二輪車用ブレーキ装置
【課題】 後輪浮き上がり判定精度を向上させた二輪車用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 二輪車の前輪に対し制動力を付与する制動力付与手段と、前記二輪車の後輪の減速度を算出する後輪減速度算出手段と、前記二輪車の車体減速度を算出または推定する車体減速度算出手段と、前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出手段と、前記偏差の積分値を算出する偏差積分手段と、前記偏差積分値が閾値を超えた場合、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段とを有することとした。5
【解決手段】 二輪車の前輪に対し制動力を付与する制動力付与手段と、前記二輪車の後輪の減速度を算出する後輪減速度算出手段と、前記二輪車の車体減速度を算出または推定する車体減速度算出手段と、前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出手段と、前記偏差の積分値を算出する偏差積分手段と、前記偏差積分値が閾値を超えた場合、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段とを有することとした。5
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車用ブレーキ装置による後輪浮き上がり防止制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車用ブレーキ装置にあっては、車体減速度および後輪車輪速の減速度を演算し、この後輪減速度が車体減速度に対し所定量分低い場合に後輪浮き上がり判定を行っている。
【特許文献1】特開平5−201317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来技術にあっては、単に車体と後輪の減速度同士の比較によって後輪浮き上がり判定を行っているため、エンジン等のノイズにより判定精度が低下するという問題があった。また、クラッチが締結されていると後輪減速度が低下しにくく、実際には後輪が浮き上がっているにもかかわらず浮き上がりと判定されないおそれがある。
【0004】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、後輪浮き上がり判定精度を向上させた二輪車用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本願発明では、二輪車の前輪に対し制動力を付与する制動力付与手段と、前記二輪車の後輪の減速度を算出する後輪減速度算出手段と、前記二輪車の車体減速度を算出または推定する車体減速度算出手段と、前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出手段と、前記偏差の積分値を算出する偏差積分手段と、前記偏差積分値が閾値を超えた場合、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段とを有することとした。
【0006】
よって、後輪浮き上がり判定精度を向上させた二輪車用ブレーキ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の二輪車用ブレーキ装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づき説明する。
【実施例1】
【0008】
[システム構成]
実施例1につき説明する。図1は本願二輪車用ブレーキ装置を適用した二輪車1のシステム図である。前輪マスタシリンダ3はハンドル20に設けられてブレーキレバー2により増圧され、後輪マスタシリンダ5はブレーキペダル4付近に設けられてこのブレーキペダル4により増圧される。
【0009】
各マスタシリンダ3,5はマスタ側配管6,8により液圧ユニット14に接続する。この液圧ユニット14は前、後輪液圧ユニット14F,14Rを有し、キャリパ側配管7,9を介して前後輪キャリパ10,11内の液圧をそれぞれ独立に制御する。各液圧ユニット14F,14Rはそれぞれコントロールユニット15により協調制御される。
【0010】
前後輪キャリパ10,11は、油圧によりそれぞれ前後輪F,Rに設けられたロータ12,13に制動力を発生させる。各マスタシリンダ3,5が増圧されると各配管6,7および8,9を介してマスタシリンダ圧が各キャリパ10,11に供給される。また、コントロールユニット15の指令により液圧ユニット14F,14Rが駆動されてキャリパ10,11が増圧される。
【0011】
前後輪ロータ12,13にはそれぞれ車輪速センサ用のセンサロータ16,18が一体回転可能に設けられている。前後輪F,Rそれぞれの車輪速センサ17,19はこのセンサロータ16,18の回転を検出し、前輪車輪速VWF、後輪車輪速VWRをコントロールユニット15へ出力する。
【0012】
[油圧回路]
図2は後輪液圧ユニット14Rの油圧回路図である。なお、前輪液圧ユニット14Fも同様であるため後輪液圧ユニット14Rについてのみ説明する。
【0013】
後輪液圧ユニット14Rは、保持弁100、減圧弁101、ポンプP、モータM、リザーバ103、および油路104〜106を有する。なお、保持弁100、減圧弁101、モータMはそれぞれコントロールユニット15により駆動される。
【0014】
ポンプPは油路106上に設けられ、吐出側においてマスタ側配管8と接続し、吸入側においてリザーバ103に接続されてモータMにより駆動される。さらに、ポンプPの吸入側は吸入側油路104と接続し、吐出側は吐出側油路105と接続する。
【0015】
各油路104,105はそれぞれ接続点107において接続し、この接続点107にはキャリパ側配管9が接続される。吐出側油路105には常開の保持弁100が設けられ、吸入側油路104には常閉の減圧弁101が設けられる。
【0016】
(通常ブレーキ時)
通常ブレーキ時には、後輪ブレーキペダル4により後輪マスタシリンダ5が増圧される。その際常閉の減圧弁101は閉弁、モータMは停止されており、これにより配管8、油路106、保持弁100、および吸入側油路105を介してマスタシリンダ圧が後輪キャリパ11へ供給されて後輪Rに制動力が発生する。
【0017】
(減圧時)
減圧時には、保持弁100を閉弁、減圧弁101を開弁する。これにより後輪キャリパ11内の作動油がキャリパ側配管9、減圧弁101を介してリザーバ103に蓄積される。リザーバ103内の作動油はポンプPによって汲み出され、油路106およびマスタ側配管7を介して後輪マスタシリンダ5へ戻される。
【0018】
(保持時)
保持時には保持弁100および減圧弁101をともに閉弁し、後輪キャリパ11内の液圧を保持する。
【0019】
[後輪浮き上がり判定制御]
ノイズ等の影響を抑制するため、本願では車体減速度VIDと後輪減速度VWRDの偏差をとり、この偏差VIRDを積分し、偏差VIRDの積分値VIRIを求める。この積分値VIRIに閾値SVIRIを設けて後輪浮き上がりを判定する。
【0020】
(メインフロー)
図3は後輪浮き上がり判定のメインフローである。
ステップS1では推定車体速VI、車体減速度VIDを演算し、ステップS2へ移行する。実施例1では制動力が小さいものとして前輪車輪速VWFを推定車体速VIとし、その微分値を車体減速度VIDとする。
【0021】
なお、前輪制動力が大きい場合は前輪ロックの可能性がある。そのため、コントロールユニット15によってアンチスキッド制御を実行し、アンチスキッド制御による減圧後の加速状態から増圧による減速状態に至るまでの時間を検出する。また、加速状態から減速状態に移行する際の後輪車輪速VWRの変化量を測定する。この時間および後輪車輪速VWRの変化量に基づき車体減速度VIDを推定することとしてもよい。
【0022】
ステップS2では後輪車輪速VWRに基づき後輪減速度VWRDを演算し、ステップS3へ移行する。
【0023】
ステップS3では車体減速度VID、後輪減速度偏差VIRD、偏差積分値VIRIを演算し、ステップS4へ移行する。
【0024】
ステップS4では偏差積分値VIRIの閾値SVIRIを演算し、ステップS5へ移行する(図6、図7で後述)。
【0025】
ステップS5では閾値SVIRIに基づき後輪浮き上がり判定を行い、前輪Fの減圧を行って制御を終了する。
【0026】
(偏差積分値演算フロー)
図4は偏差積分値VIRIの演算フローである。
【0027】
ステップS31では車体減速度VIDが所定値以上であるかどうかが判断され、YESであればステップS32へ移行し、NOであればステップS34へ移行する。
後輪浮き上がりは減速度VIDが高い状況下で発生するため、車体減速度VIDが所定値以下であれば演算および判定を省略するものである。
【0028】
ステップ32では車体減速度VIと後輪減速度VWRDの偏差VIRDを演算し、ステップS33へ移行する。
偏差VIRD=車体減速度VID−後輪減速度VWRD
【0029】
ステップS33では偏差VIRDに偏差積分値VIRIの前回値を加算して偏差積分値VIRIの今回値とし、制御を終了する。
【0030】
ステップS34では偏差積分値VIRI=0とし、制御を終了する。
【0031】
[重心移動と後輪浮き上がりの関係]
図5は、二輪車1と乗員の重心と後輪浮き上がりの関係を示す図である。なお、実施例1では前輪Fのみ制動力が付与されているものとする。二輪車1の重心をB、乗員の重心をR、BとRの合成重心をO'とする。また、二輪車1の重量をmb、乗員の体重をmrとすると、二輪車1と乗員を合わせた荷重m=mb+mrが合成重心O'に作用する。
【0032】
二輪車にあっては、車体重心と乗員の重心の合成重心O'に作用する重力と減速度の関係で後輪浮き上がり時の挙動が定まる。加速時には合成重心O'に対し後ろ向きの力が働くためウイリー傾向となり、減速時には合成重心O'に前向きの力が働くため後輪が浮き上がりやすくなる。
【0033】
減速時には、合成重心O'に対し前輪Fの接地点Oを中心として前輪F側へ回転するモーメントMが作用する。このため合成重心O'がモーメントMに沿って前上方に移動するほど後輪浮き上がりが発生しやすく、モーメントMに沿って後下方に移動するほど後輪は浮き上がりにくくなる。
【0034】
したがって、従来例のように合成重心O'の位置が移動した場合であっても一律に同様の制御を適用した場合、後輪浮き上がり判定精度が低くなってしまう。
【0035】
このため本願では、図4のフローにおいて車体減速度VIDと後輪減速度VWRDの偏差VIRDを積分し、この積分値VIRIにより浮き上がり判定を行う際、閾値SVIRIに上限値と下限値を設け(図8参照)、この上限値と下限値の範囲内で閾値SVIRIを可変とする。
【0036】
(閾値SVIRIの設定)
閾値SVIRIの設定は、合成重心O'に作用するモーメントMによって可変とする。なお、モーメントMを導出するため、前輪F側を正とし、接地点Oと合成重心O'を結ぶO−O'直線と路面との角度をθとし、合成重心O'においてO−O'直線と直交方向に作用する力Tを求める。
【0037】
重力加速度をg、二輪車1の減速度をaとすると、減速時において合成重心O'に作用する力Tは
T=masinθ−mgcosθ
である。
【0038】
したがって、接地点Oを原点および回転中心とし、座標(XG,YG)の合成重心O'に作用するモーメントMは
M=(XG2+YG2)1/2・T
=(XG2+YG2)1/2・(masinθ−mgcosθ)
なお、O−O'直線と路面とがなす角θは、合成重心O'の座標(XG,YG)を用いて以下の式で表される。
θ=tan(YG/XG)−1
【0039】
モーメントMが正であれば、合成重心O'に対して前上方側に力が作用するため二輪車1は後輪浮き上がり傾向となる。二輪車1の車重をほぼ一定とすれば、乗員の体重mrの変化に対するモーメントMの特性を調べることで浮き上がり傾向の変化を把握することが可能である。
【0040】
図6は乗員の体重mrの変化に対するモーメントMの特性線図である。前輪F側への回転を正とする。乗員体重mrの20kgごとの変化をそれぞれ示す。体重mrが大きくなるほど合成重心O'が接地点Oから遠ざかるため(図5参照)、合成重心O'の座標(XG,YG)が原点Oから遠ざかり、モーメントMのアームが大きくなる。
【0041】
そのため同一の車体減速度VIDであっても、体重mrが大きければモーメントMの特性線は正方向にシフトし、体重mrが小さければモーメントMのアームが短くなってモーメントMの特性線は負方向にシフトする。特性線が負の領域であればモーメントMは後下方向きとなり、後輪浮き上がりのおそれはないが、正の場合はモーメントMが前上方向きとなって後輪浮き上がりのおそれがある。
【0042】
想定される乗員の体重mrが40kg≦mr≦100kgの範囲内にあると仮定した場合、車体減速度VIDが大きく、VID≧RLIFTMX(減速度最大値)であれば確実に後輪浮き上がり傾向となる。一方、車体減速度VIDが小さく、VID≦RLIFTMN(減速度最小値)であれば確実にモーメントMは負となり、後輪浮き上がりのおそれはない。
【0043】
したがって、RLIFTMN≦VID≦RLIFTMXであれば、乗員体重mrによって後輪浮き上がり特性に差異が生じるため閾値SVIRIを可変とする(図7参照)。なお、閾値SVIRIの算出は図7のようにマップを用いてもよいし、演算式を用いてもよい。
【0044】
図7は乗員体重mrを40kg≦mr≦100kgと仮定した場合の車体減速度VIDに対する偏差積分値VIRIのマップである。偏差積分値VIRIの閾値SVIRIを用いて後輪浮き上がり判定を行う際、車体減速度VIDが高ければ高いほど、閾値SVIRIを低く設定する(図1:ステップS4)。閾値SVIRIを低くすれば浮き上がり判定されやすくなり、乗員の体重mrが大きい場合であっても、確実に後輪浮き上がりを防止する。
【0045】
[後輪浮き上がり判定フロー]
図8は後輪浮き上がり判定フローである。図3のステップ5に相当する。
【0046】
ステップS51では偏差積分値VIRI≧閾値SVIRIであるかどうかが判断され、YESであればステップS52へ移行し、NOであれば制御を終了する。
【0047】
ステップS52では後輪浮き上がりと判定し、制御を終了する。
【0048】
[後輪浮き上がり判定の経時変化]
図9は前輪Fのみ制動力付与時における後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。なお、乗員体重mrは100kgとする。
【0049】
(時刻t1)
時刻t1において後輪減速度VWDRが所定値RFTVIDを超過し、車体減速度VIDと後輪減速度VWDRの偏差VIRDが算出される(ステップS31→S32)。この時点では車体減速度VIDはRLIFTMN(減速度最小値)以下である。
【0050】
(時刻t2)
時刻t2において車体減速度VID≧RLIFTMN(減速度最小値)となり、図7に基づき閾値SVIRIの値が減少する。閾値SVIRIは最大値SVIRIHから徐々に減少する。
【0051】
(時刻t3)
時刻t3においてRLIFTMX(減速度最大値)≦車体減速度VIDとなり、閾値SVIRIは最小値SVIRILに固定される。同時にmr=100kgにおける特性線(図6参照)においてモーメントMが正となり、後輪Rが浮き始める。
後輪Rは非制動状態であるため空転し、車体減速度VIDと後輪減速度VWDRの偏差VIRDが大きくなって偏差積分値VIRIが上昇する。
【0052】
(時刻t4)
時刻4において偏差積分値VIRIが閾値SVIRILを上回り、後輪浮き上がりと判定される。
【0053】
[実施例1の効果]
(1)二輪車1の前輪Fに対し制動力を付与する前輪キャリパ10(制動力付与手段)と、
二輪車1の後輪Rの減速度VWRDを算出する後輪減速度算出手段と(ステップS2)、
二輪車1の車体減速度VIDを算出または推定する車体減速度算出手段(ステップS1)と、
前輪Fに対してのみ制動力が付与されている際、車体減速度VIDと後輪減速度VWRDとの偏差VIRDを算出する偏差算出手段(ステップS32)と、
偏差VIRDの積分値VIRIを算出する偏差積分手段(ステップS33)と、
偏差積分値VIRIが閾値SVIRIを超えた場合、後輪Rの浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段(ステップS51)を有することとした。
【0054】
これにより、エンジン等のノイズの影響を抑制し、後輪浮き上がり判定精度を向上させた二輪車用ブレーキ装置を提供することができる。
【0055】
(2)偏差積分手段は、偏差VIRDを所定時間ごとに加算することにより、積分値VIRIを算出することとした。これにより、簡易な演算で積分値VIRIを算出することができる。
【0056】
(3)後輪浮き上がり判定がなされた場合、前輪Fの制動力を減少させることとした(ステップS5)。これにより速やかに後輪の接地を回復することができる。
【0057】
(4)閾値SVIRIは、車体減速度VIDに応じて可変とすることとした。これにより、乗員体重mrが変化して後輪浮き上がり時の挙動が変化した場合であっても、制御精度を確保することができる。
【0058】
(5)二輪車1の前後輪Rの車輪速を検出する車輪速センサと、
車輪速に基づき、二輪車1の推定車体減速度VIDを演算する車体減速度推定部(ステップS1)と、
車輪速に基づき、後輪Rの減速度を演算する後輪減速度算出部(ステップ2)と、
推定車体減速度VIDおよび後輪減速度VWRDに基づき、後輪Rの浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定部(ステップS51)を備え、
後輪浮き上がり判定部は、
前輪Fに対してのみ制動力が付与されている際、車体減速度VIDと後輪減速度VWRDとの偏差VIRDを算出する偏差算出部(ステップS32)と、
偏差VIRDを所定時間ごとに加算する加算部(ステップS33)を有し、
偏差VIRDが閾値を上回った場合、後輪Rの浮き上がり判定を行うこととした。
【0059】
これにより、上記(1)〜(4)と同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0060】
実施例2につき説明する。基本構成は実施例1と同様である。実施例2では、後輪浮き上がり時に後輪Rと駆動系とが締結状態にある場合について示す。
【0061】
クラッチが締結状態にある場合は後輪Rにエンジントルクが入力されるが、後輪浮き上がり時にクラッチが締結されている場合、エンジン振動によって後輪車輪速VWRが振動的になる。このため後輪減速度VWRDも振動し、従来例のように車体減速度VIDとの偏差VIRDを用いるだけでは後輪浮き上がり判定精度が悪化する。
【0062】
本願では偏差VIRDの積分値VIRIを用いて後輪浮き上がり判定を行うため、後輪減速度VWRDおよび偏差VIRDが振動した場合であっても後輪浮き上がり判定精度が確保される。
【0063】
[実施例2における後輪浮き上がり判定の経時変化]
図10は、実施例2における後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。クラッチ締結状態にあるため、後輪車輪速VWR、後輪減速度VWRD、および偏差VIRDはいずれもエンジンにより振動している。
【0064】
(時刻t5〜t7)
実施例1(図9)の時刻t1〜t3と同様である。
【0065】
(時刻t8)
時刻t8において偏差積分値VIRIが閾値SVIRILを上回り、後輪浮き上がりと判定される。偏差積分値VIRIは振動しながらも増加傾向にあるため閾値SVIRILを用いて判断することが可能である。
【0066】
[実施例2の効果]
実施例2にあっても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0067】
実施例3につき説明する。実施例1では乗員体重mrの変化に応じたモーメントMの特性線(図6)を用いたが、実施例3では乗員の体重は一定とし、乗車位置に応じた特性線を用いる点で異なる。
【0068】
図11は乗車位置の変化に対するモーメントMの特性線図である。基準位置に対し、乗員の乗車位置が前輪F側にずれた場合を正、後輪R側にずれた場合を負とする。乗車位置が前輪F側にずれた場合、図5の乗員重心Rおよび合成重心O'も前輪F側にずれる。そのため後輪Rの荷重が減少して後輪浮き上がりが発生しやすくなる。乗車位置が後輪R側にずれた場合は後輪荷重が増加するため、後輪浮き上がりは発生しにくい。
【0069】
したがって、乗車位置が基準から±0.1mの範囲内で0.05mごとの特性線を用い、乗車位置−0.1mの特性線でモーメントM>0となる減速度を最大値RLFTMXとし、+0.1mの特性線でモーメントM>0となる減速度を最小値RLFTMNとする。この最大値RLFTMX、最小値RLFTMNを用い、図7に基づいて閾値SVIRIを可変とする。
【0070】
[実施例3の効果]
実施例3にあっても、実施例1と同様の効果を得ることができる。実施例1の乗員体重mrと実施例3の乗車位置の特性線を適宜組み合わせることとしてもよい。
【0071】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本願二輪車用ブレーキ装置を適用した二輪車1のシステム図である。
【図2】後輪液圧ユニット14Rの油圧回路図である。
【図3】後輪浮き上がり判定のメインフローである。
【図4】偏差積分値VIRIの演算フローである。
【図5】二輪車1と乗員の重心と後輪浮き上がりの関係を示す図である。
【図6】実施例1における乗員体重mrの変化に対するモーメントMの特性線図である。
【図7】車体減速度VIDに対する偏差積分値VIRIのマップである。
【図8】後輪浮き上がり判定フローである。
【図9】実施例1おける後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。
【図10】実施例2における後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。
【図11】実施例3における乗車位置の変化に対するモーメントMの特性線図である。
【符号の説明】
【0073】
1 二輪車1
10 前輪キャリパ(制動力付与手段)
F 前輪
R 後輪
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車用ブレーキ装置による後輪浮き上がり防止制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二輪車用ブレーキ装置にあっては、車体減速度および後輪車輪速の減速度を演算し、この後輪減速度が車体減速度に対し所定量分低い場合に後輪浮き上がり判定を行っている。
【特許文献1】特開平5−201317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記従来技術にあっては、単に車体と後輪の減速度同士の比較によって後輪浮き上がり判定を行っているため、エンジン等のノイズにより判定精度が低下するという問題があった。また、クラッチが締結されていると後輪減速度が低下しにくく、実際には後輪が浮き上がっているにもかかわらず浮き上がりと判定されないおそれがある。
【0004】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、後輪浮き上がり判定精度を向上させた二輪車用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本願発明では、二輪車の前輪に対し制動力を付与する制動力付与手段と、前記二輪車の後輪の減速度を算出する後輪減速度算出手段と、前記二輪車の車体減速度を算出または推定する車体減速度算出手段と、前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出手段と、前記偏差の積分値を算出する偏差積分手段と、前記偏差積分値が閾値を超えた場合、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段とを有することとした。
【0006】
よって、後輪浮き上がり判定精度を向上させた二輪車用ブレーキ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の二輪車用ブレーキ装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づき説明する。
【実施例1】
【0008】
[システム構成]
実施例1につき説明する。図1は本願二輪車用ブレーキ装置を適用した二輪車1のシステム図である。前輪マスタシリンダ3はハンドル20に設けられてブレーキレバー2により増圧され、後輪マスタシリンダ5はブレーキペダル4付近に設けられてこのブレーキペダル4により増圧される。
【0009】
各マスタシリンダ3,5はマスタ側配管6,8により液圧ユニット14に接続する。この液圧ユニット14は前、後輪液圧ユニット14F,14Rを有し、キャリパ側配管7,9を介して前後輪キャリパ10,11内の液圧をそれぞれ独立に制御する。各液圧ユニット14F,14Rはそれぞれコントロールユニット15により協調制御される。
【0010】
前後輪キャリパ10,11は、油圧によりそれぞれ前後輪F,Rに設けられたロータ12,13に制動力を発生させる。各マスタシリンダ3,5が増圧されると各配管6,7および8,9を介してマスタシリンダ圧が各キャリパ10,11に供給される。また、コントロールユニット15の指令により液圧ユニット14F,14Rが駆動されてキャリパ10,11が増圧される。
【0011】
前後輪ロータ12,13にはそれぞれ車輪速センサ用のセンサロータ16,18が一体回転可能に設けられている。前後輪F,Rそれぞれの車輪速センサ17,19はこのセンサロータ16,18の回転を検出し、前輪車輪速VWF、後輪車輪速VWRをコントロールユニット15へ出力する。
【0012】
[油圧回路]
図2は後輪液圧ユニット14Rの油圧回路図である。なお、前輪液圧ユニット14Fも同様であるため後輪液圧ユニット14Rについてのみ説明する。
【0013】
後輪液圧ユニット14Rは、保持弁100、減圧弁101、ポンプP、モータM、リザーバ103、および油路104〜106を有する。なお、保持弁100、減圧弁101、モータMはそれぞれコントロールユニット15により駆動される。
【0014】
ポンプPは油路106上に設けられ、吐出側においてマスタ側配管8と接続し、吸入側においてリザーバ103に接続されてモータMにより駆動される。さらに、ポンプPの吸入側は吸入側油路104と接続し、吐出側は吐出側油路105と接続する。
【0015】
各油路104,105はそれぞれ接続点107において接続し、この接続点107にはキャリパ側配管9が接続される。吐出側油路105には常開の保持弁100が設けられ、吸入側油路104には常閉の減圧弁101が設けられる。
【0016】
(通常ブレーキ時)
通常ブレーキ時には、後輪ブレーキペダル4により後輪マスタシリンダ5が増圧される。その際常閉の減圧弁101は閉弁、モータMは停止されており、これにより配管8、油路106、保持弁100、および吸入側油路105を介してマスタシリンダ圧が後輪キャリパ11へ供給されて後輪Rに制動力が発生する。
【0017】
(減圧時)
減圧時には、保持弁100を閉弁、減圧弁101を開弁する。これにより後輪キャリパ11内の作動油がキャリパ側配管9、減圧弁101を介してリザーバ103に蓄積される。リザーバ103内の作動油はポンプPによって汲み出され、油路106およびマスタ側配管7を介して後輪マスタシリンダ5へ戻される。
【0018】
(保持時)
保持時には保持弁100および減圧弁101をともに閉弁し、後輪キャリパ11内の液圧を保持する。
【0019】
[後輪浮き上がり判定制御]
ノイズ等の影響を抑制するため、本願では車体減速度VIDと後輪減速度VWRDの偏差をとり、この偏差VIRDを積分し、偏差VIRDの積分値VIRIを求める。この積分値VIRIに閾値SVIRIを設けて後輪浮き上がりを判定する。
【0020】
(メインフロー)
図3は後輪浮き上がり判定のメインフローである。
ステップS1では推定車体速VI、車体減速度VIDを演算し、ステップS2へ移行する。実施例1では制動力が小さいものとして前輪車輪速VWFを推定車体速VIとし、その微分値を車体減速度VIDとする。
【0021】
なお、前輪制動力が大きい場合は前輪ロックの可能性がある。そのため、コントロールユニット15によってアンチスキッド制御を実行し、アンチスキッド制御による減圧後の加速状態から増圧による減速状態に至るまでの時間を検出する。また、加速状態から減速状態に移行する際の後輪車輪速VWRの変化量を測定する。この時間および後輪車輪速VWRの変化量に基づき車体減速度VIDを推定することとしてもよい。
【0022】
ステップS2では後輪車輪速VWRに基づき後輪減速度VWRDを演算し、ステップS3へ移行する。
【0023】
ステップS3では車体減速度VID、後輪減速度偏差VIRD、偏差積分値VIRIを演算し、ステップS4へ移行する。
【0024】
ステップS4では偏差積分値VIRIの閾値SVIRIを演算し、ステップS5へ移行する(図6、図7で後述)。
【0025】
ステップS5では閾値SVIRIに基づき後輪浮き上がり判定を行い、前輪Fの減圧を行って制御を終了する。
【0026】
(偏差積分値演算フロー)
図4は偏差積分値VIRIの演算フローである。
【0027】
ステップS31では車体減速度VIDが所定値以上であるかどうかが判断され、YESであればステップS32へ移行し、NOであればステップS34へ移行する。
後輪浮き上がりは減速度VIDが高い状況下で発生するため、車体減速度VIDが所定値以下であれば演算および判定を省略するものである。
【0028】
ステップ32では車体減速度VIと後輪減速度VWRDの偏差VIRDを演算し、ステップS33へ移行する。
偏差VIRD=車体減速度VID−後輪減速度VWRD
【0029】
ステップS33では偏差VIRDに偏差積分値VIRIの前回値を加算して偏差積分値VIRIの今回値とし、制御を終了する。
【0030】
ステップS34では偏差積分値VIRI=0とし、制御を終了する。
【0031】
[重心移動と後輪浮き上がりの関係]
図5は、二輪車1と乗員の重心と後輪浮き上がりの関係を示す図である。なお、実施例1では前輪Fのみ制動力が付与されているものとする。二輪車1の重心をB、乗員の重心をR、BとRの合成重心をO'とする。また、二輪車1の重量をmb、乗員の体重をmrとすると、二輪車1と乗員を合わせた荷重m=mb+mrが合成重心O'に作用する。
【0032】
二輪車にあっては、車体重心と乗員の重心の合成重心O'に作用する重力と減速度の関係で後輪浮き上がり時の挙動が定まる。加速時には合成重心O'に対し後ろ向きの力が働くためウイリー傾向となり、減速時には合成重心O'に前向きの力が働くため後輪が浮き上がりやすくなる。
【0033】
減速時には、合成重心O'に対し前輪Fの接地点Oを中心として前輪F側へ回転するモーメントMが作用する。このため合成重心O'がモーメントMに沿って前上方に移動するほど後輪浮き上がりが発生しやすく、モーメントMに沿って後下方に移動するほど後輪は浮き上がりにくくなる。
【0034】
したがって、従来例のように合成重心O'の位置が移動した場合であっても一律に同様の制御を適用した場合、後輪浮き上がり判定精度が低くなってしまう。
【0035】
このため本願では、図4のフローにおいて車体減速度VIDと後輪減速度VWRDの偏差VIRDを積分し、この積分値VIRIにより浮き上がり判定を行う際、閾値SVIRIに上限値と下限値を設け(図8参照)、この上限値と下限値の範囲内で閾値SVIRIを可変とする。
【0036】
(閾値SVIRIの設定)
閾値SVIRIの設定は、合成重心O'に作用するモーメントMによって可変とする。なお、モーメントMを導出するため、前輪F側を正とし、接地点Oと合成重心O'を結ぶO−O'直線と路面との角度をθとし、合成重心O'においてO−O'直線と直交方向に作用する力Tを求める。
【0037】
重力加速度をg、二輪車1の減速度をaとすると、減速時において合成重心O'に作用する力Tは
T=masinθ−mgcosθ
である。
【0038】
したがって、接地点Oを原点および回転中心とし、座標(XG,YG)の合成重心O'に作用するモーメントMは
M=(XG2+YG2)1/2・T
=(XG2+YG2)1/2・(masinθ−mgcosθ)
なお、O−O'直線と路面とがなす角θは、合成重心O'の座標(XG,YG)を用いて以下の式で表される。
θ=tan(YG/XG)−1
【0039】
モーメントMが正であれば、合成重心O'に対して前上方側に力が作用するため二輪車1は後輪浮き上がり傾向となる。二輪車1の車重をほぼ一定とすれば、乗員の体重mrの変化に対するモーメントMの特性を調べることで浮き上がり傾向の変化を把握することが可能である。
【0040】
図6は乗員の体重mrの変化に対するモーメントMの特性線図である。前輪F側への回転を正とする。乗員体重mrの20kgごとの変化をそれぞれ示す。体重mrが大きくなるほど合成重心O'が接地点Oから遠ざかるため(図5参照)、合成重心O'の座標(XG,YG)が原点Oから遠ざかり、モーメントMのアームが大きくなる。
【0041】
そのため同一の車体減速度VIDであっても、体重mrが大きければモーメントMの特性線は正方向にシフトし、体重mrが小さければモーメントMのアームが短くなってモーメントMの特性線は負方向にシフトする。特性線が負の領域であればモーメントMは後下方向きとなり、後輪浮き上がりのおそれはないが、正の場合はモーメントMが前上方向きとなって後輪浮き上がりのおそれがある。
【0042】
想定される乗員の体重mrが40kg≦mr≦100kgの範囲内にあると仮定した場合、車体減速度VIDが大きく、VID≧RLIFTMX(減速度最大値)であれば確実に後輪浮き上がり傾向となる。一方、車体減速度VIDが小さく、VID≦RLIFTMN(減速度最小値)であれば確実にモーメントMは負となり、後輪浮き上がりのおそれはない。
【0043】
したがって、RLIFTMN≦VID≦RLIFTMXであれば、乗員体重mrによって後輪浮き上がり特性に差異が生じるため閾値SVIRIを可変とする(図7参照)。なお、閾値SVIRIの算出は図7のようにマップを用いてもよいし、演算式を用いてもよい。
【0044】
図7は乗員体重mrを40kg≦mr≦100kgと仮定した場合の車体減速度VIDに対する偏差積分値VIRIのマップである。偏差積分値VIRIの閾値SVIRIを用いて後輪浮き上がり判定を行う際、車体減速度VIDが高ければ高いほど、閾値SVIRIを低く設定する(図1:ステップS4)。閾値SVIRIを低くすれば浮き上がり判定されやすくなり、乗員の体重mrが大きい場合であっても、確実に後輪浮き上がりを防止する。
【0045】
[後輪浮き上がり判定フロー]
図8は後輪浮き上がり判定フローである。図3のステップ5に相当する。
【0046】
ステップS51では偏差積分値VIRI≧閾値SVIRIであるかどうかが判断され、YESであればステップS52へ移行し、NOであれば制御を終了する。
【0047】
ステップS52では後輪浮き上がりと判定し、制御を終了する。
【0048】
[後輪浮き上がり判定の経時変化]
図9は前輪Fのみ制動力付与時における後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。なお、乗員体重mrは100kgとする。
【0049】
(時刻t1)
時刻t1において後輪減速度VWDRが所定値RFTVIDを超過し、車体減速度VIDと後輪減速度VWDRの偏差VIRDが算出される(ステップS31→S32)。この時点では車体減速度VIDはRLIFTMN(減速度最小値)以下である。
【0050】
(時刻t2)
時刻t2において車体減速度VID≧RLIFTMN(減速度最小値)となり、図7に基づき閾値SVIRIの値が減少する。閾値SVIRIは最大値SVIRIHから徐々に減少する。
【0051】
(時刻t3)
時刻t3においてRLIFTMX(減速度最大値)≦車体減速度VIDとなり、閾値SVIRIは最小値SVIRILに固定される。同時にmr=100kgにおける特性線(図6参照)においてモーメントMが正となり、後輪Rが浮き始める。
後輪Rは非制動状態であるため空転し、車体減速度VIDと後輪減速度VWDRの偏差VIRDが大きくなって偏差積分値VIRIが上昇する。
【0052】
(時刻t4)
時刻4において偏差積分値VIRIが閾値SVIRILを上回り、後輪浮き上がりと判定される。
【0053】
[実施例1の効果]
(1)二輪車1の前輪Fに対し制動力を付与する前輪キャリパ10(制動力付与手段)と、
二輪車1の後輪Rの減速度VWRDを算出する後輪減速度算出手段と(ステップS2)、
二輪車1の車体減速度VIDを算出または推定する車体減速度算出手段(ステップS1)と、
前輪Fに対してのみ制動力が付与されている際、車体減速度VIDと後輪減速度VWRDとの偏差VIRDを算出する偏差算出手段(ステップS32)と、
偏差VIRDの積分値VIRIを算出する偏差積分手段(ステップS33)と、
偏差積分値VIRIが閾値SVIRIを超えた場合、後輪Rの浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段(ステップS51)を有することとした。
【0054】
これにより、エンジン等のノイズの影響を抑制し、後輪浮き上がり判定精度を向上させた二輪車用ブレーキ装置を提供することができる。
【0055】
(2)偏差積分手段は、偏差VIRDを所定時間ごとに加算することにより、積分値VIRIを算出することとした。これにより、簡易な演算で積分値VIRIを算出することができる。
【0056】
(3)後輪浮き上がり判定がなされた場合、前輪Fの制動力を減少させることとした(ステップS5)。これにより速やかに後輪の接地を回復することができる。
【0057】
(4)閾値SVIRIは、車体減速度VIDに応じて可変とすることとした。これにより、乗員体重mrが変化して後輪浮き上がり時の挙動が変化した場合であっても、制御精度を確保することができる。
【0058】
(5)二輪車1の前後輪Rの車輪速を検出する車輪速センサと、
車輪速に基づき、二輪車1の推定車体減速度VIDを演算する車体減速度推定部(ステップS1)と、
車輪速に基づき、後輪Rの減速度を演算する後輪減速度算出部(ステップ2)と、
推定車体減速度VIDおよび後輪減速度VWRDに基づき、後輪Rの浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定部(ステップS51)を備え、
後輪浮き上がり判定部は、
前輪Fに対してのみ制動力が付与されている際、車体減速度VIDと後輪減速度VWRDとの偏差VIRDを算出する偏差算出部(ステップS32)と、
偏差VIRDを所定時間ごとに加算する加算部(ステップS33)を有し、
偏差VIRDが閾値を上回った場合、後輪Rの浮き上がり判定を行うこととした。
【0059】
これにより、上記(1)〜(4)と同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0060】
実施例2につき説明する。基本構成は実施例1と同様である。実施例2では、後輪浮き上がり時に後輪Rと駆動系とが締結状態にある場合について示す。
【0061】
クラッチが締結状態にある場合は後輪Rにエンジントルクが入力されるが、後輪浮き上がり時にクラッチが締結されている場合、エンジン振動によって後輪車輪速VWRが振動的になる。このため後輪減速度VWRDも振動し、従来例のように車体減速度VIDとの偏差VIRDを用いるだけでは後輪浮き上がり判定精度が悪化する。
【0062】
本願では偏差VIRDの積分値VIRIを用いて後輪浮き上がり判定を行うため、後輪減速度VWRDおよび偏差VIRDが振動した場合であっても後輪浮き上がり判定精度が確保される。
【0063】
[実施例2における後輪浮き上がり判定の経時変化]
図10は、実施例2における後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。クラッチ締結状態にあるため、後輪車輪速VWR、後輪減速度VWRD、および偏差VIRDはいずれもエンジンにより振動している。
【0064】
(時刻t5〜t7)
実施例1(図9)の時刻t1〜t3と同様である。
【0065】
(時刻t8)
時刻t8において偏差積分値VIRIが閾値SVIRILを上回り、後輪浮き上がりと判定される。偏差積分値VIRIは振動しながらも増加傾向にあるため閾値SVIRILを用いて判断することが可能である。
【0066】
[実施例2の効果]
実施例2にあっても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0067】
実施例3につき説明する。実施例1では乗員体重mrの変化に応じたモーメントMの特性線(図6)を用いたが、実施例3では乗員の体重は一定とし、乗車位置に応じた特性線を用いる点で異なる。
【0068】
図11は乗車位置の変化に対するモーメントMの特性線図である。基準位置に対し、乗員の乗車位置が前輪F側にずれた場合を正、後輪R側にずれた場合を負とする。乗車位置が前輪F側にずれた場合、図5の乗員重心Rおよび合成重心O'も前輪F側にずれる。そのため後輪Rの荷重が減少して後輪浮き上がりが発生しやすくなる。乗車位置が後輪R側にずれた場合は後輪荷重が増加するため、後輪浮き上がりは発生しにくい。
【0069】
したがって、乗車位置が基準から±0.1mの範囲内で0.05mごとの特性線を用い、乗車位置−0.1mの特性線でモーメントM>0となる減速度を最大値RLFTMXとし、+0.1mの特性線でモーメントM>0となる減速度を最小値RLFTMNとする。この最大値RLFTMX、最小値RLFTMNを用い、図7に基づいて閾値SVIRIを可変とする。
【0070】
[実施例3の効果]
実施例3にあっても、実施例1と同様の効果を得ることができる。実施例1の乗員体重mrと実施例3の乗車位置の特性線を適宜組み合わせることとしてもよい。
【0071】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本願二輪車用ブレーキ装置を適用した二輪車1のシステム図である。
【図2】後輪液圧ユニット14Rの油圧回路図である。
【図3】後輪浮き上がり判定のメインフローである。
【図4】偏差積分値VIRIの演算フローである。
【図5】二輪車1と乗員の重心と後輪浮き上がりの関係を示す図である。
【図6】実施例1における乗員体重mrの変化に対するモーメントMの特性線図である。
【図7】車体減速度VIDに対する偏差積分値VIRIのマップである。
【図8】後輪浮き上がり判定フローである。
【図9】実施例1おける後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。
【図10】実施例2における後輪浮き上がり判定のタイムチャートである。
【図11】実施例3における乗車位置の変化に対するモーメントMの特性線図である。
【符号の説明】
【0073】
1 二輪車1
10 前輪キャリパ(制動力付与手段)
F 前輪
R 後輪
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二輪車の前輪に対し制動力を付与する制動力付与手段と、
前記二輪車の後輪の減速度を算出する後輪減速度算出手段と、
前記二輪車の車体減速度を算出または推定する車体減速度算出手段と、
前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出手段と、
前記偏差の積分値を算出する偏差積分手段と、
前記偏差積分値が閾値を超えた場合、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段と
を有することを特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記偏差積分手段は、前記偏差を所定時間ごとに加算することにより、前記積分値を算出すること
を有することを特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二輪車用ブレーキ装置において、
前記後輪浮き上がり判定がなされた場合、前記前輪の制動力を減少させること
を特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二輪車用ブレーキ装置において、
前記閾値は、前記車体減速度に応じて可変とすること
を特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項5】
二輪車の前後輪の車輪速を検出する車輪速センサと、
前記車輪速に基づき、前記二輪車の推定車体減速度を演算する車体減速度推定部と、
前記車輪速に基づき、前記後輪の減速度を演算する後輪減速度算出部と、
前記推定車体減速度および前記後輪減速度に基づき、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定部と
を備え、
前記後輪浮き上がり判定部は、
前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出部と、
前記偏差を所定時間ごとに加算する加算部と
を有し、
前記偏差が閾値を上回った場合、前記後輪の浮き上がり判定を行うこと
を特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項1】
二輪車の前輪に対し制動力を付与する制動力付与手段と、
前記二輪車の後輪の減速度を算出する後輪減速度算出手段と、
前記二輪車の車体減速度を算出または推定する車体減速度算出手段と、
前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出手段と、
前記偏差の積分値を算出する偏差積分手段と、
前記偏差積分値が閾値を超えた場合、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定手段と
を有することを特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記偏差積分手段は、前記偏差を所定時間ごとに加算することにより、前記積分値を算出すること
を有することを特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二輪車用ブレーキ装置において、
前記後輪浮き上がり判定がなされた場合、前記前輪の制動力を減少させること
を特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二輪車用ブレーキ装置において、
前記閾値は、前記車体減速度に応じて可変とすること
を特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【請求項5】
二輪車の前後輪の車輪速を検出する車輪速センサと、
前記車輪速に基づき、前記二輪車の推定車体減速度を演算する車体減速度推定部と、
前記車輪速に基づき、前記後輪の減速度を演算する後輪減速度算出部と、
前記推定車体減速度および前記後輪減速度に基づき、前記後輪の浮き上がり判定を行う後輪浮き上がり判定部と
を備え、
前記後輪浮き上がり判定部は、
前記前輪に対してのみ制動力が付与されている際、前記車体減速度と前記後輪減速度との偏差を算出する偏差算出部と、
前記偏差を所定時間ごとに加算する加算部と
を有し、
前記偏差が閾値を上回った場合、前記後輪の浮き上がり判定を行うこと
を特徴とする二輪車用ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−184486(P2009−184486A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26076(P2008−26076)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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