説明

二輪車のフロントフォーク

【課題】 アンチダイブ機能を備えたフロントフォークにおいて、アンチダイブ作動時の高圧力から車体側チューブと車輪側チューブの摺動部に設けたシール材を保護すること。
【解決手段】 アンチダイブ機能を備えた二輪車のフロントフォーク10であって、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の間の環状間隙であって、車体側チューブ11の先端側摺動部と車輪側チューブ12の開口端側摺動部とに区画される環状間隙を潤滑用油室80とし、車体側チューブ11に設けた油孔81により、リザーバ室50を潤滑用油室80に連絡してなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二輪車のフロントフォークに関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車のフロントフォークとして、特許文献1に記載の如く、車両の走行中にブレーキがかかったとき、慣性による車体重心の前方への移動によってフロントフォークが圧縮されることによる、車体前部の沈み込みを防止するアンチダイブ機能を備えたものがある。
【0003】
特許文献1に記載のフロントフォークは、車輪側アウタチューブと車輪側ダンパシリンダの間を車体側インナチューブが進退するアンチダイブ圧力室とし、車体側インナチューブの上部の内部空間をリザーバ室とし、アンチダイブ圧力室とリザーバ室の連絡を、ダンパシリンダの上部に設けたリリーフ弁により開閉可能にした。フロントフォークの圧縮作動時には、ダンパシリンダに進入するピストンロッドの進入体積分の油がダンパシリンダからアンチダイブ圧力室を通って上部のリザーバ室に流れるが、ブレーキ操作時にはソレノイドの励磁によりリリーフ弁が閉じ、油はこのリリーフ弁を押し開いてリザーバ室に流入するために抵抗が増し(アンチダイブ圧力室は高圧力になる)、圧側減衰力を大幅に増加させてノーズダイブを抑制する。
【特許文献1】特許第2597581号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のフロントフォークでは、車体側インナチューブの先端部を車輪側アウタチューブ内に摺動自在に挿入するとき、インナチューブの先端側摺動部とアウタチューブの開口端側摺動部のそれぞれに設けたブッシュ、オイルシールを潤滑する必要がある。このため、インナチューブとアウタチューブの間の環状間隙であって、インナチューブの先端側摺動部とアウタチューブの開口端側摺動部とに区画される環状間隙を潤滑用油室とし、インナチューブとダンパシリンダの間の油をインナチューブに設けた油孔により上述の潤滑用油室に導く必要がある。
【0005】
ところが、特許文献1に記載のフロントフォークでは、ダンパシリンダの上部にアンチダイブ用のリリーフ弁を設けており、インナチューブとダンパシリンダの間の上下全範囲をアンチダイブ圧力室としている。従って、インナチューブに設けた油孔は、アンチダイブ圧力室の油を潤滑用油室に導くものになる。このため、アンチダイブ作動時には、アンチダイブ圧力室の高圧力の油がインナチューブとアウタチューブの間の環状間隙である潤滑用油室に作用し、この高圧力がアウタチューブの開口端側摺動部に設けられているオイルシールの大きな負担になり、オイルシールの破損、オイル洩れを生ずるおそれがある。オイル洩れ防止のためのパッキンを併用するときには、作動性の悪化、コスト高を招く。
【0006】
本発明の課題は、アンチダイブ機能を備えたフロントフォークにおいて、アンチダイブ作動時の高圧力から車体側チューブと車輪側チューブの摺動部に設けたシール材を保護することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車体側チューブの先端部を車輪側チューブ内に摺動自在に挿入し、車輪側チューブ内に中間シリンダを立設し、中間シリンダの外周側に車体側チューブを摺動自在に挿入し、車輪側チューブと中間シリンダの間を車体側チューブが進退するアンチダイブ圧力室とし、中間シリンダ内にダンパシリンダを立設し、ダンパシリンダ内に車体側チューブの側に取付けたピストンロッドのピストンを挿入し、ダンパシリンダの内部に作動油室を形成し、中間シリンダとダンパシリンダの間を、車体側チューブの内部空間に連通するリザーバ室とし、アンチダイブ圧力室とリザーバ室をアンチダイブ通路により連絡し、ブレーキ操作に応じて開閉されるアンチダイブ装置のアンチダイブバルブによりアンチバルブ通路を開閉可能にし、作動油室とリザーバ室を減衰通路により連絡する二輪車のフロントフォークであって、車体側チューブと車輪側チューブの間の環状間隙であって、車体側チューブの先端側摺動部と車輪側チューブの開口端側摺動部とに区画される環状間隙を潤滑用油室とし、車体側チューブに設けた油孔により、リザーバ室を潤滑用油室に連絡してなるようにしたものである。
【0008】
請求項2の発明は、車体側チューブの先端部を車輪側チューブ内に摺動自在に挿入し、車輪側チューブ内に中間シリンダを立設し、中間シリンダの外周側に車体側チューブを摺動自在に挿入し、車輪側チューブと中間シリンダの間を車体側チューブが進退するアンチダイブ圧力室とし、中間シリンダ内にダンパシリンダを立設し、ダンパシリンダ内に車体側チューブの側に取付けたピストンロッドのピストンを挿入し、ダンパシリンダの内部にピストンが第1減衰力発生装置を備えて摺動自在に進退する作動油室を形成し、中間シリンダとダンパシリンダの間を、車体側チューブの内部空間に連通するリザーバ室とし、アンチダイブ圧力室とリザーバ室をアンチダイブ通路により連絡し、ブレーキ操作に応じて開閉されるアンチダイブ装置のアンチダイブバルブによりアンチダイブ通路を開閉可能にし、作動油室とリザーバ室を減衰通路により連絡し、第2減衰力発生装置の減衰バルブにより減衰通路を開閉可能にする二輪車のフロントフォークであって、車体側チューブと車輪側チューブの間の環状間隙であって、車体側チューブの先端側摺動部と車輪側チューブの開口端側摺動部とに区画される環状間隙を潤滑用油室とし、車体側チューブに設けた油孔により、リザーバ室を潤滑用油室に連絡してなるようにしたものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において更に、前記車体側チューブの先端側に設けた先端シール部を車輪側チューブの内周と中間シリンダの外周のそれぞれに摺接させてアンチダイブ圧力室の一端を区画し、車体側チューブの先端シール部より車体側に位置してリザーバ室に臨む位置に前記油孔を設けてなるようにしたものである。
【0010】
請求項4の発明は、左右のフロントフォークからなるフロントフォーク装置において、一方のフロントフォークとして請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォークを用い、他方のフロントフォークとして少なくとも減衰力発生装置を備えたフロントフォークを用いるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1、2)
(a)車体側チューブに設けた油孔により、車体側チューブと車輪側チューブの間の環状間隙である潤滑用油室に、リザーバ室を連絡している。従って、潤滑用油室には常時リザーバ室の油が及び、アンチダイブ作動時に、アンチダイブ圧力室の高圧力の油が潤滑用油室に作用することはなく、この高圧力が車輪側チューブの開口端側摺動部に設けたオイルシールの負担になることを回避し、オイルシールの破損、オイル洩れを回避できる。
【0012】
(請求項3)
(b)車体側チューブの先端側に設けた先端シール部を車輪側チューブの内周と中間シリンダの外周のそれぞれに摺接させてアンチダイブ圧力室の一端を区画し、車体側チューブの先端シール部より車体側に位置してリザーバ室に臨む位置に上述(a)の油孔を設けた。従って、アンチダイブ圧力室は、車体側チューブの先端シール部により、車体側チューブの内部空間に連通するリザーバ室と確実に区分される。アンチダイブ圧力室がリザーバ室、車体側チューブの油孔経由で潤滑用油室に連絡するところが全くない。
【0013】
(請求項4)
(c)左右のフロントフォークからなるフロントフォーク装置において、一方のフロントフォークとして上述(a)、(b)のフロントフォークを用い、他方のフロントフォークとして少なくとも減衰力発生装置を備えたフロントフォークを用いることにより、一方のフロントフォークによりアンチダイブ機能を果たし、左右両方のフロントフォークにより十分な減衰力を発生し、操縦安定性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はフロントフォーク装置を示す全体断面図、図2は一方のフロントフォークを示す全体断面図、図3は図2の下部断面図、図4は図2の中間部断面図、図5は図2の上部断面図、図6はアンチダイブ装置を示す断面図、図7はフロントフォークの圧縮行程の油の流れを示す模式図、図8はフロントフォークの伸長行程の油の流れを示す模式図、図9は他方のフロントフォークを示す全体断面図である。
【実施例】
【0015】
図1のフロントフォーク装置1は、自動二輪車、自転車等の左右の両側に設けられる左右で対をなすフロントフォーク10、110からなる。一方のフロントフォーク10は、アンチダイブ装置60と減衰力発生装置40、70を併せ備える。他方のフロントフォーク110は、アンチダイブ装置を備えず、減衰力発生装置124、125を備える(他方のフロントフォーク110も、アンチダイブ装置を備えるものであっても良い)。
【0016】
(フロントフォーク10)(図2〜図8)
フロントフォーク10は、図2〜図5に示す如く、車体側チューブ(インナチューブ)11を車輪側チューブ(アウタチューブ)12に密封状態で摺動可能に挿入する。車体側チューブ11の外周には車体側取付ブラケット13が取付けられ、車輪側チューブ12の下端部には車軸取付ブラケット14が設けられている。
【0017】
フロントフォーク10は、車輪側チューブ12の底部の車軸取付ブラケット14に、車輪側チューブ12の内部から組込まれるボトムホルダ15を密封状態で固定する。車軸取付ブラケット14の外側から挿入されるボトムボルト16がボトムホルダ15を車軸取付ブラケット14に引き寄せ固定する。
【0018】
フロントフォーク10は、車体側チューブ11を車輪側チューブ12の開口端側内周に設けたブッシュ12A、オイルシール12Bに摺接させて車輪側チューブ12の内部に挿入し、車体側チューブ11の先端側外周に設けたシールリング(又はブッシュ)11Aを車輪側チューブ12の内周に摺動自在にしている。
【0019】
尚、フロントフォーク10は、車体側チューブ11の上端開口部に密封状態で螺着されたキャップ17の内側端面にスプリングカラー18を支持し、スプリングカラー18を車体側チューブ11の内周に沿わせて挿入し、スプリングカラー18と後述するダンパシリンダ30の上端部のロッドガイド34に設けたスプリングシート35との間に懸架スプリング19を介装している。懸架スプリング19は車両が路面から受ける衝撃力を緩衝する。
【0020】
フロントフォーク10は、ボトムホルダ15の中間部の大外径部に中間シリンダ20を密封状態で挿着し、ボトムホルダ15の中間部の大外径部に係着した止め輪15Aに係止して固定化する。これによって車輪側チューブ12の底部に中間シリンダ20を立設し、中間シリンダ20の外周側に車体側チューブ11の先端側内周に設けたシールリング21を介して該車体側チューブ11を摺動自在に挿入し、車輪側チューブ12と中間シリンダ20の間の環状間隙を車体側チューブ11が上方から進退するアンチダイブ圧力室22とする。
【0021】
フロントフォーク10は、ボトムホルダ15の上端部の小外径部にダンパシリンダ30を螺着して取付けている。これによって、車輪側チューブ12の底部の中間シリンダ20内にダンパシリンダ30を立設する。フロントフォーク10は、車体側チューブ11の上端開口部に密封状態で螺着したキャップ17の内側の中心部にピストンロッド31をロックナット31Aで固定的に取付け、ピストンロッド31をダンパシリンダ30の上端開口部に密封状態で設けたロッドガイド34からダンパシリンダ30内に通し、ピストンロッド31の先端のピストンボルト32に取付けたピストン33をダンパシリンダ30内に挿入する。ロッドガイド34はピストンロッド31が摺動するブッシュ34Aを備える。
【0022】
フロントフォーク10は、ピストン33に第1減衰力発生装置40を備え、ダンパシリンダ30の内部に形成される作動油室41にピストン33を摺動自在に進退させる。作動油室41は、ピストンロッド31が収容されないピストン側油室41Aと、収容されるロッド側油室41Bとからなる。第1減衰力発生装置40は、フロントフォーク10が圧縮行程にあるピストン33の圧側移動時に、ピストン側油室41Aの圧力によりピストン33の圧側流路33A(不図示)を開いて圧側減衰力を発生する圧側減衰バルブ42Aと、フロントフォーク10が伸長行程にあるピストン33の伸側移動時に、ロッド側油室41Bの圧力によりピストン33の伸側流路33Bを開いて伸側減衰力を発生する伸側減衰バルブ42Bを備える。尚、第1減衰力発生装置40は、ピストン33の圧側流路33A、伸側流路33Bを迂回するオリフィス43をピストンボルト32に設けてあり、ピストン33の圧側と伸側の低速移動時に、ピストン側油室41Aとロッド側油室41Bの一方の油をオリフィス43経由で他方に通して減衰力を発生する。
【0023】
フロントフォーク10は、中間シリンダ20とダンパシリンダ30の間の環状間隙を、車体側チューブ11の内部空間に連通するリザーバ室50とする。リザーバ室50は、ダンパシリンダ30の上端部に固定してあるロッドガイド34の外周に切欠形成してある連通路36を介して車体側チューブ11の上部内部空間に連通する。リザーバ室50は、下部油室51と上部空気室52からなる。空気室52の空気は、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の内部空間に密封され、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の収縮によって発生する反力に起因する空気ばねを構成し、前述の懸架スプリング19とともに、車両が路面から受ける衝撃力を緩衝する。
【0024】
フロントフォーク10は、車輪側チューブ12と中間シリンダ20の間のアンチダイブ圧力室22と、中間シリンダ20とダンパシリンダ30の間のリザーバ室50をアンチダイブ通路61により連絡し、車両のブレーキ操作に応じて開閉されるアンチダイブ装置60(図6)のアンチダイブバルブ65によりアンチダイブ通路61を開閉する。アンチダイブ装置60は、車輪側チューブ12の下端側の側面に固定されるハウジング62を有し、図3に示す如く、車輪側チューブ12、ハウジング62、ボトムホルダ15のそれぞれに設けられて一連をなすアンチダイブ通路61を有する。ハウジング62にはブレーキホース接続口63が設けられる。アンチダイブ装置60は、このブレーキホース接続口63に給排されるブレーキオイルにより往復動するプランジャ64をハウジング62内に備えるとともに、プランジャ64が接離するアンチダイブバルブ65をハウジング62内に備える。プランジャ64は、ハウジング62内のプランジャスプリング64Aにより原位置の側に付勢される。アンチダイブバルブ65は、ハウジング62内のバルブスプリング65Aにより原位置(アンチダイブ通路61を形成するようにハウジング62に設けた孔の段差面に係止する位置)の側に付勢される。
【0025】
アンチダイブ装置60にあっては、アンチダイブ通路61の中間部であって、アンチダイブ装置60よりもリザーバ室50寄りに位置する中間部に、アンチダイブ通路61をアンチダイブ圧力室22の側に向けて開く逆止弁66(図7)を設ける。本実施例では、車輪側チューブ12の底部の車軸取付ブラケット14にボトムホルダ15を組込むために設けた孔67をボトムホルダ15の下端部の小外径部の周囲でアンチダイブ圧力室22に開口し、この孔67をアンチダイブ通路61の中間部とする。この孔67に配置されているボトムホルダ15の上記小外径部における上側寄りに逆止弁66の筒部66Aをスライド自在に嵌合し、ボトムホルダ15の中間部の大外径部と下端部の小外径部の境界段差面に支持させたバルブスプリング68で逆止弁66の筒部66Aに続く一端フランジ部からなるバルブ本体66Bを孔67のアンチダイブ圧力室22に対する開口周縁部に着座させる。逆止弁66は、アンチダイブ圧力室22の圧力によって孔67をアンチダイブ圧力室22に対して閉じ、アンチダイブ通路61の圧力によって孔67をアンチダイブ圧力室22に対して開く。
【0026】
アンチダイブ装置60によるアンチダイブ動作は以下の如くになる。
(1)アンチダイブ装置60のプランジャ64は、ブレーキ解除時には、プランジャスプリング64Aにより原位置に設定され、同じくバルブスプリング65Aによって原位置に設定されているアンチダイブバルブ65と隙間を介し、アンチダイブ通路61を導通状態に保つ。フロントフォーク10が圧縮行程にある、車体側チューブ11のアンチダイブ圧力室22への進入時に、アンチダイブ圧力室22に進入した車体側チューブ11の体積分の作動油がアンチダイブ圧力室22からアンチダイブ通路61経由でリザーバ室50に流出する(図7の矢印A1)。フロントフォーク10が伸長行程にある、車体側チューブ11のアンチダイブ圧力室22からの退出時に、アンチダイブ圧力室22から退出する車体側チューブ11の体積分の作動油がリザーバ室50からアンチダイブ通路61、逆止弁66経由でアンチダイブ圧力室22に戻る(図8の矢印B1)。
【0027】
(2)ブレーキ操作されてブレーキオイルの圧力がブレーキホース接続口63に加わると、プランジャ64は原位置から下降してアンチダイブバルブ65に接し、アンチダイブバルブ65との隙間を閉じるとともに、アンチダイブバルブ65をバルブスプリング65Aに抗して押し下げ、バルブスプリング65Aのばね力を強くする。一方、フロントフォーク10はブレーキ操作に伴う車体重心の前方への移動によって圧縮され、車体側チューブ11がアンチダイブ圧力室22に進入すると、車体側チューブ11の進入体積分に相当するアンチダイブ圧力室22の油が、上述のバルブスプリング65Aのばね力に抗してアンチダイブバルブ65をプランジャ64から押し下げて開き、アンチダイブ通路61を通ってリザーバ室50に抜ける。
【0028】
(3)ブレーキ操作が一層強くなり、ブレーキホース接続口63に加わるブレーキオイルの圧力が強くなると、プランジャ64は上述(2)より更に下降してアンチダイブバルブ65をバルブスプリング65Aに抗して更に押し下げ、バルブスプリング65Aのばね力を更に強くする。こうなると、車体側チューブ11の進入体積分に相当するアンチダイブ圧力室22の油が、バルブスプリング65Aの強いばね力に抗してアンチダイブバルブ65を押し下げる。結果としてアンチダイブバルブ65をプランジャ64から押し開くためには更に大きな圧力を必要とする。従って、アンチダイブ圧力室22は高圧力になり、この高圧の油がアンチダイブ通路61を通ってリザーバ室50に抜けにくくなり、アンチダイブ圧力室22への車体側チューブ11の進入が抑制され、車体の前部の沈み込みを防止できる。
【0029】
(4)ブレーキ操作が解除されると、プランジャ64はプランジャスプリング64Aにより原位置に戻り、アンチダイブバルブ65はバルブスプリング65Aにより原位置に戻る。そして、フロントフォーク10の伸長によって車体側チューブ11がアンチダイブ圧力室22から退出しようとすると、アンチダイブ圧力室22の負圧が前述の逆止弁66を直ちに開き、リザーバ室50の油を直ちにアンチダイブ圧力室22に戻す。これにより、フロントフォーク10は伸縮する。
【0030】
フロントフォーク10は、ダンパシリンダ30の作動油室41(ピストン側油室41A)とリザーバ室50を減衰通路71により連絡し、第2減衰力発生装置70(図7)の減衰バルブ74A、74Bにより減衰通路71を開閉可能にする。本実施例では、ボトムホルダ15に第2減衰力発生装置70を取付け、この第2減衰力発生装置70をダンパシリンダ30内に配置する。
【0031】
第2減衰力発生装置70は、ボトムホルダ15の上部にボトムピース72を固定し、このボトムピース72にボトムピストン73を設け、ボトムピストン73をダンパシリンダ30の内周に密封状態で固定し、ダンパシリンダ30の内部のピストン側油室41Aをボトムピストン73の下方に設けた減衰通路71と区画する。第2減衰力発生装置70は、フロントフォーク10が圧縮行程にあるピストン33の圧側移動時に、ダンパシリンダ30に進入したピストンロッド31の体積分の作動油をピストン側油室41Aからボトムピストン73の圧側流路73A、減衰通路71経由でリザーバ室50に排出し(図7の矢印A2)、圧側流路73Aに設けてある圧側減衰バルブ74Aで圧側減衰力を発生する。また、フロントフォーク10が伸長行程にあるピストン30の伸側移動時に、ダンパシリンダ30から退出するピストンロッド31の体積分の作動油をリザーバ室50から減衰通路71、ボトムピストン73の伸側流路73B(不図示)経由でピストン側油室41Aに供給し(図8の矢印B2)、伸側流路73Bに設けてある伸側減衰バルブ74Bで伸側減衰力を発生する。尚、第2減衰力発生装置70は、ボトムピストン73の圧側流路73A、伸側流路73Bを迂回するオリフィス75をボトムピース72に設けてあり、ピストン33の圧側と伸側の低速移動時に、ピストン側油室41Aとリザーバ室50の一方の油をオリフィス75経由で他方に通して減衰力を発生する。
【0032】
従って、フロントフォーク10にあっては、第1減衰力発生装置40の圧側減衰バルブ42A、伸側減衰バルブ42B、オリフィス43と、第2減衰力発生装置70の圧側減衰バルブ74A、伸側減衰バルブ74B、オリフィス75が発生する圧側と伸側の減衰力により、懸架スプリング19の伸縮振動を制振する。
【0033】
しかるに、フロントフォーク10にあっては、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の間の環状間隙であって、車体側チューブ11の先端側摺動部としてのシールリング11Aと、車輪側チューブ12の開口端側摺動部としてのブッシュ12A、オイルシール12Bとに区画される環状間隙を、それらシールリング11A、ブッシュ12A、オイルシール12Bのための潤滑用油室80としている。そして、車体側チューブ11に設けた油孔81により、リザーバ50の下部油室51を潤滑用油室80に常時連絡している。このとき、フロントフォーク10は、車体側チューブ11の先端側の外周に設けたシールリング11A(先端シール部)と内周に設けたシールリング21(先端シール部)のそれぞれを車輪側チューブ12の内周と中間シリンダ20の外周のそれぞれに摺接させてアンチダイブ圧力室22の上端(一端)を区画し、車体側チューブ11のそれらの先端シール部11A、21より上位(車体側)に位置してリザーバ室50及び潤滑用油室80に臨む位置に、油孔81を設ける。
【0034】
尚、本実施例のフロントフォーク10では、車輪側チューブ12の底部に中間シリンダ20、ダンパシリンダ30を立設するに際し、ダンパシリンダ30の上端レベルを車輪側チューブ12の開口端レベルと概ね同一にし、中間シリンダ20の長さをダンパシリンダ30の長さの概ね1/2にした。
【0035】
(フロントフォーク110)(図9)
フロントフォーク110は、図9に示す如く、車体側チューブ111を車輪側チューブ112に密封状態で摺動可能に挿入する。車体側チューブ111の外周には車体側取付ブラケット113が取付けられ、車輪側チューブ112の下端部には車軸取付ブラケット114が設けられている。
【0036】
フロントフォーク110は、車輪側チューブ112の底部の車軸取付ブラケット114にボトムホルダ115を固定し、このボトムホルダ115に取付けられるダンパシリンダ120を車輪側チューブ112の内部に立設し、車体側チューブ111の上端開口部に設けたキャップ116の内側の中心部にピストンロッド121を固定している。フロントフォーク110は、キャップ116の内側端面にスプリングカラー117を支持し、ダンパシリンダ120の上端に設けたばね受118とスプリングカラー117の間に懸架スプリング119を介装している。懸架スプリング119は車両が路面から受ける衝撃力を緩衝する。
【0037】
フロントフォーク110は、ピストンロッド121をダンパシリンダ120の上端開口部に密封状態で設けたロッドガイド122からダンパシリンダ120内に通し、ピストンロッド121の先端のピストン123をダンパシリンダ120内に挿入し、ピストン123に第1減衰力発生装置124を備える。第1減衰力発生装置124は、前述のフロントフォーク10の第1減衰力発生装置40と基本的に同様にして圧側と伸側の減衰力を発生させる。
【0038】
フロントフォーク110は、ダンパシリンダ120を取付けてあるボトムホルダ115に第2減衰力発生装置125を備える。第2減衰力発生装置125は、前述のフロントフォーク10の第2減衰力発生装置70と基本的に同様にして圧側と伸側の減衰力を発生させる。
【0039】
従って、フロントフォーク110にあっては、第1減衰力発生装置124と第2減衰力発生装置125が発生する圧側と伸側の減衰力により、懸架スプリング119の伸縮振動を制振する。
【0040】
(フロントフォーク装置1)(図1)
フロントフォーク装置1にあっては、フロントフォーク装置10とフロントフォーク110が同期して伸縮し、フロントフォーク10の懸架スプリング19、フロントフォーク110の懸架スプリング119(フロントフォーク10、110のリザーバ室50の空気室52が生成する空気ばねも含む)により車両が路面から受ける衝撃力を緩衝する。そして、これらの懸架スプリング19、119の伸縮振動を、フロントフォーク10の第1と第2の減衰力発生装置40、70、フロントフォーク110の第1と第2の減衰力発生装置124、125が発生する減衰力により制振する。更に、車両のブレーキ操作に伴う車体の前部の沈み込みをフロントフォーク10のアンチダイブ装置60により防止する。
【0041】
本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)車体側チューブ11に設けた油孔81により、車体側チューブ11と車輪側チューブ12の間の環状間隙である潤滑用油室80に、リザーバ室50を連絡している。従って、潤滑用油室80には常時リザーバ室50の油が及び、アンチダイブ作動時に、アンチダイブ圧力室22の高圧力の油が潤滑用油室80に作用することはなく、この高圧力が車輪側チューブ12の開口端側摺動部に設けたオイルシール12Bの負担になることを回避し、オイルシール12Bの破損、オイル洩れを回避できる。
【0042】
(b)車体側チューブ11の先端側に設けた先端シール部11A、21を車輪側チューブ12の内周と中間シリンダ20の外周のそれぞれに摺接させてアンチダイブ圧力室22の一端を区画し、車体側チューブ11の先端シール部11A、21より車体側に位置してリザーバ室50に臨む位置に上述(a)の油孔81を設けた。従って、アンチダイブ圧力室22は、車体側チューブ11の先端シール部11A、21により、車体側チューブ11の内部空間に連通するリザーバ室50と確実に区分される。アンチダイブ圧力室22がリザーバ室50、車体側チューブ11の油孔81経由で潤滑用油室80に連絡するところが全くない。
【0043】
(c)左右のフロントフォークからなるフロントフォーク装置において、一方のフロントフォークとして上述(a)、(b)のフロントフォークを用い、他方のフロントフォークとして少なくとも減衰力発生装置を備えたフロントフォークを用いることにより、一方のフロントフォークによりアンチダイブ機能を果たし、左右両方のフロントフォークにより十分な減衰力を発生し、操縦安定性を向上できる。
【0044】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1はフロントフォーク装置を示す全体断面図である。
【図2】図2は一方のフロントフォークを示す全体断面図である。
【図3】図3は図2の下部断面図である。
【図4】図4は図2の中間部断面図である。
【図5】図5は図2の上部断面図である。
【図6】図6はアンチダイブ装置を示す断面図である。
【図7】図7はフロントフォークの圧縮行程の油の流れを示す模式図である。
【図8】図8はフロントフォークの伸長行程の油の流れを示す模式図である。
【図9】図9は他方のフロントフォークを示す全体断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 フロントフォーク装置
10 フロントフォーク
11 車体側チューブ
11A シールリング(先端シール部)
12 車輪側チューブ
15 ボトムホルダ
20 中間シリンダ
21 シールリング(先端シール部)
22 アンチダイブ圧力室
30 ダンパシリンダ
31 ピストンロッド
33 ピストン
40 第1減衰力発生装置
41 作動油室
50 リザーバ室
60 アンチダイブ装置
61 アンチダイブ通路
65 アンチダイブバルブ
66 逆止弁
70 第2減衰力発生装置
71 減衰通路
74A 圧側減衰バルブ
74B 伸側減衰バルブ
80 潤滑用油室
81 油孔
110 減衰力発生装置
124 第1減衰力発生装置
125 第2減衰力発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブの先端部を車輪側チューブ内に摺動自在に挿入し、
車輪側チューブ内に中間シリンダを立設し、中間シリンダの外周側に車体側チューブを摺動自在に挿入し、車輪側チューブと中間シリンダの間を車体側チューブが進退するアンチダイブ圧力室とし、
中間シリンダ内にダンパシリンダを立設し、ダンパシリンダ内に車体側チューブの側に取付けたピストンロッドのピストンを挿入し、ダンパシリンダの内部に作動油室を形成し、
中間シリンダとダンパシリンダの間を、車体側チューブの内部空間に連通するリザーバ室とし、
アンチダイブ圧力室とリザーバ室をアンチダイブ通路により連絡し、ブレーキ操作に応じて開閉されるアンチダイブ装置のアンチダイブバルブによりアンチバルブ通路を開閉可能にし、
作動油室とリザーバ室を減衰通路により連絡する二輪車のフロントフォークであって、
車体側チューブと車輪側チューブの間の環状間隙であって、車体側チューブの先端側摺動部と車輪側チューブの開口端側摺動部とに区画される環状間隙を潤滑用油室とし、
車体側チューブに設けた油孔により、リザーバ室を潤滑用油室に連絡してなることを特徴とする二輪車のフロントフォーク。
【請求項2】
車体側チューブの先端部を車輪側チューブ内に摺動自在に挿入し、
車輪側チューブ内に中間シリンダを立設し、中間シリンダの外周側に車体側チューブを摺動自在に挿入し、車輪側チューブと中間シリンダの間を車体側チューブが進退するアンチダイブ圧力室とし、
中間シリンダ内にダンパシリンダを立設し、ダンパシリンダ内に車体側チューブの側に取付けたピストンロッドのピストンを挿入し、ダンパシリンダの内部にピストンが第1減衰力発生装置を備えて摺動自在に進退する作動油室を形成し、
中間シリンダとダンパシリンダの間を、車体側チューブの内部空間に連通するリザーバ室とし、
アンチダイブ圧力室とリザーバ室をアンチダイブ通路により連絡し、ブレーキ操作に応じて開閉されるアンチダイブ装置のアンチダイブバルブによりアンチダイブ通路を開閉可能にし、
作動油室とリザーバ室を減衰通路により連絡し、第2減衰力発生装置の減衰バルブにより減衰通路を開閉可能にする二輪車のフロントフォークであって、
車体側チューブと車輪側チューブの間の環状間隙であって、車体側チューブの先端側摺動部と車輪側チューブの開口端側摺動部とに区画される環状間隙を潤滑用油室とし、
車体側チューブに設けた油孔により、リザーバ室を潤滑用油室に連絡してなることを特徴とする二輪車のフロントフォーク。
【請求項3】
前記車体側チューブの先端側に設けた先端シール部を車輪側チューブの内周と中間シリンダの外周のそれぞれに摺接させてアンチダイブ圧力室の一端を区画し、
車体側チューブの先端シール部より車体側に位置してリザーバ室に臨む位置に前記油孔を設けてなる請求項1又は2に記載の二輪車のフロントフォーク。
【請求項4】
左右のフロントフォークからなるフロントフォーク装置において、
一方のフロントフォークとして請求項1〜3のいずれかに記載のフロントフォークを用い、他方のフロントフォークとして少なくとも減衰力発生装置を備えたフロントフォークを用いることを特徴とするフロントフォーク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−234505(P2009−234505A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85526(P2008−85526)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】