説明

二酸化炭素の回収方法及び回収装置

【課題】 回収効率が良く、吸収液の再生における熱効率が改善されて費用削減が可能な二酸化炭素の回収方法及び装置を提供する。
【解決手段】 二酸化炭素の回収装置は、二酸化炭素を含有するガスを加圧下で吸収液に接触させて吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔と、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱して二酸化炭素を吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔と、再生塔から排出される二酸化炭素を含んだ回収ガスに含まれる水蒸気を補うために再生塔に水蒸気を供給する水蒸気供給システムとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼ガスなどの二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収し、清浄なガスを大気に還元するための二酸化炭素の回収方法及び二酸化炭素の回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や製鉄所、ボイラーなどの設備では、石炭、重油、超重質油などの燃料を多量に使用しており、燃料の燃焼によって排出される硫黄酸化物、窒素酸化物及び二酸化炭素は、大気汚染防止や地球環境保全の見地から放出に関する量的及び濃度的制限が必要とされている。近年、二酸化炭素は地球温暖化の主原因として問題視され、世界的にも排出を抑制する動きが活発化している。このため、燃焼排ガスやプロセス排ガスの二酸化炭素を大気中に放出せずに回収・貯蔵を可能とするために、様々な研究が精力的に進められ、二酸化炭素の回収方法として、例えば、PSA(圧力スウィング)法、膜分離濃縮法や、塩基性化合物による反応吸収を利用する化学吸収法などが知られている。
【0003】
化学吸収法においては、主にアルカノールアミン系の塩基性化合物を吸収剤として用い、その処理プロセスでは、概して、吸収剤を含む水性液を吸収液として、ガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる吸収工程と、吸収された二酸化炭素を吸収液から放出させて吸収液を再生する再生工程とを交互に繰り返すように吸収液を循環させる(例えば、下記特許文献1参照)。再生工程においては、二酸化炭素を放出させるための加熱が必要であり、二酸化炭素回収の操業費用を削減するには、再生のために加熱/冷却に要するエネルギーを低減することが重要となる。
【0004】
又、吸収塔及び再生塔における気液接触効率を改善して回収率を向上させることや、プロセス全体の最適化によるエネルギー効率の改善も必要であり、特許文献1では、再生塔へ供給する吸収液の一部を再生塔出口ガスによって加熱しており、下記特許文献2では、吸収液から二酸化炭素を回収する際に要するエネルギーの削減を目的として、再生工程の吸収液を抜き出して高温スチームによって熱交換するための再生加熱器から生じるスチーム凝縮水の余熱を、吸収液の加熱に利用している。また、下記特許文献3では、吸収された二酸化炭素の放出を促進するために、二酸化炭素を随伴するようにストリッピング用ガスを導入することを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−214089号公報
【特許文献2】特開2005−254212号公報
【特許文献3】特開2005−230808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
再生工程において必要とされるエネルギーには、吸収液の温度上昇に要する顕熱、吸収液から二酸化炭素を放出する際の反応熱、及び、吸収液の水分蒸発による熱損失を補うための潜熱がある。上述の先行技術は、顕熱又は反応熱に関連する技術である。
【0007】
再生熱エネルギーのうち、水分の蒸発潜熱は約10〜20%を占めるので、潜熱分のエネルギー消費は無視できる量ではなく、この節減は有用である。特に、吸収液による二酸化炭素の吸収効率が高ければ、その再生に要する熱エネルギーも多くなり、潜熱分の熱エネルギーの節減における重要性も高くなる。
【0008】
本発明の課題は、吸収液を再生するために要するエネルギーを削減して操業費用を低減可能な二酸化炭素の回収方法及び回収装置を提供することである。
【0009】
又、本発明の課題は、装置への負担や煩雑な作業を伴わず、吸収液を再生するために要するエネルギーを削減して、高い二酸化炭素の回収効率でエネルギーコストを低減可能な二酸化炭素の回収方法及び回収装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、再生工程への水蒸気供給を利用して吸収液の水分蒸発に関する潜熱の供給を低減し、この利点を有効に利用可能な形態を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一態様によれば、二酸化炭素の回収装置は、二酸化炭素を含有するガスを加圧下で吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔と、前記吸収塔で二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔と、前記再生塔から排出される二酸化炭素を含んだ回収ガスに含まれる水蒸気を補うために前記再生塔に水蒸気を供給する水蒸気供給システムとを有することを要旨とする。
【0012】
又、本発明の一態様によれば、二酸化炭素の回収方法は、二酸化炭素を含有するガスを加圧下で吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収工程と、
前記吸収工程で二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生工程と、前記再生工程から排出される二酸化炭素を含んだ回収ガスに含まれる水蒸気を補うために前記再生工程に水蒸気を供給する水蒸気供給工程とを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガスに含まれる二酸化炭素を回収するプロセスにおいて、吸収液の再生に要するエネルギー供給を低減して操業に要する費用を削減でき、又、装置にかかる負担も低減可能であり、省エネルギー及び環境保護に貢献可能な二酸化炭素の回収装置を提供できる。特に、高回収率で二酸化炭素を吸収した吸収液の再生においてエネルギー効率の改善が有効に作用し、吸収液の劣化防止や装置等の負担軽減にも有効である。二酸化炭素の回収方法において特殊な装備や高価な装置を必要とせず、一般的な設備を利用して簡易に実施できるので、経済的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る二酸化炭素の回収装置を示す概略構成図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る二酸化炭素の回収装置を示す概略構成図。
【図3】本発明の実施における水蒸気供給の評価を示す表図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
一般的に、吸収液から二酸化炭素を放出させて再生するための手法として、吸収液を加熱して反応熱を供給するが、このためには、吸収液の温度上昇に要する顕熱、及び、吸収液の水分蒸発による熱損失を補うための潜熱の供給も必要となる。この熱供給の軽減を目的として吸収液の水分蒸発を抑制することは、加圧によって吸収液の沸点を上昇させることで可能であるが、この方法では、吸収液から二酸化炭素を放出するための加熱温度も高くなり、却って顕熱の必要量が増加し、吸収液の劣化や装置の負担が増加するので好ましくない。
【0016】
吸収液からの水分蒸発は、再生工程から排出される回収ガスに二酸化炭素だけでなく湿分も含まれることに起因し、排出によって失われる分の水が新たに吸収液から蒸発するので、再生工程の吸収液から常に水分が気化して潜熱として失われる分のエネルギー供給が必要となる。このエネルギー供給が軽減できれば、吸収液に含まれる二酸化炭素量が増加しても、吸収液を十分に再生するための再生エネルギーの供給が負担とならずにすむ。一方、吸収液の二酸化炭素吸収率は、吸収工程における気液接触を加圧下で行うと高めることができるので、前述の再生エネルギーの損失軽減と組み合わせれば、エネルギー効率の改善を活かすことができる。
【0017】
上述に従って、本発明では、再生工程の吸収液上に水蒸気を供給して、排出される回収ガスと共に失われる分の湿分を補充することによって、吸収液からの水の気化を抑制して潜熱ロスを低減させる。この際、供給する水蒸気は、再生される吸収液の温度を低下させなければ良いので、吸収液と同程度以上の温度であればよい。更に、吸収工程におけるガスと吸収液との気液接触を加圧下で行う。これによって、二酸化炭素の吸収率が向上するため、再生工程において必要となる供給熱量も増加するが、前述の潜熱ロスの低減によって供給熱エネルギーが効率的に再生に利用されるので、吸収液の再生を十分且つ容易に進めることができる。
【0018】
以下、本発明の二酸化炭素の回収方法及び回収装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の二酸化炭素の回収方法及びそれを実施する回収装置の第1の実施形態を示す。回収装置1は、二酸化炭素を含有するガスGを吸収液に接触させて、吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔10と、二酸化炭素を吸収した吸収液を加熱し、二酸化炭素を吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔20とを有する。更に、吸収塔10に供給されるガスGを二酸化炭素の吸収に適した低温に維持し易いように冷却塔30が設けられているので、燃焼排ガスやプロセス排ガスなどの様々なガスの取扱いが可能であり、回収装置に供給されるガスGについて特に制限はない。吸収塔10、再生塔20及び冷却塔30は、各々、向流型気液接触装置として構成され、接触面積を大きくするための充填材11,21,31を各々内部に保持している。充填材11,21,31は、概して、ステンレス鋼、炭素鋼等の鉄系金属材料製のものが用いられるが、特に限定されず、処理温度における耐久性及び耐腐食性を有する素材で、所望の接触面積を提供し得る形状のものを適宜選択するとよい。吸収液として、アルカノールアミン類等の二酸化炭素に親和性を有する化合物を吸収剤として含有する水性液が用いられる。
【0020】
冷却塔30底部から供給されるガスGは、塔内に保持される充填材31を通過し、冷却塔30の上部から供給される冷却水によって冷却された後に、吸収塔10に供給される。これにより、吸収塔10の温度がガスGに起因して上昇するのが防止される。ガスGを冷却することによって温度上昇した冷却水は、ポンプ32によって水冷式冷却器33に送られ、冷却された後に冷却塔30に還流される。
【0021】
冷却塔30を通過した二酸化炭素を含んだガスGは、吸収塔10の下部から逆止弁18を通じて供給され、吸収液は、吸収塔10の上部から供給され、ガスG及び吸収液が充填材11を通過する間に気液接触してガスG中の二酸化炭素が吸収液に吸収される。二酸化炭素を吸収した吸収液A1は、吸収塔10底部に貯溜され、ポンプ12によって、吸収塔10底部と再生塔20上部とを接続する供給路16を通じて再生塔20へ供給される。二酸化炭素が除去されたガスG’は、吸収塔10頂部から圧力調節弁19を通じて排出される。従って、吸収塔10内のガス圧力は、圧力調節弁19によって調節可能であり、加圧状態に設定して気液接触を行うことによってガスGから吸収液への二酸化炭素の移行が促進され、ガス圧力の増加に従って吸収率が向上する。
【0022】
吸収液が二酸化炭素を吸収することによって発熱して液温が上昇するので、必要に応じて、ガスG’に含まれ得る水蒸気等を除去するための冷却凝縮部13を吸収塔10頂部に設けることができ、これにより、水蒸気等が塔外へ漏出するのを抑制できる。これを更に確実にするためには、吸収塔外に付設される冷却器14と、凝縮水の一部(塔内のガスG’を含んでも良い)を冷却器14との間で循環させるポンプ15とを備え、冷却器14で冷却されて塔頂部に供給される凝縮水等は冷却凝縮部13を低温に維持し、冷却凝縮部13を通過するガスG’を確実に冷却する。又、充填材11に還流する凝縮水によって、塔内の吸収液の組成変動が補整される。塔外へ排出されるガスG’の温度は60℃程度以下が好ましく、より好ましくは45℃以下となるように冷却する。この実施形態の冷却器14は水冷式であるが、他の冷却方式であって良く、冷媒による冷凍サイクルを用いて冷却確度を高めてもよい。
【0023】
吸収塔10の吸収液A1は、再生塔20の上部に供給され、充填材21上を流下して底部に貯溜される。再生塔20の底部には、リボイラーが付設される。即ち、吸収液を加熱するために再生塔20外に付設されるスチームヒーター22と、吸収液をスチームヒーター22を介して循環させる循環路22’とが付設され、塔底部の吸収液A2の一部が循環路22’を通してスチームヒーター22に分岐され、高温蒸気との熱交換によって加熱された後に塔内へ還流される。この加熱によって、底部の吸収液から二酸化炭素が放出され、又、充填材21も間接的に加熱されて充填材21上での気液接触による二酸化炭素の放出が促進される。
【0024】
再生塔20で二酸化炭素を放出して再生された吸収液A2は、還流路17を通じてポンプ23によって吸収塔10に還流され、その間に、熱交換器24において、吸収塔10から再生塔20に供給される吸収液A1との間で熱交換して冷却され、更に、冷却水を用いた冷却器25によって、二酸化炭素の吸収に適した温度まで充分に冷却される。
【0025】
再生塔20における加熱で放出される二酸化炭素を含むガスは、回収ガスとして、再生塔20上部の凝縮部26を通って頂部から排出され、凝縮部26は、回収ガスに含まれる水蒸気を凝縮させて過度の放出を抑制し、また、吸収剤の放出も抑制する。
【0026】
回収ガスは、再生塔20の頂部から排気管34を通して、冷却水を用いた冷却器27によって充分に冷却されて、含まれる水蒸気を可能な限り凝縮した後、気液分離器28によって凝縮水を除去した後に、回収した二酸化炭素を含む回収ガスCとして回収される。回収された二酸化炭素は、例えば、地中又は油田中に注入することによって、地中での炭酸ガス固定及び再有機化が可能である。気液分離器28において分離された凝縮水は、適宜排出し、必要に応じて、吸収液の濃度調整用水又は水蒸気の供給源として利用できる。
【0027】
再生塔20から排出される回収ガスは、少なくとも気液分離器28で分離される凝縮水分の水蒸気を含んでいるので、少なくとも凝縮水相当分の水蒸気が再生塔20内の吸収液から気化することになるが、本発明においては、回収ガスと共に放出される水蒸気を補うために再生塔20に水蒸気Sを供給する水蒸気供給システム40を有し、再生塔20の底部に接続される配管35から水蒸気Sを供給する。水蒸気Sの供給によって、再生塔20底部に貯留する吸収液A2及びその近辺の吸収液からの気化が抑制され、気化に要する潜熱が吸収液から失われるのを防止できる。従って、スチームヒーター22から供給する再生熱エネルギーを削減することができる。水蒸気供給システム40によって供給される水蒸気Sは、再生塔20内の吸収液を冷却しない温度であればよいので、吸収液A2の温度又はそれ以上であり、比較的低温のスチームが使用できる。水蒸気Sの供給は、吸収液の潜熱損失を抑制すると共に、吸収液の再生エネルギー(反応熱、顕熱)の供給にも寄与する。この点に関し、リボイラーとして吸収液A2を加熱するスチームヒーター22の水蒸気には、熱交換を可能とするための温度差が必要で、吸収液温度より少なくとも20℃程度以上高い水蒸気、実用的には200℃前後の高温の水蒸気を使用する必要があるため、熱供給効率としては、水蒸気Sによる供給より低い。従って、再生塔20に直接供給する水蒸気Sの熱エネルギーによって、スチームヒーター22からの供給エネルギーの一部が置換されることは、熱供給効率の点で好ましい。
【0028】
再生塔20の吸収液A2の気化は、水蒸気Sの直接供給によって吸収液A2上の雰囲気が飽和すると十分に抑制されるが、過剰の水蒸気Sが供給されると、再生塔20内で凝縮して吸収液の濃度を低下させる原因となる。従って、補充される水蒸気Sが過剰にならないように、水蒸気供給システム40は、回収ガスに含まれる水蒸気量を決定するための測定部41と、再生塔20に供給する水蒸気量を調節可能な調節弁42と、測定部41によって決定される水蒸気量に基づいて、再生塔20に供給する水蒸気量が回収ガスに含まれる水蒸気量と等しくなるように調節弁42を制御する制御部43とを有する。測定部41は、再生塔20頂部の排気管34を通るガスの流量、温度及び圧力を各々検出する流量計44,温度計45及び圧力計46を備え、これらは、コンピュータ等で構成される演算処理可能な制御部43と電気的に接続され、検出された流量、温度及び圧力のデータが制御部43に常時送られる。配管35には、水蒸気Sの流量を検出するための質量流量計47が設けられ、質量流量計47及び調節弁42は制御部43と電気的に接続され、質量流量計47で検出される流量データが制御部43に常時送られる。制御部43は、測定部41から得られるガス温度から飽和水蒸気圧を決定し、回収ガスのガス圧及び飽和水蒸気圧と、供給される水蒸気Sの流量とに基づいて、排出される回収ガスに含まれる飽和水蒸気量と同量の水蒸気Sが供給されるように調節弁42の開度を制御して水蒸気Sの供給速度を調節する。
【0029】
図1の回収装置1において実施される回収方法について説明する。
【0030】
吸収塔10において、燃焼排ガスやプロセス排ガスなどの二酸化炭素を含有するガスGを底部から供給し、吸収液を上部から供給すると、充填材11上でガスGと吸収液とが気液接触し、吸収液に二酸化炭素が吸収される。二酸化炭素は、低温において良好に吸収されるので、概して50℃程度以下、好ましくは40℃以下となるように吸収液の液温又は吸収塔10(特に充填材11)の温度を調整する。吸収液は二酸化炭素の吸収によって発熱するので、これによる液温上昇を考慮し、液温が60℃を超えないように配慮することが望ましい。吸収塔10に供給されるガスGについても、上述を勘案して、冷却塔30によって適正な温度に調整する。吸収液として、二酸化炭素に親和性を有する化合物を吸収剤として含有する水性液が用いられる。吸収塔10内のガス圧力は圧力調節弁19によって調整され、常圧を超える120kPaG程度以下、好ましくは10〜100kPaG程度の圧力範囲に設定するとよい。吸収剤としては、アルカノールアミン類やアルコール性水酸基を有するヒンダードアミン類などが挙げられ、具体的には、アルカノールアミンとして、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジグリコールアミン等を例示することができ、アルコール性水酸基を有するヒンダードアミンとしては、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)、2−(エチルアミノ)エタノール(EAE)、2−(メチルアミノ)エタノール(MAE)等を例示できる。通常、モノエタノールアミン(MEA)の使用が好まれ、これらを複数種混合しても良い。吸収液の吸収剤濃度は、処理対象とするガスに含まれる二酸化炭素量や処理速度等に応じて適宜設定することができ、吸収液の流動性や消耗損失抑制などの点を考慮すると、概して、10〜50質量%程度の濃度が適用され、例えば、二酸化炭素含有量20%程度のガスGの処理に対して、濃度30質量%程度の吸収液が好適に使用される。ガスG及び吸収液の供給速度は、ガスに含まれる二酸化炭素量及び気液接触効率等に応じて、吸収が充分に進行するように適宜設定される。
【0031】
二酸化炭素を吸収した吸収液A1は、再生塔20に供給されると、沸点近辺の高温度に加熱されるが、再生塔20に供給される前に熱交換器24において、再生塔20から還流する吸収液A2と熱交換されるので、吸収液A1は、再生塔20での加熱温度に近い温度に昇温されて二酸化炭素が放出され易い状態で再生塔20に投入される。この実施形態では、90〜115℃程度で再生塔20に投入される。更に、充填材21上での気液接触によって二酸化炭素の放出が促進されると共に、再生塔20底部での加熱によって更に昇温及び二酸化炭素の放出が進行する。底部に貯留される吸収液A2は、部分循環加熱によって沸点付近に加熱され、吸収液の沸点は組成(吸収剤濃度)及び再生塔20内の圧力に依存する。この際、吸収液から失う水の気化潜熱及び吸収液の顕熱の供給が必要であるが、気化を抑制するために加圧すると、沸点上昇により顕熱が増加するので、通常、これらのバランスを考慮して、再生塔20内を加圧して吸収液を120〜130℃に加熱することが必要となる。特に、吸収塔10内を加圧して吸収液の二酸化炭素吸収率を高めた場合には、吸収液の再生に十分な加熱が必要であるが、水蒸気Sの供給によって吸収液の気化が抑制されると、上述のような加圧昇温の必要性が薄れるので、本発明においては、再生塔20内のガス圧は、大気圧〜100kPaG程度、好ましくは20〜85kPaG程度に好適に設定することができ、吸収液の加熱温度は100℃から120℃未満の範囲に設定できる。従って、吸収液の加熱温度自体を低めに設定できることによるエネルギーの節減効果もあり、吸収液に含まれる吸収剤の加熱劣化も軽減される。図1の回収装置は、再生塔20内をガス圧が大気圧の場合の構成として記載しているが、加圧状態にする場合は、再生塔20の排気管34に圧力調整弁を設けて上記範囲に調節すればよい。
【0032】
再生塔20に供給される水蒸気Sの温度は、吸収液の温度と同程度以上であれば良く、高い方が好ましいが、本発明では低品位排熱を利用できるので、この点を考慮すると、好ましくは0〜150℃程度高い温度、従って、100〜250℃程度がよい。再生塔20底部に供給される水蒸気Sは、底部に貯留される吸収液A2の液面上雰囲気の湿度を増加させ、吸収液A2液面の水の気化による熱損失及び温度低下が抑制されるので、再生塔20の吸収液A2の加熱に要するスチームヒーター22のエネルギーを削減できる。制御部43は、流量計44,温度計45及び圧力計46によって検出される回収ガスの物性値、つまり、排気管34のガス流量V[Nm/時]、ガス温度T[K]及びガス圧力P[kPa]と、配管35の質量流量計45によって検出される水蒸気Sの流量Vg[Nm/時]とに基づいて、再生塔20に供給される水蒸気Sの流量Pgが、回収ガスに含まれる水蒸気量と実質的に等しくなるように調節弁42の開度を制御する。制御における具体的手順としては、下記のTetensの式に従って、回収ガスの温度Tから回収ガスの飽和水蒸気圧Pwを決定し、回収ガスのガス圧力Pと飽和水蒸気圧Pwとの比が、回収ガスの流量と供給される水蒸気Sの流量Vgとの比に等しくなる水蒸気Sの流量Vg(=V×Pw/P)を算出して、この流量Vgで水蒸気Sが供給される開度に調節弁42を制御する。
【0033】
Pw=0.611×107.5T/(T+237.3) (Tetensの式)
【0034】
このように、回収ガスの飽和水蒸気圧に基づいて、調節弁42の制御により水蒸気の供給量を調整することで、再生塔20から排出される水蒸気分に相当する水蒸気Sが補われ、再生塔20内の吸収液から気化する水蒸気が減少する。冷却器27によって凝縮した水は、気液分離器35によって分離し、適宜排出される。
【0035】
このようにして、吸収液は、吸収塔10と再生塔20との間で循環し、吸収工程と再生工程とが交互に繰り返される。吸収塔10内の加圧によって二酸化炭素の吸収率が向上すると共に、再生塔20への水蒸気Sの供給による潜熱ロスの抑制及び加熱温度の低下によって吸収液の再生エネルギーが削減されるので、二酸化炭素の吸収効率及び吸収液の再生効率が向上した二酸化の回収装置となる。
【0036】
図2は、本発明の二酸化炭素の回収方法及びそれを実施する回収装置の第2の実施形態を示す。この回収装置2は、再生塔20に供給する水蒸気Sの流量を、気液分離器28に貯溜される凝縮水の水位に基づいて調節する点が第1の実施形態とは異なり、気液分離器28の水位変化から凝縮水の貯溜量を求め、この量を回収ガスと共に排出される水蒸気流量として、相当する流量の水蒸気Sを再生塔20に供給する。
【0037】
詳細には、この実施形態における水蒸気供給システム40’は、回収ガスに含まれる水蒸気量を決定するための物性値を測定する測定部として、気液分離器28中の凝縮水の水位を検出する水位計48が気液分離器28に付設され、制御部43’は、水位計48によって測定される水位に基づいて回収ガスに含まれる水蒸気の流量を決定して調節弁42を制御し、再生塔20に供給する水蒸気Sの流量を調節する。水位計48は、制御部43’と電気的に接続され、水位計48で測定される水位データは制御部43’に常時送られ、水位増加から単位時間当たりの凝縮水の増加量が算出される。この増加量を、回収ガスに水蒸気として含まれる水分量と見なして、これと同量の水蒸気Sが再生塔20に供給されるように調節弁42の開度を制御して水蒸気Sの供給速度を調節する。
【0038】
この場合、気液分離器28を通過する回収ガスは若干の湿分を含むので、水位計48によって決定される凝縮水の増加量は、回収ガスと共に再生塔20から排出される水蒸気量より僅かに少なくなり得る。このような場合に補整するには、冷却器27の温度における飽和水蒸気圧Pw’及び回収ガスの排出流量Vを用いて、第1の実施形態と同様にして、不足分の水蒸気流量Vg’(=V×Pw’/P)を算出し、この量を、水位データに基づく水蒸気流量Vgに加えるように制御部43で予め設定することができる。気液分離器28中の凝縮水は、水位変化の測定を適時に行えるように適宜排出する。図2の回収装置2は、装置構成が簡易である利点がある。
【0039】
第2の実施形態において、上記の点以外は、第1の実施形態と同様に構成されているので、説明は省略する。
【0040】
第1の実施形態の回収装置1において、30質量%モノエタノールアミン水溶液を吸収液として用いて、二酸化炭素の回収処理を行う際の回収率及びエネルギー効率を、吸収塔10及び再生塔20の圧力を変化させて調べ、又、再生塔20への水蒸気Sの供給の有無による相異を検討すると、図3のようになる。尚、この回収処理におけるガスGの供給速度は7Nm/Hr、吸収液の循環速度は42L/Hr、吸収塔10の温度は、40〜60℃、スチームヒーター22による再生塔20の吸収液の加熱温度は沸点、再生塔20に供給する水蒸気Sの温度は沸点と同温度とした。図3における「エネルギー比」は、吸収塔の圧力が0kPaG、再生塔の圧力が100kPaGの場合の再生エネルギーを1とした場合の比率を示す。
【0041】
図3の結果によれば、先ず、水蒸気の供給がない状態では、二酸化炭素の再生熱が4.0GJ/t-CO程度となり、そのうちの1.2GJ/t-CO程度が吸収液A2から失われる蒸発潜熱に相当するが、水蒸気を供給する状態では、失われる蒸発潜熱が0.6GJ/t-CO程度となり、二酸化炭素の再生熱は3.4GJ/t-CO程度に軽減できる。
【0042】
更に、再生塔20に水蒸気を供給しない場合、再生塔20の圧力が低下すると、再生エネルギーが増加するが、それにも拘わらず、吸収塔10における二酸化炭素回収率は、吸収塔10の圧力が同じであっても低下する。これは、再生塔20の圧力が低いと吸収液の再生率が低下し、これによって吸収塔での二酸化炭素回収率が低下すると考えられる。
【0043】
一方、再生塔20に水蒸気を供給する場合では、再生塔20の圧力が低下してもエネルギー比には殆ど変化がなく、再生エネルギーは増加せず、二酸化炭素の回収率は、水蒸気を供給しない場合とさほど変わらない。つまり、水蒸気自体には二酸化炭素を放出させる作用は見られないが、水蒸気の供給によって再生エネルギーの損失が抑制されて効率的に二酸化炭素が放出されると考えられる。従って、再生塔20に水蒸気を補充することによって、吸収液の再生に要する加熱温度及びエネルギーの低減が可能であると共に、再生におけるエネルギーの使用効率が向上して効率的に再生が進行し、吸収塔10における加圧による吸収率の増加が活かされる。
【0044】
潜熱ロスの抑制は、再生塔20底部に貯留される吸収液だけでなく、貯溜吸収液に最も近い充填材21の最下部近辺においても有効であり、水蒸気Sの供給によって充填材21の最下部における温度が数℃程度高く維持される。例えば、図3の処理Gの条件では、充填材21の最下部における温度は、水蒸気の供給がない場合には112℃前後であるが、水蒸気を供給した場合には115℃程度となり、吸収液再生のエネルギー効率の向上に寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、火力発電所や製鉄所、ボイラーなどの設備から排出される二酸化炭素含有ガスの処理等において利用して、その二酸化炭素放出量や、環境に与える影響などの軽減に有用である。二酸化炭素の回収処理に要する費用が削減され、省エネルギー及び環境保護に貢献可能な二酸化炭素の回収装置を提供できる。
【符号の説明】
【0046】
1,2:回収装置、 10:吸収塔、 20:再生塔、 30:冷却塔、
40,40’:水蒸気供給システム、 11,21,31:充填材、
12,15,23,32:ポンプ、 13:冷却凝縮部、
14,25,27,33:冷却器、 16:供給路、
17:還流路、 18:逆止弁、 19:圧力調節弁、
22:スチームヒーター、 22’:循環路、 24:熱交換器、
26:凝縮部、 28:気液分離器、 41:測定部、 42:調節弁、
43,43’:制御部、44:流量計、 45:温度計45、
46:圧力計、 47:質量流量計、 48:水位計、
G、G’:ガス、 A1,A2:吸収液、 C:回収ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含有するガスを加圧下で吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収塔と、
前記吸収塔で二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生塔と、
前記再生塔から排出される二酸化炭素を含んだ回収ガスに含まれる水蒸気を補うために前記再生塔に水蒸気を供給する水蒸気供給システムと
を有する二酸化炭素の回収装置。
【請求項2】
前記水蒸気供給システムが供給する前記水蒸気の温度は、前記再生塔における吸収液の温度以上である請求項1に記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項3】
前記水蒸気供給システムは、
前記回収ガスに含まれる水蒸気の流量を決定するための物性値を測定する測定部と、
前記再生塔に供給する水蒸気の流量を調節可能な調節弁と
前記再生塔に供給する水蒸気の流量を調節するために、前記測定部で測定される物性値に基づいて前記調節弁を制御する制御部と
を有する請求項1又は2に記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記再生塔に供給する水蒸気の流量が前記回収ガスに含まれる水蒸気の流量と実質的に等しくなるように前記調節弁を制御する請求項3に記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項5】
前記測定部は、前記物性値として前記回収ガスの温度及び圧力を測定する温度計及び圧力計を有し、
前記制御部は、前記測定部で測定される前記回収ガスの温度及び圧力に基づいて前記回収ガスの飽和水蒸気圧を算出し、前記飽和水蒸気圧を用いて、前記再生塔に供給する水蒸気の流量を決定する請求項3又は4に記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項6】
前記測定部は、更に、前記回収ガスの流量を測定する流量計を有し、前記制御部は、前記回収ガスの流量と、前記再生塔に供給する水蒸気の流量との比が、前記回収ガスの圧力と前記回収ガスの飽和水蒸気圧との比に等しくなるように前記調節弁を制御する請求項5に記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項7】
前記測定部は、前記物性値として前記回収ガスから分離される凝縮水の水位を測定する水位計を有し、
前記制御部は、前記測定部で測定される凝縮水の水位の変化に基づいて前記回収ガスに含まれる水蒸気の流量を算出し、算出された水蒸気の流量を用いて、前記再生塔に供給する水蒸気の流量を決定する請求項3又は4に記載の二酸化炭素の回収装置。
【請求項8】
二酸化炭素を含有するガスを加圧下で吸収液に接触させて、前記吸収液に二酸化炭素を吸収させる吸収工程と、
前記吸収工程で二酸化炭素を吸収した前記吸収液を加熱して二酸化炭素を前記吸収液から放出させて吸収液を再生する再生工程と、
前記再生工程から排出される二酸化炭素を含んだ回収ガスに含まれる水蒸気を補うために前記再生工程に水蒸気を供給する水蒸気供給工程と
を有する二酸化炭素の回収方法。
【請求項9】
前記水蒸気供給工程で供給する前記水蒸気の温度は、前記再生工程における吸収液の温度以上である請求項8に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項10】
前記水蒸気供給工程は、
前記回収ガスに含まれる水蒸気の流量を決定するための物性値を測定する測定工程と、
前記再生工程に供給する水蒸気の流量を調節する調節工程と
前記測定工程で測定される物性値に基づいて前記調節工程における流量の調節を制御する制御工程と
を有する請求項8又は9に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項11】
前記制御工程において、前記再生工程に供給する水蒸気の流量が前記回収ガスに含まれる水蒸気の流量と実質的に等しくなるように前記調節工程における流量の調節を制御する請求項10に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項12】
前記測定工程において、前記物性値として前記回収ガスの温度及び圧力を測定し、
前記制御工程において、前記測定工程で測定される前記回収ガスの温度及び圧力に基づいて前記回収ガスの飽和水蒸気圧を算出し、前記飽和水蒸気圧を用いて、前記再生工程に供給する水蒸気の流量を決定する請求項10又は11に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項13】
前記測定工程において、更に、前記回収ガスの流量を測定し、前記制御工程において、前記回収ガスの流量と、前記再生工程に供給する水蒸気の流量との比が、前記回収ガスの圧力と前記回収ガスの飽和水蒸気圧との比に等しくなるように前記調節工程における流量の調節を制御する請求項12に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項14】
前記測定工程において、前記物性値として前記回収ガスから分離される凝縮水の水位を測定し、
前記制御工程において、前記測定工程で測定される凝縮水の水位の変化に基づいて前記回収ガスに含まれる水蒸気の流量を算出し、算出された水蒸気の流量を用いて、前記再生工程に供給する水蒸気の流量を決定する請求項10又は11に記載の二酸化炭素の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−196603(P2012−196603A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61028(P2011−61028)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】