説明

二酸化チタン顔料

【課題】本発明は、水性塗料に配合した時に、塗膜外観のみならず、優れた保管安定性をも付与できる二酸化チタン顔料を提供すること。
【解決手段】二酸化チタン粒子の表面に緻密シリカからなる第一の被覆層、多孔質シリカからなる第二の被覆層、有機化合物からなる第三の被覆層を有し、第三の被覆層に少なくとも下記式1及び式2で表される有機リン酸化合物の混合物が含まれることを特徴とする水性塗料用二酸化チタン顔料である。
【化1】


【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料用の二酸化チタン顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶解型、コロイダルディスパージョン型、エマルジョン型等の水性塗料は、環境負荷が小さく、作業環境の安全・衛生性が高く、また、省資源の点でも優れており、近年、需要が高まっている。中でも、水溶解型やコロイダルディスパージョン型塗料は自動車、建材、家電品等の高級工業用塗料の分野で、有機溶剤型塗料からの代替が期待されている。このため、塗料の主要構成成分である二酸化チタン顔料にも、水性塗料への対応が求められており、例えば、二酸化チタン顔料に有機リン酸エステル化合物を被覆したり(特許文献1参照)、あるいは二酸化チタン顔料に高密度(緻密)シリカの第一被覆層及び多孔質シリカの第二被覆層を被覆したり(特許文献2参照)する技術が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−124968号公報(第2頁)
【特許文献2】特開平10−130527号公報(第2頁)
【0004】
しかし、一般的に、水性塗料は、有機溶剤系塗料と比較して、保管安定性が十分ではなく、特許文献1記載の二酸化チタン顔料でも保管安定性の問題は十分に解決されているとはいい難い。このため、これを配合した水性塗料を長期間保管すると、二酸化チタン顔料が強く凝集してしまい、再分散を行っても初期の分散状態に戻すことは困難である。また、特許文献2に記載の二酸化チタン顔料は、概して保管安定性には優れているものの、光沢等の塗膜外観に優れたものを得るのは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水性塗料に配合した時に、塗膜外観のみならず、優れた保管安定性をも付与できる二酸化チタン顔料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、第一被覆層として緻密シリカを、第二被覆層として多孔質シリカを被覆した二酸化チタン顔料に、更に、特定の有機リン酸エステル化合物を被覆すると、これを用いた水性塗料の塗膜外観のみならず、保管安定性をも向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、二酸化チタン粒子の表面に緻密シリカからなる第一の被覆層、多孔質シリカからなる第二の被覆層、有機化合物からなる第三の被覆層を有し、第三の被覆層に少なくとも下記式1及び式2で表される有機リン酸エステル化合物の混合物が含まれることを特徴とする水性塗料用二酸化チタン顔料である。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【発明の効果】
【0010】
本発明の二酸化チタン顔料は、水性塗料に優れた保管安定性と塗膜外観を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、水性塗料用二酸化チタン顔料であって、二酸化チタン粒子の表面に緻密シリカからなる第一の被覆層、多孔質シリカからなる第二の被覆層、有機化合物からなる第三の被覆層を有し、第三の被覆層に少なくとも下記式1及び式2で表される有機リン酸エステル化合物の混合物が含まれることを特徴とする。本発明は、それぞれの被覆層が、実質的に中間層を介することなく被覆されたものであり、本発明の二酸化チタン顔料を用いた水性塗料は光沢、隠ペイ性等の塗膜外観が優れ、長期間保管しても顔料の凝集がほとんど生じない。本発明では、第一及び第二の被覆により、保管安定性が改良、また、前記有機リン酸エステル化合物は、水性塗料中でこのような二酸化チタン顔料を高度に分散させるのに、最も適したものであると推測される。従って、第一及び二の被覆層を有する二酸化チタン顔料に、前記以外の有機リン酸エステル化合物を用いても、所望の塗膜外観は得られない。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
本発明における緻密シリカ、多孔質シリカを構成するシリカは、無水酸化ケイ素、含水酸化ケイ素、水和酸化ケイ素、水酸化ケイ素を包含する化合物である。それぞれの被覆量は、二酸化チタン粒子に対し、SiO換算で0.5〜10重量%の範囲にあるのが好ましく、より好ましい範囲は、0.5〜5重量%である。第三の被覆層には、前記有機リン酸エステル化合物が、二酸化チタン粒子に対し0.1〜5重量%の範囲で含まれているのが好ましく、0.3〜2重量%の範囲がより好ましい。式1と式2の化合物の混合比は、重量比で0.05:1〜20:1の範囲にあるのが好ましく、0.1:1〜15:1の範囲がより好ましい。
【0015】
第三の被覆層には、前記有機リン酸エステル化合物以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で、工業的に不純物として混入する下記式3で表される有機リン酸エステル化合物や、乾式粉砕助剤、分散助剤等として各種の有機化合物が含まれていてもよい。有機リン酸エステル化合物以外に用いることができる有機化合物としては、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類またはそれらの有機酸塩等の誘導体等が挙げられる。これらの有機化合物は、前記リン酸エステル化合物と混合した状態で第三の被覆層を形成していても、前記リン酸エステル化合物の被覆層の下面、上面または両面に、その他の有機化合物の被覆層が積層された状態で第三の被覆層を形成していてもよく、特に制限は無い。その被覆量は、二酸化チタン粒子に対し0.01〜3重量%の範囲が好ましく、0.05〜2重量%の範囲が更に好ましい。
【0016】
【化5】

【0017】
二酸化チタン粒子は、例えば、硫酸チタン溶液を加水分解し、得られた含水酸化チタンを焼成するいわゆる硫酸法や、ハロゲン化チタンを気相酸化するいわゆる塩素法で製造されたものを用いることができる。その平均粒子径(電子顕微鏡写真法による50%累積径)は、0.1〜1.0μmの範囲が好ましく、0.1〜0.4μmの範囲が更に好ましい。結晶形は、アナタース型、ルチル型の1種又はそれらの混合物のいずれでもよいが、高級工業用塗料には耐候性が優れたルチル型を主体とする二酸化チタン粒子を用いるのが好ましい。
【0018】
二酸化チタン粒子への緻密シリカからなる第一の被覆層の被覆は、公知の方法、例えば、特開昭53−33228号公報等に記載の方法により行うことができる。特開昭53−33228号公報に記載の方法は、二酸化チタン粒子のスラリーを80〜100℃の範囲の温度に維持しながら、好ましくはスラリーのpHを9〜10.5の範囲に調整し、ケイ酸ナトリウムを急速に添加した後、9〜10.5の範囲のpHで中和し、その後、80〜100℃の範囲の温度を50〜60分間保持するものである。本発明においては、更に、二酸化チタン粒子の水性スラリーを、80℃以上の温度でpHを9以上に調整し、ケイ酸塩を添加して、酸性化合物で徐々にpHが4〜6の範囲で中和する方法によっても、第一の被覆層を得ることができる。
【0019】
多孔質シリカからなる第二の被覆層は、第一の被覆層を被覆した後、引き続き、水性スラリーのpHを1〜4の範囲に調整し、pHをこの範囲に維持しながらケイ酸塩と酸性化合物を同時に添加しpHが6〜8の範囲で中和することで得られる。
【0020】
二酸化チタン粒子の水性スラリーは、製造設備、製造能力等に応じてその濃度を設定するが、工業的には100〜600g/リットルの範囲が好ましく、200〜400g/リットルの範囲が更に好ましい。二酸化チタン粒子の凝集程度に応じて、縦型サンドミル、横型サンドミル、ボールミル等の湿式粉砕機を用いて、適宜分散させてもよい。また、必要に応じて分散剤を用いてもよい。分散剤としては、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等のリン酸化合物、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸化合物が挙げられる。分散剤の使用量は、リン酸化合物であれば、二酸化チタン粒子に対しリン換算で0.01〜3重量%の範囲が好ましい。ケイ酸塩には、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等を用いることができ、pH調整、中和等に用いる酸性化合物としては、硫酸、塩酸等の無機酸や、酢酸、ギ酸等の有機酸等が、塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム化合物等が挙げられる。
【0021】
第三の被覆層は、第一及び第二の被覆層を形成した二酸化チタン粒子をスラリーから固液分離し、必要に応じて洗浄を行い、次いで乾燥した後、(1)乾式粉砕機中に前記有機リン酸エステル化合物をそれぞれを単独で添加するか、予め混合物として添加し、二酸化チタン粒子を粉砕しながら被覆する方法、または、(2)乾式粉砕後、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速撹拌機を用い、二酸化チタン粒子を撹拌しながら前記の化合物をそれぞれを単独で、または混合物で添加して、二酸化チタン粒子と混合して被覆する方法等により行うことができる。(1)の方法は、連続的に生産できるので、工業的に好ましい方法である。固液分離には、フィルタープレス、ロールプレス等の通常工業的に用いられる濾過器を用いることができる。乾燥にはバンド式ヒーター、バッチ式ヒーター等が、乾式粉砕にはハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パラペライザー、解砕機等の摩砕粉砕機、ジェットミル、スネイルミル等の気流粉砕機、噴霧乾燥機等を用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0023】
実施例1
塩素法で得られた二酸化チタン粒子を、水酸化ナトリウムでpHを10.5とした水に分散させ水性スラリーとし、サンドミルを用いて湿式粉砕し分級した後、TiO濃度を300g/リットルに調整した。このスラリー4リットルを撹拌しながら、75℃に昇温し、温度を保持しながらケイ酸ナトリウム水溶液を添加し、30分間撹拌し混合した後、液温を90℃に昇温し、1規定の硫酸水溶液を約3ミリリットル/分の速度で40分間添加して、pHが5となるまで中和した。その後、液温を70℃に調整し、液温を保持しながら撹拌して60分間熟成し、緻密シリカ(二酸化チタン粒子に対しSiOとして5重量%)からなる第一の被覆層を形成した。引き続き、硫酸を添加してpHを2に調整し、撹拌しながら、前記ケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを2に保持するように硫酸と共に添加した。次いで、2規定の硫酸水溶液を約1ミリリットル/分の速度で60分間添加して、pHが8となるまで中和した。その後、液温を70℃に、pHを7に調整し、液温とpHを保持しながら撹拌して60分間熟成し、多孔質シリカ(二酸化チタン粒子に対しSiOとして2重量%)からなる第二の被覆層を形成した。次いで、濾過・水洗、乾燥した後、ジェットミルで二酸化チタン粒子を粉砕しながら、二酸化チタン粒子に対して0.5重量%の式1及び2で表される化合物の混合物(式1及び式2中のnが6、混合比が重量比で0.7:1〜1.5:1の範囲)をジェットミルに添加して、第三の被覆層を形成し、本発明の二酸化チタン顔料(試料A)を得た。
【0024】
比較例1
実施例1で用いた有機リン酸エステル化合物に替えて、式4及び式5で表される有機リン酸エステル化合物の混合物(混合比が重量比で0.7:1〜1.5:1の範囲)を用いた以外は、実施例1と同様にして二酸化チタン顔料(試料B)を得た。
【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
比較例2
実施例1で用いた有機リン酸エステル化合物に替えて、式6及び式7で表される有機リン酸エステル化合物の混合物(混合比が重量比で0.7:1〜1.5:1の範囲)を用いた以外は、実施例1と同様にして二酸化チタン顔料(試料C)を得た。
【0028】
【化8】

【0029】
【化9】

【0030】
比較例3
有機リン酸エステル化合物を被覆しなかったこと以外は実施例1と同様にして、二酸化チタン顔料(試料D)を得た。
【0031】
比較例4
市販の二酸化チタン顔料CR−90(石原産業(株)製:緻密シリカ、アルミナ被覆)に、実施例1と同様にして有機リン酸エステル化合物を被覆して二酸化チタン顔料(試料E)を得た。
【0032】
評価1:保管安定性の評価
実施例1、比較例1〜4の二酸化チタン顔料(試料A〜E)を、表1に示す処方1にて容量500ccの縦型サンドミルに仕込み、3000回転で20分間分散して分散ペーストを調整した後、表2に示す処方2にて、樹脂成分1重量部に対し二酸化チタン顔料1重量部、固形分体積濃度54%のの水性塗料を得た。この水性塗料を、No.4フォードカップで塗料粘度が30秒になるように純水で希釈した。希釈後の塗料を三週間静置し、目視により二酸化チタン顔料の凝集・沈降状態を判定した。結果を、表3に示す。
(保管安定性の目視判定結果を凡例)
◎:塗料に上澄みの分離が全く認められない。
○:塗料に上澄みの分離がほとんど認められない。
△:塗料に上澄みの分離が認められる。
×:塗料に上澄みの分離が著しく認められる。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
評価2:光沢度の評価
評価1で用い希釈塗料を、6ミルアプリケーターでガラス板に塗布し、30分間静置してから、145℃の温度で30分間焼き付け塗膜化した。得られた塗膜の60°光沢度をグロスメーター(GM−26D型/村上色材研究所製)を用いて計測した。結果を、表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3より、二酸化チタン顔料として緻密シリカからなる第一の被覆層、多孔質シリカからなる第二の被覆層、さらには式1及び式2で表される特定の有機リン酸エステル化合物の混合物からなる第三の被覆層を有するものを水性塗料に配合した場合にのみ、水性塗料の保管安定性と塗膜の光沢度が共に優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、水性塗料に、特に、自動車、建材、家電品等の高級工業用の水性塗料に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタン粒子の表面に緻密シリカからなる第一の被覆層、多孔質シリカからなる第二の被覆層、有機化合物からなる第三の被覆層を有し、第三の被覆層に少なくとも下記式1及び式2で表される有機リン酸エステル化合物の混合物が含まれることを特徴とする水性塗料用二酸化チタン顔料。
【化1】

【化2】

【請求項2】
第一の被覆層及び第二の被覆層の被覆量が二酸化チタン粒子に対しSiO換算でそれぞれ0.5〜10重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の二酸化チタン顔料。
【請求項3】
第三の被覆層の被覆量が二酸化チタン粒子に対し0.1〜5重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の二酸化チタン顔料。
【請求項4】
式1及び式2で表される化合物の混合比が重量比で0.05:1〜20:1の範囲にあることを特徴する請求項3記載の二酸化チタン顔料。

【公開番号】特開2006−131715(P2006−131715A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320831(P2004−320831)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】