説明

二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】 合わせガラスに使用した際に効率良く熱線を吸収し、良好な透明性を有する二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 少なくとも3層からなるポリエステルフィルムであって、最外層以外の層の一つにフタロシアニン系化合物を含有し、波長500〜600nmにおけるフィルムの光線透過率の最小値が80%以上であり、波長700〜800nmにおけるフィルムの光線透過率の最小値が60%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム、および当該フィルムを中間膜とすることを特徴とする合わせガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間層にフタロシアニン化合物を含有する二軸配向ポリエステルフィルムに関するものであり、特に合わせガラスに好適に使用できる二軸配向ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
窓ガラス、特に自動車等の車両の窓ガラスには車内温度上昇を防止するために、熱線遮断機能を付与する取り組みが行われている。合わせガラスには、飛散防止効果や耐貫通性を向上させるために、中間膜としてポリビニルブチラールなどの軟質樹脂が使用されており、軟質樹脂に有機染料や無機酸化物を配合して熱線吸収する方法やポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法が知られている。
【0003】
軟質樹脂に有機染料を配合して熱線吸収する方法では、軟質樹脂は曲面を持ったガラスへの追従性に優れるため合せガラスにおいて光学歪みはないが、軟質樹脂が着色フィルムとなり、可視光領域で高い透過率を必要とする用途には使えない。軟質樹脂に無機酸化物を配合する方法では、曲面を持ったガラスへの追従性には優れるものの、当該方法では熱線を吸収してガラスが割れてしまうことがある。
【0004】
ポリエステル等のプラスチックフィルムに熱線遮断層を真空蒸着法やスパッタリング法等で積層したものを新たに中間膜として追加する方法は、可視領域での透過率が高く、熱線遮断機能を有する合わせガラスとして優れた性能を有しているが、赤外領域においてより長波長域の光線透過率まで吸収してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−3252号公報
【特許文献2】特開平6−191906号公報
【特許文献3】特開平8−217500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであって、その解決課題は、主として近赤外領域の光線透過率を吸収し、可視光領域では高い光線透過率を維持することで、二軸配向ポリエステルフィルムを合わせガラスに使用した際に効率良く熱線を吸収し、良好な透明性を有する二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ある特定の構成を持つ二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、上記課題が容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、少なくとも3層からなるポリエステルフィルムであって、最外層以外の層の一つにフタロシアニン系化合物を含有し、波長500〜600nmにおけるフィルムの光線透過率の最小値が80%以上であり、波長700〜800nmにおけるフィルムの光線透過率の最小値が60%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム、および当該フィルムを中間膜とすることを特徴とする合わせガラスに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、合わせガラスに使用した際に効率良く熱線を吸収し、良好な透明性を有する二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明でいうポリエステルフィルムとは、いわゆる押出法に従い押出口金から溶融押出されたシートを延伸したフィルムである。
【0011】
上記のフィルムを構成するポリエステルとは、ジカルボン酸とジオールとから、あるいはヒドロキシカルボン酸から重縮合によって得られるエステル基を含むポリマーを指す。ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を、ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール等を、ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等をそれぞれ例示することができる。
かかるポリマーの代表的なものとして、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンー2、6ナフタレート等が例示される。
【0012】
本発明におけるポリエステルフィルムには、取り扱いを容易にするために透明性を損なわない条件で粒子を含有させてもよい。本発明で用いる粒子の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子や、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子を挙げることができる。また粒子を添加する方法としては、原料とするポリエステル中に粒子を含有させて添加する方法、押出機に直接添加する方法等を挙げることができ、このうちいずれか一方の方法を採用しても良く、2つの方法を併用してもよい。
【0013】
用いる粒子の粒径は通常0.05〜5.0μm、好ましくは0.1〜4.0μmである。平均粒径が5.0μmより大きいとフィルムのヘーズが大きくなりフィルムの透明性が低下することがある。平均粒径が0.1μmより小さいと表面粗度が小さくなりすぎてフィルムの取り扱いが困難になる場合がある。粒子含有量は、ポリエステルに対し、通常0.001〜30.0wt%であり、好ましくは0.01〜10.0wt%である。粒子含有量が多いとヘーズが大きくなり、可視光領域の透過率が低下することがあり、粒子含有量が少ないとフィルムの取り扱いが困難になる場合がある。
【0014】
ポリエステルに粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。また、ベント付き混錬押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混錬押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0015】
本発明では必要に応じて上記粒子の他にも添加剤を加えてもよい。このような添加剤としては、例えば、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0016】
本発明においては、二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましいが、得られたフィルムが本発明の要旨を逸脱しない限り、未延伸または少なくとも一方に延伸されたポリエステルフィルムを用いることもできる。
【0017】
本発明においては、ポリエステルの溶融押出機を2台または3台以上用いて、いわゆる共押出法により少なくとも3層以上の積層フィルムとする。層の構成としては、A原料とB原料を用いたA/B/A構成、さらにC原料を用いたA/B/C構成またはそれ以外の3層以上の構成のフィルムとすることができる。また本発明では、最外層以外の一つの層、上記の例ではB層にフタロシアニン化合物を配合することができる。
【0018】
本発明では、ポリエステルフィルムの最外層以外の層の一つにフタロシアニン化合物を含有している必要がある。フタロシアニン化合物は700〜800nmでのフィルムの光線透過率を低減するために配合される。フタロシアニン化合物としては、例えば文献「機能性色素の開発と市場動向(シーエムシー)」に記載されているような近赤外領域に吸収を持ち、可視光領域の吸収が少ないフタロシアニン化合物であればいずれでもよく、また1種類のフタロシアニン化合物を配合しても、2種類以上のフタロシアニン化合物を配合してもよい。
【0019】
フタロシアニン化合物の含有量は、フィルム1m当たりに通常10〜100mg、好ましくは30〜90mg、さらに好ましくは60〜80mgである。フタロシアニン化合物の含有量が10mgより少ない場合には、近赤外領域での光線透過率が上昇し、十分な熱線吸収性能が得られないことがある。フタロシアニン化合物の含有量が100mgより多い場合には、熱線吸収性能は得られるものの、可視光領域での光線透過率が低下し、十分な透明性が得られないことがある。
【0020】
本発明では、波長700〜800nmにおけるポリエステルフィルムの光線透過率の最小値は60%以下、好ましくは40%以下、さらに好ましくは20%以下である。波長700〜800nmにおけるポリエステルフィルムの光線透過率の最小値が60%より大きい場合には十分な熱線吸収性能が得られない。
【0021】
本発明では、波長500〜600nmにおけるポリエステルフィルムの光線透過率の最小値は80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上である。波長500〜600nmにおけるポリエステルフィルムの光線透過率の最小値が80%より小さい場合には透明性が低下し好ましくない。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムでは、紫外線領域の光線を吸収することが好ましい。本発明のポリエステルフィルムに紫外線吸収性能を付与するには、フタロシアニン化合物の配合による方法でもよいし、その他の従来公知の紫外線吸収剤を配合する方法でもよい。 波長330〜380nmにおけるポリエステルフィルムの光線透過率の最小値は、通常74%以下、好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下である。波長330〜380nmにおけるポリエステルフィルムの光線透過率の最小値が74%より大きい場合には十分な紫外線吸収性能が得られないことがある。
【0023】
フタロシアニン化合物をポリエステルフィルムに添加する方法としては、ポリエステルを製造する段階において、例えばエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後にフタロシアニンを添加して得られたマスターバッチを添加する方法、混練押出機を用いフタロシアニン化合物とポリエステル原料とをブレンドして作成したマスターバッチを添加する方法、あるいはフタロシアニン化合物の粉末を、ポリエステルフィルムを製造する際に用いる押出機に直接添加する方法等があり、いずれの方法も採用しうる。
【0024】
塗布層はフィルムの片面に設けられていても、両面に設けられていてもよい。また、塗布層は、帯電防止剤、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料などを含有していてもよい。
【0025】
塗布剤の塗布方法としては、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクターコーターまたはこれら以外の塗布装置を使用することができる。
【0026】
なお、塗布剤のフィルムへの塗布性や接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理や放電処理を施してもよい。また、表面特性をさらに改良するため、塗布層形成後に放電処理を施してもよい。
【0027】
塗布層の厚みは、最終的な乾燥厚さとして、通常0.02〜0.5μm、好ましくは0.03〜0.3μmの範囲である。塗布層の厚さが0.02μm未満の場合は、本発明の効果が十分に発揮されない恐れがある。塗布層の厚さが0.5μmを超える場合は、フィルムが相互に固着しやすくなったり、特にフィルムの高強度化のために塗布処理フィルムを再延伸する場合は、工程中のロールに粘着しやすくなったりする傾向がある。上記の固着の問題は、特にフィルムの両面に同一の塗布層を形成する場合に顕著に現れる。
なお必要に応じてフィルムの製造後にコートするオフラインコートと呼ばれる方法でコートしてもよい。また片面、両面は問わない。コーティングの材料としては、オフラインコートの場合は水系および/または溶剤系いずれでもよい。
【0028】
本発明の合せガラスに用いる軟質樹脂としてはポリビニルブチラール(PVB)またはエチレン―酢酸ビニル共重合体(EVA)が好適に用いられる。
【0029】
本発明の合せガラスに用いるガラスとしては、建築用または自動車用等に用いられるものであればいずれも使用可能である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、種々の諸物性、特性は以下のように測定、または定義されたものである。実施例中、「%」は「重量%」を意味する。
【0031】
(1)光線透過率の測定
分光光度計UV−3100PC(島津製作所株式会社製)を用いて、300から1200nmでのフィルムの光線透過率を求めた。
【0032】
実施例1:
(ポリエステルチップの製造法)
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール70部、および酢酸カルシウム一水塩0.07部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノール留去させエステル交換反応を行い、反応開始後、約4時間半を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次に燐酸0.04部および三酸化アンチモン0.035部を添加し、常法に従って重合した。すなわち、反応温度を徐々に上げて、最終的に280℃とし、一方、圧力は徐々に減じて、最終的に0.05mmHgとした。4時間後、反応を終了し、常法に従い、チップ化してポリエステル(A)を得た。得られたポリエステルチップの溶液粘度IVは、0.66であった。また、上記ポリエステル(A)を製造する際、平均粒径2μmの非晶質シリカを1000ppm添加し、ポリエステル(B)を作成した。上記ポリエステル(A)99%、フタロシアニン化合物(日本触媒製イーエクスカラー803K)1%の割合で、混練押出機で押し出してポリエステル(C)を作成した。
【0033】
(ポリエステルフィルムの製造)
上記ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ85%、15%の割合で混合した混合原料を表層であるA層用の原料とし、ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ95.0%、5.0%の割合で混合した混合原料を中間層であるB層用の原料とし、A層およびB層用原料をそれぞれ別個の溶融押出機により溶融押出して(A/B/A)の2種3層積層の無定形シートを得た。ついで、冷却したキャスティングドラム上に、シートを共押出し冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、90℃にて縦方向に3.6倍延伸した後、更にテンター内で予熱工程を経て90℃で横方向に4倍延伸、230℃で10秒間の熱処理を行い、厚さ100μmのポリエステルフィルムを得た。A層の厚さは3.5μm、B層の厚さは93.0μmであった。
【0034】
実施例2:
ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ97.5%、2.5%の割合で混合した混合原料を中間層であるB層用の原料とする以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0035】
実施例3:
ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ98.8%、1.2%の割合で混合した混合原料を中間層であるB層用の原料とする以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0036】
比較例1:
ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ81.1%、18.9%の割合で混合した混合原料を中間層であるB層用の原料とする以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0037】
比較例2:
ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ99.4%、0.6%の割合で混合した混合原料を中間層であるB層用の原料とする以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0038】
比較例3:
ポリエステル(A)を中間層であるB層用の原料とする以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のフィルムは、合わせガラス用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3層からなるポリエステルフィルムであって、最外層以外の層の一つにフタロシアニン系化合物を含有し、波長500〜600nmにおけるフィルムの光線透過率の最小値が80%以上であり、波長700〜800nmにおけるフィルムの光線透過率の最小値が60%以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルムを中間膜とすることを特徴とする合わせガラス。

【公開番号】特開2013−39688(P2013−39688A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176442(P2011−176442)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】