説明

二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系フィルムを含む熱成形用積層シート

【課題】耐熱性、熱成形性に優れ、かつ得られた成形容器本体の剛性が良好な熱成形用積層シートを得る。
【解決手段】熱可塑性プラスチックからなる基材と二軸延伸ポリエステル系フィルムの二層からなる熱成形用積層シートにおいて、二軸延伸ポリエステル系フィルムとしてフィルム物性のバランスに優れ、かつポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30重量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなるOPBT系フィルムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱成形用積層シートに関して、さらに詳しくは、シートの薄膜化が可能であり、耐熱性、熱成形性、および成形安定性に優れ、かつ得られた成形容器本体の剛性が高い二軸延伸ポリブチレンテレフタレート系(以下、OPBT系)フィルムを含む熱成形用積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンビニエンスストア、デパート、スーパー等の食品売場では、トレー、カップ、丼容器、弁当容器等の食品容器内に、惣菜、麺類、サラダ等の食品が詰められて売られている。このような食品容器は、食品を収納する容器本体と、容器本体を密封する蓋体とで構成されており、一般に、容器本体は、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレン、フィラー入りポリプロピレン、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、耐熱発泡ポリスチレン、非晶性ポリエチレンテレフタレート(以下、A−PET)、結晶化ポリエチレンテレフタレート(以下、C−PET)等の熱可塑性プラスチックからなる基材を真空、圧空、または真空−圧空成形機で熱成形して製造されている(特許文献1)。また、シートの薄膜化、成形容器本体の剛性の向上、衝撃や屈曲による割れ防止を目的に、熱可塑性プラスチックからなる基材に各種延伸フィルムを貼り合わせた積層タイプが主流となっている。
【0003】
ところで、近年、コンビニエンスストア等で購入した食品を、食品容器に収納された状態でそのまま電子レンジで温めることが日常的に行なわれているが、食品を食品容器ごと電子レンジで温めると、油分を含む食品は150℃ぐらいまで温度が上昇する場合があり、また、油分を含まない食品であっても、例えばレトルト食品においては、120〜135℃のレトルト殺菌に耐え得る高い耐熱性が要求されていた。さらに、耐熱性とともに重要な特性として、真空、圧空法等での優れた熱成形性(深絞り成形性、成形安定性)、および得られた成形容器本体の高い剛性が挙げられ、上記特性を満足する成形容器、およびそれらに用いられる熱成形用シートの開発が求められていた。
【0004】
前述した優れた耐熱性と熱成形性を有する熱成形用積層シート、および得られる成形容器本体の剛性の向上について、これまで種々の方法が提案されている。特許文献2では、A−PETシートを再延伸、再熱処理することにより結晶化させて耐熱性を向上させる方法が提案されている。また特許文献3では、C−PETシートの熱成形性を向上させるべく、エラストマーを添加し軟質化する方法が提案されている。さらには、特許文献3、特許文献4、特許文献5では、積層タイプにおいて、基材に貼り合わせる延伸フィルムとして、高剛性で成形性に劣る二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの代替として、ポリエチレンテレフタレート、または共重合ポリエチレンテレフタレートに他ポリエステル成分やエラストマーをブレンドして柔軟性を向上させた二軸延伸ポリエステル系フィルムを用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−329972号公報
【特許文献2】特開2007−331831号公報
【特許文献3】特開2002−37993号公報
【特許文献4】特開2002−179892号公報
【特許文献5】特開2002−321277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、耐熱性と熱成形性の両特性を同時に満足するにはA−PETやC−PETシートの改良のみでは不十分であり、また薄膜化や容器本体の剛性の向上、割れ防止の点でも限界があった。また、積層タイプにおいて、熱可塑性プラスチックからなる基材に貼り合わせる延伸フィルムとして、柔軟性を向上させた二軸延伸ポリエステル系フィルムを用いて成形性を向上させる方法は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと比べると一定レベルの改善は見られるものの、深絞り成形や複雑な容器形状を成形する場合には必ずしも満足する特性が得られず、またテンター法による二軸延伸フィルム故にフィルム物性のバランスの点でも十分では無く、改良の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、少なくとも熱可塑性プラスチックからなる基材と二軸延伸ポリエステル系フィルムの二層からなる熱成形用積層シートにおいて、二軸延伸ポリエステル系フィルムとして、フィルム物性のバランスに優れ、かつポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30重量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなるOPBT系フィルムを用いることにより、耐熱性、および熱成形性が極めて良好な熱成形用積層シートを得ることが出来ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の物及び手段を提供する。
[1]少なくとも熱可塑性プラスチックからなる基材と二軸延伸ポリエステル系フィルムの二層からなる熱成形用積層シートであって、二軸延伸ポリエステル系フィルムがポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30重量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなり、該二軸延伸ポリエステル系フィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が170MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下であることを特徴とする熱成形用積層シート。
[2]前記熱可塑性プラスチックからなる基材がポリエステル系基材であることを特徴とする上記[1]に記載の熱成形用積層シート。
[3]前記二軸延伸ポリエステル系フィルムが、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の熱成形用積層シート。
[4]前記二軸延伸ポリエステル系フィルムが、溶融押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して得られた未延伸原反を、縦横それぞれ2.7〜4.0倍同時二軸延伸することにより得られることを特徴とする上記[1]〜[3]に記載の熱成形用積層シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らは、少なくとも熱可塑性プラスチックからなる基材と二軸延伸ポリエステル系フィルムの二層からなる熱成形用積層シートにおいて、二軸延伸ポリエステル系フィルムとしてフィルム物性のバランスに優れ、かつポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30重量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなるOPBT系フィルムを用いることにより、優れた耐熱性と熱成形性を有する熱成形用積層シートを得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】チューブラー同時二軸延伸装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(OPBT系フィルムの原料) OPBT系フィルムに用いられる主原料は、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであれば特に限定されるものでは無いが、具体的にはグリコール成分としての1,4−ブタンジオール、二塩基酸成分としてのテレフタル酸を主成分としたホモタイプが好ましい。また、最適な機械的強度特性を付与するためには、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のうち、融点200〜250℃、IV値1.10〜1.35dl/gの範囲のものが好ましく、さらには融点215〜225℃、IV値1.15〜1.30dl/gの範囲のものが特に好ましい。
【0012】
また、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂には、ポリエチレンテレフタレート樹脂をポリブチレンテレフタレートに対して30重量%以下の範囲で適宜配合することが可能であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂を配合することによりポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化を適度に抑制することが可能となり、得られる延伸フィルムの柔軟性は増し、その結果、熱成形性が格段に向上する。配合するポリエチレンテレフタレート樹脂は、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであれば特に限定されるものでは無いが、具体的にはグリコール成分としてのエチレングリコール、二塩基酸成分としてのテレフタル酸を主成分としたホモタイプが特に好ましい。最適な機械的強度特性を付与するためには、ポリエチレンテレフタレート系樹脂のうち、融点240〜265℃、IV値0.55〜0.90dl/gの範囲のものが好ましく、さらには融点245〜260℃、IV値0.60〜0.80dl/gの範囲のものが特に好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂を30重量%より多く配合すると、延伸フィルム、または未延伸原反の剛性が高くなり過ぎて、結果として熱成形性の低下や原反割れに伴う延伸不調が発生するため好ましくない。なお、必要に応じて滑剤、アンチブロッキング剤、無機増量剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、着色剤、結晶化抑制剤、結晶化促進剤等の添加剤を加えても差し支えない。また、用いるポリエステル系樹脂ペレットは加熱溶融時の加水分解による粘度低下を避けるため、加熱溶融前に水分率が0.05wt%以下、好ましくは0.01wt%以下になるように十分予備乾燥を行った上で使用するのが好ましい。
【0013】
(ポリブチレンテレフタレート系未延伸原反の製造方法)OPBT系フィルムを安定的に製造するには、延伸前未延伸原反の結晶化を極力抑制する必要があり、押出されたポリブチレンテレフタレート系溶融体を冷却して製膜する際、該ポリマーの結晶化温度領域をある速度以上で冷却する、すなわち原反冷却速度が重要な因子となる。その原反冷却速度は200℃/秒以上、好ましくは250℃/秒以上、特に好ましくは350℃/秒以上であり、高い冷却速度で製膜された未延伸原反は極めて低い結晶状態を保っているため、延伸時のバブルの安定性が飛躍的に向上する。さらには高速での製膜も可能になることから、生産性も向上する。冷却速度が200℃/秒未満では、得られた未延伸原反の結晶性が高くなり延伸性が低下するばかりでなく、極端な場合には延伸バブルが破裂し、延伸が継続しない場合がある。
【0014】
原反製膜方式は、前記原反冷却速度を満たす方法であれば特に限定されるものでは無いが、急冷製膜の点では内外直接水冷式がもっとも適している。その内外直接水冷式による原反製膜法の概要を以下に説明する。まず、ポリブチレンテレフタレート系樹脂は210〜280℃の温度に設定された押出機によって溶融混練され、Tダイ製膜の場合は、シート状の溶融樹脂を水槽に浸漬することにより内外とも直接水冷する。一方、環状製膜の場合は、押出機に下向きに取り付けられた環状ダイより下方に押し出され、溶融管状薄膜が成形される。
【0015】
次に環状ダイに連結されている冷却マンドレルに導かれ、冷却マンドレル各ノズルから導入された冷却水が溶融管状薄膜の内側に直接接触して冷却される。同時に、冷却マンドレルと組み合わせて使用される外部冷却槽からも冷却水が流され、溶融管状薄膜の外側にも冷却水が直接接触して冷却される。内部水、および外部水の温度は30℃以下が好ましく、急冷製膜の観点では20℃以下が特に好ましい。30℃より高くなると、原反の白化や冷却水の沸騰による原反外観不良等を招き、延伸も徐々に困難になる。
【0016】
(OPBT系フィルムの製造方法)ポリブチレンテレフタレート系未延伸原反は、25℃以下、好ましくは20℃以下の雰囲気温度に保ちつつ延伸ゾーンまで搬送する必要があり、当該温度管理下では滞留時間に関係無く、製膜直後の未延伸原反の結晶性を維持することが出来る。この延伸開始点までの結晶化制御は、前記未延伸原反の製膜技術とともに、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の二軸延伸を安定して行う上で重要なポイントと言える。
【0017】
同時二軸延伸法は、例えばチューブラー方式やテンター方式が挙げられるが、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法が特に好ましい。図1はチューブラー法同時二軸延伸装置の概略図である。延伸ゾーンに導かれた未延伸原反1は、一対の低速ニップロール2間に挿通された後、中に空気を圧入しながら延伸用ヒーター3で加熱するとともに、延伸終了点に冷却ショルダーエアーリング4よりエアーを吹き付けることにより、チューブラー法によるMD、およびTD同時二軸延伸フィルム7を得た。延伸倍率は、延伸安定性や得られたOPBT系フィルムの強度物性、透明性、および厚み均一性を考慮すると、MD、およびTDそれぞれ2.7〜4.0倍の範囲であることが好ましい。延伸倍率が2.7倍未満である場合、得られたOPBT系フィルムの引張強度や衝撃強度が不十分となり好ましくない。また4.0倍超の場合、延伸により過度な分子鎖のひずみが発生するため、延伸加工時に破断やパンクが頻繁に発生し、安定的に生産出来ない。延伸温度は、40〜80℃の範囲が好ましく、特に好ましくは45〜65℃である。前記の高い冷却速度で製造した未延伸原反は、結晶性が低いため、比較的低温域の延伸温度で安定して延伸可能である。80℃を超える高温延伸では、延伸バブルの揺れが激しくなり、大きな延伸ムラが発生して厚み精度の良好なフィルムは得られない。一方、40℃未満の延伸温度では、低温延伸による過度な延伸配向結晶化が発生し、フィルムの白化等を招き、場合によって延伸バブルが破裂し延伸継続困難となる。このように二軸延伸加工を施すことにより、特に強度物性が飛躍的に向上し、かつ異方性が少ないOPBT系フィルムを得ることが出来る。
【0018】
得られたOPBT系フィルムを熱ロール方式またはテンター方式、あるいはそれらを組み合わせた熱処理設備に任意の時間投入し、180〜240℃、特に好ましくは190〜210℃で熱処理を行うことにより、熱寸法安定性に優れたOPBT系フィルムを得ることができる。熱処理温度が220℃よりも高い場合は、ボーイング現象が大きくなり過ぎて幅方向での異方性が増加する、または結晶化度が高くなり過ぎるため強度物性が低下してしまう。一方、熱処理温度が185℃よりも低い場合は、フィルムの熱寸法安定性が大きく低下するため、ラミネートや印刷加工時にフィルムが縮み易くなり、実用上問題が生じる。
【0019】
OPBT系フィルムの厚みは、特に制限されるものでは無いが、一般コンバーティングフィルムとして用いる場合は5〜50μm、好ましくは10〜20μmである。
【0020】
OPBT系フィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における引張破断強度は、いずれも170MPa以上であることが好ましく、これにより安定した熱成形性の確保、および成形容器本体の剛性の向上による衝撃や屈曲、突刺し等による割れ防止、および二次加工適性等が格段に向上する。引張破断強度が170MPaより小さい場合、熱成形性、および得られた成形品の剛性の点で不十分であり、好ましくない。さらに、異方性を小さくするためには、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下に調整することが好ましく、特に好ましくは1.3以下である。一方、引張破断伸度は50%以上150%以下であり、好ましくは100%以上150%以下である。150%より大きい、あるいは50%より小さい場合、印刷やポリエステル系基材と貼り合わせる際の張力により、フィルムの破断や伸び等が発生しやすくなるため好ましくない。このような特性をもつフィルムは、上述した製造方法により安定して得られる。
【0021】
(熱成形用積層シートの構成)熱成形用積層シートは、少なくとも前記OPBT系フィルムのいずれか一方の面に、熱可塑性プラスチックからなる基材を積層して構成される。具体的には、熱可塑性プラスチック基材としてポリプロピレン、発泡ポリプロピレン、フィラー入りポリプロピレン、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、耐熱発泡ポリスチレン、A−PET、C−PET等が挙げられるが、リサイクル性を鑑みると、貼り合わせるOPBT系フィルムと同系素材のポリエステル系基材がもっとも好ましい。ポリエステル基材としては特に限定するものではなく、市販のA−PETシート、またはC−PETシートを用いることが出来るが、熱成形性の観点ではIV値0.50〜0.90dl/gのA−PETシートが好ましい。IV値が0.50未満の場合や回収PETボトルのフレークを用いた樹脂から成形したシートである場合、表面の平滑性が良好でない場合があるので特別な前処理が必要である。また、熱可塑性プラスチック基材の厚みは0.1〜1.0mmが好ましく、特に好ましくは0.4〜0.6mmである。0.1mmより小さくなると、熱成形工程や衝撃や屈曲によりシートの割れが発生する場合があり、また1.0mmより大きくなると、成形性の向上等への効果も大きく改善されるわけではなく、総厚みが厚くなるだけでリサイクル性の点でも好ましくない。
【0022】
本発明のOPBT系フィルムを含む熱成形用シートには、OPBT系フィルム表面、あるいは熱可塑性プラスチック基材表面にグラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷といった既知の印刷方法により印刷を施して用いることも出来る。
【実施例】
【0023】
以下に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
<実施例1> (OPBT系フィルムの製造)
140℃で5時間熱風乾燥機にて乾燥したポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット(ホモタイプ、融点=224℃、IV値=1.26dl/g)を押出機中、シリンダーおよびダイ温度210〜275℃の各条件で溶融混練して溶融管状薄膜を環状ダイより下方に押し出した。引き続き、冷却マンドレルの外径を通しカラプサロールで折り畳んだ後、引取ニップロールにより1.2m/minの速度で製膜引取りを行った。溶融管状薄膜に直接接触する冷却水の温度は内側、外側ともに20℃であり、原反冷却速度は416℃/秒であった。未延伸原反の折径は143mmであり、ポリブチレンテレフタレート樹脂中にはあらかじめ滑剤としてステアリン酸マグネシウムを1000ppm添加した。以上の条件で製膜した未延伸原反1を20℃の雰囲気中で低速ニップロール2まで搬送し、図1に示す構造のチューブラー同時二軸延伸装置にて縦横同時二軸延伸を行った。延伸倍率はMDが3.0倍、TDが2.8倍であり、延伸温度は60℃であった。次に、この二軸延伸フィルム7を熱ロール式、およびテンター式熱処理設備にそれぞれ投入し、210℃で熱処理を施すことにより二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを得た。なお、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムの厚みは15μmであった。
【0024】
(原反冷却速度の測定方法)前記原反冷却速度は下記に示した式により算出した。溶融薄膜、および原反温度は接触式の放射温度計にて測定した。また、冷却開始点は溶融薄膜が冷却水、または冷却装置に接触する部分、冷却終了点は未延伸原反の温度が30℃に到達する部分をいう。
原反冷却速度(℃/秒)=(冷却開始点直前の溶融薄膜温度−冷却終了点の原反温度)(℃)/(冷却開始点〜冷却終了点間距離)(m)×冷却開始点〜冷却終了点間の原反の通過速度(m/秒)
【0025】
(熱成形性の評価方法) 二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを含む熱成形用積層シートの熱成形性を評価した。具体的には、まず得られた二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムのいずれか一方の面に、A−PETシート(アテナ工業(株)製、厚み0.4mm)を配置し、ドライラミネートすることにより積層シートを得た。得られた積層シートをヒーターでシート表面温度が90℃になるように予熱した後、FKC型真空圧空成形機と雌型アルミ金型(上部径180mm×95mm、底部径165×75mm、深さ15mm)を用い、金型温度180℃、0.5MPa圧空条件下で真空圧空成形することにより、熱成形体を得た。金型を閉じている熱固定時間は10秒であった。なお、熱成形性は成形容器各コーナー部に丸み等が無く、金型形状通りに成形出来ているかを以下のように目視にて評価した。
◎: 各コーナー部に丸みが全く無く、金型形状通りに成形できる。
○: 金型形状通りに概ね成形できるが、各コーナー部にわずかに丸みがあり、輪郭がややぼやけている。
×: 金型形状通りに成形できない、または成形過程で成形容器の割れが発生する。
【0026】
(耐熱性の評価方法)得られた熱成形体について、電子レンジによる耐熱性試験を行った。評価方法は、熱成形体の中に食用油を1g入れて電子レンジを用いて700W×15分間加熱した後、成形容器の変形、白化の有無を目視にて確認した。電子レンジで加熱した直後の食用油の温度は、接触式の放射温度計にて測定した結果165℃であった。耐熱性は以下の基準により評価した。
◎: 成形容器本体の変形、白化が全く無い。
○: 成形容器本体の変形、白化がわずかに見られるが、実用上問題が無い。
×: 成形容器本体が大きくたわみ、または明確な白化が見られる。
【0027】
(成形容器の剛性の評価方法)得られた成形容器の剛性の評価を行った。評価方法は、熱成形容器内に1kgの重りを入れた後、2mの高さからステンレス鋼板の上に落下させて容器の割れ具合を目視にて確認した。剛性は以下の基準で評価した。
◎: 成形容器本体の割れが全く無い。
○: 成形容器本体がわずかに割れたが実用上問題が無い。
×: 成形容器本体が酷く割れ、使用出来ない。
【0028】
(フィルムの引張破断強伸度の評価方法) 得られたフィルムの引張破断強伸度は、オリエンテック製―テンシロン(RTC−1210−A)を使用し、試料幅15mm、チャック間100mm、引張速度200mm/minの条件で、0℃(MD)方向/45°方向/90°(TD)方向/135°方向の4方向についてそれぞれ測定を行った。得られた応力−ひずみ曲線に基づいて求めた、各方向での引張破断強度、破断伸度、および4方向の引張破断強度のうち最大値と最小値の比を表1に示した。
【0029】
<実施例2〜3、比較例1〜2> 実施例1において、延伸倍率を表1に記載した条件に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0030】
<実施例4〜7、比較例3> 実施例1において、ポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を表1に記載した配合率で配合した原料を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0031】
<比較例4> 実施例1において、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムに変えて、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績製、E5100、厚み12μ)を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0032】
<比較例5> 実施例1において、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムをラミネートせず、A−PETシート(アテナ工業(株)製、厚み0.4mm)単独で使用した以外は実施例1と同様に行った。
【0033】
表1に示すように、熱可塑性プラスチックからなる基材と二軸延伸ポリエステル系フィルムの二層からなる熱成形用積層シートにおいて、二軸延伸ポリエステル系フィルムとしてフィルム物性のバランスに優れ、かつポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30重量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなるOPBT系フィルムを用いることにより、優れた耐熱性と熱成形性を有する熱成形用積層シートを得ることが出来ることが分かった。さらには得られた熱成形容器本体の剛性が高く、衝撃や屈曲による割れを防止できることも分かった。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のOPBT系フィルムを含む熱成形用積層シートは、弁当容器、トレー、丼容器他、多様な形状の容器向けに深絞りが可能な主要基材としてもっとも好適に用いることが出来る。さらには、異方性が少なく、機械的性質や寸法安定性が良好であることから、乾燥食品、水物食品、保香食品、レトルト食品等の一般食品包装用基材として利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 未延伸原反
2 低速ニップロール
3 延伸用ヒーター
4 冷却ショルダーエアーリング
5 カラプサロール
6 高速ニップロール
7 二軸延伸フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性プラスチックからなる基材と二軸延伸ポリエステル系フィルムの二層からなる熱成形用積層シートであって、二軸延伸ポリエステル系フィルムがポリブチレンテレフタレート樹脂、またはポリブチレンテレフタレート樹脂に対してポリエチレンテレフタレート樹脂を30重量%以下の範囲で配合したポリエステル系樹脂組成物のいずれかからなり、該二軸延伸ポリエステル系フィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が170MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下であることを特徴とする熱成形用積層シート。
【請求項2】
前記熱可塑性プラスチックからなる基材がポリエステル系基材であることを特徴とする熱成形用積層シート。
【請求項3】
前記二軸延伸ポリエステル系フィルムが、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱成形用積層シート。
【請求項4】
前記二軸延伸ポリエステル系フィルムが、溶融押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して得られた未延伸原反を、縦横それぞれ2.7〜4.0倍同時二軸延伸することにより得られることを特徴とする請求項1または2に記載の熱成形用積層シート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−171094(P2012−171094A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31642(P2011−31642)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】