請求項9】
さらに、前記正極と前記負極との間に介在し、かつ前記正極および前記負極のいずれからも独立したシート状セパレータを含む、請求項1記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/078828
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517933(P2005−517933)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001762
【国際出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】