説明

二酸化炭素を含む排ガスの処理方法および装置

【課題】CO吸収液中に含まれる、アルカノールアミンの酸化抑制剤の濃度を測定することなく、吸収液中の酸化抑制剤濃度を酸化抑制に十分な濃度に調整することができるCOを含む排ガスの処理方法を提供する。
【解決手段】CO吸収装置の吸収塔出口ガス中のアンモニアとアルキルアミンの濃度の和が増加する場合は酸化抑制剤をアルカノールアミン吸収液に添加することにより、二酸化炭素の吸収と放出を行う吸収液の組成を調整する方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素(CO)を含む排ガスの処理方法に関し、特にボイラなどの燃焼装置の排ガス中から二酸化炭素(CO)を回収する排ガス処理方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等において、二酸化炭素(CO)が石炭などの化石燃料の燃焼に伴って発生し、大気中のCO濃度を上昇させており、それに伴う気温の上昇により、各種の環境問題が生じると言われてきた。地球温暖化の防止のため1997年12月には温暖化防止京都会議(COP3)で京都議定書が採択された。該議定書は2005年2月に発効し、各国CO放出量の削減対策が実施されてきている。火力発電所等の酸素(O)や硫黄酸化物(SO)を含んだ燃焼排ガスからCOを回収する方法の内、現在、最も実用化に近い方法としてアルカノールアミン溶液によるCO吸収方法が挙げられ、1990年代から盛んに検討され(例えば特許文献1)、CO回収に適したアルカノールアミンの種類や、硫黄酸化物を含む排ガスへの適用条件の検討がなされている(特許文献1)。これらのアミン類は、従来用いられてきたモノエタノールアミンと比較すれば、いずれも該燃焼排ガスに含まれる酸素によって酸化されにくいが、数千時間以上の長時間使用を考慮すると、これらの液の酸化劣化による液の補充量が問題になり、これに対しては、CO吸収液にアミン類の酸化抑制物質(例えば有機硫黄化合物)を加えることにより、吸収液中のアミン類の酸化を大幅に抑制できるようになってきている(特許文献2)。
【0003】
ボイラの燃焼排ガスに含まれるCOの回収については、アルカノールアミン水溶液と該排ガスを接触させる吸収塔と、COを吸収した該アミン溶液を加熱してCOを回収する再生塔とを用いた二酸化炭素回収装置が最も広く研究開発されている(例えば非特許文献1)。
【0004】
アルカノールアミンの水溶液を上記の二酸化炭素回収装置のCO吸収液として用いると、該吸収液中のアルカノールアミンが燃焼排ガス中のOやNOx等の酸化成分、特に、酸素によって一部が酸化・分解し、アンモニアが生成する。また、アルカノールアミンによるCO回収で生成したアンモニアを燃焼排ガスの脱硝に用いるという特許(特許文献3)もあり、アルカノールアミンからアンモニアが分解生成することは公知である。また、MAEからはメチルアミン、EAEからはエチルアミン、そしてIPAEからはイソプロピルアミンといったアルキルアミンが、アルカノールアミンの酸化の程度に比例して生成し、酸化抑制剤によりそれらの生成物の放出量が低下することが知られている(例えば特許文献2)。この特許明細書には、下記(1)式に示すようにMEA(HNCHCHOH)の酸化反応により水(HO)、シュウ酸((COOH))とアンモニア(NH)が生成することが記載されている。
NCOH+2O→NH+(COOH)+HO‥(1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3529855号
【特許文献2】特許第3739437号
【特許文献3】特許第2786562号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化学工学便覧第627頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CO吸収液中に添加する有機硫黄化合物の濃度を高めることによって、吸収液のアミン類の酸化を抑制することも可能であるが、これらの化合物は元々吸収液中に溶解しにくいものである上、酸化抑制剤の中には上記の有機硫黄化合物のように濃度の測定が難しいものや、測定法が不明なものがあり、酸化抑制剤の自体の濃度制御が難しいという問題があった。
【0008】
本発明の課題は、CO吸収液中に含まれるアルカノールアミンの酸化抑制剤の濃度を測定することなく、吸収液中の酸化抑制剤を酸化抑制に十分な濃度に調整することができる、COを含む排ガスの処理方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本願で特許請求する発明は以下のとおりである。
(1)二酸化炭素(CO)を含む排ガスからCO吸収液として、CnH2n+1NHCn'H2n'+1O(nは1〜4の任意の整数、n'は1〜3の任意の整数)で表されるアルカノールアミンの水溶液を用い、COの吸収と放出を行う排ガスの処理方法であって、前記吸収液により二酸化炭素を吸収した後の排ガス中の、CnH2n+1NH2(nは1〜4の任意の整数)で表されるアルキルアミン濃度または該アルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和を測定し、該アルキルアミン濃度または該アルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和の増加に応じて、前記アルカノールアミンの酸化抑制剤をCO吸収液に添加することを特徴とする、二酸化炭素を含む排ガスの処理方法。
(2)前記アルカノールアミンが、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールおよび2−(イソプロピルアミノ)エタノールなる群から選ばれた一種または二種以上の化合物である(1)記載の方法。
(3)前記アルカノールアミンの酸化抑制剤が、メルカプトイミダゾール類およびメルカプトベンズイミダゾール類から選ばれた一種または二種以上の有機硫黄化合物である(1)または(2)に記載の方法。
(4)アルカノールアミンを含む吸収液を酸素及び二酸化炭素を含む排ガスと接触せしめる吸収塔と、二酸化炭素を吸収した該吸収液を加熱し、二酸化炭素を回収する再生塔と、吸収塔で二酸化炭素を回収した吸収液の少なくとも一部を再生塔に搬送し、かつ再生塔で二酸化炭素を遊離した吸収液の少なくとも一部を吸収塔に二酸化炭素の吸収液として搬送し、かつ前述の吸収塔から再生塔に搬送する液と再生塔から吸収塔に搬送する液とを熱交換させる熱交換手段とを有する装置であって、前記吸収塔で処理された排ガス中のアルキルアミン濃度またはアルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和の測定手段と、前記アルカノールアミンの酸化抑制剤を前記再生塔から吸収塔に搬送する吸収液にする添加手段と、前記測定手段により測定されたアルキルアミン濃度またはアルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和に応じて前記アルカノールアミンの酸化抑制剤の添加量を調整する制御装置を備えたことを特徴とする二酸化炭素を含む排ガスの処理装置。
【0010】
本発明に用いられるCO吸収剤のアルカノールアミンとしては、CnH2n+1NHCn'H2n'+1O(nは1〜4の任意の整数、n'は1〜3の任意の整数)で表されるもの特に、2−(メチルアミノ)エタノール(以下、MAE、分子量:75.12)、2−(エチルアミノ)エタノール(以下、EAE、分子量:89.14)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(以下、AMP、分子量:89.14)、2−(イソプロピルアミノ)エタノール(以下、IPAE、分子量:103.16)の1種または2種以上の混合物がCO吸収速度の大きさや、吸収したCOの解離熱の低さの点で好ましい。
【0011】
本発明に用いられる酸化抑制剤は、下記の構造式(A)で表されるメルカプトイミダゾール類および/または構造式(B)で表されるメルカプトベンズイミダゾール類の中から選ぶことができる。


ここで、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、C〜Cのアルキル基、フェニル基またはベンジル基であり、Rは、水素原子またはC〜Cのアルキル基、nは1〜3の整数である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吸収液中のアルカノールアミンの分解を抑制する酸化抑制剤の濃度を直接測定しなくても、排ガス中のアルキルアミンまたはアルキルアミンとアンモニアの濃度を測定することにより、吸収液中の酸化抑制剤を酸化抑制に充分な濃度に制御することができ、その結果、運転中のCO吸収設備の吸収液中のアルカノールアミンの補充量の制御も容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例を示すCO回収装置のフローを示す説明図。
【図2】酸化抑制剤濃度調整装置を備えた本発明のCO回収装置の説明図。
【図3】本発明の実施例および比較例の結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
前記吸収塔で処理された排ガス中の上述のアルキルアミン濃度又はアルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和の増減に従い、酸化抑制剤として有機硫黄化合物を予めアルカノールアミン水溶液に溶解させたものを、再生塔から吸収塔に循環する吸収液に添加することによって、二酸化炭素の吸収液組成を調整し、前記吸収塔におけるアルカノールアミンの酸化が効果的に抑制するものである。
【0015】
本発明者は、前述のMAE(CHHNCOH)、EAE(CHNCOH)及びIPAE((CHCHHNCOH)の酸化反応については、式(1)と同様に下記の式(2)〜(4)の反応が起こり、シュウ酸とともにメチルアミン、エチルアミンおよびイソプロピルアミンが生成するものと推測した。
【0016】
CHHNCHCHOH+2O→CHNH+(COOH)+HO‥(2)
HNCHCHOH+2O→CNH+(COOH)+H
‥(3)
(CHCHHNCOH+2O
→(CHCHNH+(COOH)+HO‥(4)
【0017】
本発明者は、前記(1)から(4)の式で示されている、アルカノールアミンの酸化分解量とアンモニア、アルキルアミン及びシュウ酸の生成量が比例することを利用し、これらの生成量を測定することにより、吸収液中のアルカノールアミンの酸化反応の進行状態を観測できることを明かにした。本発明者の研究によれば、アルカノールアミンが酸化した場合、アルキルアミンに加えて生成経路は不明であるがアンモニアが生成するため、該アルキルアミン濃度のみを測定するよりも、アルキルアミンとアンモニアの両方の濃度を測定することが望ましい。
【0018】
本発明でその生成量を測定するアンモニアやアルキルアミンは、それぞれの沸点(アンモニア:−33.4℃、メチルアミン:−6.32℃、エチルアミン:16.6℃、イソプロピルアミン:33〜34℃、出典:化学大辞典(共立出版))が吸収液温度(一般に40℃以上)に比べて低いため、吸収塔中で大半が蒸発し、ガス状物資として気相中に放出される。従ってこれらのガス状物質を含む吸収塔出口の排ガスをサンプリングした後、ガスクロマトグラフ(以下、GC)装置でガス中のアンモニアやアルキルアミンの濃度を直接測定できる。他に、吸収塔出口の排ガス流速と等速で該排ガスをサンプリングし、酸性液を通過させることによって、上記のアンモニアやアルキルアミンを該液中に回収した後、イオンクロマトグラフ(以下、IC)装置で該回収液中のそれらの物質濃度を測定し、吸引ガス量とそれらの回収量からガス中濃度を算出することも可能である。これらの方法は短時間(数時間以内)で実施可能であり、ほぼ連続的に吸収液の酸化状態が監視可能となる。
【0019】
なお、上記の方法とは別に液中のシュウ酸濃度を測定する方法、例えばIC装置やGC/質量分析(以下、GC/MS)装置で分析することは可能であるが、液中のシュウ酸濃度が低く、濃度変化を精度良く測定することが困難であることと、測定に時間がかかるため連続的な測定が困難であるという問題点があり、吸収液中のアルカノールアミンの酸化反応の進行状態の監視する目的には、本発明方法の方が適している。
【0020】
本発明においては、アルカノールアミンの酸化分解に比例して生成するアンモニアおよびアルキルアミンの量が吸収液中のアルカノールアミンの酸化量に比例することを利用して、吸収液中のアルカノールアミン濃度を調整する。例えば、排ガス中の1種以上のアルキルアミン濃度又はアンモニアと1種以上のアルキルアミンの濃度の和が経時的に増加する場合、吸収液中の酸化抑制剤濃度が高まるように酸化抑制剤を添加し、前記の濃度の和が減少又は変化しない場合は、吸収液中への酸化抑制剤の添加を止めることにより、アルカノールアミンに添加する酸化抑制剤の濃度を適正な値に制御することができる。
【0021】
本発明に用いる酸化抑制剤としては、メルカプトイミダゾール類および/またはメルカプトベンズイミダゾール類の中から選ばれた1種またはそれ以上の有機硫黄化合物が好ましい。これらの物質は、燃焼排ガスに含まれる酸素により酸化しにくく、ほとんどがアルカノールアミンの酸化抑制のみに働くためである。また、これらの有機硫黄化合物の液中濃度の測定はGC/MS装置で可能であるが、連続的に分析するのは困難であるため、本発明方法を用いることにより、液中濃度の連続的な測定および制御が可能になる。
【0022】
なお、アルカノールアミンに対する他の酸化抑制剤、例えばL-アスコルビン酸ナトリウムや没食子酸のような還元剤を添加した場合、還元効果はあるものの燃焼排ガス中に含まれる酸素の影響で液中の酸化抑制剤濃度が急激に低下するため、酸化抑制剤の液中濃度を制御することは難しい。
【実施例】
【0023】
図1は、本発明の一実施例を示す、CO吸収装置のフローを示す説明図である。模擬燃焼排ガスは加湿器1を通して吸収塔7へ供給され、該吸収塔7を該ガスが上昇する間に塔頂から流下する吸収液と接触してCOを吸収し、塔上部に設置してある水冷部でミストが補集された後、ガス出口ラインに導かれ、冷却器2を経由して大気に放出される。吸収塔7から出るCOを豊富に含む吸収液(リッチ吸収液)は液出口ライン20から吸収塔を出る。リッチ吸収液はポンプを通過後、熱交換器3に導入されて、昇温された後、再生塔8に供給され、ここで、リッチ吸収液は、外壁をヒータで加熱された再生塔内を流下してCOを放出する。放出されたCOは再生塔の塔頂出口ライン21を通り、凝縮器2を経て大気に放出され、凝縮液は再生塔8に戻る。再生塔8を流下する間にCOを放出したリーン吸収液は再生塔の底部からポンプによって抜き出され、熱交換器3に至り、ここで上記リッチ吸収液と熱交換して冷却され、さらにアミン冷却器5を経た後、吸収塔7へ再循環される。吸収塔7と再生塔8の塔径はいずれもφ50mm、充填層高は1.4mである。
【0024】
図1に示す装置を用い、COのほかO、Nを含有する模擬燃焼排ガスから、アルカノールアミンの酸化抑制剤を含むCO吸収液を用いて、COを吸収、除去する実験を行なった。主な実験条件は吸収塔入口ガス及び液温度30℃、再生塔入口液温度100℃、再生塔液温度:最高110℃、冷却器温度30℃、ガス量2m/h、液ガス比3.0(L/m)であった。循環液量は7Lであった。CO吸収液に用いるアルカノールアミンとしてMAE、EAE及びIPEAの3種のアルカノールアミンを用い、メチルアミン、エチルアミン、及びイソプロピルアミンをそれぞれのアルカノールアミンの分解物とした。酸化抑制剤としては、メルカプトイミダゾール類及び/又はメルカプトベンズイミダゾール類の中から2−メルカプトベンズイミダゾールを用いた。
【0025】
実験開始後、6時間毎に吸収塔の出口ガスから1L/minずつガスを分岐して0.01規定のHClを100ml入れた吸収瓶を1時間通した後、液中の分解物濃度をイオンクロマトグラフで測定することにより、出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミン濃度を算出した。加えて、出口ガスをシリンジでサンプリングし、FID検出器を有するGC装置でガス中のアンモニア及びアルキルアミン濃度を測定した。有機硫黄化合物の酸化抑制剤は短時間では酸化が進まないため、下記の初期条件の出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミン濃度を測定し、酸化抑制剤が分解した長時間運転模擬条件として該抑制剤の濃度が低い吸収液で運転を行い、初期条件と同様の出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミン濃度にできるかどうかを確認した。
【0026】
初期条件
MAEの濃度38重量パーセント、EAEの濃度が45重量パーセント及びIPAEの濃度が52重量パーセントの各水溶液を吸収液とし、有機硫黄化合物として2−メルカプトベンズイミダゾールを用い、吸収液中の該化合物の濃度を0.1重量パーセントとし、吸収実験後の出口ガス中アンモニア及びアルキルアミン濃度を測定(単位:mol/m3N)し、その和を基準値とした。
【0027】
長時間運転模擬条件
2−メルカプトベンズイミダゾールの濃度を0.005重量パーセントとし、これ以外は初期条件と同じ条件とした。
【0028】
[実施例1]
上記の長時間模擬条件の吸収液を循環しながら、2.5重量パーセントの2−メルカプトベンズイミダゾール、38重量パーセントのMAEを含んだ吸収液を図1の装置のアミンクーラ5を通過後の吸収液の5%の流量で0.05Lずつ供給した。供給後1.5h経過後の吸収塔出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミン(この場合、メチルアミン)濃度を測定し、初期条件よりも高い場合は上記と同じ条件で0.05L液を供給した。最終的にはトータルで0.35L液を供給した。その際、液ガス比は3.0となるように吸収液の循環量を調整した。
【0029】
[実施例2]
上記の長時間模擬条件の吸収液を循環しながら、2.5重量パーセントの2−メルカプトベンズイミダゾール、45重量パーセントのEAEを含んだ吸収液を用いた以外は実施例1と同じ条件で吸収塔出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミン(この場合、エチルアミン)濃度を測定した。前記の液はトータルで0.35L供給した。その際、液ガス比は3.0となるように吸収液の循環量を調整した。
【0030】
[実施例3]
上記の長時間模擬条件の吸収液を循環しながら、2.5重量パーセントの2−メルカプトベンズイミダゾール、52重量パーセントのIPAEを含んだ吸収液を用いた以外は実施例1と同じ条件で吸収塔出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミン(この場合、イソプロピルアミン)濃度を測定した。前記の液はトータルで0.35L供給した。その際、液ガス比は3.0となるように吸収液の循環量を調整した。
【0031】
[比較例1]
アルカノールアミンとして38重量パーセントのMAEを含む長時間運転模擬条件の吸収液で液ガス比は3.0となるように循環量を調整した。
[比較例2]
アルカノールアミンとして45重量パーセントのEAEを含む長時間運転模擬条件の吸収液で液ガス比は3.0となるように循環量を調整した。
[比較例3]
アルカノールアミンとして52重量パーセントのIPAEを含む長時間運転模擬条件の吸収液で液ガス比は3.0となるように循環量を調整した。
【0032】
上記実施例および比較例の結果を図3にまとめて示した。図3の結果から、実施例の条件ではアルカノールアミンがいずれの場合であっても、吸収塔出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミンの濃度は吸収液中に十分の有機硫黄化合物を含んだ初期と同等まで低下している。一方、長時間試験後を模擬した状態ではいずれの比較例でも吸収塔出口ガス中のアンモニア及びアルキルアミンの濃度は初期の3倍前後まで増加している。なお、EAEとIPAEの結果については、アルキルアミン濃度のみで比較しても図3と同様の結果を得た。
【0033】
以上の結果から、本発明により、吸収塔出口ガス中のアンモニアとアルキルアミンの濃度の和が増加した場合に、アルカノールアミン中に酸化抑制剤を添加することにより、吸収液中アルカノールアミンの酸化が進展するのを抑制できることが確認され、また液中の酸化抑制剤濃度を直接測定しなくても、酸化抑制剤濃度を適正値に調整できることが分かった。
【0034】
なお、本発明のアルカノールアミンとMEAとの混合アミンを用いた場合も、MEAのガス状の酸化分解物がアンモニアであることから、上記のアルカノールアミンの場合と同様に調整可能であることが分かる。
【0035】
図2は、二酸化炭素の吸収液組成の調整装置を有するCO吸収設備の実施例を示したものである。図2の装置は、アルカノールアミンを含む吸収液9を酸素及び二酸化炭素を含む排ガス10と接触せしめる吸収塔7と、二酸化炭素を吸収した該吸収液9を加熱し、二酸化炭素11を回収する再生塔8からなり、かつ吸収塔で二酸化炭素を回収した吸収液9の少なくとも一部を再生塔8に搬送し、かつ再生塔8で二酸化炭素を遊離した吸収液9の少なくとも一部を吸収塔7に二酸化炭素の吸収液9として搬送し、かつ前述の吸収塔7から再生塔8に搬送する液9と再生塔8から吸収塔7に搬送する液9との熱交換器3と、二酸化炭素の回収装置と吸収塔7で処理された排ガス10をサンプリングし、該ガス中のアルキルアミンとアンモニア濃度をGC装置12で測定し、これらの物質の濃度の和の増加に従い、有機硫黄化合物を予めアルカノールアミン水溶液に溶解させたものを、再生塔8から吸収塔7に循環するラインに設けた酸化抑制剤添加口13から添加するようにした二酸化炭素の吸収液組成の調整装置とからなる。このような調整装置を用いることにより、CO吸収設備における吸収液中の酸化抑制剤濃度を容易に制御することができる。
【符号の説明】
【0036】
1:加湿器、2:冷却器、3:熱交換器、4:プレヒータ、5:アミンクーラー、6:ガスモニタ、7:吸収塔、8:再生塔、9:吸収液、10:燃焼排ガス、11:二酸化炭素、12:GC装置、13:酸化抑制剤添加口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素(CO)を含む排ガスからCO吸収液として、CnH2n+1NHCn'H2n'+1O(nは1〜4の任意の整数、n'は1〜3の任意の整数)で表されるアルカノールアミンの水溶液を用い、COの吸収と放出を行う排ガスの処理方法であって、前記吸収液により二酸化炭素を吸収した後の排ガス中の、CnH2n+1NH2(nは1〜4の任意の整数)で表されるアルキルアミン濃度または該アルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和を測定し、該アルキルアミン濃度または該アルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和の増加に応じて、前記アルカノールアミンの酸化抑制剤をCO吸収液に添加することを特徴とする、二酸化炭素を含む排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記アルカノールアミンが、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールおよび2−(イソプロピルアミノ)エタノールなる群から選ばれた一種または二種以上の化合物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記アルカノールアミンの酸化抑制剤が、メルカプトイミダゾール類およびメルカプトベンズイミダゾール類から選ばれた一種または二種以上の有機硫黄化合物である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルカノールアミンを含む吸収液を酸素及び二酸化炭素を含む排ガスと接触せしめる吸収塔と、二酸化炭素を吸収した該吸収液を加熱し、二酸化炭素を回収する再生塔と、吸収塔で二酸化炭素を回収した吸収液の少なくとも一部を再生塔に搬送し、かつ再生塔で二酸化炭素を遊離した吸収液の少なくとも一部を吸収塔に二酸化炭素の吸収液として搬送し、かつ前述の吸収塔から再生塔に搬送する液と再生塔から吸収塔に搬送する液とを熱交換させる熱交換手段とを有する装置であって、前記吸収塔で処理された排ガス中のアルキルアミン濃度またはアルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和の測定手段と、前記アルカノールアミンの酸化抑制剤を前記再生塔から吸収塔に搬送する吸収液にする添加手段と、前記測定手段により測定されたアルキルアミン濃度またはアルキルアミン濃度とアンモニア濃度の和に応じて前記アルカノールアミンの酸化抑制剤の添加量を調整する制御装置を備えたことを特徴とする二酸化炭素を含む排ガスの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−45518(P2012−45518A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192212(P2010−192212)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】