説明

二酸化炭素を酢酸に変換する方法、およびそれに用いられる触媒

【課題】安価かつ簡易に安全性の高い酢酸に二酸化炭素を高効率に変換することを可能とする二酸化炭素を酢酸に変換する方法、およびそれに用いられる触媒を提供する。
【解決手段】酸化マンガンの存在下、マンガンイオン、クロムイオンおよびコバルトイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオンを含む水溶液に二酸化炭素および酸素を接触させて二酸化炭素を酢酸に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の二酸化炭素を酢酸に変換する方法、およびそれに用いられる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
温暖化の原因物質である二酸化炭素は水中に溶解する際、酸性の水中では主に二酸化炭素ガス(CO)および炭酸(HCO)として存在し、pHが6.3くらいよりも中性になっていくと炭酸水素イオン(HCO)として存在する。また、pHが7.5から強アルカリ性にかけては炭酸イオン(CO2−)が発現することも知られている。二酸化炭素を安定な物質に変換固定する触媒材料としてはコバルト触媒や二酸化マンガン触媒(例えば、特許文献1参照)などが知られている。これらのうち、二酸化マンガン触媒はその結晶構造がラムズデライト型の二酸化マンガンのナノ粒子であり、水溶液中で二酸化炭素を酢酸へ変換する機能性を有する。しかしながら、その変換過程で毒性のある蟻酸も副産物として生じるため、二酸化炭素を安全な物質に変換できる触媒材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−238424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二酸化炭素ガスを水中に導入してコバルト触媒と接触させる手法では、二酸化炭素から変換された品位の低いプラスチックの用途を検討する必要があり、コバルト触媒のコストも高価であった。また、二酸化炭素ガスを水中に導入して二酸化マンガン触媒と接触させる手法では、酢酸の発生にギ酸の発生を伴うという問題があった。また本発明による酸化マンガン触媒は層状酸化マンガンに類似の結晶構造を有しているが、従来の層状酸化マンガンの合成方法にはコスト面や複雑な合成プロセスなどの問題があった。
【0005】
そこで、本願発明は上記の従来技術における問題点を鑑み、安価かつ簡易に安全性の高い酢酸に二酸化炭素を高効率に変換することを可能とする二酸化炭素を酢酸に変換する方法、およびそれに用いられる触媒を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のことを特徴としている。
<1>本発明の二酸化炭素の酢酸への変換方法は、酸化マンガンの存在下、マンガンイオン、クロムイオンおよびコバルトイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオンを含む水溶液に二酸化炭素および酸素を接触させて二酸化炭素を酢酸に変換する。
<2>上記第1の発明において、酸化マンガンは、層状酸化マンガンまたはその酸処理物である。
<3>上記第1または第2の発明において、炭酸マンガンを酸水溶液に溶解して酸化マンガンと二酸化炭素を生成させ、得られたマンガンイオンを含む水溶液に酸素を接触させて二酸化炭素を酢酸に変換する。
<4>本発明の二酸化炭素から酢酸に変換するための触媒は、炭酸マンガンを酸水溶液で溶解してなる。
<5>上記第4の発明において、炭酸マンガンを酸水溶液に溶解することによって生成された酸化マンガンを含有し、該酸化マンガンが層状酸化マンガンである。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によれば、例えば水中に導入された二酸化炭素を酢酸(CHCOOH)分子に変換することができる。例えば20℃の水中に導入された二酸化炭素(純度99.9%)を二酸化炭素分子700個に1個の割合で高効率に酢酸分子に変換することができる。また、蟻酸などの毒性のある副生成物の発生を防ぐこともできる。さらに、上記発明によれば、酸化マンガンと共存させる金属イオンは、マンガンイオンに限らず、クロムイオンやコバルトイオンなどの金属イオンも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例において合成した酸化マンガンのX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態では、例えば、予め0.1%濃度程度のマンガンイオン、クロムイオンおよびコバルトイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオンと、当該酸化マンガン触媒1グラム程度を共存させた水溶液中に、二酸化炭素ガスと酸素を含むガス(例えば空気)を導入して気泡によって混合する方法によって、二酸化炭素を酢酸に変換することができる。本実施形態の二酸化炭素からの酢酸への変換方法では、酸性から弱酸性の同水溶液中において、酸化マンガンの存在下、二酸化炭素、炭酸イオン、または炭酸水素イオンからアセトアルデヒト(CO)に変換され、これが上記金属イオンの触媒効果と導入された酸素ガスによる酸化作用によって酢酸へと変換されていると推定される。本実施形態では、酸素ガス(空気)の導入流量や希塩酸水溶液の温度やpHを調整することによって、酢酸への変換反応効率を変えることができるため、最終生成物質を酢酸だけでなくアセトアルデヒトを原料とする他の生成物への変換などが可能になり、本技術の適用範囲が拡がることになる。
【0011】
本実施形態における酸化マンガンは、例えば、炭酸マンガンを希酸で酸処理することにより得られる。希酸とは低濃度の酸水溶液であり、塩酸、硫酸、硝酸などの酸の低濃度溶液である。炭酸マンガンを希酸で酸処理して得られる酸化マンガンは、層状酸化マンガンに類した結晶構造を有する。このことは、例えば、一般的な実験室用X線回折分析装置でX線回折パターンを分析することで確認できる。
【0012】
炭酸マンガンの希酸による酸処理は、例えば、希酸中の炭酸マンガンの溶解反応である。希酸中に炭酸マンガンを溶解させると、酸化マンガン、二酸化炭素、水が生成する。生成した水には、マンガンイオンが含まれる。二酸化炭素は発泡しながら発生するため空気中から酸素を含んだ大気が同希酸中に混入する。そしてこの溶解反応において、酸化マンガンおよびマンガンイオン等が触媒として作用して、二酸化炭素が酢酸に変換される。
【0013】
このような希酸中の炭酸マンガンの溶解反応において酢酸を生成するためには、酸濃度を制御することが重要である。反応や安全性等を勘案すると、好ましい希酸の濃度としては0.1〜2.0mol/L、より好ましくは0.3〜1.0mol/Lの範囲が考慮される。希酸の濃度が2.0mol/Lよりも高い場合には、酸化マンガン自体を溶解させる反応速度が早くなりすぎて好ましくない。希酸の濃度が0.1mol/L未満の場合には、酢酸への変換効率が低下する場合があるため好ましくない。よく制御された溶解反応を実現するためには、好ましくは希塩酸、希硝酸、または希硫酸を用いる。
【0014】
本実施形態において触媒として用いられる酸化マンガンは、炭酸マンガンを酸処理して合成されているが、従来の合成方法(Y.Omomo,他,Redoxable Nanosheet Crystallites of MnO2 Derived via Delamination of a Layered Manganese Oxide,J.AM.CHEM.SOC.2003,125,3568−3575.)で得られる層状酸化マンガンを上記の濃度の希酸で酸処理することで得られる酸化マンガンであってもよい。上記合成方法による層状酸化マンガンは、例えば、マンガンイオンを含むアルカリ性水溶液にオゾン、過酸化水素、過マンガン酸カリウム等の酸化剤を添加することによって得られる。
【0015】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本願発明が限定されることはない。
【実施例】
【0016】
<実施例1>酸化マンガン触媒の合成方法
ビーカー中の0.5mol/L希塩酸(HCl)500mL(水温20℃)に、12.5gの炭酸マンガンMnCO・nHO(和光純薬製試薬特級)を加えて1時間、マグネチックスタラーで攪拌した。60分経過後にビーカー中の物質を0.2マイクロ・メッシュのガラスろ紙(アドバンテック(株)GS−25)と減圧ろ過器を使ってガラスろ紙上に回収した。ろし上に回収された物質を500mLの超純水に懸濁させて1時間、テフロン(登録商標)製のマグネチックスタラーで攪拌した後、再び同様にろ過回収し、粉末X線回折分析装置(リガク製RINT−2000、CuKα)でその結晶構造を分析した。分析結果を図1に示した。同パターンから同物質が層状酸化マンガンの結晶構造を有している事が同定できた。特に最も低角側の2θが12.1°にピークがあることが特徴的である。一般的に層状酸化マンガンは、酸化マンガン層の層間に入る物質によって、最低角ピークが移動する事が知られている。本材料に関する図1に示した結果では水素イオンHや塩素イオンClなどが酸化マンガン層の層間に入り込んで層状酸化マンガンが構成されているものと考えられた。
<実施例2>二酸化炭素の酢酸への変換反応
実施例1の実験において、炭酸マンガンを希塩酸に添加後5分、および60分経過時に、合成実験中の希塩酸水溶液のサンプルをガラスろ紙(アドバンテック(株)のテフロン(登録商標)樹脂製のDISMIC)を用いて15mLずつ採取した。採取した各サンプルを島津製作所製の有機酸分析装置を用いてサンプルに含まれる有機酸濃度を分析した。その結果、5分および60分のサンプルには酢酸が105ppmの濃度で含まれていることがわかった。これに対してギ酸の濃度は両サンプルとも0.2ppmと極めて低く、酢酸が優位に発生していることが分かった。通常、炭酸マンガンは、希塩酸水溶液中でマンガンイオンと塩素イオン、および二酸化炭素と水を発生しながら溶解するが、もともと酢酸は含まない。このため、実施例1で記載した合成実験の際に同希塩酸中で発生した層状酸化マンガンおよびマンガンイオンらが触媒として働くことで二酸化炭素を酢酸に変換したものと考えられた。変換効率は、炭酸マンガンから発生する二酸化炭素分子が約700個に1個の割合で酢酸分子に変換されていると計算できた。また、炭酸マンガンの希塩酸中での溶解反応は二酸化炭素が発泡しながら発生するため空気中から酸素を含んだ大気が同希塩酸中に混入するため、酢酸への変換反応に必要なアセトアルデヒトの空気酸化反応が一気に進んだものと考えられた。このため、添加後5分のサンプルと60分のサンプルには、ほぼ同濃度の酢酸濃度が検出されたものと考えられた。同様な酢酸発生の結果は、希塩酸の代わりに0.25mol/Lの希硫酸(HSO)を用いた場合にも確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マンガンの存在下、マンガンイオン、クロムイオンおよびコバルトイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオンを含む水溶液に二酸化炭素および酸素を接触させて二酸化炭素を酢酸に変換することを特徴とする二酸化炭素の酢酸への変換方法。
【請求項2】
酸化マンガンは、層状酸化マンガンまたはその酸処理物であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の酢酸への変換方法。
【請求項3】
炭酸マンガンを酸水溶液に溶解して酸化マンガンと二酸化炭素を生成させ、得られたマンガンイオンを含む水溶液に酸素を接触させて二酸化炭素を酢酸に変換することを特徴とする請求項1または2に記載の二酸化炭素の酢酸への変換方法。
【請求項4】
炭酸マンガンを酸水溶液で溶解してなることを特徴とする二酸化炭素から酢酸に変換するための触媒。
【請求項5】
炭酸マンガンを酸水溶液に溶解することによって生成された酸化マンガンを含有し、該酸化マンガンが層状酸化マンガンであることを特徴とする請求項4に記載の触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168568(P2011−168568A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36687(P2010−36687)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(505334020)
【Fターム(参考)】