説明

二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法

【課題】 ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなる、フィルムの熱処理工程や高温下での使用における耐カール性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率差が絶対値で0.005以上0.020以下であり、かつ主配向軸に垂直な方向の屈折率が大きい面が180℃熱処理におけるカール内面である二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする耐カール性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。更に詳しくは、フィルムの熱処理工程や高温下での使用における耐カール性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法、特に高温に晒される可能性のある自動車の車内の機器類において使用されるのに適したメンブレンスイッチ用基材フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
メンブレンスイッチとはスペーサーを介在した2つの基材フィルムの対向する面に各々相対する接点(電極)を配置してなるものであり、押下することで、導電、絶縁のスイッチ作用が容易にできるものである。近年、電卓、パーソナルコンピューター等のキーボードスイッチ、テレビ、VTR等の各種リモートコントロールのパネルスイッチ等としてメンブンスイッチが多用されている。このメンブレンスイッチは押下の繰り返しによりスイッチ作用を行うものであるため、その基材フィルムには耐永久変形性が要求される。従来、メンブレンスイッチの基材フィルムとして、その耐永久変形性、電極との密着性、印刷との接着性等の理由からポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と省略する場合がある)フィルムが一般的に多用されてきた。最近のカーオーディオ、カーエアコンのタッチパネル化、あるいはカーナビゲーションシステム等の普及による車内でのリモートコントロールスイッチの使用により、高温下での永久変形性がメンブレンスイッチの基材フィルムに要求されるようになり、特開昭62−082620号公報に見られるように基材フィルムをPETフィルムよりガラス転移点の高いポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(以下「PEN」と省略する場合がある)フィルムにすることが提案されている。さらに特開平10−321076号公報では、メンブレンスイッチの製造工程における加熱工程が終了した後、Tg以下で熱処理を行う前に徐冷処理することで、フィルム平面内での収縮を減らし、耐永久変形性が向上することが開示されている。しかしながら、この前熱処理中に二軸配向フィルムの長手方向(MD方向)と直交する方向(TD方向)でカールが発生し易く、生産効率が低下することがあった。また国際公開第2004/033540号パンフレットには、フィルムを断裁した端面に微小な亀裂やバリが発生したり、ロールとして保管した後にフィルムに巻癖がつくのを防ぐ目的で、フィルムの製膜方向(MD方向)または幅方向(TD方向)の少なくとも一つの方向において、両表面の屈折率が1.770〜1.790の範囲にあり、かつ両表面の屈折率の差が絶対値で0.015以下であるメンブレンスイッチ基材用のPENフィルムが開示されている。国際公開第2004/033540号パンフレットによると、フィルムを断裁した端面に発生する微小な亀裂やバリを改善するには、両表面の屈折率の差をできる限り同一にすることが好ましいものであるが、フィルムの熱処理工程や、高温下での使用において依然として幅方向(TD方向)でカールが発生することがあった。
このように、フィルムの熱処理工程や、高温下での使用しても、幅方向(TD)方向におけるカールの小さい、耐カール性にすぐれるPENフィルムが得られていないのが現状である。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−082620号公報
【特許文献2】特開平10−321076号公報
【特許文献3】国際公開第2004/033540号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分としてなり、フィルムの熱処理工程や高温下での使用に対して耐カール性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法を提供することにある。更に本発明の目的は、高温に晒される可能性のある自動車の車内の機器類において使用されるのに適したメンブレンスイッチ用基材フィルムおよびメンブレンスイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、フィルム製膜工程においてTダイから吐出後のフィルム状溶融物を冷却ロールで冷却させる際、フィルム両面の冷却速度が異なり結晶化状態が異なることが原因で、加熱後に主配向軸方向にカールが発生することを見出し、一方の延伸工程、特に主配向軸に垂直な方向の延伸工程でフィルム両面の温度差を大きくして、冷却ロールに接するフィルム面の主配向軸に垂直な方向の分子配向、すなわち屈折率を反対面より大きくすると、フィルム両面の結晶、分子配向のバランスが良くなり、加熱によるカールが低減することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率差が絶対値で0.005以上0.020以下であり、かつ主配向軸に垂直な方向の屈折率が大きい面が180℃熱処理におけるカール内面である二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0007】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率が1.725〜1.755の範囲にあること、全繰り返し構造単位のモル数を基準としてエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを80モル%以上含むこと、180℃で5分間熱処理したときの主配向軸方向におけるカール高さが7.5mm以下であること、の少なくともいずれか一つを具備するものも包含する。
また本発明は、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムからなるメンブレンスイッチ用基材フィルム;該メンブレンスイッチ用基材フィルム、スペーサおよび電極からなるメンブレンスイッチも包含する。
【0008】
さらに本発明は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステルを二軸方向に延伸する工程を含む二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であり、一方向の延伸工程において、フィルム両面の表面温度差が少なくとも4℃であることも包含される。また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法は、フィルム両面の温度差が少なくとも4℃以上である延伸方向が、もう一方の延伸方向より低い延伸倍率であること、延伸倍率がより低い延伸方向がフィルム連続製膜方向であること、フィルム両面の温度は冷却ロールに接する側が反対側よりも低いことも製造方法の一態様として包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの熱処理工程や高温下での使用に対して耐カール性に優れることから、フィルムに高温熱処理が加えられる工程が含まれる用途において生産効率が高くなる。また高温下で使用される用途において良好な平面性が保つことができ、例えばメンブレンスイッチ用基材フィルムとして有用である。さらに、該二軸配向ポリエステルフィルムをメンブレンスイッチの基材フィルムとして含むメンブレンスイッチを提供することができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート>
本発明におけるポリエステルフィルムは、主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである。かかるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、主たるジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸が用いられ、主たるグリコール成分としてエチレングリコールが用いられる。ナフタレンジカルボン酸としては、たとえば2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ここで「主たる」とは、本発明のフィルムの成分であるポリマーの構成成分において全繰返し構造単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上を意味する。
【0011】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、共重合成分が20モル%以内のポリエチレンナフタレンジカルボキシレート共重合体であってもよい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートがコポリマーである場合、コポリマーを構成する共重合成分としては、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができ、かかる化合物としては例えば、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸の如きオキシカルボン酸、或いはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールの如き2価アルコールを好ましく用いることができる。これらの化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を用いることができる。またこれらの中で好ましくは酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸であり、グリコール成分としてはトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物である。
【0012】
また、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに混合できるポリエステル或いはポリエステル以外の有機高分子として、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン4,4’−テトラメチレンジフェニルジカルボキシレート、ポリエチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリネオペンチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等のポリエステルを挙げることができ、これらの中でポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが挙げられる。これらのポリエステルまたはポリエステル以外の有機高分子は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする層を構成するポリマーの全繰り返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下の範囲で用いることが好ましく、1種であっても2種以上を併用してもよい。
【0013】
また、本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってよく、極く少量の例えばグリセリン、ペンタエリスリトール等の如き三官能以上のエステル形成性化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
【0014】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、従来公知の方法で、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。また、かかる溶融重合によって得られたポリエチレンナフタレンジカルボキシレートをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において固相重合することもできる。固相重合を行うことで、二軸配向フィルムの耐加水分解特性がさらに良好になる。
【0015】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は0.50dl/g以上0.90dl/g以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.52dl/g以上0.85dl/g以下、特に好ましくは0.53dl/g以上0.80dl/g以下である。固有粘度が下限に満たない場合、溶融押出し後のフィルムが脆くなり、フィルムの製膜時の破断が発生し易くなる。また、シートセンサーの加工工程においてフィルムの割れが発生しやすくなることがある。また、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度が上限を超えると、ポリマーの固有粘度をかなり高くする必要があり、通常の合成手法では重合に長時間を要し生産性が悪くなる。また二軸配向フィルムに製膜した後のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は0.45dl/g以上0.85dl/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.47dl/g以上0.80g/dl以下、特に好ましくは0.50dl/g以上0.75g/dl以下の範囲である。なお、固有粘度はo−クロロフェノールを溶媒として用いて、35℃で測定した値(単位:dl/g)である。
【0016】
<屈折率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率差が絶対値で0.005以上0.020以下である。ここで、主配向軸方向とは、フィルム面内の全ての方向において最も配向が高い方向を指し、主配向軸に垂直な方向とは、フィルム面内の全ての方向において最も配向が高い方向に垂直な方向を指す。二軸延伸フィルムにおいては、通常は延伸倍率が高い方向が主配向軸方向、延伸倍率が低い方向が主配向軸に垂直な方向となる。主配向軸は、フィルム面内の屈折率の分布を測定し、最も屈折率の高い方向により求められる。
【0017】
フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率差の下限は、好ましくは0.007以上、特に好ましくは0.010以上である。また、かかる屈折率差の上限は、好ましくは0.020以下、特に好ましくは0.015以下である。かかる屈折率差が下限に満たない場合、高温下での耐永久変形性を向上させるための熱処理工程やメンブレンスイッチの製造工程における印刷後の乾燥工程などにおいてフィルムの主配向軸方向にカールが発生しやすくなる。一方、該屈折率差が上限を超える場合もカールが発生しやすくなる。
フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率差を上述の範囲にするための具体的な方法としては、フィルム製膜時の一方向の延伸工程において、加熱されるフィルム両面の表面温度に差を設ける方法が挙げられる。
【0018】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、主配向軸に垂直な方向の屈折率が大きい方の面が、180℃で熱処理したときにカールの内面である。
フィルム製膜工程においてTダイから吐出後のフィルム状溶融物を冷却ロールで冷却させる際、ロールに接するフィルム面とその反対側のフィルム面との冷却速度が異なることからそれぞれの結晶状態が異なる。その後の延伸や熱固定工程における両面の加熱温度が同一であると、フィルム表裏での結晶状態の差がそのまま残るため、加熱後に冷却ロール接触面を内側にして主配向軸方向にカールが発生するものと考えられる。そこで、一方の延伸工程、特に主配向軸に垂直な方向の延伸工程で、加熱した際カールの内側になる面、すなわち冷却ロール接触面のフィルム表面温度を反対側の表面温度よりも低くすることによって、冷却ロール接触面の主配向軸に垂直な方向の分子配向、すなわち屈折率を高く調整することでフィルム両面の結晶、分子配向のバランスが良くなり、加熱処理を施した時にカールが発生しにくくなる。
【0019】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率が1.725〜1.755の範囲にあることが好ましい。フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率をかかる範囲にするには、主配向軸に垂直な方向の延伸条件として、ポリエステルのガラス転移温度(以下、Tgと略記することがある)以上150℃以下の表面温度で、2.8〜4.5の延伸倍率で行うことが挙げられる。ただし、延伸温度は、かかる温度範囲内において、フィルム両面の表面温度差が少なくとも4℃である必要がある。
フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率がかかる範囲をはずれる場合、耐永久変形性が充分でないことがある。なおフィルム両表面の屈折率は、アッベ屈折率の原理を用いたレーザ屈折計(測定波長:633nm)を用いて、フィルムそれぞれの面について測定するものである。
【0020】
<カール高さ>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、180℃、5分間熱処理したときの主配向軸方向におけるカール高さが7.5mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは6.5mm以下である。ここでカール高さとは、次の方法によって求められる。3cm(主配向軸に垂直な方向)×20cm(主配向軸方向)の大きさのフィルムサンプルを鉄板上に載せ、鉄板を180℃に温度設定されたオーブンの中に5分間静置した後オーブンから取り出して自然冷却させる。次にフィルムサンプルを硝子板上に乗せ、4隅の高さ(鉛直方向)を測定し、それらの平均値を求める。フィルムの面を逆にして同様の測定を行い、値の大きいほうを加熱カール高さとする。
【0021】
カール高さが上限を超える場合、高温下での耐永久変形性を向上させるための熱処理工程やメンブレンスイッチの製造工程における印刷後の乾燥工程などにおいて加工が難しくなることがある。かかる主配向軸方向のカールは、冷却ロールでの両表面の冷却速度差に起因するものであり、フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率に差をつけて、かつカール内面の屈折率を大きくすることによって、カール高さを上述の範囲に低減することが可能となる。
【0022】
<他添加剤>
本発明の二軸配向ポリステルフィルムは、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていても良い。不活性粒子として、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えば、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等のごとき耐熱性の高いポリマーよりなる微粒子などを含有させることができる。不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、フィルム全重量に対して0.01〜10重量%の範囲で含有されることが好ましい。
また本発明の二軸配向フィルムは、必要に応じて少量の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、熱安定剤を含んでいてもよい。
【0023】
<フィルム厚み>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは、40μm以上190μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは45μm以上175μm以下、特に好ましくは50μm以上160μm以下である。フィルムの厚みが下限未満であると、押下の繰り返しに対する耐久性が不足する場合がある。一方、フィルムの厚みが上限を超えるとメンブレンスイッチに用いた時に非常に撓み難くなることがある。
【0024】
<製膜方法>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、通常の溶融押出法により得た未延伸フィルムを二軸延伸し熱固定することで製造することができるが、フィルム両面の物性差、具体的にはアッベ屈折計で測定されるフィルム両面の主配向軸に垂直な方向の屈折率差を発生させ、冷却ロール接触面側の屈折率を大きくすることが必要である。
【0025】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、例えば十分に乾燥させたポリエチレンナフタレートを融点〜(融点+70)℃の温度でTダイを通じて溶融押出し、フィルム状溶融物を冷却ロール(キャスティンクドラム)上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。二軸延伸は逐次二軸延伸が好ましく、未延伸フィルムを縦方向(以下、連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)に延伸し、次いでステンターにて横方向(以下、幅方向、TD方向と称することがある)に延伸し、その後220〜260℃の温度で緊張下又は制限収縮下で10〜30秒熱固定するのが好ましい。
【0026】
縦方向および横方向の延伸条件は、主配向軸を形成する方向において、ポリエステルのTg以上170℃以下の温度範囲で2.5〜5.5倍の範囲の延伸倍率で行う。ここで、主配向軸は通常延伸倍率が高い方向と一致する。また、主配向軸に垂直な方向において、ポリエステルのTg以上150℃以下の温度範囲で2.5〜4.5倍の範囲の延伸倍率、かつ主配向軸方向より低い延伸倍率で行う。なお、主配向軸に垂直な方向における延伸温度は、かかる温度範囲内において、フィルム両面の表面温度差が少なくとも4℃である必要がある。該温度差は、冷却ロールに接する側のフィルム表面温度を反対側のフィルム表面温度より低いことが好ましい。主配向軸に垂直な方向は、通常延伸倍率が低い方向と一致する。
【0027】
本発明においては、縦方向の延伸倍率が横方向の延伸倍率よりも低いことが好ましく、縦方向が主配向軸に垂直な方向であり、縦方向の延伸工程においてフィルム表裏で表面温度に違いを設け、フィルム両表面での縦方向(主配向軸に垂直な方向)の屈折率差を発生させることが好ましい。フィルム両面の主配向軸に垂直な方向の屈折率差を発生させるためには、縦方向の延伸工程において温度差をつけるのが最も効率的である。その他、横方向の延伸工程、熱固定処理、熱弛緩処理において前記屈折率差を発生させることも可能であるが、縦延伸の張力をかけた状態でフィルム両面の温度差をつけると前記屈折率の差が大きくなりやすいためである。
同時二軸延伸方法を用いる場合は、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。
【0028】
<メンブレンスイッチ>
本発明によれば、本発明の上記二軸配向ポリエステルフィルムはメンブレンスイッチ用基材フィルムとして好適に使用され、高温下での耐永久変形性を向上させるための熱処理工程やメンブレンスイッチの製造工程における印刷後の乾燥工程などにおいてフィルム主配向軸方向にカールが発生しにくく、良好な平面性が得られる。
また、本発明によれば、本発明の上記二軸配向ポリエステルフィルムからなるメンブレンスイッチ用基材フィルム、スペーサーおよび電極を構成部材として含むメンブレンスイッチは、高温下で使用した時に平面性が維持され、カールなどの変形が生じにくいことから、熱変形によるスイッチの誤作動が起こりにくく、高温の環境化においても精度の高いスイッチ性能を示す。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0030】
(1)フィルムの主配向軸に垂直な方向の屈折率
アッベ屈折計の原理を用いたレーザ屈折計により、フィルム両面それぞれにプリズムを接触させて、各面内方向のフィルム屈折率を求める。すなわちプリズムカプラ(Metricon社製 MODEL2010)を用いて、波長633nmでのフィルム面内方向について15°きざみで180°の範囲の屈折率を測定し、最も屈折率が高い方向を主配向軸とする。主配向軸に対し垂直方向の屈折率をフィルムの表面と裏面についてそれぞれ測定する。表面と裏面の屈折率差を計算し、その絶対値をもとめた。
(2)加熱カール高さ
3cm(主配向軸に垂直な方向)×20cm(主配向軸方向)の大きさのフィルムサンプルを鉄板上に載せ、鉄板を180℃に温度設定されたオーブンの中にいれて、5分後に取り出し、自然冷却させた。フィルムサンプルを硝子板上に乗せ、4隅の高さ(鉛直方向)を測定し、それらの平均値を求めた。フィルムの面を逆にして同様の測定を行い、値の大きいほうを加熱カール高さとした。
(3)メンブレンスイッチの変形性評価
フィルムサンプル上に導電回路として銀ペースト、印刷接点部(電極)としてカーボンペーストをスクリーン印刷し、140℃で20分間乾燥を行い、スイッチ用シートを作成した後、このシート2枚を貼り合せるための接着剤およびメンブレンスイッチのスペーサーとしてフィルム状スチレン−ブタジエン樹脂を用いた。
得られたメンブレンスイッチに、スイッチがONになる荷重(初期荷重 例えば1.5kg/cm)の負荷および荷重の除去を1分間隔で繰返すON/OFF繰返しテストを10サイクル行い、平均荷重(初期荷重)を求める。その後、荷重を除去した状態でメンブレンスイッチを鉄板上に載せ、鉄板を180℃に温度設定されたオーブンの中にいれて、5分後に取り出し、自然冷却させる。再度スイッチに荷重をかけてON/OFF繰返しテストを10サイクル行い、スイッチがONになる荷重(処理後荷重)を測定する。上記内容のテストをn=10で実施し、その平均値より下記の基準で評価した。
荷重変化率(%)=(|処理後荷重−初期荷重|/初期荷重)×100
○:変化率が10%以下であり、熱処理による変形が小さい
×:変化率が10%を越え、熱処理による変形が大きい
【0031】
[実施例1〜2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール60部をエステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN Tg=121℃)を得た。このPENポリマーを175℃で5時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出し後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0032】
この未延伸フィルムを表1記載の延伸温度で縦方向に3.1倍に延伸する。その後、135℃で横方向に3.4倍に逐次に二軸延伸し、さらに240℃にて10秒間熱固定処理し、125μmの二軸配向フィルムを得た。二軸配向フィルムの両面の主配向軸に垂直な方向(縦方向)の屈折率(nMD)、加熱カール高さを表1に示す。表1から明らかなように高温下での耐カール性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムが得られた。
【0033】
[比較例1]
縦方向の上下の延伸温度を表1記載の温度に変更した以外は実施例1と同様に製膜を行った。二軸配向フィルムの両面の主配向軸に垂直な方向(縦方向)の屈折率(nMD)、加熱カール高さを表1に示す。縦方向の屈折率の絶対値差が小さくなり、加熱カール高さは大きく、高温下での耐カール性が低下した。
【0034】
[比較例2]
縦方向の上下の延伸温度を表1記載の温度に変更した以外は実施例1と同様に製膜を行った。二軸配向フィルムの両面の主配向軸に垂直な方向(縦方向)の屈折率(nMD)、加熱カール高さを表1に示す。縦方向の屈折率の絶対値差は小さいものの、カール内面側の屈折率の方が小さく、加熱カール高さは大きく、高温下での耐カール性が低下した。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、高温下での使用における耐カール性に優れ、高温加熱処理工程が含まれる用途や高温環境で使用される用途に用いた場合に平面性に優れることから、例えばメンブレンスイッチ用基材フィルムおよびそれを含むメンブレンスイッチとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率差が絶対値で0.005以上0.020以下であり、かつ主配向軸に垂直な方向の屈折率が大きい面が180℃熱処理におけるカール内面であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルムの主配向軸に垂直な方向における両表面の屈折率が1.725〜1.755の範囲にある請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
全繰り返し構造単位のモル数を基準としてエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを80モル%以上含む請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
180℃、5分間熱処理したときの主配向軸方向におけるカール高さが7.5mm以下である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルムからなるメンブレンスイッチ用基材フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載されたメンブレンスイッチ用基材フィルム、スペーサおよび電極からなることを特徴とするメンブレンスイッチ。
【請求項7】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステルを二軸方向に延伸する工程を含む二軸配向フィルムの製造方法であり、延伸倍率がより低い方向の延伸工程において、フィルム両面の表面温度差が少なくとも4℃以上である二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
延伸倍率がより低い延伸方向がフィルム連続製膜方向である請求項7に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項9】
フィルム両面の温度は、冷却ロールに接する側が反対側よりも低い、請求項7または8に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2007−84697(P2007−84697A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275494(P2005−275494)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】