説明

二液型熱間塑性加工用焼付防止剤、およびそれを用いた継目無管の製造方法

【課題】 ディスクロール型ガイドシューに塗布した焼付防止剤が、ロールの冷却水に流されないで、ディスクロール型ガイドシューの周面に供給・保持され、ロールに焼付防止剤が付着することがなく、ロールと管材とがロールスリップを起こさずに、管材を穿孔圧延することができる、二液型熱間塑性加工用焼付防止剤、ならびにこれを用いた継目無管の製造方法を提供する。
【解決手段】 熱間塑性加工用焼付防止剤を、第一水溶液全体の質量を100質量%として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%含有する第一水溶液、有機酸およびその水溶性アミン塩、無機酸およびその水溶性アミン塩、水溶性のアミン、水溶性のアルコール、ならびに水溶性の金属塩化物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含有する第二水溶液、という二液型とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクロール型ガイドシューを備えた穿孔圧延機、特に、ディスクロール型ガイドシューの回転軸が地表に対して垂直である横置き式ディスクロール型ガイドシューを備えた穿孔圧延機を用いた継目無管の穿孔圧延工程において、ガイドシューと管との間における焼付きを防止するための、二液型熱間塑性加工用焼付防止剤、ならびに、この焼付防止剤を用いた継目無管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンネスマン方式で熱間継目無製管を行う場合、穿孔圧延機を用いる継目無管の穿孔圧延工程において、継目無管の材料(以下、「管材」ということがある。)と穿孔圧延機のガイドシューとが接触することにより、管材にシューマークと呼ばれる焼付き疵の生じる問題があることはよく知られている。
【0003】
この問題を解決することを目的として、例えば、特許文献1には、酸化鉄等の金属酸化物粉粒体にバインダーとして珪酸ナトリウム(水ガラス)を加えた混合液状塗料をガイドシュー周面へ塗布する穿孔圧延方法が記載されている。また、特許文献2には、酸化鉄、珪酸ナトリウム、澱粉およびキサンタンガムを含有する水溶液からなる熱間加工用潤滑剤が記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、ガイドシュー等に非水溶性の高分子酸から調整された水溶性の高分子塩を主成分とする被膜形成溶液と、該被膜形成溶液から高分子塩中の被膜成分を析出させるための強酸またはそのアルミニウム塩を主成分として含有する被膜形成補助溶液とを塗布して被膜を形成する熱間圧延方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭60−21111号公報
【特許文献2】特開平11−35967号公報
【特許文献3】特開平4−288916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法においては、混合液状塗料のガイドシュー周面への付着性の観点から、十分な焼付き防止効果を得られないと思われる。
【0006】
また、特許文献2に記載の潤滑剤においては、潤滑剤のガイドシューへの付着性は向上されると思われるが、ロールの摩耗を防止するためのロール冷却水を使用するような場合には、このロール冷却水がガイドシューにもかかってしまい、ガイドシュー周面上の潤滑剤が流れ落ちてしまうという問題が想定される。特に、横置き式ディスクロール型ガイドシューを備えた穿孔圧延機においては、上部に位置するロールを冷却するためのロール冷却水が、ディスクロール型ガイドシューに多量にかかってしまい、このガイドシュー周面上の潤滑剤が流れ落ちるという問題が想定される。
【0007】
このため、ステンレス鋼等のように非常に焼き付きやすい材料を圧延する場合に、必要な焼付き防止効果を得ることは難しい。また、逆に、潤滑剤がロール冷却水によって流失することを防止するために、ロール冷却水を止めて穿孔圧延した場合には、ロールに付着した潤滑剤によって、ロールと管材とのスリップを誘発するという問題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載の熱間圧延方法においては、被膜形成能が十分ではないことにより、十分な焼付き防止効果は得られないと思われる。
【0009】
そこで、本発明は、焼付防止剤がロールの冷却水に流されないで管材とガイドシューとの接触面に保持されること、焼付防止剤がロールに付着することがなく管材とガイドシューとの接触面に供給され、ロールと管材とがロールスリップを起こさずに、管材を穿孔圧延することができ、疵の発生を防止することなどの課題を解決する熱間塑性加工用焼付防止剤、ならびにこれを用いた継目無管の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、熱間にて使用する焼付防止剤であることから火災の危険性がない水溶性であることを前提としつつ、ディスクロール型ガイドシュー周面に塗布した後は、これに耐水性をもたせることが必要不可欠であるという要求を満たすべく、このような焼付防止剤について鋭意研究した結果、以下の発明を完成するに至った。
【0011】
第一の本発明は、第一水溶液および第二水溶液からなる二液型熱間塑性加工用焼付防止剤であって、前記第一水溶液が、前記第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%含有し、前記第二水溶液が、有機酸およびその水溶性アミン塩、無機酸およびその水溶性アミン塩、水溶性のアミン、水溶性のアルコール、ならびに水溶性の金属塩化物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含有する、二液型熱間塑性加工用焼付防止剤である。
【0012】
ここで、「二液型」とは、焼付防止剤の保存時においては、第一水溶液および第二水溶液が互いに混合されずに、別個に保存され、そして使用時において、第一水溶液および第二水溶液がそれぞれガイドシュー上に塗布され、第一水溶液および第二水溶液がお互いに初めて接触するような形態をいう。
【0013】
前記第一水溶液は、前記第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%、酸化鉄を10〜60質量%、澱粉変性品を0〜5質量%、およびせん断速度依存性粘度低下剤を0〜1質量%含有していてもよい。
【0014】
ここで、「せん断速度依存性粘度低下剤」とは、これを水等の溶媒に溶かした溶液にせん断力を与えたときに、せん断速度を増加させていくに従って、溶液の粘度が低下し、そしてせん断を除いたときに粘度が回復する性質を有する物質の総称である。
【0015】
前記せん断速度依存性粘度低下剤は、キタンサンガムであることが好ましい。
【0016】
第二の本発明は、ディスクロール型ガイドシューを備えた穿孔圧延機を用いて管材を穿孔圧延する継目無管の製造方法において、ディスクロール型ガイドシューの周面に、第一水溶液を塗布する第一工程、および、ディスクロール型ガイドシューの周面に、第二水溶液を塗布して、前記周面に耐水性被膜を形成する第二工程を有し、前記第一水溶液が、前記第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%含有し、前記第二水溶液が、有機酸およびその水溶性アミン塩、無機酸およびその水溶性アミン塩、水溶性のアミン、水溶性のアルコール、ならびに水溶性の金属塩化物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含有することを特徴とする継目無管の製造方法である。
【0017】
上記の継目無管の製造方法において、前記第一水溶液は、前記第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%、酸化鉄を10〜60質量%、澱粉変性品を0〜5質量%、およびせん断速度依存性粘度低下剤を0〜1質量%を含有していることが好ましい。また、前記せん断速度依存性粘度低下剤は、キタンサンガムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二液型熱間塑性加工用焼付防止剤によれば、所定の第一水溶液および第二水溶液からなる二液型の構成とすることによって、ディスクロール型ガイドシューに塗布した焼付防止剤が、ロールの冷却水に流されないで、管材とガイドシューとの接触面であるディスクロール型ガイドシューの周面に供給し、かつ周面に保持される。また、ロールに流れ落ちた焼付防止剤が付着することがなく、ロールと管材とがロールスリップを起こさずに、管材を穿孔圧延することができる。また、この焼付防止剤を用いた、本発明の継目無管の製造方法によれば、焼付疵のない表面性状の優れた継目無管を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の二液型熱間塑性加工用焼付防止剤は、第一水溶液および第二水溶液の二液からなり、ディスクロール等の熱間塑性加工において管材と接触する部分に、まず、第一水溶液を塗布して、その後、第二水溶液を塗布して、この部分に耐水性の被膜を形成することにより、焼付きを防止するものである。
【0020】
第一水溶液は、第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%含有している。
【0021】
珪酸ナトリウムは、水と結合し、通常、水分を45〜70質量%含んだ水ガラスとして市販されている。珪酸ナトリウムは、以下に説明する第二水溶液と反応して、硬化し、耐水性の被膜を形成する。
【0022】
珪酸ナトリウムの配合量は、第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、無水物換算で10〜30質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。なぜならば、珪酸ナトリウムの量が少なすぎると、硬化反応が不十分であり、焼付き防止効果を十分に発揮できないからである。一方、珪酸ナトリウムの量が多すぎると、珪酸ナトリウムによる潤滑性が高くなり、摩擦係数が低下してロールスリップが発生するおそれがある。
【0023】
珪酸ナトリウムの種類は特に限定されず、例えば、一般的な、水ガラス1号(NaO・2SiO)、水ガラス3号(NaO・3SiO)、水ガラス4号(NaO・4SiO)を使用することができる。いずれの珪酸ナトリウムを用いたとしても、その配合量を、上記の範囲内とすることにより、本発明の二液型熱間塑性加工用焼付防止剤は所定の性能を発揮することができる。
【0024】
また、第一水溶液は、第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、上記所定の割合の珪酸ナトリウム以外に、酸化鉄を10〜60質量%、澱粉変性品を0〜5質量%、およびせん断速度依存性粘度低下剤を0〜1質量%含有していてもよい。
【0025】
酸化鉄は、焼付防止剤として含有されている。貯蔵安定性およびスプレー性を良好なものとするために、酸化鉄の粒径は、0.1〜10μmであることが好ましい。なぜならば、粒径が大きすぎると、貯蔵安定性やスプレー性に問題が生じ、粒径が小さすぎると、焼付き防止性能が劣るからである。
【0026】
酸化鉄の配合量は、第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、10〜60質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。なぜならば、酸化鉄の配合量が少なすぎると、焼付き防止性が劣るからである。一方、酸化鉄の配合量が多すぎると、密度および粘度が高くなりすぎ、スプレー性に問題が生じる。
【0027】
酸化鉄の種類については、ヘマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)、ヴスタイト(FeO)のいずれであってもよく、これらを単独または2種以上混合で使用することができる。
【0028】
澱粉変性品は、高温(通常80℃以上)で熱ゲル化する性質を有する。これにより、高温となったガイドシュー表面に塗布された第一水溶液の流れ落ちが防止される。ただし、第一水溶液が流れ落ちる前に第二水溶液を塗布できる場合は、澱粉変性品は、必ずしも必要ではない。
【0029】
澱粉変性品を配合する場合は、その配合量は、第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、5質量%以下であることが好ましく、1〜4質量%の範囲であることがより好ましい。なぜならば、澱粉変性品の配合量が多すぎると、焼付防止剤の摩擦係数が低下してロールスリップを誘発することがあるからである。
【0030】
澱粉変性品としては、例えば、デキストリン、酸化澱粉、可溶性澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等を用いることができ、これらを単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0031】
せん断速度依存性粘度低下剤としては、キタンサンガムを用いることが好ましい。キサンタンガム(Xantham Gum)は、グルコース2個、マンノース2個、グルクロン酸2個を構成単位とする分子量約200万の多糖類で、ザンサンガムとも呼ばれ、グルクロン酸は通常K,NaまたはCaの塩になっている。キサンタンガムとしては、一般の市販品を用いることができる。
【0032】
キサンタンガムは、溶液が静止状態では分子が絡み合って高粘度になるが、溶液にせん断力が加わって動いた状態では分子の絡み合いが緩和されて低粘度になるという、チキソトロピックな性質をもっており、その配合により第一水溶液の粘性を動的に操作することが可能となる。すなわち、第一水溶液が、貯蔵されているとき、または、ガイドシューに塗布する前の、スプレー装置の配管内等に存在しているときは、第一水溶液は静止状態となっており、高粘度となっているので安定性がよい。
【0033】
一方、ガイドシュー表面にスプレー塗布するときは、第一水溶液にせん断力が加わって動く状態になるため、第一水溶液は低粘度となって配管内での粘性抵抗が小さくなり、これをスムーズにスプレー塗布することができる。そして、スプレーされた第一水溶液が、ガイドシュー表面に付着して動きがなくなると、直ちに粘性を回復し、ガイドシュー表面から流れ落ちなくなる。ただし、貯蔵タンクに撹拌装置を設置すること、または水の量を減量するなどの方法を採用すれば、キタンサンガム等のせん断速度依存性粘度低下剤は、必ずしも必要ではない。
【0034】
せん断速度依存性粘度低下剤を配合するときは、その配合量は、1質量%以下であることが好ましく、0.05〜0.8質量%の範囲であることがより好ましい。せん断速度依存性粘度低下剤の配合量が多すぎると、粘度が高くなりすぎてスプレーに不具合が生じる。
【0035】
第一水溶液には、上記した成分の他に、一般的な焼付防止剤のような固体粒子を含んだ水溶液に使用される一般の分散剤や防錆剤を、本発明の焼付防止効果を損なわない程度において、添加することができる。
【0036】
水については、その量が極端に少ないとスムーズなスプレーができなくなり、逆に、極端に多いとガイドシュー表面で第一水溶液が流れ落ち易くなってしまう。したがい、水ガラスに含まれる水分、およびこれとは別に添加する水分を合わせた水の量は、第一水溶液全体の質量を基準(100質量%)として、24.0〜84.5質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることがより好ましい。本発明においては、このように水の量を調整して、第一水溶液の粘度を最適化し、溶媒性を確保することが好ましい。
【0037】
第二水溶液は、有機酸およびその水溶性アミン塩、無機酸およびその水溶性アミン塩、水溶性のアミン、水溶性のアルコール、ならびに水溶性の金属塩化物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含有している。
【0038】
有機酸としては、その全酸価が500mgKOH/g以上のものを用いることが好ましく、具体的には、ギ酸、酢酸、酪酸等の一塩基酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸等の二塩基酸、クエン酸等の三塩基酸等を用いることが好ましい。
【0039】
ここで、「全酸価」とは、JIS K 2501(石油製品及び潤滑油−中和評価試験方法)に記載のように、「試料1g中に含まれる全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム(mg)数」をいう。
【0040】
第二水溶液として、液体の物質をそのまま使用すること、または固体の物質を水に溶解可能な限界濃度にて使用することも可能だが、耐火性を持たせるため、5〜30質量%の水溶液として使用することがのぞましい。
【0041】
有機酸の水溶性アミン塩としては、前記有機酸のアミン塩と共に、アミンの塩としたとき水溶性になるような有機酸、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸等の二塩基酸、トリメリット酸等の三塩基酸等のアミン塩を挙げることができる。また、有機酸の水溶性アミン塩のアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアミノアルコールおよびアンモニア等を挙げることができる。
【0042】
無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸等を挙げることができる。第二水溶液として、液体の物質をそのまま使用すること、または固体の物質を水に溶解可能な限界濃度にて使用することも可能だが、人体に対する安全性の観点から、1〜20質量%の水溶液として使用することがのぞましい。
【0043】
無機酸の水溶性アミン塩としては、塩酸、硫酸、リン酸、硼酸、モリブデン酸、タングステン酸等の無機酸と、前記の有機酸の水溶性アミン塩におけるアミンとの塩を挙げることができる。
【0044】
水溶性のアミンとしては、前記の有機酸の水溶性アミン塩におけるアミンとして例示した、アミノアルコール等を挙げることができる。
【0045】
水溶性のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールエチルエーテル、エチレングルコールブチルエーテル等を挙げることができる。
【0046】
水溶性の金属塩化物としては、塩化鉄、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等を挙げることができる。水溶性の金属塩化物は、安全性、溶解性の点から、5〜50質量%の水溶液として使用することがのぞましい。
【0047】
第二水溶液としては、上記各成分を二種以上含有していてもよく、その場合は、各成分の合計が、10〜50質量%の水溶液として使用することがのぞましい。
【0048】
本発明の穿孔圧延時の継目無管の焼付防止方法は、ディスクロール型ガイドシューを備えた傾斜ロール穿孔圧延機を用いた管材の穿孔圧延において、ディスクロール型ガイドシューの周面に、第一水溶液を塗布する第一工程、および、ディスクロール型ガイドシューの周面に、第二水溶液を塗布して、前記周面に耐水性被膜を形成する第二工程を有する。
【0049】
第一工程において使用する第一水溶液は、上記した二液型熱間塑性加工用焼付防止剤における第一水溶液と同様であり、また、第二工程において使用する第二水溶液は、上記した二液型熱間塑性加工用焼付防止剤における第二水溶液と同様である。
【0050】
本発明の継目無管の製造方法においては、第一水溶液中の珪酸ナトリウムが、第二水溶液と反応して、ゲル化することにより、ディスクロール型ガイドシューの周面に耐水性の被膜が形成されると考えられる。これにより、焼付防止剤がロールの冷却水に流されることなく、ディスクロール型ガイドシューの周面に保持されるため、管材の焼付を防止でき、焼付疵のない表面性状の優れた継目無管を製造することができる。
【0051】
ガイドシューの回転軸が地面と垂直である横置き式のディスクロール型ガイドシューを備えた穿孔圧延機においては、傾斜ロールを冷却するためのロール冷却水が、ディスクロール型ガイドシューに多量にかかってしまう。よって、本発明の焼付防止方法は、このような横置き式のディスクロール型ガイドシューを備えた穿孔圧延機において、特に好適に用いることができる。
【0052】
第一水溶液および第二水溶液を塗布する、ディスクロール型ガイドシューの周面とは、円盤状のディスクロール型ガイドシューにおける円周側面である。通常、この円周側面は、穿孔圧延する管材の形状に沿って、縦断面半円形状となっている。
【0053】
第一工程においては、第一水溶液を、50〜500g/m、好ましくは100〜400g/mとなるようにディスクロール型ガイドシューの周面に塗布する。次いで、第二水溶液を30〜300g/m、好ましくは50〜200g/mとなるようにディスクロール型ガイドシューの周面に塗布する。なぜならば、第一水溶液の塗布量が少なすぎると、焼付防止成分が不足して、十分な焼付防止効果が得られないからである。また、第一水溶液の塗布量が多すぎると、第二水溶液を塗布しても被膜内部までゲル化させることができず、良好な耐水性被膜を形成することができない。
【0054】
第二工程においては、第二液水溶液を、第一水溶液の塗布量の約1/2の量で塗布することがのぞましい。なぜならば、第二水溶液の塗布量が少なすぎると、被膜内部まで十分にゲル化させることができないからである。また、第二水溶液の塗布量が多すぎるとゲル化する効果が飽和し、経済的に不利である。
【0055】
第一水溶液および第二水溶液の塗布方法は、特に限定されず、刷毛塗り、スプレー塗布等の手段を用いることができるが、ディスクロール型ガイドシューの周面に均一に塗布することができる点から、スプレー塗布とすることが好ましい。
【0056】
本発明の継目無管の製造方法を適用できる継目無管の材料は、特に限定されないが、特にステンレス鋼等の焼付が生じ易い材料に対して顕著な効果を発揮する。
【実施例】
【0057】
以下に製造例、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0058】
(製造例(1―1)〜(1−6))
酸化鉄(化学式:Fe、純度:98%、平均粒径:0.3μm)、珪酸ナトリウム(化学式:NaO・2SiO)、デンプン変性品(ブリティッシュガム140、松谷化学社製)、キサンタンガム(ケルザン、ケルコ社製)、水を、それぞれ表1に示す割合において混合して、第一水溶液を得た。なお、表1において各成分は、第一水溶液全体を基準(100質量%)とした質量%により表されている。
【0059】
【表1】

【0060】
(製造例(2−1)〜(2−14))
表2に示す各成分を、表2に示す所定の割合にて含む第二水溶液を調整した。なお、表2において各成分は、第二水溶液全体を基準(100質量%)とした質量%により表されている。また、製造例(2−14)においては、市販品の水溶液(大明化学工業社製、タイパック(濃度:Alとして10〜11質量%))をそのまま用いた。
【0061】
【表2】

【0062】
(比較製造例(1−1)〜(1−7))
表3に示す各成分を、表3に示す所定の割合にて含む第一水溶液を調整した。ここで、酸化鉄、珪酸ナトリウム、デンプン変性品、キタンサンガムとしては、製造例(1−1)と同様のものを使用し、イソブチレンマレイン酸共重合物のアンモニウム塩としては重量平均分子量80,000〜90,000のイソブチレンマレイン酸共重合体をアンモニアで中和したものを使用し、ポリアクリル酸ナトリウム塩としては、重量平均分子量が約500,000のものを使用し、カルボキシメチルセルロースとしては重量平均分子量が10,000〜15,000のナトリウム塩を使用した。なお、表1において各成分は、第一水溶液全体を基準(100質量%)とした質量%により表されている。また、比較製造例(1−4)においては、硼酸アンモニウムが室温にて析出したが、加熱により溶解した。
【0063】
【表3】

【0064】
(比較製造例(2−1)〜(2−6))
表4に示す各成分を、表4に示す所定の割合にて含む第二水溶液を調整した。なお、表4において各成分は、第二水溶液全体を基準(100質量%)とした質量%により表されている。なお、比較製造例(2−1)および比較製造例(2−2)において用いているカプロン酸およびオレイン酸は、全酸価が500mgKOH/g以下の有機酸である。
【0065】
【表4】

【0066】
(実施例1〜16)
表5に示す第一水溶液および第二水溶液を組み合わせて、本発明の二液型熱間塑性加工用焼付防止剤として、硬化性の評価、耐焼付き性の評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0067】
(比較例1〜17)
表5に示す第一水溶液および第二水溶液を組み合わせて、あるいは、第一水溶液のみで(比較例10および比較例11)、または、第二水溶液のみで(比較例17)、熱間塑性加工用焼付防止剤として、硬化性の評価、耐焼付き性の評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0068】
(評価方法)
(1)硬化性
硬化性は、次の手順により評価した。まず、第一水溶液を約60g/mガラス板に塗布し、この第一液を塗布したガラス板を、直ちに第二水溶液中に1秒間浸漬させた。その後、ガラス板を取り出し、取り出してから1秒後に、ガラス板の表面をウェスで拭き取った。得られたガラス板を以下の基準により評価した。
○:ガラス板上に形成された被膜が全て残存した。
△:ガラス板上に形成された被膜が半分以上残存した。
×:ガラス板上に形成された被膜が全て除去された。あるいは、被膜が形成されなかった。
【0069】
(2)耐焼付き性
耐焼付き性は、次の手順により評価した。試験形態を示した概略図面を図1に示す。まず、2相ステンレス鋼(25Cr−7Ni−3Mo鋼)部材1を、高周波コイル6によって1000℃に加熱し、合金鋳鉄系のロール材2を20rpmの回転速度にて回転させながら、ノズル3から第一水溶液、ノズル4から第二水溶液を(場合によっては、第一水溶液または第二水溶液のいずれか一方を)、ロール材の表面にスプレー塗布した。さらに、部材1によって、ロール材2の表面を摺動する直前に、ノズル5から水をロール材2の表面にふきかけた。部材1は、196Nにて、3秒間(ロール材2が一回転する間)ロール材2の表面に押し付けた。その後のロール材2の表面の様子を以下の基準により評価した。
○:ロール材2の表面を50倍に拡大して観察しても焼付きが認められなかった。
△:ロール材2の表面を肉眼で観察すると焼付きが認められなかったが、50倍に拡大して観察すると微小な焼付きが認められた。
×:ロール材2の表面を肉眼で観察することにより、焼付きが認められた。
【0070】
【表5】

【0071】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う二液型熱間塑性加工用焼付防止剤ならびに継目無管の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】耐焼付き性を評価する試験形態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 部材
2 ロール材
3 ノズル(第一水溶液)
4 ノズル(第二水溶液)
5 ノズル(水)
6 高周波コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一水溶液および第二水溶液からなる二液型熱間塑性加工用焼付防止剤であって、
前記第一水溶液が、前記第一水溶液全体の質量を100質量%として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%含有し、
前記第二水溶液が、有機酸およびその水溶性アミン塩、無機酸およびその水溶性アミン塩、水溶性のアミン、水溶性のアルコール、ならびに水溶性の金属塩化物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含有する、二液型熱間塑性加工用焼付防止剤。
【請求項2】
前記第一水溶液が、前記第一水溶液全体の質量を100質量%として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%、酸化鉄を10〜60質量%、澱粉変性品を0〜5質量%、およびせん断速度依存性粘度低下剤を0〜1質量%含有する、請求項1に記載の二液型熱間塑性加工用焼付防止剤。
【請求項3】
前記せん断速度依存性粘度低下剤が、キタンサンガムである、請求項2に記載の二液型熱間塑性加工用焼付防止剤。
【請求項4】
ディスクロール型ガイドシューを備えた穿孔圧延機を用いて管材を穿孔圧延する継目無管の製造方法において、ディスクロール型ガイドシューの周面に、第一水溶液を塗布する第一工程、および、
ディスクロール型ガイドシューの周面に、第二水溶液を塗布して、前記周面に耐水性被膜を形成する第二工程を有し、
前記第一水溶液が、前記第一水溶液全体の質量を100質量%として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%含有し、
前記第二水溶液が、有機酸およびその水溶性アミン塩、無機酸およびその水溶性アミン塩、水溶性のアミン、水溶性のアルコール、ならびに水溶性の金属塩化物からなる群から選ばれる一種または二種以上を含有することを特徴とする
継目無管の製造方法。
【請求項5】
前記第一水溶液が、前記第一水溶液全体の質量を100質量%として、珪酸ナトリウムを無水物換算で10〜30質量%、酸化鉄を10〜60質量%、澱粉変性品を0〜5質量%、およびせん断速度依存性粘度低下剤を0〜1質量%を含有する、請求項4に記載の継目無管の製造方法。
【請求項6】
前記せん断速度依存性粘度低下剤が、キタンサンガムである、請求項5に記載の継目無管の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−219556(P2006−219556A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33015(P2005−33015)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(391045668)パレス化学株式会社 (8)
【Fターム(参考)】