説明

二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼鋳片、および、二相ステンレス鋼鋼材

【課題】Sn含有量と熱間製造性との関連を明らかにし、その対策を見出すことにより熱間製造性が良好で安価なSn含有二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼鋳片、および、二相ステンレス鋼鋼材を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜7.0%、P:0.05%以下、S:0.0001〜0.0010%、Ni:0.5〜5.0%、Cr:18.0〜25.0%、N:0.10〜0.30%、Al:0.05%以下、Ca:0.0010〜0.0040%、Sn:0.01〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、CaとO含有量の比率Ca/Oが0.3〜1.0である二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼鋳片、および、二相ステンレス鋼鋼材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価なSn含有二相ステンレス鋼に係わり、海水淡水化機器、輸送船のタンク類、各種容器等として使用可能な二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼鋳片、および、二相ステンレス鋼鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用の二相ステンレス鋼はCr,Mo,Ni,Nを多量に含有し、耐食性が良好である。一方で、最近、Cr、Ni、Mo等を節減した合金元素節減型二相ステンレス鋼が開発されている。ここで、合金元素節減型二相ステンレス鋼とは耐孔食性がSUS304、316L相当の耐食性を示す鋼であって、合金元素の含有量で指標化される耐孔食指数PI(=Cr+3.3Mo+16N)がおよそ30ないしは28以下のステンレス鋼を指す。耐孔食性、耐酸性に有用な合金元素の含有量を低減したこれらの鋼において、汎用の二相ステンレス鋼と同等の耐食性を得ることは困難であるが、安価な代替元素を用いた改良鋼の開発は可能であると考えられる。
【0003】
Snを含有する二相ステンレス鋼に関しては、従来より種々の提案がなされており、例えば、25%以上のCrを含有する二相ステンレス鋼においてSnを選択元素として0.01〜0.1%含有する鋼(下記特許文献1,2参照)、合金元素節減型二相ステンレス鋼において1%以下もしくは0.1%のSnを含有する鋼(下記特許文献3,4参照)が開示されている。これらの特許文献ではSn含有による耐食性改善を目的としているが、鋼材の熱間製造性について具体的にSn含有量との関係は検討されていなかった。
【0004】
本発明者らは、Snによる耐酸性、耐孔食性改善の可能性に着目し、本発明が対象とする合金元素節減型二相ステンレス鋼においてSnの含有量と耐食性および熱間製造性の関係を調査した結果、0.01〜0.2%のSn含有により耐食性改善の可能性は見い出せるものの、Snを多量に含有させたこれらの二相ステンレス鋼において熱間製造性が低下し、鋼材の歩留まりが低下する頻度が増加し、著しいコストアップが予想されることを把握した。
【0005】
本発明者等は、特許文献1〜4をはじめとする従来のSn含有二相ステンレス熱間圧延鋼材の製造技術に関する従来の知見について検討した結果、二相ステンレス鋼に含まれるSnによる熱間脆性発生の温度域やSn含有量との関係性、その他の元素の含有量との関係性についての知見が乏しいことを見い出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−158437号公報
【特許文献2】特開平4−072013号公報
【特許文献3】特開2010−222593号公報
【特許文献4】WO2009−119895号公報
【特許文献5】特開2002−69592号公報
【特許文献6】特開平7−118805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はSn含有量と熱間製造性との関連を明らかにし、その対策を見い出すことにより熱間製造性が良好で安価なSn含有二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼鋳片、および、二相ステンレス鋼鋼材を提供することを課題とする。このような合金元素節減型二相ステンレス鋼は、耐食性とコストのバランスが優れると予想されることから、各分野において広く使用される可能性が高まると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために、本発明が対象とする合金元素節減型二相ステンレス鋼についてSn含有量、熱間製造性を改善すると言われるCa、B、希土類元素(REM)等の含有量を変更した溶解材を作成し、以下の実験をおこなった。
【0009】
溶解材を鋳造した鋳片より、引張試験片を採取し、1200〜700℃で高温引張をおこない、高温延性を絞り(破断面の断面減少率)で評価するとともに、熱間鍛造と熱間圧延により板厚12mmの熱間圧延鋼板を得て、耳割れ性を評価した。一部の鋼に対して熱間圧延加熱温度、圧延温度を変更して耳割れ性を評価し、高温延性との相関を求めた。
【0010】
前記特許文献5や特許文献6に記載されているように、一般的に二相ステンレス鋼において高温引っ張りで評価される鋳片の絞りが60%を下回ると、多くの場合、その鋳片の熱間圧延で著しい耳割れを生じることが知られている。このため、この分野の技術者は鋳片の高温における絞りを少なくとも60%以上にすることを目標として鋼の精錬、鋳造および熱間加工をおこなうことがしばしばである。ところが、本発明者らが0.1%前後のSnを含有する合金元素節減型二相ステンレス鋼(ベース組成21Cr−2Ni−3Mn−0.18N)鋳片の高温延性を評価したところ、いずれも絞り値が60%を下回ることが数回の溶製実験で明らかとなった。高温延性の評価は、8mmφの丸棒の平行部を高周波を用いて1200℃に加熱後、破断試験をおこなう温度まで低下し、その温度にて20mm/秒の速度で引っ張り破断させ、断面の収縮率を求めたものである。そのデータの一例を図1に示した。このことから、Snを添加した安価な合金元素節減型二相ステンレス鋼を実用的に得ることはほとんど望みが無いと考えられた。
【0011】
本発明者らは真空溶解と鋳造で得られた合金元素節減型Sn含有二相ステンレス鋼の鋳片を熱間圧延して発生した耳割れ長さを観察する中で、まれに耳割れが少ないSn含有二相ステンレス鋼鋼材が存在することを見い出した。熱間圧延実験は、90〜44mm厚の鋳片を1200℃に加熱後、複数の圧延パスを通じて12〜6mmの厚さまで減厚するもので、仕上げ圧延温度を900℃程度に制御した。耳割れは左右に発生するが、それぞれの最大長さを合算して耳割れ長さとし評価した。その鋼材耳割れ長さを鋳片の高温延性の絞り値の極小値(図1では約900℃で得られている)で整理してもきれいな相関が得られなかったが、図2に示すように1000℃の絞り値で整理したところ、Sn含有にかかわらず、良い相関を示すことが明らかとなった。なお、図2において、○プロットは図1のSn−A、Sn−Bに対応しており、◆プロットはその他のSn含有に関わらず検討した実験結果である。
【0012】
本発明者らは上記耳割れが少ない鋼材が確実に得られる条件を見出すべく、さらに種々の元素含有量を変化させた溶製・鋳造・圧延実験をおこない、鋳片の高温延性評価、熱間圧延後の鋼材耳割れ評価を精力的におこなった。以上の実験を通じて、得られた知見をもとにして、安価なSn含有合金元素節減型二相ステンレス鋼について明示した本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.03%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜7.0%、P:0.05%以下、S:0.0001〜0.0010%、Ni:0.5〜5.0%、Cr:18.0〜25.0%、N:0.10〜0.30%、Al:0.05%以下、Ca:0.0010〜0.0040%、Sn:0.01〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、CaとO含有量の比率Ca/Oが0.3〜1.0である二相ステンレス鋼。
(2)更に,Mo:1.5%以下、Cu:2.0%以下、W:1.0%以下、Co:2.0%以下、から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の二相ステンレス鋼。
(3)更に、V:0.05〜0.5%、Nb:0.01〜0.20%、Ti:0.003〜0.05%、から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の二相ステンレス鋼。
(4)更に、B:0.0050%以下、Mg:0.0030%以下、REM:0.10%以下、から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
(5)(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼の組成を有し、1000℃における破断絞り値が70%以上であることを特徴とする二相ステンレス鋼鋳片。
(6)(5)に記載の二相ステンレス鋼鋳片を熱間加工して製造したことを特徴とする二相ステンレス鋼鋼材。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、海水淡水化機器、輸送船のタンク類、各種容器等として従来の鋼より改善した耐食性を有し、コストとのバランスの優れた二相ステンレス鋼、二相ステンレス鋼鋳片、および、二相ステンレス鋼鋼材を提供することができ、産業の発展に寄与するところは極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Sn含有およびSn無添加二相ステンレス鋼の高温延性を例示する図である。
【図2】熱延後の耳割れ長さと1000℃での絞りの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、先ず、本発明の(1)に記載の限定理由について説明する。なお、各成分の含有量は質量%を示す。
【0017】
なお、本発明においてステンレス鋼鋳片とは、鋳造後、熱間加工や鍛造等の加工を施す前の状態の鋼を意味し、ステンレス鋼鋼材とは、前記鋳片を種々方法により加工した後の鋼片、熱間圧延鋼板、冷間圧延鋼板、鋼線、鋼管等を意味する。また、ステンレス鋼とは鋳片や鋼材など鋼としての形態全般を意味する。上記の加工は熱間および冷間の加工を含む。
【0018】
Cは、ステンレス鋼の耐食性を確保するために、0.03%以下の含有量に制限する。0.03%を越えて含有させると熱間圧延時にCr炭化物が生成して、耐食性,靱性が劣化する。
【0019】
Siは、脱酸のため0.05%以上添加する。しかしながら、1.0%を超えて添加すると靱性が劣化する。そのため、上限を1.0%に限定する。好ましい範囲は、0.2〜0.7%である。
【0020】
Mnはオーステナイト相を増加させ靭性を改善する効果を有する。また窒化物析出温度TNを低下させる効果を有するため本発明鋼材では積極的に添加することが好ましい。母材および溶接部の靱性のため0.1%以上添加する。しかしながら、7.0%を超えて添加すると耐食性および靭性が劣化する。そのため、上限を7.0%に限定する。好ましい含有量は1.0〜6.0%であり、さらに好ましくは2.0〜5.0%である。
【0021】
Pは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性および靱性を劣化させるため、0.05%以下に限定する。好ましくは、0.03%以下である。
【0022】
Sは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性、靱性および耐食性をも劣化させるため、0.0010%以下に限定する。また、0.0001%未満に低減することは脱硫精錬のためのコストが高くなる。このため0.0001〜0.0010%と定めた。好ましくは、0.0002〜0.0006%である。
【0023】
Niは、オーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、さらに靭性を改善するため0.5%以上含有させる。Ni含有量を増加することにより窒化物析出温度を低下させることが可能になる。一方高価な合金であり、省合金型二相ステンレス鋼を対象とした本発明鋼ではコストの観点より5.0%以下の含有量に制限する。好ましい含有量は1.0〜4.0%であり、さらに好ましくは1.5〜3%である。
【0024】
Crは、基本的な耐食性を確保するため18.0%以上含有させる。一方25.0%を超えて含有させるとフェライト相分率が増加し靭性および溶接部の耐食性を阻害する。このためCrの含有量を18.0%以上25.0%以下とした。好ましい含有量は19.0〜23.0%である。
【0025】
Nは、オーステナイト相に固溶して強度、耐食性を高める有効な元素である。このために0.10%以上含有させる。一方、固溶限度はCr、Mn含有量に応じて高くなるが、本発明鋼においては0.30%を越えて含有させるとCr窒化物を析出して靭性および耐食性を阻害するようになるとともに熱間製造性を阻害するようになるため含有量の上限を0.30%とした。好ましい含有量は0.10〜0.25%である。
【0026】
Alは、鋼の脱酸元素であり、必要に応じて鋼中の酸素を低減するために0.05%以上のSiとあわせて含有させる。Sn含有鋼において酸素量の低減は熱間製造性確保のために必須であり、このために必要に応じて0.003%以上の含有が必要である。一方でAlはNとの親和力が比較的大きな元素であり、過剰に添加するとAlNを生じてステンレス鋼の靭性を阻害する。その程度はN含有量にも依存するが、Alが0.05%を越えると靭性低下が著しくなるためその含有量の上限を0.05%と定めた。好ましくは0.04%以下である。
【0027】
Caは、鋼の熱間製造性のための重要な元素であり、鋼中のOとSを介在物として固定し、熱間製造性を改善するために含有させることが必要である。本発明鋼ではその目的のために0.0010%以上含有させる。また過剰な添加は耐孔食性を低下させる。そのためその含有量の上限を0.0040%とした。
【0028】
Snは、本発明鋼の耐食性を改善するために含有させる。そのために最低0.01%の含有が必要である。さらには0.02%以上含有させることが好ましい。一方でSnは鋼の熱間製造性を阻害する元素であり、本発明が対象とする合金元素型節減型二相ステンレス鋼において、特に900℃以下でのフェライト相とオーステナイト相の界面の熱間強度を低下する。その低下の程度はS,Ca、O含有量にも依存するが、本発明中のその他の制限を加えても0.2%を越えて含有させると熱間製造性の低下を防ぎ得なくなるため、含有量の上限を0.2%と定めた。
【0029】
OとCaの含有量の比率Ca/Oは、本発明鋼の熱間製造性および耐食性を改善するための重要な成分指標である。Sn含有鋼の熱間製造性の改善のためにCa/Oの下限が制限される。Sn含有鋼の高温延性は特に900℃以下の温度で低下するが、Ca/Oの値が0.3未満であると1000℃の高温延性をも低下し、熱間製造性が大きく損なわれる。このため本発明鋼においてCa/Oを0.3以上に制限する。一方、Caを過剰に添加し、Ca/Oが1.0を越えるようになると耐孔食性が損なわれるようになる。またさらにCaが過剰になると1000〜1100℃にかけての高温延性も損なわれるようになる。このためCa/Oの上限を1.0と定めた。好ましくは0.4〜0.8である。
【0030】
Oは、不可避的不純物であり、その上限を特に定めなかったが、非金属介在物の代表である酸化物を構成する重要な元素であり、その酸化物の組成制御は熱間製造性の改善にとって非常に重要である。また粗大なクラスター状酸化物が生成すると表面疵の原因となる。このため、その含有量は低く制限する必要がある。本発明では先に述べたように、Ca含有量とO含有量の比率を0.3以下とすることでOの含有量を制限した。O含有量の上限は0.005%以下が好ましい。
【0031】
(2)の発明では耐食性を付加的に高めるため、必要に応じて含有させる元素について規定した。その限定理由について説明する。
【0032】
Moは、ステンレス鋼の耐食性を付加的に高める非常に有効な元素であり、必要に応じて含有させることができる。耐食性改善のためには0.2%以上含有させることが好ましい。一方で金属間化合物析出を促進する元素であり、本発明鋼では熱間圧延時の析出を抑制する観点より1.5%の含有量を上限とする。
【0033】
Cuは、ステンレス鋼の酸に対する耐食性を付加的に高める元素であり、かつ靭性を改善する作用を有するため、必要に応じて0.3%以上含有させることが推奨される。2.0%を越えて含有させると熱間圧延時に固溶度を超えてεCuが析出し脆化を発生するので上限を2.0%とした。Cuを含有させる場合の好ましい含有量は0.3〜1.5%である。
【0034】
Wは、Moと同様にステンレス鋼の耐食性を付加的に向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。本発明鋼において耐食性を高める目的のためには1.0%を上限に含有させる。好ましい含有量は0.05〜0.5%である。
【0035】
Coは、鋼の靭性と耐食性を高めるために有効な元素であり、選択的に添加される。その含有量は0.03%以上が好ましい。2.0%を越えて含有させると高価な元素であるためにコストに見合った効果が発揮されないようになるため上限を2.0%と定めた。添加する場合の好ましい含有量は0.03〜1.0%である。
【0036】
次にCrよりも窒化物の生成傾向が大きい元素について(3)で規定した内容について説明する。V,Nb,Tiは何れも必要に応じて添加することができ、微量に含有させた場合には耐食性が向上する傾向を有する。
【0037】
Vが形成する窒化物、炭化物は熱間加工および鋼材の冷却過程で生成し、耐食性を高める作用を有する。この理由として十分な確認はなされていないが、700℃以下でのクロム窒化物の生成速度を抑制する可能性が考えられる。この耐食性の改善のために0.05%以上含有させる。0.5%を超えて含有させると粗大なV系炭窒化物が生成し、靱性が劣化する。そのため、上限を0.5%に限定する。添加する場合の好ましい含有量は0.1〜0.3%の範囲である。
【0038】
Nbが形成する窒化物、炭化物は熱間加工および鋼材の冷却過程で生成し、耐食性を高める作用を有する。この理由として十分な確認はなされていないが、700℃以下でのクロム窒化物の生成速度を抑制する可能性が考えられる。この耐食性の改善のために0.01%以上含有させる。一方過剰な添加は熱間圧延前の加熱時に未固溶析出物として析出するようになって靭性を阻害するようになるためその含有量の上限を0.20%と定めた。添加する場合の好ましい含有率範囲は、0.03%〜0.10%である。
【0039】
Tiは、極微量で酸化物、窒化物、硫化物を形成し鋼の凝固および高温加熱組織の結晶粒を微細化する元素である。またV、Nbと同様にクロム窒化物のクロムの一部に置換する性質も有する。0.003%以上の含有によりTiの析出物が形成されるようになる。一方0.05%を越えて二相ステンレス鋼に含有させると粗大なTiNが生成して鋼の靭性を阻害するようになる。このためその含有量の上限を0.05%と定めた。Tiの好適な含有率は0.005〜0.020%である。
【0040】
更に、本発明の(4)に記載の熱間加工性の向上をさらに図るため必要に応じて含有させるB,Mg,REMを下記の通り限定する。
【0041】
B,Mg,REMは、いずれも鋼の熱間加工性を改善する元素であり、その目的で1種または2種以上添加される。B,Mg,REMいずれも過剰な添加は逆に熱間加工性および靭性を低下するためその含有量の上限を次のように定めた。Bについては0.0050%、Mgについては0.0030%、REMについては0.10%である。好ましい含有量はそれぞれB:0.0005〜0.0030%、Mg:0.0001〜0.0015%、REM:0.005〜0.05%である。ここでREMはLaやCe等のランタノイド系希土類元素の含有量の総和とする。
【0042】
以上、説明してきた本発明の(1)〜(4)の何れかに記載の特徴を有することで、Snを含有した省合金二相ステンレス鋼の熱間製造性を顕著に改善することが出来、鋳片の段階では、1000℃における破断絞り値が70%以上となる。また、この鋳片に熱間加工を含む加工を施すことで歩留まり良くかつ表面疵の少ない二相ステンレス鋼鋼材を得ることが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例について記載する。表1に供試鋼の化学組成を示す。なお表1に記載されている成分以外は残部がFeおよび不可避的不純物元素である。また表1に示した成分について含有量が記載されていない部分は不純物レベルであることを示し、REMはランタノイド系希土類元素を意味し、含有量はそれら元素の合計を示している。
【0044】
いずれの鋼も厚さが100mmの鋳片とし、まず破断絞りを評価した。評価は、8mmφの丸棒の平行部を高周波を用いて1200℃に加熱後、破断試験をおこなう温度まで低下し、その温度にて20mm/秒の速度で引っ張り破断させ、断面の収縮率を求めた。破断絞りが70%以上を○、60〜70%未満を△、60%未満を×として表2に記載した。該鋳片は、熱間鍛造により60mm厚の鋼片とし、これを熱間圧延素材とした。熱間圧延は1150〜1250℃の所定の温度に加熱した後、実験室の2段圧延機により実施し、圧下を繰り返し、25mmで板厚を調整後、1000℃から仕上圧延をおこない、900℃で最終仕上圧延を実施し、最終板厚が12mm、板幅が120mmになるように圧延した。この熱間圧延鋼板の左右の耳部に発生した耳割れの最大値を測定し、左右の最大値の和を求めた。この耳割れの和が5mm未満を○、5〜10mmを△、10mm超を×とし評価して、表2に示した。
【0045】
さらにこの鋼板に溶体化熱処理を施した。溶体化熱処理は1000℃に設定した熱処理炉に鋼板を挿入し、5分の均熱時間を取った後に抽出し、その後常温まで水冷した。
【0046】
鋼板の耐食性は、硫酸中の腐食速度により評価した。硫酸中の腐食速度は3mm厚×25mm幅×25mm長の試験片に対して、沸騰、5%の硫酸中で6hの浸漬試験を実施し、浸漬前後の重量測定により重量減少速度を求めた。硫酸中の腐食速度が0.3g/m2・hr未満を○、0.3〜1g/m2・hrを△、1g/m2・hr以上を×と評価した評価結果を表2に示した。
【0047】
衝撃特性を幅方向に長く採取したシャルピー試験片で測定した。試験片はフルサイズで2mmVノッチを圧延方向に加工し、−20℃で各2本の試験を実施し、その平均値にて衝撃特性を評価した。衝撃値が100J/cm2超を○、50〜100J/cm2を△、50J/cm2未満を×と評価し、表2に記載した。
【0048】
表2に示す実施例より、本発明の条件を満足する鋼No.1〜33は、熱間製造性、耐食性および衝撃特性が良好である一方、本発明の条件を満足しない鋼No.A〜Uは、熱間製造性、耐食性および衝撃特性のいずれかが劣っていた。
【0049】
以上の実施例からわかるように本発明によりSn添加により耐食性が改善され、熱間製造性が良好で安価な合金元素節減型二相ステンレス鋼が得られることが明確となった。
【表1】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、耐食性が改善された安価な合金元素節減型二相ステンレス鋼材を提供することが可能となり、海水淡水化機器、輸送船のタンク類、各種容器等として使用できるなど産業上寄与するところは極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03%以下、
Si:0.05〜1.0%、
Mn:0.1〜7.0%、
P:0.05%以下、
S:0.0001〜0.0010%、
Ni:0.5〜5.0%、
Cr:18.0〜25.0%、
N:0.10〜0.30%、
Al:0.05%以下、
Ca:0.0010〜0.0040%、
Sn:0.01〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、CaとO含有量の比率Ca/Oが0.3〜1.0である二相ステンレス鋼。
【請求項2】
更に,Mo:1.5%以下、
Cu:2.0%以下、
W:1.0%以下、
Co:2.0%以下、から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項3】
更に、
V:0.05〜0.5%、
Nb:0.01〜0.20%、
Ti:0.003〜0.05%、から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項4】
更に、
B:0.0050%以下、
Mg:0.0030%以下、
REM:0.10%以下、から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の組成を有し、1000℃における破断絞り値が70%以上であることを特徴とする二相ステンレス鋼鋳片。
【請求項6】
請求項5に記載の二相ステンレス鋼鋳片を熱間加工して製造したことを特徴とする二相ステンレス鋼鋼材。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87352(P2013−87352A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231352(P2011−231352)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(503378420)新日鐵住金ステンレス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】