説明

二輪車用のエンジン補機システム

【課題】二輪車用の単気筒エンジンを効率良く運転でき、且つ、燃費向上を図ることのできるエンジン補機システムSを提供する。
【解決手段】エンジン補機システムSは、エンジン1を始動する交流スタータ2と、この交流スタータ2の発生トルクを増幅する減速機3と、エンジン軸1aに直結される交流発電機4と、減速機3とエンジン軸1aとの間を断続する第1の遠心クラッチ5と、エンジン軸1aと車軸6との間を断続する第2の遠心クラッチ7と、交流スタータ2および交流発電機4を駆動する共用インバータ8と、インバータ8より交流スタータ2に電力を供給するための第1の給電回路9と、インバータ8より交流発電機4に電力を供給するための第2の給電回路10と、第1の給電回路9と第2の給電回路10とを選択的に切り替える切替リレー11等を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車用のエンジン補機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両が一時停止した際にエンジンを自動的に停止させることで燃費を向上できるアイドリングストップシステム(以下ISSと呼ぶ)を搭載した車両が増加している。このISSを搭載する車両は、エンジンの始動回数が大幅に増加するため、エンジンを始動させるスタータの作動回数も大幅に増加する。このため、ブラシを有する直流スタータでは、ブラシの摩耗が問題となる。
これに対し、ACGスタータモータによりエンジン始動を行う公知技術がある(特許文献1参照)。この特許文献1に記載されたACGスタータモータは、二輪車用エンジンに適用されるもので、エンジンのクランク軸に直結される始動機および発電機として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3967309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のACGスタータモータは、エンジン軸に直結されている、言い換えると、モータの発生トルクが増幅されることなくエンジン軸に伝達されるため、排気量の小さい(例えば50cc)エンジンを始動することは可能であるが、排気量の大きい(例えば100cc以上)エンジンを始動するためには、駆動トルクが不足するという問題がある。なお、モータの発生トルクを増幅するために減速機を使用することも考えられるが、スタータモータとして使用する場合は良くても、発電機として使用する場合に問題が生じる。つまり、減速機を用いると、発電機を駆動するエンジンの回転速度が減速機により増大するため、発電機の発生電圧が過大となり、バッテリの過充電を防止するための制御が困難である。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、二輪車用のエンジンを効率良く運転でき、且つ、燃費向上を図ることのできるエンジン補機システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(請求項1の発明)
本発明は、二輪車用のエンジン補機システムであって、交流電力の供給を受けて作動するエンジン始動用の交流スタータと、この交流スタータの発生トルクを増幅する減速機と、エンジン軸に直結され、エンジンに駆動されて電力を発生すると共に、交流電力の供給を受けることで交流モータとして機能する交流発電機と、車載バッテリから得られる直流電力を交流電力に変換して交流スタータおよび交流発電機を駆動する共用のインバータと、このインバータより交流スタータに電力を供給するための第1の給電回路と、インバータより交流発電機に電力を供給するための第2の給電回路と、第1の給電回路と第2の給電回路とを選択的に切り替える切替リレーと、減速機とエンジン軸との間に介在され、エンジン軸の回転数が所定の分離回転数以上となった時に減速機とエンジン軸との間を分離する第1のクラッチと、エンジン軸と車軸との間に介在され、エンジン軸の回転数が所定の接合回転数以上となった時にエンジン軸と車軸とを接合する第2のクラッチとを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明のエンジン補機システムは、切替リレーにより第1の給電回路と第2の給電回路とを選択的に切り替えることで、交流モータを駆動するインバータと交流発電機を駆動するインバータを共用できる。すなわち、1つのインバータで交流スタータの作動と交流発電機の作動を制御できる。これにより、エンジン始動時は、切替リレーにより第1の給電回路を選択することで、交流スタータをインバータ駆動してエンジンをクランキングすることができる。
エンジン軸の回転数が所定の接合回転数以上になると、第2のクラッチが接合状態となってエンジン軸と車軸とが接合される。これにより、クランキング状態であっても交流スタータが発生するトルクによって車両の走行が可能となり、エンジン完爆後はエンジンの発生トルクにより車両の走行が可能となる。
エンジン軸の回転数が接合回転数より高い分離回転数以上になると、第1のクラッチが分離状態となって交流スタータがエンジン軸から分離される。
その後、第1の給電回路から第2の給電回路に切り替えることにより、交流発電機で発電された電力をインバータを介して車載バッテリに回生する。あるいは、インバータにより交流発電機をモータ駆動することにより、走行トルクのアシストが可能となる。
【0007】
(請求項2の発明)
請求項1に記載した二輪車用のエンジン補機システムにおいて、第1のクラッチの分離回転数が第2のクラッチの接合回転数より高く設定され、且つ、エンジンが完爆した後、エンジン軸の回転数が分離回転数まで上昇する間は、インバータより交流スタータへ電力の供給を継続することを特徴とする。
上記の構成では、第1のクラッチの分離回転数が第2のクラッチの接合回転数より高く設定されるので、第1のクラッチが分離状態となった時点で、既に第2のクラッチは接合状態となっている。これにより、エンジンが完爆した後も、インバータより交流スタータへの給電を継続する、つまり、交流スタータをインバータ駆動することで、第1のクラッチが分離状態となるまでは、交流スタータによって車両発進時のトルクアシストを行うことができる。その結果、エンジンが低回転でトルクが不安定な領域でも、車両の安定した走行が可能になる。
【0008】
(請求項3の発明)
請求項1または2に記載した二輪車用のエンジン補機システムにおいて、第1のクラッチの分離回転数が第2のクラッチの接合回転数より高く設定され、且つ、エンジン軸の回転数が3000rpmに達するまでは、交流発電機の発生電圧を車載バッテリの定格電圧以下に抑えることを特徴とする。
本発明によれば、エンジン軸の回転数が3000rpmに達するまでは、交流発電機の発生電圧が車載バッテリの定格電圧(例えば12V)を超えることがないので、その間(エンジン軸の回転数が3000rpmに達するまでの間)、インバータより交流発電機に電力を供給することが可能であり、交流発電機を交流モータとしてインバータ駆動することができる。
【0009】
一般の二輪車に搭載される交流発電機は、アイドリング状態でも発電できるように、発生電圧が低く設定されるため、例えば、アイドリング回転数を1500rpmとすると、1500rpm以上ではモータ駆動することができない。これに対し、本発明では、交流発電機の発生電圧が3000rpmまで車載バッテリの定格電圧以下に抑えられている。つまり、発生電圧が高く設定されるので、その間、インバータを通じて交流発電機に電力を供給することが可能である。これにより、一般的なアイドリング回転数(例えば1500rpm)より高い3000rpmまで交流発電機を交流モータとしてインバータ駆動することができるので、発進後のトルクアシストが可能となる。
【0010】
(請求項4の発明)
請求項1に記載した二輪車用のエンジン補機システムにおいて、第2のクラッチの接合回転数が1200rpm以下に設定されることを特徴とする。
この場合、1200rpm以下の接合回転数で第2のクラッチが接合状態となる、つまり、エンジン軸と車軸とが接合されるので、交流発電機によるトルクアシスト領域を拡大でき、発進時から交流発電機によるトルクアシストが可能となる。
【0011】
(請求項5の発明)
請求項1〜4に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、交流発電機の発生電圧が車載バッテリの定格電圧を下回る回転数領域では、交流発電機の発生電圧をインバータで昇圧して車載バッテリに回生することを特徴とする。
エンジン回転数が低く、交流発電機の発生電圧が車載バッテリの定格電圧を下回る場合は、エンジン回転数に応じてインバータにより昇圧することにより、交流発電機からインバータを介して車載バッテリへの充電が可能となる。
【0012】
(請求項6の発明)
請求項1〜5に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、エンジンおよび交流発電機を収容するエンジンケースを有し、このエンジンケースの内部に交流スタータを配置して油中冷却していることを特徴とする。
エンジンケース内に交流スタータを配置することで、エンジンを含む補機システム全体を一括して油中冷却することができる。また、交流スタータをエンジンケースの外部に配置する場合は、交流発電機が直結されるエンジン軸をエンジンケースの外部へ取り出すために、エンジンケースとエンジン軸との間にオイルシール等のシール構造を設ける必要があるのに対し、本発明ではシール構造を廃止できるため、コストダウンに寄与する。
【0013】
(請求項7の発明)
請求項1〜6に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、車速がゼロの時に、第2のクラッチの接合回転数より低い回転数でエンジンを定速回転させて交流発電機に特定周波数の交流を発電させ、その発生電圧を外部に取り出すことが可能な発電モードを設定したことを特徴とする。
上記の構成によれば、発電モードを設定することにより、車両が停止した状態(車速ゼロの時)でも、交流発電機に特定周波数(例えば50Hzあるいは60Hz)の電力を発生させ、その電力を外部に取り出して利用することができる。
【0014】
(請求項8の発明)
請求項1〜7に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、交流スタータは、星形結線される三相コイルを有し、この三相コイルの中性点が車載バッテリに接続され、各相のコイル端部がインバータに接続されていることを特徴とする。
この場合、交流スタータの三相コイルに印加される電圧を高圧化できるので、高回転での交流スタータによるトルクアシストが可能になる。つまり、三相コイルの中性点に車載バッテリの電圧を印加することで、相電圧を高くできるため、高回転でも三相コイルに電流を流すことができ、交流スタータによるトルクアシストが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に係るエンジン補機システムの構成を示すブロック図である。
【図2】エンジン始動時の作動手順を示すフローチャートである。
【図3】エンジン停止時の作動手順を示すフローチャートである。
【図4】エンジン補機システムの作動状態を示すタイムチャートである。
【図5】実施例2に係るエンジン補機システムの構成を示すブロック図である。
【図6】交流スタータの結線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
実施例1では、単気筒エンジンを搭載する二輪車用のエンジン補機システムについて説明する。
このエンジン補機システムSは、図1に示す様に、エンジン1を始動するための交流スタータ2と、この交流スタータ2の発生トルクを増幅する減速機3と、エンジン1の出力軸(以下エンジン軸1aと呼ぶ)に直結される交流発電機4と、減速機3とエンジン軸1aとの間を断続する第1の遠心クラッチ5と、エンジン軸1aと車軸6との間を断続する第2の遠心クラッチ7と、交流スタータ2および交流発電機4を駆動する共用インバータ8と、インバータ8より交流スタータ2に電力を供給するための第1の給電回路9と、インバータ8より交流発電機4に電力を供給するための第2の給電回路10と、第1の給電回路9と第2の給電回路10とを選択的に切り替える切替リレー11等を備える。
【0018】
交流スタータ2は、例えば、回転磁界を生成するステータと、回転磁界に同期して回転するロータとで構成される同期モータを内蔵する。
ステータは、例えば、三相コイルU、V、Wを星形結線(図6参照)して形成される電機子巻線を有し、この電機子巻線にインバータ8より対称三相交流が印加されることで回転磁界を生成する。ロータは、コア内部に永久磁石を埋め込んだ磁石埋込型ロータ、または、コア表面に永久磁石を張り付けた表面磁石型ロータとして構成される。なお、同期モータ以外にも、例えば、ロータに突極構造を持つリランクタンスモータ、かご型誘導モータ等を使用することもできる。
減速機3は、例えば、周知の遊星歯車減速機であり、交流スタータ2の回転速度を減速して、その減速比に比例したトルクを出力する。
【0019】
交流発電機4は、界磁として働くロータと、三相のステータコイルを巻装したステータとで構成され、エンジン軸1aに直結されたロータがエンジン1に駆動されて回転することにより、ステータコイルに三相交流を発生する。また、この交流発電機4は、インバータ8よりステータコイルに対称三相交流が印加されることで回転磁界を生成し、その回転磁界に同期してロータが回転する交流同期モータとしても機能する。
第1の遠心クラッチ5は、エンジン軸1aの回転数が所定の分離回転数以上となった時に分離状態となって減速機3とエンジン軸1aとの間を分離する。言い換えると、エンジン軸1aの回転数が0〜分離回転数までの間は、第1の遠心クラッチ5が接合状態であり、減速機3とエンジン軸1aとが連結されている。
第2の遠心クラッチ7は、エンジン軸1aの回転数が所定の接合回転数以上となった時に接合状態となってエンジン軸1aと車軸6とを連結する。言い換えると、エンジン軸1aの回転数が0〜接合回転数までの間は分離状態であり、エンジン軸1aと車軸6との間を分離している。
【0020】
インバータ8は、車載バッテリ12より得られる直流電力を交流電力に変換して、周波数および電圧を可変して出力する。
切替リレー11は、交流スタータ2をインバータ駆動する時、つまり、インバータ8より交流スタータ2に電力を供給する時に第1の給電回路9を選択し、交流発電機4をインバータ駆動する時、つまり、インバータ8より交流発電機4に電力を供給する時、および、交流発電機4で発生した電力をインバータ8を通じて車載バッテリ12に回生する時に第2の給電回路10を選択する。この切替リレー11は、例えば、エンジン1が停止した状態で第1の給電回路9を選択し、交流スタータ2によってエンジン1が始動した後、交流スタータ2への通電が停止されてから第2の給電回路10に切り替える。
【0021】
次に、エンジン補機システムSの作動の一例を図2、図3に示すフローチャートおよび図4に示すタイムチャートを基に説明する。なお、図2、図3のフローチャートに示す符号S1〜11、S20〜23は、以下のステップ1〜11、20〜23に対応している。 ステップ1…アイドリングストップによってエンジン1が停止した状態から、エンジン再始動指令が出力される。エンジン再始動指令は、例えば、図4(a)に示すアクセル信号のONによって判定できる。
ステップ2…インバータ8より交流スタータ2に電力(三相交流)が供給されて、図4(d)に示す様に、交流スタータ2が回転する。
ステップ3…交流スタータ2の発生トルクが減速機3で増幅され、第1の遠心クラッチ5を介してエンジン軸1aに伝達されることにより、エンジン1をクランキングする(図4(c)参照)。
【0022】
ステップ4…エンジン軸1aの回転数が所定の接合回転数以上になると、図4(h)に示す様に、第2の遠心クラッチ7が接合状態となって、エンジン軸1aと車軸6とが連結される。
ステップ5…エンジン1の発生トルクまたは交流スタータ2の駆動トルクが車軸6に伝達されて、図4(f)に示す車軸トルクが発生することで、車両が走行可能となる。
ステップ6…エンジン軸1aの回転数Nmが基準回転数Nm0 以上か否かを判定する。 ここで、基準回転数Nm0 は、交流スタータ2によってトルクアシストできる上限回転数を設定するものである。
ステップ6の判定結果がNOの場合はステップ5へ戻り、判定結果がYESの場合はステップ7へ進む。
【0023】
ステップ7…インバータ8による交流スタータ2への通電を停止する。また、図4(g)に示す様に、第1の遠心クラッチ5が所定の分離回転数に達することで分離状態となり、交流スタータ2がエンジン軸1aから切り離される。
ステップ8…切替リレー11によって第2の給電回路10に切り替える。
ステップ9…加速アシスト指令の有無を判定する。加速アシスト指令は、例えば、アクセル信号を基に判定できる。この判定結果がYESの場合はステップ10へ進み、判定結果がNOの場合はステップ11へ進む。
ステップ10…インバータ8より交流発電機4に電力を供給する。例えば、登坂路を走行する際に加速アシスト指令が出力されると、インバータ8により交流発電機4をモータ駆動してトルクアシストを行う。図4(e)に示すプラス領域のトルクは、交流発電機4をモータ駆動した場合の発生トルクである。
ステップ11…加速アシスト指令が出力されていない場合は、交流発電機4で発電された電力(図4(e)参照)をインバータ8を通じて車載バッテリ12に回生する。
【0024】
次に、アイドリングストップを実施する時の作動を説明する。
ステップ20…エンジン停止指令が出力される。このエンジン停止指令は、例えば、図4(b)に示すブレーキ信号のONによって判定できる。
ステップ21…車速Vが停止判定速度V0 以下か否かを判定する。なお、停止判定速度V0 は、例えば2〜3km/hに設定できる。
この判定結果がNOの場合は、判定結果がYESになるまでステップ21の処理を繰り返し実行する。判定結果がYESの場合はステップ22へ進む。
ステップ22…第2の遠心クラッチ7を分離して、エンジン軸1aと車軸6との間を切り離す。
ステップ23…エンジン停止に至る。
【0025】
(実施例1の作用および効果)
実施例1に記載したエンジン補機システムSは、切替リレー11により第1の給電回路9と第2の給電回路10とを選択的に切り替えることで、1つの共用インバータ8で交流スタータ2と交流発電機4とを制御できる。例えば、エンジン始動時は、第1の給電回路9を選択して交流スタータ2をインバータ駆動することにより、エンジン1をクランキングする。
エンジン軸1aの回転数が所定の接合回転数以上になると、第2の遠心クラッチ7が接合状態となってエンジン軸1aと車軸6とが接合される。これにより、エンジン1が完爆する前、つまり、クランキング状態であっても、交流スタータ2が発生するトルクによって車両の走行が可能となり、エンジン完爆後はエンジン1の発生トルクにより車両の走行が可能となる。
【0026】
また、エンジン軸1aの回転数が接合回転数より高い分離回転数以上になると、第1の遠心クラッチ5が分離状態となって交流スタータ2がエンジン軸1aから分離される。その後、切替リレー11により第1の給電回路9から第2の給電回路10に切り替えることにより、交流発電機4で発電された電力をインバータ8を介して車載バッテリ12に回生する。あるいは、交流発電機4をモータ駆動することにより、走行トルクをアシストすることができる。
また、本実施例のエンジン補機システムSでは、第1の遠心クラッチ5の分離回転数を第2の遠心クラッチ7の接合回転数より高く設定し、且つ、エンジン1が完爆した後、エンジン軸1aの回転数が第1の遠心クラッチ5の分離回転数まで上昇する間は、交流スタータ2をインバータ8により継続して駆動することで、車両発進時のトルクアシストを交流スタータ2により行うことができる。その結果、エンジン1が低回転でトルクが不安定な領域でも、車両の安定した走行が可能になる。
【0027】
さらに、第1の遠心クラッチ5の分離回転数を第2の遠心クラッチ7の接合回転数より高く設定し、且つ、エンジン軸1aの回転数が3000rpmに達するまでは、交流発電機4の発生電圧を車載バッテリ12の定格電圧(例えば12V)以下に抑えることで、3000rpmまで交流発電機4をモータ駆動することができるので、アイドリング時だけでなく、発進後のトルクアシストも可能となる。なお、交流発電機4の発生電圧が車載バッテリ12の定格電圧を下回る回転数領域では、交流発電機4の発生電圧をインバータ8で昇圧することにより、車載バッテリ12への電力回生が可能となる。
また、第2の遠心クラッチ7の接合回転数を1200rpm以下に設定すると、発進時から交流発電機4によるトルクアシストが可能となり、交流発電機4によるトルクアシスト領域を拡大できる。
【0028】
上記の様に、本実施例のエンジン補機システムSは、エンジン1が低回転でトルクが不安定な領域でも、インバータ8により交流発電機4をモータ駆動することでトルクアシストが可能であり、且つ、高速回転域での負荷変化時(例えば登板走行時)にもトルクアシストできるので、エンジン1を効率良く運転することが可能となり、燃費の向上を図ることができる。
また、交流スタータ2によってエンジン始動を行うので、直流スタータと比較して長寿命であり、エンジン1の始動回数が大幅に増加するアイドリングストップ搭載車にも好適に使用できる。
【0029】
さらに、先に記載した特許文献1では、発電機の機能と始動機の機能とを併せ持つACGスタータモータによってエンジン1の始動を行うため、例えば、排気量が100cc以上のエンジン1を始動するにはトルクが不足する。これに対し、本実施例では、交流スタータ2を発電機として使用することはないので、交流スタータ2の発生トルクを減速機3で増幅してエンジン軸1aに伝達することができる。その結果、小排気量エンジンは言うまでもなく、排気量が100cc以上のエンジン1を搭載する二輪車にも問題なく適用できる。また、切替リレー11によって第1の給電回路9と第2の給電回路10とを切り替えることにより、交流スタータ2と交流発電機4を1つの共用インバータ8によって駆動できるので、交流スタータ専用のインバータ8を持つ必要はなく、コストを低く抑えることが可能である。
【0030】
(実施例2)
実施例1に記載したエンジン補機システムSは、交流スタータ2をエンジン1および交流発電機4を収容するエンジンケース13の外部に配置しているが、この実施例2に示すエンジン補機システムSは、図5に示す様に、エンジンケース13の内部に交流スタータ2を配置している。なお、エンジンケース13の内部は潤滑油で満たされている。
この場合、エンジン1を含む補機システム全体がエンジンケース13の内部に収容されるため、システム全体を一括して油中冷却することができる。また、実施例1の様に、交流スタータ2をエンジンケース13の外部に配置する場合は、交流発電機4が直結されるエンジン軸1aをエンジンケース13の外部へ取り出すために、エンジンケース13とエンジン軸1aとの間にオイルシール等のシール構造を設ける必要があるのに対し、本発明ではシール構造を廃止できるため、コストダウンを図ることができる。
【0031】
(実施例3)
この実施例3では、図6に示す様に、車載バッテリ12が交流スタータ2の電機子巻線を形成する三相コイルU、V、Wの中性点Oに接続され、各相のコイル端部Uo、Vo、Woが切替リレー11を介してインバータ8に接続されている。
上記の構成によれば、三相コイルU、V、Wの中性点Oに電源電圧を直接印加することで、各相に印加される電圧を高圧化できる。これにより、高回転でも三相コイルU、V、Wに電流を流すことができるので、交流スタータ2によるトルクアシスト領域を拡大できる。
【0032】
(実施例4)
この実施例4では、車両が停止した状態で車速がゼロの時に、第2の遠心クラッチ7の接合回転数より低い回転数でエンジン1を定速回転させて、交流発電機4に特定周波数(例えば50Hzあるいは60Hz)の交流を発電させる発電モードを設定した一例である。この発電モードによって得られる特定周波数の交流は、例えば、専用のコンセントより外部に取り出して利用することができる。
【0033】
(変形例)
実施例1では、単気筒エンジンを搭載する二輪車用のエンジン補機システムの一例を説明しているが、単気筒エンジンに限定する必要はなく、例えば、二気筒エンジンにも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
S エンジン補機システム
1 エンジン
1a エンジン軸
2 交流スタータ
3 減速機
4 交流発電機
5 第1の遠心クラッチ(第1のクラッチ)
7 第2の遠心クラッチ(第2のクラッチ)
8 インバータ
9 第1の給電回路
10 第2の給電回路
11 切替リレー
12 車載バッテリ
13 エンジンケース
U、V、W 交流スタータの三相コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力の供給を受けて作動するエンジン始動用の交流スタータと、
この交流スタータの発生トルクを増幅する減速機と、
エンジン軸に直結され、エンジンに駆動されて電力を発生すると共に、交流電力の供給を受けることで交流モータとして機能する交流発電機と、
車載バッテリから得られる直流電力を交流電力に変換して前記交流スタータおよび前記交流発電機を駆動する共用のインバータと、
このインバータより前記交流スタータに電力を供給するための第1の給電回路と、
前記インバータより前記交流発電機に電力を供給するための第2の給電回路と、
前記第1の給電回路と前記第2の給電回路とを選択的に切り替える切替リレーと、
前記減速機と前記エンジン軸との間に介在され、前記エンジン軸の回転数が所定の分離回転数以上となった時に前記減速機と前記エンジン軸との間を分離する第1のクラッチと、
前記エンジン軸と車軸との間に介在され、前記エンジン軸の回転数が所定の接合回転数以上となった時に前記エンジン軸と前記車軸とを接合する第2のクラッチとを備えることを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。
【請求項2】
請求項1に記載した二輪車用のエンジン補機システムにおいて、
前記第1のクラッチの分離回転数が前記第2のクラッチの接合回転数より高く設定され、且つ、前記エンジンが完爆した後、前記エンジン軸の回転数が前記分離回転数まで上昇する間は、前記インバータより前記交流スタータへ電力の供給を継続することを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載した二輪車用のエンジン補機システムにおいて、
前記第1のクラッチの分離回転数が前記第2のクラッチの接合回転数より高く設定され、且つ、前記エンジン軸の回転数が3000rpmに達するまでは、前記交流発電機の発生電圧を前記車載バッテリの定格電圧以下に抑えることを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。
【請求項4】
請求項1に記載した二輪車用のエンジン補機システムにおいて、
前記第2のクラッチの接合回転数が1200rpm以下に設定されることを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。
【請求項5】
請求項1〜4に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、
前記交流発電機の発生電圧が前記車載バッテリの定格電圧を下回る回転数領域では、前記交流発電機の発生電圧を前記インバータで昇圧して前記車載バッテリに回生することを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。
【請求項6】
請求項1〜5に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、
前記エンジンおよび前記交流発電機を収容するエンジンケースを有し、このエンジンケースの内部に前記交流スタータを配置して油中冷却していることを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。
【請求項7】
請求項1〜6に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、
車速がゼロの時に、前記第2のクラッチの接合回転数より低い回転数で前記エンジンを定速回転させて前記交流発電機に特定周波数の交流を発電させ、その発生電圧を外部に取り出すことが可能な発電モードを設定したことを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。
【請求項8】
請求項1〜7に記載した何れか一つの二輪車用のエンジン補機システムにおいて、
前記交流スタータは、星形結線される三相コイルを有し、この三相コイルの中性点が前記車載バッテリに接続され、各相のコイル端部が前記インバータに接続されていることを特徴とする二輪車用のエンジン補機システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112149(P2013−112149A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259788(P2011−259788)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】