説明

二足歩行ロボット

【課題】脚体にかかる負担を軽減してロボットの作業能力を向上させることができる二足歩行ロボットを提供する。
【解決手段】上体1を上側の上部基体5と下側の下部基体6とで構成する。下部基体6に上部フレーム9と下部フレーム10とを設ける。下部フレーム10に脚体2を連結する。上部フレーム9に回転軸12を介して上部基体5を連結する。上部フレーム9を、揺動軸27を介して下部フレーム10に連結する。下部フレーム10に対して上部フレーム9を揺動させることにより、ロボットの上体1で前屈姿勢をとることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二足歩行ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の二足歩行ロボットは、基本的には人間の動作を模した人型のロボットであり、人間と同様に上体の下端に二本の脚体が延設されていると共に、上体の両側には二本の腕体が延設されている。
【0003】
そして、二足歩行ロボットによる種々様々の作業を多様な環境下で行う上では、該ロボットの腕体の先端部ができるだけ遠方まで届くことが要求される。そこで、本出願人は先に、上体を上側の上部基体と下側の下部基体とで構成して、上部基体に腕体を設けると共に下部基体に脚体を設け、更に、上部基体と下部基体とを縦方向軸線の回転軸を介して相対的に回転可能に連結して設けた二足歩行ロボットを提案した(特許文献1参照)。
【0004】
これによれば、上部基体を下部基体に対して回転させることで、二本の腕体が延設された上部基体を種々の方向に向けることができ、腕体の長さを長くすることなく腕体の先端部の届く範囲を拡大することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4549626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のロボットにおいては、例えば、これ以上前方に移動できない状態に脚体が規制されたとき、上体の前方に延ばした腕体の先端部を更に遠方に届かせるために、下部基体に連結された脚体の付け根部分の関節機構(人間の股関節に相当する)を介して上体を前方に傾動させることが行われる。
【0007】
しかし、脚体の付け根部分の関節機構は、通常の歩行時に常に駆動されるものであり、更に、上体を前方に傾動させる動作を行う際にも駆動される場合には、脚体の関節機構やそれを駆動するために設けられた駆動モータ等に多大な負担がかかる不都合がある。
【0008】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、脚体にかかる負担を軽減してロボットの作業能力を向上させることができる二足歩行ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、上体が上側の上部基体と下側の下部基体とから構成され、上部基体の両側に二本の腕体が延設され、下部基体の下端から二本の脚体が延設された二足歩行ロボットにおいて、前記下部基体は、前記脚体が連結された下部フレームと、該下部フレームに横方向軸線の揺動軸を有する揺動機構を介して揺動自在に連結されて該下部フレームの上側に位置すると共に、前記上部基体が縦方向軸線の回転軸を有する回転機構を介して回転自在に連結された上部フレームとを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の二足歩行ロボットは、上体が上部基体(例えば、人間の少なくとも胸を含む部分に相当)と下部基体(例えば、人間の少なくとも腰を含む部分に相当)とで構成され、更に、下部基体が下部フレームと上部フレームとを備えている。
【0011】
そして、上部フレームが揺動軸を介して下部フレームに対し揺動自在とされていることにより、脚体の付け根部分を屈曲させることなく、上体を前屈させる姿勢をとることができる。これにより、上体を前屈させるときの脚体への負担を軽減することができる。しかも、脚体が規制されて前方に移動できない場合であっても、前方に延ばした腕体の先端部を更に遠方に届かせることができて作業能力が向上する。なお、本明細書における前屈姿勢とは、完全な前屈姿勢である必要はなく、主に、おじぎに相当する姿勢を意味している。
【0012】
また、本発明においては、前記下部フレームの剛性が前記上部フレームよりも大とされていることが好ましい。
【0013】
ここで、本発明の二足歩行ロボットは、前記下部基体が、互いに別体である前記下部フレームと前記上部フレームとを揺動軸を介して互いに連結した構成であるため、二本の脚体により歩行動作や走る動作を行うことを考慮すると、下部基体には十分な剛性が必要となる。しかし、単に下部基体の剛性を高めただけでは、それに伴って下部基体の重量が増加するため、ロボットの総重量が大となり、二足歩行ロボットの各動作時の駆動源として設けられたモータ等の負担や消費電力が増加するおそれがある。
【0014】
そこで、前記脚体が連結された下部フレームの剛性を上部フレームよりも大とすることにより、剛性を高めたことに伴う重量の増加が下部フレーム側のみで抑えられ、その分、上部フレームの軽量化を可能としてロボットの総重量の増加を抑えることができる。
【0015】
更に、本発明においては、前記下部基体の剛性を前記上部基体よりも大とすることで、下部基体により必要な剛性を得ながら上部基体の重量増加を抑えることができ、一層確実にロボットの総重量の増加を抑えることができる。
【0016】
また、本発明において、前記下部フレームは、前記二本の脚体による歩行動作時に両脚体から付与される荷重に対する中立軸が、当該荷重に伴う負荷が小となる位置に設定されていることを特徴とする。
【0017】
前記下部基体は、二本の脚体が連結されていることにより、歩行動作に伴って脚体からねじりや曲げ等の荷重が付与される。このとき、下部基体を構成している部材の肉厚を全体的に大としたり、下部基体に全体的に補強部材をに取り付けたりして下部基体の剛性を全体にわたり一様に向上させることも考えられるが、こうすると、下部基体の重量も大となる。
【0018】
一方、本発明においては、中立軸の位置が脚体の関節機構(股関節)に比較的近い下部フレームに設定される。これによれば、脚体から中立軸に付与される負荷が小さくなり、下部基体における剛性を必要最小限に抑えることができるので、下部基体を軽量化することができると同時に下部フレームの小型化も可能となる。なお、前記下部フレームにおける中立軸の位置は、下部フレームの形状やリブ等で容易に調整することができる。
【0019】
また、本発明において、前記下部基体には、前記回転軸の回りに該下部基体に対する前記上部基体の回転を駆動する回転駆動手段と、前記揺動軸の回りに前記下部フレームと前記上部フレームとの相対的な揺動を駆動する揺動駆動手段とが設けられていることを特徴とする。これによれば、下部基体に対して上部基体を回転させたとき、上部基体の回転方向の慣性モーメントを低減して回転軸や回転駆動手段にかかる負担を軽減することができる。
【0020】
更にこのとき、前記回転駆動手段は前記上部フレームに設けられ、前記揺動駆動手段は前記下部フレームに設けられていることが好ましい。これにより、回転駆動手段と揺動駆動手段との荷重を上部フレームと下部フレームとで分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態の二足歩行ロボットの直立状態における側面図。
【図2】図1の二足歩行ロボットの要部の構成を示す説明図。
【図3】本実施形態における回転機構を示す説明図。
【図4】上部基体の回転動作を示す説明図。
【図5】本実施形態における揺動機構を示す説明図。
【図6】上部基体の前屈動作を示す説明図。
【図7】脚体からの荷重による下部フレームの変形状態を誇張して示す説明的斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の二足歩行ロボットは、図1に示すように、上体1、脚体2、腕体3、及び頭部4を備えた人型のロボットである。なお、図1においては、片側の脚体2及び腕体3のみが図示されているが、脚体2と腕体3とは人間と同様に、左右一対づつ設けられている。
【0023】
このロボットの上体1は、上側の上部基体5と、下側の下部基体6とに分割されて構成されている。上部基体5は、腕体3が連結されると共に頭部4を支持する主胴部5aと、主胴部5aの背面側の副胴部5bとで構成されている。図2に示すように、主胴部5aには、ロボットの動作用電源としてのバッテリ7が搭載され、副胴部5bには、ロボットの作動制御を担うコントロールユニット8が搭載されている。なお、バッテリ7とコントロールユニット8とは主胴部5aと副胴部5bとの何れに搭載されていてもよい。
【0024】
また、図2に示すように、下部基体6は、上部基体5の機枠5cが連結される上部フレーム9と、脚体2が連結される下部フレーム10とを備えている。
【0025】
上部基体5と上部フレーム9とは、図3に示すように、回転機構11を介して連結されている。回転機構11は、上部基体5の機枠5cに上端部が連結されて上部フレーム9に回転自在に支持された回転軸12と、上部フレーム9に支持された回転駆動モータ13と、回転駆動モータ13の回転を回転軸12に伝達する回転伝達手段14とを備えている。回転駆動モータ13と回転伝達手段14とは、本発明の回転駆動手段を構成するものである。これにより、図4に示すように、上部基体5は、回転駆動モータ13の回転により下部基体6に対して回転軸12の回りに回転駆動され、上部基体5を所定の角度範囲(人間の動作を模倣する場合には人間として違和感のない回転範囲)で、所望の方向に向けさせることができる。
【0026】
回転伝達手段14は、回転軸12の下端に取り付けた従動プーリ15と回転駆動モータ13の出力軸に取り付けた駆動プーリ16とを無端ベルト17により接続した構成が採用されている。
【0027】
また、図1に示すように、上部基体5の主胴部5aの左右の各側部には肩部18が設けられており、この肩部18に内蔵された図示しない肩関節機構から腕体3が延設されている。腕体3は、その先端に設けられた手先部19と肩部18との間に、肩部18側から順に肘関節20及び手首関節21を有している。更に、主胴部5aの上端部には、ロボットの視覚用の撮像装置(図示しない)等を内蔵した頭部4が支持されている。
【0028】
下部基体6の下端には脚体2が下方に延設されている。脚体2は、図2に示すように、下部基体6の下部フレーム10に連結されており、図1に示すように、脚体2の上端(付け根部分)と下端に設けられた足平部22との間に、上から順に股関節23、膝関節24及び足首関節25を有している。
【0029】
下部基体6に備える上部フレーム9と下部フレーム10とは、図5(a)及び図5(b)に示すように、揺動機構26を介して連結されている。揺動機構26は、図5(a)に示すように、上部フレーム9の前端部と下部フレーム10の前端部とを連結する揺動軸27と、下部フレーム10に支持された揺動駆動モータ28と、揺動駆動モータ28の出力軸の回転を昇降動作に変換して、上部フレーム9の後端側を持ち上げる一対の連結アーム29a,29bからなる揺動リンク部材29とを備えている。揺動駆動モータ28と揺動リンク部材29とは、本発明の揺動駆動手段を構成するものである。これにより、図5(b)に示すように、上部フレーム9は、揺動駆動モータ28及び揺動リンク部材29により下部フレーム10に対して揺動軸27の回りに揺動駆動すれば、図6に示すように、上部基体5を下部基体6に対して前方に傾動させて、例えば、人間のおじぎに相当する姿勢に前屈させることができる。
【0030】
ここで、本実施形態のロボットは、上述のように前屈姿勢をとることができる反面、下部基体6が上部フレーム9と下部フレーム10とに分割されていることによって、下部基体6の剛性が不十分となるおそれがある。このため、下部フレーム10の剛性を増加させることが考えられるが、こうすると、下部フレーム10の重量が増加し或いは形状が大型化するおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態においては、下部フレーム10の剛性を必要最小限に抑えて下部フレーム10の軽量化を可能としている。
【0032】
即ち、二足歩行時や走り動作による脚体2を振る動作及び着地の際には、股関節23にかかる反力が下部フレーム10に入力される。このときの反力は、例えば図7に説明的に誇張して示すように、中立軸Xに対するねじれ荷重に相当する。なお、符号30で示した部分は脚体2の連結部分である。
【0033】
本実施形態においては、下部基体6が上部フレーム9と下部フレーム10とに分割されていることによって、下部フレーム10の中立軸Xを股関節23から近い位置に設定することができる。中立軸Xと股関節23との距離が近いことにより、下部フレーム10に入力される荷重も小さくなる。そして、下部フレーム10に入力される荷重が小さいことにより、下部フレーム10の剛性を必要最小限に抑えることができる。これにより、下部フレーム10を軽量化することができる。
【0034】
更に、歩行時や走り動作時に脚体2の着地等により下方からの突き上げが生じ、下部フレーム10に対して曲げ荷重が付与された場合にも、股関節23から中立軸Xまでの距離が小さく設定されていることにより、下部フレーム10の変形を小とすることができる。従って、下部フレーム10の剛性を増加させることはなく、下部フレーム10を軽量化することができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、中立軸Xへの負荷が小となる位置として股関節23の近くを挙げたが、下部フレーム10における中立軸Xの位置は、下部フレーム10の形状変更やリブ(図示せず)を設ける等により容易に調整することができる。
【0036】
また、本実施形態のロボットは、前述したように、下部基体6の上部フレーム9と下部フレーム10とでは、下部フレーム10の剛性が上部フレーム9の剛性よりも大きくなるように形成されているので、剛性を高めたことに伴う重量の増加が下部フレーム側のみで抑えられ、その分、上部フレームの軽量化を可能としてロボットの総重量の増加を抑えることができる。更に、下部基体6の剛性が上部基体5の剛性よりも大きくなるように形成されているので、下部基体により必要な剛性を得ながら上部基体の重量増加を抑えることができ、ロボットの総重量の増加を一層確実に抑えることができる。
【0037】
また、本実施形態の二足歩行ロボットは、回転機構11を作動させることで、図3に示すように、上部基体5を下部基体6に対して回転させることができ、揺動機構26を作動させることで、図6に示すように、上部基体5を下部基体6に対して揺動させることができる。
【0038】
従って、図4に示すように上部基体5を回転させたときには、一方の肩部18が下部基体6の前方方向に移動するので、この肩部18から延設されている腕体3を下部基体6の前方方向に伸ばすことで、ロボット全体を脚体2の作動により前進させずとも、下部基体6の前方のより遠い箇所まで、手先部19を届かせることができる。更に、図6に示すように、上部基体5を前方に傾動させて前屈姿勢をとると、両方の肩部18が下部基体6の前方方向に移動するので、両腕体3を下部基体6の前方方向に伸ばすことで、ロボット全体を脚体2の作動により前進させずとも、下部基体6の前方のより遠い箇所まで、両腕体3の手先部19を共に届かせることができる。
【符号の説明】
【0039】
1…上体、2…脚体、3…腕体、5…上部基体、6…下部基体、7…バッテリ(重量物)、9…上部フレーム、10…下部フレーム、12…回転軸、13…回転駆動モータ(回転駆動手段)、14…回転伝達手段(回転駆動手段)、27…揺動軸、28…揺動駆動モータ(揺動駆動手段)、29…揺動リンク部材(揺動駆動手段)、X…中立軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上体が上側の上部基体と下側の下部基体とから構成され、上部基体の両側に二本の腕体が延設され、下部基体の下端から二本の脚体が延設された二足歩行ロボットにおいて、
前記下部基体は、前記脚体が連結された下部フレームと、該下部フレームに横方向軸線の揺動軸を有する揺動機構を介して揺動自在に連結されて該下部フレームの上側に位置すると共に、前記上部基体が縦方向軸線の回転軸を有する回転機構を介して回転自在に連結された上部フレームとを備えることを特徴とする二足歩行ロボット。
【請求項2】
前記下部フレームの剛性が前記上部フレームよりも大とされていることを特徴とする請求項1記載の二足歩行ロボット。
【請求項3】
前記下部基体は、その剛性が前記上部基体よりも大とされていることを特徴とする請求項1又は2記載の二足歩行ロボット。
【請求項4】
前記下部フレームは、前記二本の脚体による歩行動作時に両脚体から付与される荷重に対する中立軸が、当該荷重に伴う負荷が小となる位置に設定されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の二足歩行ロボット。
【請求項5】
前記下部基体には、前記回転軸の回りに該下部基体に対する前記上部基体の回転を駆動する回転駆動手段と、前記揺動軸の回りに前記下部フレームと前記上部フレームとの相対的な揺動を駆動する揺動駆動手段とが設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の二足歩行ロボット。
【請求項6】
前記回転駆動手段は前記上部フレームに設けられ、前記揺動駆動手段は前記下部フレームに設けられていることを特徴とする請求項5記載の二足歩行ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−157947(P2012−157947A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20050(P2011−20050)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】