説明

二酸化炭素の固定化方法

【課題】 廃材コンクリートから再生された砕石や、再生骨材製造時に発生した残渣を用いて、気中の二酸化炭素の固定を図る。
【解決手段】廃コンクリートを破砕して得た再生砕石や再生骨材製造時に副次生成された残渣を固定化のための材料2として材料集積場1等の屋内に集積する。集積した状態で材料2の表面にシャワー散水等を行って移動しながらの撹拌を行う。これにより、材料2を湿潤状態と乾燥状態とを繰り返した条件下に所定期間暴露し、材料2中に気中の二酸化炭素を取り込み固定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二酸化炭素の固定化方法に係り、特に鉄筋コンクリート建物等を解体した際に発生した廃材コンクリートから再生された砕石や、再生骨材製造時に発生した残渣を用いてアルカリ土類炭酸塩を生成して、気中の二酸化炭素の固定を図るようにした二酸化炭素の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスの代表とされている二酸化炭素の排出量を削減するための一技術分野として、二酸化炭素の固定化技術が種々提案されている。
【0003】
たとえば、ゼオライトの有するカチオン交換性を利用して、コンクリート再生材料中に含まれるアルカリ土類イオンと、炭酸イオンとの反応を促進し、安定したアルカリ土類炭酸塩(たとえばCaCO3)等を生成して、二酸化炭素の固定化を図る技術が提案されている(非特許文献1)。
【0004】
また、他の研究報告レベルの先行技術として、廃セメント微粉末のスラリー中に二酸化炭素ガスを吹き込み、水中にセメント成分中のカルシウム成分を抽出後、炭酸カルシウムとして取り出す技術が開示されている(非特許文献2)。
【0005】
また、二酸化炭素の固化工程を経て得られた固化体を製造し、リサイクル建設資材とする提案もされている(特許文献1)
【非特許文献1】財団法人建設経済研究所(RICE)化学研究グループ,“ゼオライトの有する交換性Caイオンを利用したCO2固定化・有効利用技術の開発”,[online],2002年,[平成19年4月25日]<URL:http://www.rite.or.jp/Japanese/kenki/koubo/seika/gaiyou/7zeoraito.htm>
【非特許文献2】飯塚淳他3名,「廃コンクリートを用いた新規な二酸化炭素固定プロセス」,化学工学論文集,化学工学論文集,第28巻,第5号(2002年刊行)
【特許文献1】特開2006−75717公報参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非特許文献1に開示された技術では、廃コンクリート中に含有するアルカリ土類イオンを取り出し、天然鉱物であるゼオライトと有するイオン交換性を利用して、水溶液加圧容器内で二酸化炭素の固定化を図ることが前提となっている。そのための加圧、撹拌作業が可能なプラントを必要とする上、排ガスとしての二酸化炭素の導入経路を設ける必要がある。これに対して、非特許文献2に開示されたプロセスでは、ゼオライト等のイオン交換性材料を用いる必要がないが、排ガスとして回収された二酸化炭素を加圧して高圧雰囲気を形成し、その状況下で廃コンクリート中のカルシウム分をカルシウムイオンとして抽出し、さらに水溶液相のみを取り出し、大気圧まで減圧して炭酸カルシウムを得る。このため、装置として高圧力調整が可能なプラントを要する。特許文献1に開示された発明でも、炭酸カルシウム成分を含有する建設資材を製造するためのオートクレーブ処理を行う加圧装置等を用いることを前提としている。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、空気との接触が十分な状態で集積させた廃コンクリートに、所定の乾湿状態の繰り返し環境を提供するのみで、廃コンクリートから再生された砕石や、再生骨材製造時に副次的に得られた微粉末等の残渣を用いて、気中の二酸化炭素の固定化を図り、その材料を安定化させた後に、各種の粒状材料としてリサイクル利用できるようにした、二酸化炭素の固定化方法を提供することにある。
【0007】
[CO2の固定化のために有効に寄与する方策]
まず、二酸化炭素の固定化においては、廃コンクリート等の再生材料を通常の通風乾燥状態に置くより、乾燥状態と湿潤状態とを交互に発生させるようにすることにより炭酸化の進行を早めることができることが明らかにされた。そのため、材料を集積保管する際、材料の乾湿状態を適切に設定することが重要である。また、材料の粒径の大小で比較すると、乾湿状態の暴露条件によらず、粒径が小さいほど炭酸化が促進されるので、材料について寸法の限定を加えることが好ましい。さらに、他の実験結果からは、乾湿状態では、W/C=35%以下でも炭酸化の進行を確認できるとの知見も得た。本発明はこれらの知見をもとに、廃コンクリートの再生材料等を有効に二酸化炭素の固定化に適用することを企図するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は廃コンクリートを破砕して得た材料を集積し、乾燥状態と湿潤状態とを繰り返した条件下に所定期間暴露し、材料中に気中の二酸化炭素を取り込み固定化させることを特徴とする。
【0009】
前記材料として、再生砕石、あるいは再生骨材製造時に副次生成された残渣を用いることが好ましい。
【0010】
前記材料を集積した状態で表面に散水して撹拌し、所定層厚の材料を湿潤状態とすることが好ましい。
【0011】
前記材料の含水率を10〜15%に設定することで、良好な湿潤状態を確保することができる。
【0012】
前記再生砕石は、二酸化炭素を固定化した後に通常の再生クラッシャランとして用いることができる。
【0013】
前記残渣は、二酸化炭素を固定化した後に解砕し、高炉セメントを固化材として粒状化処理し、粒状体を製造することができる。
【0014】
前記再生砕石は、必要に応じて六価クロム溶出抑制処理工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧力容器等の付加的なプラント設備をほとんど必要とせず、当初コンクリートの水セメント比等の影響を受けずに、廃コンクリートから得られた砕石や、再生骨材を製造した際に副次的に発生した残渣を、所定期間乾湿状態に暴露させることで、それぞれの材料中に二酸化炭素を固定化することができ、さらに二酸化炭素を固定化した材料をリサイクル資材として利用できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による二酸化炭素の固定化方法の実施するための最良の形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
[再生砕石による二酸化炭素の固定化]
本実施例では、再生砕石として、建築物等を破砕して発生した廃コンクリートを、さらにクラッシャ設備で破砕し、粒度調整された再生クラッシャランを使用した。各種再生クラッシャランのうち、好適な再生クラッシャランとして、比表面積が大きく、セメント水和物の含有量の多いRC−10(呼び名)を対象に、本発明のCO2固定化を行なうこととした。
【0018】
図1は、再生砕石(再生クラッシャラン)の二酸化炭素固定化を行うための材料集積場の一例を示した模式図である。同図に示したように、材料集積場1は、降雨による影響を避け、かつ材料2(本実施例ではRC−10)を平面状に撒き出して所定高さに集積した状態で、材料の暴露面積を大きく確保できるような、所定の平面積を有する屋内施設からなる。散水配管を天井部に配置した散水施設3により、集積した材料2の表面に満遍なくシャワー散水が行えるようになっている。本実施例では、材料2のエアレーションおよび材料の出荷側への移動のために、材料上をクローラ走行可能な搬土重機(図示せず)が配備されているが、材料処理工程を定常的に行う施設であれば、材料2の集積範囲をレール等にガイドされて走行可能な撹拌、搬送装置を定置することも可能である。
【0019】
以下、再生クラッシャランを用いた二酸化炭素の固定化工程について、図2を参照して説明する。再生クラッシャラン(以下、単に材料と記す。)は、ダンプトラック等で建物内に搬入されるが、図1に示したように、撒き出された後に所定厚さに敷きならし、表面付近が、ある程度の通気状態となるようにすることが好ましい。さらに、空気に暴露される期間に、材料が乾湿状態を繰り返されるような状態とする。すなわち、週1〜2回程度、材料の表面に満遍なく散水し、さらに所定層厚を掘り返すようなエアレーション撹拌を行うことで、層の各部が湿潤状態と、乾燥状態とを繰り返すことができるようにする。このときの材料の管理含水率としては、散水時の含水率として10%程度を想定している。材料集積場内において、所定厚の部分をエアレーション撹拌して内部湿潤、表面乾燥という材料暴露状態が継続するように。約2〜3ヶ月程度、保管する。その間、集積された材料による二酸化炭素の固定化工程が進行し、材料の安定化が図られる。その後、材料の当初の用途である路盤材や埋め戻し材として、材料集積場から出荷し、所定の用途に利用することができる。なお、この材料が、曝気状態で使用される場合、あるいは当初からCr(VI)溶出量が土壌環境基準を上回っていることが判明している場合には、材料集積場に搬入された後に、還元剤などとの混和によりCr(VI)溶出抑制対策を施すのがよい。
【実施例2】
【0020】
[再生骨材残渣による二酸化炭素の固定化]
実施例2では、再生砕石、再生砕砂等の再生骨材を製造した際に、副次的に生成される微粉末の残渣を対象として、本発明のCO2固定化を行なうこととした。ただし、加熱すりもみ法によって得られる再生骨材残渣は、水硬性を示すため、散水等による水分供給により、材料固化が進行するため、適しない。
【0021】
本実施例においても、図1に示したものと同一仕様の材料集積場を用いて、降雨による影響を避け、かつ材料(本実施例では残渣)を平面状に撒き出して所定高さに集積した状態で、材料の暴露面積を大きく確保できるようにする。
【0022】
以下、残渣を用いた二酸化炭素の固定化工程について、図3を参照して説明する。残渣は、微粉末を収容可能な袋状コンテナ等を用いて材料集積場1(図1)内に搬入され、図1に示したように、所定厚さに敷きならして、材料表面付近にある程度、通気状態が得られるようにすることが好ましい。さらに、空気に暴露される集積状態にある残渣が、その期間、乾湿状態が繰り返されるような状態とする。すなわち、週1〜2回程度、材料の表面に満遍なく散水し、さらに解砕、エアレーション撹拌することで、材料層が固化した状態になるのを防止し、かつその層内の残渣が湿潤状態と、乾燥状態とを繰り返すことができるようにする。このときの材料の管理含水率としては、散水時の含水率として10〜15%程度を想定している。材料集積場内において、所定厚の部分をエアレーション撹拌して内部湿潤、表面乾燥という暴露状態が継続するように。約2〜3ヶ月程度、保管する。その間、集積された材料による二酸化炭素の固定化工程が進行し、残渣の安定化が図られる。その後、安定化し、多少固化して塊状をなした残渣を解砕し、高炉セメントB種を所定量混和して、粒状化処理する。このとき、固化材として用いる高炉セメントB種の混和量は再生骨材残渣質量に対して10質量%以上とするのが好ましい。
【0023】
[その他の検証事項]
[乾湿状態における材料の炭酸化進行の効果の検証]
上述したように、材料(再生クラッシャラン、再生骨材残渣)を集積する際、乾湿状態を保持した暴露環境を提供することにより、当初材料が低いW/Cのものであっても、十分炭酸化の促進を図ることができる。以下、その検証実験について、簡単に説明する。
(実験計画及び結果)
W/C=40%,60%のモルタルを練って、1年間封かん養生した後、粒径5mm以下となるように破砕し、再生クラッシャランおよび残渣に相当する破砕物からなる対象試料を得た。その試料を〜0.5mm、0.5〜2.0mm、2.0〜5.0mmにフルイ分けし、実験条件として、通風による乾燥状態(以下、風乾と呼ぶ。)と、週2回の散水による乾燥状態と湿潤状態の繰り返し状態(以下、乾湿と呼ぶ。)を設定した。それぞれのW/C=40%,60%の材料を所定暴露させた際の、風乾、乾湿で生成された炭酸カルシウム量の変化を、図4(a),(b)(W/C=40%),図5(a),(b)(W/C=60%)に示した。なお、いずれの結果も不溶残分による換算を行なって、セメントペースト当たりの炭酸カルシウムの含有率として算出している。
【0024】
[風乾と乾湿におけるCO2の固定化とCr(VI)の溶出との関係]
再生クラッシャランを対象とした場合、粗破砕材料であるため、乾燥が進むと、Cr(VI)溶出量が当初から大きくなることが予想された。そこで、風乾と乾湿におけるCO2の固定化とCr(VI)の溶出との関係を長期の暴露期間において、その間の変化を検討した。それぞれのW/C=40%,60%における風乾、乾湿におけるでCr(VI)溶出量の変化を、図6(a),(b)(W/C=40%),図7(a),(b)(W/C=60%)に示した。風乾の場合、1ヶ月程度までCr(VI)溶出量は変化しないが、3ヶ月後には炭酸化の影響によってCr(VI)溶出量が急激に大きくなる。その傾向は、W/Cが大きい場合に著しい。乾湿の場合、初期に溶出量が増えるケースはあるが、3ヵ月後には減少し、初期値程度に、安定していることが判明している。
【0025】
[CO2の固定化量の試算]
(1)再生クラッシャランの場合
インパクトクラッシャで二次破砕した後のサンプルからふるいとった試料の不溶残分試験結果とフルイ分けによる粒度構成から試算を行った。再生クラッシャラン(RC−10)に含まれるセメントペースト分は42%であり、このセメントペースト量に対して15%のCaCO3が新たに生成するとした場合、再生クラッシャラン1tあたり30.2kgのCO2が固定化される。
(2)残渣の場合
中品質再生粗骨材の製造時における残渣の不溶残分と粒度構成から試算を行った。残渣に含まれるセメントペースト分は49%であり、このセメントペースト量に対して20%のCaCO3が新たに生成するとした場合、再生クラッシャラン1tあたり47.0kgのCO2が固定化される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の二酸化炭素の固定化工程を実施可能な材料集積場の一例を示した説明図。
【図2】再生クラッシャランによる二酸化炭素の固定化工程を示したフローチャート。
【図3】再生骨材残渣による二酸化炭素の固定化工程を示したフローチャート。
【図4】粒度ごとにおける、暴露期間と生成CaCO3量との関係を示したグラフ。
【図5】粒度ごとにおける、暴露期間と生成CaCO3量との関係を示したグラフ。
【図6】粒度ごとにおける、暴露期間とCr(VI)溶出量との関係を示したグラフ。
【図7】粒度ごとにおける、暴露期間とCr(VI)溶出量との関係を示したグラフ。
【符号の説明】
【0027】
1 材料集積場
2 材料
3 散水施設

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃コンクリートを破砕して得た材料を集積し、乾燥状態と湿潤状態とを繰り返した条件下に所定期間暴露し、材料中に気中の二酸化炭素を取り込み固定化させることを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【請求項2】
前記材料は、再生砕石であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項3】
前記材料は、再生骨材製造時に副次生成された残渣であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項4】
前記材料を集積した状態で表面に散水して撹拌し、所定層厚の材料を湿潤状態とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項5】
前記湿潤状態の材料の含水率を10〜15%にしたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項6】
前記材料は、二酸化炭素を固定化した後に再生クラッシャランとして用いられることを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項7】
前記材料は、二酸化炭素を固定化した後に解砕され、高炉セメントを固化材として粒状化処理されることを特徴とする請求項3に記載の二酸化炭素の固定化方法。
【請求項8】
前記材料は、六価クロム溶出抑制処理工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素の固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−28581(P2009−28581A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192513(P2007−192513)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】