説明

二酸化炭素中の炭素を固定する方法

【課題】安価で容易に入手できるカルシウム又はカルシウム化合物を用いて簡単な操作により二酸化炭素中の炭素を固定する方法を提供する。
【解決手段】
二酸化炭素の存在下でカルシウム又はカルシウム含有化合物に衝撃を与えて二酸化炭素中の炭素を炭素又は不定比含炭素カルシウム化合物として固定化する方法で、二酸化炭素をカルシウム又はカルシウム含有化合物に直接噴射する、あるいは液体媒体中にカルシウム又はカルシウム含有化合物を入れ、該液体媒体中に二酸化炭素を高速で吹き込むことにより、該液体媒体中に二酸化炭素を供給し、存在させると共に、併せて該液体媒体を動揺させることにより二酸化炭素中の炭素を炭素又は不定比含炭素カルシウムとして固定化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム又はカルシウム化合物に衝撃を与えることにより二酸化炭素(CO)中の炭素を固定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の燃焼によって発生する二酸化炭素が温室効果による地球温暖化の原因物質であることから、二酸化炭素を固定化するための技術の開発が進められている。
【0003】
二酸化炭素を固定化する最も簡単な方法は、二酸化炭素を含むガスをアルカリ性水溶液と接触させて、炭酸塩として除去する方法が考えられる。
【0004】
しかし、この方法では、回収された炭酸塩が稀薄な溶液であったり、或いは不純物等も夾雑したりして、何ら利用することができない。また、アルカリ源として水酸化カルシウムを用いれば、炭酸カルシウムの沈殿として回収は可能であるが、水酸化カルシウムの溶解度が小さいため、大量の溶液が必要であるとか、沈殿物が装置に詰まるなど、効率よく二酸化炭素を固定化することができない。
【0005】
そこで、特許文献1には、効率よく二酸化炭素を固定することができる二酸化炭素固定溶液として、サマリウムと、ヨウ化サマリウムと、ハロゲン化アルキル(3)を使用し、この二酸化炭素固定溶液に光を照射することによって、上記二酸化炭素固定溶液に溶解した二酸化炭素とハロゲン化アルキル(3)とを反応させて二酸化炭素を固定する二酸化炭素固定方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、二酸化炭素を有用な物質の生成に利用して固定することができる二酸化炭素固定方法として、吸収塔から排出される吸収液を、貯留槽を介して吸収塔に還流させ、排ガスと吸収液とを気液接触させて、吸収液の水素イオン指数が所定の値となった場合に、吸収液にアルカリ水を混入して炭酸塩水を生成する。そして、炭酸塩水に水酸化カルシウム水を混入し、炭酸カルシウムを析出させ、二酸化炭素を有用な炭酸カルシウムの生成に利用して固定することが開示されている。
【0007】
これらの方法は、二酸化炭素を有効利用することは可能ではあるが、回収コストが高くなり、実用性に難がある。
【特許文献1】特開2007−75663号公報
【特許文献2】特開2006−150232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安価で容易に入手できるカルシウム又はカルシウム化合物を用いて簡単な操作により二酸化炭素中の炭素を固定する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本願請求項1に係る発明は、二酸化炭素の存在下にカルシウム又はカルシウム含有化合物に衝撃を与えることを特徴とする二酸化炭素中の炭素を炭素又は不定比炭酸カルシウム化合物として固定化する方法である。
【0010】
上記請求項1に係る発明において、カルシウム又はカルシウム含有化合物に衝撃を与える手段として好ましい態様は、固体状のカルシウム又はカルシウム含有化合物に直接二酸化炭素を噴射する手段である。この場合の噴射圧は、0.2MPa以上、好ましくは、0.5MPaであり、1MPaを超えても効果はあまり変わらない。
【0011】
本発明において、別の好ましい衝撃付与の手段として、カルシウム又はカルシウム含有化合物を液体媒体中に入れ、該液体媒体中に二酸化炭素を噴射する手段である。この場合、二酸化炭素は液体媒体中に溶解し、カルシウム又はカルシウム含有化合物の周辺に存在することになり、しかも、二酸化炭素を高速で噴射することにより液を動揺させることができる。このため、例えば0.2MPa以上、好ましくは0.5MPa程度の高圧で二酸化炭素を液中に噴射するか、或いは別途攪拌器により、液体媒体を高速で攪拌する手段や、ポンプ液体媒体を高速循環させる手段を併用することにより一層の効果を得ることができる。
【0012】
また、液体媒体としては、水が一般的であるが、メタノール、エタノールあるいはイソプロパノール等のアルコール類、更にはベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類等、二酸化炭素を比較的溶解しやすい液体媒体も有効に使用することができる。
【0013】
本発明において、二酸化炭素中の炭素を固定化するとは、カルシウム又はカルシウム含有化合物が炭素及び酸素と化学量論的な結合のみならず、不定比状態で結合した状態をとり、結果として二酸化炭素由来の炭素が固定化されていることを意味するものである。かかる固定化を単に二酸化炭素を固定化するとも言い、得られる化合物を不定比含炭素カルシウム化合物という。
【0014】
また、本発明において用いられるカルシウム又はカルシウム含有化合物とは、カルシウム金属及び酸化カルシウム、水酸化カルシウム、カルシウム含有鉱物、例えば方解石、大理石、石灰岩、セメント、コンクリート等、カルシウムを成分として含有する物質であって、中でも、金属カルシウム、酸化カルシウム及び水酸化カルシウムが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、安価で容易に入手できる固体であるカルシウムあるいはカルシウム化合物に二酸化炭素を噴射するだけの簡単な操作で二酸化炭素を固定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の最大の特徴は、衝撃を与えながらカルシウム又はカルシウム含有化合物と二酸化炭素とを接触させることにより動的条件下に化学反応を行わせることにある。このため、静的条件下では、化学量論的な反応しか生じない。例えば水酸化カルシウムと二酸化炭素は水の共存下では単に炭酸カルシウム(CaCO)を生成するだけであるが、本発明にあっては単にCaCOの生成のみならず、場合によっては炭素の単体からCaC(但し、x、yはそれぞれ任意の数)のカルシウム、炭素及び酸素の不定比の化合物よりなる混合物として得られるのである。その一例を図1に示す。
【0017】
図1は、本発明の実施として炭酸ガス・スプレー(ガス圧、約0.2MPa)を用い、常温下に金属カルシウムに10秒間炭酸ガスを噴射した場合の生成物におけるCaOとCOの割合を示す図である。もし生成物がCaCOであれば、CaOとCOとの割合はCaO=56%、CO=44%となるはずであるが、図1においてはCO=0から60%まで、それに対してCaOは、CaO=100から40%の化合物が生成している。
【0018】
本発明を実施例により説明する。
【実施例1】
【0019】
1.使用薬品
(1) カルシウム(Ca)(キシダ化学(株)製,99%)
(2)炭酸ガス・スプレー(中村理科工業製,95%および大陽白酸,99.9%
2.試験方法
Caをガラスプレートの上に両面テープで留め置き、このCaに炭酸ガス・スプレーによりCOを照射した。照射温度は常温(24℃)および高温(85℃)で行った。
【0020】
3.試験結果
(1)常温(24℃)で10秒間炭酸ガス・スプレーの照射:CO=7〜15%がCaと反応。生成物は炭酸塩質であった。
【0021】
(2)高温(85℃)で10秒間炭酸ガス・スプレーの照射:CO=15〜43%がCaと反応。方解石はCO=44%なので、高温で方解石組成がわずか生成していた。生成した炭酸塩微粒子は、1μmサイズの微粒子の集合体であった。
【実施例2】
【0022】
1.使用薬品
酸化カルシウム(CaO)(キシダ化学(株)製,98%)
2.試験方法
CaOをガラスプレートの上に両面テープで留め置き、このCaOに炭酸ガス・スプレーでCOを照射した。
【0023】
照射温度は常温(24℃)および高温(85℃)で行った。車の排気ガス(駐車時始発前と30分走行後85℃)についても試験した。
【0024】
3.試験結果
(1)常温(24℃)で10秒間炭酸ガス・スプレーの照射:CO=11〜24%がCaOと反応。方解石でなく、炭酸塩質であった。
【0025】
(2)高温(85℃)で10〜60秒間照射:CO=22−59%がCaOと反応。
【0026】
(3)車の始発時の低温ガス:CO=22〜25%、
(4)30分走行後の85℃以上の高温ガスによる吹き付け:CO=29〜59%の増加。方解石はCO=44%なので、高温で方解石組成がわずか生成していた。生成した炭酸塩微粒子は、1μmサイズの微粒子の集合体であった。
【実施例3】
【0027】
1.使用薬品、測定器
(1)カルシウム(Ca).:キシダ化学(株)製,Lo.No.M17765V,99%)
(2)カルシウム(CaO):キシダ化学(株)製,Lo.No.El0148V,98%)
(3)水酸化カルシウム(Ca(OH)):キシダ化学(株)製,Lo.No.010−13605,95%
(4)炭酸ガス・スプレー(中村理科工業製,95%,および大陽白酸製,99.9%)
大気中の炭酸ガス測定器:赤外線COモニター(理研計器,RI−85)
マルチ検出器testo535((株)テストー製)
水中の炭酸ガス測定器:T−i9004((株)東興化学研究所製)
2.実験方法
(1)炭酸ガスから水中に溶ける炭酸ガスの測定
水中に直接炭酸ガスノズルで注入した時間変化量を3回行い、いずれも5秒間炭酸ガス噴射で水中の炭酸ガス量が82〜133(mg/l)から410〜457(mg/l)に増加し、その後10秒間照射で556〜994(mg/1)に急増した。15秒間噴射で1106(mg/l)の10倍に増加した(水に炭酸ガスが注入されると溶解する。)。
【0028】
(2)炭酸ガスが水中から大気中に散逸する炭酸ガスの測定
水中の炭酸ガスは、炭素固定にはならないため、時間と共に減少する。前記の1106mg/1の高い炭酸ガス量が1時間半後に元の炭酸ガス量の336mg/lになり、30%の割合に減少する。
【0029】
回転子で動的に撹拌すると、ある回転数(>1500rpm)から炭酸ガス量が水中から急減し空気中に散逸する。これは、炭酸ガスが、水中に反応物(Ca含有物など)がないと、空気中に逸散することを示す。実際1200rpmで930(mg/l)そして1550rpmで1800(mg/l)になる。
【0030】
水中の炭酸ガス量が減少するため、持続的に炭酸ガスを水中に注入すると、ほぼ維持され、注入がないと炭酸ガスは空中に散逸する。
【0031】
(3)炭酸ガスを水中に噴射してできたCa含有試料(Ca,CaO,Ca(OH))に吸着される炭酸ガスの測定
CaとCaOを水中に入れて炭酸ガスを動的注入し撹拌(800rpm)(25℃)すると、水中の炭酸ガス量が半減する(1分以内の現象)。実際73(mg/l)が5〜15秒間のガス注入で25(mg/1)に減少し、これが炭酸塩に炭素固定された量に相当する。
【0032】
Ca(OH)を水中に入れて炭酸ガスを動的注入し撹拌(800rpm)(25℃)しても、水中の炭酸ガス量が不変である。25(mg/l)が5〜15秒間のガス注入で33(mg/1)になった。
【0033】
この現象は、長持間(約2400分)にわたり炭酸ガスの液中注入を繰り返すと、水中の炭酸ガスの急増がなく、継続的にCa含有物と反応していることを示す。
【0034】
液体中に生成した炭酸塩物質には、ナノ炭酸塩の形成が観察できた。方解石質組成相などの炭酸塩物質の形成により、炭酸ガスから水中で多量の炭素の固定を再現できた。
【0035】
水中で炭素固定した炭酸塩物質(方解石質構造)は、広く分散して極微細粒子(約100nm)で生成していることが始めてわかった。板状の粒子には炭素が多い(70%CO)ことが始めてわかった。
【実施例4】
【0036】
1.使用薬品
(1) 酸化カルシウム(CaO,キシダ化学(株)製,Lo.No.E10148V,98%)
(2) 炭酸ガス・スプレー(中村理科工業,95%および大陽白酸,99.9%)
2.実験方法
CaO約2グラムを秤量し、炭酸ガスを水中で照射し、高温、マグネットによる回転で実験し、ろ紙でろ過して、回収した量を比較した。一般に炭酸ガスと反応すれば、炭素固定が顕著な試料では回収量が多くなると考えられる。
【0037】
炭酸ガスの急激な照射で動的反応をさせて、回収量の最大となる条件を求めるために液中に回転子を入れて、2000回転(rpm)まで変化させる。
【0038】
3.試験結果
90℃近くに試料全体の重さによる回収量の最大が現れる。その回収量は、約2倍以上に及ぶ。回転1,300(rpm)、炭酸ガス液中照射30秒間である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施により生成した不定比含炭素カルシウム化合物の混合物における各化合物におけるカルシウム分(CaOとして)と炭素分(COとして)の割合を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の存在下でカルシウム又はカルシウム含有化合物に衝撃を与えることを特徴とする二酸化炭素中の炭素を炭素又は不定比含炭素カルシウム化合物として固定化する方法。
【請求項2】
二酸化炭素をカルシウム又はカルシウム含有化合物に直接噴射することを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素中の炭素を炭素又は不定比含炭素カルシウム化合物として固定化する方法。
【請求項3】
液体媒体中にカルシウム又はカルシウム含有化合物を入れ、該液体媒体中に二酸化炭素を高速で吹き込むことにより、該液体媒体中に二酸化炭素を供給し、存在させると共に、併せて該液体媒体を動揺させることにより、該液体媒体を介してカルシウム又はカルシウム含有物質に衝撃を与えることを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素中の炭素を炭素又は不定比含炭素カルシウムとして固定化する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−160562(P2009−160562A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3187(P2008−3187)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】